読書

ここにご紹介させていただく本は、勿論私の事情で買った本です。
読みたいと思う本の広告を日頃から丹念にチェック!
買うのにかなり逡巡することもある一方、店頭で衝動買いして
しまうこともあります。

まず「運命の出会い!これを逃すと二度と会えない!」
とかなんとか、こじつけて買ってしまった本たち。

そして、読むほうが、買うペースに追いつかないんですね。

さて、その「積ん読」本からのご紹介〜( ^^) _U~~


「僧正殺人事件」ヴァン・ダイク

「漢詩に遊ぶ 読んで楽しい七五訳」松下緑

「ハゲタカ」真山仁





被害者
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88.「カンブリア 邪眼の章 警視庁「背理犯罪」捜査係」(2020.3.25)河合莞爾 (図) ★★ ’
20/09/28
「三鷹の賃貸住宅で若い女性が死亡した。当初は急性心臓死と思われたが、尾島警部補と相
棒の閑谷巡査は過去にも同じ部屋で女性の突然死があったことを突き止める。だが怪しいと
睨んだ大家・水田をいくら調べても、証拠は出てこない。感じたことのない奇妙な感覚を抱く
中、尾島はこの事件のカギを握る青年と出合い、超能力と呼べる力を持つ人間存在を確信す
る。そのような力で行われた犯罪を「背理犯罪」と呼び、何とか法に照らして罰則を与えたいと
思う尾島は自らおとりとなって水田の力を使った犯罪を立証しようとする」
一見超能力者の圧倒的勝利に見えるが、刑事もなかなか検討をする。諦めず弱点を探ろうと
する経過にひきつけられた。シリーズ化させたいようだが、多分この本の売り上げ如何かと
…。どうなるんだろう?続きが出たらまた読んでみたいかも。




87.「潮首岬に郭公の鳴く」(2019.10.30) 平石貴樹 (図) ★★ ’20/09/25
「函館で有名な岩倉家の美人三姉妹の三女が行方不明になった。海岸で見つかった遺留品
のそばに、血のりの付いた鷹のブロンズ像。凶器と思われたこの置物は、姉妹の家にあった
ものだった。祖父は家にある芭蕉の短冊額のことを思い出す。俳句に見立てた殺人事件なの
か?三女の遺体が見つかっても、犯人の手がかりは得られないまま事件は新たな展開をみせ
る――」
登場人物は続々と出てくるのに、話が一向に進まずイライラ。犯人がわかっても動機に納得が
いかなかった。DNAだの血だのって言ったって母親は情がわくだろうし、殺された三姉妹は理
由もわからず殺されたというのがあまりにひどい。




86.「「小皇帝」の世代の中国」(2005.12.20)青樹明子 (図) ★★ ’20/09/21
「小皇帝」と呼ばれる一人っ子は一億人前後と推定される。社会人も急増し、現代中国を左右
し始める。新たな反日に走り、「打倒小日本!」と叫ぶ小皇帝世代とは。経済的繁栄の謳歌、
巨竜(大国)意識……。しかし、このチャイナドリームには闇も存在する。過保護に育てられ、
出世競争に追われ、結婚難にあえぐ彼らは、精神的に深く病んでもいるのだ。旧来の常識が
まったく通用しなくなった隣国の現在。」
といっても2005年の話。今はまた変わっている。一人っ子からふたりっ子になり反日より香港
がかまびすしい。止まらない国・中国。さらに5年後はどうなっているのかわからない。



85.「パリでメシを食う」(2010.7.10)川内有緒 (図) ★★★ ’20/09/20
「三ツ星レストランの厨房で働く料理人、オペラ座にマンガ喫茶を開いた若夫婦、パリコレで活
躍するスタイリスト。その他アーティスト、カメラマン、花屋、国連職員……パリにいつの間にか
住み着いた日本人10人の軌跡。時にセーヌ川のほとりで時にワインを片手に、彼らが語る軽
やかでマイペースな暮らしぶりに、思わず肩の力がふっと抜ける好著」
”一区”不法占拠”でアトリエで自由になったアーティスト”エツツの「夢は夢だから叶わないって
決めちゃう人っているでしょう。時分で見切りをつけてる。でもつけなければ絶対叶うのにねぇ」
が印象的だった。



84.「ノンフィクション作家だっておばけは怖い」(2015.5.30) 工藤美代子 (図) ★★ ’20/09
/17
著者は見えてしまう人で、よくこの世ならざる者を見てしまう。タイトルに反して著者はあまり怖
がっていない。あとから、ああ、あの世の人かーって思いかえすくらいで、自然に受け止めてる
のがすごい。生霊を憑りつかせることができるのなら、私だって殺してやりたい人はいくらでも
いたのになぁ。見える人と見えない人がいるのが不思議。私は見たことないから霊感ないと思
うのだが、やっぱり暗闇は怖いし、怪談なんか苦手。これからだってお会いしたくはない。



83.「さらわれたい女」(1997.11)歌野晶午 (図) ★★ ’20/09/16
「私を誘拐してください」小宮山佐緒里はうるんだ瞳で俺の手を握り締めた――。報酬は百万
円、夫の愛を確かめるための”狂言誘拐”を頼みたいというのだ。便利屋の俺は完璧なプラン
を練り、見事に”誘拐”を成功させる。しかし身を隠していた佐緒里が部屋で殺されているのを
発見し……。」
91年の話なので自動車電話やらポケベルやらかなり古い。でも最後まで飽きさせなかった。



82「修道女フィデルマの洞察」(2010.6.25)ピーター・トレメイン 甲斐萬里江訳 (図) ★★ ’
20/09/13
「法廷弁護士にして裁判官の資格を持つ美貌の修道士フィデルマが解き明かす事件の数々。
宴の主人の死の謎を探る「毒殺への誘い」、殺人犯にされた修道士の弁護をする「まどろみの
中の殺人」、競馬場での殺人を扱う「名馬の死」、孤島での修道女の不可解な死を調べる「奇
跡ゆえの死」、キルデアの聖ブリジッド修道院での事件を解く「晩とうの毒人参」の5編。日本オ
リジナル短編集第二弾」
7世紀のアイルランドが舞台といっても、ビジュアルがさっぱり思い浮かばず、非常に読み進め
にくかった。しかし7世紀に競馬あったのね。



81.「黒鳥の湖」(2019.12.20)宇佐美まこと(図) ★★★ ’20/09/09
「不動産会社を経営する財前彰太は妻の由布子、一人娘の美華と幸福に満ち足りた生活を送
っていた。だがその暮らしに不穏が兆す。世間を騒がす女性拉致事件の手口に覚えがあるの
だ。被害者の衣類や髪、爪などを家族に送り付けて楽しむ殺人者。それは18年前、探偵事務
所に勤めていた彰太が、娘の復讐をしたいという老人から捜索依頼を受けた拉致監禁犯のや
り口と瓜二つだった。当時妊娠中の由布子と結婚するため、金が必要だった彰太は、伯父の
会社の乗っ取りを画策。依頼人に伯父が犯人だと嘘の告白をしたのだ――。」



80.「魔眼の殺人」(2019.2.22)今村昌弘 (図) ★★★ ’20/09/06
「その日”魔眼の匣”を9人が訪れた。人里離れたその施設の孤独な主は、予言者と恐れられ
る老女だ。彼女は葉村譲と剣崎比留子をはじめとする来訪者に「あと二日のうちに、この地で
4人死ぬ」と告げた。外界と唯一繋がる橋が燃え落ちた後、予言が成就するがごとく一人に死
が訪れ、閉じ込められた葉村たちを混乱と恐怖が襲う。さらに客の一人である女子高生も予知
能力を持つと告白し――。残り48時間。二人の予言に支配された匣の中で、生きのこりの謎
を解き明かせるか?!」
クローズドサークルを作るのがうまい。前作もそうだったが、勢いだけではなかったか。前作か
らのシリーズ化としてはまずまず。前作は詳しく覚えていないが確かゾンビによるクローズドサ
ークルだったと思う。今回は陸の孤島。このご時世そんなの作れるのかと思ったが、現代の武
器携帯は電波が届かない、の一言で簡単に取り上げられる。今回も予知能力というファンタジ
ー要素はあるが、トリックには関係なかったので、そこもスッキリしている。ただ動機が……そ
んなことで人を殺せるかなー、と思えてしまうのが残念だったが、最後まで気の抜けないストー
リー運びはうまかった。



79.「パリの国連で夢を食う」(2014.9.15)川内有緒 (図) ★★★ ’20/09/04
「世界一のお役所の舞台裏は驚きの連続だった!らららー、わおー、パリの美しさにはしゃぎ
ながら面接を受け、約2000倍の倍率を勝ち抜いて私は国連に転職した。そこには奇妙な慣
行やユニークな職場文化が花開き、国際色豊かなオフィスには、スーツ、民族衣装、パジャマ
姿の人まで。がちがちの官僚機構とカオスな組織運営にびっくりしながらも愉快な同僚たち
や、個性的な生き方をする友人たちに囲まれて、パリの日々は楽しく過ぎゆく。けれどふとした
瞬間に我に返る。国連でやりたかったことって何だっけ?次第に自分の生き方に対する違和
感が膨らんでいた。大切なのは生涯保障された安定か、それとも……」
国連を職場として考えたことが一ミリもなかったので、新鮮だった。2000倍の確立当選なんて
すごい。淡々と語られているが相当な運の持ち主。しかしそれまでに海外勤務の経験もあり、
フランス語はできないけど、英語は堪能という経歴はもちろん最低条件そろっていた。企業秘
密もあるから事細かに描けないところもあろうが、仕事としてはざっくりした印象。職場文化は
細かく描いてくれているのでそちらで我慢するしかない。仕事内容についてくわしく知りたけりゃ
自分で行ってみろ、と。行けるかぁー!しかし、著者はどうも仕事内容に疑問を抱き、転職の方
向へ傾いていく模様。どうなるのか続編も読みたい。



78.「欺す衆生」(2019.8.27)月村了衛 (図) ★★★ ’20/09/01
「人はなぜ、人を欺し続けなければ生きていないのか。戦後最大の詐欺といわれた豊田商事
事件。その残党たちの暗闘を通じて、令和の闇を描破した、渾身の長編小説。戦後最大かつ
現代の詐欺のルーツとされる横田商事事件。4その目撃者であり末端の営業マンであった隠
岐は、かつての同僚因幡と再会。導かれるままビジネスを再興する。取り返そうよ、ここらで僕
たちの人生を。君と僕は一蓮托生なのだから。幾多の修羅を経て、詐欺の魅力に取りつかれ
ていく隠岐。ついには国家を欺く一大事業へと発展していくのだが……。欺す者と欺されるも
の。謀略の坩堝の果てに待ち受ける運命とは」



77.「あの日」(2016.1.28)小保方晴子(再読)★★★ ’20/08/30
この本を読む限りでは小保方さんは嘘を言ってないように思える。主犯は若山氏ではないの
か。しかしこの本が出た後も世論は変らず、不正は小保方さんによってなされたと思っている。
小保方氏の方を現実とすると、どうして成功した実験が世に出されないのか?どうして汎用性
がない?ほかの人では作れないとなるのか?そこが一番の問題で、最高のポスドクと手放しで
ほめられていた小保方氏がでたらめの実験をするとも思えない。残念ながら穴だらけのノート
や論文についての反論はない。確かに須田桃子のインタビューを受けたほうが疑問は速く解
消されるのではないだろうか。



76.「捏造の科学者 STAP細胞事件」(2014.12.30)須田桃子(再読) ★★ ’20/08/27
もう少しかみくだいて説明してもらわないと、実験内容などなかなかわかりづらい。感想は初読
のときと変わらないかな。当然小保方さんの本も読んだであろうから感想を聞いてみたい。取
材攻撃した小保方さんに謝罪の気持ちなどあるだろうか。



75.「七十歳死亡法案、可決」(2012.1.15)垣谷美雨 (図) ★★★ ’20/08/19
「高齢者が国民の三割を超え、破綻寸前の日本政府は「七十歳死亡法案」を強行採決。施行
まで二年、宝田東洋子は喜びをかみしめていた。わがまま放題の義母の介護に追われ十五
年間。能天気な夫、引きこもりの息子、無関心な娘とみな勝手ばかり。やっとお義母さんが死
んでくれる。東洋子の心に黒いさざ波が立ち始める……。すぐそこに迫る現実を描く衝撃
作!」
 法案はともかく介護を抱える家の現実なのかもしれない。最後はそれぞれの問題にすべて解
決策が見つかり、ご都合主義と思えてもそれまでが厳しすぎるから、ハッピーエンドでよかった
と思う。



74。「雨利終活写真館」(2016.11.29)芦沢央 (図) ★★ ’20/08/17
「遺影専門写真館を舞台にしたミステリー連作「人生の最後に最愛の人へ最高の自分を送る
ために」巣鴨の路地裏に佇む遺影専門の雨利写真館には、今日も死に向き合う人々が訪れ
る。撮影にやってくる人々の生き様や遺された人の人生ドラマを若手注目ナンバー1新進気鋭
のミステリー作家芦沢央が見事な謎解きで紡ぎだす。人生の終焉を迎えるとき、人は、本当に
大切なものが見えてくる。ミステリーなのに心温まる珠玉の4篇」
 イヤミスじゃなくしっかりオチがついている。が、カメラマンの雨利が謎すぎる。夢子や道頓堀
のことももっと深堀できそう。続編に期待。




73.「狐火の辻」(2020.1.31)竹本健治 (図) ★★ 
「黒マントの怪人、消えた事故の被害者、尾行する男を尾行する男、湯煙の怪しい会話、偶然
も続きすぎるとおかしくなる。些細な交通事故から始まった、不可思議な連鎖。魑魅が潜み脳
が惑乱する。土砂降りの雨の中で、湯河原の温泉旅館街で、起きた事故。そして新たに郊外
で起きた事故では、車に轢かれた被害者が煙のように消えてしまった!?楢津木刑事、IQ208
の天才棋士牧場智久も登場!!名作「涙香迷宮」の流れをくむ、幻惑のサスペンス・ミステリ」
 いまひとつ話に乗り切れなかった。怪談も元をただせば噂話に尾ひれがついたものというの
ではミステリでもなんでもない。牧場の推理は何でそう思ったかというのがないので突拍子もな
く思える。



72.「死亡通知書 暗黒者」(2020..8.5)周浩暉 稲村文吾訳(購入) ★★★ ’20/08/05
 やっとというかついにというかとにかく出ちゃった。期待の華文ミステリついに邦訳!
 やはりプロの翻訳者の文は読みやすい。自分が難儀したところもちゃんと筋が通るように訳
してあった。ただ猛芸のフリガナがマンユンとなってた。マンイーじゃないのか。そしてツイッタ
ーの中の人がさっそく誤訳じゃねーのか、という点をついていた。
 これは3部作で、2巻目は1巻の倍の量がある。2巻が出るのはいつだろう……。



71.「逢魔が時 腕貫探偵リブート」(2019.12.15)西澤保彦 (図) ★ ’20/08/09
 住吉ユリエという美人のお嬢様大学生が主役かと思いきや4話目の公務員が本当の探偵役
であるらしい。他に2話はユリエが主役であと1話はどちらも出ない。その上、下品。人間関係
がやたら複雑なうえ、とりたててトリックと呼べるような話もないしミステリとは思えない。さらに
出てくる人がホモだのレズだのと。初読み作家だったが二度と読むまい。



70.「証拠は語る FBI犯罪科学捜査官のファイルより」(1995.11.24)ディヴィッド・フィッシャー 
 小林宏明訳 (図) ★★ ’20/08/06
「本書によって、世界最高の設備をほこるFBI犯罪科学研究所が、肉眼ではほとんど認識でき
ないわずかな証拠品を最先端の科学を駆使して検査し、犯人を割り出すまでの過程があきら
かにされる。同時に本書は、FBI捜査官のありのままの物語である。彼らの驚かされるほどの
直観力、忍耐力、科学捜査技術によって、完全犯罪と思われる事件が、いかに解決されたか
を感動的に伝えてくれる。」
 ごっつい本にたっぷりと犯罪科学研究所の内部が描かれてある。確かにすごい仕事だ。毎
日千件以上のものが送られ調査結果を待っている。しかし研究所員も「ドラマみたいになんで
もすぐわかるわけではないし、調査の結果どうなったかまでは教えてもらえない。送られてくる
ものを粛々としらべるだけである」だがこうも言う。「毎日違うことができるので、楽しくてたまら
ない」仕事がそんなに楽しいことはいいことである。



69.「長い家の殺人」(1988.9)歌野晶午 (図) ★★ ’20/07/30
「消失死体がまた元に戻る!?完璧の「密室」と「アリバイ」のもとで発生する、学生バンド”メイ
プル・リーフ”殺人劇――。「ミステリー史上に残ってしかるべき大胆なアイデア、ミステリーの原
点」と島田荘司が激賞賛。この恐るべき謎を、あなたは解けるか?大型新人として注目を浴び
た鮮烈なデビュー作」
 そんなに斬新なアイデアとh思わなかった。なんとなくトリックもわかったし、確かに古い本だ
が、島田荘司が激賞賛するほどか…。探偵と犯人(の一人)が途中参加というのはアリなんだ
ろうか。時間もそんな時間あっただろうかという早業で首をひねらざるを得ない。



68.「裏切り」(2009.9.1)カーリン・アルヴテーゲン柳沢由美子訳(図)★★★ ’20/07/27
「きみといても楽しくない」。なぜ夫の心は自分から離れてしまったのか。エーヴァはヘンリック
の気持ちをとりもどそうと必死だった――。ヨーナスという若者がいた。植物人間となってしまっ
た恋人アンナを献身的に介護している。だが、その看病ぶりは常軌を逸しているようだった―
―。ヘンリックに不倫の疑いを抱いたエーヴァは、憎悪の炎を燃やす。二組のカップルの葛藤
が、ある晩思いがけない出会いを生み、そこから恐ろしい破局が始まる…。ベスト北欧推理小
説賞受賞の実力派女性作家が、男女の奥底を緻密に描いて新境地を開くサイコサスペン
ス!」
 北欧ミステリにもイヤミスがあった!二組ノカップルがどう関わるのか、それが気になって読
み進めていくうち、ヨーナスの変態ぶりが明らかに。そしてエーヴァとヨーナスが出逢った時に
は緊張はクライマックスへ。話運びも飽きさせずうまい。アルヴテーゲンはこれからも注目すべ
き作家だ。もちろんイヤミス嫌いな人には向かない。



67.「最後の証人」(2010.5)柚月裕子 (図) ★★ ’20/07/26
「元検察官の佐方貞人は刑事事件専門の敏腕弁護士。犯罪の背後にある動機を重視し、罪
をまっとうに裁かせることが、彼の弁護スタンスだ。そんな彼の許に舞い込んだのは、状況証
拠、物的証拠とも被告人有罪を示す殺人事件の弁護だった。果たして佐方は無罪を主張する
依頼人を救えるのか。感動を呼ぶ圧倒的人間ドラマとトリッキーなミステリー的興趣が、見事に
融合した傑作法廷サスペンス」
 見事にミスリードされたが、途中までオバサンがオッサンを誘惑するとかいうところに全く興
味がわかず、もっと早く手の内を明かしてもよかったのでは、と思った。



66.「狂気」(2004.9.15)ハ・ジン立石光子訳 (図) ★★ ’20/07/23
「真の幸福はどこにあるのか?何が人を高潔にするのか?人生の意味を問う感動作。 山寧
大学の楊教授が、脳卒中で倒れた。夫人はチベットに赴任中、娘の梅梅は北京で医学受験に
追われている。愛弟子で梅梅の婚約者でもあるぼくは、学部を取り仕切っている彭書記から教
授の付き添いを命じられた。病床で教授はうわ言を口走り、高潔で尊敬を集める人とは思えぬ
その言葉にぼくは驚く。どうやら経費の問題、不倫の疑い、何者かにゆすられている節もあっ
た。意識の混濁する教授に翻弄され、迫る大学院入試の準備もできず、ぼくのいら立ちは募
る」



65.「クローバーナイト」(2016.11.20)辻村深月(図) ★★ ’20/07/22
「小さな会計事務所で働く鶴峯裕は同い年の妻・志保と共働き、4歳の長女・莉枝未ともうすぐ
2歳になる長男・琉大を保育園に預け、バタバタの日々を過ごしている。そんな鶴峯家にママ
友、パパ友から子育てにまつわる難題と謎が押し寄せる!そして事件はとうとう鶴峯家にも―
―。裕は数々の謎を解き、育児の問題も解決して家族の幸せを守れるのか?!家族を守る
新米騎士が育児と謎解きに悪戦苦闘!現代を代表する家族小説×ミステリー!」
 ミステリではない…。保育園のお誕生日会とかお受験とかわかるわけない。保育園児VS幼
稚園児とかそういうのがおかーさん方にはホットな話題なんだろか。あと二人の子供たちがい
い子すぎる。2歳と言えば大変な時期だと思うのだが、裕も志保も自分の時間がしっかり持て
ているところにもウソくささが。こういう家族もいるよね、というだけの小説。



64.「このゴミは収集できません」(2018.8.30)マシンガンズ滝沢秀一 (図) ★★ ’20/07/20
「36歳でゴミ清掃員となり、6年間芸人との二足の草鞋で頑張ってきた著者が見てきたゴミ清
掃の現場」
 ゴミの出し方に気を付けようと思った。日本がゴミ大国1位とは驚いた。焼却所が1200か所
もあって、アメリカよりずっと多いのも驚き。ゴミ収集車はあの匂いがだめで時々息を止める
が、著者によれば笑ったり話しかけたりされるとうれしいらしい。急な(?)出費のためやり始め
たバイトだが肝心の給料が仕事の割に会っているのかという点が書かれていない。給料いい
わけなとは思うが、この本でやってみようと思う人間がいるかもしれない。



63.「隠された悲鳴」(2019.8.30)ユニティ・ダウ三辺律子訳 (図) ★★ ’20/07/30
「なにが彼らを”怪物”にしたのか。ボツワナの現職女性大臣が実際の儀礼殺人事件をもとに
描いた驚愕のアフリカ発サスペンス。ある午後、ある村で行方不明になった12歳の少女。村
では「儀礼殺人」ではと噂が流れるが、警察は野生動物に襲われたのだと結論付けた。5年
後、その村に赴任した若者が、ひょんなことから事件の真相を追うことになる。警察、政治家、
校長、村人、被害者の母……何重にも折り重なった嘘と秘密の先で、彼女が見たものとは―
―。ラスト10ページ、あなたの耳から悲鳴が離れなくなる。」
 ラスト10ページ、グロが苦手な人は読めないだろう残酷さ。フィクションでよかった…本当に
フィクションなのか…?アフリカ発サスペンス侮れない。



62.「スワン」(2019.10.31)呉勝弘(図) ★★ ’20/07/17
「巨大ショッピングモール「スワン」で起きた無差別銃撃事件。死者21名を出した悲劇の渦中
で高校生のいずみは犯人と接しながら生き延びた。しかし同じく事件に遭遇した同級生・小梢
により、次に誰を殺すか、いずみの指名によって犯行が行われたという事実が週刊誌で暴露
される。被害者から一転、非難の的となったいずみ。そんななか、彼女のもとに招待状が届く。
集められたのは事件に巻き込まれ、生き残った5人の関係者。目的は事件の中のひとつの
「死」の真相をあきらかにすること。その日、本当に起こったことはなんだったのか?知ってい
るだろうか。事件のさなか、わたしと彼女がとった行動を――。」
生き残った人間が非難されるなんて論外。そこは憤りを感じた。後は特に感じることはなかっ
た。



61.「カインは言わなかった」(2019.8.30)芦沢央 (図) ★ ’20/07/13
「芸術に魅入られた人間と、なぶられ続けてきた魂の叫び。”沈黙”が守ってきたものの正体に
切り込む、罪と罰の物語。「世界の誉田」と崇められるカリスマ芸術監督率いるダンスカンパニ
ー。その新作公演三日前に、主役の藤谷誠が姿を消した。壮絶なしごきにも喰らいつき、すべ
てを舞台に捧げてきた男に一体何が?”神”に選ばれ、己の限界を突破したいと願う表現者た
ちの切なる願いと、その陰で人知れず踏みにじられてきた者たちの声なき声……。」
 藤谷誠、誠の彼女、藤谷豪・豪の彼女、元HHの江澤、誠のルームメイトで現HHの尾上、娘
がHHのいた松浦夫妻。誰にも共感できず。特に兄弟の各々の彼女がこんがらがってわかりに
くいうえ、どっちも早く分かれろよと言いたくなるほど振り回されている。結局、最後まで読んで
も何が言いたかったのかわからず。芸術ってこんなものなのかも。




60.「イヴリン嬢は七回殺される」(2019.8.10)スチュアート・タートン三角和代訳(図) ★’20/07
/11
「森の中に建つ「ブラックヒース館」。そこへハードカースル家に招かれた客が滞在し、夜に行
われる仮面舞踏会まで社交に興じていた。そんな館にわたしはすべての記憶を失ってたどりつ
いた。自分が誰なのか、なぜここにいるのかもわからなかった。だが、何者かによる脅しにショ
ックを受け、意識を失った私は、時間が同じ日の朝に巻き戻っており、自分の意識が別の人間
に宿っていることに気づいた。戸惑う私にまがまがしい仮面をかぶった人物がささやく。ー−今
夜令嬢イヴリンが殺される。その謎を解かない限りおまえはこの日を延々と繰り返すことにな
る。タイムループから逃れるには真犯人をみつけるしかないと…。悪評フンプンの銀行家、麻
薬密売人、一族の縁の深い医師、卑劣な女たらしとその母親、怪しい動きをするメイド、そして
16年前に起きた殺人事件……不穏な空気の漂う屋敷を泳ぎ回り、客や使用人の人格を転々
としながら真犯人を追う人物以外がわたしのほかにもいるという――。英国の正統派ミステリ
を舞台に、タイムループと人格転移というSF要素を組み込んで、強烈な謎とサスペンスで読者
を離さぬ超絶SFミステリ」
 SFは苦手なんだよう…半分過ぎまでしっかり読んでいたのだが、もうわけがわからなくなって
飛ばし読み。結局フェリシティって誰。エイデン・ビショップが執事なのだったら、元の執事の人
格は?複雑&長すぎ。


59.「medium霊媒探偵城塚翡翠」相沢沙呼 (図) ★★ ’20/07/01
「推理作家として難事件を解決してきた香月史郎は、心に傷を負った女性、城塚翡翠と出逢
う。彼女は霊媒であり、死者の言葉を伝えることができる。しかし、そこに証拠能力はなく、香
月は霊視と論理の力を組み合わせながら事件に立ち向かわなくてはならない。一方、巷では
姿なき連続殺人鬼が人々を脅かしていた。一切の証拠を遺さない殺人鬼を追い詰めることが
できるとすればそれは翡翠の力のみ。だが、殺人鬼の魔手は密に彼女へと迫っていた」
 「衝撃のラスト」までの事件がパンチのない面白みのない話で、嫌でも最終話へのハードル
は上がる。最後をめぐってはネットの感想を読んでも是非が分かれるところ。私は「このミス」
ぶっちぎりの第一位というので期待したのだが、今一つだった。何より少女漫画のような表紙
が……。



58.「ケイトが恐れるすべて」(2019.7.31)ピーター・スワンソン 務台夏子訳(図) ★★ ’20/06
/27
「ロンドンに住むケイトは又従兄のコービンと住居を交換し、半年間ボストンのアパートメントで
暮らすことにする。だが新居に到着した翌日、隣室の女性の死体が発見される。女性の友人
と名乗る男や向かいの棟の住人は、彼女とコービンは恋人同士だが周囲には秘密にしていた
といい、コービンは女性との関係を否定する。嘘をついているのは誰なのか?想像を絶する衝
撃作!」
これはミステリというよりサスペンス。ハラハラドキドキはさせられる。話の行方が全く分からず
どう落ち着くのかラストまで飽きさせない。「そしてミランダを殺す」のピーター・スワンソン長編3
作目。



57.「イギリスはおいしい2」(1998.11)林望 再読(購入) ★★★ ’20/06/23
「喧噪のロンドンを遠く離れて、スコットランド付近まで、領主館の宿に泊まり、野の小さな草花
を愛で、きわめて珍妙な風景に心和ませる。そしてなんと幽霊にも遭遇……。著者自身の撮影
による美しい写真と文章で、愉悦と発見の旅を巡る。傑作「イギリスはおいしい」の続編ともい
えるフォト&エッセイ集」
 これだけの旅ができるのも英語が堪能だからというのもあるだろう。うらやましい限りだ。イギ
リスのくそ田舎に行く根性も読経もないのでこの本でせいぜい楽しむとしよう。



56.「店長がバカすぎて」(2019.7.18)早見和真 (図) ★★ ’20/06/22
武蔵野書店吉祥寺本店に勤める契約社員谷原京子28歳は自分の危うい立場を憂いつつも
バカすぎる店長にイラだつ日々。山本猛店長の朝礼は超長いうえに自分に酔っている店長の
話は聞いていてイライラしてしまい思わずガルルとのど元からもれてしまう。アルバイトや正社
員出版社員にもまれつつ毎日必至に仕事をこなす京子。ど天然な店長は面白いがやはり関
わりたくはないタイプ。谷原京子の語りは軽くて読みやすいが、やはり要約するとタイトル通り
でしかなく、もっと若い書店員や営業職の女性が読めば共感できるのかも。



55.「11月に去りし者」(2019.9.20)ルーバーニー 加賀山卓朗訳(図)★★★ ’20/06/18
「1963年11月、ニューオーリンズ。暗黒街で生きる男ギドリーはケネディ大統領暗殺の報に
嫌な予感を覚える。数日後に依頼された仕事はこの暗殺がらみに違いない。ならば次に死ぬ
のは自分だ、と。仇敵を頼って西へ向かう道中、夫から逃げてきた訳アリの母娘と出会ったギ
ドリーは家族連れを装い、ともに旅するようになる。だが組織が放った殺し屋はすぐそこに迫っ
ていた――」ギドリーの逃避行、シャーロット達との出会いが丁寧に描かれ、バローネの非道さ
も手伝ってスリルがうまく伝わってきた。結末は予想できたものの納得いく終わり方でよかっ
た。ちょっと韓流ドラマっぽいけどね。



54.「盗みは人のためならず」(2015.11.20)劉震雲 水野衛子訳(図) ★ ’20/06/15
「政府高官、不動産王、工事現場監督、コック、スリ、スリの元締、売春兼業美容院経営者、出
稼ぎ労働者、警察、偽造酒製造業たちが巻き起こす盗み盗まれの人間喜劇――劉さんのユ
ーモアは寸鉄人を刺す鋭い表現力だ。そして決して深刻には語らずに、冷静な洞察力で導い
た持論を洒脱な語り口で展開する。私はいつも劉さんの面白さにさんざん笑った後で、そのな
るほどなと思い至る。それこそが劉さん自身と彼の小説の最大の魅力である、病みつきになる
所以である」訳者あとがきより。
 私にはなんのこっちゃさっぱりだった。



53.「わたしは藩金蓮じゃない」(2016.8.20)劉震雲 水野衛子訳 (図) ★★ ’20/06/10
「山東省に住む29歳の李雪蓮は妊娠していた。既に夫秦玉河との間に子供は一人いる。罰
金を取られないために一旦離婚し、男の子は夫、妊娠中の子供は李が受け持ち、互いの連れ
子として再婚すれば罰金は払わないでよい。ところが李と離婚するやいなや元夫は別の女と
結婚、子供まで作ってしまった!李雪蓮は悔しさのあまり告訴することに。」
 李雪蓮の執念はものすごい。北京まで行って告訴しようとするが、もちろんうまくいかない。そ
れから20年毎年告訴のために北京へ行くというしつこさ。その顛末もなんだそりゃという結果
で……。著者はユーモア小説を得意としているらしいが、この小説はユーモアなのかなぁ?



52.「ブルックリンの少女(2018.6.30)ギョーム・ミュッソ吉田恒雄訳(図)★★’20/06/09
「人気小説家のラファエルは、婚約者のアンナと南フランスで休暇を楽しんでいた。なぜか過去
をひた隠しにするアンナに彼が詰め寄ると、観念した彼女が差し出したのは衝撃的な光景の
写真。そして直後にアンナは失踪。友人の元警部、マルクと共にラファエルが調査を進めると
かつて起きた不審な事件や事故が浮上する。彼女の秘められた半生とはいったい……。フラ
ンスの大ベストセラーミステリ。」
 一人の失踪した女性を追い、半生を紐解いていくという系列では「その女、アレックス」「火
車」のほうが面白かった。ただ探偵役のラファエルがテオという息子連れなので子連れ探偵は
珍しい。それにテオが可愛くって、いいマスコットである。アンナが姿を消した理由に今一つ納
得できなかった。



51.「病弱探偵 謎は彼女の特効薬」(2017.7.18)岡崎琢磨(図) ★ ’20/06/06
 ボク、山名井ゲンキは風邪一つひかない健康優良児だが、それと正反対なのは隣の幼馴染
貫地谷マイ。彼女は365日中300日はベッドですごしているというほどの病弱さ。ボクが学校
で起こった不思議な事件をベッド・ディテクティブのマイに話すとたちどころに解決してしまうほ
どのミステリ好き。
 謎がちいさすぎる。猟奇殺人も血も出てこないからお気楽でよいのだが、それにしても万引き
だの音痴だの七夕の短冊だのって事件が小さすぎる。ベッド・ディテクティブならリンカーン・ラ
イムばりの事件が欲しいところだ。



50.「メインテーマは殺人」(2019.9.27)アンソニー・ホロヴィッツ 山田蘭訳 (図) ★★ ’20/
06/04
「自らの葬儀の手配をした正にその日、資産家の老婦人は銃殺された。彼女は、自分が殺さ
れると知っていたのか?作家のわたし、ホロヴィッツはドラマの脚本執筆で知り合った元刑事
ホーソーンから、この奇妙な事件を捜査する自分を本にしないかと誘われる……。自らをワト
スン役に配した、謎解きの魅力全開の犯人当てミステリ!7冠制覇の「カササギ殺人事件」に
並ぶ傑作!」
 特に傑作!というほどのトリックもなく淡々とストーリーが進んだという感じ。それにしても外国
ものは人名地名が長いなぁ。



49.「生者と死者に告ぐ」(2019.10.31)ネレ・ノイハウス 酒寄進一訳 (図) ★★ ’20/06/02
「ホーフハイム警察署の管轄内で、犬の散歩中の女性が射殺された。80メートルの距離から
正確に頭部を狙撃されたのだ。翌日森に立つ邸宅で、女性が窓の外から頭を撃たれて死亡。
数日後には若い男性が心臓を撃ち抜かれた。そして警察署に”仕置き人”からの死亡告知が
届く。被害者たちの見えないつながりと犯人の目的とは。刑事オリヴァーとピアが未曽有の連
続狙撃殺人事件に挑む!」
600P以上もある長編。しかし固有名詞がドイツ語はくそ長いのでそれで字数かなりとられてい
るのでは。それにしても登場人物多すぎ!「登場人物」表を見ながらというのは面倒だった。



48.「パリのアパルトマン」(2019.11.25)ギョーム・ミュッソ 吉田恒雄訳 (図) ★★’20/05/28
「クリスマス間近のパリ。急死した天才画家の家で偶然出会った一組の男女。元刑事のマデリ
ンと人気劇作家のガスパールは、画家が死の直前に描いたとされる未発見の遺作三点を一
緒に探し始める。その捜索はやがて、画家を襲った悲劇の謎を探る旅へと変わり――。絵に
隠された秘密に導かれて突き進む二人を待ち受けていた、予想外の真相とは?!」
 確かに予想しえなかったラストだがいくつか疑問も残る。ソトマヨールは何で死んだんだっ
け?ビアンカは何で?船で子供を育てた?そんなことできる?子育てなめてない?何でジュリ
アンを殺したことにしてた?ペネロープはかたくなに死んだと言ってたけど?ガスパールって名
前のおかげであのガスパールを連想してしまった。



47.「休日はコーヒーショップで謎解きを」(2019.8.9)ロバート・ロプレスティ高山真由美訳(図)★
2020/05/25
「拳銃を持って押し入ってきた男は、何故人質に”憎みあう三人の男”の物語を聞かせるの
か?意外な真相が光る「二人の男、一丁の銃」、殺人事件が起きたコーヒーハウスで、ツケを
チャラにするため犯人捜しを引き受けた詩人が、探偵として謎解きを繰り広げる黒い蘭中編賞
受賞作「赤い封筒」」
 短編9品収録。しかしどれもミステリとはいいがたい。短編は読みやすくていいが、起承転結
も早くつけなければいけないので難しいところはあるだろう。孤児列車というのがアメリカの黒
歴史であるのがわかった。



46.「イギリスは愉快だ」(1991.9)林望 (購入)(再読)★★★ ’20/5/19
「林望はイギリスにいた。ある時はテレビのスポーツ中継を前にふと立ち止まり、アフタヌーン
ティーの時間に思いを巡らす。はたまた大英図書館で気づいたイギリス伝統の個人主義と
は?――優しく切ないイギリスを豊饒な文章でつづり「イギリスはおいしい」に続く第2作!「お
いしい」と「愉快だ」の秘話を記すあとがきも掲載」
 改めで読み返すと、思っていたより難しい知らない言葉も多い。さすが古典の先生だ。ボスト
ン夫人の最期の話や路上荒らしにあった話とかあってちょっと寂しいところもあるが、読めばイ
ギリスに行きたくなる。でも今のイギリスはよくないだろう。



45.「イギリスはおいしい」(1991.3)林望 (購入)(再読)★★★ ’20/05/16
「アフタヌーンティーを飲むと、イギリス文化が見えてくる?フィッシュ・アンド・チップスはオシャ
レなの?――不評極まるイギリス料理なれど、イギリス文化を会得すれば、これまた実に美味
なるものなり。リンボウ先生のご説ご覧あれ!」
 コロナ禍のおかげで図書館が閉まっており、新しい本を読めないので、手元の本をよんでい
るのだが、これは懐かしいものを引っ張り出したものだ。
 久しぶりに読むと初読のときにわからなかったものがわかるようになったり、あ!ここ行って
る!と自分が既に訪れていたり、なかなか再発見があって楽しい。
 しかし林望先生に個人的にお聞きしたいのは酒の断り方。あちこちで酒の招待があるだろう
にご本人は頑として飲まない。スマートに酒を断れる術を教えていただけたらありがたい。



44.「シャバはつらいよ」(2014.7.13)大野更紗(購入)(再読)★★★’20/05/13
「「あれから、大変なことがいろいろありました」シャバでデートしたい(?)一心で、病院を「家
出」したものの新居のドアは重くて開かず、コンビニははるか遠く、通院は地獄の道のり、待て
ど暮らせど電動車いすは来ず……。そして迎えた2011年3月11日。」
「困ってる人」の続編。本当にこの人の強さには脱帽する。そりゃ命かかってんだもん!と返さ
れそうだが、自分にこんな行動力はない。それこそ日々生きているだけでいっぱいいっぱいで
社会や行政、福祉他の難病患者のことに考えが至るまい。この人のことを「私見てアピール」
すごいという人もいるけど、私見てだけの人じゃないと思った。個人的には彼氏の行方が気に
なったが…別れちゃったんだろうか……。




43.「困ってる人」(2011.6)大野更紗 (中古)(再読)★★★ ’20/05/12
「ビルマ難民を研究していた大学院女子がある日突然、原因不明の難病を発症。自らが難民
となり、日本社会をサバイブするはめになる。想像を絶する過酷な状況を、澄んだ視点と命が
けのユーモアをもって描き、エンターテイメントとして結実された類い稀なエッセイ!」
 このコロナ禍で彼女は大丈夫なのだろうか。そう思ってネットで調べた。死亡とは出てない
が、昨年あたりからめだった記事もない。このタイトルを見ると読むまでもなく五体満足な自分
はもっとしっかりしなきゃと気が引き締まる。私がのほほんとしているうちに彼女は大学院を二
つ卒業していた。365日インフルエンザ状態でよく勉強なんてできるもんだ。当たり前だが大
学院だって入試があるし、入ってからも大変だ。自分の病気に向き合うだけじゃなくて、勉強ま
でしているってことがすごい。…とても真似できない…とか言ってないで自分も勉強しなきゃな
ぁ。



42.「だれがいばら姫を起こしたのか」(1984.9.30)I・フェッチャー丘沢静也訳(購入)(再読)
★★ ’20/05/11
「「赤ずきんちゃん」は”オオカミなどは敵と思いなさい”と差別を教え、「ホレおばさん」は”文句
を言わず、いわれたままに働けば幸福になれる”と服従をするめる。グリム童話は人々に夢を
運ぶが、それと同時に保守的な側面を持っている。グリム童話の伝承や収録にはどんな歪曲
や誤解がひそんでいるのか?本書は14編の有名なグリム童話をまな板に載せて「新しい」読
み方を示しつつその真相に迫る」
 解説している内容がフランクフルト学派と資本主義の精神とかだと何が言いたいのかさっぱ
りだ。「ここではごく自然に、ヘーゲルの「精神現象学」に書かれている主人と奴隷の弁証法の
ことや、被植民者解放のためのぼうりょくの役割を論じたフランツ・ファノンのことを思い出す読
者もいるはずである」いるか?!
 でも普通に考えても言いつけを守らず3度も魔女に騙される白雪姫は美しいが頭は弱いと
か、ヘンゼルとグレーテルのやったことは強盗殺人だとか、改めて考えると、童話とは何なの
か、何を教えようとしているのか、深いものだと思った。


41.「中国絶望工場の若者たち「ポスト女工哀史」世代の夢と現実」(2013.3.14)福島香織 
(購入)(再読)’20/05/08
タイトルは過激だが中身はそうでもない。むしろ80后・90后の世代は甘やかされて育った割
には、現実を見て具体的な夢を持っている。女性ならネイルのお店を持ちたい、とか男ならドイ
ツ車を買いたい等。絶望しているのはその下の階層の人たちである。戸籍制度は闇を抱え、
出稼ぎ労働者の足かせとなっているし、黒ハイツ(無戸籍児)の温床となっている。一人っ子政
策のせいで届け出が出せない子供、罰金払っても生んでる人もいるが、姉や親の金で進学さ
せてもらえるのは唯一の男児。それがうざいのだと姉は思う。デモ・ストの起きる一因だとうい
う。デモやストに走っているうちはいいが、本当になにもはけ口が亡くなった時絶望はやってく
る。それもわかっている。
 中国はもはや世界の工場ではなくなった。ワーカーの要求は上がり、雇い主とのぶつかりが
続く限り絶望も続くのだろう。



40.「中国食品工場のブラックホール」(2014.9.1)福島香織★★★ (再読) ’20/05/05
メラミンミルク、毒ギョーザ、パナマ咳止めシロップ、偽装肉ー病死豚からネズミ肉まで、ニセ卵
ニセ蜂蜜。中でも一番恐ろしく感じたのは地溝油だった。廃油をまた使うって…もうそこいらの
店で食べられない。中国では油だけじゃない。肉も魚も何を食わされるかわからない。
 ニセ薬も蔓延している。中国で市販薬は飲むべきではない。食べ物、薬とにかく口に入れる
ものは全て疑ってかかれということで、スーパーに買い物に行っても、原産国に中国と書いて
あれば手に取らない。それが大好物の栗でも蜂蜜であっても。
 この本読んだら中国にツアーでも旅行いきたくない。現地の人が騙されて死んでいるのだも
の。原因はいろいろあるが今の体制ではムリ!なのだそうだ。



39.「潜入ルポ 中国の女 エイズ売春婦から大富豪 まで」(文庫版)(2013.8.10)福島香織
★★★ (再読) ’20/05/04
「モンゴル人に扮してのエイズ村極秘取材、都市の底辺で蠢く売春婦たちと接触、華やかなキ
ャリアウーマンの舞台裏、反体制派故に当局から激しい人権侵害を受ける活動家の苦悩の
数々…。社会の片隅でうずもれるように死んでしまった人もいれば、権力を手にして着実に上
昇している人も、その圧力と激しく戦いながらう美しい笑顔を忘れない人もいた…。日中ともに
女性が強く美しく幸せであることを改めてここに祈ろう」
 やはり底辺に住むエイズ村の農民や売春婦の話が響く。八〇后作家なんてどうでもよくなる
インパクト。でも一番驚いたのは中国に病院は前金制で、入金されない限り何日での放ってお
かれ、手術が必要でもしてもらえないというくだりか。その間に死んだってもちろん誰も気にしな
いわけだ。人権無視も日本やイギリスの比ではない。解説に「女は生まれる場の力による」と
あったが、確かに。農村に生まれたくて生まれたわけではないだろうに。不運としかいいようが
ない。不運は本人の力で避けられるものではない。少しでも幸せを感じてほしいと思うのは私
が幸せな場所から上から目線で言っているのだろうか。



38.「ちくわを食う女」(2009.2.10)相原茂 (中古) ★★★ ’20/05/02
下記同様エッセイは面白いが…。
 表題の「ちくわを食う女」とは蘆思さんのこと。蘆思さんがキヨスクでちくわを買って食べたとい
うもの。日本人の感覚からするとワンカップ片手のおっさんが長距離乗るときに買うものという
固定観念があるがゆえに中国の若い女性がちくわ食っちゃうんだ的な感想を持ったことから。
別にいいんじゃない、って思うが、自分ならやはり買わない。おっさんの食い物という感じがす
るので成程な、と。身近な人間がやったらぎょっとするかもしれない。



37.「マカオの回遊魚」(2012.1.31)相原茂 (中古) ★★★ ’20/04/28
エッセイは面白いが、まじめな中国語講義となるとちょっと難しい。親族の呼称とか、今は一人
っ子政策のおかげで覚えなくてもいいって聞いていたし、実際めいのことを「外生女」と教わっ
たが、弟の姪は至(正確にはにんべんが要る)女というらしい。まぁそれがわかっただけでもよ
いか。なぜ日本語は「いとこ」の一言でかたずけてしまうのかと著者の疑問が、私には何故そ
んなにいとこが男か女か母方か、父方か、年上か年下かと事細かに分けねばならないかのほ
うが疑問だった。




36.「Yの悲劇」(1988.8.31)エラリー・クイーン宇野利泰訳 (中古)★★ ’20/04/26
「富豪ヨーク・ハッターの死体がニューヨークの港にあがった。その後、狂気じみたハッタ―一
族の邸で奇怪な惨劇が起こり始める。子供が毒物の入った飲み物で危うく命を落としそうにな
り、未亡人がマンドリンという奇妙な凶器で殺害されたのだ。元俳優のドルリイ・レーンはその
驚愕すべき完全犯罪の解明に挑むが……。犯罪の異常性、用意周到な伏線、明晰な論理性
と本格ミステリに求められるすべてを備えた不朽の名作」
 犯人はわかったが動機がわからず。最後の毒物事件はサム警視同様私もわからない。何
故最期に謎を一つ残したのか。これがベストミステリ100の第二位というのが一番の謎だ。(1
位はそれこそ不朽の名作アガサ・クリスティーのアレですよ)



35.「火刑法廷」(1937)(邦1976.5.31)ジョン・ディクスン・カー小倉多加志訳 (中古) ★ ’20/
04/18
「編集者のエドワードは、社のドル箱作家の書下ろし原稿を見て愕然とした。添え付けされてい
る17世紀の毒殺犯の写真はまごうかたなく妻マリーのものだった!しかもその夜、隣人の妻
にかかる毒殺容疑の噂の真相を追い、墓を暴きに出かけた彼は、妻の予言通り、柩から死体
が消失しているのを発見した……夫人毒殺魔が流行した17世紀と現代が妖しく交錯し、カー
独特の世界を創出した第一級の怪奇ミステリ」
 ちょっと古いのと因果関係がつかみにくいのでなかなか読み進むのに難儀した。おもな謎は
@ないはずのドアから出て行った殺人犯Aマイルズ老人の死体喪失、であり@はわかったが
Aは?どうしてマークがいなくなったのか?しばらく間をおいてから再読したい。



34.「黒死館殺人事件」(1956.2.15)小栗虫太郎 (中古) ★ ’20/04/11
「当主降矢木算哲博士の自殺後、黒死館の異名で呼ばれるその屋敷に住む人々を、人知を
超越した血なまぐさい連続殺人が襲う。発見された算哲の遺書は恐るべき殺人予告なのか…
…悪魔学と神秘化学に彩られた本格探偵小説!」
 やっと手を付けたのだが、襲い来る旧仮名遣いと旧漢字の山。これを読める人がいるのか。
探偵法水のわけわからん知識のひけらかしに納得できる人はいるのか。ただ殺人事件が起こ
ったとしかわからずトリック(?)の部分は全く意味が分からず、手も足もでなかった。



33.「その女アレックス」(2014.9.10)ピエール・ルメートル橘明美訳 (中古) 再読 ★★★ ’
20/04/07
「おまえが死ぬのを見たい――男はそう言ってアレックスを監禁した。檻に幽閉され、衰弱した
彼女は、死を目前に脱出を図るが……しかし、ここまでは序章にすぎない。孤独な女アレック
スの壮絶なる秘密が明かされるや、物語は大逆手を繰り返し、最後に待ち受ける慟哭と驚愕
へと突進するのだ」
再読なので文章をかみしめるように読んだ。非の打ちどころのない立派な日本語。オチはやは
り忘れていた。アレックスの凄絶な脱出劇は克明に覚えていたが、アレックスの頭の良さ、アレ
ックスの計略とわかっていつつ彼女の復讐に手を貸すカミーユたち警察もいい感じである。何
故アレックスが残虐になれたのか。そこが焦点で、無駄な動きは一切していない。今作で圧倒
され、カミーユたちの物語もそれ以外もルメートルは全部読破した。その価値はあり、いまだ手
放せない一冊。



32.「慟哭」(1999.3.19)貫井徳郎 (中古) ★★ 再読 ’20/03/30
「連続する幼女誘拐事件の捜査は行き詰まり捜査一課長は世論と警察内部の批判を受けて
懊悩する。異例の昇進をした若手キャリアの課長をめぐり、警察内に不協和音がただよう一
方、マスコミは彼の私生活に関心を寄せる。こうした緊張下で事態は新しい方向へ!幼女殺
人や怪しげな宗教の生態、現代の家族を題材に、人間の内奥の痛切な叫びを、鮮やかな構
成と筆力で描破した本格長編」
 ネタバレ。異なる二つの話が同時進行に見えて実は時間軸はずれていたというミスリードと
いうかトリックというか。しかし主人公佐伯が一人がバカをみて犯人は捕まっていないというの
が切ない。



31.「インタビュー・イン・セル 殺人鬼フジコの真実」(2012.11.15)真梨幸子(中古)★ ’20803/
26
「一本の電話に、月刊グローブ編集部は騒然となった。男女5人を凄絶なリンチの果てに殺し
た罪で起訴された下田健太。その母である下田茂子が独占取材に応じるというのだ。茂子は
稀代の殺人鬼として死刑になったフジコの育ての親でもあった。茂子のもとに向かう取材者た
ちを待ち受けていたものは……。50万部突破のベストセラー「殺人鬼フジコの衝動」を超える
衝撃と戦慄のラストシーン!」
 九州の連続監禁殺人事件はこれほど作家の脅威を掻き立てるものなのか。誉田哲也の「ケ
モノの城」のほうが事件に迫っていた。




30.「ハーメルンの誘拐魔 刑事犬養隼人」(2016.1)中山七里 (中古) ★★ ’20/03/23
「記憶障害を患った15歳の少女、月島香苗が町中で忽然と姿を消した。現場には「ハーメル
ンの笛吹き男」の絵葉書が残されていた。その後少女を狙った誘拐事件が連続して発生。被
害者は、子宮頸がんワクチンの副反応による障害を負ったものと、ワクチン推進派の医師の
娘だった。そんな中「笛吹き男」から計70億の身代金の要求が警察に届く。少女の命と警察
の威信をかけ、孤高の刑事がたどり着いた真実とは――。」
 どんでん返しが得意の中山七里だが、思ったほどびっくりしなかった。笛吹き男の正体も予
想がついてしまい、今回は★二つ。だが、これがシリーズ第三弾というから、前のも読んでみた
くはなった。




29.「高校入試」(2013.6)湊かなえ (中古) ★★ ’20/03/19
「県下有数の効率進学高校橘第一高校の入試前日。新任教師・春山杏子は教室の黒板に
「入試をぶっつぶす!」と書かれた張り紙を見つける。迎えた入試当日。試験内容が次々と。
実況中継されていく。遅れる学校側の対応、保護者からの球団、受験生たちの疑心。杏子た
ち教員が事件解明のため奔走するが……。誰が嘘をついているのか?入試にかかわる全員
が容疑者?人間の本性を抉り出した、湊ミステリの真骨頂!」
 ネタバレ。春山杏子の目的が理解できなかった。だからどうしたというんだ、ともう一歩踏み
込んだ具体的なぶっ潰し方でないとわかりにくい。容疑者だけがやたら多いので誰が誰やら。



28.「ベルリン飛行指令」(1988.10)佐々木譲 (中古) ★★ ’20/03/17
「1940年、欧州戦線で英国スピットファイアに苦汁をなめていたドイツ空軍は極秘情報を入手
した。日本で画期的な戦闘機が開発されたというのだ。驚異的な航続距離を誇る新戦闘機そ
の名は”タイプ・ゼロ”。三国同盟を盾に取り日本に機体移送を求めるドイツ。日本海軍の札付
きパイロット安藤・乾の二人に極秘指令が下った。張り巡らされた包囲網の下、零戦ははるか
ベルリンの灯りを目指す!」
 ドイツにあるはずのないゼロ戦が写真に写ってたからって別に不思議にも思わない。何らか
の手段で運んだんでしょーよ。記録?そりゃないでしょーよ。と矛盾はあるものの、ゼロ戦を世
界各地を経由しながら飛ばしていく行程は、やはり緊張感があってよかった。ゼロ戦に興味は
ないんだけど、読んでいくうちに、頼む無事についてくれと祈らずにはおれないのは作者の筆
力。結果二つ星と、意外に面白い戦争ものだった。



27.「サイコセラピスト」(2019.9.15)アレックス・マイクリーディーズ 坂本あおい訳 (図)
★★★  ’20/03/11
「抑圧的な父のもとで育ち、苦しんだセオ。自分と似た境遇の人々を救いたいと願う彼は心理
療法士になった。順調にキャリアを重ねるうち彼はずっと気になってた6年前の殺人事件の犯
人――夫を射殺した画家――を収容する施設の求人広告を目にする。事件以降ずっと沈黙し
ている彼女の口を開かせるのは、僕しかいない。そう思ったセオは彼女の担当に志願するが
……巧なプロットと旋律のラストに圧倒される傑作ミステリ」
 確かに演出の勝利。ラストでのどんでん返しが大好物なので、ちょっとだるい前半も耐えて読
めた。それも演出のうちなのかもしれない。



26.「黄泥街」(2018.10.25)残雪 近藤直子訳 (図) ★ ’20/0.3/07
「ゆうべ王九ばあさんの豚が三匹、一斉に柵を超えて郊外に逃げて行った」「Sのごみの山から
金の延べ棒を掘り出したって?」「きのう首のない男が黄泥街にやってきた。市内で打ち首に
なったんだそうだ。真夜中には散髪屋が通りを歩いていたが手に生首をぶら下げてたぞ。針
金で巻いてな」
 このかみ合わない会話。現実をは思えない黄泥街の描写。何を読んでいるのかわからない
不条理ワールド。でも慣れてくるとこの不条理なわけわからん文章が面白くなってくる。ストーリ
ーなどないに等しい。何も考えず読めるから楽なのかもしれない。



25.「獏の耳たぶ」(2017.4.20)芦沢央 (図) ★★★ ’20/03/07
 石田繭子は出産前後の情緒不安定から出産したばかりのわが子と隣のベッドで同じ日に生
まれた新生児の名前のタグを取り換えてしまう。その日以来繭子以外は真実を知らぬまま、自
分の子として育てていくことになる。それから4年後、あらぬ疑いでDNA検査をしたことからつい
に申請時の時に入れ替わった事実が明るみに出た。4歳の子供をお互い入れ替えようとする
も平田郁恵は息子璃久を手放せない思いでいた。
なんの予備知識もなく読み始めたので、私は何で他人の育児日記を読まされているのかと思
ったが、読み進めていくうちに本当にそんな子供がいるのではないかというリアリティさがわい
てきた。著者の筆力であろう。ラストはちょっと後味悪いけども、あれでよかったと思う。



24.「壁画修復師」(1999.7.20)藤田宜永 (図) ★★★ ’20/03/06
「教会の壁画を覆う漆喰を慎重に剥がしてゆく。手にしたメスが動くたびに白い断片が宙に舞う
…。フランスの田舎町に滞在しつつ中世フレスコ画の修復に打ち込む日本人。そのそばを行
き過ぎる男たち、女たち。人生の哀歓にさえを見せる気鋭・藤田の連作短編集」
 田舎町ばかりであるがチリは詳しく書いてあるということは取材旅行に行ったのだろうか。海
外で仕事する人間は酒に強くないとやっていけないようだ。壁画修復師というのを学生時代に
知っていたら何が何でも芸大行ってなりたかった。



23.「名作なんか、こわくない」(2017.12.27)柚木麻子 (図) ★★ ’20/03/02
 仏・日・英・米の古典文学の解説というか感想文。古典が苦手な私にはありがたい。だが、古
典好きな著者の気持ちはわからない。古典は文体が読みにくいのでなかなか読み進められな
いのだが、最近古いものは再邦訳されているものもある。だが、日本文学は現代語に邦訳
(?)してはくれないので解説はありがたい。でも解説読んで、じゃあ読んでみようか、とはなら
ない。粗筋だけで腹いっぱい。やっぱり現代モノをせっせと読もう。
「女の一生」「ボヴァリー夫人」「マノン・レスコー」「二十四の瞳」「ジェイン・エア」「大いなる遺産」
「ダロウェイ夫人」「日の名残り」「キャロル」「怒りの葡萄」「郵便配達は二度ベルを鳴らす」など
など盛りだくさんであった。




22.「今だけのあの子」(2014.7.31)芦沢央 (図) ★★★ ’20/02/28
「届かない招待状」「帰らない理由」「答えない子ども」「願わない少女」「正しくない言葉」
文体が真梨幸子に似ているがイヤミスじゃない。どれも最期はハッピーエンド。そもそもちょっ
とした行き違いでもつれてしまった糸がするっと一本に戻るような軽いミステリ。でもそういうほ
うが読後感はいいけど、記憶に残らないんだよなぁ。この5作覚えているだろうか。「許されよう
とはおもいません」のほうがイヤミス短編集で覚えているかも。



21.「いきぢごく」(2019.3.18)宇佐美まこと (図) ★★ ’20/02/25
「友人と旅行代理店を経営している42歳の鞠子は11歳も年下の男と付き合っているが結婚
する気はない。そんな鞠子が亡くなった父から相続することになった元遍路宿の古民家を訪
れ、その家で古い遍路日記を見つける。四国遍路で果てる覚悟の女遍路が戦前に書いたと思
われるたびの記録。彼女は何故絶望し、自分を痛めつけるような遍路旅を続けたのか。女の
生と性に揺れる鞠子はこの遍路日記にのめりこんでいく――」
 先が気になって一気読み。ラストの修羅場がすごかった。でも救いのない話。特に妹と父と夫
に尽くしていた姉が妹と夫に裏切られるなんてかわいそうだったなぁ。



20.「ドキュメント死刑囚」(2015.12.10)篠田博之 (図) ★★ ’20/02/23
「幼女連続殺害事件の宮崎勤、奈良県女児殺害事件の小林薫、附属池田小事件の宅間守、
土浦無差別殺傷事件の金川真大……など、残忍で強烈な事件を起こした死刑囚たちは、謝
罪を一切口にせず、社会を挑発し、世の中を呪いながら刑場の露と消えた。彼らは処刑まで
に何を語ったか。そもそもこれほど卑劣な犯行にいたった背景に何があるか。極刑に処せば、
それで終わりではない」
自分で死にきれないから人を殺して死刑になる。厄介な動機だ。どうしてヤクザの組事務所に
殴り込みに行かないのか。即殺してくれるだろうに。



19.「ハーメルンの笛吹き男 伝説とその世界」(1974.10.28)阿部勤也 (図) ★★★ ’20/02/
20
「ハーメルンの笛吹き男」の伝説にかなり肉迫したといえよう。@1284.6.26ハーメルンの村
から130人の子供が消えたことは事実だが詳細は不明。Aヨーロッパ各地にネズミ捕り男の
伝説があり後に@とAがくっついて現在に伝わる伝説となった。@に関しては宗教儀式に興奮
した子供たちが行列をなして行進した。行った先は底なし沼で帰ってこれなかった。@に関して
は後にかなりの研究者が挑んでいるがどれも決定打に欠ける。底なし沼説はチ地理から考え
られた(当時の)新説。この本が70年代に出版され、98年までに25刷を重ねているということ
に人々の興味深さがうかがえる。



18.「三匹の子豚」(2019.8.27)真梨幸子 (図) ★★★ ’20/02/13
「「三匹の子豚」の朝ドラ化により、再び脚光を浴びることになった脚本家の斉川亜樹。母親が
うわごとのように「誰か、あたしの人生以を”朝ドラ”にしてくれないかしら」と言っていたことを思
い出し、それは母親ひいては祖母からつながる呪縛だった、と思い至る。
 そんなある日、彼女のもとに役所から郵便が届く。亜樹の叔母だという赤松三代子の扶養義
務についてだった。そんな人物は聞いたこともない……。人生の絶頂にいると思っていた亜樹
の目の前に不吉な黒い点が広がっていく」
 なかなか奥の深いイヤミスで結構結構。久しぶりに完璧なイヤミスで満足。



17.「黄」(2019.7.25)雷鈞 稲村文吾訳 (図) ★★ ’20/02/11
「中国の孤児院で育ち、富裕なドイツ人夫婦の養子となった盲目の青年、阿大ことベンヤミン。
中国で6歳の少年が木の枝で両目をくりぬかれる凄惨な”男児眼球摘出事件”が発生。ベンヤ
ミンは被害者の少年を力づけ、同時に事件の真相を暴くべく、お目付け役のインターポール捜
査員・温幼蝶とともに、中華文明発祥の地・黄土高原へ旅立った―」
 第4回島田荘司推理小説賞受賞。アホな私には作中作あたりからわけがわからなくなった。
そもそもドイツ人が謎を解きに行く理由から納得がいかんし、インターポール捜査員なんている
のか??だらけになった。




16.「超現代語訳戦国時代 笑って泣いてドラマチックに学ぶ」(2016.9)房野史典 (電子) ★
★ ’20/02/06
既に知っていることから大河の影響で知られるようになった真田幸村のことまで色々。
真田三代にかなりページをさいており、伊達とか上杉とかすっとばされていたりする。もっと詳し
いところまでこのトーンで言ってくれてもいい気がするがページの都合ってものがあるのでしょ
う。戦国時代に限ってあるし。会話の部分は面白くしているけど実際こんなもんだったのかも。
そんな笑えるわけではないけど超現代語訳なのであっという間に読める。




15.「中国なんて二度と行くかボケ!……でもまた行きたいかも」(2013.7)さくら剛 (電子) ★
★ ’20/02/04
 面白いんだけども文章がちょっとふざけすぎ。今もって中国ってこんなに汚いのか。コロナ流
行って当然だわ。衛生観念がとにかく違う。私が著者なら発狂してるレベル。著者以外の外国
人の反応はどうなのか聞いてみたい気もするが……イスラエルの女性のように高くてもいいホ
テルにしているんだろうか。
 この本のシリーズにアフリカやインドがあるのだが、旅の内容は面白そうでも、このふざけす
ぎた文章が、また読みたいという気持ちを消してしまう。




14.「探偵AIのリアル・ディープラーニング」(2018.6.1)早坂吝 (中古) ★★ ’20/02/02
「人工知能の研究者だった父が、密室で謎の死を遂げた。「探偵」と「犯人」、双子のAIを遺し
て―。高校生の息子・輔は探偵のAI・相以とともに父を殺した真犯人を追う過程で、犯人のAI
以相を奪い、悪用するテロリスト集団「オクタコア」の陰謀を知る。次々と襲い掛かる難事件、
母の死の真相、そして以相の目的とは?!大胆な奇想と緻密なロジックが発火する新感覚推
理バトル」
AI探偵というところからしてマンガくさい。本格とは思えなかった。



13.「知能犯之罠」(2019.5)紫金陳 阿井幸作訳 (図) ★★★ ’20/01/29
「十五人の局長を殺し、足りなければ課長も殺す」―殺された公安局副局長の死体の傍らに
は、そんな”予告状”が残されていた。操作が進むにつれて指揮官の高棟は、警察の人海戦
術の弱点や科学捜査の限界を熟知した犯人の計画に慄然とする。そして予告通りに起こる、
第二、第三の殺人。捜査を立て直すべく、高棟は、学生時代の旧友で、数理論理学の天才と
呼ばれた徐策に協力を乞う。だが高棟は知らなかった。徐策こそが、一連の事件の犯人であ
ることを。そして高棟は、現代中国社会そのものをあざ笑うような恐るべき「殺人トリック」に直
面することになる……。官僚殺人事件をリアルかつスリリングに描く、「官僚謀殺シリーズ第一
弾!」
 完璧な倒叙ミステリー。トリックには全くスキがなく完璧で中国のミステリここまで来たか!と
驚かされる。ひとつおこぼれにあずかりたいが私の実力じゃまだ無理か。それはおいといて、
あとがきに中国ミステリ事情もあって楽しかった。とにかく読んでいくうちに忘れていた小さな伏
線も見事に回収してあって完璧さに舌を巻いたが、これが「このミス」にのぼらんのはどういうこ
とか?!私はどこでこれを拾ってきたのだろうか……?今後の作品も期待大の作家だ。



12.「翻訳のおきて」(1993.3.27)河野一郎 (中古) ★★ ’20/01/25
 なかなかに難しい。でも簡単な文章は英語でもわかった。ただし難しい文のほうが断然多
い。参考になったのは簡単な単語ほど疑って辞書をひくということ。意外な意味が隠れている。
日本語に訳して少しでも意味がおかしいと思えば必ず辞書をひいて調べること、と。著者はな
ぜかノルウェーに留学していたことがあるとか。
 タイトル通り「おきて」として守っていかねばならないかどうかはやはり読み手による。特に原
文に忠実に、といっても日本語になんでも言い換えていいものではないと。でも原文だと意味
が分からなったらどうするんだろう?



11.「不穏な眠り」(2019.12.20)若竹七海 (電子)★★★ ’20./01/23
電子書籍はあらすじを裏表紙から取ってこれないから不便だ。今回もイヤミスたっぷりで葉村
晶の探偵ぶりはお見事だった。本人のユーモラスな語り口でおかしなことになっているが、今
回も池に落ちたりスタンガン当てられたり、重いもの持ち運びさせられたり、40代半ばを過ぎて
いるというのにえらい目にあっている。次回作だと50近くになっているだろうが、また彼女の探
偵物語を読みたい。
 ちなみにドラマ化されているが、全くイメージが違ううえに原作も脚色されていて気に入らな
い。シシド・カフカは違ううだろー!



10.「インフェルノ」(下)(2013.11)ダン・ブラウン 越前敏弥訳 (図) ★★ ’20/01/21
「人類の未来を永久に変えてしまう、恐るべきゾブリストの野望―。破壊的な「何か」は既に世
界のどこかに仕掛けられた。WHO事務局長シンスキーと合流したラングドンは目に見えぬ敵
を追ってサンマルコ大聖堂からイスタンブールへと飛ぶ。しかし輸送機の中でラングドンに告げ
られたのは、驚愕の事実だった!ダンテの「地獄篇」に込められた暗号を解読し、世界を破滅
から救え!怒涛のクライマックス!」
確かにフィレンツエ、ヴェネチア、イスタンブールを疾走するのは面白いけども結末があれ?な
感じ。いいのかそれで、と思う終わり方だった。



9.「インフェルノ」(中)(2013.3)ダン・ブラウン 越前敏弥訳 (図)★★ ’20/01/20
「医師シエナとともにヴェッキオ宮殿に向かったラングドン教授は、ダンテのデスマスクを盗み
出す不審人物の監視カメラを見て驚愕する。一方、デスマスクの所有者で大富豪のゾブリスト
は壮大な野望の持ち主だった。彼は「人類は滅亡の危機に瀕している」と主張し、人口問題の
過激な解決案を繰り広げ、WHO(世界保健機構)と対立していた。デスマスクに仕込まれた暗
号には、恐ろしい野望が隠されていた―」
 フィレンツェからヴェネチアへ。だんだんと面白くなってきたのと懐かしさを覚える。



8.「インフェルノ」(上)(2013.11)ダン・ブラウン 越前敏弥訳 (図) ★★ ’20/01/17
「地獄(インフェルノ)」。そこは”影”―生と死のはざまにとらわれた肉体なき魂―が集まる世
界。目覚めたラングドン教授は、自分がフィレンツェの病院の一室にいることを知り、愕然とし
た。ここ数日の記憶がない。動揺するラングドン、そこに何者かによる銃撃が。誰かが自分を
殺そうといている?医師シエナ・ブルックスの手を借り、病院から逃げ出したラングドンは、ダン
テの「神曲」の「地獄篇」に事件の手がかりがあると気づくが―」
 またキリスト教である。でもフィレンツェの町をまたたどっているみたいでそこは楽しく読めた。
ヴェッキオ宮殿には入れたのか。



7.「ロスト・シンボル」(2010.3)ダン・ブラウン 越前敏弥訳 (図)★★ ’20/01/14
「国家の安全保障のため拉致犯の要求に従うよう、CIA保安局局長サトウに迫られたラングド
ンは、暗号に導かれ、連邦議会議事堂の地下室へと赴く。伝説のピラミッドの存在を目の当た
りにし刻限ギリギリに隠された暗号を見抜いたキャサリンとラングドンだが、その身には拉致犯
マラークの魔の手が迫っていた!絶体絶命の危機の中、建国以来護られてきた「人類最大の
至宝」が今明らかになる」
 後半はもう宗教学のようで興味なく飛ばし読み。フリーメイソンの持つ秘密にも今一つ興味持
てなかった。



6.「ロスト・シンボル」(中)(2013.3)ダン・ブラウン 越前敏弥訳 (図) ★★ ’20/01/12
「フリーメイソンの最高位、ピーター・ソロモンを人質に取ったマラークと名乗る謎の男は、”古
の神秘”に至る門を解き放てとラングドンに命じた。一方ピーターの妹キャサリンは研究所に侵
入した暴漢に襲われる。ソロモンの家の血塗られた過去、代々受け継がれた石のお守りの秘
密。ピーターを救うには暗号を解読するしかない。アメリカ建国の祖が首都ワシントンDCにち
りばめた象徴にラングドンが立ち向かう」
古の門。秘密がまだ抽象的でスピードも落ちる。中だるみ。



5.「ロスト・シンボル」(上)(2010.3)ダン・ブラウン 越前敏弥訳 (図) ★★ ’20/01/12
「世界最大の秘密結社、フリーメイソン。その最高位である歴史学者のピーター・ソロモンに代
理で基調講演を頼まれたラングドンはワシントンDCへ向かう。しかし会場であるはずの連邦議
会議事堂の「ロタンダ」でラングドンを待ち受けていたのは、ピーターの切断された右手首だっ
た!そこには第一の暗号が。ピーターからある物を託されたラングドンは、CIA保安局局長か
ら、国家の安全保障にかかわる暗号解読を依頼されるが」
 翻訳者目当てで読み始めた。さすがのスピード感で1日で一冊読めた。



4.「翻訳百景」(2016.2.10)越前敏弥 (中古) ★★★ ’20/01/10
「ダ・ヴィンチ・コード」などの翻訳者が語る翻訳の舞台裏。翻訳の世界に入る前から語学漬で
読めない文はなかったが、翻訳学校ではそれでもかなり苦労したという。これほどの人でも四
苦八苦して翻訳書を出しているのだから、素人なんかできるわけがないとしり込みしてしまう
が、ここまできたらせっかくのノウハウを使ってできるとこまで進むしかない。勉強の仕方や検
索エンジンなど役立つ情報もあった。ダン・ブラウン読んでみようかなという気になった。




3.「許されようとは思いません」(2016.6.20)芦沢央 (図) ★★ ’20/01/07
「許されようとは思いません」「目撃者はいなかった」「ありがとう、ばあば」「姉のように」「絵の
中の男」5編からなる短編集。いずれもイヤミスでした。



2.「中国人のこころ 「ことば」からみる思考と感覚」(2018.12.19)小野秀樹 (図)★★’20/01/
05
 最初はあいさつに始まり…この辺りはあまり面白くなかった。中国人に知り合いのいない私
にはあいさつが「ニーハオ」であろうとなかろうと、週一回のレッスンで老師に「ニーハオ」で十
分である。
 と、さして興味もわかなかったのだが、中盤になってきて、「中国人は外見重視、日本人は内
面重視」という違いが面白かった。
 とにかく中国は可視化にこだわる。見てわかるものにこだわり、逆に見えないもの(日本人の
気遣いなど)には頓着ない。これは旅行先でもよく感じたことである。中国人は自分本位とか自
己中とかいわれるが、自分で判断できるものをそうしているだけなのだ。逆に日本人は他力本
願、他力依存。店員に質問一つしても「確認してまいります」とマニュアルを見に行く。中国人な
ら自分にまかされているテリトリーは自分で決める。それで客から「何故なんだ」と文句言われ
ても、「きまりだから」とにべもない。ここが非常に中国らしい中国人である。
 こういう態度においてはいろんな研究者が自説を展開させているのでこれくらいにしておく
が、最近、中国も依然のステレオタイプの中国人ではなくなっている。中国人の先生を見てい
ても確かにそう思う。これから中国人がどうかわり、日本人にどう影響を及ぼしてくれるのか楽
しみだな、と思う一面もある。




1.「金時計」(2019.5)ポール・アルテ 平岡敦訳 (図) ★★ ’20/01./04
 なぜかオーウェン・バーンズの物語と並行して’91年の物語が語られる。いつその二つの物
語が一つになるのかと、期待しつつ読み進めるも…結局交わらない。
 雪の足跡トリックはわかったけど、前作「あやかしの…」に比べるとだいぶ落ちる。あと5作あ
るらしいけど、どうも出来不出来に差があるようだから、やはり「このミス」の評価を待って読も
う。
 去年末から読み始めて、今年読了一冊目がこれとは…あまり幸先よくないというか…。まぁ
次に期待ですね。


2020年令和2年スタート!


2019年読書
この一年でよかった本はちょっと選びきれないけれど、人生において、読んでよかったという本
を一応列挙しておきます。
「エンジエlルフライト〜国際霊柩送還士」佐々敦子
「困っている人」 大野更紗
「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」米原万里
「更年期少女」真梨幸子
今年はこれらを超える本には出合えませんでした。来年はどんな本と出合えるでしょう。
今年は120冊でしたが、あまり冊数にこだわってはいません。なんせ内容を覚えていないような
のは時間の無駄ですからね。来年はそこのところをよーく精査して本を手にしていきたいな、と
思います。


120.「ネット狂詩曲」(2018.8.17)劉震雲 水野衛子訳 (図) ★★ ’19/12/30
「ここ数年中国のネットを騒がせた事件をまとめて、実はすべて一人の人物につながっていた
とする小説である。旅先でコールガールになった女性、手抜き工事で崩落した橋の責任者、元
省庁夫人、美人局をする自警団などなど……。住む場所も身分も貧富もまったく違う見ず知ら
ずの四人の男女が描く悲喜劇。彼らが織りなす荒唐無稽な阿鼻叫喚は野次馬にとってはこの
上ない楽しみとなる。」
反腐敗小説というよりもあたふたする人々をユーモラスに描いた物語。中国物で初めて面白い
と思ったかも。この作家の別の小説も読んでみたくなった。映画化されてるそうだけど、そっち
は入ってこないだろうなぁ。



119.「こうして誰もいなくなった」(2019.3.11)有栖川有栖 (図) ★★ ’19/12/26
 短編集とタイトル中編1作。短編のほうがむしろ面白かった。表題作はアガサ・クリスティーと
同じ趣向。特に面白いともトリックに驚くこともなかった。むしろこの設定いる?というツッコミど
ころが……。最近さえない有栖氏だった。



118.「女たちの避難所」(2014.12)垣谷美雨 (図) ★★★ ’19/12/23
「九死に一生を得た福子は津波から助けた少年と、乳飲み子を抱えた遠乃は舅や義兄と、息
子とはぐれたシングルマザーの渚は一人、避難所へ向かった。だがそこは、”絆”を盾に段ボ
ールの仕切りも使わせない監視社会。男尊女卑がはびこり、美しい遠乃は好奇の目の中、授
乳もままならなかった。やがてしいたげられた女たちは静かに怒り、立ち上がる。憤りで読む
手が止まらぬ衝撃の震災小説」
横面を張り倒されたくらいの衝撃、とはこのことか。避難所がこんなに危険な場所になるなん
て。災害にあった直後は心強いかもしれないが、長期ともなるとストレスがたまってくる。福子
の夫みたいな夫を持たなくてよかったという安ど感と、何不自由ない生活に感謝する。ノンフィ
クションかと思えるほど真に迫ってくる描写は取材のたまものか。確かに一気読み必至であっ
た。



117.「死者の国」(2019.6.10)ジャン=クリストフ・グランジェ高野優監訳・伊禮規与美訳(図)
★★ ’19/12/22
「パリの路地裏で、両頬を耳まで切り裂かれ、のどには石を詰められたストリッパーの死体が
発見される。パリ警視庁警視のコルソはこの猟奇殺人の捜査を進めるが、ほどなく第二の犠
牲者が出てしまう。被害者二人の共通点は残忍な殺され方、同じ劇場で働いていたこと、そし
て元服役囚の画家ソビエスキと交際していたこと。この画家を容疑者と考え、追い詰めるコル
ソを待ち受けるのは、名画をめぐる血塗られた世界と想像を絶する真相だった……!」
 まず長い。ポケミス最高の分厚さにおったまげ。これは最期まで読めないで途中で放り出す
かもと思ったら、あにはからんや、話の展開が早く、次々とページがめくられていき、最期765P
まで飽きることがなかった。ミステリとしてはちょっとやはり動機がなぁというのとこの動機、映
画「スイッチ」で見たぞ…と思ったらやっぱり作者が映画のプロデュースを手掛けたとあった。
 ここからネタバレします。クローディアが真犯人だが復讐の仕方が今一つ。犠牲者やソビエス
キに訳を話したのだろうか。全員が異母兄弟というのはやはりソビエスキが悪いんであって犠
牲者は悪くないんじゃないか。とにかく読み終えてほっとした。この本を読み終えた人とは達成
感を共有できると思う。



116.「拳銃使いの娘」(2019.1.15)ジョーダン・ハーパー鈴木恵訳 (図) ★★ ’19/12/16
「11歳のポリーの前に刑務所帰りの父親ネイトが突然現れた。獄中でギャング組織を敵に回
したネイトは自分の妻子ともどもの処刑命令が出たのを知り、家族を救うため駆け付けたの
だ。だが時すでに遅く、ポリーの母親は殺されてしまっていた。やむをえずネイトは娘を連れて
逃亡の旅に出る。犯罪と暴力に満ちた危険な旅だ。だがその中で少女は徐々に生き延びる術
を身に着けていく……」
 ポリーの成長が著しい。クマのぬいぐるみを相棒に次々染まりくる恐怖と戦い、時には父を
超える技量を見せる。アメリカンバイオレンスの中での少女の成長物語。



115.「Blue」(2019.4.30)葉真中顕 (図) ★★ ’19/12/15
 平成30年間の文化・風俗を俯瞰しながら児童虐待、子供の貧困、無戸籍児、モンスターペ
アレント、外国人の低賃金労働、格差社会の闇をテーマとしている。
 しかしブルーの母・夏希は親はちゃんとしていたし金を無心するのも自分が稼がないからでこ
いつが諸悪の根源のような気がする。アズミのように親がろくでもないので手っ取り早く自立し
たのは方法はどうあれ立派だと思う。



114.「テミスの剣」(2014.10)中山七里 (中古)(再読?)★★ ’19/12/13
これも再読だろうか?さっぱり覚えていない。おかげで楽しめた。
 主人公渡瀬刑事の捜査するところ必ずアタリがあるというのがちょっと都合よすぎる気もする
が。そして検事が女欲しさに不正するだろうか。いくら女優とはいえ、そんなに女に飢え、ラブ
ホなんて安いところを選ぶだろうか。最期の黒幕がどんでん返しがちょっと弱いような気がし
た。解説は谷原章介というのにも驚いた。全く覚えていないからだ。



113.「本と鍵の季節」(218/12/20)米澤穂信 (図) ★★★ ’19/12/08
「図書室に持ち込まれる謎に、男子高校生二人が挑む全6篇」
 二人組といえばド定番ホームズとワトソンだが、この二人は違う。二人ともホームズでお互い
触発しあってさらに謎解きがうまくいくというよくできたコンビだ。人が死なないミステリだが、問
題は小さくまとまっておらず(犯罪スレスレ)軽くはないので解決した後は実に爽快なのである。
松倉詩門と堀川次郎の物語は続編があるかもしれない。
 今時の図書館事情もわかる。もう貸出カードなんかの時代じゃないんだなぁ。なんでもPCで
管理か。ふと自分の高校時代を思い出して寂しくなる。



112.「少女」(2009.1)湊かなえ (中古) ★★ ’19/12/4
再読…じゃないかもしれない…と思うくらい全く覚えていなかった。そこそこ面白かったのに1シ
ーンも覚えていないのだ。ま、いいか。
 タイトルからしてもっと少女というものを神秘的に描いているのかと思ったら、俗っぽかった。
学校ウラサイトだの援交だの。因果応報的に全く関係ないと思っていたら最期はあちこちつな
がって、そんなに世の中狭いかなぁと、ご都合主義に感じた。ましてやネットという環境でそん
な近場で事件起こるかな。
 少女二人が交互に語るのでどっちがどっちやちょっとこんがらがって、何度か読み返すところ
もあった。最後はオチがついているものの、あまり衝撃的なものでもなかった。そこはもっと大
仰にできたのではないかな…ということで★ひとつ減。
 全く覚えていなかったので二度おいしかったのだが、一度目を覚えていなくてもこう言えるの
だろうか…?



111.「ガセネッタ&シモネッタ」米原万里 (再読) ★★★ ’19/12/2
「二兎追ってもよい」という言葉に元気をもらった。



110.「米原万里ベストエッセイ1」米原万里 (再読)★★★ ’19/11/30
55のベストエッセイ。今まで気が付かなかったけど、{1}とあるからには続巻があるはず。探し
てみよう。
どれも面白いのだが、特に「トルコ蜜飴の版図」と「バグダッドの靴磨き」が秀逸である。



109.「目からハム」田丸久美子 (再読)★★★ ’19/11/28
タイトルは「目から鱗」のことをイタリア語ではこう言うらしい。外国語学習者ことにイタリア語を
学んでいる人にはもっと爆笑できるであろう。



108.「シモネッタのアマルコルド」田丸久美子 (再読)★★★ ’19/11/27
何度読んでも爆笑もんである。



107.「殺人鬼がもう一人」若竹七海 ★★★
持っている本を再読していこう。覚えてないのもいっぱいあるから。
で、これが最後に一度目読んだときには気づかなかったことがわかって、確かにタイトリどおり
なのだなぁとぞっとした。一度目でわからなかった私がばかなのだが、一度目は面白い部分に
ばかり目がいって、怖いところはスルーしていたのだな。自分的には二度おいしかったから再
読して良かったです。




106.「古事記の真実」(2008.8.15)長部日出雄 (図) ★ ’19/11/16
「古事記」とはいまだすべてが解明されてない日本史が書いてある書物であり、学者の研究対
象である。この本を読むにあたっては「古事記」の内容を把握しておかねば理解するのは難し
い。結局何が「真実」なのかわからなかった…。



105.「未必のマクベス」(2014..7)早瀬耕 (図) ★★ ’19/11/13
「IT企業Jプロトコルの中井優一は東南アジアを中心にICカードの販売に携わっていた。同僚
の伴浩輔とともにバンコクでの商談を成功させた優一は、帰国の途上で、マカオの娼婦から予
言めいた言葉を告げられる――「あなたは王として旅を続けなければならない」。やがて香港
の子会社の代表取締役として出向を命じられた優一だったが、そこには底知れぬ陥穽が待ち
受けていた。異色の犯罪小説にして痛切なる恋愛小説」
 香港を中心にアジアを飛び回る主人公をうらやましく思っていたが、最期はやっぱ嫌だな、
と。急に人殺したりとか展開が急でついていけん。



104.「最初の悪い男」(2018.8.25)ミランダ・ジュライ 岸本佐知子訳 (図) ★’19/11/9
 途中から何を読んでるのかわからなくなり、後半飛ばし読み。主人公の脳みそは相当ぶっと
んでいる。よくこれを翻訳したものだと思う。そもそもなんでこれを読もうと思ったのかわからな
い。



103.「インシデント 悪女たちのメス」(2011.11.15)秦建日子 (図) ★★ ’19/11/08
「女子高生のさやかは脳機能ips細胞再生術を用いた世界初の脳外科手術を受ける。執刀医
は、日本随一のオペ技術を持つ天才女医・桧山冬実。しかし誰もが手術の成功を確信する
中、悲劇は起きた。それは医療事故だったのか。それとも罠なのか。現代医療の矛盾に迫る
緊迫の医療ミステリー」
 医療コーディネーターって本当にある職なのか。本当にあるとして人を殺そうとするだろうか。
女子高生はそんなにあっさり自殺しちゃえるもんだろうか。ミスリードはうまいが、最後の種明
かしが納得できなかった。



101.「スットコランド日記」
102.「スットコランド日記 深煎り」(2010.8.5)宮田珠己 (図) ★ ’19/11/5
 猛烈に後悔&反省している。
 なぜか「スコットランド滞在記」それも若い女性がスコットランドに移住した話と思い込んで借り
てしまった。
 実際は東京某所をスットコランドと呼ぶ40過ぎの妻子持ちのおっさんである。
 仕方ないので読み始めたが、興味ない人間の日記を読むのは苦痛である。本業は旅行エッ
セイストというらしい。金がないといいながらドカドカ本を買い、あちこち旅行にでかける。いいご
身分。プラス文章がどうにも椎名誠っぽくて新鮮味もない。大外れであった。紛らわしいタイト
ルつけるなよ!




100.「一寸先は光」(2011.8.25)谷口桂子 (図) ★★ ’19/10/31
 浜野ミサキ(39)は友人・喜久枝が営む遺品整理業社の社員見習い。ある日仕事で訪れた
部屋に違和感を覚えた。部屋の持ち主だったのは矢沢麻里子(49)。孤独死だった。高価そう
な遺品と汚れた部屋。電話の子機は外れていた。ミサキは矢沢真理子の友人知人をあたり生
前の麻里子の足跡をたどりだした。
 ミステリというには謎でもないし純文学というほど重くはない。軽い文体で内容も薄く、1日で
読めた。自分もこうなるのかと思うと気が重くなった。記念すべき100冊目がこれか…残念。



99.「トラウマ文学館」(2019.2.10)頭木弘樹編(図) ★ ’19/10/30
「誰しも、子供のころなどに読んで、トラウマのようになってしまっている物語があるもの。タイト
ルも作者もわすれてしまっても、物語の肝心なところは、忘れようにも忘れられない。そしてもし
かすると、それを読んだことが、今の自分に大きく影響しているかもしれない。そんな物語ばか
りを集めている文学館。ここを訪れてしまったら、出てくるときには、もう前と同じ自分ではいら
れない…」
どれも過大評価のような。イヤミスのほうがずっとトラウマになりそう。何を基準に選んだのや
ら。因みに自分のトラウマ文学は「風と木の詩」。有名な漫画のアレですが。今でこそBLって普
通だけど、当時は衝撃的なものでした。で、BLに驚いたんではなく、登場人物のだれかが嘔吐
物をのどに詰まらせ窒息死するんですな。以来わたしは嘔吐恐怖症になりました。本当の話。
今でも嘔吐できません。こういうのをトラウマ文学というんだろうなぁ。自分のルーツをたどれば
もっとありそうな気がするがあまり気分のいい作業ではないので、これ以上考えないものとす
る。



98.「地下道の少女」(201902025)アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム ヘレンハ
ルメ美穂訳 (図) ★★ ’19/10/23
 「強い寒波に震える真冬のストックホルム。バスに乗せられた外国人の子供43人が警察本
部付近で置き去りにされる事件が発生した。さらに病院の地下通路では、顔の肉を何か所か
えぐられた女性の死体が発見された。グレーンス警部たちはふたつの事件を追い始める。難
航する捜査の果てに、やがて浮かび上がる想像を絶する真実とは?地下道での生活を強いら
れる人々の悲劇を鮮烈に描く衝撃作。」
 グレーンス警部が好きになれなかった。グレーンスシリーズを読もうかどうしようか。でもミス
テリとしてはそんな面白いとも。二つの事件は解決したとは言えないし。イヤミスじゃないけど、
イヤミスのように後味が悪い。



97.「通過者」(2018.8.24)ジャン・クリストフ・グランジェ 吉田恒雄訳 (図)★★ ’19/10/20
 字が小さくて読みづらいうえに長い!解離性フーグって本当にある病気なんだろか。主人公
だけは一応わかるが、他は誰が誰だか。結局猟奇殺人は本人が起こしたものなのか。最後の
一言「まったくわからなくなってしまったよ」こっちのセリフだ。



96.「玄宗皇帝」(2019.5.20)塚本青史(図) ★★ ’19/10/14
ドラマ「麗王別姫」に出てきたので気になって読んでみたが、やはりドラマとはかなり違った。ド
ラマに安史の乱と出てきたのだが、実際のものとはかなり違っていた。楊国忠、楊貴妃、韓国
夫人などドラマでお馴染みの名前も出てきたけど、ドラマとは役割がかなり違う。則天武后がよ
く出てきたので則天武后の本も読んでみたくなった。



95「昏い部屋」(1999)ミネット・ウォルターズ 成川裕子訳 (中古) ★ ’19/10/4
「病因のベッドでジェインは目覚めた。謎の自動車事故から奇跡的に生還したものの、事故前
後数十日間の記憶を失った彼女。傷ついた心身をいやす間もなく、元婚約者と親友がその空
白期間に惨殺されていたこと、自分が容疑者であることを、ジェインは相次いで知らされる。誰
を、何を信用すればよいのか」
 長くてよくわからなくて振り回されっぱなし。半分以上きたらもう誰が犯人でもどうでもよくなっ
てきた。



94.「七つの会議」(2012.11)池井戸潤 (頂き物) ★★★ ’19/10/2
「きっかけはパワハラだった!トップセールスマンのエリート課長を社内委員会に訴えたのは
年上の部下だった。そして役員会が下した不可解な人事。いったい二人の間に何があったの
か。今、会社で何が起きているのか。自体の収拾を命じられた原島は、親会社と取引先を巻
き込んだ大掛かりな会社の秘密に迫る。ありふれた中堅メーカーを舞台に繰り広げられる迫
真の物語」
1居眠り八角 2ねじ六奮戦記 3コトブキ退社 4経理屋稼業 5社内政治家 6偽ライオン 7
御前会議 8最終議案 面白かったが半沢ほどではなかった。銀行以外知らないからこんなも
んか?と思ったが、3のコトブキ退社が一番面白かった。唯一の女性目線だったからか。ハッ
ピーエンドだし。あとは全てねじの強度偽装に収斂されていく。会社が最終的にどうなったかま
で知りたかったが。親会社の責任や列車・飛行機の部品はどうなったか。これもクライム・ノベ
ルになるとは。ミステリではないが。



93「銀翼のイカロス」(2014.7)池井戸潤 (頂き物) ★★★ ’19/9/29
「出向先から銀行に復帰した半沢直樹は、破綻寸前の巨大航空会社を担当することに。ところ
が政府主導の再建機関がつきつけてきたのは、なんと500億円もの借金の棒引き?!とても
飲めない無茶な話だが、なぜか銀行上層部も敵に回る。銀行内部の大きな闇に直面した半沢
の運命やいかに?」
 半沢はスカッとさせてくれるが、勧善懲悪がわかっているのでピンチが伏線にしか思えず、ち
ょっと物足りない。もっとハラハラさせてほしかった。いつも思うんだけど、銀行員にとってはわ
がことのように楽しめるが、それ以外の人が読んでも面白いのかなー?



92.「あやかしの裏通り」(2018.7)ポール・アルテ 平岡敦訳 (図)★★ ’19/9/26
 「ロンドンのどこかに、霧の中から不意に現れ、そしてまた忽然と消えてしまう「あやかしの裏
通り」があるという。そこでは時空がゆがみ、迷い込んだ者は過去や未来の幻影を目の当たり
にし、時にそのまま飲み込まれ、行方知れずになるーー単なるうわさ話ではない。その晩オー
ウェン・バーンズのもとに駆け込んできた旧友の外交官ラルフ・ティアニーは、まさにたった今、
自分は「あやかしの裏通り」から逃げ帰ってきたと主張したのだ!しかもラルフはそこで奇妙な
殺人を目撃したと言い……。謎が謎を呼ぶ怪事件に、名探偵委オーウェンが挑む!」
 トリックは完璧。しかし入れ替わり、なりすましだけは納得がいかない。スラヴ人が白人に?
化粧だけで人種を隠せるかなー?



91.「怪物の木こり」(2019.1.26)倉井眉介 (図) ★★ ’19/09/20
 「良心の呵責を覚えることなく、自分にとって邪魔な者たちを日常的に何人も殺してきたサイ
コパスの辣腕弁護士・二宮彰。ある日、彼が仕事を終えてマンションへ帰ってくると、突如「怪
物マスク」をかぶった男に襲撃され、斧で頭を割られかけた。九死に一生を得た二宮は、男を
探しだして復讐することを誓う。一方そのころ、頭部を開いて脳みそを持ちさる連続猟奇殺人
が世間をにぎわしていた。すべての発端は、26年前に起きた「静岡児童連続誘拐殺人事件」
に――。」
”脳内チップ”という架空の小道具が出てきてからSFにシフトした感じだった。サイコパスにそ
れこそ共感できず。このミス大賞にしてはパンチ力のない、あまり才能を感じられなかった。



90.「影の子」(2018.5.15)ディヴィッド・ヤング 北野寿美枝訳 (図) ★ ’19/09/19
 1975年2月、東ベルリン。東西を隔てる壁に接した墓地で少女の死体が発見された。現場
に呼び出された刑事警察の女性班長ミュラー中尉は衝撃を受ける。少女の顔面は破壊され、
歯も全て失われていたのだ。これでは身元の調べようがない。現場にいち早く国家保安省のイ
ェーガー中佐が来ており、やがて異例のことながら、事件の捜査がミュラーたちに命じられた。
その背後には何かが?暗中模索の捜査は知らぬうちに国家の闇に迫って行く。社会主義国
家での難事件を描き、CWA賞に輝いた歴史ミステリの傑作。



89.「その雪と血を」(2016.10.15)ジョー・ネスポ 鈴木恵訳(図) ★★ ’19/09/13
「オーラヴ・ヨハンセンは殺し屋だ。この数年間、麻薬業者のボスに命じられて殺人を引き受け
てきた。今回の仕事は、不貞を働いているらしいボスの妻を始末すること。いつものように引き
金を引くつもりだった。だが彼女の姿を見た瞬間、信じられないことが起こる。オーラヴは恋に
落ちてしまったのだ――葛藤する彼の銃口は誰に向かうのか。放たれた弾丸が首都の犯罪
組織を大きく揺るがす……。雪降りしきる70年代のノルウェーを舞台に、世界で累計著作28
00万部を突破した北欧ミステリの重鎮が描く血と愛の物語」



88.「1793」(2019.6.10)ニクラス・ダット・オ・ダーク ヘレンハルメ美穂訳 (図) ★★★ ’19
/09/11
「1793年秋。湖で発見された男の死体は四肢と両目、舌と歯を奪われた、美しい金髪だけが
残っていた。フランス革命から4年。前年に国王グスタフ3世が暗殺されたここスウェーデンに
も、その風は吹きつつあった。無意味な戦争、貧困や病にあえぐ民衆の不満と怒りはマグマの
ように煮えたぎり、王室と警察は反逆や暴動を恐れ疑心暗鬼となっていた。そんな中で見つか
った無惨な死体。警視庁から依頼を受けた法律家ヴィンゲは、風紀取締官カルデルと共に捜
査に乗り出す。重い結核に冒されたヴィンゲの捜査は時間との闘いでもあった。」
 グロイのが好きな人はお気にめすかも。私には文句なしに面白かった。



87.「砂漠の空から冷凍チキン」(2018.8.30)デレク・B・ミラー 加藤洋子訳 (図) ★ ’19/09
/06
 原題”The Girl In Green"ふざけた邦題と違って中はゴリゴリの戦争もの。
「奇跡だ。彼女を見ただろ?」ジャーナリストのベントンに元軍人のアーウッドが言う。二人の出
会いは湾岸戦争の戦場。あの時、目の前で射殺された少女と瓜二つの姿を戦禍を伝えるライ
ブ映像の中でみつけたのだ。一気に湧き上がる22年前の無念。今度こそ少女を救出する
ぞ!体力にかげりのあるベントン、胸に秘めごとがあるアーウッド。再び砂漠の地へと向かう
が……。二人はあっさりアルカイダに囚われの身となり、マルタ達が救出に向かう。結局緑の
少女はどうなったのか。途中ナナメ読みしたのでわからない。



86.「リハーサル」(2019.2.21)五十嵐貴久 (図) ★★ ’19/09/04
花山病院の副院長・大矢は簡単なオペでのミスを新任の看護婦リカに指摘され、”隠蔽”してし
まう。それ以来、リカの異様なつきまといに悩まされる。一方病院内では婦長の転落を始め、
陰惨な事故・事件が続発。そして、大矢の美しき婚約者・真由美が消えた。誰もいないはずの
新築の病棟で彼が対面したのは……。
 ワンパターンになってきたのは否めない。でも次作「リメンバー」も読んじゃうんだろうな。



85.「さいはての中国」安田峰俊 (再読) (購入) ★★ ’19/09/02
 なかなか頭に入らずいつか再読しようと思っていた。本人もあとがきで書いているように、政
治(慰安婦・南京事件)よりもディープな中国に突撃している方が楽しそう。楽しさが文章から伝
わってくる。政治などはやはり取材先と質疑応答の噛み合わなさなどいらだちが伝わってくる。
それは仕方ないので、もっとディープなところを探して突撃取材してほしい。内モンゴルのゴー
ストタウン、アフリカ人街のその後も知りたいものだ。



84.「真夜中の太陽」(2018.8.15)ジョー・ネスポ 鈴木恵訳 (図) ★ ’19/09/02
「隠れ場所にはうってつけだろう」――大金と銃を持ったその男が少数民族サーミ人が住まうノ
ルウェーの北部へやってきた。夏のあいだは真夜中でも日が沈まない極北の地だ。男はウル
フと名乗って素性を隠すも、教会の堂守のサーミ人母子としだいに心通わせていくことになる。
最果ての白夜の中で狩猟者としての日々を過ごす男。自分もまた狩りたてられた獲物であるこ
とにおびえながら……。
 これはミステリではない。ラブ・ストーリーじゃないか。前半ハードボイルドっぽいが、ラストは
幸せいっぱいのエンディングで「お幸せに」としか言いようがない。



83.「犯罪小説集」(2016.10)吉田修一 (購入) ★★ ’19/08/27
 田園に続く一本道が別れるY字路で、一人の少女が消息を絶った。犯人は不明のまま10年
の時が過ぎ、少女の祖父の吾朗や直前まで一緒にいた紡は罪悪感を抱えたままだった。だが
当初から疑われていた無職の男・豪士の存在が関係者達を徐々に狂わせていく……(「青田Y
字路」)「曼珠姫の午睡」「百家楽餓鬼」「万屋善次郎」「白球白蛇伝」いずれも転落人生が描か
れている。映画化される。どうなるのか楽しみ。初読み作家。短編でこれだけ重いのだから長
編はいいかな…。



82.「雪の階」(2018.2.10)奥泉光 (図) ★ ’19/08/26
 昭和10年、春。数えで二十歳、女子学習院に通う笹宮惟佐子は遺体で見つかった親友寿
子の死の真相を追いはじめる。調査を頼まれた新米カメラマンの牧村千代子は、寿子の足取
りを辿り、東北本線へ乗り込んだ。二人のヒロインの前に現れるなぞのドイツ人ピアニスト、革
命を語る陸軍士官、裏世界の密偵。そして疑惑に迫るたびに重なって行く不審な死。陰謀の中
心はどこに?誰が寿子を殺めたのか?
 ストーリーの軸は単純なのに、その他のエピソードがしこたまくっついていて、とにかく長い!
長い割に合点のいくラストではなかった。



81.「初恋さがし」(2019.5.20)真梨幸子 (図) ★ ’19/08/19
 連作短編集。タイトルはかわいいが中身はやはりイヤミス。ただ最後の方は誰が誰やら。ブ
ラック・ダリア事件を絡めているが、結局エリザベス・ショートは誰だったのか。死んだはずの人
がやはり生きているとか、最近の真梨幸子はミステリとしてもいまひとつだ。真相がわかるにつ
れ誰が誰やらわからなくなっていくのは皮肉なことである。



80.「ラプラスの魔女」(2015.5)東野圭吾 (図) ★ ’19/08/17
 ある地方の温泉地で硫化水素中毒による死亡事故が発生した。地球化学の研究者・青江が
警察の依頼で現場に行くと若い女の姿があった。彼女はひとりの青年の行方を追っているよう
だった。2ヶ月後、遠く離れたべつの温泉地でも同じような中毒事故が起こる。ふたりの被害者
に共通点はあるのか。調査のため青江が現地を訪れると、またも例の彼女がそこにいた。困
惑する青江の前で、彼女は次々と不思議な”力”を発揮し始める。
 残念ながらまっとうなミステリではなく、ファンタジーっぽかった。SFとまではいかないが、どん
な理屈つけても超能力は理解できなかった。



79.「インソムニア」(2019.2.25)辻寛之 (図) ★ ’19/08/10
ミステリなんだけど、似たような話をハリウッド映画で見てきたからか、新鮮さがない。秘密も予
測できたし。
 ただ自衛隊派遣という問題に一石投じるかもしれない。救援でも事件でもない、現地にある
のは確かに戦争なのだ。



78.「ディオゲネス変奏曲」(2019.4.15)陳浩基 稲村文吾訳 (電子) ★★ ’19/08/05
 短編集。「13.67」で華文ミステリここにありという秀作を世に出したが……中国ではSFとミ
ステリをごっちゃにする傾向にあるという背景もあるため、SFありミステリあり何のこっちゃわ
からんのありのてんこもりである。特に「習作」というのがわからない。ミステリのできもさほど…
…であったので残念。



77.「空白の5マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む」(2012.9.25)角幡唯介
(新) ★★★ ’19/07/30
 チベットの奥地、ツアンポー川流域に「空白の5マイル」と呼ばれる秘境があった。そこに眠る
のはこれまで数々の冒険家たちのチャレンジを跳ね返し続けてきた伝説の谷、ツアンポー峡
谷。人跡未踏といわれる峡谷の初踏査へと旅立った著者が、命の危険も蹴り見ずに挑んだ単
独行の果てに目にした光景とは――。
 何故に冒険家たちは冒険するのか。死と隣り合わせになった時生きている実感を覚えるとい
う。たった独りでなんて私なら頭がおかしくなりそうだ。集英社キャンペーンのネコじゃらしおり
につられて買ったが正解。



76.「あなたのゼイ肉、落とします」(2016.10.13)垣谷美雨 (図) ★★★ ’19/07/29
1P目を読んでぎょっとした。
「体重がまた増えた。/この私が59.6キロもあるなんて信じられない(略)こんなに頑張ってい
るのになぜ痩せない?/これ以上、どうやってダイエットしろというの」ケース1園田乃梨子49
歳。まさに自分のことだとあまりの偶然にびっくりした。ケース2錦小路小菊18歳 ケース3吉
田知也32歳ケース4前田悠太10歳
 それぞれが「あなたのゼイ肉落とします」という本の著者大庭小萬里に相談。しかし相談はい
つしか人生相談になり、問題解決する事でいつの間にか、やせてるか太ってることが気になら
なくなっている。「心のゼイ肉落とします」の方が本業のようだ。
 私が太っていることには何の効き目もないが。



75.「嫁をやめる日」(2017.3.25)垣谷美雨 (図) ★★★ ’19/07/26
 「ある晩、夫が市内のホテルで急死した。「出張に行く」という言葉は、嘘だった――。ショック
を受けながらも夫の隠された顔を調べ始めた夏葉子。いっぽう、義父母うあ親戚、近所の住人
から寄せられた同情はやがて”監視”へと変わってゆき……。追いつめられた夏葉子を、一枚
の書類が救う!義父母・婚家からの「卒業」を描く書きおろし長編小説。」
 同じ嫁の立場でありながら自分は恵まれているんだな―、と。実母の方が毒親で困ったもん
だというのに。自分もポイズンドーターだけども。




74.「ポイズンドーター・ホーリーマザー」(2016.5.20)湊かなえ (図)★★★ ’19/07/24
「マイディアレスト」「ベストフレンド」「罪深き女」「優しい人」「ポイズンドーター」「ホーリーマザー」
毒親に自分の母親も間違いなく入れられると今まで思ってきたが、この本ほどではないと思い
毒親というよりただ口が悪い人なのかなと思い直した。何より「ホーリーマザー」で自分は果た
して「ポイズンドーター」ではないのかと疑った。母の言う通りに就職し、結婚もしたけど、子ども
がいないことで「まともじゃない」と言われた。母の方がむしろ私を「ポイズンドーター」と思って
いるのではないか。だったらお互い様ってところに落ちがつく。だからやはり毒親と思っていい
のだ。といろいろ内省させられた。




73.「さくらえび」(2003.4)さくらももこ (購入) ★★ ’19/07/19
 「家族や日常のことだったら、その爆笑度並ぶものなし!ももこが編集長そして、取材・文章・
漫画のすべてをやっちゃった。2000年記念の奇蹟の面白雑誌「富士山」(全4号)からの選り
すぐりに、’02年発行の5号から「植田さんの深まるくだらない願望」「必見!!おならレポー
ト」の2本。「富士山」未収録分7本も加えた、大満足のエッセイ集。父ヒロシも息子も全開だ
よ!」
 面白いエッセイ集だった。付録(うちわ型しおり)につられて新潮社文庫買ってみたが、これ
は正解だった。ただ内容について健康に気をつけているというくだりは、今となっては残念とし
か言いようがない。すごい愛煙家というのも驚いた。タバコはどうしてもやめられないから他の
部分の健康に気を使っていた、と。納得。



72.「ベートーヴェン捏造 名プロデューサーは嘘をつく」(2018.10.15)かげはら史帆 (図) ★
 ’19/07/16
「ベートーヴェンの生涯においてもっとも重要な事件の起きた時期にいつも彼のそばにいて手
助けできたのは私ひとりだけである」――アントン・フェリックス・シンドラー「ルートヴィヒ・ヴァ
ン・ベートーヴェン伝」(第一版)ベートーベンにほれ込んだコアなファン・シンドラーがベートーベ
ン死後ベートーベン伝を書いたが、嘘だらけ。特に自分という人間を過大評価してあちこち登
場させ、嘘八百のベートーベン伝を発表したというもの。ベートーベンは後世で思われているほ
ど孤高の人ではなく、とりまきなんかは沢山いたし、耳がきこえないから紙とペンを持って相手
に書かせていたという。その会話帳があまたあり、そこにシンドラーが自分で書きこみをしたら
しい。知っても知らなくてもいい話。



71.「悪意」(2019.2.22)ホーカン・ネッセル 久山葉子訳 (図) ★ ’19/07/12
「トム」夜中にかかってきた1本の電話。それは22年前に死んだはずの息子からのものだっ
た。
「レイン」亡くなった著名な作家の遺作には、母国語での出版を禁じ、翻訳出版をのみ許可す
るという奇妙な条件が付されていた。
「親愛なるアグネスへ」夫の葬式で久しぶりに会ったかつての親友、二人の交わす書簡はやが
て……。
「サマリアのタンポポ」「その件についてのすべての情報」
「〜アグネス」意外ミステリと呼べるものでは……。
「デュ・モーリアの騙りの妙、シーラッハの奥深さ、ディーヴァーのどんでん返しを兼ね備えた全
5編の傑作短編集」←絶対過大評価。



70.「サイレンス」(2017.1.25)秋吉理香子 (図) ★★ ’19/07/06
 つきあって6年になる深雪と俊亜希はいよいよ結婚を決意し深雪に実家へお正月に行くこと
となった。東京生まれ東京育ちの俊亜希は次々振ってくる町のしきたりにたじたじ。結婚あいさ
つの時、俊亜希に4千万以上の借金があることがばれてしまい、結婚はおあずけムードに。プ
ライバシーのない田舎に耐えきれず逃げ出した俊亜希。深雪の幼馴染がささえ、結局それ以
来東京にも帰らず3年。深雪は幼馴染の達也と結婚し一助を設けていた。ある氷室の中の氷
の中に俊亜希のスマホが見つかった。その氷室の中には一体何が…と思いつつ誰もそれに
は触れず生活は続く。
 やはりイヤミスできましたね。一見めでたしめでたしだったのに(笑)。




69.「自殺予定日」(2016.4.28)秋吉理香子 (図) ★★★’19/07/04
 「美しく強かな継母が父を殺した」
 父の死後、生命保険金と遺産、そして順風満帆のビジネスを引き継ぎ、生き生きと活躍を始
めた継母の姿に、女子高生の瑠璃はそう確信するけれど誰にも信じてもらえない。天涯孤独と
なった瑠璃は、死を持って継母の罪を告発するため、自殺の名所と言われる山奥で首をつろ
うとし――そこで幽霊の裕章と出会った。彼は継母の罪の証拠を見つけようと提案する。期限
以内に見つからなければその時死ねばいいと。今日から6日後――それが瑠璃の自殺予定
日となった。すべての予想を裏切る、一気読み必至の傑作ミステリ!
 というオビのまんま一気に読んだ。しかもラストがイヤミスでない。清々しいラストというのもい
いもんだ。



68.「サンタクロースのせいにしよう」(1995.8)若竹七海 (図) ★★ ’19/07/03
 語り手の「わたし」こと岡村柊子はアクセサリーショップに努める26歳。一戸建てを二人でシ
ェア。料理さえ作れば家賃はただ。とんな美味しい話を逃す手はない――。というわけで、気は
いいけれど変わり者のお嬢様銀子さんの家に居候することになった私。しかし、引っ越し
早々、幽霊は出るわ、ゴミ捨て場の死体騒動に巻き込まれるわ……なぜかトラブルが続発。
郊外の平凡な住宅地を舞台に、愛すべきちょっと奇妙な隣人たちが起こす事件を描くミステリ
短編集。「あなただけを見つめる」「サンタクロースのせいにしよう」「死を言うなかれ」「犬の足
跡」「虚構通信」「空飛ぶマコト」「子どものけんか」収録。



67.「神のダイスを見上げて」(2018.12.20)知念実希人 (図) ★★ ’19/07/02
「地球に向けて、巨大小惑星ダイスが接近中。人類は、あと5日で終わりを迎える。人々はそ
の瞬間、「裁きの刻」をどう迎えるのか――
 高校生の漆原亮の姉・圭子が殺された。コスモスの咲き乱れる花壇で、全裸で胸にナイフを
突き刺された姿で発見された。姉は亮にとって唯一の家族、”世界そのもの”だった。恋人のこ
ともそっちのけで、亮はとにかく犯人を見つけ出し、自分の手で復讐したいと暴走。そして”ある
もの”を手に入れるため、クラスの”禁忌”と呼ばれる異端児・四元美咲に接触する。優しく美し
かった圭子を殺したのは、圭子の恋人だったのでは?しかしそれが誰なのかわからない。
 よくわからない話しだった。この作家の作品にしては失敗と思う。



66.「さいはての中国」(2018.8.10)安田峰俊 (新) ★★ ’19/06/30
 やはり中国は動いている。バブルはじけて爆買いも久しく聞かなくなったが、中国にアフリカ
村ができてたり、ちょっと15年くらい都市より遅れてそうな村でもキャッシュレス化していて、そ
こは日本以上にやはり変化の波は動いている。慰安婦問題や南京事件は華人とはいえもう少
し突っ込んで語って欲しかったとは思うが、相手もあることだからなかなか難しいところか。もっ
と中国の辺境へ行ってレポートしてほしいのでこの人の本は買うことにする。



65.「機長、事件です!」(2007.3.15)秋吉理香子(図) ★★★ ’19/06/28
 この作家でもこんなコメディ系を書くのか――とびっくりしました。
「氷の女王」飛行機にまつわる謎というか治郎の疑問「クリニャンクール事件」のみの市で治郎
が老婆に腕輪を買わされると途端にもて始める?!「修道院の怪人」モン・サン・ミッシェルで
殺人!「機上の誘惑」具合の悪くなった乗客。原因をつきとめようと氷室&治郎コンビが活躍。
 いやに飛行機に詳しいと思ったら両親と姉がパイロットだと。パイロット一家も珍しい。
 減圧症、のみの市(クリニャンクール)パイロットの腕の見せどころなど蘊蓄までいかなくても
持っとくといつか得しそうな知識も得られた。



63.64.「グロテスク」(上)(下)(2003.7)桐野夏生 (図) ★★ ’19/06/26
 下巻はほぼ佐藤和恵の売春日記。ユリコ、ミツル、カズエ、ワタシ、誰にも共感できないので
解説で斎藤美奈子が書いていたような開放感なんて感じられなかった。それよしユリコの息子
ユリオが男娼の道へ入って行くことで母と同じ日陰を歩く者になってしまったという残念感しか
ない。佐藤和江は東電OL事件を基にしているんだろうけど、どこまで本当なのか。全部フィク
ションか。チャンは本当に和恵を殺したのか、何故はっきりさせないのか。色々と「?」が残って
やはり共感できない。



62.「殺人鬼がもう一人」(2019.1.30)若竹七海 (新) ★★★ ’19/06/20
 葉村シリーズでないものの、砂井三琴、慎重178センチに7センチヒールをはく三白眼の大
女は生活安全課・捜査員も気に入った。モヤっとした終わり方のミステリを勝手にモヤミスと呼
んでいるが、ウィンウィンの時もあったりする。本人がナレーションの時もあれば他の人のとき
もある。辛夷ヶ丘はさびれたベッドタウンとはいえよくこれだけ事件起きるもんだなぁと。そこは
スルーで。「私の野望は只一つ。定年まで勤め上げ、その間にたっぷりと貯金をし、年金をもら
って憂いのない老後を送ることだけだ」「そういやここしばらくお目にかかってないな。素敵な不
労所得」オビもよい。



61.「ガラスの殺意」(2018.8.15)秋吉理香子 (図) ★★★ ’19/06/18
 「20年前に起きた通り魔事件の犯人が刺殺された。警察に「殺した」と通報したのは、その
通り魔に愛する両親を殺された柏原麻由子。だが麻由子は当時現場から逃げる途中で交通
事故に遭い、脳に障害を負っていた。警察の調べに対し、麻由子による通り魔殺害の記憶は
定かではない。果たして復讐は成し遂げられたのか――?」
 最初の方こそ記憶障害の麻由子の視点で描かれまだるっこしいが、後半には中山七里ばり
のどんでん返しが用意してあり、動機も完璧であった。



60.「暗い越流」(2014.3.21)若竹七海 (図) ★★ ’19/06/15
 日本推理作家協会賞受賞作「暗い越流」5年前通りかかった犬にほえられ飼い主と口論にな
った末に逆上し車で暴走、死者5名重軽傷者23名という事件を引き起こした最低の死刑囚・
磯崎保にファンレターが届いた。その差出人・山本優子の素性を調べる様依頼された「私」は
彼女が5年前の嵐の晩に失踪し、行方がわからないことをつきとめる。優子の家を尋ねた
「私」は、山本家と磯崎家が眼と鼻の先であることに気付いた。折しも超大型台風の上陸が迫
っていた…。
「蝿男」(葉村シリーズ)「幸せの家」「狂酔」「道楽者の金庫」(葉村シリーズ)収録。



59.「凍てつく太陽」(2018.8.15)葉真中顕 (図) ★★★ ’19/06/14
「昭和20年――終戦間際の北海道・室蘭。逼迫した戦況を一変させるという陸軍の軍事機密
「カンナカムイ」をめぐり、軍需工場の関係者が次々と毒殺される。アイヌ出身の特高刑事・日
崎八尋は「拷問王」の異名を持つ先輩刑事の三影らとともに捜査に加わることになるが、事件
の背後で暗躍する者たちに翻弄されていく。陰謀渦巻く北の大地で、八尋は特高刑事としての
「己の使命」を全うできるのか――」戦前・戦中のアイヌ民族の扱われ方がひどい。こういう歴
史もあたんだなぁと大和人としても考えさせられるものがある。



57.58.「カササギ殺人事件」(上)(下)(2018.9.18)アンソニー・ホロヴィッツ 山田蘭訳 (中
古) ★★ ’19/06/12
 このミスぶっちぎり1位。4冠達成!などちょっとハードル上げ過ぎ。敢えて丁寧に読んだの
に。
 けどミステリという感じはしなかった。一粒で二度おいしい、入れ子細工のような小説など賛
辞で溢れているんだけど、自分にはそこまで……何故かわからないんだけれども。特に面白く
てページをめくる手が止まらない、とかそんなに?という感じ。
 ネタバレ:結局ロバートとジョイはどうなるのか。ロバートがサイコってのは確かに意表をつか
れたが。そしてスーザン編の方のF4文字みたいなののせいで出版できないって……チャール
ズ一人で悩まず皆でなんとかすりゃいいのにさ、と簡単に考えてしまった。



56.「ケモノの城」(2017.5.14)誉田哲也 (中古) ★ ’19/06/04
 誉田哲也初読み。でも読み始めてすぐにガックリ。尼崎の角田美代子事件じゃねーか。と最
後まで思って読んだが参考文献に「北九州一家――」とあった。北九州の方は詳しく知らない
が本書を読むと尼とすごく似ていることは想像に難くない。
 拷問の描写のところは飛ばし読み。気持ち悪いだけだから。最後に幸枝がヨシオに反撃して
殺したのならどうしてもっと早く自分の家族が殺されてしまう前にできなかったのか。やはり中
本三郎がやったのだろうか。聖子は何故信吾の元を去ったのか。ちょっと本筋に比べれば些
細なことが気になった。



55.「もものかんづめ」(1991.3.25)さくらももこ (中古)★★★ ’19/05/30
 エッセイ集。ちびまる子は読んだことないが、以前古本屋で立ち読みしたら面白かったので
(メルヘン爺のくだりだった)文庫本を買ってみた。確かに面白い。この後出産、離婚そして合
掌が続くとは思えなかった頃私の就職と同時期に既に売れっこ漫画家だったのかと思うと更に
尊敬する。スヌーピーの翻訳も出しているらしいので捜してみよう。シニカルなスヌーピー……
読んでみたい。
 エッセイは引き続き読もうかどうか……対談にも書いてあったが「150歳まで生きる」とか自
分が年取ったらとか今となっては……なことが多々出てくるので読むこっちは滅入ってしまうこ
ともあるから。



54.「監禁面接」(2018.8.30)ピエール・ルメートル 橘明美訳 (図) ★★ ’19/05/29
 無職でバイトの身のアラン57歳が何とかいい職につこうと申し込み、筆記試験を合格し何と
か面接を突破しようと意気込むも最終試験は会社の重役たちを監禁拷問せよという変わった
ものだった。試験直前、アランはデキレースだと知らされ絶望するも試験には参加した。果たし
てアランの目的は?シャルルという伏兵の最後がかっこいい!



53.「ウォッチメイカー」(2007.10.30)ジェフリー・ディーヴァー 池田真紀子訳 (図) ★★ ’19
/05/26
 思ったほど面白くなかった。ウォッチメイカーだそんなに凄腕という見せ場もあまりなく。



52.「スケルトン・キー」(2018.7.18)道尾秀介 (図) ★ ’19/05/14
 週刊記者のスクープ獲得の手伝いをしている僕、坂本錠也。この仕事を選んだのは、スリル
のある環境に身を置いて心拍数を上げることで自分の狂気を抑え込むことができるからだ。最
近はまともな状態を保てている。でもある日、児童養護施設でともに育った仲間から電話かか
ってきて、日常が変わりはじめた。これまで必死に守って来た平穏が壊れてしまう――僕に近
付いてはならない。殺してしまうから。あなたは死んでしまうから。僕のような人間をサイコパス
というらしい。だから気をつけて生きてきた。もう一人の僕がなるべく顔を出さないように。



51.「スキン・コレクター」(2015.10.15)ジェフリー・ディーヴァー 池田真紀子訳 (図) ★★ ’
19/05/11
 腹部に謎めいた文字を彫られた女性の死体が発見された。犯人はインクの代わりに毒物で
刺青を刻み、被害者を毒殺したのだ。現場で発見できた証拠はごくわずかだったが、犯人が
残した紙片はニューヨークで起きたある連続殺人に関する書籍の切れ端だった――ライムが
解決した<ボーン・コレクター>事件である。犯人はボーン・コレクターの手口とライムの捜査
術に学び、殺人をくりかえしているのか?次の犯行はどこで起こるのか?被害者に彫られた文
字は何を意味する?スキン・コレクターの真の狙いは一体何か?全てを解くカギは証拠の中
に!



50.「誤読日記」(2005.7)斎藤美奈子 (図) ★★ ’19/05/10
 話題の書175冊をワイドショー気分で一気読みしたミーハー書評の決定版。
 175冊中読んだことあるのは数冊。要は話題になっても読むほどの事はないと教えてくれ
る。どのみち読む気がない本ばかりではあるが。
「少ないモノでゆたかに暮らす」、渡辺淳一、村上龍、村上春樹など読まんでよかったと未だに
思える。逆に読みたくなったのは「グロテスク」桐野夏生くらいか。ホメてる本は相当少ないので
覚悟してね。でも読まんでもいい本を教えてくれるのは本当に時間の節約になっていいなぁ。こ
の方の読書量にはいつも驚かされる。



49.「向こう側のヨーコ」(2018.4.30)真梨幸子 (図) ★★ ’19/05/07
 ネタバレ:陽子が二人いたとは。けこうダマされた。どっちかが夢なんじゃないかとミスリードさ
れた。終盤にさしかかってくるにつれ共通の人物が殺されていくのでアレ?とは思ったが、犯人
は息子の翔だろうと電ノコが来た段階でわかった。金城賢作=ケンチャン=大森健一というの
もわからなかった。
 よくできているというよりやっぱりややこしい!作者もそう思ったのか最後に登場人物を紹介
してあった。確かに最初にしちゃうわけにはいかないだろうが、半分ダマされたし、イヤミスだっ
たしスッキリしない!



48.「産声が消えていく」(2008.7.30)太田靖之 (図) ★★★ ’19/05/06
「透明なゆりかご」「コウノドリ」等で産婦人科医が大変だとわかってはいたが、この本ではとに
かく人手不足が強調されていた。人手が足りない為処置が遅れ障害を持って生まれてしまった
子。処置が早ければ障害は持たなかったのかと言うとそれも断言できない。出産は何が起こ
るかわからないリスキーなものだからだ。子どもが生まれれば医者の手はからは離れる。でも
親にとっては一生これから付き合って行くのだ。そうかもしれないなどとあいまいにされていい
問題でもない。そのためか訴訟率はダントツに産婦人科が多い。どんな困難にも産科医を諦
めない主人公にエールを送りたい。
「透明なゆりかご」でだが、日本人の死亡率1は実は人工中絶らしい。



47.「火のないところに煙は」(2018.6.20)芦沢央 (図) ★★ ’19/05/03
 オカルトもミステリに入るのか。どちらの要素も薄くて短編なのであまり記憶に残らない。
1染み 2お祓いを頼む女 3妄言 4助けてっていったのに 5誰かの怪異 6禁忌
1〜5までの謎が6で解決するのかと思ったけど謎は謎のままというかオカルトで終わる。いい
のかそれで。ミステリのような謎解き部分もあるがオカルト部分も残す。死んでしまった登場人
物もいるし。死んで終わりでオカルトとしてもいいのかそれで、と思ってしまう。評判はいいのだ
けど、自分には今一つだった。



46.「礼賛」(2015.2.18)木嶋佳苗 (図) ★★ ’19/05/01
 小説としてはかなり面白いが、ノンフィクション、自伝としてはどうなのか。自伝というより、こう
ありたかった、という理想を書き連ねただけの本。練炭自殺事件、料理学校の授業料、資金
授受など報道されているこちらの知りたいことからは全くズレている。しかし自筆となると文才
はあるほうかと。きめ細かく、特にブランドや習い事の知識はうそかまことかかなりの語り手
だ。
 この本は事件の真相が知りたくて読んだのだが、事件には全くふれていないので、彼女がこ
う生きたかったという夢物語なのであろう。



45.「ガリレオの苦悩」(2008.10)東野圭吾 ★★★ (図) ’19/04/29
 「悪魔の手」と名乗る人物から、警視庁に送りつけられた怪文書。そこには、連続殺人の犯
行予告と、帝都大学準教授・湯川学を指名して挑発する文面が記されていた。湯川を標的とす
る犯人の狙いは何か?
1落下る おちる 2操縦する あやつる 3密室る とじる 4指標る しめす 5撹乱す みだ
す 東野圭吾はトリックも動機も無理がないので名実ともにナンバーワン作家だと思う。アリス
は動機にムリがあり綾辻や島田はトリックに無理がある。



44.「パールとスターシャ」(2018.9.28)アフィニティ・コナー 野口百合子訳 (図) ★ ’19/04/
29
 1944年、ユダヤ人の12歳の双子、パールとスターシャはアウシュヴィッツ絶滅収容所に家
族とともに送られ、優生学研究に取りつかれた「死の天使」ナチス・ドイツの医師ヨーゼフ・メン
ゲレが集めた多くの双子たちとともに「動物園」と呼ばれる施設に入れられる。子どもたちに自
らを「おじさん先生」と呼ばせ、おぞましい人体事件を繰り返すメンゲレ医師の研究対象となっ
た二人が、少女の純粋な目で見た恐るべき世界を抒情的なそれでいて力強い筆致で描いた
物語。
 抒情的すぎて話が進んでいるのかどうかもわからず、わかりずらい文章。なにを言いたいの
かわからないセリフの羅列だった。



43.「コフィン・ダンサー」(2000.10.10)ジェフリー・ディーヴァー池田真紀子訳 (中古) ★★★
 ’19/04/25
 神出鬼没の殺し屋”コフィン・ダンサー”が二日後に開かれる大陪審で、ある大物武器密売人
に不利な証言をする予定の証人3人を消す為当の武器密売人に雇われたらしい。証言まで残
り45時間。アメリカ一の腕利きと噂される殺し屋が3人の証人を消すのが先か、世界最高の
犯罪学者リンカーン・ライムが彼を捕らえるのが先か。
 途中で犯人が変わるのが正当かどうか。とはいえスピードカンはあって飽きさせない。捜査
の細かさは検死官を初めて読んだ時の衝撃にさえ似ている。ジーンズの縫い目に入り込んだ
砂粒から現場を特定するとか。
 久しぶりにライムシリーズの新刊が発売されて慌てて読んだ。次も勿論読むつもり。



42.「無痛の子」(2018.10.10)リサ・ガードナー 満園真木訳 (図) ★★ ’19/04/24
 いくつもの小さな皮膚片がはがされた女性の遺体。女刑事D・D・ウォレンは現場検証中に階
段から何者かに突き落とされ大けがを負う。ペインコントロールのために訪れた医院で出会っ
た精神科医アデラインは先天性無痛少を抱えそれゆえに痛みを専門にしたという。やがて第
二の事件が発生。二つの事件の類似性を辿ると40年前の連続殺人事件が浮かびあがる。犯
人はアデラインの実父であり、彼女の姉もまた悪名高き殺人鬼だった。
 グロいシーンが多くなかなかはかどらなかった。ストーリーはよくできていたと思う。けどこの
シリーズを読みたいかというと…もういいわ。



41.「日本の同時代小説」(2018.11.20)斎藤美奈子 (図) ★★ ’19/04/19
 近代の小説を紹介解説してくれるわけだけども、自分がそのほとんどを読んでいないことに
最初ガクゼンとしたが、それもそのはず。紹介されているのは純文学。私小説とかディストピア
とかおよそ私が嫌っているものだ。何で嫌いかという理由まで書いてくれていた。私の好きなエ
ンタメ系はラストが閉じてある。純文学にははっきりとした閉じがない。それでオチがないように
感じて尻切れトンボ的なムズがゆさがあるのだ。ラノベの定義もわかった。児童文学ジュブナ
イルの中高生向けがヤングアダルト。それを今はラノベというらしい。



40.「転生!太宰治 転生してすみません」(2018.9.4)佐藤智哉 (図) ★★ ’19/04/17
 太宰治が現在にタイムスリップしてきたら…という突拍子もない話しだが、意外に面白い。最
後が尻切れトンボというか、この世で生きていくことを決意する太宰だが、どうやって生きていく
というの。小説家になる決意をしたわけでもなく、まともな職にもつけないだろうに。過去に戻す
とかもう一展開欲しかった。作者は太宰のファンなのかすごく詳しい。私は一作も読んでなかっ
たことに気付いた…。



39.「犯罪者プロファイラー 犬飼秀樹 ヘルハウンド」(2018.11.14)青木杏樹 (図) ★ ’19/
04/15
 死体マニアの変人ながら天才的頭脳で若くして犯罪心理学の準教授を務める男、犬飼。彼
は”特権法”登録ナンバー002.難解捜査を特別に認められた民間人プロファイラーだ。黒妖
犬(ヘルハウンド)の異名を持つ彼は幼馴染の副検事・諭吉から持ち込まれる凶悪犯罪の真
相を「悪の心理学(イーブルテクニック)」で暴いて行く。
 少女マンガかBLの世界。まずハンサムが必須条件か。無意味にカニバリズムとかあってム
ダにグロい。タイトルは硬派なのにな。



38.「完全犯罪 加田伶太郎全集」(2018.4.13)福永武彦 (図) ★★ ’19/04/12
 「完全犯罪」「幽霊事件」「温室事件」「失踪事件」「電話事件」「眠りの誘惑」「湖畔事件」「赤い
靴」8編からなる短編集。福永武彦が加田伶太郎名義で昭和31年〜に書いたもの。福永は1
979年没。内容も伊丹英典という学者探偵が金田一に思えてしまう。学者というところから火
村英夫も連想してしまう。短編としては全く落ち度なくよく書けている。短編だけに無駄なキャラ
が出てこず、読者をミスリードするような小細工もない。典型的推理小説。何故今更見直され
て文庫化されたのかは知らんが。



37.「ねみみにみみず」(2018.4.30)東江一紀 越前敏弥編 (図) ★★★ ’19/04/10
 翻訳者のエッセイ集。英会話できない、留学経験もないと聞いてホッとした。そういう翻訳者
もいるのだ、と。ただこの人はひたすら翻訳が好きで、一日十四、五時間机に向かってられる
ほどの本・翻訳好き。翻って見るとに自分ににそこまでの熱量がないので不安になった。エッ
セイそのものは駄洒落ばっかりであまり参考になることもないのだが、この人がドン・ウィンズ
ロウを訳したと知って納得。やはり力のある翻訳者だったのだ。二〇一四年六月ガンのため
逝去。合掌。



36.「花殺し月の殺人 インディアン連続怪死事件とFBIの誕生」(2018.5.25)ディヴィッド・クラン
 倉田真木訳 (図) ★★★ ’19/04/09
 1920年代、禁酒法時代のアメリカ南部、オクラホマ州。先住民オセージ族「花殺しの月の
頃」と呼ぶ5月のある夜に起きた2件の殺人。それはオセージ族とその関係者20数人が、相
次いで不審死を遂げる連続殺人事件の幕開けだった。
 私立探偵や地元当局が解決にてをこまねくなか、のちのFBI長官J・エドガー・フーヴァーはテ
キサスレンジャー出身の特別捜査官トム・ホワイトに命じ、現地で調査に当たらせるも解明は
困難を極める。
 石油利権と人種差別が複雑に絡み合う大掛かりな陰謀の真相は?米国死の最暗部に迫
り、主要メディアで絶賛された犯罪ノンフィクション。
 インディアンが居留地に押し込められたものの、その土地から石油が発見され、オセージ族
はあっという間に大金持ちに。その金を狙う白人たちはオセージ族を次々と殺し利権を奪う。
当時の警察は捜査もなおざりな中、フーヴァーの勅命を受けたホワイトが捜査に当たると次々
と恐ろしい真実が明るみに。
「陪審たちが判断するのは、白人がオセージ族を殺すのが殺人なのか、それとも動物虐待に
すぎないのかという問題なんです」親兄弟を全て殺され一人ぼっちになったモリーのこの言葉
が全てを表している。



35.「インド倶楽部の謎」(2018.7.20)有栖川有栖 (図) ★★ ’19/04/07
 前世から自分が死ぬ日まで――全ての運命が予言され記されているというインドに伝わる
「アガスティアの葉」。この神秘に触れようと、神戸の異人館街のはずれにある屋敷に「インド
倶楽部」のメンバー7人が集まった。その数日後、イベントに立ち会った者が相次いで殺され
る。まさかその死は予言されていたのか?!捜査をはじめた臨床犯罪学者の火村英夫と推理
作家の有栖川有栖は、謎に包まれた例会と連続殺人事件の関係に迫って行く!
 いつもの通り動機が弱い。そんなことで人を殺すか、と。しかも今回トリックというトリックもな
い。最近質の高いミステリを読んでいたからか、久しぶりに火村シリーズを読んでみるとガック
リという感触。肝心の印度人はどうなったのか、忘れてやしませんか。それとも全く関係なし、
でおとがめもなしなのだろうか。鍵となるはずだった人物が肩すかし、というのが多い。ちょっと
辛口になってしまったけど、もっと高度なミステリを期待すればこそ。国名シリーズも続けてほし
いと思っている。…アガスティアの葉ってほんまにあるんかいな…?←調べたら本当にあるみ
たいだけど、相当に眉唾物らしいです。



34.「ベリヤ スターリンに仕えた死刑執行人 ある出世主義者の末路」(1997.9.1)ウラジミー
ル・F・ネクラーソフ編 森田明訳 (図) ★★ ’19/04/03
 ソ連には疎いのでこんな人物が存在していたことすら知らなかった。ベリヤはスターリンが生
んだ怪物だと。もとはスターリンの指示でも権力を握ったベリヤは自分で罪のない人々を捕ら
え殺した。ヒトラーにおけるヒムラー。肝心のスターリンも良く知らない。スターリンの本も探して
読んでみようと思う。ベリヤ事件と関連が深いのだろう。さんざん無実の人を指先一つで殺して
きたのが、裁判では泣いて助命を乞うたという。せめて凛として自分の罪を認め謝罪して欲し
かった。



33.「鏡の背面」(2018.7.31)篠田節子 (図) ★★ ’19/04/01
 私たちの「先生」は一体誰だったの?薬物依存症患者はDV被害者の女性たちが暮らすシェ
ルターで発生した火災。「先生」こと小野尚子が入居者を救い死亡。盛大な「お別れの会」が催
された後、警察から衝撃の事実が告げられる。「小野尚子」として死んだ遺体は、別人のもの
だった。ライターの山崎知佳は、過去を調べるうちに、かつて「女」を追っていた記者に辿りつ
く。一方、指導者を失ったシェルター内では、じわじわと不協和音が……。
 ネタバレあり。半田明美という金に執着した女がフィリピンにボランティアで来ていた小野尚
子を財産目当てに殺害、成り変わっていた。何故明美はなり変わったのか。仕草、性格まで小
野尚子になりきっていたのは何故か。鍵を解くヒントは明美の残した日記。その日記は何故か
過去をさかのぼる形式で書かれていた。
 女の転落人生を追う記者の話は宮部みゆきの「火車」を読んでいるようだった。



32.「リターン」(2015.11.5)五十嵐貴久 (図) ★★ ’19/03/29
 「リカ」の続編だったのだが、3作目の「リバース」を先に読んでしまっていた。「リカ」で謎だっ
たのがこんな臭いヘンな人間いたらストーカーする前から、まわりからヘンな目で見られている
んじゃないかというところ。今回もその疑問は解けないのだが、意外にも新宿という都会にいた
のは都会ほど他人に無関心と言うことだろうか。そして最後にリカに壊されてしまった菅原を
「ただしさん」と呼んだ尚美のように、リカはどの女の中にもいる一部なのかもしれない。理性で
抑えているだけで恋愛に走る奴はどいつもエゴイストな部分を持っている。リカは自分のエゴに
忠実なだけだったのだ。



31.「時限感染 殺戮のマトリョーシカ」(2018.2.21)岩木一麻 (図) ★ ’19/03/27
 4分の3までバイオテロのウィルスがヘルペスであり、人に感染しないということで全く恐怖を
感じず、警察同様読む方も「?」だった。4章になって無害と思われていたものが恐ろしいプリ
ウス(狂牛病)であったとわかり警察は呆然とするのだが、医学は日進月歩しており治療薬が
見つかっていた。全て黒幕の予想した展開だったという。タイトルに相反して全くスピード感も恐
怖もない。取っかかりこそ惨殺事件で首が持ち去られていてものものしいが、特に意味がない
ものだったし。はっきり言ってスカだった。



30.「リアルフェイス」(2018.6.15)知念実希人 (図) ★★★ ’19/03/26
 1,2,3章の一話完結と見せかけて4章で収斂されるという構成がよかった。顔を全く別人にで
きるのかというとそこは疑問だが、まぁ小説だから…。珍しくどんでん返しが用意されてて、だま
されまいぞと思っていたが、どっちがどっちやらわからなくなって、まぁいいかと。単行本の時と
大きくタイトルが違う(「改貌屋 柊貴久の事件カルテ」)のは何故なんだろう。



29.「リバース」(2016.10.10)五十嵐貴久 (図) ★ ’19/03/25
 やっぱり「リバース」と「リターン」間違えて借りてた。そして「リバース」全く覚えていなかった。
 長野から上京して雨宮家で働くことになった純朴な田舎娘・幸子(18)の手紙形式で語られて
いく雨宮家の異常っぷり。しつけに厳しい母と女癖の悪い父。美しい双子の姉妹梨花と結花。
しかし全く予想を裏切らない展開。幸子の鈍さがひどい。最後の「あたしリカよ」で読者がゾッと
することを期待しているんだろうけど、まるきり予想通りで…。母親の異常がどこから来たかの
方が興味あった。



28.「物は言いよう」(2004.11.9)斎藤美奈子 (図) ★★ ’19/03/22
 腹が立ってもその場で自分の感情を言葉で言い返せない私にはこの人の本は痛快で代弁し
てくれているようで楽しく読める。
 特にセク・ハラ発言はあぜんとして言葉も出ないことが多いがこの方がバッサバッサと切り倒
してくれる。それにしても政治家の失言のなんと多いことか。公人であるという自覚がなさすぎ
る。「子どもを一人も作らない女性が自由を謳歌して楽しんで年を取って税金で面倒見なさいと
言うのはおかしい」森喜郎(2003)妄言王。もうどっからつっこんでいいのかわからんが、著者
は勿論バッサリ切ってくれる。しかし失言を読むにつけ腹は立つ。



27.「ビブリア古書堂の事件手帖〜栞子さんと果てない舞台〜」(2017.2.25)三上延 (図)
★★★ ’19/03/21
 6巻からだいぶ空いてしまったので、それまでの因縁を忘れてしまった。その辺の伏線の回
収は置いといても、今回はシェイクスピアということでシリーズ中一番面白かったかもしれない。
印刷のない時代の書物。ファーストフォリオなど初めて聞いたが、謎の多いシェイクスピア本。
謎は尽きないと思った。参考文献の数が多いことからも大変だったことがうかがえる。ミステリ
からはちょっとズレたかもしれないが、小説としてはけっこう楽しめた。



26.「黒い睡蓮」(2017.10.25)ミシェル・ビュッシ 平岡敦訳 (図) ★★ ’19/03/20
 モネの「睡蓮」で有名な村ジヴェルニーで発生した奇妙な殺人事件。殺された眼科医は女好
きで絵画のコレクターでもあった。セレナック警部は眼科医が言いよっていた美貌の女教師に
話を聞くうちに彼女に心惹かれて行く。生徒のファネットのボーイフレンド・ポールが眼科医と同
じ殺され方で発見され、村では風変わりな老女が徘徊し…。
 ネタバレありです。ファネット、ステファニー、老女が同一人物というところは当てたのだが、
犯人まではわからなかった。さも同時期のことかのように3人それぞれぐるぐる回して描くのは
確かに効果的。ただちょっと長いかな。



25.「それまでの明日」(2018.3.15)原ォ (図)★★ ’19/03/15
 「このミス」1位だからかハードル上げ過ぎてしまった。ミステリというよりハードボイルド。ヤク
ザの抗争が出てきてからやたら長い。中間をすっとばして最初と最後だけでも十分話しは通じ
る。レイモンド・チャンドラーは読んだことないけど、こんな感じだろうか。沢崎という主役の探偵
が感情のない人間でイメージ的にはゴルゴ13.とにかく長かった。ヤクザの辺りからスピードが
落ちてきて、こっちも読むのが面倒くさくなってきた。



24.「BUTTER」(2017.4.20)柚木麻子 ★★ (図) ’19/03/12
 木嶋佳苗事件を参考にしているのは明らかで、ノンフィクションか?と最初は思ったが取材が
進むにつれやはりモデルにしただけだとわかった。
 バターを筆頭に次から次へ脂っこい料理の羅列にとどめの七面鳥料理はひたすら丁寧に描
かれておりハッピーエンドとはいえこっちが胃もたれしそうだった。
 主人公のさまよえる女性記者の成長物語といったところか。いろんな人間が絡んでくるが自
身の父との死別が彼女の梶井との原点だったのだろう。梶井の掘り下げ方が中途半端な気が
した。その後どうなったのか気になるじゃないか。



23.「チャイルド・プア 社会を蝕む子どもの貧困」(2014.3.31)新井直之  ★★ (図) ’19/03
/09
 子どもの貧困は親の貧困である。親の方にも理由はあるが、一番許せないのは親が生活費
をギャンブルに使ってしまうこと。これはもう養う気がないわけだから立派なネグレクト。かわい
そうだからってお金を一時あげても仕様がないわけで、貧困から抜け出させることが大事なの
だが、それが簡単ではない。社会も働く気のある子でも採用してくれない。どっから来たのかわ
からん外人雇うよりよっぽどいいと思うのだが。それにソーシャルワーカー自体もきつい仕事な
のに薄給である。苦労に見あった報酬はないのかと学校教諭、保育士など見て思う。



21.22「ラスト・コヨーテ」(上)(下)(1996.6.30)マイクル・コナリー 古沢嘉道訳 (中)★★ ’
19/03/08
ハリー・ボッシュシリーズ4作目。ハリーは上司にさからってケガを負わせ休職中。その間自分
の原点と思う母マージョリー・ロウ殺害の謎を追いかける。
 再読だが全く覚えていないのと、ペーパーバックと並行して読んだのでとばさず、じっくり読ん
だ。上ではもう解決つかんなと思った母の事件を下でいろんな人を使い(脅し?)ついに意外な
犯人をつきとめたのはお見事。一助となったカウンセラー、カーメン・イノーホスの手柄は大き
い。にもかかわらずハリーは礼もそこそこに捜査中に出会った美女ジャスミンの元へ行ってし
まう。やれやれな人だ。



20.「スミラの雪の感覚」(1996.2.29)ペーター・ホゥ染田屋茂訳 (図) ★ ’19/03/08 
 海に氷が張り始めたある日コペンハーゲンの港にほど近い倉庫でグリーンランド人の少年の
墜落死事件が起きる。警察は事故死と断定するが、少年を可愛がってたイヌイットの混血女性
スミラ・ヤスパーセンには納得がいかない。徒手空拳、孤立無援のまま捜査を始めたスミラ
は、まもなく少年の死がグリーンランドで起きた彼の父親の死と関連があることを知る。という
ことだが、この筋すらよくわからなかった。
 デンマーク小説は初読みだったと思うが…とにかく文章は比喩が多くて難解。
「私に言わせれば、少なくともいまこの瞬間、それは過去四十年間の科学技術の進歩が生み
出したものの象徴である。すなわち見栄えは立派で、洗練されているが少々横暴な、小規模の
恐怖政治のグロテスクなまでに人工的な実例といっていい」この文章一読して意味がわかるだ
ろうか。
「ヤケルセンは流しの前に立って、櫛で髪をとかしていた。なんとしてもきれいにまとめてみせ
るとでもいうように、鏡に額を押しつけている。ちょうど、耳の上の髪を後ろになでつけている途
中だった。とはいえ、いまの彼は眠っていた。なんとか無意識に船の横揺れに柔軟に体を合わ
せて、まっすぐ立っている。いびきをかいていた。口をぽっかり開き、舌をわずかに外に突き出
している」これも立ったまま寝ているというのが意味不明で何度も読み返したのだが、やっぱり
立ったまま寝ているとしかとれない。そんなことが可能なのだろうか。
 デンマークの小説は初めてだった。正直面白くはなかったが、グリーンランドとの関係が少々
わかって、そこは興味深かった。



19.「ペンギンの憂鬱」(2004.9.30)アンドレイ・クルコフ 沼野恭子訳(図) ★ ’19/03/04
ヴィクトルは新聞の死亡記事「十字架」を書く本当は小説を書きたい作家。彼はペットのペンギ
ンと暮らして来た。そこへマフィアの娘ソーニャとベビーシッターのニーナが転がりこみ、ヴィクト
ルの生活は変わって行く。警官のセルゲイ、チンピラのリョーリャと次々人が関わってくるが、
ヴィクトルの望んだ生活は「孤独」でしかなかったのではないか。ペンギンのミーシャを南極へ
返してやる計画をたてるも、ミーシャを引き取りに行くこと叶わず赴いた港の船に乗りこもうとす
るヴィクトル「ぼくがそのペンギンです」
 ウクライナの小説は初読み。シヴィアな状況でもペンギンのいる風景はどこかユーモラスに
感じる。ヴィクトルは結局孤独になりたくてなっていたので、最後もやはり孤独になりに南極へ
行ったのではないか。私は逆のタイプなので孤独は怖いけどもな。



18.「顔のない娘」(1997.3.10)バーニス・ルーベンス 窪田憲子訳 (図) ★★ ’19/03/03
 アリスタは精神科医。娘が生まれたと聞いて喜んで花束(墓場から盗った)を持って病院へ行
くと、看護士からダウン症だと聞かされる。以来彼は娘の顔を見ることができない。その頃イー
ソゥという全身多毛症の男がアリスタのところへやってきた。何故かウマが合い家にいられなく
なったアリスタはイーソゥの家に転がり込む。アリスタは何とか娘ドリスの顔を見ようと努力する
も一向かなわない。妻ヴァージニアと離婚の危機に陥ってもあまりにも娘を拒否するアリスタに
妻には同情さえするようになり離婚はさけられた。そんな関係が5年も続いた幼稚園のお遊戯
会の日にドリスは誘拐されてしまう。
 最後はあまりにも悲しい。そこまで拒否する父親ってどうなんだろう。しかも努力はする。父性
がないわけではない。でも最終的に拒否する。人間って不思議な生き物だなと思う。



17.「テレビの嘘を見破る」(2004.10.20)今野勉 (図) ★★ ’19/02/27
 ドキュメンタリー番組の工夫とやらせの線引きをどこでするかで悩んでおられる。心配せずと
も今TVを観る人たちの中でテレビがガチで放送するなんてもう誰も思ってはいないでしょう。工
夫ややらせ込みでテレビを楽しんでいる。何故なら今は総カメラマン時代。偶然撮れた奇蹟の
映像などはもはやテレビより視聴者の方がネタを沢山もっている。それを報道番組では良く流
している。勿論撮影者の許可を得て。だからNHKドキュメンタリーが捏造したなんて今時それ
がどうしたの的な感想しか持たれないでしょう。事実が全く違うという場合以外は。



16.「ロシアより愛をこめて モスクワ特派員滞在日誌 1991-1994」(1995.3.5)金平茂紀(図)
★★★ ’19/02/26
前半は手紙の形をとっており、いつも最後に「ロシアより愛をこめて」と結ばれている。が、後半
手紙の余裕もなくなったのか日誌形式で書かれており、ここからが本音爆発といった感じだ。
 折しもソ連が崩壊、ロシアとなった激動の時代。ゴルバチョフからエリツィンに指導者も変わ
り、取材ががぜん多くなる。しかし行く先々でぶつかるのが中国人もかくやというロシア人の身
勝手さ。社会主義の抜けきらない権利の主張。しかし著者は一戦交えるのが面倒くさいのか
唯唯諾諾と要求をのんでしまう。
「ロシアの政争もどうでもいいやという気分になる」くらい疲弊していらっしゃる。ソ連、ロシアに
興味のある人なら読んでから行くことをお勧めしたい一冊。ちなみに私は行ったことありませ
ん。



15.「趣味は読書」(2003.1.25)斎藤美奈子 ★★★ (図) ’19/02/23
読者の代わりにベストセラーを読んでやろうという一見優しい本だが内容はベストセラーをぶっ
た切るという快刀乱麻ぶり。確かにタイトルは知ってるけど読んでない本ばかり。それを一つ一
つバッサリ切っているので痛快。おかげでバカを見ずにすんでよかった。しかし著者の読解力
もすごいと思う。これだけ思ったことを言語化できたら気持ち良いだろうなぁ。私なんぞ自分の
感想を言いあらわす言葉を探すのが面倒くさくなっている。いつからか粗筋すら本から借りてく
るようになってしまった。面倒くさがらずに言葉を探してできるだけ伝えるようにしよう。



「少女を殺す100の方法」(2018.1.20)白井智之 (図) ’19/02/21
 未読了。短編集なのだが、エログロがひどすぎて、読んでも何の為にもならんと思って最後
の一遍をのこして放棄。こんなもん好きな奴の気がしれない。



14.「裁判官に気をつけろ!」(2003.8.230)日垣隆 ★★(図) ’19/02/20
「これから起きてゆくであろう諸事件やニュースの本質を理解する”万能七つ道具”になるよう
努めます。また本書を通じて、明治時代のまま据え置かれた警報が、もうまったく使い物になら
なくなっている実態も明らかになってゆくはずです」
 トンデモ判決にモノ申す!という語り口だが、いくら書いても判決は覆らず、刑法は変わらな
い。もっと大きな運動を起こして明治時代の刑法で裁くなと訴えるべき。ただこれだけ言う著者
が弁護士かと思ったらジャーナリストだった。法学部は出てるけど。




13.「ひとつむぎの手」(2018.9.20)知念実希人 ★★★ (図) ’19/02/19
 「大学病院で過酷な勤務に耐えている平良祐介は、医局の最高権力者・赤石教授に、三人
の研修医の指導を指示される。彼らを入局させれば、念願の心臓外科医への道が開けるが、
失敗すれば…。さらに赤石が論文データを捏造したと告白する怪文書が出回り、祐介は「犯人
探し」を命じられる。個性的な研修医の指導をし、告発の真相を探る中、怪文書が巻き起こし
た騒動は、やがて予想もしなかった事態へ発展していく――。」
 一人の青年医師の成長物語として読後スッキリさわやかな気分になる。最近こんなミステリ
ないんじゃないだろうか。著者は現役医師なので救急や手術シーンが緊迫感がある。主人公
は医者としては満点の人格者なのだが、立場は後輩と同等というところに黒いものを抱えてい
るというのも人間らしくてよし。久々満点な本。ただミステリは薄い。ミステリと思わなくてもいい
んじゃないかな。



12.「笹まくら」(1974.7.30)丸谷才一 (図)★ ’19//02/17
「打ちのめされるようなすごい本」で米原万里が「笹まくらで打ちのめされなさい!」というほど
絶賛していたが…私には全く響かず。彼女とは本の趣味が違うようだ。
 戦争中、徴兵を忌避して日本全国逃避の旅を続けた杉浦健次こと浜田庄吉。20年後大学
職員として学内政治の波動のまにまに浮き沈む彼。20年前の杉浦と20年後の浜田が前後2
回ずつ入れ換わっており非常に読みにくい。これもどんな話しと言われるとテーマがわからな
い。



11.「チビのお見合い」(2000.11.30)室井滋 (図) ★ ’19//02/11
 薄っぺらい本だなーと思ったら中身も写真がほとんど。米原万里が絶賛してたのもわかるけ
ど。無類の猫好きなのだ。しかし飼いたくても飼えない身には目の毒だなぁ。チビは確かに可
愛い。ハンサム猫。発情期に恋したお相手は年増のおばさん猫だった。他に若くきれいな子も
いるのいるのに。チビはオバサンに恋してしまった。というところで終わるのでその後チビの恋
の行方はわからない。続編とかないのかな。



10.「錆びた滑車」(2018.8.10)若竹七海 (新) ★★★ ’19/02/11
 中山七里のおかげで久しぶりに本を買った。葉村晶シリーズは好きだし、読み返してもいい
かと思い、決めた。中山七里なんて買ってやんない。
 ヒロトの焼死というショッキングな事件の割に事件の解決がこんな終わり方でいいのかと思う
ぐらいあっさりしていた。どんな話しかと聞かれると困るくらいテーマはハッキリしてなかったよう
な。葉村シリーズそろえようかな、と思って一瞬「古本屋で」がよぎってしまった。本屋で少しず
つそろえていくとしよう。



9.「死に山 世界一不気味な遭難事故<ディアトロフ峠事件>の真相」(2018.8.30) ドニー・ア
イカー 安原和見訳 (図) ★★ ’19/02/10
「1959年、冷戦下のソ連・ウラル山脈で起きた遭難事故。登山チーム9名はテントから1キロ
半ほども離れた場所で、この世のものとは思えない凄惨な死に様で発見された。氷点下の中
で衣服をろくに着けておらず、全員が靴を履いていない。三人は頭がい骨骨折などの重傷、女
性メンバーの一人は舌を喪失。遺体の着衣からは異常な濃度の放射線が検出された。最終
報告書は「未知の不可抗力によって死亡」と語るのみ――。地元住民の「死に山」と名付けら
れ、事件から50年を経ても尚インターネットを席巻、われわれを翻弄し続けるこの事件に、ア
メリカ人ドキュメンタリー映画作家が挑む。彼が到達した驚くべき結末とは……!」
 上記のあらましを読んでピンと来る人もいるでしょう。これ某テレビ番組でやっちゃってたんで
すよねー。つまりこの本が手に届いた時私はもう謎の正体をわかってしまっていた…これほど
悲しいことがあろうか…テレビも考えて番組作ってほしいわ。これこそ明らかに購買読者を減ら
したと思うぞ。しかし著者の苦労を考え、興味ないながらも読ませていただきましたよ。著者の
筆力か翻訳の妙か、結構読ませる内容でした。遺族の話しとかその後とか、取材なしでは語
れないテレビよりエピソードは多かった。ただ、謎の正体はやはり映像で観た方がわかりやす
かったけど。本にも一応図解は載っているものの。
 つくづく、自然をなめてはいけないなぁと思った。




8.「中山七里七転八倒」(2018.8.30) 中山七里 (図) ★★★ ’19/02/07
 作家の裏話やこの人独特の仕事の仕方。一日一冊の読書と一本の映画鑑賞など面白いと
言えば面白いが、納得しかねるところもある。
 例えば図書館問題。図書館で借りれちゃうから売上が伸びないので、古本屋や図書館は
敵!みたいに書いてらっしゃるが、自称読書家としては古本屋や図書館に頼らず読みたい本
を片っ端から買っていったら破産するちゅーねん。決して敬意が足りないからではない。確か
に910人待ちのとかの本もあって、それらが全員買ってくれたら…と思う気持ちもわかるが、
特にミステリーは一度読んでネタバレしてしまったものは、そう読み返さない、というより二度と
読まない。買うに値わずという部分も確かにある。でもこれだけ怨まれてるとなると「わかった
よ、買ってやるよ!」と若竹七海の「錆びた滑車」と買った(何でや)。
 そして見た映画や読んだ本の感想をネットでバラまく意味もわからんと言うが、あんただって
「シン・ゴジラ」や「この世界の片隅に」をゴリ押ししとるやないか。しかもシアター・ルームを家に
作って映画三昧(仕事せえ、仕事)
 ちょっと中山七里という作家の本を疑いたくなってきたぞ。というのもこの人取材をしない。全
て想像力で書ききってるのはすごいのか何なのか。綿密な取材なしで音大や検察、社会福祉
など専門的な分野を描ききってるのはやはりすごいのかな…。ティム・バートンファンというのも
わかってそりゃ話し合わんな、とも思った。




7.「婚活中毒(2017.12.24)秋吉理香子 (図) ★★ ’19/01/26
「理想の男」崖っぷち女が紹介された運命の相手は連続殺人犯?
「婚活マニュアル」街コンで出会った美女の暴走に戸惑うマニュアル男は…
「リケジョの婚活」本命男を絶対に落とす「婚活ルール」の中見とは?
「代理婚活」息子の見合いで相手の母親に恋心を抱いた父親は…
以上4作どれも結末がどんでん返しがあって面白かった。さくさくと1日で読めた。どれが一番と
選べないくらいよいが、イヤミスとしては「理想の男」だな。




6.「この嘘がばれないうちに」(2017.3.20)川口俊和 (図) ★★ ’19/01/23
「コーヒーが冷めないうちに」の続編。映画のほうを見ていたので映画の方がよくできている印
象。
「過去にいられるのは、コーヒーが冷めるまでの間だけ」不思議な喫茶店フニクリフニクラにや
ってきた、4人の男達。どうしても過去に戻りたい彼らの口には出せない本当の願いとは?
第一話「親友」22年前に亡くなった親友に会いに行く男の話し。
第二話「親子」母親の葬儀に出られなかった息子の話し。
第三話「恋人」結婚できなかった恋人に会いに行く話し。
第四話「夫婦」妻にプレゼントを渡せなかった老刑事の話し。
 どうしても映画と比べてしまうが、ハッピーエンドがより濃く打ちだされている映画の方がいい
気がする。数と流が兄弟だというのが最後にわかる。映画ではいとこだったし、ミキも最初から
いる。母が過去から帰って来れなかった理由も納得いく語りで映画では描いてある。数が幸せ
になってもいいと思った瞬間要の幽霊は消えるが、それではやはり要が帰ってこなかった理由
が数にはわからないから、心から幸せになるとも思えない。やはり映画のほうがよかった。



5.「エドガルド・モルターラ誘拐事件 少年の数奇な運命とイタリア統一」(2018.8.25)デヴィッド・
I・カーツァー 漆原敦子訳 (図)★ ’19/01/20
「1858年、ボローニャ。異端審問官の命令によりユダヤ人商人モモロ・モルターラの自宅を警
察隊が突然訪れた。彼らの目的はモモロの6歳の息子エドガルドを家族から引き離し、時の教
皇ピウス9世のもとへ護送することだった。
 エドガルドはなぜ連れ去られたのか?ユダヤ人一家の悲劇は国際世論の同情を集めつい
には列強が乗り出すことになる。傑作歴史ノンフィクション」
 ユダヤ人VSローマ教皇。正直興味はない。誘拐事件よりイタリアがどのように統一されてい
ったかという話だ。ユダヤ人でも洗礼を受ければキリスト教徒となってしまい、宗教が異なる家
族から引き離され、キリスト教徒と暮らすことになる。その洗礼というのが至極怪しい。エドガル
ドが受けたのはとても洗礼とは言えないような代物だが、なぜそれが教皇の耳にまで入ったの
か。何故彼に白羽の矢がだったのか。言ってしまえば、その謎に答えはない。読めば読むほど
謎な事件だった。



4.「ミステリークロック」(2017/10/20)貴志祐介 (図) ★★★ ’19/01/17
「ゆるやかな自殺」「鏡の国の殺人」はテレビで観た。
「ミステリークロック」トリックが凝り過ぎてわかりにくかった。
「コロッサスのかぎづめ」トリックはわかるんだけども、そもそもの動機がおかしいような。そん
なに未練があったならヨリ戻せばよかったんでないのか、と。
テレビより原作の方が榎本径と青砥純子の対立がはっきりしてて、面白い。
”ぬ…「ぬーしゅ」とは言わない。ぬで始まる動詞は何だ”青砥純子のつっこみがよい。



3.「ホワイトコテージの殺人」(2018.6.29)マージョリー・アリンガム 猪俣美江子訳 (図)★★★
 2019/01/12
「1920年代初頭の秋の夕方。ケント州の小さな村をドライブしていたジェリーは美しい娘に出
会った。彼女を住居の「白亜荘(ホワイトコテージ)」まで送ったとき、メイドが駆け寄ってくる。
「殺人よ!」ジェリーはスコットランドヤードの敏腕警部である父親のW・Tと捜査をするが…
…。英国本格の巨匠の初長編ミステリにして、本邦初邦訳作。ユーモア・推理・結末の意外性
そのすべてが第一級!」
確かに面白い結末だったが、1920年代の話しというのが…また読みたいかというとそうでも
ない感じ。



2.「ツキマトウ 警視庁ストーカー対策室ゼロ係」(20180727)真梨幸子 (図) ★★ ’19/01/
09
「自己顕示欲の塊となって、ブログに日々よしなしごとを綴るダメンズ女。離婚したパートナー
の動向チェックに余念がない元妻、ささいなことで恨みを募らせていく反社会性パーソナリティ
障害の元同僚、妄想を爆走させてSNSを炎上させるアイドルオタク点……ふとした日常の違
和感、感情の掛け違いから、妄執に取り憑かれていく男女たち。詐欺、ストーカー、リベンジポ
ルノ、盗撮、盗聴点…「愛」という大義の下の暴力を、イヤミスの女王が執拗に炙り出す!」
連作短編集。少しずつ登場人物が関わってくるんだけど、誰が誰だか。




1.「「1968三億円事件 日本推理作家協会/編」(2018.12.10)下村敦史 呉勝浩 池田久輝 
織守きょうや(新) ★★★ 2019/01/08
「1968年(昭和43年)12月10日、府中で起きた「三億円事件」。白バイ警官に扮した犯人は
盗んだ三億円とともに永久に消えた。昭和を代表するこの完全犯罪に、人気のミステリー作家
5人が挑んだアンソロジー。事件に翻弄される者、助けられた者、模倣する者、犯人に恋する
者――。事件を題材に描く5つの物語は、謎の真相に迫れるのか?」
「楽しい人生」下村敦史
”則文は土砂降りの雨に打たれながらいつまでも新築の団地を眺め続けていた”
私はこの話が一番ありそうに思った。犯人は何らかの事情で三億円を使うに使えない状況に
なってしまったのではないか、と思う。
「ミリオンダラー・レイン」池田久輝
”俺たちは誰かが組み立てた犯罪を偶然その通りに実行しようとしていたのだ。”
”おれたちじゃなかった”
「欲望の翼」池田輝久
”俺はこの先、どうすべきだろう。いや、どうしたいのだろう。薄汚い洞窟に留まるのか、あるい
はもう去ってしまうのか……さぁどうする?日本人先生”
一番三億円事件と関係ない話し。舞台は香港、タイトルこれじゃあ期待してしまったけど、する
方がバカだわな。
「初恋は実らない」織守きょうや
”命の恩人だ。その人の乗った車は、煙と雨の向こうに走り去り、戻って来なかった。
 それが私の、初恋だ”
三億円事件の犯人を偶然見てしまった少女が犯人に恋してしまった。という話だが、一応事件
に関しては推理してあった。
「特殊詐欺研修」今野敏
「受講生に特殊詐欺をやらせてみるんだ。君らが審査員だ。その手口や技術を評価し、優秀な
者を表彰するんだ。抑止本部長賞を出してもらおう」
これも事件とは関係なし。
想像してたのはそれぞれの作家が事件を推理するというものだったが、その手のものはもう出
過ぎているからか、関係ない話が多かった。



ここから2019年です。

2018年は132冊でした。


132.「蝶のいた庭」(2018) ドット・ハチソン 辻早苗訳 (電)再読’18/12/25
 やっぱり「このミス10」には入って来たけど、そこまで面白かったかなぁと再読。これにしてもフ
ィツェックの「ナンバー23の消失」にしてもストーリー覚えてない。折角新刊を買ったのだから何
度読んでも損にはならぬ、と再読したわけだが、一回目は何を読んでいたのだろうと思うくらい
全く忘れていて、再読とはいえ初読と同じくらいに思えた。
 どういった話だったか覚えてられるようにもう少し記憶に残るようにする工夫がいる。とっくに
内容を忘れて再読すべき本はいくらでもある。でも新刊もやはり読みたいわけで。ジレンマ。



131.「文藝別冊 米原万里 真夜中の太陽は輝き続ける」(2017/08/30)KADOKAWA夢ムッ
ク ★★★ (新) ’18/12/19
 これはもうファンなら垂涎もの。彼女の短い人生を仕事を軸にして網羅している。私は一冊を
除いて全冊持っているが、その一冊は米原万里ロスに陥らないためにとっているようなもの。
いつか手にしてしまうだろう。これだけ毒舌で愛を振りまいていた人が何故かイトコの話はしな
い。妹ユリに子どもがいかたらめちゃくちゃ可愛がっていたのではないかと思うがそれもない。
親兄弟から離れていたのは両親の仕事の関係で絶縁されていたのかとうがった見方をしてし
まう。が、豪放磊落さには頼りにならん親戚より、頼りになる友人が山といたであろうから困り
はしなかっただろう。私も心臓に毛を生やして少しでも万里に近付きたい。でも私が毒舌をふ
るえばただの嫌われ者。万里だからズバッと言ってアハハと笑える。やはり憧れはしても振る
舞いはマネしないようにと誓った。




130.「上手なミステリの書き方教えます」(2006/06/069浦賀和宏 (古) ★ ’18/12/16
 「友達もいない。女にもまったくもてない。唯一仲良くしてくれた大切な妹は、暴漢に撃たれ意
識不明の重体。心和むのは、自分の部屋でガンプラを作っている時くらい…。
 不幸の女神に愛された男、八木剛士の前人未到なほど前途多難な恋。やっと訪れた「青春」
が剛士にもたらすものは?結末圧倒的感動必読!!」
 ってまぁよく書けたもんだこんなくだらない小説。最低最悪。今まで読んだ中で最悪かもしれ
ん。何せタイトルと内容が全然関係ない。タイトルだけで買った私も私だが。とにかく古本とは
いえ金と時間返せ!駄文に払う金なんかない!なんで出版されたのか不思議…。



129.「ミステリーの書き方」(1984)アメリカ探偵作家クラブ著 ローレンス・トリート編 大出健
訳 ★ (古) ’18/12/12
 内容は参考になるものではなかったが、こんなにミステリ作家がいるのかと驚いた。しかも知
ってる名はパトリシア・ハイスミスただ一人。1984年にはP・コーンウェルもジョン・グリシャム
もマイクル・クライトンもジェフリー・ディーヴァーも頭角を現していなかったか。しかしまだこれだ
け未邦訳の作家がいるのか、と翻訳家からするとお宝ザクザク感がちょっと垣間見える。私が
訳す日が来るのかどうかわからないけど。…ないな。



128.「物語のおわり」(2014/10/30)湊かなえ (図) ★ ’18/12/09
 連作短編集。全く面白くなく読み進めるのがつらかった。量がある分余計。



127.「豆の上で眠る」(20170701)湊かなえ (図) ★★ ’18/12/08
 「小学校一年生の時、結衣子の二歳上の姉・万佑子が失踪した。スーパーに残された帽子。
不審な白い車の目撃証言、そして変質者の噂。必死に探す結衣子たちの前に、二年後、姉を
名乗る見知らぬ少女が帰って来た。喜ぶ家族の中でしかし自分だけが、大学生になった今も
微かな違和感を抱き続けている――お姉ちゃん、あなたは本物なの?辿りついた真実に足元
から頽れる衝撃の姉妹ミステリー」
 私は万佑子を探す母親の異常なまでの方法から、代理ミュンヒハウゼンかと思ったが、赤子
の取りちがえとは。しかも万佑子の方があっ、そうですか、と親にくらがえったのもあまり納得
いかない。小学生って思ってるよりバカだと思うし。衝撃と言うより疑問を覚えたミステリだっ
た。



126.「カウントダウン」(2017/03/11)真梨幸子 (図)★★★ ’18/12/06
 久々に納得のいくドロドロのイヤミスでした。「余命、半年――。海老名亜希子は「お掃除コン
シェルジュ」として活躍する人気エッセイスト、50歳独身。歩道橋から落ちて救急車で運ばれ、
その時の検査がきっかけで癌が見つかった。潔く”死”を受け入れた亜希子は”有終の美”を飾
るべく梅屋百貨店の外商・薬王寺涼子とともに”終活”に勤しむ。夫を略奪した妹との決着や”
汚部屋”の処分など、過去から突きつけられる数々の課題に直面する。亜希子は”無事に臨
終”を迎えることができるのか?!」
 誰かが誰かの悪口を常に言っている。日常の悪口と違って一応小説内の練られた悪口なの
で尚更小気味いい。犯人は二転三転するも納得いくトリックであったし、さもありなんという感じ
だった。
 しかし亜希子はお掃除コンシェルジュとして何千万も稼ぎ、本にTVに売れっこだというのに死
を前にして「私は何も成し遂げていない。私には何もない」という。妹・美奈子の方が私に近い
と思った。



125.「世界を売った男」(20160618)陳浩基 玉田誠訳 ★★★ (図) ’18/12/05
香港西区警察署の許友一巡査部長は、ある朝、マイカーの運転席で目が覚めた。酷い二日
酔いどうやら自宅に帰らず車の中で寝込んでしまったらしい。慌てて署に向かったが、どこか
街の様子がおかしい。ポスターを見ると2009年と書いてある。「バカな、昨日は2003年だっ
たのに?!」許巡査部長は一夜にして6年間の記憶を失っていた。呆然とする許だがちょうど
そこに女性雑誌記者・蘆沁宜が現れ、許が機能まで捜査していた夫と妊娠中の妻が惨殺され
た事件の取材で許と会う約束をしたといいう。6年前の事件の真相と己の記憶を追い求める許
の捜査行が始まる。奇想天外な発端と巧妙なプロットで圧倒的な指示を受け、第2回島田荘司
推理小説賞を受賞」
 どこか知ってるような話だなー、と思ったら’17/12/30に読んでたー!



124.「ご用命とあらば、ゆりかごからお墓まで 万両百貨店外商部奇譚」(2018/1/15)
真梨幸子 (図) ★ ’18/12/01
 残念ながらイヤミスとして記憶にも残らない薄い印象。一会社内の噂話とかスケールが小さ
すぎる。オチも特にオヤミスでもなかった。



123.「護られなかった者たち」(2018/01/15)中山七里 (図) ★★★ ’18/11/30
 「仙台市の福祉保険事務所課長・三雲忠勝が手足や口の自由を奪われた状態の餓死死体
発見された。三雲は公私ともに人格者として知られ怨恨が理由とは考えにくい。一方物取りに
よる犯行の可能性も低く、捜査は暗礁に乗り上げる。三雲の死体発見から遡ること数日。一人
の模範囚が出所していた。男は過去に起きたある出来事の関係者を追っている。男の目的は
何か?なぜ三雲はこんな無惨な殺され方をしたのか?罪と罰、正義が交錯した先に導きださ
れるのは、切なすぎる真実――。」
 早々に犯人バラしちゃって、今回はミステリじゃな社会派サスペンスかぁ?と思ったらやはり
ありましたよ、大どんでん返し。ヤラれたー。福祉保険事務所の仕事が大変なのはわかる。私
も一枚かんでたから。でも不正受給があるのも事実。不正受給を認め、本当に必要な人に行
きわたらないとは、本当に法治国家か、日本。しかしケースワーカーに全てを見抜けというのも
酷というもの。格差が広がればどんどん必要な人が出てくるだろう。せめて自分の親くらいは
面倒みようと思う。ミステリベスト10に入ってないのがふっしぎー。



122.「海を抱いて月に眠る」(2018/03/25)深沢潮 (図) ★★ ’18/11/27
 ノンフィクションのようなフィクション?在日一世二世三世の苦悩・苦労を描いてある。幸せな
日本に生まれた幸せな私には今一つピンと来ない。日本はひどいと言いつつ帰らない在日に
やはり疑問を持たずにおれない。いちいち日本めー!と怨むより先に自分らの国の不甲斐な
さを感じよ。とやはり突き放して考えてしまうのは、まわりに一切在日がいないからか。
 在日でも頑なに母国名を名乗る者と、日本に帰化する者や国籍は変えず名前だけ日本風に
名乗る者など多様である。しかし今まで戦争から、貧しい母国から逃げてきたという人が多く、
強制労働で無理やりつれてこられた人というのは見たことがない。アメリカンドリームを日本人
が夢見るように朝鮮人は日本で一発当てると言う夢を見る。何故北や中国でなく日本なのか。
つい登場人物に聞いてみたいことが多くなる。



121「日航123便墜落の新事実 目撃証言から真相に迫る」(2017/07/30)青山透子 (図)
★★★ ’18/11/26
・相模湾上空で機外を映した写真に映り込んでいるオレンジ色の物体
・静岡県藤枝市上空で低空飛行中の日航123便の胴体腹部に付着しているように見えた赤
い楕円や円筒形のもの
・赤い飛行機を目撃した地元の人たち
・完全炭化した遺体から推測できることとして、ガソリンとタールを混ぜたゲル化液体を付着さ
せる武器を使用した可能性があるのではないだろうか
・非発表のファントム2機による墜落前の日航123便追跡が明確になった。
・墜落直前に赤い飛行機と思われた楕円や円筒形に見える物体を目撃した人がいる
その他ブラックボックスの全部を公表しない。水深160Mと深くないところにあるのに残骸を回
収しようとしない等。
 要するに日米合同演習中ミサイルが誤って123便をロックオンしてしまい何とか引き離そうと
旋回するもできず爆発。自衛隊はガソリンで現場に残るオレンジの破片を片づけたため遺体
は炭化。身元確認を更に困難にさせた。
 最初は中曽根(当時)首相や大臣に怒りの矛先を向け、この人は誰かのせいにして怒りをぶ
つけないとやりきれないのかな、と思っていたら、後半は物証を次々と上げ、もはや事故では
なく事件としか言えない様相を呈している。しかし世間は未だ尾翼の損傷(外的要因か整備不
良かは未発表)としか認識できていない。もっと声高に言ってもいいのではないかとも思うが、
脅迫もあるのかもしれない。せいぜい本を出版することでしか一矢報いることができないのか
もしれない。文春砲はスキャンダルばかりでなくたまには、まともな事件に向けてはどうかと思
う。



120.「白墨人形」(2018/05/25)C.J.チューダー 中谷友紀子訳(図) ★★★ ’18/11/21
 あの夏。僕たちが見つけた死体。そのはじまりは何だったのか。僕たちにもわからない。み
んなで遊園地に出かけ、あの悲惨の事故を目撃したときか。白墨のように真っ白なハローラン
先生が街にやってきたときか。それとも僕たちがチョークで描いた人形の絵で秘密のやりとり
を始めたときか――あの夏。僕には4人の友達がいた。太り気味のギャヴ、不良を兄に持つミ
ッキー、シングルマザーの息子ホッポ、そして牧師の娘ニッキー。でも街では悲劇にいたる不
和が広がり始めていた。僕の母の診療所への反対運動をニッキーの父が煽り、ミッキーの兄
に悲劇が振りかかり、少女の妊娠騒ぎが起こり、そして、あの事件が起きた。あの子が殺され
た。森で。バラバラになって。見つけたのは僕たちだった。頭部は今でも見つかっていない。
 そして現在。白墨人形の絵とともに、あの事件が蘇る。事件は解決したはずなのに……。
 光に道が少年の物語と、痛ましい犯罪悲劇とが交錯し、最終ページに待ちうける最後の一
撃。抒情とたくらみに満ちた新鋭の傑作サスペンス。
 以下ネタバレあり。文句なし。完璧に面白いミステリだった。久々満点のミステリに出会った
なぁ。しかし一つ自分ではわからないことが。ファット・ギャヴの誕生パーティーにチョークのプレ
ゼントを置いたのは誰?どっかに出てきたかな。ミスター・ハローラン?最後の一行がわから
なくて結局ググってしまった。わかれば納得。自然に分かった方が確かに衝撃はある。早々に
頭部を持ちかえったのあエディじゃないかと思っていたらネットで他の人の感想を読んだら、や
っぱりほとんどの人はわかったみたいだ。所詮自分の推理力はこの程度か。とはいえ人にも
お勧めできる良作のミステリでした。




119.「死の教訓」(上)(下)(.2002/03/15)ジェフリー・ディーヴァー 越前敏弥訳 (古) ★★
 ’18/11/15
 ディーヴァーがブレイク前の作品ということでウリの疾走感がなく、やたら冗長に感じた。面白
くないわけではないが。
「満月の夜、最初の事件と同じ場所に新たな犠牲者証拠隠滅の嫌疑がかけられ捜査が空転
する中、殺人鬼の凶手はビルの愛する家族にまで迫る。誰も信じられない――予測不可能の
ドンデン返しの連続にラストまで目が離せない。究極のサスペンス・ミステリー!」
 コードが扱う事件とコードの家族の問題と二つの方向から物語が進むが、このコードの家庭
問題が結構面白く、メインの殺人事件より気になってしまうくらいである。9歳の長女セアラは
発達障害なのか知恵遅れなのか学校の授業について行けず登校拒否する。知恵遅れと思い
たくない母はいろんな教育者・精神科医へとセアラをひっぱっていく。母親ってこんなものなの
だなぁと思った。メインの殺人事件のほうは、あ、そうですか、という感じでした。



118.「開けられたパンドラの箱 やまゆり園障害者殺傷事件」(2018/07/20)月刊「創」編集部
(図) ★★ ’18/11/13
 2016年、19人の障害者を刺殺した衝撃的なやまゆり園事件。障害のある人たちの恐怖が
いまだに消えないのと対照的に一般の人たちにとっては事件は過去のものになりつつあるか
に見える。植松聖被告の動機も解明できず、事件を二度と起こさないためにどうするかという
社会的対策も何も講じられない状態で、この事件をこのまま風化させてよいのだろうか。
 あちこちで聞くヒトラーの優生学。被告も要はそういうことだと。では優生、劣性の線をだれが
ひくのか。被告は自分の名前、住所が言えない「失心者」を殺すべきという。障害者より人の心
を失った極悪人の死刑を進めてはいけないのだろうか。そのあたりもっとつっこんで聞いてほ
しかったが、植松自身の声はあまり多く取材されていない。



117.「死体は嘘をつかない 全米トップ検死医が語る死と真実」(20180131)ヴィンセント・ディ・
マイオ ロン・フランセル 満園真木訳 (図) ★★ ’18/11/12
 半分は自慢みたいなもの。それよりもっと違う事件の本質や検死官が見破ったものとかを多
く書いているかと思った。思っていたのと違う本だった。代理ミュンヒハウゼン症候群がこんな
に見抜けないものとは。それらしき人が二人載っているが、そいつがいるときしか発作が出な
いとかすぐわかりそうなものなのに。



116.「瑕疵借り」(20180515)松岡圭祐 (図) ★★★ ’18/11/09
 訳あり物件に住みこむ藤崎は不動産業者やオーナーたちの最後の頼みの綱。原発関連
死、賃貸人失踪、謎の自殺、家族の不審死…どうすれば瑕疵を洗い流せるのか。男はたぐい
まれなる嗅覚で賃貸人の人生をあぶりだし、瑕疵の原因を突き止める。誰にでも明日起こりう
るドラマに思わず涙する”賃貸ミステリ”短編集。
 同じ職業を扱った「東京ロンダリング」よりもこっちの方がずっと読ませる。先住人の過去を
探るというのが少々強引ではあるが、心情的に知りたいと思うこともあるだろう。ミステリにして
短編なので展開も早く飽きさせない。是非シリーズ化してほしい。



115.「クロク、ヌレ!」(20080904)真梨幸子 (図)★★ ’18/11/03
 イヤミスの女王がイヤミスじゃない。当事者たちは会社を首になってもケ・セラ・セラと気にも
していない。伏線の回収漏れか私の不注意かわからないが5人娘の遺産相続はどうなったん
だろう。故人がさぞやドロドロの骨肉の争いになるだろうと期待していたのは、開けてみたら負
債だらけだったというシーンでもう終わったのだろうか。そうかもしれない。長女と次女に一番
多く渡るようにしていたはずがこの二人が一番負債を背負ってしまったとあるから。
 肝心の彰夫もしまいにゃ脇にどかされているからブームも失敗いしたということか。それぞれ
のキャラクターの結末が分かりづらいと言うか、あっさりしているのでイヤミスと思えない。たま
にはソフトランディングもするということか。



114.「火花」(2013/3/15)又吉直樹 (図) ★★ ’18/11/01
 どうせ芥川賞なんか面白くないと思ってたからか思ったより面白かった。理屈っぽい文章も慣
れれば読みやすくなった。ただ主人公らが芸人なので主役の徳永がどうしても又吉に思えてな
らなかった。徳永が先輩と慕う神谷はウーマンラッシュアワーの村本をイメージしていた。
 割と起承転結がある方だった。ただやはり結がちゃんと終わってないというか神谷が「ほんま
どうしよう」というところから抜け出せずに終わっているのがどうしようもない。こいつが終始一
貫してしょうもない奴で、どんどんどうしようもなくなり、最後は放り出されたような感じにさえ受
け取れる。もう少し神谷にもはっきりとした変化が(巨乳じゃなく)ほしかった。



113.「さくら日和」(1999/07/20)さくらももこ (図)★★★ ’18/10/30
今年亡くなったさくらももこのエッセイ。かなり面白いと聞いてはいたが、本当に面白かった。ま
さか健康オタクで自分が亡くなった後没後フェアの企画を冗談で進めていた18年後に本当に
死ぬなんて思ってなかったろう。息子は成人しているだろうし。母やヒロシは健在かわからない
が、何だか皮肉だなーと思うところの多かった。私はちびまる子ちゃんもコジコジも読んだこと
がないので特に親近感もなかった。それなのにこんなに感じる喪失感。
 最初に「報告」として離婚したことが書いてあったが夜逃げのように脱出したらしい。漫画家っ
て東村アキコや内田春菊にしてもろくでもない男をつかまえがちなのは何故だろう。売れっこな
のに金狙いのDV夫かどうかは知らんがもれなく離婚しているような気がする。



112.「元年春之祭」(2018/9/15)陸秋槎 稲村文吾訳 (購入) ★ ’18/10/24
 前漢時代の中国。かつて国の祭祀をになった名家、観一族は、春の祭儀を準備していた。そ
の折、当主の妹が何者かに殺されてしまう。しかも現場に通じる道には人の目があったという
のに、その犯人はどこかに消えてしまったのだ。古礼の見聞を深めるため観家に滞在してい
た豪族の娘、於凌葵は、その才気で解決に挑む。連続する事件との関係と、前当主一家惨殺
との関係は?漢籍から宗教学まで、あらゆる知識を駆使した推理合戦の果てに少女は悲劇の
全貌を見出す――気鋭の中国人作家が読者に挑戦する華文本格ミステリ。
 ツイッターの前評判でハードルを上げてしまったか。とにかく漢詩が難しくて読みにくい。読者
への挑戦が2回もあるのだが…。こっちを向いてた人が実はあっちを向いてたとか、動機はや
っぱり理解できないというか…そんな動機で殺された方はたまらないというか。新本格ってこん
なもんなの?とにかく翻訳した人がお疲れ様と言う感じ。後の参考になるかと思って買ったんだ
けど……図書館でよかったかな。



111.「暗黒中国」からの脱出 逃亡・逮捕・拷問・脱獄」(20160620)顔伯鈞 安田峰俊編訳
(中古) ★★ ’18/10/19
 腐敗した中国共産党官僚の私財公開を求める「公盟」。メンバーが次々と逮捕される中、私
は逃亡を決意した。腐敗しきった習近平独裁体制に声を上げた若きエリートは、たちまち弾圧
の対象となる。度重なる逮捕と拷問に耐え、彼は自由と民主化のため仲間たちと逃亡を続け
る。すさまじい人権侵害と闘い続ける若者群像を描いた現代の「水滸伝」!
中国にも人権・民主化を叫ぶ人々はいるが、ことごとく当局に捕まる。でも人海戦術ならあっと
いう間に共産党なんて倒せそうなもんなのに。何故ここまで苦しいのだろう。


「コードネーム・ヴェリティ」(2017/3/24)エリザベス・ウェイン 吉澤康子訳 (図) ’18/10/17
第二次世界大戦中、イギリス特殊作戦執行部員の女性がスパイとしてナチスの捕虜になっ
た。彼女は親衛隊大尉に、訊問をやめるかわりに、イギリスに関する情報を手記にするよう強
制される。その手記には、親友である女性飛行士マディの戦場での日々が、まるで小説のよう
に綴られていた。彼女は何故手記を物語風に書いたのか?さまざまな謎が最後まで読者を翻
弄する傑作ミステリ。(裏表紙より)
 これは読めませんでした。半分でギブアップ。誰が誰やら早々にわからなくなって、読むのが
苦痛になって飛ばし読みを初めて、ついにギブ。話が面白くないというのが一番の原因だった
のだけど。翻訳者もこんなおもろない本任されてかわいそうに、と思ったら翻訳者の持ち込み
(翻訳者が本を見つけてきて出版社に売りこんだ)と知ってびっくり。そして本国ではヤング・ア
ダルトに区分されていて(最近はジュブナイルとは言わないようだ)賞も沢山取っているらしい。
その面白さがわからなくて残念。そして「驚愕の真実、慟哭の結末」も当然分からず更に残念。
どうにかしてもうちょっとがんばりたかったが、いつまでたっても面白くならないのでイライラして
やめた。もっと素早く読者をつかんでくれなきゃぁ…。



110.「がん消滅の罠 完全寛解の謎」(2017/01/26)岩木一麻 ★★(図) ’18/10/14
 第15回このミス大賞受賞作。審査員絶賛であるが、自分には医療専門用語がガンガン出て
きてがん消滅のトリックがわかってもあー、そうですかい、くらいにしか思えなかった。夏目はと
もかく羽島の口調が女っぽく、途中え、こいつ女?とか思ってしまった。
 ラスト1行も一気読みしてたらうなるところかもしれないが、なかなか読み進めなかったので、
「え、宇垣?誰それ?」となってしまった。むしろ羽島の娘の仇というカラクリのほうが妊娠関連
だったからか、ほう!と感心した。そんなことがあるのね、と。自分としては「大賞」というほどで
はなかったかなぁと。



109.「祝言島」(2017/07/31)真梨幸子 ★★ (図) ’18/10/09
著者最長編じゃないだろうか。しかし、はっきり言ってデキは今一つ。もう誰が誰やらこんがら
がって、多重人格だろうなーと思ったけど、え、こいつも?!というくらい多くて、ギブ。最後はた
だダラダラ読んでただけ。



108.「ナミヤ雑貨店の奇蹟」(2012/3/30)東野圭吾 ★★★ (図) ’18/10/6
 翔太、敦也、幸平が忍びこんだ閉店して久しい「ナミヤ雑貨店」。しかし誰もいないこの店の
郵便受けに手紙が投かんされた。内容は悩み相談だった。3人は悩み相談にのるうち、不可
解に思うことがあった。どうやらこの手紙は約30年前のもののようだ。ナミヤ雑貨店は一夜の
タイムマシンとなっていた。
 強引なファンタジーながら、ファンタジー嫌いの私でも読み進められたのだから、やはり東野
圭吾はすごいな。話が進むにつれ人間関係も明らかになっていく。最後も納得のいくさわやか
なラストだった。



107.「闘う君の唄を」(2015.10.30)中山七里 ★★★ (図) ’18/10/4
 喜多嶋凛は新人の幼稚園教諭。赴任先の幼稚園で新入生3才児のクラスを任されるが、同
僚・園長の保護者に対する弱腰な態度に驚く。遠足の行き先を変更しろ、ウチの子が他の子
をいじめるはずはない、発表会の演目は「白雪姫」しかも園児は全員キャスト。モンスター・ペ
アレントに対抗する凛に同僚たちは冷ややかだったり後押ししてくれたり。凛が幼稚園に慣れ
た頃、強面の怪しい男が現れる。15年前の幼児連続殺人事件を捜査していると言う刑事だっ
た。犯人はつかまり獄死している事件を何故調べているのか。そのうち凛と15年前の事件の
関係が明るみになる。
 「テミスの剣」の渡瀬刑事が登場してから話は加速度を増し、怒涛の展開になる。前半はVS
モンペで後半はVS全員。よく形勢逆転できたものだ。物語の構成力は見事。
 因みに中島みゆきの「ファイト!」から着想を得たとか。だからこのタイトルか。



106.「氷菓」(2001)米澤穂信 ★ (図) ’18/10/3
 ラノベのように中身もボリュームも薄っぺらい。史実を基にしたとあったけど、もはやどうでも
いい。この古典部シリーズ、全くそそられない。ここから今やこのミス1位の「満願」を書いた作
者とは思えないが、そんな作家も最初はしょーもなかったと考えると面白い。太刀洗万智のシ
リーズを早く読みたい。



105.「覆面作家」(2017/7/17)大沢在昌 ★ (図) ’18/10/02
 「幽霊」「カモ」「確認」「村」「イパネマの娘」「大金」「覆面作家」収録。
 ミステリがちょっと入っているものもあるが、全くミステリでないのもある。ちっとも面白くなかっ
た。忘れて再度手に取らないように気をつけよう。



104.「テミスの剣」(2014/10)中山七里 ★★ (古) ’18/09/29
 豪雨のよるの不動産業者殺し。強引な取り調べで自白した青年は死刑判決を受け、刑事・
渡瀬は真犯人がいたことを知る。隠ぺいを図る警察組織の妨害の中、渡瀬は一人事件を追う
が、最後に待ちうける真相は予想を超えるものだった!どんでん返しの帝王が司法の闇に挑
む渾身の驚愕ミステリ。
 この作家にスカはないが、今回は重かった。難しい言葉も出てくるし、正直めちゃめちゃ堅苦
しかった。なるほど冤罪はこうして作られるのか、と思ったがその後の渡瀬の単独行動はちょ
っと無理が。最後のどんでん返しも「え?そんなことで?」という理由だったので、あまりヤラレ
タ感はない。次はもう少しライトなものを読もう。冤罪モノはしんどいわ。



103.「高校入試」(2013/6)湊かなえ ★★ (古) ’18/09/27
県立有数の公立進学校・橘第一高校の入試前日。新任教師・春山杏子は教室の黒板に「入
試をぶっつぶす!」と書かれた張り紙を見つける。迎えた入試当日。試験内容がネット掲示板
に次々と実況中継されていく。遅れる学校側対応、保護者からの糾弾、生徒たちの疑心。杏
子たち教員が事件解明のため奔走するが……。誰が嘘をついているのか?入試に関わる全
員が容疑者?人間の本性をえぐり出した、湊ミステリの真骨頂!(裏表紙より)
 最初に人物相関図があって、ズラリと登場人物が並んでいるのを見たときは、あ、絶対こん
がらがる、と思ったが、読んで行くとさほどでもなかったのは、さすがだな、と。とはいえ、やは
り、登場人物は多い。ドラマ用に書かれた脚本を小説化したというからドラマも見てみたくなっ
た。



102.「天使の遊戯」(2004/02/15)アンドリュー・テイラー 越前敏弥訳 ★★ (古) ’18/9/26
 晩秋のロンドンで4歳の少女ルーシーが何者かにさらわれた。誘拐犯からの接触がないま
ま、翌日、切断された手だけが発見され、警察を嘲笑うかのように、その後も凶行は連続す
る。だが犯人の狙いは想像を絶するものだった!最後に明かされる衝撃の事実が事件を一
変させる戦慄のサスペンス!(裏表紙より)
 ルーシーの母親サリーは牧師、父親マイケルは刑事。エディ&エンジェルの誘拐コンビの狙
いがなんだったのかは私にはわからなかった。3部作の一作目。エンジェルという女の正体や
狙いは後にわかってくるのだろうか。今作では描かれてはいないので、尻切れトンボな感じが
する。エンジェルにめった刺しにされて死ぬエディひたすら哀れ。別に小児愛性者でもないの
に。いろいろ謎を残して続編に続くのだろうか。訳者の名前で選んだ本なので2,3作目を読む
かは…ビミョーだな…。



101.「凍える墓」(2015/01/25)ハンナ・ケント 加藤洋子訳 ★★ (図) ’18/09/22
 1829年アイスランド。殺人罪で死刑宣告を受けたアグネスは刑執行までの間を行政官ヨウ
ンの農場で過ごすこととなった。ヨウンの家族は彼女を恐れ、またアグネスの魂を導く役を担う
牧師補トウティも、心を閉ざした彼女に戸惑う。しかし不器用だが真摯な人々との生活の中で
アグネスは、少しずつ身の上を語りだすのだった……。実在したアイスランド最後の女性死刑
囚を描いた渾身の物語。
 アイスランドは人名地名が読みにくい。マグノスドゥティル、グドモンドゥティル、グッドルナルツ
ヤーデュルなどなど。それはさておき。事実を基にしたフィクションとあるけど、どこまで事件に
肉迫したものかがわからない。2013年には映画化されると言う話だったけど(主演はジェニフ
ァー・ローレンス)実際映画化されているのかわからないし。
 物語ではアグネスはフリドリクの共犯となっているが実は冤罪ということなんだけど、それも
事実なのかどうか?だとしたら可哀想なことだ。アイスランドというとビョーク主演の「ダンサー・
イン・ザ・ダーク」が思いだされる。アグネスは粛々と死刑を受けたということらしいけど。アイス
ランドの島の閉塞感たっぷりで重苦しいので読み進めるのに苦労した。
 ちょっとググったらまだ映画にはなっていないようです。観たかったのになぁ。



101冊目となるはずだった本があるのですが、図書館から借りた本が汚すぎて。開くと異臭が
するし。というわけで、読まずに返却します。たまにこういうことがあるのですね、図書館は。



100.「その鏡は嘘をつく」(2013/12/10)薬丸岳 ★★ (図) ’18/09/18
 ちょっとややこしかった。問題解決の時は真実をたたみかけるように一気に明かされるの
で、何が何やらという感じで。ペットのことなんか忘れとったわ。もうよく覚えてないし。



99.「ガラスのキリン」(1997/8/25)加納朋子 ★★ (図) ’18/09/16
 連作短編集。最初の方は小さなミステリを養護教員神野先生が看破するのが面白かった
が、最後の「お終いのネメゲトサウルス」は何だか話がグダグダ。(以下ネタバレあり)安藤麻
衣子を殺した犯人は何故かあっさり見つかるし神野先生はわけわからんこと言うし、野間直子
とその父親が探偵役。安藤麻衣子は美貌で頭のいいちょっと傲慢な少女。そんな彼女が通り
魔に殺された。この事実が全ての話のベースにあり、終いにはその犯人を見つけ動機解明が
大筋なのかと思いきや、違った。犯人は全く関係のない人物で動機もなんとなく、と肩すかし。
「ガラスのキリン」「三月の兎」「ダックスフントの憂欝」「鏡の国のペンギン」「暗闇のペンギン」
「お終いのネメゲトサウルス」収録。



98.「雪の鉄樹」(2013.4)遠田潤子 ★★ (図) ’18/09/14
 祖父と父が日々女をつれこむ、通称たらしの家で育った庭師の雅雪は、二十歳のころから
十三年間、両親のいない少年・遼平の面倒を見続けている。遼平の祖母から屈辱的な扱いを
受けつつも、そのそばにいるのはある贖罪のためだった。雅雪の隠して来た過去に気付いた
遼平は、雅雪を恨むようになるが……。愛と憎しみの連鎖の果てに、人間の再生を描く衝撃
作。
 不幸を描くならもっと徹底して不幸な方がいい。中途半端な感じ。最近の作品は過激なのが
多いからだろうか。雅雪も遼平も何のかんの行っても貧困ではないから今一つ不幸感が足り
ない。家と金があるんだからいーでしょーよ、と思ってしまうのだ。そしていい人が多すぎる。土
台雅雪が遼平の面倒を見る必要はないわけで。特殊な環境で育った人間にしてはいい人すぎ
て説得力ない。でも自分がこの本を何故読もうと思ったのかそれが謎だ…。



97.「裁判の非情と人情」(2017/2/17)原田國男 ★★ (図) ’18/09/12
 裁判官の苦労話。裁判官の仕事量に驚いた。家に持って帰ってまでやらねばならないとは。
残業手当がつかんじゃないか、と思ったがやはり給料は高いらしい。でも医者と違って新しい
法律や過去の判例を常に勉強し続けなければいけないのは、やはり大変で頭のいい人でしか
できない仕事だと思った。



96.「罪の声」(2016/08/02)塩田武士 ★★ (図) ’18/09/11
 これは自分の声だ。京都でテーラーを営む曽根俊也はある日父の遺品の中からカセットテー
プと黒皮のノートを見つける。ノートには英文に混じって製菓メーカーの「ギンガ」「萬堂」の文
字。テープを再生すると自分の幼いころの声が聞こえてくる。それは31年前に発生して未解決
のままの「ギン萬事件」で恐喝に使われた録音テープの音声とまったく同じものだった。――未
解決事件の闇には、犯人も、その家族も存在する。家族に時効はない。今を生きる「子どもた
ち」に昭和最大の未解決事件「グリ森」は陰を落とす。(オビより)
 おととしの「このミス」1位で去年の4月に図書館に予約した時点で900人待ち。やっと来まし
た。しかしハードルを上げ過ぎたかも知れない。思ってた話とは違った。もっと事実に肉迫した
ものかと思ったけど、それじゃノンフィクションになってしまうか。飽くまで小説だからして。こうい
う考え方もありなんだなぁ、といった程度だった。「グリコ・森永」事件をテーマにした作品は他
にもあると思うが中でも内田康夫の作品のあとがきで「犯人は複数。途中で仲間割れしたから
終結した」という推理にほーと唸ったことがあったが、今では複数説は当たり前なようだ。現実
は一向に捜査は進まず時効を迎えた。もっと詳しいことが知りたいけど、下山事件や本能寺の
変は新説が未だに出てくるのに、この事件はないなぁ。どうしても新しいネタがでてこないのだ
ろうか。



95.「朝顔の日」(2015) 高橋弘希 ★ (図) ’18/09/07
 幼馴染の早希と結婚した凛太。昭和16年。肺を患った妻は入院。毎日見舞に訪れる夫。忍
びよる戦争の足音。で、それがどうしたという…。最初から最後までこう。治療が思うようにい
かないところで、妻が亡くなるのか、泣かせにいくパターンか?と思ってもさにあらず。凛太が
淡々としているので感情移入もできず。何でこの本を借りたのかわからない。芥川賞候補作と
いうのだけ納得のつまらなさだった。



94.「猿の見る夢」(2016)桐野夏生 ★★ (図) ’18/09/06
 昼の連続ドラマのようなドロドロな内容。話がどう転ぶか予想のつかない展開で一気読み。た
だ最後だけブツリと切れた感じで読者置いてけぼり。ラストらしいラストにしてほしかった。そこ
だけ不満。



93.「聖母」(2015)秋吉理香子 ★★ (図) ’18/09/05
 幼児がスーパーから誘拐され遺体で発見された。証拠は一切残されてなく、捜査は難航し
た。普通の高校生・真琴は剣道に打ち込みつつ、ある衝動を抑えられずにいた。これ以上書く
とネタバレになるので、ここまでにします。文才なくってすみません。
 漂白剤でDNAもルミノールも消えるなんてことを一般に知らしめていいのだろうか。確かに無
償の母の愛はすごいが、自分の子でなけりゃ殺していいっていう神経がわからない。無償の愛
は男女問わずではなく、女の子限定というのにも違和感を感じた。娘を守るのが聖母?男の
子の母親は何から息子を守るのだろう。真琴の傷を知って指を10本切り落としたのは母親な
のか?強姦はどうやった?保奈美の翻訳の仕事や不妊治療を詳しく説明してあったのはよか
った。



92.「七色の毒」(2010)中山七里 ★★(図) ’18/09/04
 「赤い水」実行犯は分かっても真犯人の動機や方法などは思いいたらなかったので、そこだ
けヤラレタ感あるのだが、それ以外は犯人も分かってしまった。



91.「クドリャフカの順番 「十文字」事件」(2005) 米澤穂信 ★ (図) ’18/9/2
 「王とサーカス」「満願」の作家だから、古典部シリーズ物となれば太刀洗万智の高校生時代
の話かと思ったらさにあらず。で、全く面白くなかった。ミステリがミステリになってないというか
…高校の文化祭の話なので、文化祭中のおふざけというか…。残念。
 タイトルのクドリャフカとはソ連の宇宙船に乗せられた犬の名前らしい。とするとライカ犬のライ
カとは犬種なのか?映画「マイライフ アズ ア ドッグ」で寂しさを紛らすため少年が「ライカドッ
グよりまし、ライカドッグよりまし」と呪文のように唱えるのだ。たった1匹で真っ暗な中何故自分
一人なのか、何故誰もいないのか、何も分からないまま飢えで死んでいったライカ犬。ライカと
クドリャフカの関係を調べようかと思ったが…知りたくないのでやめた。



90.「望郷」(2013)湊かなえ (図) ★★ ’18/8/30
 暗い海に蒼く輝いた星のような光。母と二人で暮らす幼い私の前に現れて世話をやいてくれ
た「おっさん」が海に出現させた不思議な光。そして今私は彼の心の中にあった秘密を知る…
…日本推理作家協会賞受賞作。「海の星」他、島に生まれた人たちの島への愛と憎しみが生
む謎を名手が万感の想いをこめて描く(裏表紙より)
 「みかんの花」「海の星」「夢の国」「雲の糸」「石の十字架」「光の航路」。「雲の糸」だけが心
に残った。次に「夢の国」。他は覚えてない。



89.「境遇」(2011)湊かなえ (図) ★★ ’18/8/27
 政治家の妻であり、息子のために描いた絵本「あおぞらリボン」がベストセラーとなった高倉
陽子と、新聞記者の相田晴美は親友同士。共に幼いころ親に捨てられ児童養護施設で育った
過去を持つ。ある日「息子を返してほしければ真実を公表しろ」という脅迫状とともに陽子の息
子が誘拐された。「真実」とは何なのか。そして犯人は…。
 犯人はなんとなくこの人じゃないかなー…と思ってたら当たってた(笑)ミステリというほどでは
ないものの読みやすい文体で一気読みできた。最後のどんでん返しが意外。ドラマの為に書
かれたらしい。その為だけにこんな長いストーリー書けることがすごいと思った。



88.「サファイア」(2012)湊かなえ (図) ★★★ ’185/08/23
「真珠」タヌキ顔の女性と若い男の会話が物語の柱である。ユニークなのは、二人の関係が伏
せられている点だ。それは終盤になって明らかになる。この物語が男性の一人称でかたられ
ていながら主人公は女性の方である。男性の視点が主人公の本性を浮き彫りにする。
 覚えてないので二度読みした。
「ルビー」瀬戸内海の小島で暮らす家族が描かれている。帰省した姉と実家暮らしの妹の会話
で物語が進む。実家の裏には訳あり養護老人ホームが建ち、そこに入居している「おいちゃ
ん」が姉の居ぬ間に一家にとって重要な人物となっていた。
 何にしてもあまり記憶に残らなかった。
「ダイヤモンド」この話は記憶に残った。雀の恩返しを地でいくファンタジーでラストもよかった。
「猫目石」隠しごとのない円満家族。ところがふとしたきっかけで隣室の坂口という女の告げ口
によってそれぞれの真の姿が明らかになって……とはいえ家庭崩壊にはならない。この肩す
かしもよかった。
「ムーンストーン」友情物語。
「サファイア」幼いころから「ねだる」ことをしたことがない女子大生が恋人にたった1回ねだった
ことから不幸が始まってしまった。
「ガーネット」サファイアが嫌なラストで終わると思ったらガーネットに続きがあった。女子大生
は作家になったが、またも過去を思い出させる出来事が…。これはハッピーエンド。
 解説に「湊かなえはイヤミス作家」とあったが私はそうは思ったことはない。キッチリかたをつ
けるからだろうか。イアなラストをイヤなままにせずイヤになる理由をちゃんとつまびらかにす
るからだろうか。イヤミスの女王は「やはり真梨幸子であろう。



87.「花の鎖」(2011)湊かなえ (図) ★★ ’18/8/20
 良心を亡くし仕事も失った矢先に祖母がガンで入院した梨花。職場結婚したが子どもができ
ず悩む美雪。水彩画の講師をしつつ和菓子屋でバイトする紗月。花の記憶が3人をつないだ
時見えてくる衝撃の事実。そして謎の男「k」の正体とは。
 3人の女性のエピソードが代わる代わる出てきて、ちょっとややこしい。謎解きの段階で誰の
話が誰のなんだかちょっとわかりずらかったけど、最後はきっちり合ったと言う感じでした。



87.「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」(2009)辻村深月 (図) ★★★ ’18/8/19
 地元を飛び出した娘と、残った娘。幼馴染の二人の人生はもう交わることなどないと思ってい
た。あの事件が起こるまでは。チエミが母親を殺し、失踪してから半年。みずほの脳裏に浮か
んだのはチエミと交わした幼い約束。彼女が逃げ続ける理由が明らかになるとき、全ての娘は
救われる。(裏表紙より)
 初読みの作家だが、面白かった。女の友情のドロドロが描いてあったから。友達だもんね
ー、と言いつつどちらもが何らかの点で負けている、勝っていると自覚している。ましてや勝ち
組のゴールは結婚。結婚していなくても性格のいい子には引け目を感じたり、結婚式に読んで
くれなかった子は絶交とか、浅慮で明白で面白い。
 でも一人だけ読めない子がいた。それがチエミ。親友みずほは母を殺して行方をくらませた
チエミを探す。旧友たちにヒントを求めながら浮かび上がるのは過去の親友の評価だけではな
い。時効だからと自分への批判もとびだす。墓まで持って行ってくれないのが女なんだなー。自
分も友情とはなんぞやという経験に入っているからか、とても身近な感情に思えた。いや、女な
ら、女の子であった人なら誰もが作中の誰かに共感もしくは思い当たることがあるのではない
だろうか。



85.「メールのなかの見えないあなた」(2001)キャサリン・ターボックス 鴻巣友季子訳 (古)★
★ ’18/8/16
 13歳のケイティは裕福な家庭に育ったごく普通の女の子。ふとしたきっかけでログオンして
みた出会い系サイトで、ひとりの男と知り合った。彼に恋心を抱くようになったケイティだった
が、実際に会ってみたら…。インターネット犯罪に巻き込まれてしまった少女が事件の成り行き
とその後の顛末を赤裸々に描くノンフィクション。(裏表紙より)
 翻訳家とノンフィクションということに惹かれて読んだのだが…。そりゃこうなるよね、という今
では当たり前のことだけど、90年代から21世紀というのはインターネットの黎明期。前例がな
かったからか、今でこそネカマとか、大抵年齢は信じないとか暗黙の了解があるのだが、当時
はなかった、と。しかも13歳の女の子が出会い系にハマるとか親もまさか思っていなかった。
でも出会ってからの親の行動は速かった。そこは危機管理が日本よりは上のアメリカだなぁと
思った。
 翻訳の文章は当時13歳ということもあって、敢えて幼稚な文章にしたんだと思う。「まじで」と
か「イケてる」とか原文はどうだったんだろうなぁとは思うけど、読みやすかったです。



84.「日本人の9割が間違える英語表現100」キャサリン・A・クラフト 里中哲彦訳 (新)
★★★→★ 
さて、どれだけ覚えていられるか。



83.「翻訳のココロ」(2003)鴻巣友季子 (古) ★★ ’18/8/14
 翻訳家のエッセイなのだが、期待したほど面白くはなかった。どうしても米原万里、田丸久美
子なみの面白さを求めてしまうので、ハードルは上がる。それに比べるとどうしてもマジメか!
と思うくらい翻訳に対して真っ向勝負という感じで、参考になるところもそこそこあるが、翻訳に
興味なければ面白くもなんともないだろう。



82.「ルポ中国「潜入バイト」日記」(2018)西谷格(古) ★★★ ’18/8/12
「レッドな職場に潜入労働!中国の「反日」ドラマに出演してみた 爆買い客のツアーガイドをし
た。中国人学生寮の管理人を任された。パクリ遊園地のスタッフとして踊り子になった。現地の
婚活イベントに参加した」←オビより。全部面白かったけど、個人的にはパクリ遊園地が面白
かった。石景山遊園地が有名だけども、どこにでもパクリ遊園地はあって、いちいち告訴してら
れないくらいあるらしい。というか中国人がパクって何が悪い?という精神なのでもうなんでもあ
りなのである。明らかにパクリでしょ、だめでしょ、と言ってみても「いいのよ」の一言でこともな
げに片づけられてしまうのだ。著作権とか知的財産とか知らないのだからしょうがない。指摘さ
れれば、そうなのか、と従う人種じゃない。何が悪いと開き直るだけだから話にはならない、と
いうことが改めてわかった。著者が中国語堪能だからこそできるここまでの潜入取材。潜入自
体したくはないが、やはり語学堪能というのは羨ましいと思った。



81.「特選 誤訳 迷訳 欠陥翻訳」(1996)別宮貞徳 ★★★(古)’18/08/12
 これは身が引き締まる思いである。と同時にプロでもこんなに間違ってるんだー(笑)チェッカ
ーはいないのか?日本語にすらなってないのは編集も推敲をしていないのか?
 とにかくプロでも容赦なくケチョンケチョンにやられているので、人の間違いをディスってるの
は面白い。はい、自分は笑える立場にないです。でも面白いのだからしょうがない。



80.「粛清」(2012)★★★ ソフィア・オクサネン 上野元美訳 (図) ’18/08/12
フィンランド作家は初読みかな?最近北欧文学が勢いついてます。第二次世界大戦での立ち
位置など全く知らなかったから(最近やっとおぼろげにわかってきたけど)時代背景などが難し
いが。
 粗筋―エストニアの小村に暮らすアリーダは、ソビエト統治時代の行いのせいで近隣からい
やがらせを受けながらも、家族の土地を守りながら細々と生活している。ある朝、彼女は家の
庭に見知らぬ若い女が倒れているのを発見する。
またいやがらせ?
あるいは、最近流行りの盗賊の一味?
悩みながらも、アリーダは衰弱している女を家にあげてしまう。
その女はエストニア語を話すロシア人で、名前をザラといった。誰かから逃げているようだが、
理由ははっきりしない。行動も奇矯だった。だが、孤独なアリーダは、ザラを家に匿うことに決
める。
 世界11文学賞受賞(そのうち7はフィンランドの賞)!とものものしい。でもこれはなんちゃら
賞なんていうものには収まらない凄みを感じた。最後まで読んで、だけど。長く重い話なので、
ちょっと中だるみはするが、登場人物たちが一体何を考えているのか、何をどうしたいのかわ
からず、話がどう転ぶかわからず、そういう意味ではページを繰る手が止まらない。そして最後
の一文で戦慄するのだ。
 作者はフィンランド人の父とエストニア人の母との間に生まれ、フィンランドで育ったようだ
が、どちらの言葉で書いたかわからない。英語かもしれない。というのも翻訳家が英語翻訳家
だからだ。あるいは英語に翻訳された本を邦訳したのかもしれない。



79.「恥辱」”DIsgrace"(2000)★J.M.クッツェー 鴻巣友季子訳 (図) ’18/08/08
 翻訳家に惹かれて読んだ…という珍しい動機。ブッカー賞受賞。ノーベル文学賞受賞。という
ものものしさ。しかし描いてあることは大河ドラマというものではない。南アフリカを舞台にした
白人の話という点では珍しいとは思うが。そこまで深淵なものは読みとれなかった。
 粗筋――52歳の大学教授デヴィッド・ラウリーは、2度の離婚を経験後、娼婦や手近な女性
で自分の欲望をうまく処理してきた。だが、軽い気持ちから関係を持った女生徒に告発される
と、人生は暗転する。大学は辞任に追い込まれ、同僚や学生からは容赦ない批判を受ける。
デヴィッドは娘の住む型否韓の農園へと転がり込むが、そこにさえ新たな審判が待ち受けてい
た。
 ここからネタばれ含みますが、ある日農園に強盗が入った。デヴィッドはさっさとのされてしま
い、役に立たず、娘のルーシーは凌辱された。危険で安定しないところへ嫌な思いをした土地
を離れようと説得する父。意地でも離れない、とつっぱねる娘。親子は対立する。
 南アフリカ文学は初めて読んだので、なんとも言えないが、親子でも名前で呼び合うものなの
だろうか。それとも相応の年齢になったら親子から友達みたいな感覚になるのだろうか。
 翻訳者のせいではないだろうが、読みにくいな、と思ったのが1人称と3人称が混在している
こと。デイヴィッドの心を描写しているのでてっきりデイヴィッドが語り手かと思って読んでしまう
が、そう思いこんだ頃に、ふいに「彼は…」と3人称が入って来て、そうだ、デイヴィッドが語り手
ではないのだ。となんだか前のめりになっているところを、襟首を掴まれて後に引き戻されるよ
うな感覚に陥る。もっと俯瞰して見よ、と。でもいっそデイヴィッドを語り手にしてもよかったと思
うのだけれど…何故なんだろうな?
 後半は娘と父親の心理戦なのだが、怖いから速く逃げ出そうというデイヴィッドと負けたくな
い、逃げ出したくないとふんばるルーシー。どちらの気持ちもわかる。私なら逃げ出す方をとる
だろうが。ルーシーは強盗だけじゃない、社会とも闘っているのだ。でもその闘いの果てに勝ち
負けがあるのか、勝ったところで何を得るのかわからないが。
 日本のノーベル文学賞よりは面白いと思った。



78.「ユートピア」(2015) 湊かなえ ★★★ ’18/08/05
 小さな町のゴタゴタ。でも読みやすい。登場人物の年齢が自分と近いからか?難しい言葉を
使わないのも読みやすさの一助となるのだなぁ。
 テーマが小さいので評価も小さくなるかというとそうでもなく。女のねたみ、ひがみ、嫉みがそ
こここに書いてあって共感しやすい。真梨幸子ほど毒のあるイヤミスではない。というかミステ
リですら小さすぎてそんなのどうでもよくなる。でもこの狭い人間関係がどう落ち着くのかと先を
急いでしまい、あっという間に読めた。



77.「復活の日」(1964)小松左京 ★ ’18/8/2
 MM八八菌――実験では、摂氏五度で異常な増殖をみせ、感染後5時間で九十八%のハツ
カネズミが死滅!生物化学兵器として開発されたこの菌を搭載した小型機が冬のアルプス山
中に墜落する。やがて春を迎え、爆発的な勢いで世界各地を襲いはじめた菌の前に、人類は
なすすべもなく滅亡する……難局に一万人たらずの人々を残して。人類滅亡の恐怖と再生へ
の模索という壮大なテーマを描ききる感動のドラマ。
 裏拍子は上記のとおりです。なんでこの本を図書館に予約したのか覚えてないけど、表紙を
見てゲッと思った。作者名を見て。SF…。SFは大の苦手。でも予約してまで読もうと思ったん
だからがんばってみよう…結果玉砕。全くわかりませんでした。粗筋は上記のとおりなので、読
まなくてもよかったかな、と極端なことを考えてしまう。しかしここ最近翻訳ものばかり読んでい
たからか、流麗な日本語の表現にはちょっと陶酔したけど。しかし難しかった…やはりSFはも
ういい…。



76.「許されざる者」(2018)レイフ・GW・ペーション久山葉子訳 ★★★ ’18/7/31
国家犯罪捜査局の元凄腕長官ヨハンソン。脳梗塞で倒れ、命は助かったものの麻痺が残る。
そんな彼に主治医が相談をもちかけた。牧師だった父が、25年前に起きた9歳の少女が暴行
の上殺害された事件の犯人について懺悔で聞いていたという。だが、事件はすでに時効になっ
ている……。
 またも粗筋は本から持ってきちゃいました。ヨハンソンの執念が犯人をおいつめる…にしても
長い。67歳のヒーローは脳梗塞で右腕が動かず、優しい妻ピア、見かけはパンクな介護士マ
ティルダ、素直だが壮絶な過去を持つ運転手マックスの協力を得て、一歩一歩真相に近付い
て行く。そして時効を迎えた事件をどう犯人に償わせるのか。
 驚いたのはスウェーデンミステリ界の重鎮と言われながら代表作が初邦訳とは。最近キテい
る北欧ミステリにいよいよ満を持して登場という…そんなたいそうなものではないが。実は本作
でヨハンソンはお亡くなりに。でも今作以前にヨハンソンと相棒が大活躍するシリーズをたんと
出しており、何度も映像化されているらしい。まるでスウェーデンの内田康夫。
 ストーリーと関係なく思うのだが、なんで福祉に手厚いはずの北欧がマティルダやマックス(彼
はロシア出身なんでちょっと違うかもしれないが)のよう不幸な子供がいるのか。最初は「ドラゴ
ンタトゥー…」のリスベットくらいかと思ったら結構いるらしい。よくわからない北欧。それもこれ
からガンガン邦訳化されれば、北欧社会も福祉だけじゃなく問題点も浮き上がってくるかも。大
学までの授業料は無料だが、生活費は勿論自分持ち、とか。←今回知った北欧事情。



75.「翻訳のレッスン」(2016)高橋さきの 深井裕美子 井口耕二 高橋聡 ★★ (購入)’18/
7/20



74.「乗客ナンバー23の消失」(2018)セバスチャン・フィツエック 酒寄進一訳 ★★★ (図)’
18/7/21
 命がけの囮捜査から帰還した捜査官マルティン・シュヴァルツにかかってきた電話が、彼を
憎むべき客船へ導いた。五年前に彼の妻子が姿を消した船に乗り込んだマルティンが見たの
は息子のテディベアだった。二か月前に同じ船から姿を消した少女が、このテディベアを手にし
て、突如として船内に出現したのだという。テディベアま今までどこにあったのか。少女は今ま
でどこにいたのか。少女とともに姿を消したはずの母親はどこに。そしてマルティンの妻子の身
に本当は何が起きたのか?
 船の中で起きているのはそれだけではない――闇の底に監禁されている女がおり、彼女を
詰問する謎の人物がいる。娘の忌まわしい秘密を知って恐慌をきたす女がいて、その娘は何
者かと連絡をとりながら不穏な計画を進める。船員はメイドを拷問し、泥棒がそれを目撃する。
そしてマルティンを船に誘った富豪の老女は「この船には殺し屋がいるのよ」とささやき、神隠
しから戻った少女は凍った表情のまま口を閉ざす……
 巨大な船の奥底に広がる迷宮。そこに隠されているのは何か。無数の謎をちりばめて、ドイ
ツ屈指のベストセラー作家が邁進させる閉鎖空間サスペンス。マルティンの危機迫る捜査がた
どりついた真相とは?そしてあなたが「一件落着」と思った時、鬼才フィツエックの意外な真相
つるべ打ちが開始されるのだ!
 と、裏表紙に書いてあった通りの粗筋。待ちに待ったドイツ発ミステリ。なかなか面白かった
です。豪華客船の旅はいつかしてみたいなぁと思っていたのだけど、そんなに行方不明者が多
く、何でもそろっている船の中に警察はいない(事故事件が起こった際は航行中の海域の国に
通報するらしい)と知って、ちょっと気分が萎えた。確かに海に太り放りこんでも誰も気づかなさ
そう。
 この物語は謎だらけで始まるのだけど、最後に全部伏線を全て拾っていくので消化不良もな
く、なんの名残も無く本を閉じることができる。この本と「蝶の庭」と「そしてミランダを殺す」は今
のところ「このミス」ベスト10入り確実でしょう。なかでも本書は1位かもしれない。


73.「ウィステリアと三人の女たち」(2018)川上未映子 ★ (図) ’18/7/19
 文章は上手いのだけど、全く話しが頭に残らなかった。



72.「世界を変えた14の密約」(2018)ジャック・ペレッティ 関美和訳 ★★(図) 18/07/14
 密約というよりお約束ですわな。ダイエットの裏にはそれでもうける企業がある。人の個性に
名前を付けてやれADHDだ、自閉症だ、で製薬会社がもうける。そういったカラクリはわかって
いることではないのか。広告や医者の忠告は国の政策によって変わる。消費者にもっと消費し
てもらうためだ。消費の問題に限ったことではなく、ロボット、AI、フェイクニュースに至るまで1
4項目の裏が書かれている。
 そんなことわかっとるわい!と思ってたつもりでも「あれ?」と目をひいたのは、やはりダイエ
ットの項目で、ローファットと書いてあるものは脂肪を低くするために糖分でおぎなっていると
か。そういえばノンオイルドレッシングは糖分が高いと聞いたこともある。自分に合うダイエット
をしないとダイエット産業の思うつぼである…ことはわかっているんだけどなー…。
 「第6章国民全員を薬漬けにする」では一番狙われているのはうつ病患者。うつとは脳内の
セロトニンが云々というのはもう常識かもしれないが、それがその人の本当であるかはわから
ない。頭かち割って見てみるわけではない。とりあえず情緒不安定な人には安定剤、抗うつ薬
(それも様々な)を与える。新しい病名を考えては薬を処方する。患者が治ろうが治るまいが薬
を出し続ける。勿論、医者と製薬会社がもうかる。つまりこの本は世界の全てが一部の人々
(企業)が儲かるようにできていると言いたいらしい。ただ一つ目からうろこだったのは、人間不
安があるのが当たり前でたまに幸福がおとずれるものだのに、最近リア充に当てられてか、ず
ーっとハッピーでないといけない、不安のある人生はおかしいと思ってしまっているというものだ
った。まさに自分がそうだった。なんだ、不安でいいのか、とちょっとこの本が役に立った瞬間
だった。
 この本が分厚いのはカタカナが多いせいもあると思う。外国人の名前・企業名はもとより外
来語も多い。コモディティ、ライフワークバランス、コングロマリット、グローバリゼーション…こ
れらを漢字に直せばもっと薄い本になっただろう。あるページに「作業記憶」にワーキングメモ
リとルビが振ってあった。全部そうすればいいんではないだろうか。
 絶対読むべき!必読書などの推薦文にどんなカラクリがわかって知識が得られるのだろう、
と自分でハードル上げちゃったからか、そこまで面白いとも思えず、経済の難しい話は、正直
流し読みもしてしまいました。私は推薦しませんね…。



71.「ベスト本格ミステリ2018」(2018)本格ミステリ作家クラブ選・編 ★★
 名前の通りの短編集。作家はバラバラ。やはり好みによってそれぞれ感想は違うので、なん
でこれがミステリ?ていうのからおお、すごいトリック!というのまで。これはやはりミステリ好き
に読んでもらわないと。ミステリの入門編ではないですな。いろんなミステリを読んで尚、こうい
うのもありか…と思える人でないとミステリを嫌いになってしまうかもしれない。
 というのも短編の中には大蛇の相談を聞く探偵やら、ネコの探偵やら、犯人が透明人間とい
うものまであり、当然トリックに納得いくものもいかないものも。透明人間は意外とトリックがうま
かったりするんだけど、その他は何を考えて書いているのだろうと思うくらい下品と思うものも
…。短編なのに米澤穂信や若竹七海が入ってないのは不満だったりするし。有栖川有栖の評
論もさっぱりわけがわからない。よってあまりオススメはしない。




70.「代償」(2014)井岡瞬 ★★★ (図) ’18/7/6
 平凡ながらも愛ある家庭で何不自由なく育っていた小学5年生の圭輔。母の遠縁だという道
子、結婚相手の連れ子である同い年の達也。この二人が圭輔の家を頻繁に訪れる様になって
から、不穏な空気が流れ出した。道子が母親と話しこんでいる間達也は圭輔の部屋へ遊びに
来る。それが常態化した頃、家のなかで失せ物が多くなってきた。道子親子を警戒しだした
時、道子からクリスマス前後の1週間達也を預かってほしいと依頼され、引き受けてしまったあ
る夜、圭輔の家に火の手が挙がった。
 1部は達也に翻弄される圭輔の話。2部は大人になって弁護士になった圭輔が達也の弁護
を引き受けてしまうことから始まる。二度と関わりたくなかった親子に仕事とはいえまた関わら
なければならなくなった。姑息かつ狡猾な達也は何を考えているのだろうか…。
 これはイヤミス?というくらい主人公がいじめられるのである。でもイヤミスって書いてないか
ら一発逆転ホームラン正義は勝つ!で終わってくれ、終わってくれなきゃイヤだよ〜と思ってし
まうくらいえげつないです。最後は正義は勝つんだけど…すっきりしないのはやはりイヤミステ
イストだな。話がどう転ぶかわからず、一気読みでした。




69.「神様の裏の顔」(2014)藤崎翔 ★★★ (図) 
 神様ような清廉潔白の教師、坪井誠造が逝去した。その通夜は悲しみに包まれ、誰もが涙し
た。……のだが、参列者たちのが「神様」を偲ぶ中、とんでもない疑惑が。実は坪井は、凶悪
な犯罪者だったのではないか……。坪井の美しい娘、後輩教師、教え子のアラフォー男性と今
時ギャル、ご近所の主婦とお笑い芸人。二転三転する彼らの推理は?!横溝正史ミステリ大
賞受賞の衝撃ミステリ!
 裏表紙そのまま粗筋に持ってきちゃいました。これは面白かったです。最近では人が死なな
いミステリがラノベ、本格はゴリゴリの密室殺人というわけ隔てがいつのまにか着いていた感じ
ですけど、人が死ななくても本格は味わえます。本格というほどトリックに凝っているのではなく
て、今作の場合、周りの人間の印象だけなんですけどね。人間の感情だけで人を有罪無罪と
問うているのはまるで、「12人の怒れる男達」のように裁判員裁判のようでもあります。それが
舞台は通夜。亡くなった教師と関わりのあった人々があーだ、こーだ、と言いあいます。セリフ
劇というほど説明っぽくない。舞台化したらいいんじゃないでしょうか。戯曲のようにも思えてき
た。



68.「エヴァンズ家の娘」(2018)ヘザー・ヤング 宇佐川晶子訳 ★★ (図) ’18/6/30
 ジャスティーン・エヴァンズは恋人との暮らしに耐えかねて、娘を連れて逃げ出した。彼女た
ちが移り住んだのは亡き大叔母ルーシーが遺した湖畔の別荘。大叔母は六十四年前に妹の
失踪と父親の自殺が相次いで以来、ずっとこの湖畔に留まっていたという。死者たちが影を落
とす家でのジャスティーンの生活は娘との確執や母親の訪問によって次第に息苦しいものにな
っていく……。ルーシーが書き記した過去の事件の一部始終と、現在のジャスティーンの葛
藤。二つの物語によって明かされる悲しみに満ちた家族の秘密とは?
 文章下手なんで裏表紙の粗筋そっくりそのまま、持ってきました。付け加えるなら、ジャスティ
ーンの恋人パトリックは好青年でジャスティーンを心から愛している。でも愛されすぎるとうっと
おしい。パトリックの愛という束縛から、大叔母から家を残されたと知ったその日に娘二人とと
もにサンディエゴから二千キロ旅して雪の季節のミネソタへ。次女は8歳でまだ母の言うことを
聞くのだが、12歳の長女とは折り合いが悪い。何故か反抗期並に口をきこうとしないのだ。そ
んなややこしい家族3人の生活と片や大叔母ルーシーの日記が代わる代わる描かれる。ルー
シーは3人姉妹の次女。長女のリリスの娘はモリー、その娘がジャスティーン。大叔母のルー
シーは結婚せず、リリスも未婚のままモリーを産み、ルーシーと湖畔の別荘でよりそうようにひ
っそりと亡くなるまで暮らして来た。湖畔の別荘では64年前末娘のエミリーが失踪し、今もって
行方知れず。母親は44年間待ち続けたまま亡くなった。エミリーの行方がジャスティーンに残
されたルーシーの日記に事件の真相が…。
 というところでしょうか。なんしか長い……。でも納得いくミステリでした。伏線も全部拾ってあ
ったし、長くても読めるのは心理描写が巧みだからでしょう。長いミステリに耐えられる人には
お勧めです。



67.「ひっくりかえったおもちゃ箱」(2018)五十嵐貴久 ★ 
 折角新刊を買ったのに…ポルノ小説のよう。こんな本を人に推薦できない。金返せ!!たま
に新刊買ったらこれだよ、トホホ…。



66.「ハーメルンの誘拐魔」(2015)中山七里 (古) ★★ ’18/6/21
 軸になっているのは子宮頸ガンワクチンを接種して副作用が出た少女を誘拐された事件。な
かでも子宮頸がんワクチンのいいかげんさ、というか会社の癒着など、かつてのHIV事件を思
い起こさせる。子宮ワクチンの方は、フィクションではなく(誘拐事件は勿論フィクション)事件の
ことを詳細に描かれてあった。ワクチンに関しての本を読んだことはあったが、こんなにひどい
ことになるのか、と改めて思い知らされた。
 ハーメルンの笛吹きのグリム童話はよく知らなかったが、要するにこれも一種の誘拐だな。
ただいろんな解釈があって、そのいろんな解釈を知らなかったので、蘊蓄も面白かった。



65.「少女」(2009)湊かなえ (古) ★ ’18/6/19
 ミステリじゃなかった…誰にも共感できないし、死に憧れたことなど一度も無い。



63.「治療島」(2007)セバチャン・フィツエック 赤根洋子訳 ★ (図) ’18/6/15
 病院の待ちあい室から忽然と姿を消した12歳の娘ヨーズィを4年間探し続ける父親ヴィクト
ルの前に現れた謎の女アンア・シュピーゲル。
 フィツエックの処女作にして一躍人気作家に躍り出たベストセラー本だとか(ドイツ国内で)。
今作については正直そこまでか?と思ってしまったけど。映画「シャッターアイランド」に似てる
…。と言えばオチはわかってしまいますね。今作は面白いと思えなかったけど、今年3月に出
た「ナンバー23の消失」は面白いそうです。今作いわば予習のようなもので。もちろん図書館
に予約済み。期待外れじゃなきゃいいけども…。



62.「ワルツを踊ろう」(2015)中山七里 ★★ (図) ’18/6/14
 過疎村の村おこしからの復讐スプラッタ。誰にも共感できなかった。過疎の村の現状はわか
るし、主人公(39歳)の再就職は難しいのは当たり前。でもそこまで献身的に村おこししようと
いう精神はわからなかったし、村の人たちの冷たい態度も理解でいなかった。



61.「人魚の眠る家」(2015)東野圭吾 ★★ (図) ’18/6/13
 脳死からの臓器移植の話。脳死判定の方法や、臓器移植の進め方などわかりやすかった。
けど話しの大筋は受け入れがたい。東野圭吾にしては今一つ話しに引き込まれなかった。



60.「君の膵臓を食べたい」(2015)住野よる ★★ (図) ’18/6/10
 図書館で予約したときはうん百人待ち状態だったのがやっと届きましたよ。同じくうん百人待
ちの「罪の声」はまだ400人待ちだった…。
 いっそ買ってしまおうかと思ったけど、ここまで待ったらと意地になって待ってました。正直言
えば買わなくてよかった。青春ストーリーなんだけど、これまた誰にも共感できなくて。
 膵臓に病を抱えた17歳のサクラと偶然彼女が病気持ちと知ってしまったボク。病ばかりか余
命1年まで知ってしまっても、特段親しい間柄で無くただのクラスメートの二人。ボクが同情する
そぶりもないとみるや、何故か「クラスメート」くんに急接近するサクラ。明るく美人なサクラと暗
くて友達もいないが不満はないボクという正反対の二人の日常。
 膵臓の病気って恐い…と思ったくらいで。別に泣けなかったし。「過激なタイトルの意味がわ
かったとき、涙腺崩壊」という前評判は忖度ですな(笑)自分はボクに似てるなーとは思ったけ
ど、彼ほど感情麻痺してないので、知ってしまったらそんなに冷静ではいられまい。というわけ
で誰にも共感できなかった。ラストは予定調和で。ただなんでボクの名前を最後まで明かさな
かったのかはわからなかった。



59.「陪審法廷」(2007)楡周平 ★★ (図) ’18/6/7
 前半はさておき、後半からタイトル通りになっていくわけだが、フロリダではそうなのかー、と
いうくらいにしか思わなかった。誰にも感情移入できなかったので。



58.「私の家では何も起こらない」(2010)恩田陸 (図) ★★ ’18/6/5
 ジャンルとしては「幻想と怪奇」のような。嫌いではない。



57.「殺意の対談」(2015)藤崎翔 ★★ (図) ’18/6/2
 殺人トリックが入れ換わりとかあって、わかりにくい。



56.「光秀の定理」(2013)垣根涼介 ★★ (図) ’18/5/30
 明智光秀は何故信長を殺したか、は諸説諸々ありますが、これもそのうちの一つ。それも現
実にはないキャラクターを使っているのでなおのこと納得はできなかった。



「ボージャングルを待ちながら」(2017仏) 未読了
 はい、未読了です。読めませんでした。何でこの本を選んだのか忘れたのですが…本当なん
でなんだろう?と思うくらい私には全く合いませんでした。ジャンルが何かもわかりません。
「1920年代の娼婦と、幻覚サボテンの儀式で人々のあいだを跳ねて回るネイティブアメリカン
のシャイアン族、この二つが混じり合い、扇情的なポーズと取っては男達の顔を喜びで紅潮さ
せ同じ理由で女たちの心をかき乱すのを、私はじっと見ていた」
この文章意味わかりますか?ずーっと冒頭からこの調子なので40pでギブでした…。こういう幻
想的な言葉遊び的な文章が楽しめる人にはオススメです。翻訳の人も大変だったんじゃないだ
ろうか。訳が合っているのかどうかわかるものだろうか…?お疲れ様ですとしかいいようがない



55.「慈雨」(2016)柚月裕子 ★★ (図) ’18/5/27
 警察の良心を物語化にしたような。推理モノではないな。定年退職した刑事が妻を伴ってお
遍路の旅にでる。元職場では児童誘拐殺人事件が発生。かつての部下から情報をもらい、部
下も元上司に助言を仰ぐ。というもの、16年前元刑事が担当した事件が全く同じ手口だった
からだ。16年前の事件では犯人は逮捕され服役中。しかし全く手口が同じ…。16年前の事件
は冤罪ではなかったのか…。警察の威信を揺るがす冤罪を暴く!
 とまぁかっこいいんですが、元刑事の過去や心情や現状に重きを置いているのでやや冗長
な感じが。今映画化された「孤狼の血」の作者で、警察物が得意みたいだなー。よく警察や極
道の内情を知ってるものだ、と感心する。この冤罪事件、ひょっとすると「北関東女児連続殺害
事件」をもとにしたのかな?この事件もこの小説のように警察の威信などかなぐり捨てて、速く
真犯人を捕まえてほしいものだ…。



54.「スマホを落としただけなのに」(2017)志駕晃 ★★ (図) ’18/5/25
 ライトなタイトルだが内容はヘヴィー。本当にスマホを落としただけで、ここまで個人情報を利
用されるとは。暗唱番号でのロックなど簡単に突破されてしまうんだと。指紋認証の方がよい、
と。で、早速自分も指紋認証にしたら、性能がよくないのか、指紋登録しても指紋読んでくれな
い「不一致です」とかでちゃうんで、やはりスマホを落とさないようにしようと心に決めた。そうい
う教訓を教えてくれるサスペンス小説です。



53.「いのちの車窓から」(2017)星野源 ★★ (図) ’18/5/23
 エッセイとしてはとても面白かった。特に椎名誠や林望や香川照之のような特徴のある書き
方ではないのだが、するすると読めてしまう。影響を受けたエッセイは松尾スズキ、宮沢章夫
だというので、いつかそっちも読んでみたい。音楽で影響を受けたというのは細野春臣というか
らこちらも聴いてみたい。それにしてもくも膜下出血から後遺症も無く見事な復帰。ほんとうに
よかったなぁ…。ミュージシャンとしては特にいいとは思わないが(真顔)、俳優としてはいい味
出してました。2作しか見てないけど(「コウノドリ」「逃げ恥」)。



52.「殺意」(2018)ジム・トンプスン 田村義進訳 ★★(図) 5/23
 構成はいいんだけど、肝心の事件が面白くない。翻訳者は登場人物ごとに口調を変えて上
手いと思った。十代の子の「でも、それって、筋が通ってなくない?」と若者言葉も上手い。



51.「7つの習慣」(2016)フランクリン・コヴィー・ジャパン (図) ★ ’18/5/22
 いわゆる自己啓発本。「真の自立がなければ社会での成功もない」「結果を出すには過程を
丁寧になぞることが大事」「自分でどうにもならないことは気にしない」「究極の目的を自覚して
から人生を再スタートする」「終わり」へ向かい自分にリーダーシップを発揮する」等など。
 要するに社会で成功したい人への指南書。家で基本食っちゃ寝の私には関係なかった(笑)
 でも社会人でも、こんなにキリキリ自分が社会でどの位置にどんなスタンスで見られている
か、とか考える必要あるかなー。自分的にはやることはしっかりやって、家ではぼーっと過ご
す、頭を休めるか好きな事に没頭するのがいいんではないでしょうか。その中には勿論食っち
ゃ寝も含まれます。
 こういう本が売れることはバブル期前に戻ったような。力ある限り立ち向かえー!24時間闘
えますか、といったフレーズが売れていた頃。働き方改革とかいいながら、ライフワークバラン
スとかいいながら貧困家庭が増え、労働は更に増えている様な。政府はモリカケから一向進ま
んし、テレビつけりゃ不倫・相撲に最近アメフトが加わった。メディアの好きそうな話題ばかり
で。メディアは大衆が好きだから流すんだと言うし。政治にうとい私でも、なんだかヘンな方向
に進んでるなー、という雰囲気は感じる今日この頃です。そうか、社会をアテにせず自分でなん
とかしろという為の自己啓発の本なのかもしれない。




49.50.「コマドリの賭け」(2009ノルウェー)ジョー・ネスポ 井野上悦子訳 ★★ 5/21
 今をときめく北欧ミステリからの刺客!と勝手に盛り上がってたら、そうでもなかった…。ミス
テリというより警察サスペンスもの。サスペンスということでは非常にいいでき。ノルウェーの作
家さん初読みだったんで、もっとノルウェーの文化とかわかるのかなーと思ったけど特別ノルウ
ェーの社会ならではということはなかった。アイスランドのミステリ読んでショーゲキを受けたけ
ど、それほど他国との違いは(小説においては)なかった。
 このハリー・ホーレ刑事のシリーズ第3弾が初の邦訳だそうです。以下続刊かはこの本の売
り上げ次第でしょう。



48.「去年の冬、君と別れ」 中村文則 (電) ★ ’18/5/13
 なんのこっちゃ、さっぱりわからん。



47.「明治・大正・昭和 華族事件録」(2002)千田稔 ★★ (図) ’18/5/13
 かつて日本にあった(今もあるのか?)華族の方々が起こした事件がずらずらあげつらって
あります。しかし事件より驚いたのは名前。今のキラキラネームなんてもんじゃなくてもうDQネ
ームっすよ。精(くわし)、喜福(のぶとみ)、家建(いえさと)、圀順(くにゆき)、誠胤(まさたね)
読めねーっつーの!とあげればきりがないんだけども…漢字が多くて読むのに疲れましたよ。
「白蓮事件」はもちろんあります。それくらいしか知らなかったんだけども、こんなに変なやつば
っかじゃそりゃ爵位取り上げられるわ、と呆れるものが多い。
 それにしても、これを調べ上げた著者のエネルギーがすごいな、と思った。



46.「絶望ノート」(2009)歌野晶牛 ★★ (図) ’18/5/7
 ぶっとい文庫本で読むのにてこずった…。中学2年生の大刀川照音が日記をつけ始めた。
いじめられていることを詳細に記したその名も「絶望ノート」。ところがそのノートに名前を書い
た人が亡くなって行くのである。(デスノートか)しかしそのノートをつけ始めた理由はいじめの
告発ではなく…
 ジョン・レノンかぶれの父親の存在が面白かった。小心者と照音はいうが、ジョン・レノンの格
好をして昼日中街を闊歩するなんて、相当度胸あると思うんだけど。
 ラストにどんでん返しがあるものの、そんなことどうでもよくなるくらいそこまでが長かった。こ
の人のマスターピース「葉桜の季節に君を想うということ」以上のものは難しいのかもしれな
い。と、解説にも書いてあった。傑作を書いてしまうと後が苦しいものだなぁ。



45.「ケモノの城」(2014)誉田哲也 ★★ (図) ’18/5/1
 「消された一家 北九州連続監禁殺人事件」がモデル?私は「家族喰い」かと思ったが。尼
(埼)の事件の主犯は自殺したので、自供は採れなかったものの、大体はこの本のようなもの
だったのではないか、と。
 誉田哲也は意外にも初読みだった。



44.「愚者の毒」(2016)宇佐美まこと ★★★ (図) ’18/4/29
 トリックはまぁまぁ。半分騙されたー、と思ったが、半分は当たってた。生年月日が同じ人間
が現れたら手を染めるのはアレでしょう…と思いつくのは金融関係の人間だけだろうか?人間
関係を考えると、東野圭吾の「白夜行」と似てるように思った。



43.「サイコキラー」(2009独)セバスチャン・フェツイック 赤根洋子訳 (図) ★★ ’18/4/26
 フィツエックの4作目。何故彼の本を読んでいるかというと、今年彼の最新作「ナンバー23の
消失」がかなり上出来という評判を聞いて予習しておこうかな、と思った次第。
 しかし、これはちょっとわかりにくい。大学の教授が実験と称して「カルテ」と呼ぶ小説を読ま
せる。作中作の小説と本筋であるはずの現実が交互に出てくる。その小説が結構グロいで
す。実験に参加して読み進めていく学生と同じく、気持ち悪い話を読まされるこっちはこの小説
と学生に何が起こるのかわからない。で、結論わからないまま終わる…。消化不良も甚だし
い。作中作のサスペンスは評価するけど、この形式の小説はちょっと受け入れられない。



42.「ラジオ・キラー」(2008独)セバスチャン・フィツェック 赤根洋子訳 ★★★ (図)’18/4/24
 イーラ・ザミール(ベルリン警察ベテラン交渉人)は自殺しようとしていた時に呼び出された。
ラジオ局に人質をとってたてこもったヤン・マイという心理学者と対話せねばならないのだっ
た。ヤンの要求は消えた恋人レオニーを探し出して会わせろというもの。無茶な要求だが、警
察が戦略を整えるまで犯人を惹きつけておかなければならない。1回の通話で要求が通ってい
なかったら人質を一人ずつ殺していくというヤン。イーラの交渉術でどこまで引きつけておける
のか…。
 伏線を全部拾ってあるうまいトリックだと思いましたよ。ドイツといえばフォン・シーラッハの堅
苦しい面白くも無い小説を思いだしたけど、これはサスペンスに富んでました。



41.「崩れる脳を抱きしめて」(2017)知念実希人 ★★★ (図) ’18/4/18
 研修医として神奈川の郊外にある病院に派遣された蒼馬は、脳腫瘍で余命いくばくもない患
者ユカリの担当になった。毎日顔を合わせるうちに、ユカリに惹かれて行く蒼馬。
 ミステリはネタバレせずに粗筋を紹介するのは難しいですな(^^ゞ
 オビの文句が大仰だったもんで、騙されまいぞと怪しんでしっかり読みましたよ。結果はイー
ブンかな。半分は当たったけど、半分はハズレみたいな。へんな感想ですんません。
 「マスカレード・ホテル」と読了日が一緒なのはウソじゃないです。1日で読んでしまったんで
す。それだけトリックが多く入っていたってことですね。この作者の本はこういう読者挑戦型が
多いような…。それとちょっと少女マンガチックなところもある。こんな感情丸出しの熱血医いな
いでしょ。ヒロインも少女漫画から抜け出たようなお嬢さん。蒼馬が謎を解いて行くには偶然が
多いのがたまに傷でした。しかし偶然は必然という力技で解決に持って行ったのです。この作
者の本はまた読むかもしれません。



40.「マスカレード・ホテル」(2011)東野圭吾 ★★★ (図) ’18/4/18
 「マスカレード・イブ」の後篇というより、こっちが本筋でイブの方は前哨戦という感じ。
 今回はホテルの裏側もミステリもよく配分できてた。接客業は辛いよねぇ…と同情するしかな
かった。



39.「疑惑の真相「昭和」8大事件を追う」(2001)永瀬隼介 ★ (図) ’18/4/16
 1.府中「3億円事件」で誤認逮捕された男の悲劇
 3億円事件に誤認逮捕があったとは知らなかった。真犯人について考察した本は何度か読
んだことがあり、当時の警察官の息子で変死したということだったと、まとめるとそんな感じだっ
たが。誤認逮捕の影響は大きく、人の生活を壊し、一生を狂わせたという事実は何も報道され
てなかった。今はマスコミもウラを取らないと報道しないが、当時は警察の発表を垂れ流し。こ
んなドラマがあったとは知らなかった。
 2.発案者不明?!「成田空港」最大のミステリー
 どうでもいい。
 3.疑惑の「和田心臓移植」33年後の新証言
 かなりひどい話なのに、耳にしたことはない。要は死んでない人間の臓器を移植しちゃった挙
句移植された方も死んじゃったということらしい。どっちも殺人に問われても仕方ないことなの
に警察の捜査もなく起訴もなかった。医者の言うことが全てと思わないでほしい。腕のいい医
者は何をやってもいいのか?
 4.美智子皇后「失声症」の真相
 どうでもいい。
 5.潜水艦「なだしお」東京湾衝突事件で隠されていた「無謀運転」
 潜水艦って潜望鏡で上に船がいないことを確認してから浮上するんじゃなかったっけ。それ
を考えると一般人のクルーザーと当たるなんて当たり前というか…。なんで?自衛隊への信頼
が揺らいだ。
 6.美空ひばりが紅白から消えた日
 どうでもいい
 7丸山ワクチンは何故「認可」されなかったのか 
 よくわからん。
 8.世紀の対決「猪木・アリ」の裏ルール
 そんなことがあったのかと笑えた。興味はないが舞台裏を描いたこの話は面白かった。.



38.「笹まくら」(1996)丸谷才一 ★★ (図) ’18/4/14
 戦時中、徴兵忌避をした浜田庄吉は杉浦健治という偽名を使い、全国を逃げ回る。どこに警
察がいるかわからない。心もとないびくびくした生活も3年後終戦。これで陽のあたる道を堂々
と歩けるはずが、「徴兵忌避」をしたという事実が周りから責められるのではという心配を常に
心に持ちつつ生活していた。
 物語的には何と言うことも無いのだが、この本が紹介されていたのが「うちのめされるような
すごい本」で米原万里が猛プッシュしていたので手にとってみた次第。読み始めて数ページで
おや、と気付かされることがあった。米原万里と文体が似ているのだ。なるほど、米原さんの原
点は丸谷才一であったか…。尊敬する人の文章と似てしまうというのはよくあることだろう。そ
れが発見だった。丸谷才一の文体のすごいところは時系列になってないのに、改行するだけ
で時間を動かすことができるところか。それだのに全く過去と現在がごっちゃになることがない
のには感心した。でもストーリーが今一つだったので、これは自分には文章を書く教本という感
じがした。



37.「北朝鮮を知りすぎた医者」(2001)ノルベルト・フォラツェン 瀬木碧訳 ★★ ’18/4/10
 カップ・アナムーアというドイツの「国境なき医師団」みたいなボランティア団体の人が1999
〜2000に北朝鮮で体験した苦労話。本当に国としてはムチャクチャで、一番可哀想なのがや
っぱり子供たち。幼児期に十分な栄養を与えられないため、どうしても知的、肉体的障害にな
ってしまう。贈られてくるはずの物資は何故か途中で抜き取られたか、盗られたかなかなか届
かない。
 著者は現状をマスコミを使ってなんとか世界に訴えたいと思い、外国ジャーナリストの案内役
をするのだが、体制側がそうはさせまじと彼を狙っている。結局、彼は国外追放の目に会う。
国外追放で良かったのでは。逆に一生返さないなんて言われなくてよかった、と。今の態勢と
違うとはいえ、ほんの18年前はこんなにひどかったのか…そして今も続いていることは想像に
難くない。酷い国だということはわかっているので、想像できる以上の衝撃的なことはあまりな
かったかな。



36.「マスカレード・イブ」(2014)東野圭吾 ★★ (図) ’18/4/7
「マスカレード・ホテル」の前哨戦ということらしく、なんだかおとなしくまとまった感じ。ミステリも
軽く、私でもわかってしまうくらいの謎でした。舞台は某ホテルということでホテルの裏側も見れ
るのかと期待したけど、たいしたこともなく。お仕事小説としても推理小説としても、東野圭吾に
してはハズレかな…という感じでした。




35.「そしてミランダを殺す」(2018) ★★ (電) ’18/4/5
 最新作もたまには読みたいのよ…という訳で手に入れたのですが…ミステリは電子書籍では
買わないという自分との約束をあっさり破ってしまった…。電子書籍は古本がない代わりに
20%オフとか30%オフという売り方をするんですもん〜。最新で20%オフで評判は上々とくれ
ば買ってしまうでしょう〜。でもこれで最後にするさ(本当か?)。
 二人の女性フェイスとリリーが大学時代に出逢い、それっきりだった筈なのに、リリーがフェ
イスの大富豪のダンナとで偶然出会った。そこから物語はスピードを緩めることなく転がり始め
る。物語はリリーの視点から、フェイスの視点から、ダンナの視点から、と語り手はコロコロ変
わりつつ話は進む。どこかで誰かがすり替わっているのではないか、これがトリックなのではな
いか、騙されまいぞ、と思って読んでいたので、最後は肩すかしであった。残念。売り文句が
「その女、アレックス」を凌ぐということだったのだが、これは完全に「その女アレックス」に軍配
が上がったように思う。



34.「みんな彗星を見ていた 私的キリシタン探訪記」(2015)星野博美 ★★★ (電)’18/4/2
「謝謝!チャイニーズ」「転がる香港に苔は生えない」と読んですっかり魅了されてしまった作家
の最新作(とはいえ3年も経ってしまったが)の本作は、著者がひょんなことからリュートという
楽器に魅せられたことから始まる。リュートの由来を辿ることで、日本におけるキリシタンのこと
も平行して調べるうちに、驚くべき事実に突き当たる。
 星野サンのいうリュートの奏でる音はさすがに「まろりん、まろりん」ではわからないので、
You tubeで聴いてみると…私にはマンドリンと聞きわけがつかなかった。そしてマンドリンはギ
ターの音と似ていると思うのだ。というわけで、特別美しいとは思わなかったものの、リュートと
いう楽器が知れたのはよかったと思う。
 フットワークの軽い星野サンは勿論本場スペインにすっ飛んで行ってしまうのだが、スペイン
語が全くできないというのに行ってしまうこの根性には本当に感服する。行くなら誰でもできる。
しっかり現地の人たちとコミュニケーションをして他人ではありえない経験を得てくるのだ。作家
にはそういう運も必要なのかもしれない。
 しかし感想を書く時、電子書籍というのは、本のようにすぐ手にとってパラパラと見ることがで
きないのが難だなー。



33.「脳と気持ちの整理術 意欲・実行・解決力を高める」(2008)築山節 ★★ (図) ’18/03
/31
 「短時間の集中×多数」で脳は活性化される。
 「テキパキと行動している状態を意図的に作りだそう。
 仕事や勉強のやり方に変化をつけよう。
 同じことを続けていると、脳が早く疲れやすい。
 「脳の中の小さな机」を意識しよう。
 情報は少しずつ入力し、まとめをしながら覚えていく方が効率が良い。
 言葉だけで記憶するには限界がある。
 風景やイメージを思い描きながら情報を取る癖をつけよう。
 「学びて時にこれを習う」は記憶の原則。
 多面的な出力を心がけ、脳の中に有効性の高い情報を増やしていこう。
 前提条件を繰り返し確認し、現実を冷静に把握しよう。
 問題解決のゴールは一つではない。
 快でも不快でも、強い感情が発生した後には、感情があまり発生しない地味な仕事や勉強を
コツコツやっているような時期、時間帯を設けるようにした方がいいでしょう。
 少しくらい「嫌な事、面倒なこと」はあって当然だと考え、受け入れるようにしましょう。
 やる気が起こらないときには、出来ることから始め、作業興奮を発生させる。

 サラリーマンへの仕事の指南術みたいな本だったので、自分に参考になったのは上記くらい
か。しかし「明日には「明日の私」がいるのです。来月には「来月の私」がいる。一年間で考え
れば365日分の「私」がいます」には納得できなかった。そんなだから以前読んだ星野博美の
本にあったように平和ボケとか言われるのではないだろうか。
 あまり真面目に取り合わず読み流すくらいがいいのでしょうね、自己啓発の本というのは。



32.「夜の記憶」(2000)トマス・H・クック 村松潔訳 ★★ (図) ’18/03/27
 小説家のポール・グレイヴスはある女性から自分のコテッジに泊り、50年前の未解決殺人
事件の謎を解いてほしいという依頼を受ける。謎を解くというより、物語として結末をつけてほし
い、というのだ。16歳の少女フェイ・ハリソンは無惨にも殺害されたが、犯人は捕まっていなか
った。狭いリヴァーウッドという村で起こった事件の関係者と思われる人物には全てアリバイが
あり、未解決のままであった。ポールには当時17歳の姉を惨殺されたというトラウマを持つ。
過去の事件、自分のトラウマ、そして現在の調査がポールを苛む。果たして50年前の事件を
終わりに導けるのか…。
 この作家は初めてじゃない。タイトルだけは覚えている「緋色の記憶」も似たようなじめじめし
た印象の作品だった。そりゃそうでしょうという結末。でも消化不良。そっちはいいんかーい!
というつっこみを入れたくなる作品でした。 



31.「サロメ」(2017)原田マハ ★★★ (図) ’18/03/26
 19世紀末、彗星の如く現れた画家、オーブリー・ビアズリー。彼の短い人生を虚実ないまぜ
て描かれる。この人の本は「ジヴェルニーの…」でもそうだったが事実と事実の間の物語を想
像して描かれている。全部がフィクションではないが事実を元にしたフィクション、というところ
か。
 彼を語る時、オスカー・ワイルドを抜きには語れない。この本の通りワイルドの「サロメ」で有
名になったからだ。この本の表紙にもなっている。だがそれ以外の絵は一切載っていない。も
っと載せて欲しかった。
 一つ違いの姉によって弟の物語が語られる。弟は喀血を患いつつも絵の才能を生かしてや
りたいと思い、自身は女優の夢を持つ姉のメイベル。
 確かにビアズリーの絵には魅力がある。イエロー・ブックは英文学を学ぶものなら避けて通
れないワイルドとビアズリーで、私も表紙の絵に見覚えがあった。内容はまったく覚えていない
けれども。「ヨカナーン、お前の口に口づけするよ」話の前後は忘れたがこのセリフだけは覚え
ている。激動の19世紀の香のするこの小説は英文学を学んだものには懐かしく、そうでない
人にもそれなりに気に入るものになるのではないだろうか。それだけ、短く激しく生きたビアズ
リー。フィクションでない彼についての本を読みたくなった。



30.「屍人荘の殺人」(2017)今村昌弘 ★★★ (図) ’18/03/23
 大学サークルの合宿。一人一人殺されてゆく学生。しかも現場は密室。何故か外部と連絡が
取れないという陸の孤島状態。という古典的な条件ながら、立派にクローズドサークルを作り
上げるというのはすごい。でも動機がやっぱり弱い気がするのは私だけでしょうか…?そんな
ことで人を殺すか、という。条件も状況も有栖川有栖の少年アリスシリーズのようでした。でも
探偵役は今流行りの美少女。これ最近の傾向なのかな…。


29.「権力闘争がわかれば中国がわかる」(2015)福島香織 ★(古) ’18/03/14.
 誰が誰やらでさっぱり。相関図が必要。そうすればもっとわかりやすかったのに。でもやっぱ
りわからないかな…。



28.「記憶力を強くする 最新脳科学が語る記憶のしくみと鍛え方」(2014)池谷裕二 ★ 
(図)’18/03/08
小難しい脳の細胞名がでてきますが…、結局は記憶しておきたいと思うものに興味を持つこ
と、だそうです。…えー…それができねーから多くの学生は苦労しているのではないだろうか。
結局やる気って…。あんまりなんで、補足すると単語一つとっても、自分と全く関係ないものは
覚えにくい。なので、自分となんとか繋げることを考える。そうするとエピソード記憶となって頭
に残るのだそうです。一つ一つエピソード作らにゃならんて、どんだけ想像力豊かなんだよ。つ
まり、いきなり頭良くなりません、ということがわかった。



27.「不可能美術館」(2014)セリーヌ・ドゥラヴォー(古) ★★★ ’18/03/08
 これは面白かったです。盗難、破壊、消失などの理由で二度と本物を拝めないものばかりを
集めた画集。数ある作品の中で自分が残念に思ったのは、やはりバーミヤンの石窟。タリバン
に壊されちゃったあれです。顔は全く跡形も無いので本当無残です。宗教のことをごちゃごちゃ
言っても仕方ないですが…つい言いたくなっちゃいますね。
 中には絵画やら何やら200点泥棒して実家に置いておいたら、オカンがパニックになって川
に全部投げ捨てたというのが面白かった。その後の川で泥だらけになりながらの捜索の様子
が写真で残っているのですが、なんともマヌケで笑えます。と、まぁ誰でもエピソードと共にお気
に入りの1点が見つけられること請け合いです。




26.「映画と本の意外な関係!」(2017)町山智浩 (電子書籍) ★★ ’18/03/07
 映画の中に本が出てきたら調べてみるべし。監督の悪戯が隠されているから…!ということ
なんだけど、よほどアメリカ文化と詩や小説に詳しくないと全く気がつかない。そして気付いても
それが何…と無学な私は思ってしまうのですよ。町山氏に見つけられて監督も本望でしょう。で
も多くの人が見逃してしまうところにイタズラがあってもきづかなきゃ終わりなわけで…。なかな
か目の付けどころはいいのですが、私などは全く気付かなくて「え、そんなもんあった?」と思っ
ちゃうのです。



25.「狩人の悪夢」(2017)有栖川有栖 ★★ (図) ’18/03/07
 火村シリーズ。もう警察より現場に速く到着しちゃってるところでアウトだわ…。「科捜研入っ
ていいですか」と刑事と火村に聞く、まさかの現場保存無視。そして警察側から火村に情報を
流す流す。そんなアホなという出発点からトリックもなんやようわからん。こんな事件起きうるか
なー、とリアリティもあまりない。だから「悪夢」なのかな…?



24.「古事記の暗号 古史古伝「竹内文書」を継承する第73世・武内宿禰が神々の秘密を明
かす!!」(2017)竹内睦泰 ★ ’18/03/03
 前に竹田恒泰がホテルの部屋に聖書なんか置かんと古事記置かんかーい!!と喚いてい
たが、どっちでもいいじゃん、こんなメルヘン…。
 以前に「柿本人麻呂の暗号」という本を読んでいたのでそのたぐいかと思ったら、大間違い。
こちとら「竹内文書」なんて全く知りませんでしたので、こっちが本物、あっちがニセモノと言わ
れても「はぁ?」だもんで、結局暗号ってなんなのよ…で終わりましたとさ…。



23.「大人も知らない世の中の仕組み なんで水には色がないの?」(2014)五百田建成 ★★
(古) ’18/02/26
 これぞビブリオバトルで紹介され、買ってしまった本なのですが。バトラー曰く「子供の質問に
大人がガチで答える」本。タイトルのように科学的なのもあれば、日本の伝統や政治など質問
は多岐にわたります。ただ、答える人によって答えが変わるだろうなぁというものや、その答え
は子供に対してといえどいかがなものか、という、大人も答えに考えさせられるものもありまし
た。例えば「インド人は黒人なの?」という質問に今時の世情を説明し、「インド人はインド人」と
いう答えを出しているが、これでは答えにならないのでは?子供が差別意識なしに何故アジア
に黒人なみに肌が黒い人がいるのか?という邪気のないものであった場合、「ゲルマン民族移
動」やら本当の意味でインドの人種の肌の色を説明せねばならないと思うのだが…。
 これはチャンプ本にはならなかったけど、自分の中では5作品中2位でした。



22.「ルビンの壺が割れた」(2017)宿野かほる★★★(図) ’18/02/26
 フェイスブックのメッセージで旧交を温める男女二人の送信メール形式で話しは進む。二人と
も本当に婚約までした仲なのかと思うほど、丁寧な文体。話は進むうち、お互いの当時の感情
が溢れ出てきて…それでも文章が丁寧なのはかわらないが、それだけに最後の1行にガツン
と頭を殴られた思いだった。これはやられた!



.21.「ジヴェルニーの食卓」(2015)原田マハ★★★(古) ’18/02/26
「美しい庭」アンリ・マティス「エトワール」エドガー・ドガ「タンギー爺さん」ポール・セザンヌ、ゴッ
ホ「ジヴェルニーの食卓」クロード・モネ。印象派の画家の当時の生活を虚実混ぜての物語。
印象派には詳しくないので、どこまで本当がわからないけど、話としては無理のないいい話ば
かりだった。



20.「言ってはいけない 残酷すぎる真実」(2016)橘玲 ★ (古) ’18/02/20
 タイトルが大袈裟すぎて、中身とのかい離が激しいからか何を言いたいのかわからない…。



19.「戸越銀座でつかまえて」(2013)星野博美 ★★★ (古) ’18/02/19
 星野が続きエッセイも続きますが、全く関係ない方々です。
 いつものとおり楽しいドジ話連発のエッセイなのだが…この人とて大事な点ではちゃんと危機
意識は持っているなぁと。
「なぜ日本人は予定がすきなのだろう。私にはそれが、良くも悪くも、やはり長く続いた平和の
象徴のように思えてならない。変わらないことを前提とした日常。突然国境が閉鎖されて家族と
引き裂かれたり、政情が急に変わって亡命する決断をしたり、そんなことがない日々。「いつ会
えるかわからないから、会える時に会っておく」という感覚の欠如。
 それはそれでのんびりしていいのかもしれないが、私にはなんとももどかしい。
 会いたい時は、今すぐ会おうよ。
 次の機会は、ないかもしれないのだから。」
 この文章には感銘をうけた。会いに行こうかな、あの人に…。



18.「働く男」(2015)星野源 ★★ (図) ’18/02/18
 本人も言うように文章が上手いわけではない。でも書くことが楽しいことは十分つたわってく
る。自分にとって星野源はドラマで見ない顔なのにいきなり出てきた。ということから、こいつ何
者?という興味から読んでみた。バンドマン、歌手、俳優、舞台と結構多才。多才というよりや
りたいこと全部やってんな、という感じがする。そういうのも羨ましい。エッセイも面白いし…唯
一残念なのはイケメンじゃないってことか。彼の顔はハンサムにもう少し届かない。それでもク
ールな役が決まるのは目が細いからだろうか。
 上手くはないが溢れる好奇心が感じられるエッセイに自分も映画のレビューくらいもちょっと
がんばって書こうと反省させられた。



17.「13・67」(2017中)陳浩基 訳:天野健太郎 (新) ★★★ ’18/02/18
 満を持してやってきましたね、中国からの刺客。去年のこのミス1位ですよ。いきなり1位をか
っさらうとはどういう内容なのか。どう訳してあるのか、など興味は尽きず、これは買ってしまい
ましたよ。エンタメとして読書するというより、翻訳分の参考書的な感じでした、私には。
 香港返還前の1967年クワンが警察官になってから、2013年定年退職するまでの話を短
編形式で綴ってある。ただ時系列が2013年からさかのぼって行く形なのは何故だろう。最後
クワンが警察に入るところで終わるのだ。まぁ面白いのでそれもよし。クワン刑事の推理が冴
えわたる。これはシリーズ化されるのだろうか?でも退職しちゃってるからなあ。でもでも指南
役として2年また警察に来るらしいし。舞台は香港なので地名も読んでて楽しい。あー、また香
港行きたくなってきた!



16.「米原万里 ベストエッセイT」(2017)★★★ (古) ’18/02/08
 エッセイとは雑誌の穴埋め程度に2.3ページあったりするので、連載されてないと読みこぼ
しも多くなるし、2,3ページのために雑誌1冊買うのも割に合わないし、載ってることに気付かな
いことも多い。こういうふうに本になってない分をまとめてもらうのは非常にありがたい。また米
原万里を感じることができて、とても嬉しかった。



15.「シモネッタのどこまでいっても男と女」(2014)田丸久美子 ★★★(新・文庫) ’18/02/07
いつもながら楽しい田丸節健在。ただ今回は出逢いと別れ。別れにはやはりしんみりきちゃい
ますね。それでも面白いったらない。イタリア語勉強してりゃよかったかなー。



14.「新・通訳捜査官 実録北京語刑事VS中国犯罪者8年闘争」(2012)坂東忠信 ★★ 
(図) ’18/02/06
予想通り面白かったです。北京語通訳御苦労さま。しかし現在外国人犯罪者数はなんと中国
を抜いてベトナムが1位なんだそうです。面白エピソード満載なので対岸の火事の人は笑って
済ませられるだろう。身近に入る人は…ちょっと距離を置いた方がいいかもしれない。何せ騙
しても全く悪びれず騙される方が悪いというのが彼らの常識。私も5割引きくらいに話しは聞い
ている。疑いたくはないんだけど、事実は事実ですからね。危機意識は重要ですよね。



「シンパサイザー」
「眠る狼」
どちらも自分に合わないのか3分の1くらいで挫折。ご縁があったらまたいつか…。




13.「翻訳ガール」(2014)千梨らく ★★★ (図) ’18/02/01
 翻訳の心得を主人公に教えてもらった。もっと内情を教えてほしかったが、あくまで小説なん
でそこまでは描かれてない。適度に軽いミステリ&お仕事小説。




12.「無縁介護 <単身高齢社会の老い・孤立・貧困>」(2012)山口道宏 ★ (図) ’18/01/
30
 家族がいようがいまいが孤立死はまぬがれないのだとか。未来に希望が持てない。暗いこと
しか書いてなくて本当に孤独死は避けられないのだな、とくら〜い気持ちにさせてくれた。



11.「出版禁止」(2014)長江俊和 ★★ (図) ’18/01/29
 「カミュの刺客」という作中作があまり面白くなく、「心中」とは何ぞやというミステリから哲学に
変わってしまった。タイトルほどのインパクトなし。



10.「向日葵の咲かない夏」(2005)道尾秀介 ★ (図) ’18/01/27
自殺したS君がクモに生まれ変わったって…カフカか。その辺からミステリというよりふSFファ
ンタジーである。S君が自殺か他殺かの謎がいつのまにか昆虫当てゲームのようになった。



9.「「鬼畜」の家 わが子殺す親たち」(2016)石井光太 ★★ (図) ’18/01/24
「厚木市幼児餓死白骨化事件」「下田市嬰児連続殺害事件」「足立区ウサギ用ケージ監禁虐
待死事件」以上の3件のルポ。著者が指摘している他に気付いたのが、3件の親がアトピー持
ちというのがある。ひょっとしたら関係あるのかもしれないと思った。常にイライラを抱えている
のだ。知らない人には想像つかないだろうが、あの痒さたるや…。幼児にぶつけたということは
ないだろうか。それと女性の妊娠率の高さ。避妊を怠ったのは勿論悪いが、もしそれがまとも
な親だったら…まともな家に生まれていたら…。どの女性も毎年のように妊娠しているのだ。少
子化はやはり幸か不幸か女性の社会進出と関係なくはないだろう。社会進出するな、というこ
とではもちろんないが、10代20代が妊娠時だということを学校教育で徹底すべきだ。40代に
なってから不妊治療といったって成功するのは数%という事実を知らず、30代までバリバリに
働くと、ツケは子供にまわっているのだ。30代の流産率も発表したほうがよい。
 このような事件をなくすためにはやはり教育だと思ったのと、刑罰をもっと重くすべきだ。被告
のあきれた言い訳は全く反省がないのが怒りすら覚える。



8.「仮面同窓会」(2014)雫井脩介 ★★ (図) ’17/01/19
あらすじ)同窓会で再開した洋輔ら四人は、旧交を温め合ううちに、かつての体罰教師への仕
返しを思いつく。計画通りに暴行し置き去りにするも、教師は何故か別の場所で溺死体で発見
された。犯人は俺達の中にいる?互いへの不信感が募る中、仲間の一人が殺されて…。
ネタバレ)二重人格でないとしたら通夜に行ったのは誰だったのか…?別れてたとはいえ、か
つての恋人が自殺したら平気でいられないだろ。押し入れにアニキが暮らしてるのはもう奇
怪。



7.「笑う忠臣蔵 女子大生 桜川東子の推理」(2012)鯨統一郎 ★ (図) ’17/01/18
「歌舞伎の忠臣蔵は江戸時代にできたんだけど、そのころは実名による作劇は禁じられてた
の。幕府批判に通じるって判断されて、すべて別名に置き換えられていたの。大石蔵助は大星
由良之助に置き換えられたのよ」
という蘊蓄しか頭のに残らなかった。



6.「フォークロアの鍵」(2017)川瀬七緒 ★★ (図) ’17/01/17
ネタバレ)伏線が全部拾いきれてなかったような。木のウロにあった歯は?本当に口減らしに
子供は殺された?そんな大飢饉いつあった?大地の両親は何も変わってないだろうに、本人
の「行動心理学に興味を持った」の一言で長々語られた高校中退までの話は解決?一番の不
思議が電車の車窓から誘拐された子供が見えたってムリすぎないか?読んでるときは面白か
ったんだけど、読み終わってすっきりしない…。



5.「そして生活はづつく」(2009)星野源 ★ (図) ’18/01/15
 この人は一体何者?最近よく見るがそう若くもなさそうだし。一応芸能人でキャリアもそこそこ
あるらしい。私はドラマで笑わない硬い医者の役しか知らなかったので、ほんと「誰?」だった。
 読んでみるとそのお堅いイメージは崩壊。キ○タマやらウ○コやら下ネタも辞さない砕けた文
章で包み隠さず自分を綴っている。一青年の生活なので特に面白みはなかったが、イメージ
は変わった。



4.「蝶のいた庭」(2017) ドット・ハチソン 辻村早苗訳 ★★ (電子書籍で購入、以下「(電)と
します) ’18/01/12
 最近よく聞く話題作だったので、ついに購入した電子書籍で、テスト的に買ってみました。今
のところ不都合なく読めてます。ブックオフなんかで買えなくても、hontoやkindleで30%オフとか
やってますので、その時を狙い定めて買えばいいかな、と。当分電子書籍と図書館の2本立て
で読んで行くと思います。ちなみにタブレットはNEC7インチ。スマホと連動させることができる
ので、外で読む時はスマホで、家ではタブレットで、と結構便利です。
 で、本題なんですが、何やら「ボーン・コレクター」を彷彿とさせる誘拐監禁ものです。特に猟
奇的でもグロくもなかった。世間で評価されているほど感銘は受けませんでした。折角買った
のになー。まぁテストですから。あと「怖い絵」と「マイナス50度の世界」も買いました。そのうち
に書こうと思いますが、まずは図書館から届いた「そして生活はつづく」「フォークロアの鍵」「笑
う忠臣蔵」「シンパサイザー」(上)(下)「渇きと偽り」を読みまーす…。



3.「闇に香る嘘」(2014)下村敦史 ★★(図)’18/01/10
 戦争中満州で生き別れになった兄が帰国して何年も経ったが、弟は今になって、兄は本当に
兄なのだろうか?と疑いはじめる。きっかけは孫の腎臓移植を頼みに行ったとき、兄は検査す
ら応じてくれなかった。全盲の弟には顔はわからない。そこから満州で親しかった人々を訪ね
て兄が本物かどうか調べる旅にでる弟の話。
 ページを繰ってでてくるのは満州でのひどい話ばかり。戦後の日本社会の冷たさがよくわか
る。「砂の器」を思い出すサスペンス。加えて全盲の人の介護方法もちょっと得られる。



2.「御子柴くんの甘味と捜査」(2013)若竹七海 ★★ (図) ’18/01/06
 ちゃんと殺人事件を扱ったりしているのに、頭に残るのは推理よりお菓子だったりする。善光
寺の酒饅頭は是非食べたいと思った。しかし長野は遠いな…。



1.「母性」(2012) 湊かなえ ★★ ’18/01/03
 母離れできない娘が結婚して母になるが娘すら母以上に愛しいと思えない。自分には子供が
いないのでわからないが、子供産むだけで親になれないというのはわかった。昨今の児童虐
待のニュースでも母親の年齢が若かったりして、子供が子供産むからこうなるんだよ…なんて
思ったりしつつ、じゃあ今の自分は完璧な母親になれるかというと自信がないので、年齢のせ
いでもないな、と思ったり。



2017年159冊。もう感想なんて追いつかないので、もはや目録と化してしまった。★の数で
判断するしかない…!以前に読んだのを忘れて、2回読んでしまったのが2冊(「パレートの誤
算」「仮面病棟」)。内容を覚えてないのでは意味がないので、来年は冊数より内容を吟味しな
がら読みたいと思います。これが来年の抱負…。もう一つあるんだけど、確実になってから発
表します(笑)



159.「ユニコーン ジョルジュ・サンドの遺言」(2013) 原田マハ ★★ (図) ’17/12/31


158.「テミスの休息」(2016) 藤岡 陽子 ★★(図) ’17/12/31




157.「世界を売った男」(2012)陳浩基 玉田 誠訳★★★ (図) ’17/12/30読了
 なんと香港から日本ミステリ界に刺客がやってきた!しかもイギリスに打って出るらしい!こ
れは久々完璧な本格ミステリであり、構成から演出からもう完璧。でも翻訳の人の力もあるか
もしれない。中国語の場合、超訳せざるをえない場合が多いのだ。直訳してると到底習慣も常
識も違う中国語は意味がわからなくなる。中国の本の出版が少ないのは、翻訳がネックになっ
ているのが少ないのではないか、と思っているのだが…。



156.「安達ケ原の鬼密室」(2000)歌野 晶午 ★ (図) ’17/12/26読了


154.155.「黒い迷宮 ルーシー・ブラックマン事件の真実」(上)(下)(2015)リチャード・ロイド・
パリー 濱野 大道訳 ★★ ’17/12/25読了


153.「閉鎖病棟(1994)掃木 蓬生 (図) ★ ’17/12/20読了


152.「切り裂きジャックの日記」(1994)シャーリー・ハリソン 大野 晶子訳 ★★ (図) ’17/
12/19読了
 こちらもPコーンウェル同様結論ありきで書いている。コーンウェルは落書きの絵が似ている
とあったが、こちらは筆跡が似てる、と。それはともかく内臓をきれいに取ったのは何故かとか
全部の謎に答えを出していない…出せない?からかこちらの知りたいことは書かれていなかっ
た。



151.「草魚バスターズ もじゃもじゃ先生、京都大覚寺大澤池を再生する」(2013)真坂 昭夫
 ★★ (図) ’17/12/17読了
 思っていた内容と違ってた…。外来種をいかに退治する話かと思ってたんですけどね。



150.「ブラッドライン」(2013)知念実希人 ★★★ (図) ’17/12/14読了


149.「神酒クリニックで乾杯を 淡雪の記憶」(2016)知念実希人 ★ ’17/12/13読了


148.「鍵のない夢を見る」(2015)辻村 深月 ★ (図) ’17/12/06読了


147.「スフィアの死天使 天久 鷹央の事件カルテ」(2015)知念 実希人 ★★ (図) ’17/
12/04読了


146.「移植医たち」(2017)谷村 志穂 ★★(図) ’17/12/03読了


145.「誰がための刃 レゾンデートル」(2012)知念 実希人 ★ (図) ’17/11/28読了


144.「狐と鞭」(2017) 朱川 湊 ★ (図) ’17/11/22読了


143.「ナンバーナイン」(2008)原田マハ ★★ (図) ’17/11/17読了


142.「か「」く「」し「」ご「」と」(2017)住野よる ★★ (図) ’17/11/15読了
「やれることはなんでもやってやれ」


141.「文芸翻訳入門」(2017)藤井光 ★★ (図) ’17/11/09読了



140.「うつヌケ」(2017)田中圭一 ★★ (中古) ’17/11/08読了



139.「サイコパス」(2016)中野裕子 ★★ (図) ’17/11/08読了


138.「セイレーンの懺悔」(2016)中山七里 ★★ (図) ’17/11/06読了


137.「さようなら、オレンジ」(2013)岩城けい ★ (図)’17/11/02読了


136.「行方」(2014)春口裕子 ★★ (図)


135.「マレー半島すちゃらか紀行」(1995)若竹七海 加門七海 高野宣李 (図) ★★★ 


134.「私にふさわしいホテル」(2012)柚木麻子 ★ (図) ’17/10/24読了


133.「悪母」(2016)春口裕子 ★ (図) ’17/10/22読了


132.「シャボン玉」(2004)乃南アサ ★ ’17/10/21読了


131.「レンタルチャイルド神に弄ばれる貧しき子供たち」(2010)石井光太 ★★ (図) ’17/
10/18読了


130.「切り裂きジャkックの告白」(2013)中山七里 ★★(図) ’17/10/18読了


129.「父の逸脱」(2017)セリーヌ・ラファエル 林昌宏訳 ★★ (図) ’17/10/14読了


128.「愚行録」(2015)貫井徳郎 ★★ (図) ’17/10/11読了


127.「聖母」(2015)秋吉理香子 ★★ (図) ’17/10/09読了


126.「母という病」(2014)岡田尊司 ★★ (図) ’17/10/13読了



125.「12人の死にたい子どもたち」(2016)沖方丁 ★(図) ’17/10/14読了



124.「祈りの幕が下りる時」(2013)東野圭吾 (図) ★★ ’17/10/3読了


123.「あなたが生きづらいのは「自己嫌悪」のせいである」(2016)安富歩 (図)★ ’17/10/
01読了


122.「連続殺人鬼カエル男」(2011)中山七里 ★★★ (図) ’17/09/29読了


121.「けむたい後輩」(2012)柚木麻子 ★★ (図) ’17/09/29読了


120.「パレートの誤算」(2016)柚月裕子 ★★ (図) ’17/09/26読了
何と再読。前に読んだことをすっかり忘れていた。


119.「豪憲はなぜ殺されたのか」(2006)米山勝弘 ★★ (図) ’17/09/21読了


118.「思い出トランプ」(1980)向田 邦子 ★ (借) ’17/09/15読了


117.「名画で読み解くロマノフ家 12の物語」(2014)中野京子 ★★★ (図) ’17/09/13


116.「壁の男」(2016)貫井徳郎 ★★ (図) ’17/0911読了


115.「デトロイト美術館の奇跡」(2016)原田 マハ ★(図) ’17/09/06読了


114.「悪霊の午後」(1983) 遠藤周作 ★ (図) ’17/09/05読了




113.「殺意」(1971)フランシス・アイルズ 大久保康雄 訳 ★ (図) ’17/09/02読了


112.「キルトとお茶と殺人と」(1979)サンドラ・ダラス ★ (図) ’17/08/29読了


111.「宇喜多の捨て嫁」(2014) 木下 昌輝 ★★ (図) ’17/08/26読了
「いきない直木賞候補に!」(オビより)
 娘の嫁ぎ先を攻め滅ぼすことも厭わず、下剋上で鳴り上がる戦国大名、宇喜多直家。その
真実の姿とは一体……。
 私はこの宇喜多なる人物知りませんでした。知ってたらもっと楽しめた本だと思います。知ら
ん私がバカなのか…?最近歴史に詳しい人が知ってても、教科書で通り一片の人には冷たい
大河ドラマ。直虎とか黒田官兵衛なんて知りませんでしたし。真田丸も真田幸村という名前しか
知りませんでした。やっぱり歴史物も読むべきですね。
 ただこの本に関しては、ネットで調べても、暗殺の多い武将という紹介のされ方はしても、こ
の本の主人公である娘に関してはヒットしませんでした。確かに嫁の嫁ぎ先を滅ぼしたことは
事実のようですが。ここで直家の幼名や親戚の名前まで知っていたら、「ヤラレター」感が強い
のですが、知らなかったもんで、ネットで調べて「ああ、そういうことか!」と。実在の人物は先
にネットでリサーチ!これがこの本で得た一番の知識かと(笑)



109.「砂の女」(1962) 阿部 公房 ★ (図) ’17/08/22読了
 ある昆虫学者である男が迷い込んだ山には奇妙な風習があった。部落内で女と一緒にひた
すら砂を取り続けるしかない男。脱出は容易かと思ったら、あの手この手で連れ戻される。「無
理ですよ…」女は諦めきった表情でそう言うと、砂を取る作業を続ける…。
 これぞ小説!という感じはあるが…ちょっとSFっぽい。
 何に驚いたかと言えば、1962年刊行が平成26年72刷というからすごい。もっと驚いたこと
に、解説にドナルド・キーン氏が。外国人でこない流暢に日本語書かれたら…自分ももっとが
んばれるはず…という本書と関係ないところで鼓舞されたような気がする。




108.「花の鎖」(2011) 湊 かなえ ★ (図) ’17/08/20読了
 3人の女性の生活が代わる代わる語られる。…寝ながら読んだんでほとんど記憶にない…。



107.「黒い白鳥」 鮎j川 哲也 ★ (図) ’17/08/19読了
 長編すぎて何が何やら、誰が誰やら。日本の推理小説の立役者ということで一冊は読んでお
かねばなるまいと思ったのだけど…自分には難しかった。



106.「ブラインド・マッサージ」(2016) 塁(本当はこの漢字じゃないが、日本語ではこの漢字
が一番近いと思うのでこれにしておく)飛宇 飯塚 容 訳 ★ (図) 
 今度は盲者の話。作者名で分かる通り、中国文学である。原題「推拿」。
”布団をイカの切り身のように巻いて出てったとたん、数えきれない道路が現れ、それを歩き続
けなければならなくなる。”この布団を(中略)巻いて出るというのは要するに首になるということ
だったと思う…確か。
 翻訳者の名前にびっくりした。「容」”ゆとり”と読む。ゆとり世代なのか…そんなのわかってて
つける親はいるまい。でも聞いた人はびっくりするDQネームだよなぁ。



105.「デフ・ヴォイス」(2015) 丸山 正樹 ★★ (図) ’17/08/12読了
 一口に手話といっても実はいくつかの種類がある。一般に知られる手話―日本語に手の動
きをひとつひとつ当てはめていく手法は正確には「日本語対応手話」と呼ばれるものだ。聴者
が手話サークルや手話講習会などで学ぶののほとんどがこれで、自然、手話通訳士が使用す
る手話も同様になる。
 これに対し、”聾者”が昔から使っているものは「日本手話」と呼ばれ、日本語の文法とは全く
違った独自の言語対系を持っている。したがって生まれた時から使っている聾者でなければ、
かなりその習得は困難を極め、聴者はもちろん、難聴者や中途失聴者などでも使いこなせる
のはまれだった。
 という事だけ記憶に残っているのだが、ストーリーはまるっきり入って来なかった…というか忘
れた。



104.「ユリゴコロ」(2011)沼田 まほかる ★ (図) ’17/08/08読了



103.「華人歌星伝説 テレサ・テンが見た夢」 平野久美子 ★ 図書館 ’17/08/06読了
 これほど有名でこれほど人気があってこれほど孤独な人はいなかったんじゃないかな。この
本はテレサの人生をなぞっただけで、インタビューや著者が見つけた新事実などというものは
なく…。テレサが知りたかったらこの本読めば、というだけの紹介本のようだ。実際、現在の台
湾・香港の人知らないだろうなぁ。2000年の話したら「昔の話」とか言われちゃうんだぜ、今の
若い人に。



103途中棄権 「教団X」 中村 文則 ★ ’17/08/05中断
 これはさすがにカウントにはいれませんけど…。ここまで「時間返せ!」と思った本はない。5
70ページとかなりの長編だが、370ページ辺りで時間切れ。努力はしたんだけどね。これを読
み終わった時、何か自分に残るだろうか…何にも残らねぇな…。もうこの人読まないわ。


102..「メモリアル病院の5日間 生か死かーハリケーンで破壊された病院に隠された真実」
(2013) ★★ シェリ・フィンク 高橋 則明 訳 ’17/08/03読了
ハリケ−ン・カトリーナが来る前後譚。その中でもう助からない患者を次々安楽死させた医師
がいたという。患者、看護師、医師とそれぞれの証言をする。
 確かに安楽死させる必要があったのか。助けようにも無理ならその場で殺さずとも、あとは
天にまかせればよかったのでは?安楽死は難しい問題だ。



101.「生還者」(2015) 下村 敦史 ★★ 図書館 ’17/17/30



100.「昆虫はすごい」(2014) 丸山 宗利 ★★ 図書館 ’17/07/28
 もっと擬態する昆虫を取り上げて欲しかった。いろんな昆虫がいて楽しい本。


99.「後妻業」(2014) 黒川 博行 ★★ 図書館 ’17/17/26
 この本の後、似たような事件が起こって、予期していたようだと、取り上げられてた。前の職
場で確かにそうだろうな、というカップルを見たことがあった。若い美人が爺にほれるわけねー
だろ、金狙いだよ、金。いつもならそう思うのだが、なんとその老人にはほとんど預金などなか
った。狙いを間違えた、といつ気付くのだろう?気付いた時の顔が見て見たいと思った。…こと
があった。


98.「嫌な女」(2010) 桂 望実 ★★ 図書館 ’17/07/25



97.「妊娠カレンダー」(1994) ★ 小川 洋子 図書館 ’17/07/22読了



96「.スクランブル」(1997) 若竹 七海 ★★ 図書館 ’17/07/22読了



95.「薔薇密室」(2004) 皆川 博子 ★★ 図書館 ’17/07/22読了




94.「サーモン・キャッチャー」(2016) 道尾 秀介×ケラリーノ・サンドロビッチ ★ 図書館 17
/07/18読了
 なんだ、この本は?なにが言いたいんかさっぱり…。


93.「原発ホワイトアウト」(2013) 若杉 冽 ★★ ’17/07/15読了



92.「やがて海へと届く」(2016) 彩瀬 まる ★ 図書館 ’17/17/13読了



91.「暗黒少女」(2013)秋吉 理香子 ★★ 図書館 ’17/07/11読了
「少女」+「羅生門」。



90.「軍神の血脈」 ★★ 図書館 ’17/0710読了
 楠木正成は人物として評価が高く、今でも楠公さんと呼ばれ歴史に名を残しているのに、何
故勝てぬ勝負に挑んで負けたのか…。これは歴史上結構謎らしい。いろんな仮説が立ててあ
って面白かった。



89.「二人のオリガ・クニッペル チェーホフと「嵐」の時代」 牧原 純 ★★ 図書館 ’17/07/
09読了
 チェーホフ知らんのに読んでもた。写真が多くて分かりやすかった。



88.「襲名犯」(2013) 竹吉 優輔 ★★ 図書館 ’17/07/08


87.「ニッポン絶望工場」(2016) 出井 康博 ★★ 図書館 ’17/07/05読了
 国内の外国人により犯罪はもはや中国人を抜いて、ベトナム人が多いらしい。驚いた。実は
ウチのウラのアパートにいるのだ。しかも単身者用のアパートに4人詰め込まれている。正に
この本にあるようなタコ部屋である。何も起きませんように……。




86.「ビブリオバトル 本を知り人を知る書評ゲーム」(2013) 谷口 忠大 ★★ 図書館 ’17/
07/05読了


85.「徳川某重大事件 殿様たちの修羅場」(2013) 徳川 宗英 ★★ 図書館 ’17/07/04読

タイトルほど重いものではなく、将軍様のわがままに振りまわされた家臣たちが面白かった。


84.「弥勒の掌」(2005) 我孫子 武丸 ★★ 図書館 ’17/07/03
 ラストシーンで好きか嫌いか分かれると思う。私はこの終わり方は嫌いではない。正義はどち
らにもある。久しぶりにこんな結末の本に会った。



83.「秋葉原事件」(2013) 中島 岳志 ★★ 図書館 ’17/07/02読了
 犯人の生い立ちが書いてあり、事件後犯人の気持ちや動機を深く探求したものではない。



82.「イヤミス短編集」(2015) 真梨 幸子 ★★ 図書館 ’17/06/29読了
 イヤミスと宣言している割にはパンチがないというか。もっと描けるはず!次に期待。



80.、81「邪悪」(上)(下)(2015) パトリシア・コーンウェル 池田 真紀子 訳 ★★ 図書
館’17/06/29 読了
 多分2,3冊とばしてるんで、話がさっぱり。主に人間関係の方に重きが置かれていて、スカー
ペッタとルーシーの関係に大きく亀裂が入っているようだ。宿敵に対して終始劣勢のスカーペッ
タ勢。あまり面白くないし…長い!もう上下巻で当たり前になってきている。最初の頃の切れ味
のよいストーリーにはもう戻れないのかな;あ…。



79.「もののあはれ」(2017)ケン・リュウ 古沢 嘉通 訳 ★★ ’17/06/28読了


78.「絶対主義」(2016) 秋吉 里香子 ★★★ 図書館’17/06/27読了


77.「太陽の棘」(2014) 原田 マハ ★ 図書館 ’17/06/25読了


76.「真実の檻」(2016) 下村 敦史 ★★ 図書館 ’17/06/23読了
 冤罪 死刑廃止、加害者、被害者。”時効に守られてきた父は、一生償いを終えることができ
ない。もう誰からも赦されない存在……”



75.「マグダラのマリア」(2005) 岡田 温司 ★ 図書館 ’17/06/20
 聖母マリアやエヴァと並んでマグダラのマリアは西洋世界で最もポピュラーな女性である。娼
婦であった彼女は悔悛して、キリストの磔刑、埋葬、復活に立ちあい、「使徒の中の使徒」と呼
ばれた。両極端ともいえる体験を持つため、その後の芸術表現において、多様な解釈や表象
を与えられてきた。貞節にして淫ら、美しくてしかも神聖な<娼婦=聖女>が辿った数奇な運命と
芸術作品から読み解く。



74.「暗鬼」(1993)乃南 アサ ★ 図書館 ’17/06/19読了
 親子4代、総勢9人という現代では珍しい大家族に嫁いだ法子。まだ他人の法子にとって、
初めて知る大家族とは、暖かくお互いが理解し合う最高の絆であった。だがふとしたきっかけ
から、法子は家族の表面的な優しさの奥に潜む奇妙な人間関係、謎の多い行動に気付き、一
人調査を始めた。家の呪縛、血の絆まで描ききる本格サイコ・ミステリー。



73.「まぐだら屋のマリア」(2011) 原田 マハ ★★ 図書館 ’17/06/16
粗筋:有名料亭「吟遊」で修業していた紫紋は、料亭で起こった事件で全てを失った。逃げ出し
た紫紋はバスに乗り「尽果」というバス停で降りた。食堂を一人で切り盛りするマリアに助けら
れた紫紋は食堂で働かせてほしいと申し出る。



72.「クリーピー」(2014) 前川 裕 ★★ 図書館 ’17/06/15
粗筋:大学で犯罪心理学を教える高倉は妻と一戸建てに二人で暮らしていた。
 ある日、刑事・野上から一家失踪事件の分析を依頼されたのを契機として、周囲で事件が頻
発する。野上の失踪、学生同士のトラブル、出火した隣の家の焼死体。第15回日本ミステリ
ー文学賞新人賞受賞作。



71.「頼子のために」(1993) 法月 綸太郎 ★★ 図書館 ’17/06/13



70.「パレートの誤算」(2014) 柚月 裕子 ★★ 図書館 ’17/06/11
 「ケースワーカーはなぜ殺されたのか。優秀な先輩の素顔を追って、女性ワーカーが生活保
護の闇を炙りだす!」(オビより)



69.「彼女のいない飛行機」(2015)ミシェル・ビュッシ 平岡 敦訳 ★★  図書館 ’17/06/09
”1980年12月23日深夜、イスタンブルからパリへ向かうエアバス5403便が墜落。燃え盛る
機体のそばから生後数カ月の女児が救出された。マスコミは「奇跡の子」と呼んで大々的に取
り上げ、フランス中が注目。しかし事故機に乗った乳児は二人。どちらの両親も事故で無くなっ
てしまい、残されたのがどちらの赤ん坊なのかを見分けられる者は誰もいなかった。カルヴィ
ル家とヴィトラル家の祖父母が自分たちの孫娘だと主張して譲らず、裁判にまで発展する。果
たしてどちらの子なのか…”
 笑えるオチでした。自分は全く想像してなかった結末だったので、またもフランスミステリなか
なかやるな…!と唸ったが…上下2巻は長かった。



68.「ボーンズ 命の残骸が放つ真実」(2007) キャシー・ライクス 山本やよい訳 ★★ 図書
館 ’17/06/04



67.「ねにもつタイプ」(2007) 岸本 佐智子 ★★ ’17/06/04



66..「波形の声」(2014) 長岡 弘樹 ★★ 図書館 ’17/06/02



65..「闇からの贈り物」(上)(下)(2015)V.Mジャンバンコ 谷垣 暁美 ★ 図書館 ’17/06/
02
 シアトル郊外の高級住宅地でシンクレア一家が惨殺された。女刑事アリス・マディソンが捜査
を始めるが…。



64.「微笑む人」 貫井 徳郎 ★★ 図書館 ’17/05/25



63.「恋するソマリア」 高野 秀行 ★★★ 図書館 ’17/05/23



62.「ヘンな日本美術史」(2012) 山口 晃 ★★ 図書館 ’17/05/21
画をもっと乗せてほしかった。


61.「私の幸福論」(1979) 福岡 恒存 ★ 図書館 ’17/05/21
さっぱりわからない。


60.「土莫の花」(2010) 月村 了衛 ★★ 図書館 ’17/05/18
「いじめは子供だけのものじゃない。大人にもある」自衛隊がソマリアの内戦に巻き込まれる
話。


59.「おやすみラフマニノフ」(2010) 中山 七里 ★★



58.「天使の屍」 貫井 徳郎 ★ 図書館 ’17/05/14



57.「督促OL修行日記」(2012) 榎本 まなみ ★★★ 
 私が現役の時に読めたらよかったなー…。督促じゃないけど、似たような仕事をしていたの
で…。



56.「仮面病棟」(2014) 知念 実希人 ★★★ 図書館 ’17/05/07



55.「告白の余白」(2016) 下村 敦史 ★★ 図書館 ’17/05/06
”京都に囚われているのは、京子や雅美や房恵だと思い込んでいた。だが、実際は自分だっ
たのではないか。自分こそ”よそさん”という分かりやすい属性に囚われ、勝手に膨らませたイ
メージで相手を見ていたのではないか”



54.「長い腕」(2004) 川崎 卓志 ★★ 図書館 ’17/05/04



53.「赤へ」(2016) 井上 荒野 ★ 図書館 ’17/04/28



52.「芥川症」(2014) 久坂部 羊 ★ 図書館 ’17/04/26



51.「魔女は甦る」(2015) 中山 七里 ★ 図書館 ’17/04/25



50.「戦場のコックたち」(2015) 深緑 野分 ★★★ 図書館 ’17/04/21



49.「漁港の肉子ちゃん」(2011) 西 加奈子 ★ 図書館 ’17/04/19



48.「きみの友だち」(2008) 重松 清 ★ 図書館 ’17/04/12



47.「幸せすぎるおんなたち」(2013) 雀野 日名子 ★★ 図書館 ’17/04/12



46.「シロクマのことだけは考えるな!」(2008) 植木 理恵 ★   図書館 ’17/04/10



45.「暗幕のゲルニカ」(2016) 原田 マハ ★★★ 図書館 ’17/04/09



44.「ジェリーフィッシュは凍らない」(2016) 市川 優人 ★★ 図書館 ’17/04/06



43.「リバース」(2016) 五十嵐 貴久 ★ 図書館 ’17/04/04



42.「嗤う淑女」(2015) 中山 七里 ★★ 図書館 ’17/04/03



41.「進・電気じかけの予言者たち」 木根 尚登 ★ 中古本 ’17/03/25

40.「震・電気じかけの予言者たち」

39.「真・電気じかけの予言者たち」 



38.「シンクロニシティ」(2013) 川瀬 七尾 ★★ 図書館 ’16/04/01



37.「きみはいい子」(2012) 中脇 初子 ★★ 図書館 ’17/03/25



36.「700番 第2,3巻」(2017) ASKA ★★ 購入 ’17/03/26



35.「700番 第1巻」(2017)ASKA  ★★ 購入 ’17/03/30



34.「贖罪の奏鳴曲」(2011) 中山 七里 ★★★ 図書館 ’17/03/22



33.「法廷昆虫学捜査官 水底の棘」(2016) 若竹 七海 図書館 ’17/03/20



32.「悪いうさぎ」(2001) 若竹 七海 ★★ 図書館 ’17/03/19



31.「QED 百人一首の呪」(1998) ★★ (古本) ’17/03/09



30.「最後のディナー」(2001) ★★ 島田 荘司 図書館 ’17/03/07


29.「記者たちは海へ向かった」 ★★ 図書館 ’17/03/04


28.「そして奇跡は起こった!シャクルトン隊全員生還」(2000) ジェニファー・アームストロング
訳 灰島 かり ★★ 図書館 ’17/13/06


27.「よこまち余話」)2016) 木内 昇 ★★ 図書館 ’17/03/03


26.「孤狼の血」 柚月 裕子 ★★ 図書館 ’17/02/28


25.「ふくわらい」(2012)西 加奈子 ★ 図書館 ’17/02/23


24.「東京ロンダリング」(2011) 原田 ひ香 ★★ 図書館 ’17/02/22


23.「給食のおにいさん」(2013)遠藤 彩見 ★★ 図書館 ’17/02/22


22.「傷だらけのカミーユ」(2016)ピエール・ルメートル ★★ 図書館 ’17/02/20


21「涙香迷宮」(2016)竹本 健治 ★★ 図書館 ’17/02/17


20.「万能鑑定士Qの謎解き」(2014)松岡 圭祐 ★★★ 図書館 ’17/02/13


19.「万能鑑定士Qの探偵譚」 松岡 圭祐 ★★★ 図書館 ’17/02/11


14..〜18「特等添乗員αの難事件 1〜5(2012) 松岡圭祐 ★★図書館 ’17/02/20


13.「星がひとつほしいとの祈り」(2010)原田 マハ ★ 図書館 ’17/01/31




ここから先、ちょっと事情があって更新出来てなかった分を一気に書きました。感想・粗筋など
かなり省略してます。




12.「白い死神」(2012)ペトリ・サルヤネン著 古市真由美訳 ★★ (図書館)’17/01/29読了
「1939年11月、第一次ソ連・フィンランド戦争「冬戦争」。
 100万のソ連軍に対し、迎え撃つフィンランド軍はわずか25万。
 圧倒的劣勢の中、最も激しい闘いの地となったコッラー川において、542名のソ連兵を狙撃
するという前人未到の戦果を上げたシモ・ヘイヘ。
その驚異的な射撃技術を獲得した生い立ち、敵狙撃手との一瞬を争う駆け引きの模様、さら
には、彼を支えたフィンランド軍の傑物たちとのエピソードも紹介―詳細な資料が一切なかっ
た。”白い死神”、その伝説が今明らかになる。」
 という筋書き。写真を見る限りでは、小柄でぼんやりした顔立ちから「死神」と恐れられたとは
思えない。第二次世界大戦で最多の524名を射殺した狙撃手。しかしどうやって数を数えたの
か…。ともかく第二次世界大戦で教科書以上のことは知り得ない、まして北欧の闘いなど全く
知らなかったので、ちょっと勉強になりました。



11.「ロスト・ケア」(2015)葉真中顕 著 ★★ (図書館)’17/01/28読了
 これは読む人の年齢によって評価が分かれるのではないか。40代以上なら介護の心配が
他人事でなくなってくるので、私なんかにはミステリというよりホラーに感じた。



9.10.「黄昏の彼女たち」(上)(下)(2016)サラ・ウォーターズ著 中村有希訳 ★★ (図書
館) ’17/01/25読了
 1922年、ロンドン郊外に居をかまえる26歳の女性と母親。没落貴族となってからはメイドも
雇えなくなり、自分たちで掃除するしかなくなった。そして収入のために屋敷の一部を貸し出す
ことに。入居したのは若いカップル。お互いの存在が気になり始め…。
 上巻は何も起こらず、なんじゃこりゃと思っていた。下巻に入ってようやく事件が起きるのだ
が…たいしたこともなく。一応殺人事件なんだけども。長い割にあまり面白くなかったというの
が正直な感想。



8.「桜子は帰ってきたか」(1983)麗羅 著 ★★★ (図書館) ’17/01/20読了
 これは完璧なミステリでした。評価が低い…というか認知度が低いのは何故だろう?最後の
一行まで完璧だったと思うのだがなぁ…。




7.「ねずみに支配された島」(2014)ウィリアム・ソウルゼンバーグ 著 野中香方子 訳 ★★
 (図書館) ’16/01/19読了
 ニュージーランドの生態系が人間の持ちこんだ捕食動物によって絶滅、または絶滅の危機
にさらされている…というテーマ。跳ぶ必要が無くなったので翼が退化し、その代わり足が速く
走れるように進化したとか。人間の業の深さですな…。



6.「ニュンベルク裁判」(2015)アンネッテ・ヴァインケ 著 板橋拓巳 訳 ★ ’17/01/19読了
 自分の疑問に応えてくれるものではなかった。



5.「教場」(2013)長岡弘樹 著 ★★ ’17/01/10読了 (図書館)
 警察学校を舞台にした短編6篇。こんなに警察学校って厳しいんだー、と単純に思ったが、
その厳しさがなんだか軍隊みたいだなーとも。「職質」「牢問」「蟻穴」「調達」「異物」「背水」とあ
るんだが「蟻穴」が一番恐ろしかった。



4.「秋の森の奇跡」(2006)林真理子 著 ★ ’17/01/06読了 (図書館)
 なんじゃ、こりゃ…。BBAの不倫なんぞ面白くない。なんでこんな本借りちゃったのかな…。



3.「ボーンズ 命の残骸が放つ真実」 キャシー・ライクス著 ★★ ’17/01/04読了(図書館)
 最初の方が進むのが遅くて、最後に結末が二転三転するという…。テンポの遅いところと速
いところに差がありすぎ。確かに、二転三転するところは面白かったけど、そんなに結論をひっ
くり返してると信用されなくなるんじゃないかと。あんまり主人公の元夫と現在の恋人の三角関
係は興味ないんだけどな…。



2.「反社会品」(2016)久坂部羊 著 ★ ’17/01/02読了 (図書館)
「無痛」の作者の短編集。「人間の屑」ではひきこもり、「無脳児はバラ色の夢を見るか?」では
出生前診断および障害児を生むという問題、など医療に関係あるテーマで「占領」「不義の子」
「命の重さ」「のぞき穴」「老人の愉しみ」と続く。どれも最後がそれでいいの?というもので…作
者なりの結論も書いて欲しかったが、所詮医者でもわからないことが多いのかもしれない。万
が一の「一」に自分がひっかかるなんて誰が想像するだろう。問題をつきつけられてやっと他
人事でないと気付かされるものなのだろう。



1.「テヘランでロリータを読む」(2006)アーザル・ナフィーシー著 市川恵里 訳 ★ ’17/01/
01読了 (図書館)
 初めて読むイラン文学!と勢い込んでみたものの…。国語教師が女子生徒と文学を勉強す
る課外授業の話。授業で取り上げる「ロリータ」「グレート・ギャツビー」やジェイムズ、オースティ
ンいずれも読んでないということに気付いた。ロリータはともかく「高慢と偏見」くらい知っておか
なければなぁ、と反省。
 それはともかく、宗教で目隠しされてなお、彼女たちは「情報」という本に飢えている。自由に
本を読めることだけでもありがたいことなのだ。
 イランは常に戦争やら革命やらでキナ臭い。政府の検閲により外国からの情報は入ってきた
り来なかったり。入って来た本も発禁されたり。西洋の本は持ってるだけで罰されたり。本に対
してだけじゃなく反政府的だと思われれば女性だって石打ちの刑にされる。そんな国に生まれ
なくてよかった。



はい、2016年はここまで。97冊。100冊までいかなかったけど、つまんなかった自己啓発と
か入れたら、実は105冊。そして2017年、カウントは1からになります。


97.「ジェノサイド」(2011)高野和明 著 ★★★ (図書館) ’16/12/28読了
 タイトルからしておっかない。最初からペースが速くいろいろ出てくるので、ページを繰る手が
止まりません。本に出てくる話がいちいちごもっとも、で近未来に本当に起こりそうな気になる。
何を書いてもネタバレしそうなんで、とりあえず読んで損はない一冊。所詮フィクション、とSFが
好きじゃない人(ちょっとその要素は入っている)は苦手かもしれないけど、恐らくそれも杞憂か
と。



96.「骨と歌う女」(2004)キャシー・ライクス著 山本やよい訳 (図書館)★★ ’16/12/24読了
 ドラマのイメージからどうしても主人公のイメージがエミリー・デシャネルになってしまうのだ
が、ドラマとは舞台も性格も全く違う。むしろコーンウェルのケイ・スカーペッタと比較してしまう。
正直話しの展開もストーリーそのものもコーンウェルの勝ち。翻訳の山本やよいは「私はウォ
ーショースキー」シリーズも手掛けているのでミスがあるとは思えないが、ちょっと意味が…?と
いうところもある。そして校閲者から何も言われなかったのかと思うような口語調。「住んでんじ
ゃなかった?」とか「あなたの頭を割ったげましょうか」とかちょいちょい口語が。そんなことに目
くじら立てる必要は勿論ない。「水がめ座の時代」はちょっと注釈必要なんじゃないだろうか。調
べて見たけど、要するに2000年の意味で「長い間」をユーモラスに言ったのかもしれないが、
あまり一般的な言葉でないように思う。スカーペッタシリーズの翻訳・相原真理子ならそこも噛
み砕いて訳してくれるような気がする。
 暴走族が暴力団なみの警戒すべき集団だとは思わなかった。そしてテンペランス・ブレナン
がカナダのモントリールとアメリカのノース・カロライナを往復しているので、どっちがどっちの事
件か、そして暴走族の集団名が何度もでてくるが、誰がどの集団とか、わかりにくいことこの上
ない。ミステリそのものとしては悪くないのに…。残念に思う。でも続編も借りているので、次に
期待である。



95.「弁護士の血」(2015)スティーブ・キャヴァナー 著 横山啓明 訳 ★★★(図書館)
’16/12/21読了
 最初から最後まですごいスピードで読ませる。一気読み。ちょっと物理的に不可能なことや腑
に落ちないこともあるけど、この展開の速さではいた仕方ないのかも。
 元詐欺師で弁護士のエディが朝食に寄ったレストランでいきなり銃をつきつけられ、ロシアン
マフィアのボスの弁護を依頼される。しかし目的はボスの無罪ではなく、警察に捕まったリトル・
ベニーが法廷で証人席に座った時爆殺するためだという。エディは人質に娘エイミーを取ら
れ、断れない状況に。残り24時間で娘を奪還、ボスを無罪に、証人リトル・ベニーを引っ張り
出すことができるのか?
 結果から言っちゃうとできちゃうんだが。エディがなんとイタリアン・マフィアのボス・ジミーと幼
馴染で途中からマフィアの抗争になっちゃったり、有り得ない速さで電話連絡、メール送信した
りちょっと八面六臂の大活躍が過ぎるところもあるが。途中で止められなくて一気に読みまし
た。ミステリというよりエンタメです。



94.「二流小説家」(2011)ディビッド・ゴードン 著 青木千鶴 訳 ★ (図書館) ’16/12/19
 長い…長かった。作中作の小説必要かなぁ?なかなか話が進まなくてイライラ。最後犯人が
誰でもどうでもよくなった。



93..「オルゴーリェンヌ」(2014) 北山猛邦 著 ★★ (図書館) ’16/12/15読了
 基本ファンタジー世界でのミステリ。正直無茶なトリックだと思う…。これぞミステリという人も
いるけれど、基本となる世界がよくわからんので…。最後にたたみかけるようにトリックが明か
されるけど「は?」という種明かしも…。やはりファンタジーはミステリとはいえ避けようとおもっ
た。



92.「ボーンズ「キリストの骨」に刻まれた秘密」(2010)キャシー・ライクス 著 山本やよい 訳
★★ (図書館) ’16/12/12読了
 アメリカのテレビドラマ「BONES」のモデルになった作品。法人類学者テンペランス・ブレナン
という主人公の名前以外は全くドラマとは別物。相棒の刑事の名前はライアンだし(ドラマでは
ブース)。
 ブレナンの元にイスラエルで見つかったという骨が持ちこまれる。長年の友人だった学者は
見つかった場所が一族の墓であったことからキリストの骨ではないか、と言うのだが…。
 結果から言うと気に入りました。ので、続編も読んでいきたいと思います。



91.「ぼくは漫画大王」(2016)胡傑 著 稲村文吾 訳 ★ (図書館) ’16/12/07読了
 第3回島田荘司推理小説賞受賞作。
 舞台は台北。小学生の「健ちゃん」の日常とくたびれた中年の「お父さん」の物語が交互に描
かれる。最初にミステリとしての問題が出されるが、台北の暮らしや中国語での言い回しなど
に頭を持って行かれ、最後に物語が繋がり「あ、ミステリだったっけ」と思いいたる。
 正直、島田荘司ばりの本格ではなくて、台湾のミステリはこんなものか、と肩すかしをくらtっ
たのは事実だ。が、華文学のミステリはまだまだこれからだと思うので頑張ってほしい。で、い
つかは自分が翻訳できたらいいなぁ、と。でも今作に出てきた台湾文化なぞ暮らしていないの
で訳せる自信は全くない。



90.「翻訳問答」(2014)片岡義男×鴻巣友季子 著 ★★ (図書館) ’16/12/05読了
 面白い。二人で翻訳バトル(というほどではないが)。意味は違わないのに、表現が翻訳家に
よってここまで違うのか、と。翻訳を勉強している身としては参考になった。



89.「フランクフルトへの乗客」(1979)アガサ・クリスティー著 ★(中古) ’16/12/04読了
何が何してどうなった話なのかさっぱり。ポアロやマープルのシリーズものじゃないと面白くない
のかな。



88.「まんが パレスチナ問題」(2004)山井教雄 著 ★★(中古) ’16/11/30読了
 思っていた異常にこの問題は複雑だったと知った。どちらが悪いとは一概に言えないのだろ
うが、どちらも退きそうにない。著者は最後に「こうなれば」という案を出しているが、やはりそ
れは理想に思える。戦争は裏で金儲けできるから一つの産業になっているのではないかとす
ら思えた。



87.「女性たちの貧困 ”新たな連鎖の衝撃”」(2014)NHK「女性の貧困」取材班 著 ★★ 
(図書館)’16/11/30読了
 確かに救わねばならないということもあるが…10代ででき婚して、離婚して育児放棄とか、そ
んなのまで救う必要があるのか、と思ってしまうのも事実で。この世の中先々のことを考えて家
族計画を立てる必要があると思う。なんにしてもしわ寄せが行くのは子供なのだ。



86.「その可能性はすでに考えた」(2015)井上真 著 ★★ (図書館) ’16/11/28
 青い頭髪にハンサムな主人公探偵。その割に出番があまりなく、相棒の中国人フーリンのほ
うが出ずっぱり。この手の主人公は多いので飽きてきた。内容もなんだっけ?というほどに薄
い。聞いたことも無い日本語や中国語ぶっこんできたりと修飾華美な文体でわけのわからんト
リックを披露するというのは何だか嫌みで、もうこの人の本を読もうとは思わない。



85.「リターン」(2013)五十嵐貴久 著 ★★(図書館) ’16/11/26読了
 前作「リカ」の続編で、この後更に「リバース」が出ているとか。リカが化け物すぎて、1作目は
あまりいいと思えなかった。今作でもやっぱり…。事件から10年後、やっとリカが動き出すの
だが、リカがどうやって生きてきたかとか、リカの異様な容貌でも目撃されなかったとか、ちょっ
と無理だなぁと。グロは相変わらずだけど、「リカはどこだ」という文章ばかりつらねていて、物
語の進み具合は遅い。「リカはどこだ」という文章を抜けば半分以下のページで済むんじゃな
かったのかな、と。でもラストが気になったので続編「リバース」は読むつもり。



84.「無痛」(2004)久坂部羊 著 ★★ (中古) ’16/11/24読了
 ドラマの方を先に見たんだけど、どうやら原作とは違う、という話を聞いて読んでみた。確か
に違う。重点を置くところが違うんだな。ドラマのほうは主人公の町医者・為頼に病気を見抜く
超常的な力があるように描いているが、本では飽くまで医者の観点で表に出ている症状から病
気を見抜く。
 それにしても本としては、話運びが今一つで、途中で重要なキャラがどこか消えちゃったり、
伏線の回収漏れ?と思うところがあり、ひょっとすると続編があるかもしれない。でも多分読ま
ないなぁ。



83.「ミステリー・アリーナ」(2015)深水黎一郎 著 ★★ (図書館) ’16/11/20読了
 これは…こういうのをバカ・ミスというのだろうか?推理のみに特化した小説とはいえ…なん
だか、いちいち「そうだっけ?」とページを前に戻すのも面倒くさい。最後のドタバタは必要なん
だろうか?こういうのはもう結構です。



82.「ヒポクラテスの誓い」(2015)中山七里 著 ★★(図書館) ’16/11/17読了
「検視官」と「死体は語る」をベースに練られたような小説。今作は法医学教室が舞台。丁寧な
描写で取材も大変だったろう。かなり詳細に死体やら臓器やらが出てくるが、読んでるものを
ビジュアル化して読むタイプの自分にはグロかった。そして小説からは伝わって来ないが、とに
かく臭いらしい。私が主人公の真琴という研修医ならリバース必至。面白かったので次回作も
はや図書館で予約した。



81.「さよなら妖精」(2004)米澤穂信 著 ★★(図書館) ’16/11/15読了
 「さよならの手口」の前作となる今作。読む順が前後してしまった。でも読みだしてみると、主
人公のイメージが全然違う。「さよならの手口」のほうはちょっとドジなアラフォーが、「さよなら
妖精」では愛想もクソもないクールビューティー。しかもこっちの主人公は同級生の男の子。
 ユーゴスラビアからやって来て頼りにしてた人が亡くなっており、茫然と立ち尽くしていたマー
ヤ。そこへ通りかかった守屋と太刀洗万智が彼女の運命に関わって行く。
 また太刀洗万智が主役の小説が読みたいなと思った。



80.「新・怖い絵」(2016)中野京子 著(購入) ★★★ ’16/11/13読了
 今回はあまりポピュラーでないモノを揃えたとか。確かに20作品中私が知っていたのは4枚
だった。有名なのはミレーの「落穂拾い」、ミレイ「オフィーリア」、カラヴァッジョ「聖ヨハネの斬
首」、ゴヤ「鰯の埋葬」くらいでしょう。でもポピュラーでない作品でも裏話は面白い。もっと出し
てほしいなぁ。



79.「天国でまた会おう」(下)(2015)ピエール・ルメートル著 ★★(図書館) ’16/11/07読了
 純文学だが、ルメートル作なのでちょっとミステリものスパイスもある。
 上巻で同居することになったアルベールとエデュアール。エデュアール発案の詐欺に不承不
承加わったアルベール。詐欺だとわかってから、主犯を追う元上官のプラデル。果たして逃げ
切れるのか。
 十分ミステリの要素ありですな。でも唯一解せないのが邦題。そんな悲観的な終わりではな
かったけれども…?



78.「私が失敗した理由は」(2016)真梨幸子 著 ★★(図書館) ’16/11/05読了
 やはりイヤミスパワーが落ちている…。面白いんだけどね…。



77.「片桐大三郎とXYZの悲劇」(2015)倉知淳 著(図書館)★ ’16/11/03読了
片桐大三郎という70歳の大スターが警察より鋭い推理で難事件を見事解決!
 正直、警察が難事件といえど一般人に意見を求めるなどありえない。という基本が守られて
いないので、フィクションなんだから、という気も起こらない。トリックも大したことないし。もうこ
の人の本は読まないな。



76.「天国でまた会おう」(2015)ピエール・ルメートル著(図書館) ★★ ’16/10/31読了
 第一次世界大戦を生き延びたアルベール。しかし戦場で敵ならまだしも、上司に殺されかけ
たアルベールは戦後も神経が休まらなかった。助けてくれたエドゥアールは戦時中に下あごを
吹き飛ばされ、手術も望まなかった。家族とうまくいってなかったエドゥアールは家に帰らず、
アルベールと二人で暮らすことに。
 まだまだ先がありそうだが、二人の物語がどう決着がつくのか見届けたいと思う。どうにも下
あごを吹き飛ばされ、顔面にぽっかり穴があいているエドゥアールを想像しづらいんだが。



75.「駆け込み寺の玄さん〜たった一人のあなたを救う」(2011)佐々涼子 著 (図書館) ’16
/10/25読了
 本の内容に惹かれて、というより佐々涼子の本をもっと読みたいと思っただけ。
 新宿歌舞伎町に困った人を助ける玄さんという人がいるらしい。佐々涼子が密着取材。
 人のことにこれだけ世話がやけるのはすごいなぁ、と思ったが、本人はいたってドライという
かサバサバしており、「助けられると思えば何としてでも助ける。無理と思ったら断る」それだけ
のことらしい。オーバーステイで強制送還されるだろうパキスタン人の青年の雇い主がなんと
かしてくれ、と頼みに来るが、玄さんはキッパリ駄目だと言う。雇い主の人間があまりにまっとう
で悪事に手を染めれば必ずバレるという人間性を見抜いたからだ。オーバーステイは15年
(!)「15年夢みさせてもらったと思えばええやんか」と諭す。
 自分にこんな炯眼があるだろうか、いや、ない。玄さんの人を見る目は確かにすごい。しかし
家人のDVに逃げてきた少女は東北の介護施設に職を紹介し、逃がしてやるのだが、少女は
仕事をやめ行方知れずになった。さぞ無念だろうと思いきや「なんでや。一人一人にやれるこ
とやっただけや。次々助けが要る人が来る。終わったことはもうええんや」玄さんは少女を助け
た。その後は少女が決めることだ。玄さんはあくまでサポートなのだ。その人の人生に関わる
つもりはない。
 捨てる者あれば拾うものあり。こんな人がいてくれることがわかってほっとしたが…できれば
玄さんの世話にはなりたくないものだ…。



74.「悪魔の羽根」(2015)ミネット・ウォルターズ 著 ★★ (図書館) ’16/10/25読了
 確か途中まで読んだ記憶があるのだが、結末を思い出せなかった。しかも読書記録にもない
…。確かに覚えがあったのだけど…ちょっと自分の謎。
 ジャーナリストのコニーは中近東で仕事中、拉致監禁されてしまう。3日後解放されたのだ
が、マスコミを一切シャットアウトし、イギリスの田舎で隠遁生活に入る。3日間に何があったの
か、何故コニーは隠れたのか…。
 最後に向けてもう一転二転するかと思ったけど、結構速く解決してしまった感じ。フィクション
だけどこういうこともある得るだろうなー、とは思った。



73.「大いなる幻影 / 猟人日記」(1962) 戸川 昌子著 ★★ ’16/10/15
 何故この本を注文してまで図書館で借りたのか…思い出せない。
「大いなる幻影」はタイトルとは逆にある女性オンリーのせせこましいアパートが舞台。登場人
物はそこの住人と管理人。これが凡庸な名前で誰が誰やらわかりずらい。結果を知っても、特
になんの感慨も無かった。
「猟人日記」こちらの方はちゃんとミステリの体をなしていた。最後のネタばらしも、2段階に分
かれており、なるほど、と思わされた。
 関係ないけど映画の「猟人日記」(主演ユアン・マグレガー)とは全く関係ない。



72.「邪悪な少女たち」(2014英) アレックス・マーウィッド著 長島水際 訳 ★★’16/10/09読

 1986年と2011年のストーリーが交互に描かれる。しかし登場人物は同じ。つまり1986年
に友達だった二人の少女は」事件をきっかけに少年院へ入れられ二度と会ってはいけないこ
とになっていたのだが、2011年図らずも出会ってしまった。
 実際にそういう事件があった(1954年)ので何度も作者はアン・ペリーじゃないのか、と著者
名を確認した。
 それにしても長い。ちょっと長すぎる。これだけのネタならもっとぎゅっと凝縮した方がいいと
思うのだが。それも実際の事件ではないのなら尚更、必要なところだけにしたらいいのに、と読
んでてやきもきした。



71.「殺戮にいたる病」(1992)我孫子武丸 著 ★★★ ’16/10/06読了
 内容については自分の下手な文章ではネタバレしかねないので書けないが、確かにこれは
やられた。まんまと作者のミスリードにやられた。騙されまいぞ、と時系列じゃないんじゃない
か、とかこいつとこいつが入れ換わって…など色々考えたのに、全く予想を裏切ってくれた。た
だ、ちょっとグロいシーンが多いので、そりゃフィクションだとわかっていても読めなくて2,3ペー
ジすっとばしました…。グロOKなミステリ好きにしかお勧めできません…。



70.「中国人「毒婦」の告白」(2011) 田村建雄 著 ★ ’16/10/02読了
 結局、判決は変わらず、詩織の本意はわからずしまい。なかなか本音を見せない中国人に
著者は胸の内を開けてもらえなかった。事実とされていることが事実なら、限りなくクロである。
著者が何故この事件に関わったか知らないが、黒竜江省まで行って御苦労なことである。中
国人、特に貧困層は平気で嘘をつく、というのを他の本で嫌ほど読んだので、やはり中国人受
刑者の肩を持つ気にならない。



69.「ラスト・コヨーテ」(上)(下)(1996) マイクル・コナリー著 ★★ (中古) ’16/09/30読了
 実はペーパーバックを持っているので、そっちを読んでからにしようかと思っていたけど、しび
れをきらして邦訳の方を先に…またペーパーバックが残される…。
 知らなかったけど、ヒエロニムス・ボッシュ通称ハリーのシリーズ。前作全く読んでないのでよ
くわからない(特に冒頭)。前作の事件によりいきなり停職の憂き目に会い、カウンセリングを
受けさせられるところから始まる。
 孤児院で育ったハリーの母親は娼婦で、30年前に殺されたが、犯人は捕まっていない。ハリ
ーは自分の母の事件を捜査し始めた。
 というわけで、ミステリというよりある刑事のサスペンスものでした。ちょっとエピソードてんこ
盛りの登場人物多すぎで何が何やらこんがらがる。もうちょっとスッキリまとめてほしかった。



68.「ジョンベネ殺し 美少女殺害事件の深い闇」(2007)トーマス・C・ミラー著 ★ (図書館)
’16/09/21読了
 タイトルにつられて借りてしまったんだが…。ジョンベネ事件といえば誰もが知る事件だろう。
もう著者は犯人は親と最初に言いきっている。そう思うのも無理はない。
 1996年12月の朝、両親が娘がいないと気付き探し始める。その後家の主人ジョン・ミラー
が地下室で無残に殺された娘を発見。両親は犯人からの「脅迫状」を家の中で見つける。脅
迫状には「警察に連絡したら殺す」とあるにもかかわらず、母親は即、警察を呼んだ。警察は
犯人探しに取り掛かるかと思いきや…。 
 この事件のおかしなところは、母親が早々に警察を呼んでしまうところもそうだが、両親が記
者会見まで開いて自分たちは娘を殺された哀れな親を演じていることだ。警察は外部者が侵
入したという証拠もみつけられないうえに、両親をかばうように容疑者からはずしている。親が
怪しいと多くのマスコミやタブロイドが騒ぐと、金にものを言わせ両親は自分たちを疑う人間を
次々「名誉棄損」で訴え、司法も両親の味方であるように次々両親に勝訴をもたらす。そこが
副題となっている「深い闇」の部分。著者自身も訴えられ、いかに両親が怪しく、自分は潔白か
をだらだらと書いた日記になっている。もっと犯人像に近付いてほしかった。著者自身は一家
とは何のかかわりも無い。だらだら日記を読まされる苦痛さといったら…。こういう看板に偽り
あり的なタイトルやめてほしいわ。



67.「つらい不眠症を自分で治す実践ノート」(2016)高田明和 著 ★ (図書館) 9/17読了
 結局ストレス解消論。それができたら苦労はない、という程度のもの。




65.「アフガニスタン 戦乱の現代史」(2003)渡辺光一 著 (中古) ★★ ’16/09/15読了
 難しかった…とにかく難しかった。もう何が何やら、最低限中近東の地図が頭に入ってない
と、読み進めるのは難しい。
 何故中近東がもめてるのかと言うと、民族間の争いに天然資源を狙う欧米が入り乱れ、そり
ゃまとまらんわ…としか。でも子供たちのために速い内戦の終結を願わずにはおれない。



64.「桶川ストーカー殺人事件〜遺言〜」(2000)(購入) 清水潔 著 ★★★ ’16/09/11読了
 事件は記憶に新しい。犯人は自殺しちゃって、一体なんだったんだ。とニュース観ても思っ
た。本書は当時週刊誌の記者だった著者が事件をつぶさに追って、警察より先に犯人を特定
したというノンフィクション。警察より先に、というのも当然、警察が事件を調べようとしなかった
からだ。自殺した小松という人間はバックに誰がいたのか。警察は何故市民を助けようとしな
かったのか。何故被害者を守ろうとしなかったのか。謎が残る…というかつまり、それだけ巨大
な組織があったということか?
 身の危険を感じても、警察がここまでアテにならないのら、自衛するしかあるまい。とにかく警
察に頼るな、というメッセージに思えた。



63.「南京事件を調査せよ」(2016) 清水潔 著 ★★★ (新刊) ’16/09/05読了
 「南京大虐殺」があったのか、なかったのか。日曜の討論番組でおなじみの話題だ。
 「南京大虐殺」はあった。私は当時の人から話を聞いた!というのが「あった派」の根拠。
 「南京大虐殺」は無かった。被害者は300,000人と言われている。当時の南京の人口は200,
000程度。どうやったら300,000人も殺せるのかと「なかった派」が言うと、「数の問題じゃない」と
言いだす「あった派」。まことにどっちもどっちな言い分である。
 私は討論番組のおかげで、この件に関しては完全になかったと思い込まされていたのだが、
最近ちょっと考えが変わった。それはあったのなかったのという話からではなく、水木しげるの
「総員玉砕せよ」という自分の戦争経験を語ったマンガの「慰安婦」を扱った2ページからだっ
た。慰安婦が強制的に連れてこられたのか、金が欲しくて自分からなったのか、それはともか
く戦地で女性が何十人と列をなす兵士の相手をさせられていた、という事実だ。
 翻って南京ではどうであったか。白髪三千丈の国だから大袈裟に言うとしても、全くなかった
ということもないのではないか、と思いはじめている。そしてこの本はその考えを裏付けてくれ
ているような気がする。
 裏付けをとれなければ証言になりえない。著者は一つ一つの証言をつぶさに検証していって
いるのである。そこで、著者も知らなかった事実を知ることになる。それはオマケとして…。
 とにかく著者の行動力はすごい。「旅順事件」という日本人のほとんどが知らないであろう事
件も掘り起こし、解説している。私は個人的にこの著者は気にいっている。基本、本は図書館
か中古本で済ます。買うのはこの人に印税が入ってほしいと思う人。今のところ星野博美、大
野更紗、そして清水潔が加わった。



62.「アリス殺し」 小林泰三 著 ★ (図書館)’16/09/05読了
 本格ミステリ?わたしにはファンタジーとしか思えなかった。



61.「アルバトロスは羽ばたかない」(2014) 七河迦南 著 ★★★ ’16/09/03読了
(ネタバレあり)
 前作「七つの海を照らす星」の続編。舞台は同じ七海街の児童養護施設。主人公は前と同じ
かというと…。どう書いてもネタバレになってしまうので、この辺でやめときます(笑)



60.「未闘病記 膠原病「混合性結合組織病」の」(2014) 笙野頼子 著 ★ ’16/08/31読了
 膠原病って怖いなぁ…くらいしか思えないけども。著者は純文学の方面で多くの賞を獲ってい
るらしい。けど、私は知らなかったので、ただの闘病記かと思った。大野更紗のように病気に
重きをおいてなくて、独り身の世間からの目や作家という仕事やら、いろんなものと闘ってい
る。しかし文体は非常に読みにくかった。自分の母親ほどの年ではないが、書いた当時は50
代、今は60代になっているようだ。その割には言葉づかいが若者っぽいので、30代かな?と
思ったり。
 でも身内からの評価が低くて悲しいことは、どの人にもあるんだなぁ、と。身内だから正直に
出てしまうんだろうけど、親しき中にも礼儀あり。自分を含め戒めたい。著者は母親の看病に
病院に通っていたにも関わらず、「子供がいないから看病できるわけでしてね、まったく子供の
世話があってここにいない方がよっぽどありがたいわ」と。勿論著者は傷ついている。私も同
様の経験があるから、母親って娘のことを人間としてみてないんじゃないか、と思うときがあ
る。私の場合「あんたはそんな我がままな性格だから子供ができないんだ」「あんたのどこがま
ともなの、子供いないくせに」日々テレビ・新聞で毎日のように児童虐待が報じられているが、
その人たちは性格がいいまともな人なんだろうか。と、言いたくなってしまう。自分のことを語る
場でないので、これくらいひどいこと言うのも「母親」なんだよ、という例として…。



59.「モネ、ゴッホ、ピカソも治療した絵のお医者さん 修復家・岩井希久子の仕事」(2013) 岩
井希久子 著 ★★ ’16/08/28読了
 10代のころに「絵画修復士」という仕事を知っていたら間違いなくそっちの道へ進んでいただ
ろう。美術館で働けるというのは売店のオバチャンくらいしか思いつかず、その道は断念した。
 今でもできるなら美術とかかわれる仕事があれば進みたいくらいだ。
 この本ではもっと手がけた作品を多く紹介してほしかった。対談とか余計なことが付いていて
ちょっと残念な本だった。



58.「白砂」(2010) 鏑木蓮 著 ★★ (中古) ’16/08/18読了
 二つの物語が平行して描かれ、それが遺骨という鍵で一つになる。苦労して働きながら予備
校に通う女性が自宅アパートで殺害された。刑事が不審に思い、捜査を開始する。一方で遺
骨をめぐり対立する家族の物語が平行して描かれる。
 目黒という刑事の家庭問題が結構出てくる。本筋には関係ないのだから、もっと削ればいい
のでは、と思った。「あまりに哀しく、美しいラストに、涙腺崩壊!」という新聞広告のあおりに負
けたのだが…どこで泣けというのか…。



57.「銀色のフィレンツェ」(1993) 塩野七海 著 ★ (中古) ’16/08/14読了
 これは…ルネサンスを舞台にした歴史物なのだが…まったく面白いと思わなかった。この時
代に興味のある人しか受付ないかも。誰がなにやらさっぱりわからん。メディチ家とかに興味な
いとね。とりあえず自分がこんなに興味ないとは思わなかった。西洋絵画は好きなのにな…。



56.「ハチはなぜ大量に死んだのか」ローワン・ジェイコブセン著 ★★ (図書館) ’16/07/31
読了
 米国の養蜂家から蜂が去り、次々と廃業に追いやられるという事態が発生したらしい。理由
を探るがなかなか真相にたどり着けない。養蜂というのは花を育てることから始めないといけ
ない非常に手間のかかる産業なのだが、そこへ持ってきて中国の偽蜂蜜が安い値で大量に
出回るとアメリカの養蜂家はダブルパンチでどんどん廃業へ…。
 私は「中国産」と書いてあれば、蜂蜜は買いません。倍以上の値段がしてもカナダ産を買う。
福島香の本を読んで安価で出回る蜂蜜なんぞ模造品に決まっているからである。しかもろくに
チェックされてないとくれば絶対偽物だ。中国人が花から作るなんてするとは思えない。中国人
養蜂家をクソミソに言いたいわけじゃないけど、アメリカ人も負けずに安価なほうへ簡単に流れ
ないでほしいなぁ…貧富の差が激しいから無理かなぁ…。


55.「満願」(2014) 米澤穂信 著 ★★★ (図書館) ’16/07/28読了
 「このミス」1位の短編集。蓮城三紀彦より、もっと一ひねり加えてある見事なミステリだった。
 「夜警」ある交番に勤める3人の巡査。一人は配属されたばかりの新人。しかし、この新人困
ったもので、ミスをするのは許せるとしても、ウソをついてごまかそうとしたりする。よく交番に泣
きついてくるホステスからの110番で、その夜も3人は現場へと向かい、DV夫からホステスを
救い出し、事無きを得たが、最年長の巡査が拳銃の弾薬数の相違に気付き…。
 「死人宿」2年前に別れた元カノが山奥の旅館で働いていることを知り、様子を見るため男は
旅館に泊ってみることにした。元カノが「遺書」らしきものを見つけ、誰のものか、自殺を止めら
れないかと男に相談。泊り客は自分以外に3人。果たして誰のものなのか…?
 「柘榴」離婚夫婦に美しい姉妹。ミステリというよりファンタジーのような。大抵の十代は自分
たちが人生で一番輝いている時だということに気付かない。過ぎてから気付くものだ、と思って
いるので、あまり納得できなかった。
 「万灯」他の人の感想でも、この話が一番良かったという人が多い。バングラデシュに派遣さ
れた商社マン。思うように仕事が進まない。何にでも賄賂をよこせというお国柄もあるが、もっ
と難しいのは土地に入ることを許してくれない現地部族の反対だった。別会社の男と部族長に
交渉するも、うまくいかない。しかし犯罪というリスクと引き換えに、土地を譲るという長老の申
し出があり、商社マンは犯罪に手を染めることに…。
 「関守」私が一番気に入ったのはこの話だった。雑誌に都市伝説を寄稿せねばならないライ
ターは何故かよく事故が起こるという山道の話を聞き、そこへ取材に行くことに。現場は山奥で
一軒の食堂があるだけ。ライターがそこへ入ると、経営しているおばあさんがいた。おばあさん
からその峠の話と、自身の身の上話を聞かされるライター。これも取材と思っていたが、おば
あさんの話に整合性がないように思えてきた。一つ一つを整理していくと、事故と関連する疑問
がわいてきて…。オカルトっぽいのだが、思いもよらないオチで面白かった。
 「満願」昭和46年。司法試験の勉強のため大学生が下宿した先は無愛想な主人と気立ての
いいおかみさんが営んでいた。それから15年後、気立てのいいおかみさんが主人殺しの犯人
として起訴されていた。下宿した当時世話になった弁護士は恩返しとばかりに弁護を引き受け
たが…。
 短編はストーリー展開が早く、読みやすい。無駄のない文章なので、何が結末への伏線なの
か考えながら読む、これぞ「ミステリ」である。



54.「5人のジュンコ」(2014) 真梨幸子 著 ★★ (図書館) ’16/07/26読了
 5人のジュンコ(淳子、絢子、詢子、順子、純子)が一斉に出てくるのではなく、ジュンコという
人が順次主役になっている短編集。一話進むごとに、それぞれのジュンコにうっすらと関係が
出てくる。やっと見えたと思ったら話は終わる。ジュンコという名前じゃなくても、いつもの女の
嫌な部分を描いているので連作短編集としてはよくできていて読みやすかった。
 ストーリーは「木嶋佳苗、上田美由紀」の事件にちょっと林真須美を足したような気がしたら、
巻末に参考文献「毒婦」「誘蛾灯」とあったので、やっぱりか、と。



53.「スタンフォードの自分を変える教室」(2012) ケリー・マクゴニガル著 ★★ (図書館) ’
16/07/22読了
 原題「The Willpower Instinct」の通り、「意志力」で駄目な自分を改造できる、というものだ。し
かしダメ人間の代表がダイエットに失敗し続けるデブや、分不相応に買い物に走ってしまう若
者というのがアメリカらしい。基本アメリカ人相手なので「リーシーズのピーナッツバター・チョコ
レート風味のポッパーズに、フルーツ風味のスキットル、そしてヨーク・ペパーミント・パティ −
− どんな甘党にも受けそうなセレクションです」と言われてもピンとこない。
 ただ、「自己批判はうつ病の最大の予兆」というのは大いに頷けた。自分はダメだと思うこと
がきっかけだったと確かに思う。で、納得できたのはそこだけなんだけども。あと別の本を読ん
でもなかなか瞑想というものが上手く出来なかったのだが、瞑想するコツが書いてあってそこも
参考になった。
 図書館で借りたのだが、自分で買ってじっくり読もうかなぁとも思った。全部実践していった
ら、意志力の弱い自分でもなんとかなりそうな気もしたので。



52.「背信の科学者たち」(2014 初出1988) ウィリアム・ブロード ニコラス・ウェイド著 ★★ 
(図書館) ’16/07/20読了
 STAP細胞のゴタゴタに便乗して書かれた本かと思ったら、1988年に刊行された本が絶版
になっていたため、再度(正確には再再度)出版されたもの。でも便乗には違いない。最後に
その後の捏造事件などを加えてあり、もちろんSTAPの事件も書かれていた。
 しかし、こういうデータ偽造があった、こういう事件があった、ということが羅列してあるだけ
で、あまり人間の心理には言及しておらず、専門的なことが多いのでちょっと期待外れという
か、難しくてなかなか読み進めるのはしんどかった。
 面白かったのは超常現象について、かのユリ・ゲラーは手品師であるとバッサリ。というのも
彼は科学者の前でスプーン曲げを披露しても手品師の前では絶対やらなかった。彼が手品師
だからだ、と。なるほど、と素直に納得した。
 古くはガリレオやメンデルでさえデータの改ざんはしたのだと。オマケのSTAPもデータ偽造、
理研の態度などが書かれているだけで、オボちゃんのオの字もなかった。私的にはがっかりな
内容であった。



51.「鍵の掛かった男」(2015) 有栖川有栖 著 ★★ ’16/07/14読了(図書館)
 久しぶりの火村秀男シリーズかつ長編。今回は被害者の人生を丹念に追っていくという、い
つもの奇想天外なトリックを採り入れたものではないが、島田荘司ばりの掘り下げ方だ。で
 いつも思うのだが、動機が浅薄。そんなことで人殺す?というのが今までで何度もあったが、
それもトリックありきなので殺人は前提として起こるものだとムリくり納得させていたが、今回長
編であるにもかかわらず、やはり納得はいかなかった。



50.「カンタベリー・テイルズ」(2011) 真梨幸子 著 ★★ (図書館) ’16/07/08読了
連作短編集。男女のドロドロあり、SFあり、女のドロドロあり。しかし、どれもパンチが効いてな
くて、どれも覚えてない。覚えてないのは老化なのか自分の琴線に触れるものがなかったのか
…。どうも前者に思えてならない。



49..「小さな異邦人」(2014) 蓮城三紀彦 著 ★★ (図書館) ’16/07/05読了
 著者が亡くなってから編まれた短編集。読み終わった直後は面白かったと思うのだが、正直
もう頭に残っていない。表題の「小さな異邦人」のオチだけかろうじて覚えている。ミステリあり、
男女の恋愛あり、オカルトあり。面白かったんだと思う。多分。



48..「ふしぎなキリスト教」(2011)橋爪大三郎×大澤正幸 著 ★ (古本) ’16/07/03読了
新書であり対談である。オビがすごい。「各メディアで話題沸騰、絶賛の嵐! 読んだだけでキ
リスト教が完全に理解できたような気がする。二人の碩学が繰り広げる魂の闘論。読めばきっ
と世界観が変わるはず」などなど。
 この絶賛の嵐に期待は高まるばかりだった。しかし、いざ読みだすと…。
 キリスト教一色というよりは、他宗教との比較も多い。ユダヤ教とキリスト教は「キリスト」の存
在以外一緒。イスラム教のコーランがアラビア語で書いてあり、それが唯一無二の聖典であ
り、他言語には翻訳されていないということを知った。キリスト教は各地の言語に訳され世界中
に普及したということがわかった。確かにトルコに旅行で行った時、スピーカーで流れるコーラ
ンの意味を聞いたらトルコの現地係員は「わかりません。アラビア語なので」と言っていたのを
思いだした。日本の仏教で「ハンニャーハラミッダー」「南無阿弥陀仏」と意味もわからず言うの
と同じことか。
 ただ一つ疑問をもったのは神道との比較だった。「神道は偶像崇拝ではない。神社で何を祈
ってもいい」しかし全部の神社がそうかどうか知らないが、少なくともご神体はあると聞いた。靖
国神社のご神体は確か刀だったと記憶している。
 対談形式なのだが、ある意味哲学的な話にもなり、かしこ同士の対談など私にはわからなか
った。オビは絶賛しすぎである。アホにもわかるよう説明してくれてこそ良書と言えるのではな
いだろうか。
 自分が期待していたのは、西洋人の考え方のベースにキリスト教があって、考え方にこういう
キリスト教精神があるからだ、という至極簡潔な疑問に応えてくれるものだった。読了してキリ
スト教がわかったかというと…やはり全くわからないのである。

47.「絵画で読む聖書」(1997) 中丸明 著 ★★★ (古本) ’16/06/28読了
当時のキリスト教徒、ローマ市民の会話はすべてお得意の名古屋弁(笑)
それも面白いのだが、やはり文盲率が高かった時代、絵画は聖書を語る上で欠かせないもの
だったのだろう。ちょっと苦言を呈すると、折角この絵画はこうこうこうである、という説明を載
せてくれているのだから、当の絵画も載せてほしかった。字数の割に絵画の写真はほとんどな
い。それが残念。
 米澤穂信の「王とサーカス」を以前読んだが、ローマ帝国の「パンとサーカス」から拝借した洒
落たタイトルだったことがわかった。この本を読まなかったら「ヘンなタイトルだなぁ」で終わった
ところだった。ヘンには理由があったのだ。
 私がこれを手に入れたのはブックオフだが、本の中紙にサインがある。著者ではなく贈った
人か贈られた人かはわからない。「於シカゴ市 小林保○(最後の一文字は達筆すぎてわから
ない)」私の手元にきていいんだろうか?と思ったがまぁ故人の蔵書を売ったのかもしれない。
なにせ読んだ時に重要だと思ったであろう箇所に赤いボールペンで線がひいてある。なので、
線が邪魔で読みにくかったりもする。
 絵画は宗教においてかなり重要な役割を果たしたということはわかった。



46..「アンのゆりかご 村岡花子の生涯」(2008) 村岡理恵 著 ★★★ (古本) ’16/06/27
読了
NHKドラマを見ていたから、当然興味を持った。ドラマで興味深かったのは村岡花子は留学
経験なしで翻訳家になったということだ。俄然勇気づけられたのだが…。ドラマでは東洋英和
女学校に給費生として通う。それは事実だが、学校生活はほぼ英語という過酷な状況で、生
活態度まで見られるという、留学より徹底されたものだった。
 ドラマを先に見ていたので、あれはフィクションだったのだ。あれは事実だったのか…などな
どドラマを思い出しつつ読んでいた。大きく違うのは花子は長女で兄はいなかった。父は風来
坊ではなくかなり社会運動に傾倒していたこと。この本ではあっさりとしか描かれてない白蓮の
昼ドラもかくやというロマンチックな逃避行は、当然花子が中心だからあまり描かれていない。
そちらは「白蓮れんれん」でも読んでくれということだろうか。
 今よりずっと情報が少なかった時代、花子はとても本が好きで、本であれば日本語英語を問
わず読んだ。寝る間も削って勉強していたというのだから、脱帽である。
「赤毛のアン」は実は未読なのだが、アンというより村岡花子の翻訳を読んでみたいと思うくら
いになった。戦時中も片時も離さなかったという「アン・オブ・グリーンゲイブルズ」。花子の生涯
も詰まっているように思った。



45.「アルテーミスの采配」(2015) 真梨幸子 著 ★★ (図書館) ’16/06/21読了
 舞台はAV界。女の職場、それも女という武器をフルにつかって、とくれば著者お得意のドロド
ロワールドかと思いきや…。ドロドロを期待しすぎたのかややあっさりめに感じた。そして登場
人物が多すぎて、なんとこの人とこの人は同一人物でしたーって言われても「へー」としか思え
ず、プロットをうまく使えてない感じがした。



44.「確率捜査官 御子柴岳人 密室のゲーム」(2011) 神永学 著 (古本) ’16/06/17読

 くだらなすぎ…。Sな主人公と女の子の会話に著者が突っ込みをいれるというほとんど会話
劇。もうこの人の本を読むことはないな…。



43.「心霊探偵 八雲 赤い瞳は知っている」(2014) 神永学 著 ★ (古本) ’16/06/15読

 ラノベを読んでみたかったんだが…幽霊と話ができるのなら、さっさと犯人教えてくれりゃいい
じゃないか…。



42.「ビブリア古書堂の事件手帖6 栞子さんと巡るさだめ」(2014) 三上延 著 ★★ (図書
館) ’16/06/14読了
 今まで短編だったのが、今回は1冊丸ごと一つの話となっている。しかも7巻に続くのだとか。
 栞子さんがどんなに力説しても、今更太宰を読もうという気にはならなかった。



41.「銭湯の女神」(2001) 星野博美 著 ★★ (古本) ’16/06/09読了
 香港のルポが良すぎたのか、今回は著者の東京での日常なので、やはり勢いがそがれるの
は否めない。しかし毎日当たり前と思っていることに何かを見出し、文章にしてしまえるのはさ
すがだなぁと思った。



40.「王とサーカス」(2015) 米澤穂信 著 ★★★ (図書館) ’16/06/07読了
 ジャーナリスト太刀洗万智が2001年にネパールに取材をかねた旅行に来た。そこで実際に
起きた「ネパール王族殺害事件」を軸にストーリーが進んでいく。
 貧しい国に対して、裕福な国が行う親切はさらに貧しさを呼ぶ…この事実のほうが王族や主
人公の動向より印象に残った。事件の背景にちょっとミステリが漂うが、実際本当のところどう
なのかはわからない。でも全体に面白くこのミス1位も納得であった。



39.「狂王ルートヴィヒ」(1983) ジャン・デ・カール著 ★★ (古本) ’16/05/31読了
 私が以前読んだものとは違って、割と良心的にルートヴィヒの生涯を追っている。「統合失調
症」ということから「狂王」とつけられてしまっているが、これぐらいの素っ頓狂具合、世界の有
名人にはありがちではないか、と。やはり最後は謎の死なのだが、著者は大体のことは予想で
きる、と書いてあり、私も著者の推測通りではなかと思えた。
 10年以上前だが、かの白鳥城を訪ねたが、目の前で見ると圧巻であった。残念ながら見学
コースは決められておりトコロテン方式に進まされるので、もっとゆっくり見たかったが。



38.「声」(2015アイスランド) アーナルデュル・インドリダソン 著 ★★’16/05/22読了(図書
館)
 クリスマスを数日後に控えたアイスランドの首都レイキャビク。、ホテルのドアマンがサンタク
ロースの衣装を着た姿で惨殺されているのが発見された。刑事エーレンデュルが捜査を進め
るうちに、その男の隠された栄光と挫折の人生を知ることになる。
 まずアイスランドの小説というのを初めて読んだので、文化、風習といったものの方にすごく
興味がわいた。とにかく名前が読みにくいのである。被害者のグドロイグルと彼の出身地ハフ
ナルフィヨルデュルが何度読んでも覚えられず読み進めるのに苦労した。この本自体何語で
書かれているのかも気になった。
 感想の前にちょっとアイスランドを紹介すると、面積は韓国ほど。北海道と四国を足したくら
いで、人口は三十三万人。言語はアイスランド語だが学校で英語とデンマーク語も習うためトラ
イリンガルで、識字率は99%。キリスト教国。特筆すべきは先にも書いたが名前である。なん
と姓がない。ファーストネーム+父の名+ソンまたはドッティル。「〜の息子」「〜の娘」というこ
とになる。以上、ウィキペディアより。
 それにしても聞きなれない名前が多いので、男なのか女なのかそれすら判別できない。エヴ
ァ=リンド、シグルデュル=オーリなどなかなかハードな名前もある。アイスランドという物珍し
さが先に立って、正直ストーリーはどうでもよくなってしまうが、エーレンデュル刑事のシリーズ
はこれが3作目で英国ダガー賞も受賞という実力派らしい。しかし最初の死体発見こそショッキ
ングだったものの、ストーリー自体は北欧ミステリによくある結構エログロな展開であった。




37.「幕末明治女百話」(上)(1997) 篠田鉱造 著 ★★ ’16/05/15読了 (図書館)
 明治に入ってから市井の女性から幕末前後の暮らしを聞いて書き起こした、いわゆるインタ
ビューみたいなんだけど、特にたいして面白みのあるものでもなかった。印象に残ったのはイ
レズミの話。女の方が我慢強いのだとか。彫師にも上手い下手あるらしい。それぐらいだっ
た。



36.「悲しみのイレーヌ」(2015)ピエール・ルメートル著 ★★★ ’16/05/10読了(図書館)
 「その女アレックス」の著者による第一作め。実は「悲しみ…」の方が先だったという…それは
順に出版してくれなきゃ…。というわけで、実は結末はわかっていて読んだ。
 とはいえ、途中のどんでんも含め、やっぱり実力のある作家ではある。サプライズも全く意表
をついたものであったし、十分楽しめた。ただ、グロいのはグロいので、好き嫌いはあるかもし
れない。今後も読みたいと思う作家だ。



35.「背中の記憶」(2009)長島有里枝 著 ★ ’16/05/06読了 (図書館)
 文章が拙いなぁと思ったら、文筆家ではなく写真家のようである。主に幼少時代から中学生
までの出来事を思い出して書かれているのだが…よくこんな細かいこと覚えているなぁ、くらい
しか感想がなかった。絶賛されているのはどういう理由でかわからない。子供の頃の記憶は本
当に子供が書く作文のようであり、それがリアルさをだしているのかもしれないが、私には興味
なさ過ぎて、何度途中で読むのをやめようと思ったことか。
 誰にでもある普遍的な記憶である。両親がいて、兄弟がいて、親戚がいて、という特殊な家
庭ではないごくごく平凡な少女時代の記憶。だから多くの人に支持されるのかも。もっと特殊な
家庭環境であったら、別の意味で注目されたかもしれないが。
 確かに著者の幼年時代から自分はどうだったかな…と思いだすこともあり、ノスタルジックに
なるものの、さして面白い記憶がないのでそんなこともあったっけ、で終わるのである。



34.「睡眠薬中毒」(2016)内海聡 著 ★★ ’16/05/04読了 (図書館)
 暴論なのか極論なのか。睡眠薬も向精神薬も全て毒であると。精神疾患は薬なしでも治せ
る。そう思いたいが実際に薬で効果のあった人間や、薬を頼りにしている人間はどうすればい
いのか。私だって気持ちの持ちようでそんなことになるなんて思いもしなかった。対処療法だろ
うがなんだろうが今の苦しみから逃れられるとなれば頼ってしまうのが人間というもの。実際こ
の本を読み終わった翌日発作がきてついついデパスをほりこんでしまった…。1時間後には治
まりました。こういうことなんだな…。
 この著者の論拠のデータも怪しいものである。日本がダントツ薬に頼る傾向にある、というの
は他国に比べて医療費が安いせいもあると思う。アメリカや中国では医療費が高すぎておいそ
れと医者にかかれないというではないか。一応薬の効能などについては自身で試してみての
感想のようだが、薬が合う合わないは勿論個人差がある。一つの薬が万人に効くという訳では
ないのだ。
 ただ、これだけ睡眠薬や精神薬の毒性を訴えているというのは、医者からするとリスクでしか
なく、誰得なものを声高に主張するはずもないので、確かにそういう面もあるのかなぁとは思う
が。一番怖いのは睡眠薬や精神薬の常用が体内に蓄積された結果、別の病気、特に私が怖
いと思ったのは痴呆を引き起こすという主張だった。ただ、睡眠薬を飲まなければ痴呆を発症
しないかというと、勿論そんなことはない。アルツハイマーにしろパーキンソンにしろ原因は不
明なのだからいつ誰が何の原因でなるとは言えない。睡眠薬をやめれば絶対痴呆にならない
というのなら今すぐにでもやめるところだが。
 というわけで恐ろしいのは恐ろしいのだが、とりあえず今の症状がなくなるまでは睡眠薬も安
定剤も断つことはできないなぁという実感を得ただけだった。
「製薬会社がつくったものを買うということは、つきつめて考えると、軍需産業を支援しているに
等しい。つまり、医療の現代薬を使っている人々は、パレスチナやシリアに爆弾を落としている
のを支援しているとさえいえるのだ。」これは暴論としか思えなかった。




33.「心霊探偵 八雲 赤い瞳は知っている」(2004) 神永学 著 ★ ’16/05/01読了 (中
古)
 タイトルからしてなんとなく胡散臭いものを感じていたのだが、何故読んだかというと、ラノベと
言うものがどんなものか知りたかったからである。会話中心の軽い小説といったところか。怨
霊だの幽霊だのが犯人なのでミステリの範疇ではない。しかも会話が多いので著者もこんがら
がったのか、おかしなところもある。
「その顔。やっぱり知っているのね」
「……」
「そう。私は死んだことになっているの」
「そんなに怖い顔しないで。別に私はあなたに何をしようってわけいじゃないのよ」
ここでは二人しかいないのだが、最後のセリフはどっちが言っているのか…?「……」以外同じ
人がしゃべっているようだ。ではなぜ後の2行は分けられているのか?
 作家は男性だろう。これが女性なら出てくるキャラクターの顔立ちからファッションまで事細か
に説明が入るのだが、容姿に関することは何も書かれていない。主人公は大学生で片目が赤
く、その目で幽霊が見えてしまう、というくらいのキャラクター描写。同じ大学の女子大生が事件
を持ってきて八雲に相談する、という流れ。犯人は幽霊なんで、どうということはないんですが
ね。トリックとか考えなくていいからラクに読める。2時間で読めました。何故か人気があるらし
くシリーズは6冊出ている。私はもう結構だが。



32.「お言葉ですが…」(1996) 高島俊男 著 ★★ ’16/04/27読了 (図書館)
 著者は国語教師か何かなのだろうか。あげあしとまでは言わないが、世に氾濫する誤った日
本語をあげつらっている。
「両刃の刃」→「両刃の剣」
「遺言」法的効力を持つ。「遺書」持たない。
などなど、勉強になるものもあるのだが、そこまで目くじら立てなくてもと思うものもある。
 なにしろタイトル「お言葉ですが…」は正しくない。「お言葉を返すようですが…」と言わねばな
らぬ、と言っていたのは林望だったかな?とにかくご自身の日本語も怪しいのである。「オタク
は定着しないが「ら抜き言葉は定着するだろう」との予言までなさっている。半分アタリ、半分外
れであろう。ら抜き言葉は定着しつつあるが、オタクは外国にまで浸透している。著者が御存
命なら感想を聞いてみたいところである。



31.「斬」(2011)綱淵謙錠 著 ★★ ’16/04/30読了(中古)
 「イノサン」という18世紀フランスの首切り役人のマンガを読んでいたのだが、それの日本版
とも言える。フランスはギロチンの登場によって処刑人の剣術は不要になっていく(私がマンガ
で読んだのはそこまでいってないが)、本書では幕末まで役人であった「首斬り浅右衛門」と呼
ばれ罪びとの首を斬ることを家業としていた山田家。明治に入り処刑方法も様変わりする。山
田家の苦悩と末路とは?という話。「イノサン」では主人公は家業に抵抗するのだが、こちらは
いともあっさり、しかも相当早くに(12歳を15歳と偽った。年齢を補って余りある実力があっ
た)家業を継いでいる。首斬りという処刑方法が無くなれば、自分たちの技術や家業はどうなっ
てしまうのか、という焦りがじりじりと伝わってくる。かなり血なまぐさい話だが、これも史実であ
る。
 明治9年廃刀令が出され、いよいよかつて武士と呼ばれた士族の怒りが火を噴いた。神風
連の乱、秋月の乱、萩の乱、思案橋事件などが次々起こり、江戸時代よりもっと血なまぐさい
ことになっていたということである。士族以外でも各地方で農民の一揆が起こり、ついに西南戦
争となる。
 一方山田家では実父による二男の惨殺事件が起こる。
 知らなかったことが多いので勉強になった…。たまには日本の時代小説も読まねばと思っ
た。



30.「はじめからその話をすればよかった」(2013)宮下奈都著 ★★ ’16/04/22読了 (図書
館)
 今話題沸騰(というほどでもない)の「羊と鋼の物語」の著者のエッセイ。この人の小説は読ん
だことはない。
 私と年は近いが3人の子持ち。エッセイというのは人の生活を垣間見れるようで面白い。同じ
ことが目の前で起こっても、恐らく本を書いた人と自分では違う反応をするだろうな、など妄想
しながら読むのが面白い。そして生活のちょっとした知恵になるものも案外隠れていたりする。
 バレンタインのプレゼントにコーヒーカップを選び、箱の中にこっそりチョコレートも仕込んで
おいた著者。この「こっそり」があだとなるのだが(笑)はちみつの美味しさにも触れているの
で、今度自分も近所にあるはちみつ専門店に行ってみようかと思ったり。
 童話「みにくいあひるの子」は誰でも子供の頃に聞いたことのある話だが、この話を著者が
聴いた時「かわいいこと、美しいことが称賛され、まわりから浮けば攻撃の対象になる。なんて
不自由なんだろう」と子供心に思ったと言う。私はあひるの母親に呆れたものだ。自分の子供
かどうかもわからないなんて。しかも容姿がまったく違うというのに。「母親」の態度に納得いか
なかった記憶がある。
 ある日には「若々しいさわやかな顔で笑っている。早く憲法9条を削って我が国の軍隊がきち
んと闘えるようにしよう、と彼は微笑みをたたえて呼びかけていた。」と記している。「憲法9条を
削る」などと誰が言っているのだろう?私は右でも左でもないが、憲法9条は左の意味からでも
反対だ。左の人がいつも言うのは「そうならないようにどうにかしよう」(←この「どうにか」という
のは大抵「話し合い」である)でも右が言うのは「そうなったときどうするか」なので左右全く論点
がかみ合わない。私は自衛隊の活動内容をはっきり示し、どちらともとれるような曖昧な書き
方を改めるべきと考える。別に戦争を礼賛しているわけではない。しかし攻めてこられた時本
当にアメリカが守ってくれる保証があるのか、今の自衛隊で日本を守れるのか、先制攻撃をさ
れても「あわあわ、どうしよう」となるくらいならやり返す権利をはっきり示すべきではないのか、
などと左からぶったたかれそうな考えを持っていたりする。まぁ、この本はそういう政治的な話
は一切なく、上記の一文だけである。
 著者が小説を書き始めたきっかけはホルモンのせい、と言いきっている。そしてこれからも
バリバリ書く。つまりそれを言いたかったのだ、と。
 最後の「サンタクロースの息子」というのが恐らくフィクションだと思うが、もし本当に著者の旦
那さんのことだったら、メルヘンというよりホラーだ…正気の沙汰でないと思った。いきなり会社
辞めて妻子を残しサンタクロースになるべく修行に出るのだ。サンタクロースをある程度大きく
なってから知った自分はサンタクロースやクリスマスという言葉に全く感動を覚えないので、ア
ホ以外の何物でもないと思った。
 このエッセイ本は悪くないが、この人の小説を読もうと思うかというと…難しいところだ。



29.「一瞬の雲の切れ間に」(2016)砂田麻美 著 ★ ’16/04/19読了 (図書館)
 ある少年が自動車にはねられ死亡。両親や加害者側の夫婦、愛人などを巻き込み、それぞ
れの視点から事件前後の人間関係が描かれる。
 正直、何故この本を選んで読んだのか、覚えてないし、実際読まなくても良かったような。
 愛人「千恵子」に始まり不倫相手の「健二」、妻の「美里」、亡くなった少年の母「吉乃」、事故
を目撃した「浩一」と語り手が変わり、短編連作みたいな形を取っている。肝心の事件があっさ
り描かれていて、関わる大人たちの心理にあまり「悲しみ」がないような。なんだか物足りない
ように感じた。



28.「6月31日の同窓会」(2016)真梨幸子 著 ★★★ ’16/04/18読了 (図書館)
 (注)ネタバレ有り。ちょっと登場人物が多くて誰が誰やら…。しかし連続殺人と見せかけてす
べて偶然バラバラに起こった事件だったというのは意外な展開でなかなか。フーダニットに飽
きた人にはいいかもしれない。



27.「慟哭」(1999) 貫井徳郎 著 ★★ ’16/04/11読了 (中古)
 (注)ネタバレ有り。連続幼女誘拐殺人事件を追う刑事捜査一課課長佐伯の話と、犯人松本
が事件へ関与していく話が交互に描かれる。
 半分ほどで全部わかっちゃった。犯人側がなかなか名前を出さないことと、佐伯が「養子」で
あること、松本の抱える胸に会いた悲しみの「穴」と佐伯が他人が思うよりずっと大事に思って
いた娘。この二つがリンクすれば同一人物であることは想像に難くない。物語は時系列とは限
らないわけで。ただ、最後に佐伯(松本)の娘が殺された犯人は捕まっていないというのは、何
とも残念に思った。ノンフィクションの「犯人はそこにいる」でもそうなのだが、子供が殺されて
犯人が捕まっていない事件ほど後味の悪いものはない。後味、と他人は言ってしまえるが、佐
伯の慟哭の如く遺族にとっては永遠に埋まらない「胸にぽっかり空いた穴」なのだから。
 ただ、宗教法人のむちゃくちゃな商売は知らない人も多いし、この本ではエピソードの一部で
しかないが、こんなに儲かるものかとわかると一つ教祖でもやってみようという人間が出てきて
もおかしくないくらいだ。宗教団体に何故金儲けを許すのか。政治献金が大きいからか。表向
き政教分離だが実際はそんなことはないのかも。でなければ、宗教法人だけが何故ここまで
優遇されるのか。あまりここで糾弾すると科学やら学会の関係者にアンカリングされるかもしれ
ないので、やめておこうか…。




26.「ロウフィールド館の惨劇」(1984)ルース・レンデル著 ★★ ’16/04/05読了(中古)
 最初から犯人ありきで、タイトルから何が起こるのかもなんとなくわかる。事件が起きた後の
犯人は淡々としており、捕まる恐怖やしたことの後悔が微塵も感じられないことから、共感性の
欠けるサイコパスであったと考えられる。評判ほどの名作かというと、正直そこまでは思えなか
った。



25.「プラハ歴史散策」(2004)石川達夫 著 ★★ ’16/04/01読了  (中古)
 意外と歴史は深く面白かったのだが、歴史的建物や人物にのみ焦点を当てていて、国として
の成り立ちや、物語的に面白みに欠けた。いつか行きたい国ではあるのでその時まで取って
おこうと思った。



24.「歩道橋の魔術師」(2015)呉明益 著 ★★ ’16/03/22読了 (図書館)
 台北市に実在した団地近辺の商店街や団地を結ぶ歩道橋での人間模様を描く短編集。
 正直思ったほどに面白いとは思わなかった。大陸の文学かと思ったら台湾文学で、ミステリ
かと思ったら「三丁目の夕陽」的なノスタルジックな純文学だった。著者と翻訳者(天野健太郎)
は同い年(1971年)で私も年齢は近いのだが、特に共感する事も無く(国が違うのだから当た
り前か)昔の台湾ってこんな感じだったのだな、くらいのものだった。



23.「騙されてたまるか 調査報道の裏側」(2015)清水潔 著 ★★★ ’16/03/18読了 (図
書館)
 足利冤罪事件や桶川ストーカー事件で名をはせた著者の最新刊。結局図書館で借りてしま
ったのだが、買っても良かったかもしれない。こういう人にこそ印税が入ってほしい。
 すごいなぁ、えらいなぁと思うのは毎度なのだが、今回、報道の過ちとして戦争の「大本営発
表」というのが最後の章にあった。それを読んで涙があふれた。戦争の話は8月になっても「あ
あ、はいはい」と流してしまっていたので、免疫が薄れていたのか。「日本勝ってます!」という
大ウソ報道により戦争は引くに引けず、ついに特攻という手段にまででた日本。この章で取り
上げられた女性の婚約者は1945年4月に特攻で死亡。戦争が終わる4カ月前である。「4月
にはもう日本はだめだとわかっていたんじゃないでしょうか」死ななくてもよかったんじゃない
か?とはっきり言わないが、そう問うている。はっきり言わないのはご本人も当時の風潮に乗
って手を振って送り出してしまったという自責の念があるからなのかはわからないが。しかし著
者と一緒に靖国へ行き、展示してあった婚約者の特攻服を胸に泣く女性のくだりは涙なくして
読めない。
 因みにこれを読んですぐツイッターでツイートしたら著者にリツイートされてしまって、恥ずかし
いやら何やら…。字数制限があったし、まさか本人の目に触れると思ってなかったので、自分
が感動したということはあまり書かずあっさりした感想を述べてしまったことを後悔したり…。勿
論フォローしましたよ。あ、リツイお気に入りにしとかなきゃ…。



22.「潜入ルポ アマゾン・ドット・コム」(2010)横田増夫 著 ★★ ’16/03/16(図書館)
 潜入といっても、バイトですしおすし。バイトの辛さはわかった。単純作業なんだからこの冷遇
でも仕方あるまいという気はする。そこに職業倫理は働かなくなってもむべなるかな。それよ
り、最後に書かれていた本の再販制度の方が興味あったし面白かった。再販制度が崩れれ
ば、そんな儲からない仕事敢えてすることはないから、本を書く人が激減するだろう。そういう
意味で図書業界は死滅しかねない、とは思った。だから再販制度は守るべきかというとそうで
もない、と思う。私のようにちょっと待って古本屋に出回るのを待とう、という人間もいるので、
新刊でも安くなれば手あかのついたものより新刊を買う。古本で何度取引されようが著者には
一円も入らないのならある程度の値引きはして、古本に対抗した方が著者の利益になるので
はないか…等など、再販制度については色々考えさせられた。しかし著者が得意としている物
流に関するところは興味もなかったので、面白いとも思えず…本の大半がその物流に関してな
ので、タイトルで期待したほどの面白さは感じられなかった。



21.「四○一二号室」(2012) 真梨幸子 著 ★★ ’16/03/09(図書館)
 自殺や事故があった賃貸は「心理的瑕疵物件」というのだそう。まぁそういう感じの連作で
す。「お引っ越し」と似たテイスト。



20.「ありふれた祈り」(2014) ウィリアム・ケント・クルーガー著 ★★ ’16/03/08読了(図書
館)
 (ネタバレ)アメリカの田舎で過ごした少年時代を回想するミステリ。とくればまるで「スタンド・
バイ・ミー」だが、なんだかそんな感じ。丁寧な筆致でミネソタのねっとりした夏の暑さが伝わる
よう。ただ、ミステリとしては事件が小さいというか本の半分まで来てやっとである。冒頭で少年
の死がその夏の死の連鎖の始まりだったというが、最初の少年の死は結局解決されずなの
で、中盤に起こる事件と関係はない。アメリカの古き良き時代を懐かしむのが楽しい人向け。
 翻訳者が敢えて難しい漢字を使っているのが面白かった。「詮索」を「穿鑿」とか。どっちでも
出てくるっちゃ出てくるけど。



19. 「謎の独立国家ソマリランド そして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア」(2012) 高
野秀行 著 ★★★ ’16/03/04読了 (図書館)
 ソマリアというと内戦の多いアフリカ大陸の国の一つ、という印象と映画からの海賊が跋扈し
ている国、というわずかな情報しか持っていなかったが、この本を読めばかなりのソマリア通に
なれること請け合いである。しかし今のところ全くもって行く予定は勿論、行く気も無い。
 ソマリアという国の実態はソマリランドとプントランド、南国ソマリアという三国志状態で国連に
は認められていないがそれぞれが政府を立てており、通貨も違うということであった。しかし三
国志状態でもソマリアというところはソマリ人という人種や言語はどこでも一緒である。他のア
フリカ諸国と大きく違うのは部族社会ではなく氏族社会であるということ。これが大きな特徴で
ある。著者はわかりやすく日本の平家や源氏、奥平藤原氏などの名前を持ち出し説明してくれ
るが後半も過ぎると、もうさすがにこんがらがってきて、ややこしいことこの上ない。が、著者渾
身のルポは全く知らなかった国家の全貌を見せてくれる。
 一つ気になったのは「カート」という日本で言えば酒のようにどこでも手に入る合法麻薬とも言
える植物の存在だ。ちょっと気分が高揚するくらいだし中毒といっても害はない、という…本当
だろうか。もう食事よりなによりカートなのである。著者も頼り切っている。切れたからって本当
の麻薬みたいに暴れ出すわけではなく正気に戻るだけらしいし、悪酔いしない分(効かない人
もいるらしい)酒よりよっぽどいいらしいが。飲み物ではなく葉っぱで、それをバリバリむさぼる
のだという。胃に悪そうだなぁと思ったが、胃より腸に来るらしい。それも便秘で。自分には天
敵だな、と思った。
 ソマリア内の三つの国(?)が互いに怖いところと思い込んでいるのも不思議だったが。
「一人?護衛もなし?ジャーナリストたちはみんなグループでいくぞ。キャンプじゃ何が起きるか
わからないんだぞ」私はため息をついた。今更そんなの、知ったこっちゃないのである。」
 こういう人が中近東で拉致され人質になっちゃうんじゃないだろうか…。興味も好奇心もいい
がほどほどに…。
 そして全く知らなかったことだが、ソマリアに日本はかなり援助しているのである。なので日本
はソマリアなど知らなくても向こうはこっちを知っている。日本の金で貯水施設が16、手掘りの
貯水池が4つ作られているとか。だったら日本からのジャーナリストをもっともてなされてもいい
と思うのだが。中国同様、国民がそれを知らなければもてなすわけはないか。
 ともあれ、著者の本をソマリランド以外も読んでみたいと思った。今のところ興味があるのは
ブータンである。国賓として来日した王様のいる国ブータン。著書作品リストを見るとかなり辺
境を多く旅しているようだが、どうかアルカイダだかアルジャバーブだかに捕まらず無事に帰っ
て来てほしいものだ。




18 「147ヘルツの警鐘 法医学昆虫学捜査官」(2012) 川瀬七緒 著 ’16/02/28読了(図
書館)
 ウジの成長具合から死亡推定時刻を計る。米国では進んでいる科学捜査だが、日本ではま
だまだなんだそう。タイトル通り、BONES(アメリカの法医学テレビドラマ)ばりに昆虫学者が活
躍する話。
 昆虫の蘊蓄はいいとして、ミステリとしては全く及第点ではない。ネタバレしちゃいますが、最
後に出てきた奴が犯人て…内田康夫じゃあるまいし。サスペンスとしてはいいけど、ミステリに
はなってない。続編読むかどうか悩むところだなぁ。



17 「絶叫」(2014) 葉真中顕 著 ★★ ’16/02/26読了 (図書館)
 女性の変死体がマンションの一室で発見された。飼っていた猫が死体を食い荒らしており、
死亡日や死因は特定しにくい。部屋の契約者は鈴木陽子。自殺、事故、他殺…いずれも考え
られた。並行して語られる幼少時からの鈴木陽子の半生。陽子が辿ってきた人生はこの事件
に帰結するのか…。
 一人の女性の転落人生を刑事が追っていくのは「火車」にあったし、保険金殺人の「黒い
家」、それに尼崎であった一家乗っとり殺人事件を足したような。「火車」の方が突っ込みどころ
のない完成度だったのに対し、こちらはちょっと鈴木陽子がバカすぎる。こんな簡単に転落す
るか。しかも誰のせいでもない、自分のせいで。だのに、後半では前半のバカっぷりから一転
才気煥発を発揮して、見事な転身を図る。同一人物とは思えない。そんなに頭よかったら最初
からこんな転がり方しないんじゃないかなぁ、と。
 「ミス・バイオレット」が出てきた時、「これが鈴木陽子かな?」とすぐに思った。ただ、母親を
自分の身代りにしたのかと思ったがそれは違った。遺体を処理するのは大変だと思うんだが
なぁ…誰の手も借りずにやっている。もうちょっと詰めが甘いように思った。どうしても「火車」と
比べてしまう。やはり「火車」の方が完璧であった。



16.「ビブリア古書堂の事件手帖5 栞子さんと繋がりの時」(2014) 三上延 著 ★★ ’16/
12/23読了 (図書館)
 謎がチープになってきて、本と関係ないのは勿論、そんなことしなくても…と不自然さが目立
った。ベースが恋愛物のなってきているので、その辺おろそかになるのは仕方ないのか?
 「ブラック・ジャック」だけはもう一度ちゃんと読んでみたくなった。
 しかし、このヒロインは男性の理想像かもしれないが、同性から見たらキモい…。



15.「お引っ越し」(2015) 真梨幸子 著 ★★★ ’16/02/20読了(図書館)
 引っ越しにまつわる恐怖を描いた連作短編集。
「扉」「棚」「机」「箱」「壁」「紐」「解説」。最後の解説までもがエピローグ的短編なのだ。どれも幽
霊物的怖さではなく人間のドロドロした部分の怖さである。個人的には「机」が最後にどんでん
返しがあって気に入った。もう安定のドロドロ(笑)安心して楽しめます。


14 「四月は少しつめたくて」(2015) 谷川直子 著 ★★ ’16/02/19読了(図書館)
 40歳で詩の月刊誌の編集者になった桜子は藤堂という詩人に新作を依頼するも、なかなか
書いてもらえない。藤堂はカルチャースクールで詩の教室の講師をしており、生徒の一人に54
歳の主婦・清水ましろがいた。桜子の生活とましろの生活が交互に描かれる。全く接点のない
二人だが、藤堂という詩人を介して二人は邂逅する。
 ミステリやサスペンスを普段読んでいると物足りないと思えるストーリーだが、これほど真摯
に「言葉」と向き合った小説は初めて読んだような気がする。口からでた言葉は取り返しがつ
かない。言葉というものをより一層大切に使わねばならないと思った。思ってはいるんだが、普
段は軽口を叩いてしまったり、敢えてきつい物言いをしたりと、なかなか実践できないのだよな
ー、と反省したり。言葉についていろいろ考えさせてくれた。飽くまで小説で、自己啓発本では
ないのだけど、読んだ後は誰もが考えさせられるのではないだろうか。
 しかし「だめよー、だめだめ」すらすぐ思いだせない。これは年月を経るほどに読み解くのが
難しくなるかもしれない。普遍的なのは言葉に対する思いだけだ。まひろが青春を謳歌した時
代のアーティストが列挙されるが、まひろや桜子と同年代の人間にしかわからないだろう。これ
は40代50代の女性に向けて書かれたものと思わざるを得ない。言葉を大切に、といったよう
な普遍的なテーマでありながら、主人公と同年代、同じ立場の人間でないと心情的にはなかな
か共感は得られないのではないか、と思った。



13 「夢幻花」(2013) 東野圭吾 著 ★★★ ’16/102/18読了(図書館)
 1964年に起こった無差別殺人事件。今から10年前の少年の初恋。そして現代の女子大
生の従兄が自殺。その後祖父が何者かに殺される。全く関係ないと思われるエピソードが数
本並列してすすみ、それが一つに集約されることが謎解きになっていく。
 以下、ネタバレ含みます。黄色い朝顔がないというのは知らなかった。謎解きやストーリーテ
リングは見事なのだが、女子大生がかつて水泳のオリンピック候補でありながら、原因不明の
目眩によって水泳を断念した。その理由はわからずじまい。ありとあらゆることが一つの事件
に集約され、なるほど、と読み終わった直後は感心したが、従兄の自殺の原因は幻覚作用と
いうことでいいんだろうか?種を服用した他の人は自殺事件なんて起こしてないのに?とちょっ
と疑問も残った。


12.「死刑はこうして執行される」(2006) 村野薫 著 ★★ ’16/02/16読了(中古購入))
 飽くまで冤罪の可能性のない場合なんだけど、人を何人も無残に殺しておいて、いざ死刑を
言い渡されると人権を訴える死刑囚に同情はできない。他人の人権を奪った人間がそれを言
うか?と正直、腹立たしさを覚える。著者は死刑反対論者のようだが、データばかりを並べた
てても全くこっちの胸に響かなかった。もちろん袴田事件や、足利事件など冤罪の可能性があ
るものは死刑で口を封じるなどあってはならないと思うが、犯人が自白して状況証拠も揃って
いる場合は、それでも絞首刑は可哀想、むごいことだと言うのだろうか。殺された人々の無念
を訴える声はどうなるのだろう。
 死を持って償わせるか、許して刑務所内で反省させるか、それを決めていいのは遺族だけ
のような気がする。遺族を全く顧みない司法制度というものを変える必要はあるように思った。



11.「あの日」(2016)小保方晴子 ★★★ ’16/02/12読了(購入)
 やっと手に入りましたよ、この本。「捏造の科学者」を呼んでも尚解けなかった疑問。それは
STAP細胞を捏造した動機。この本に書かれていることが全て本当かどうかはわからないが、
書かれている限りでは矛盾はなく、言いたいことは理解できた。
 自分自身「あっ」と思ったのは自分も勝手にマスコミによりSTAP細胞イコール万能細胞と思
い込んでいたことだ。最初の会見を見ていなかったものの、その後のマスコミのフィーバーや
「捏造の科学者」を読んでわかった気になっていたのが、全く違ったということだった。記者発
表のタイトル通り「体細胞の分化状態の記憶を消去し初期化する原理を発見---細胞外刺激
による細胞ストレスが高効率に万能細胞を誘導」つまり小保方さんの論文は原理を見つけたと
いうだけで、細胞そのものを造ったものではなかった。検証実験では「再現できなかった」と伝
えられていたが、この本によると彼女が発見した現象は再現できたという。彼女がやったのは
現象を起こすまでで、それを細胞にまで持っていくのは若山という教授の役だったのだ。
 そもそもネイチャーに投稿した論文は一人で書いたものではない。むしろ彼女原案を若山
氏、笹井氏が奪うように持って行ってしまった。勿論アーティクル、レター共に彼女はシニアオ
ーサーではない。共著者の一人だ(アーティクルの方はバカンティ教授、レターの方は若山氏
がシニアオーサー)。しかしあの会見が一人歩きし、彼女一人が発見し、書き上げた論文であ
ると世間は勘違いした。それをいいことにさっさと保身に回った若山氏。「捏造の科学者」の著
者である毎日新聞の記者須田桃子やNHKの記者にはペラペラ経緯をしゃべっている((「バカ
ンティ教授の教え子に基本的なことは聞けなかった」「ノート見せてなど言えなかった」「自分が
もうちょっとおかしいと思ったところを見ていれば…」)のに、話し合いたいという笹井氏や小保
方氏には全く向き合わなかったという。とにかく自分じゃない、という主張の一点張り。小保方
氏の言うように掌を返したのだとすると恐ろしい人物だ。
 小保方バッシング中にもあった疑問だが、何故理研がそれを見抜けなかったのか、という理
研に対するおかしさもある。だが、理研がオチを付けるかっこうで発表したES細胞混入のシナ
リオは全く真実ではなかった。
 小保方バッシング中にここまでするか、というNHKや各報道記者の取材攻勢の恐ろしさも語
られている。須田桃子記者からは殺意すら感じたという。相手にされてナンボの芸能人じゃあ
るまいし、これだけ追いかけまわされ暴力まで振るわれれば誰だって恐怖を感じる。よく耐えた
ものだ、と感心する。
 ではこの本によって彼女に対する疑問が全て払拭できるかというと、それも怪しい。STAP細
胞というより現象は、世間の誤解だったとしても、彼女の科学者としてのヌケたところがあるの
も否めないからだ。いくら忙しくても博士論文を当日製本、チェックもせず提出というのはありえ
ない。せめてチェックしていれば、草稿であったことに気づけただろうに。というかそんな大事な
ものを前倒しにできなかったというのは、母親の看病という事情があっても納得できない。
 結局その博士論文の間違いから博士号もはく奪されてしまうのだが。それもおかしな話であ
る。指導教授のもとでちゃんと博士号は取ったのに、取らせたほうはおとがめなしとか。そもそ
も素養のない人間に論文出させるとか。早稲田もマスコミに乗ったとしか考えられない。私も世
間で報道されているように、博士号がはく奪されたのは、彼女が期限内に論文を再提出しろと
言われてもしなかったからだと思っていた。彼女の言う真実では、博士号はく奪は最初からの
シナリオであり、彼女は言われた通りに何度も再提出したがOKは出ず、結果不合格という通
知が来た、ということである。これを晒されて早稲田はどう出るのだろう?
 ただ肝心のコピペ部分は他の人もやっているのだからいいだろう、何故私だけがこれで×を
喰らうのだ、という言い分には納得できない。いけないことはいけない。それを認めないという
根性を持っていると思われることは彼女にとって損以外の何物でもないのに、さも正しいかの
ように言ってしまうのは、彼女の言葉の信ぴょう性、ひいてはこの本の信ぴょう性に関わる。
 もっと簡単に言えばバカンティ教授から「今までの学生のなかでベスト3に入る」「過去15年
間で最高のプレゼンテーションだった」と言われた、若山氏に「これまで見た中で最も優秀なポ
スドク」と言われた、その他笹井氏からの称賛、など臆面なく自分が優秀であったことを書く根
性…これもまた彼女なのである。
 先に読んだ「捏造の科学者」を引っ張り出して、そこまで須田桃子は強引だったのか、小保
方晴子とはどういう人間なのか、と再度考えさせられた。もう彼女に研究という道は閉ざされ
た。その責任は誰にあるのだろう。彼女一人だけではないように思った。




10.「名画で読み解く ハプスブルグ家 12の物語」(2008) 中野京子 著 ★★★ ’16/02/04
読了(中古購入)
 先に「ハプスブルグ一千年」を読んでおいてよかった。広く長続きしたハプスブルグでも目立
った登場人物は一緒ということだ。フェリペだのカルロスだのマルガリータだの。
 特に「狂女フアナ」のエピソードは心に残った。最後の皇后エリザベートの絵は有名だ。絵画
で西洋史を見るのも面白かった。ロマノフ朝とかもやってくれないかな。



9.「ウィーン愛憎 ヨーロッパ精神との格闘」(1990) 中島義道 著 ★★★ ’16/01/30(中古
購入)
 ウィーンへ哲学を学びに私費留学した著者のウィーンでのヨーロッパ人との戦記といおうか
…。ウィーンでいいことも楽しかったことも沢山あったと思う。でも嫌な奴腹の立つ差別などの
方が勝っちゃったんでしょうね。いいことがなかったらいくら勉強のためとはいえ、居続けること
などできないと思うのだ。ただ8割ウィーン(というよりそこに住む人々)への悪口と2割は著者
自身の都合などが書かれてあり、読み終わった後は到底旅行に訪れようなどとさわやかな印
象は持てなかった。
 しかしやられっぱなしの日本人が多い中(自分が筆頭であるが)、著者は闘う、闘う!こういう
人が10人に一人くらいいてもいいのではないか、と思う。一方こんなにけんかばっかしてたら
疲れるんじゃなかろうか、と心配したり。しかし思ったことを即口にして、相手をやりこめるほう
がストレスは少ないかもしれない。精神的に自分を追いこむより、その場で正当な相手に怒り
をぶつけるほうがいいのかも。続編もあるらしいので、著者のケンカの行く末を見守りたいと思
った。高みの見物で申し訳ないが。というのも、相手とケンカできるというのは、相手の言語に
同等に渡り合うということだ。残念ながらそれができるのはごく限られた人間のみ。だからこ
そ、ネイティブ並にしゃべれるのなら、それを大いに発揮してほしいと思うのだ。



8.「最新版 パニック障害の治し方がわかる本」(2011) 山田和男 著 ’16/01/28読了 (図
書館)
ちょっと思うところあって手に取った。



7.「ハプスブルグ一千年」(2007)中丸明 著 ★★★ ’16/01/27読了(中古購入)
 同著者の「スペイン5つの旅」というのが非常によくできたスペイン指南書で、この本で予習し
たおかげでスペイン旅行も楽しかった。著者はもっぱらスペイン専門かとおもいきや、この本を
古本屋で見て著者名で即買いしてしまった。著者名で衝動買いというのは初めてかもしれな
い。
 結論から言うとものすごく面白かった。そしてヨーロッパの歴史というものはどれか一国を学
ぼうと思っても、日本のように2千年間「日本」という名前であり続けた例はなく、時代によって
名を変え、統治者も変り、境界も変る。つまりロシアやイギリスを入れてなお巨大なヨーロッパ
という一つの国なのだ。では国家とはなんぞやという話になると困るので、飽くまで自分の印象
であるが。
 そしてこのややこしいヨーロッパ変遷の歴史を軽妙洒脱な文体と何故か名古屋弁でしゃべる
登場人物でわかりやすく教えてくれるのだ。
「たとえば、正統なるアラビア語で「わたしたちを馬鹿にしてはいけませんよ」というところを、
「わしんたらー、たーえ扱いしたらいかんがね」(トルコ族)
「おどりゃー、なめたらいかんぜよ」(イラン族)
「おらだちさ、ばかに為るで無」(インド族)」
 そしてこの著者の国語力というか語彙力にも感心させられる。恥ずかしながら、この年になっ
てもまだまだ知らない日本語はある。「雲烟万里の波濤を越え」「苛斂誅求」「俚言」などなど沢
山調べることになった(まだ調べきってない)。
 ややこしくてわかりにくい、でも歴史とはこんなに面白いものか、とちょっと食指を動かされ
た。もう少しハプスブルグ関連を読んで行こうかと思う。ここで重要なのはハプスブルグもしくは
ヨーロッパを俯瞰してみることだろう。一国の歴史をのぞき見ることなどできないのだから。



6.「追悼者」(2010) 折原一 著 ★ ’16/01/19(図書館)
 東電OL殺人事件がモチーフ。有名企業のOLが何故か売春しており、殺された。一時ゴビン
ダとかいう外国人が捕まったが、冤罪だったあの事件である。
 モチーフにしてあるだけで、実際の事件とは関係ない。この本では、昼は真面目なOLが夜の
売春に手を出し殺されたという事件をノンフィクションライターが追うというものだったが、紆余
曲折しすぎてもう犯人などどうでもよくなってしまった。彼女を知る人に対するインタビューで話
は進むのだが、この形式は宮部みゆきの「理由」の方が上手かった。なかなか進まない話と事
件に関係あるのかないのか分からない人々の出現で翻弄され、結果どうでもよくなるのだ。捻
りすぎに要注意である。ラストまでくると読み手はおいてけぼりといった感じ。モチーフは悪くな
いと思うのに、残念。



「700番」(2016/01/09ブログにて発表10日未明削除) ASKA著 ★★ ’15/01/12
 恐らく出版を考慮に書かれた原稿がボツになり、ブログで発表したと思われる。半日かけて
読んだ。(ネットには丸ごと載せているサイトがある。咄嗟にコピーしたのであろうが御苦労なこ
とである。おかげで読めたが)ワイドショーなどで、「盗聴盗撮」などが出てくるあたり典型的な
麻薬中毒による強迫観念である、と言われて気になって読んでみた。
 確かにASKAの文章ははっきりしており、統合失調症患者が書いたと私には思えなかった。
大まかに彼の言いたいことは3つ。一つは麻薬を使った経緯、二つ目は週刊文春の記者との
戦い。三つめは盗聴盗撮集団との戦い。彼に言わせれば先にあったのが「盗聴盗撮」であり、
麻薬は後付けだと。盗聴盗撮集団も実際いるのかもしれない。しかし100歩譲っているとし
て、彼を狙う理由がわからない。彼は「ゲーム」だと言うが、時間を割いて人をずっと監視し続
けるというのは金をもらってもなかなか難しいことだと思うのだが。これに関しては彼は証拠を
集めているらしいので、出るとこに出れば勝負できるであろう。弁護士もついているとのこと
だ。
 週刊文春の記事に対しても相当に怒っているのだが、無罪というならまだしも、麻薬に手を
出しているのだ。何を書かれても仕方ないではないか。しかし記者を呼びつけ「僕は呂律が回
っていませんか?○○なんて言い方してますか?」と問い詰めているが…そこじゃないだろ
…。麻薬使用に関してはクロなのだから、言い訳できないと思うのだが。
 もう一つわからないのが、盗聴盗撮されていることがわかっていて、何故麻薬に手を出した
のか、ということだ。もっと弱みを握られることはわかりきっているではないか。
 普通は執行猶予が明けるまでおとなしくしているものらしいが、もう音楽活動を再開したいの
だとか。その理由が喉を使わないと衰える一方だからだというのだが、そんなのボイトレでもす
ればいい。録音だけしておいて発表は執行猶予開けにするなど策はいくらでもあろう。説得力
に欠けるというか、「?」という理由であった。
 最後に一緒にいた女性をかばっているのだが、この女性との関係に関しては一切語ってい
ない。裁判での受け答えに「好きか嫌いかと問われたので「好き」だと答えたまで」「どんな人か
と問われたので「大切な人」と答えた」愛人じゃねーか…と呆れることまで平気で書いているあ
たり正気なのかなー?と疑ってしまう。
 読んですぐは同情的だった。理路整然としているところもある。しかし考えれば考えるほど
「?」が出てくる。本にしないで正解だったかもしれない。というか出版社がノーと言ったのもうな
ずける内容だった。所詮、戯言の範囲をでない、説得力に欠けるものであったということだ。
 一番の「?」は友人に刑事もヤクザもいて麻薬の怖さはわかっていたのに、何故手を出した
のか…という点だった。一般人が興味本位で、というのとは違う。ちょっと呆れた。



5.「子宮頸ガンワクチン事件」(2015) 斎藤貴男 著 ★★ ’15/01/11読了(図書館)
 関係者の肩書きの多さと専門用語でかなり読み進めるのがしんどかった。「東京都健康長寿
医療センター顧問 福岡鹿大学全身管理部門総合医学講座小児科学分野教授 日本感染症
学会予防接種関連委員会担当役員」など肩書きを書かねば固有名詞だけではなんのこっちゃ
わからんからだろうが、とにかく多いので全部読んで行くと疲れるのと、まぁこれだけ役職・肩
書きというものが日本社会では大事なのだ、というちょっと本題とは逸れた日本社会の病巣を
垣間見た思いだ。
 結論から言うと、「世界にはHPVワクチンの副反応を疑われる案件がこれほど多く、英国で
は報告の36%に因果関係が認められたという。それでも各国政府が集団接種の中止あるい
は中断に踏み切らないのか何故なのか。個々のリスクより全体のメリットを優先している。市
民側にも追及する力がたりないか、そうした政府の考え方を追認している。」ということらしい。
ワクチンビジネスの恐ろしさにも触れられている。要するに全て金なのだ。
 それにしても、副作用の出方も千差万別で、酷い人は歩行困難ばかりでなく脳が委縮してい
くという。パーキンソンのような症状である。それも十代で。それは可哀想な話だが、人によっ
て程度の差が大きく、全く出ない人の方が多いというのは、なかなか薬害と認めさせるのも骨
だったに違いない。事実、十代特有の精神的なものだと精神科をたらいまわしされていたらし
い。それを薬害と認めさせ、ワクチン接種推進を止めたのだから、そちらの努力がすごいうと
思った。代償はあまりにも大きいものだったが。
 それにしても、必ず効くわけでもないもの(100%防げるものではない)ワクチンをよく厚労省
肝入りにできたものだ。金の力は怖い。これでさも子宮頸ガンの恐怖から救われるように謳っ
ていたのだが、結局その効果のほどは確かめようもない。「政府が助成するのは今だけだか
ら」など調子いいこと言われても、殊に体に関することはお国の政策であっても、というかお国
の政策だからこそ盲目的にならず、納得してからでないと受け入れてはいけない、と思った。
なので、私はレーシックも飛び付くのは早計と考えている。これは国が力を入れてはいないし、
入れたところで命に関係あるでもないが。コンタクトレンズができてまだ歴史も浅く、眼科医か
ら言えば目の治療には、まだまだ副作用の出る余地はあるらしい。
 逆の例もあったのだが。ピルである。外国では当たり前に生理不順や生理痛の緩和に使わ
れているというのに、日本に入ってきたのはごく最近である。何故にもっと前に入れてくれなか
ったのか、とひどい生理痛に悩まされていた自分としては恨めしい気持ちもある。
 もっと関係ないことを言えば、この本の日本語がちょいちょいおかしい、というかちょっとした
言葉の使い方が適切でなく読みにくさに輪をかけていた。「など。」でいいのに「などと。」とか
「ではないのに、」が「でもないのに、」。文章丸ごと抜かないとわかりにくいと思うが…。まぁこ
れだけごちゃごちゃした肩書きと専門用語と格闘したのだから、少々本文もブレるのかも。こう
いう時思うのが、編集者は何をしているのか、ということだ。読んでおかしければ指摘すべきで
はないのか。…読んでないのか?と思わざるを得ない。



4.「今日も、北京てなもんや暮らし」(2009)谷崎光 著 ★★ ’15/01/08読了(図書館)
古き良き北京から一転、こちらは中国こきおろし。「奇天烈、中国人の思想と行動」「売り飛ば
される電話番号」「中国人の二枚舌」「すさまじい中国人の逆ギレ」「人売りもある、中国社会の
闇」などなど、目次だけでお腹いっぱいである。
 「友好を演出する輩が何と言おうとも、中国人民はまだ日本と「分かり合う」レベルには達して
いない。まずは現在の、「現実の日本人」の「認識」の段階である。今の日本人は、もう「鬼子」
ではないのか?日本に行っても殺されたりなんかしない、らしい…。」
 「なぜゆえ、たかが道案内や観光客の軽病のために大学生に総動員をかけ町に配置させて
いるのか。
 それはやね、フツーに町の人に聞くと、中国人と思われた場合には(あんた、タダで聞くなん
てあつかましいわね!)ふんと鼻であしらい答えないー90%。道を知らない--90%、地図が
読めない--75%、知っている場合は超めんどくさそうに目も向けずあごで道を示す--85%、
嘘を教えて間違うのを喜ぶ--30%という実情のせいである」
 「この世をば我が世とぞ思ふ望月の 欠けたる部分は偽装でOK (詠み人=藤原の胡錦
濤)」
などなど、相変わらずである。さらに食の危険や、犯罪などは他の本のほうが詳しいのでここ
での紹介は生ぬるさすら感じる。読みやすいように敢えて軽く書いてあるのだろうが。
 最後に本文とは関係ないが「不乙」という日本語を教えてくれた。自分も知らなかったので、こ
の部分だけでも読んで良かった。逆に言えばここだけでいいかも…。



3.「北京の愉しみ」(2003)谷崎光 著 ★★★ ’15/01/07読了
 書かれているのは2002年当時の北京でまだPM2.5などは問題になっていなかった頃なのだ
ろう。そして北京オリンピック前でもあったので、オリンピックで古さを隠し近代国家を印象付け
るべく取り壊された胡同や四合院の在りし日が書いてある。行ってみたかったなぁと思わせる
に十分な商店やレストランが著者の思い出とともに書いてある。それも北京の観光地に飽きた
らこんなところはどう?といったツウ好みがそろっているので、非常に参考にはなるのだが、残
念ながら、この時から十数年という歳月が経っている。果たして紹介された店の内どれくらいが
残っているのだろうか。正直全滅に近いのではないかという気がしている。
 空気がアレだもんでもう二度と行くことはないだろうが、奇跡的にきれいな空気をとりもどし、
また行けることになったら、この本に載ってる店が今も存続しているかをしっかり調べて行きた
いと思う。
 ちなみに著者は働きながら大学に留学している勤労学生で、北京語は勿論OK。しかも北京
人に騙されるどころか騙すくらいの知恵の持ち主だ。
「道を尋ねる時、中国人と一緒だとお金を取られる恐れがあるので一人のふりをした。丁寧に
観光三輪車のおじさんに教えてもらうと
「店まで乗らないか?」
「友達がいるの」
「おお、外人に騙された」中国人を騙すとはたくましくなってしまった。」
いや、日本人もこうでなきゃ!と思わされた。



2.「心がスーッと晴れ渡る「感覚の心理学」(2012)名越康文 著 ★★ ’15/01/06読了(図書
館)
 それができれば苦労はないのよ、的な。ポジティブシンキングの人に「何故前向きに生きない
のだ、人生楽しんだらいいじゃないか」と言われるほど悲しくなることはない。誰でもそう思う。
でもそう思うだけでそうなれるのなら、そもそも自己啓発本など売れるはずもないのだ。自分で
自分を理想とする方向に持っていけないからもがき苦しみ、指南を求めてこういう本を買うの
だと思うのだが…肝心の著者と読者の隔たりはかくも大きいものかと愕然とする。人間って不
思議デスネ…。


1.「死のドレスを花婿に」(2015)ピエール・ルメートル著 ★★★ ’15/01/06読了(図書館)
 先に言っておかねばならないのは、ネタバレあります。
 ネタバレせずに感想を書くのは非常に難しい。「その女、アレックス」で一気に日本でも有名
になった著者の最初の本らしい。アレックスのように転がるように進むストーリーと膨らむ謎に
目が離せない。
 何かから逃げるソフィー。逃げ続けるうちに徐々にソフィーの事情がわかってくるが、それで
も肝心のことはやはり最後で明らかになる。
 逃げるソフィーのたくましさ、決してあきらめない強さは素晴らしいが、彼女が狙われた理由
や犯人が彼女を狙った理由はタネあかしされても納得いかなかった。緻密な計画、冷静な判
断が狂気からくるというのが、どうにも腑に落ちないのだ。そんなに頭のいい人間が自分の不
幸を人のせいにするだろうか?それだけ頭がよければ…書きながら思ったが犯人は計画を俯
瞰してみることはできても、自分の人生を俯瞰で見ることはできなかったのか。
 ともあれ強い女というのが好きな作家なのかなぁと思った。最後に邦題の意味を考えるとぞっ
とした。ホラーかって。ちなみに原題は”Robe de marie"。



「さよならの手口」(2014)若竹七海 著 ★★★ ’15/12/25読了
 久しぶりに一人称のミステリ。主人公はアラフォーの女探偵。勤めていた探偵社がなくなり、
ミステリ専門古書店でバイトしていたところ、遺品回収中に事件に巻き込まれる。
 自分と年の近い女性の一人称で語られるからか、無理なく引き込まれて行く。巻き込まれ方
も不自然に思えない。傍から見れば不自然な事でも本人の立場からつぶさに説明されれば不
自然さは感じられないのだな、と改めて一人称の読みやすさを思った。地味な事件の連続なの
だが、それこそ日常よくある話のような気もしてリアルに感じられた。
 マンションの白骨死体、20年前の娘の失踪、その娘を探していた探偵の失踪、自分に近付
いてきた詐欺にあったと言う女、その女が闇賭博に関与しているという謎、とありとあらゆるこ
とが連鎖的に女探偵・葉村昌にふりかかる。しかも事件のたびに生傷が増えて行き、満身創
痍。ついでにご近所さんとの諍いまで。体力的にも精神的にも、40越えてこれは辛い、とつい
同情的になると同時にがんばれ!とも思ってしまう。
 現代の日本が舞台で特別な社会についての専門知識もいらない肩ひじ張らずにただ葉村の
愚痴とともに進む物語を追えばよい。読みやすく、オチのつけかたも見事だと思った。
 葉村がバイトしていたミステリ専門古書店というのは自分も金があればやってみたいと思っ
た。実際古書店というのは難しい業種なのはわかっているので、自分には無理だとは思うが。
別に稀観本とかプレミア本とかじゃなく普遍的なミステリの本ばかりを集めて、読みたい人が手
に入れられる、というような…ここでそんな自分が理想とする古書店を語ってもしょうがない。巻
末のミステリ本紹介はしっかり控えておいた。またミステリを探す楽しみが増えた点でもお得な
本だったと思う。



「ボーン・コレクター」(1999)ジェフリー・ディーヴァー著 池田真紀子訳 ★★★ 12/21読了
 四肢麻痺という安楽椅子探偵を地で行く探偵リンカーン・ライム一作目。奇しくも続編が今年
の「このミス」1位に。ということで一作目を読んでみた。猟奇的な事件と科学捜査を駆使した追
いつめ方は、同年代のP・コーンウェルのドクター・ケイ・スカーペッタシリーズに似ているが、こ
ちらも負けないくらいのジェットコースター感と斬新さがある。
 元刑事のライムはベッドに寝たきりなので手足となってくれる警官アメリア・サックスに捜査を
指示しながら、科学捜査を駆使して犯人の次の被害者を助けるため脳みそフル回転させる。
ただこの科学捜査が全ての犯罪捜査に使われているかというと怪しいが。
 四肢麻痺だとこういう介護がいるのか、といった医療的なことも書かれてある。今の時代に即
しているような内容だ。1999年発表だと言うのに、現代でも十分通用する内容で飽きさせない。
ますます今年の1位作品も読んでみたいと思った。



「北京大学てなもんや留学記」(2008)谷崎光 著 ★★ ’15/12/18読了
 明記されてないのだが、おそらく今から10年前くらいに留学していたようだ。10年ひと昔なの
で、書いてあることそのまま鵜呑みにできるかどうかわからないが、今の中国を見ていると10
年前とそう変わっていないので、今でも通用する事かとも思う。
 所詮大学関係者のみの取材や経験なのでエリート相手。星野博美や福島香織のような悲壮
感漂うレポートと言うことはなく、ただドライな部分もありウェットな部分もある現代の北京大学
生の素顔がわかる。賄賂は悪い、ずるい、と思うが自分が官僚になったらもらう、と断言する。
もらわなかったら周りからハブられる可能性が高いからだ。賄賂をもらうのも楽しいだけではな
いようだ。大学教授は論文も研究もこの国では真実をいかに隠すという表裏二重性を持ってい
ないと、職を追われるという事実。中国の学者が生き残るために必要なのは研究より政府の
顔色を窺うという処世術である。
 特に反日に対する防御線、ここまで反論していい、ここからは泥仕合、など、経験を元に色々
なレクチャーもある。戦争の賠償のことを言われたら「1972年に周恩来がサインして放棄した
んだよ」くらいは言い返そう。そう著者が言った相手は鳩が豆鉄砲食らったような顔をしていた
らしい。とにかく反日教育は刷り込まれているので、いくら「日本文化が好きです」と言われよう
が、一皮むけば「小日本」「日本鬼子」の言葉はすぐ出てくるものと覚悟せよ。
 この本で嬉しかったのは彷徨える中国語中級者への勉強方法があり、著者が実践して良か
った方法や論理などを色々と載せてくれていることだ。ここで詳しくは書かないが、基本はやは
りリスニング。いくつか試してみようと思った。
 中国人とのやりとりはやはり面白いので、この人の本はこの先も探して読んでみようと思っ
た。福島香織の本ほど読み終わった後絶望感に襲われない。絶望する必要などないのだ。自
分たちが接するとすればこの本に出てくるようなそこそこ金持ちの世代なのだから。日本憎し
の戦争世代でもなければ、日本を怨むより農村戸籍を怨むほどの貧困層でもないのだ。その
点においてはいい参考になった。



「紙つなげ!彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場」(2014)佐々涼子 著 
★★★  ’15/12/11読了
 日本の紙がどこから来ているのか知らず茫然とした…著者が冒頭に言うように、誰でもその
ことに驚くのではないだろうか。私もご多分にもれず、この本を読んで日本の製紙工業が東北
にあったと初めて知った。そして2011年の311によって壊滅状態にあったということも。この本
は被災した製紙工場を半年で再建したことに注目し、取材により書き上げたルポだ。
 素晴らしい話だと思うが、当事者に聴いた話を書き起こしているので、著者が体験したもので
はないからか、今一つ迫力に欠けた。飽くまで著者の前作「エンジェルフライト」に比べて、であ
るが。
 ただ、はやり日本製紙社員も被災者。当日の回想には鬼気迫る描写にあふれ、涙なくして読
むのは難しい。日本人は聖人君子のように世界で讃えられた。しかしそうではない、汚い面も
被災者は沢山見ている。やはり日本人は外国に比べて治安が良いなどというのは幻想なの
だ。確かに欧米のように即暴動につながりはしないが、見られていなければなんでもやる、とい
うのは日本人だってそうだ。しかし火事場泥棒をした彼らはその後胸を張って生きて行けるの
だろうか。
 「雑誌にはたいてい異なる手触りのページが何種類か含まれている」「文庫はみんな色が違
う。講談社が若干黄色、角川が赤くて新潮社がめっちゃ赤」など本の紙にまつわる蘊蓄は製紙
会社ならではのことだろう。このへんは本をよく手にする人間には「ほー」とうなったり、「そうそ
う」と頷いたり。
 一時電子書籍に浮気した私だが、やはりこの本に出てくる製紙会社社員の子どもの言うとお
り「やっぱり本はめくらなくちゃ」という思いを強くした。しかしこの本を始め最近はもっぱら図書
館で借りてることをちょっぴり申し訳なくも思う…スミマセン。



「そして殺人者は野に放たれる」(2003) 日垣隆 著 ★★ ’15/12/07読了
 「検察官が最もさけなければならない(出世に響く)のは、起訴した被告人が無罪判決を受け
ることだ。だからこそ地検では、法的根拠のない起訴前鑑定を行って、無罪になりそうな”気
配”のある事件は起訴しない」
 これを読んで愕然としない人間はいないだろう。常々不思議に思っていたのは覚せい剤取締
法で捕まった人間に対する刑の甘さだ。まず3回は捕まらないと実刑にならない。何故再犯率
が高いのに執行猶予をつけるのか。
 この本でも覚せい剤や飲酒の上での殺人などは上記の理由で起訴すらされず、起訴されて
も心神耗弱を理由に刑を軽減されるのだ。有り得ないくらいの軽さに。人の命を奪っておきな
がら極刑を逃れられる。それも本当に心神耗弱などではなく、明らかに刑法39条を知って利用
したうえなので、判決後ニヤリと笑う被告がいるとか。
 この本を読むとそんな人間に当たるのは交通事故のようなもので、こちらが気をつけていて
もしようがない、という点で絶望的な気分になる。下記にある鄭永善のような真に治療が必要
な人間には治療がなされず、覚せい剤やアルコールなどに心神耗弱が利用されるというの
は、一体誰が得するというのだろう。
 この本にはそういった例がいくつも載っているのだが、では鄭永善は何故起訴されたのか。
遺族感情は検察は裁判は一切考慮されないというのであれば、誰が鄭を獄へ送り出し、誰が
偽りの精神疾患者を野に放っているのか。日本の法曹界以外何者でもない。しっかり法が働く
世の中というのは先進国の幻なのだろうか。



「獄に消えた狂気 滋賀・長浜「2園児」刺殺事件」(2011)平井美帆 著 ★★ ’15/12/02
 当時相当に世間を騒がせた事件。北でも自分の子と近所の児童を殺した事件と続発したた
め、かなりセンセーショナルだった。しかし北と違ってこちらは報道合戦からスルリと抜け落ち、
ついには判決すらどうなったかわからなかった。その事件を発生から丁寧に追ったルポであ
る。
 結論から言えば、犯人鄭永善は統合失調症を患っており、事件前後も心神耗弱であったと
いうことだが、遺族感情に配慮してか、徹底的にそこは排除して、極刑が言い渡された。
 著者は加害者がどういった人間だったかを調べようとするが、滋賀の田舎人気質や閉鎖的
地域社会という弊害にあい、さらに本人が中国出身ということもあって、なかなか実像をつかめ
ずにいた。
 最終的に鄭永善に会えたものの、明らかに病状は悪化しており、通常の会話もままならなく
なっていたという。ここでも日本の法曹界のあてにならないことが露呈したような気がする。と、
共に「臭いものに蓋」の日本人気質。精神疾患というものを認めず、精神疾患に無知な日本の
夫と義父が投薬させなかったために鄭永善は、薬で完治はしないまでも症状が抑えられる病
気を放っておかれ、結果事件を起こした。投薬させなかった理由は「薬を飲むと、寝てばかりだ
から」。自分も経験があるが、うつ病の薬や安定剤は体質に合わないとひどいだるさを引き起
こすことがある。その場合は勿論、服薬してどうだったかを医者に言い、自分に合った薬を探
すためにも色々薬を変えてもらうことはよくあることである。何度も騒ぎを起こし、精神病院に
入院したこともあるのに、鄭を放っておいた同居していた家族に罪はないというのだろうか。中
国では貧しい生い立ちから立身出世を果たしたという彼女は、そのまま中国で結婚していれ
ば、結婚せずともそのまま中国の都会で暮していれば、事件は統合失調症すら発症しなかっ
たかもしれないのだ。
 ただ、鄭の生い立ちは複雑なもので、普通の中国人とも違う。黒竜江省の朝鮮族で、母語は
朝鮮語。それが裁判をスムーズにいかせなかったともいえる。中国語、朝鮮語、日本語の3つ
が重なりあい、どれが本音かわかる人間などいようか。言葉はアイデンティティと言われるくら
い重要なものだ。そもそもアイデンティティがぐらついていた人間と言えなくもない。では中国に
おける少数民族がみんなそうかと言えばそんなわけもない。
 もう一つ、事件とは別の問題が私には見え隠れしている様な気がした。中国からしか嫁を取
れない日本の田舎の問題である。中国から嫁を貰わなければならないほど、ひっ迫している様
な名家でも農家でもない。何故中国からわざわざ?はるばる来た嫁を愛していたのだろうか、
日本人夫は。事件後、あっさり離婚している。というより、再三の鄭の行動に、敢えて目を逸ら
していた風にも思える。愛せないのらな何故中国から呼んだのか。会わないと思ったのなら何
故すぐ中国に返してやらなかったのか。
 本人の性格や、鶴橋で経験したという恐怖体験、子供を産んでからの精神不安定、様々な
要素がからんで、統合失調症を発症して、事件は起きた。それだけに、どこかで防げたのでは
ないか、鄭独りになすりつけていいのか、日本人の悪い面全てを負ってしまった鄭を受け入れ
た日本が知らん顔をしてていいのか、と疑問は尽きない。
 残念ながら、鄭はもう自分が何故刑を受けているかわかりはしない。治療も受けられないの
だから、二度と正気に戻ることはないだろう。そんな人間を獄につないで反省させている、罪を
償わせていると言えるのだろうか。日本は「刑務所送りにする」ことの意味を考えねばならない
のではないか。



「どんでん返し」(1981)文庫(2014)笹沢左保 著 ★ ’15/11/30
 短編集。会話のみで進められる。でもタイトルほど結末がひっくり返った気がしない。最初の2
話は思った通りだったので、全く期待外れでした。



「血の探求」(2014) エレン・ウルマン著 辻早苗訳 ★★ ’15/11/24読了
 1974年、大学教授である”私”(50代男性)はサンフランシスコのダウンタウンにオフィスを借
りた。隣では精神分析医ドクター・シュスラー(中年女性)のセラピーが行われていた。”私”は
ある患者の話に引き込まれて行く。彼女はレズビアンであり、養子である、と。実の母親を探す
患者と繰り返し話しあう精神分析医。二人の会話を盗み聞きする”私”。
 一風変わったミステリである。探偵も犯人もない。しかしそこには人類の大きな災いが隠され
ていた。患者のルーツを探ることは、かの大災難に見舞われたユダヤ人の歴史を知ることだ
ったのである。私はユダヤ人と言えば、「第二次世界大戦でナチスに虐殺された民族」「イスラ
エル」「ユダヤ教」と、これくらいしか思いつかなかったのだが、この物語では、各地に散らばっ
ていたユダヤ人は各国で疎んじられていたこと、ナチスのおかげでここぞとばかりに、フランス
もオランダもユダヤ人をさしだしたこと、ナチスから解放されてもすぐもとには戻らなかったこ
と、ホロコーストを生き延びた人々の新たなる試練、ユダヤ人のなかの階級、など知らなかっ
たことがてんこ盛りで、ユダヤ人とはかくも業の深き人種なのか、と嘆息する以外になかった。
 特に強制収容所から生き延び、やれやれと帰って来た土地では、迫害は終わったはずなの
に、自分たちの居場所はなく、地元の人々からの虐殺が始まった(キルツェ虐殺事件)というの
は衝撃的だった。そうだ、戦争とは上が降伏したからといって民衆に元の暮らしが戻ってくる保
証など何もない。奪われたものは戻らないのだ。戦争前にユダヤ人であることに危機感を持
ち、キリスト教に改宗し、ドイツ人と結婚しても最終的には収容所に送られたとは、どれだけユ
ダヤ人嫌われてるんだ、と。もう何やっても許さないぞ、という空気は確かにナチスだけででき
るものではないようだ。「ユダヤ人の歴史」を読んでみようかと思った。
 しかしストーリーはというと、正直、赤の他人が他人のルーツをそんなに簡単に探りだせるも
のだろうか、という疑問があった。できなきゃ話は進まないので、目をつぶるしかないのだが。
ネットがそんなに普及してない時代だからこそ、一個人が調べられることに限界があるような
気がした。結果、”私”がどうなった、患者がどうなった、ということもない。作者が言いたかった
のはユダヤ人の受難の歴史なのだろうか。ドキュメントよりミステリの方が分かってもらいやす
いから、こういう形で発表したのだろうか。多分作者はユダヤ人なのだろう。そして患者と同じ
ような経歴なのだろう…と思えてならない。




「エンジェルフライト 国際霊柩送還士」(2012) 佐々涼子 著 ★★★ ’15/11/15
 世の中にはまだまだ自分の知らないことがあるのだと痛感させられた。この国際霊柩送還士
という仕事もそうだし、その仕事にまつわることや、自分の死に対する感情なども考えさせられ
た。日本人は特に「死」というものを忌み嫌うという。確かに、と思わざるを得ない。実は自分の
家の近くに葬儀社ができた。正直いい気はしなかった。今は「セレモニーホール」という体のい
い名前にされてるが、それも私のような人間のせいで堂々と「葬儀社」を名乗れないのだ。
 名前の通り、外国で様々な理由により客死した邦人を家族の元に帰してあげるのが国際霊
柩送還という仕事だ。それもこの本が取材したエアハース・インターナショナル一社しか日本に
はない。そして家族経営でもある。次の後継者は決まっているが、その次はどうなるんだろう。
新人が入っては、その心身の辛さに辞めて行くという。しかしこの高齢化社会、どんどん必要と
なる業務とは思う。外国から戻ってくるご遺体は、その扱われ方も国によって様々で、とんでも
ない状態のものもあるという。それをなるべく生前のようなきれいな状態で遺族に会わせてあ
げるのも送還士の仕事である。
 エンバーミングという防腐処理については本で読んだことがあった。日本はその後進国であ
り、ちゃんとしたエンバーミングの資格は整備されていないので日本ではご遺体はされるがま
まで、遺族は不満の声をあげることもないという。しかしアメリカなどのエンバーミングとエアハ
ース・インターナショナル社が施す遺体修復作業はその目的が違う、と著者は指摘する。弔い
の儀式、悲しみの時間が日本人には必要なのだと。そして遺族は故人の美しい記憶を温存す
るため、一番悲しい記憶は消去する。彼らの仕事は人から忘れ去られることでもある。やりが
いあるのかないのかわからない仕事だ。私を含め日本人もいろんな目的で海外に出ることが
多い昨今、自分がもし死んだらエアハース・インターナショナル社に後を頼むという遺言だけは
残しておこうと思った。彼らに任せておけば安心だ…なんの保証にもならないけど。
 そう思っていたらパリでテロが起こった。6千人の邦人がフランスを訪れているという。エアハ
ースのお世話になる人がいないことを祈る。



「謝るなら、いつでもおいで」(2014)川名壮志 著 ★★★ ’15/11/11
 2004年6月1日に起きた「佐世保市女子児童殺人事件」。この被害者と加害者が同じクラスメ
ートの12歳の少女だったことが一番の衝撃だったが、さらにこの事件が他と違ったのは被害者
の父親が新聞記者、つまり報道する側の人間だったこと。著者はこの被害者の父親が直属の
上司であり、少女とその上の兄と食卓を囲む仲であった。普通の事件記者の取材とは違った
足掛け10年にわたるルポタージュである。
 カッターで首を切られ絶命した女の子と加害者は仲が良かったという。双方の親も教師も「な
ぜ」という思いから逃れられない。あわてふためき、オロオロするばかりの大人たち。さらに報
道により遺族や加害者家族を傷つけるマスコミ、翻弄される住民など、とにかく小さな町が大
騒ぎであったことは想像にかたくない。お父さんの「なぜうちの子が。なぜ殺されなければなら
なかったのか。なぜ殺したのか」という思いはわからなくはない。しかし10年後の取材で最後に
登場する被害者児童の兄が一番事情をよく知っていて、一番回りを見ていたのに、周りが誰も
彼を見ていなかったことに驚かされる。彼の言葉が全てだったのだろう。「自分をアピールしよ
うとして失敗した子」
 しかし事件直後から少年審判が終わるまでの状況というのは、一般には知られていないもの
だけに興味深かった。14歳に満たないため、少年法にもひっかからない少女は取り調べもなく
裁判もない、ただ非公開の場で事実確認がなされるだけ。最後まで少女は反省を口にするこ
となく、ただ自分の置かれている立場がわからない、といった様子だったという。少女は児童自
支援施設「きぬがわ学院」に収容された。
 加害者少女のその後はわからないように配慮されている。遺族は置いてきぼりだ。特にひど
い言動をする子でもなく家庭環境が特別悪かったわけではない。児童虐待もなかった。でも事
件は起きた。どう捕らえていいのかわからない著者の戸惑いがストレートに伝わってきた。先
に書いたお兄ちゃんの声をもっと早くひろってあげていたら…。この本で遺族が少しでも救わ
れることを願う。今年、神戸市の連続児童殺人事件の犯人が少年Aと名乗り、書籍を出版した
り、HPを開設したりしているらしい。せめて少女はこの本を読んで、こんな卑怯な真似で遺族
をこれ以上傷つけないでほしいと願う。



「誘蛾灯 鳥取連続不審死事件」(2013) 青木理 著 ★★ ’15/11/08読了
 鳥取で起きた連続不審死事件。容疑者・上田美由紀は死刑判決を受けた。当時、同時期に
起こった埼玉の木嶋佳苗事件と共にセンセーショナルな報道をされた事件だ。木嶋関連の本
は2冊ほど読んで、完全にクロという印象を持ったのだがこちらはどうだろうか、と興味を持っ
た。というのもある雑誌で女性死刑囚を特集した記事の中に、この上田美由紀も入っており、
鳥取まで面会に行った女性記者の記事を読んでいたからだ。
 雑誌の記事では記者が面会要請の用紙に続柄を「知人」と書いたことに対し、上田美由紀は
「嘘はいけません。筋は通して下さい」ときっぱり言った姿勢に、もしかしたら?という印象を持
ったからだ。
 この本は著者名の通り男性が書いている。鳥取に足しげく通い、美由紀が勤めていたスナッ
クへ何度も取材で訪れている。鳥取という土地の誠に残念な印象が多く記述されているので、
鳥取県民が読んだら泣くんじゃないかと思うほどに、あまり鳥取という土地をよく書いてはいな
い。著者の印象がそうなんだからしょうがないんだろうけど、ちょっとあんまりな気もした。
 肝心の上田美由紀への取材は、取材の進展関係もあろうが、本のかなり後ろの方にきてや
っとである。そこには前述の記事で読んだような「暴力と貧困」というような影はなく、「礼儀正し
い」上田美由紀が記されている。ただ、やはり取材を通しても著者が美由紀に持った印象は
「大うそつき」だそうだ。確かに取材した関係者は口をそろえてそう言うが、では記事で見た「嘘
はいけません」という上田美由紀はどこに?
 結局、著者は事件をなぞっただけで、冤罪の確証は抱けず、かといって上田一人のやったこ
ととも思えない、検察や警察に対する不信だけを書いて本書は終わる。「沼の入り口で瞬く誘
蛾灯のような存在だったのではないか」と。何一つ確信を持って書かれていないので、もうちょ
っと取材力というか、この本を書いた目的は「これ」というはっきりした観点が欲しかった。2年も
鳥取に通ってお疲れ様でしたが、これがその結果かと思うと何しに鳥取まで行ってたのか。
 この本の取材を読んだ限りでは、検察の間接証拠はグダグダなのだが、それすら突き崩せ
ないアホ弁護士に「何も言えない」を繰り返す被告では冤罪とは言えまい。確かに上田美由紀
は変な人間かもしれないが、だからって死刑にしていいわけはない。変な人間イコール犯人で
はないのだ。この国の司法のいい加減さにも言及していたが、もし自分が冤罪で捕まったらと
思うとこの検察のいい加減さ、結論ありきの裁判にぞっとした印象しか持てなかった。



「世界の終わり、あるいは始まり」(2002) 歌野晶午 著 ★ ’15/11/06読了
 「東京近郊で連続留守誘拐殺人事件。誘拐された子供はみな、身代金の受け渡しの前に銃
で殺害されており、その残虐な手口で世間を騒がせていた。そんな中、富樫修は小学6年生の
息子・雄介の部屋から被害者の父親の名刺を発見してしまう。息子が誘拐事件に関わりを持
っているのではないか?恐るべき疑惑はやがて確信へと変わり…。既存のミステリの枠を超
越した、崩壊と再生を描く衝撃の問題作。」
 と、本の紹介にはあったんですが、この「既存のミステリの枠を超越」というのに惹かれて読
んでみたんだけど…これ単にいろいろプロットを考えて結局どれにするか迷った挙句全部放り
込んだんじゃないか、と思うような肩すかしでした。
 連続誘拐殺人事件は実際にあったことで、自分の息子が犯人というところも本当らしい。「ら
しい」というのは、この主人公富樫修との妄想と現実が行きつ戻りつするので、何が何やらわ
からなくなってくる。そう来るか、と思ったら妄想で、話は少し手前に戻る。というのを繰り返すう
ちどこから妄想なのかわからなくなってくるし、返り読みするのも面倒だというのもあって、こっ
ちも確認しながらは読まなかった。なので、ラストシーンも息子はどこまで認めたんだっけ?全
部富樫修の妄想だったんだっけ?と。「葉桜の季節に…」は傑作だっただけに残念。



「ミラノ 霧の風景」(1990) 須賀敦子 著 ★★★
 発行は’90年だが、内容は戦争後から80年代くらいの著者が過ごしたイタリアの回想録であ
る。田丸久美子のエッセイを読んでいたら「愉快なイタリア、楽しいイタリア」といったイメージだ
ったが、こちらはちょっと物悲しいエピソードもあって、タイトル通り霧に包まれた寂しい風景が
見える。
「初めてイタリア語を習うのに、初級ではなくて中級に入れてもらった。いきなり中級に入っては
いけないという規則はそのころはなかったし、語学の初級というものはどの言語も恐ろしく退屈
で、たいていは初級で続ける勇気がくじけてしまう。イタリア語がそうなったらたいへんだと思
い、それならちんぷんかんぷんでもいい、後で努力して追いつく苦労の方がましだ、というのが
私なりの性急な論理であった」
 ぶっとんだ論理である。ちんぷんかんぷんでは尚の事ついていけなくて投げそうな気もする
のだが、とにかく海外に出る女子というのは、根性というか気合の入れ方が違うような気がす
る。それを「覚悟」というものかもしれない。かくして彼女は有言実行、イタリア語が堪能になる
のである。
「”帰れソレントへ”の甘いメロディーで(歌の中で「ソレント」は方言で「スゥリエント」というふうに
発音されていて、それがまた独特の官能的な雰囲気を出している)、日本にも名を知られてい
るこの町は…」
 といったふうに、感情豊かに言葉を表現している。私なんぞテレサ・テンの歌う「愛人」の中国
語版で最後のフレーズ「だからお願い 側においてね 今はあなたしか見えないの」が「所以我
求求ni 別譲我離開ni 一si si 情意」の部分が「これがいいんですよね〜」という中国語の先生
言うところのどこがいいのかさっぱりだったりする。こんな風に語感を得られれば言葉の達人と
言えるのだろうなぁと羨ましく思った。
 この本には時の流れを感じさせることが、筆者のみならず読者にも感じさせられるところが多
い。
「アドリア海沿岸のイストリアと呼ばれる地方の(たぶん今はユーゴスラビア領になっている)小
さな島の寄宿学校にいた」
これが書かれたのはユーゴスラビア解体前(1990)と思われる。現在ユーゴスラビアは分裂、
セルビア・モンテネグロと名前を変えている。で、イストリアはというと現在クロアチアとセルビア
に分割されている(ほとんどクロアチアなんだが主要都市はセルビアにある)。ユーゴ前はイタ
リア領だったということらしいが、住んでる人はえらい迷惑なことだろうなぁ…。このイタリア→ユ
ーゴスラビア→セルビア・クロアチアは20世紀の話でそんなに前の話ではないのである。
 地理や言語の話ばかりでなく著者が思いをはせるご主人(イタリア人)やイタリアの友人たち
(故人)のエピソードも多く、しんみりとさせられる。明るいイタリア以外にこんなイメージのイタリ
アも悪くないと思った。



「アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない」(2008) 町山智浩 著 ★★ ’15/10/
27読了
 再読。というか前に単行本の方を読んでました。今回は文庫版(2012)なんで加筆修正ある
かなー、と思ったんだけどほとんどないようで。アメリカ人はアホですよー、ということ以外特に
認識を新たにするものはない。堤未果の「貧困大国アメリカ」シリーズと対極にアメリカのシリア
スな問題を茶化している感じ。TPP問題などで、いまや対岸の火事と笑っていられないのだ
が。アメリカ経済はバカなアメリカ人を騙した手口で今度は日本を食い物にしようとしている。ア
メリカ人(主にユダヤ系)に食われないようにするにはどうしたらいいか、という真面目なルポや
対策本を書いて世に訴えるべきだと思うのだが…。



「R I K A 」(2002)五十嵐貴久 著 ★★ ’15/10/25読了
 ホラーサスペンス大賞受賞作。幽霊物のホラーは嫌いなんだが、これはストーカーものらしい
ので読んでみた。
 「妻子を愛する42歳の平凡な会社員、本間は、出来心で始めた「出会い系」で「リカ」と名乗る
女性と知り合う。しかし彼女は、恐るべき”怪物”だった。長い黒髪を振り乱し、常軌を逸した手
段でストーキングをするリカ。その狂気に追いつめられた本間は意を決し怪物と対決する。単
行本未発表の衝撃のエピローグがついた完全版」
 というのが背表紙に書いてあった概略である。リカという女にストーカーされることはわかって
いるので、本間がおっかなびっくり「出会い系」にハマっていく過程が丁寧というよりトロく感じ
る。リカが出てくるまでが長いのだ。まぁ出てきたら出ずっぱりではあるが。このリカが本間の
妄想でした、というくらいの陳腐な設定というか、リアルさがない。「目は穴のように白目部分が
なく、顔をそむけるほどの悪臭を放つ」という時点で想像できない…。確かに怪物ではある。銃
弾撃ち込まれても死ななかったのだから。あ、これエピローグのネタバレですね。もっとリアル
なストーカーもののほうが恐いと思うんだけど…。宮部みゆきの「名もなき毒」の原田いずみの
ほうがリアリティがあって怖かった。どこにでもいそうな情緒不安定で何でも人のせいにする奴
…こっちの方が恐ろしかったですわ。実際そういう人を何人も見てきただけに。本当に恐ろしい
のはやはり生身の怪物なんかより生身の人間ということか。



「謝謝!チャイニーズ」(1996)星野博美 著 ★★★ ’15/10/22読了
 内容は’93〜94年の中国旅行記なのだが、文庫化されたのは2007年。なんでこんな開きが
あるのか?まぁいいですけど。
 とにかく濃い内容に、いくつもの教訓が。「ジャンジャンはこんなもんじゃないぞ。毎日ジャンジ
ャンに行ってる俺が言うんだから嘘じゃない。カメラとか地図なんて持って歩いちゃだめだ。外
国人だとわかったら何をされるかわからない。あそこには金のためならなんでもやる輩がごろ
ごろいる。バスを降りたら俺が車を探して値段も交渉してやるから心配しなくていい。何を言わ
れても、俺が言った値段しか払っちゃだめだぞ。それに夜になったら外に一人で出るんじゃな
いぞ、わかったね。」これだけ聞くとメチャクチャ怖いんだが、これを教えてくれてるのはただ目
的地に行くために乗ったバスのオーナーである。たまたま隣に座っただけの人である。
 かと思えばやはり中国人マナーはすごいのである。夜行フェリーに乗った著者は手ごわい二
人を見た。カップラーメンを食べ終わるとお箸とカップを海へポイと投げ捨て、次に持ってきた
スイカを種をプップッと吐き出しながら食べ、スイカの食べカスも海へ捨てると、ビールを飲み
干し、その瓶を海へ勢いよく投げ捨て宴はおわったそうだ。こういうものは経済が成長しよう
が、観光客が増えようがそうそう改まるものではない。今もって中国人のマナーの悪さはなか
なかのもんである。
 著者はメイチョウというところに2年前に知り合った人に再会しに行くのだが、この「友達」が
厄介の種となる。中国人にとって「友達」になることは難しいことではない。ちょっと言葉を交わ
して自分に利があると思えばもう友達だ。難しく考える必要は全くないし、同時に相手が自分を
友達と思っているかどうかなど全く関係ない。ここがミソである。「友達」周さんは自分の生活が
うだつが上がらないとこぼし、自分も日本へ行きたいと言い出す。外国へ行くということがどう
いうことかまったくわかってない人間にその難しさを説くのは大変である。
「以前は留学ビザで来る人が多かったようですが、実際は勉強より働く人が多かったようで
す。」
「学校に行く必要はないよ。別に日本語なんて勉強する気ないんだから」
「だから…そういう形にしないと入国できなかったんです」
「それに日本って中国語通じるんだろ?」中華思想にもほどがある。
で、まともに入国できないので蛇頭による密航を教える。「でも…それは日本に友達がいない
人間のやることだろ?日本に友達がいる人間はもっとなんとかなるんじゃないか?」なんとかし
てくれ、調べろと押しが強い。そこで著者は「友達」ってなんだろう…と考え込むハメになる。自
分の都合をまくしたてる周さんは確かに自分勝手にうつるが全ては家族を養いたいがため。そ
して改革開放経済のせいで彼らには見る夢が多すぎる。豊かになっていく人々を見ると自分が
豊かにならないのは不公平だという思いがするのも自然なことだ。
「彼がそうならずにいられない状況も、理解できたつもりだった。
 でも、寂しかった。
 とても寂しかった。
 時が流れたのだ。
 そう思うしかなかった。」と結局周さんにはっきり無理だといいきれずにメイチョウを後にした。
 ところがピンタンという街を訪れると、またバスに乗り合わせただけの人にご飯をごちそうに
なることに。
「いつも思う。彼らのこのホスピタリティー。偶然バスに乗り合わせただけの人間を招き入れ、
ごちそうまでしてくれる包容力。これだけは、私たちが日常生活の中で完全に失ってしまったも
のだ。」
 失ったというより、元から持っていないような気もする。誰にでも門戸を開けるそんな開放的
な人種だろうか、日本人は。閉塞的な、もっと陰湿な空間と社会、それが日本の島国根性だと
いう気がする。
 とはいえ、田舎でも競争社会。長楽という街では、一台の林檎を積んだトラックが横転した。
途端にあちこちから人がでてきてあっという間にりんごをかっさらってしまった。トラックの運転
手の無事やその後のことなどまるで考えないこの行動の素早さ。そしてその林檎は次の瞬間
ちょっと離れたところで売り物として並ぶのだ。
 周さんのような人もいれば、著者が寧波という街で世話になった家族は「風呂もトイレもなくて
いい。わしにとって一番大切なのは家族。母さんの帰りがちょっと遅くなっただけで心配なの
に、顔も見えない外国へ行って働くなんて想像もできないね」とカーテンを開ければ、密航して
稼いだ金で建てたという豪邸を尻目に自分の信念に揺るぎない人もいる。
 やはり中国は広い。上から下まで人も様々。同じ貧乏でも考えも様々。日本人は和を持って
なにやら、出る杭はどうやら、でとにかく画一的。著者が中国に恋してやまないのはその落差
があり千差万別な人間模様がより一層映し出されるからではないかと思う。だからタイトルも
「チャイナ」ではない「チャイニーズ」、飽くまで人を見ているのだろう。
 著者は勇気を学びに中国へ旅に出たと書いてあったが、「地球の歩き方」に乗ってないところ
ばかりを90年代に行ったというのだから、元からもう勇気と運は人並み外れて持っていたよう
に思う。



「侯爵サド」(1997) ★ 藤本ひとみ 著 ’15/10/16読了
真梨幸子の「パリ警察」から興味を持ってこっちへきてしまったのだが…別に大した人じゃない
ような。どんな変態かと思ったが、ハンニバル・レクターのほうがよっぽどの…変態度を言いあ
らわすのは気が引けるのであまり引用できないが。後世、「サド」という名詞になったのに、本
人がやったこと以上に名前が大きくなってしまっているような。とはいえ、これは伝記本ではな
いので、本当は違う事実があるのかもしれないが。



「日本人の英語」(1988)★★ マーク・ピーターセン著 
 日本人への英語指南書だが、主に理系で英語で論文を書かなければならない場合を想定し
ての英文法解説。読んで損はないが英語でレポートを書く必要のない人間には無用なのは言
うまでも無い。自分的には「特に…」と日本語で考えた時よく「Especially...」と文頭に持ってきて
いたが、ネイティブから見ると大アウトだそうです。そういう場合「In particular 」が正しい。そこ
だけ、自分がよくやる間違いだったと気付かされて勉強になった。



「笑う中国人 毒入り中国ジョーク集」(2008) 相原茂 著 ★★ 
 著者がEテレの「中国語会話」の講師をしてからこんな面白い教授がいるのか!と中国語を
勉強しだしたころとあいまって、この人のファンになってしまった。エッセイのほうも頗る面白さ。
 しかし嫌中かまびすしい昨今、さすがに心穏やかでなかろうと思っていたが…どうやら筋金入
りの左っかわかもしれない…とちょっと著者を見直すことになった。それが悪いとは言いません
よ、いろいろ意見が言えるのが日本といういい国なのだから。靖国問題のときにどうも左っぽ
いこと言ってたなぁ、くらいに記憶していたのだが、この分だと「従軍慰安婦」「南京大虐殺」ま
で言い出しかねないような気もする…。私も右ってわけではなく、常に事実を事実として知りた
い、という姿勢でいたいだけなのだが。偏られると「ちょっと…」となってしまうだけなのだ。
 反日ジョークの章のくくりに「それに日本は中国という師にたてついて悪行をかさねたのであ
る。ジョークでこのくらいお返しをされても仕方ないのではないか」とある。そうか、中国は師な
のか…。私は中国に対してそこまで尊敬の念は持っていなかったので、驚いた。
 中国の交通マナーのムチャクチャ(悪いなんて表現では表しきれない)は有名である。私も上
海でひかれかけた。この時は「人が横断していれば車は減速するもの」などと思い込んでいた
私が悪い。ガイドさんにも「車、人、自転車、どれが優先でしょう?」と聞かれた。ガイドさんの答
えは「割り込み優先」。この本では「勇気優先」。信号も横断歩道も関係ない。「勇気優先」です
よ、皆さん。どうぞ中国で道を渡るときはお気をつけて。
 中国人はよく路上で喧嘩を始める。絶対に手は出さないものの、とにかく相手を言い負かす
というところが大事で、日本人もこの訓練をするか、せめてこういう根性を持ったほうがいい、と
著者は言うが、そもそもちょっとのことでそんなに激高せんでも…というくらいのことで中国人は
喧嘩を始める。こっちからすればもうちょっと我慢を覚えてもらいたい。もう一つ言えば中国人
同士の取っ組み合いのけんかの映像なんてしょっちゅう見ますけどね。
 反日ジョークは面白いんだけど、後味が悪いというか、日本人なら笑うより怒りを感じるだろ
う。そこを笑い飛ばす度量を持たねばならないのはわかってはいるが…。翻って中国人が同じ
こと言われたら烈火のごとく怒ると思うんだけどな。そもそも人のメンツは気にしないくせに自
分のメンツを潰されたらメチャクチャ怒るっていうのが、どうなのよと思ってはいた。
 官僚や役人の汚職がひどくて、それに関するジョークも多い。これはもう笑い飛ばさないとや
ってられんわ、ということだろうくらいに理解しておこう。しかし役所で届け出一つだす為に書類
一枚もらうのに役人に付け届けが必要で、さらにその届けを上に挙げてもらおうとすれば、あ
からさまに賄賂がいるとかなると、もうどんな国なの、と呆れざるを得ない。日本に来た中国人
が一連の手続きを何も要求せず笑顔すら浮かべ受け入れてくれることに感動して涙を浮かべ
る、というのを聞くとなんとも言えない気分になる。
 と、「毒入り」と書いてあってもあまりの毒気に、かなり気分は重くなる。が、最後の「日中同形
異議語」というのが単純に面白かった。日本と中国、同じ感じを使っても意味が違うというもの
だ。「手紙」がトイレットペーパーなのは有名な話。「老婆」が妻(年に関係なく)、「娘」がお母さ
ん。「娘さんを僕にください」などと言ったら大変なことになる。私が一番面白いと思ったのは工
場見学をしていた中国人視察団一行が目にした「油断一秒、怪我一生」。これは中国人が読
むと「さすが先進国、日本だ!油を一秒でも断ったら、私を一生責めてくださいとは!」後の
「怪」は責める、「我」は自分なのでそうなる。ま、こういう話ばかりなら冒頭に書いてあった中国
人は「笑うことが大好き」というのも頷けるのだが、「日本は昔したことは水のように流して忘れ
てしまう民族だぐらいに思われていることくらいは覚えておこう」なんてあるとすっかり興ざめな
のである。
 感想を短く言えば「かくしてまた中国語学習の目標を見失いそうになる昨今である。」



「モンスター」(2008)百田尚樹 著 ★★ 
 田舎町ににつかわしくない瀟洒なレストランのオーナーは絶世の美女と噂される美帆。しかし
彼女はいわゆる整形美人で、かつてはバケモノと呼ばれるほどの醜さであった。本名の和子と
呼ばれていた若い頃から必死の思いで金を貯め整形に整形を重ね誰からも美しいと一目置
かれる容姿に生まれ変わった美帆。彼女の目的とは…。
 和子のブスは並はずれたものであったとはあるが、この程度の差別十分受けてきました。そ
して容姿が性格を作るというのにも頷けた。私も子供のころから「ブス」と両親から言われ続け
ていたので、なにかにつけ自分は中心になるべき人間じゃない、分をわきまえないといけな
い、という考えが刷り込まれていたように思う。しかし今、ブスでも十分テレビやネットで様々に
活躍している人をみると、そんなに卑下せず堂々と何にでも挑戦していればひとかどの人物に
なれたかも…なんて思ったりもした。それでも親からさんざん「整形しろ」と言われてもしなかっ
た。「茶髪にしろ」と言われてもしなかったのは面倒くさかったのが一番の理由だが(おしゃれに
興味を持てなかったのはやはり幼いころから所詮ブスと刷り込まれていたからというのもあ
る)、整形しなかったのは両親が思っている以上に私が見栄っ張りだからだ。「整形するほどひ
どくない」と信じたかっただけだ。勿論自分が平均以下のブスなのは周りをみても分かっていた
が、職場を変える勇気もなかったので、包帯巻いた顔で職場に行く勇気もなく、その後陰口叩
かれることは容易に想像がついたので、それが恐かったのも事実。なので和子の根性はすご
いと思う。「同僚に何と言われようと自分の欲しいものを手にいれるためにどんな苦労も厭わ
ず邁進する。」ここだけ切り取れば、素晴らしい根性物語なのだが…。
 ミステリであることや、ブスと呼ばれた女の悲劇、整形に関するマメ情報など、いかようにも読
めてエンタメ小説であることは確かだが、女性ならばはやり自分の人生この顔でどうだった
か、不当な扱いを受けてきたか、顔の美醜関係なく素晴らしい人生だったか、などなど思いめ
ぐらすのではないだろうか。私の場合は、先に書いたように「我が娘にそこまでブス、ブスと言
わなくてもいいんじゃない?」と思うほど言われ続けてきた。母にすれば親だからこそ、美しく産
んでやれなかったからこそ整形を「許す」のだと言っていたが、父からのそれは単純に男のか
らかい文句であった。しかしこの和子の得た「美しさ」が万人を魅了したという点にはちょっとひ
っかかりを感じた。誰もが認める美人、それに魅力を感じるのは男である。美人を連れて歩い
て誇らしく思うのは男だ。つまり、やはりこの小説は男が書いているのだ。女は一緒にいる人
の容姿はあまり気にならない。特に子供のころはそうだった。子供の方が目が純粋だと確かに
思える。大人(私の親)が美人だ、美人だ、とほめそやす子がちっとも美人に見えなかった。そ
れどころかものすごく意地悪な子だったのでまさに童話に出てくる魔女のような顔をしているよ
うに思えた。今持って彼女が客観的に見て美人だったのかどうか思いだせない。記憶の中の
彼女の顔が魔女にすりかわっていて彼女本来の顔を思い出せないのだ。話がそれたが、女は
気にするのは相手が幸せかどうか、ではないだろうか。幸せな女に嫉妬し、不幸な女に優越感
を持つ。だからその部分を省かず描写する真梨幸子の小説はリアルさがある。
 この百田尚樹の小説は「美人」とあっても万人が目を奪われる美人というのが想像がつかな
かった。松島菜々子や竹内結子が美人でも私には魅力はない。昔の松坂慶子は確かに美人
だと思うが、やはり自分の好みではない。日本の女優さんではちょっと思いつかないのだが、
私が魅力的だと思ってやまないのはフランス女優のシャルロット・ゲンズブールだ。彼女を美し
いと思うかどうかは人によるでしょうな…。なので、この小説での美帆(和子が整形した後の
名)のイメージは中国女優ファン・ビンビンにした。憂いを含んだ完璧美人である。
 しかしこのブスの悲哀を情念を書いたのがハゲで眉の濃い右翼で大阪弁で早口でまくしたて
るおっさんかと思うと、思考停止してしまう。おお、ブスの気持ちをわかってくれるか、と思う反
面、美人はこれだけ得をする、とも言ってるような気がする。最後まで必要とされたのは美人だ
ったのだから。今回は本の感想より、やはり自分がいかに「ブス」と呼ばれてどう感じてきた
か、という話になってしまう。それはそれで、ブログなどに書いた方が良かったかもしれない。
本の感想になってないような気がする。この小説について書きたいことは沢山あったんだけど
も、どうも自分の話が割って入ってきていて感想文として読みにくいことは重々承知である。こ
の本読んだ人は他人の顔を見て「蒙古襞」の有無を確認することでしょう(笑)(日本人には目
に蒙古襞というのがあって、目を大きくする切開手術をする人はそこを切るんだそうです)今回
とりとめのない文章になって本当にすみません。



「パリ警察1768」(2011)真梨幸子 著 ★★ ’15/10/05読了
 1768年。パリで女の惨殺死体が発見された。私服警部マレーが事件の真相を探るべく奔
走する。
 ミステリとしてはさして面白くはないんだけど、18世紀のパリの市井の人々や風俗が存分に
描かれていて、タイムスリップしてパリ見物に行ってきたような読後感。出てくる登場人物はす
べて実在らしいので、いつか調べて見ようと思った。



「深く深く、砂に埋めて」(2007)真梨幸子 著 ★ ’15/09/28読了
 かつてアイドルだった野崎有利子が詐欺の容疑で逮捕された。弁護を引き受けたはいいが、
調べれば調べるほど有利子という女がわからなくなっていく。男を狂わせるファム・ファタール
は悪女か、世間知らずで純粋な聖女か?
 結論から言えばただのバカでしょう。「誰が見ても魅力的なファムファタール」という女を想像
できないんで、リアルに考えられなかったんだけども。いくら子供のころから芸能界にいたとい
っても、いつまでも若いアイドルのままでいられないことくらい想像付きそうなもんだ。あるいは
馬鹿のフリをして他人に寄生する生き方を選んでいたのか…。のっけから想像しにくい話で、
最後まで波に乗れない感じでした。真梨幸子ならもっとすごい悪女が描けると思うのだけどな
…。



「トラウマ映画館」(2013)町山智浩 著 ★★ ’15/09/25読了
 著者にトラウマを与えた恐ろしげな映画26本を厳選して紹介。特に「バニー・レークは行方
不明」「尼僧ヨアンナ」「わが青春のマリアンヌ」「妖精たちの森」など観たくなる映画は目白押
し。しかし事情があってDVD化されてないものが多い。コードゆるゆるだった時代のものが多
いので、差別用語とかなんとか、いろいろ問題アリなんでしょうな…。
 しかしここでさらりとカミングアウトしている著者のトラウマに、私は心が痛んだ。著者の父親
は在日朝鮮人で、幼いころ両親は離婚。しかし母親は事あるごとに「朝鮮人の子が!」と酷い
言葉を我が子に投げつけたらしい。なんで親ってこうなんでしょうね。自分の勝手で産んで、う
まくいかないことは子供のせい。老いて病の床に就いた母親に対してもこのトラウマが抜けき
らなかったと懺悔するように記している。いいんじゃないのかな。そんな言葉を一時の感情とは
いえ、相手の心に突き刺した事実は変わらない。許せなくても誰も責めないと思う。母親が若
い時ならいざ知らず、老いても尚子供は子供、とばかりに自分よりアホよばわり、心をえぐるよ
うなことを平気で言って、忘れてる親もいる。私は一生許さないけどね。と、自分のトラウマまで
考えさせられた本でした。



「古代中国四大美女物語」(2009)黒田紀宏 著 −★ ’15/09/21読了
 いや、ひどい本に当たったもんである。今年ワーストワンかもしれない。
 そもそもタイトルに偽りあり、である。中国4大美女と言えば「西施、王昭君、楊貴妃、貂蝉」
であろうが、この本で採りあげられているのは「褒じ(女へんに以)、驪姫、妲己、西施」。それ
ぞれ1章ずつ与えられているのだが、何故か「3章臥薪嘗胆」という全く関係ない話が挟まれて
いる。そして哀れなのが「5章西施」では最後の1文に「申し遅れたが、かの西施は呉都姑蘇が
越軍に完全包囲された時自刃しはてていた。」申し遅れてどうする。この章の主人公なのに。
と、構成にかなり難有りな文章である。
 もっとおかしいのが、本文の合間合間に、日本が太平洋戦争でどれだけバカな振る舞いをし
たかを熱弁しているのである。古代中国と全く関係ないのに、である。「ここらが太平洋戦争を
起こした日本軍の将軍達とは大変なちがいだ。日本軍はミッドウェーの開戦で…中略…といっ
た中国古代の兵法を無視した結果である。」と、これなんかはまだしも、「殷の時代、奴隷は唯
一の生活力として活用されたが…」に始まり何故か日本軍もこれに似たことをしてきたと言い
だし「すべて日本軍の思いあがりと失政の結果である。」と締めくくっている。話の腰を折るどこ
ろか背骨までバキバキに折っている。
 そして本人が一番描写したかったことなのかもしれないが、とにかく美女と時の王とのベッド
シーンをこれでもかと描いているのだが、これがまたヘタクソな描写で、ポルノ小説だってもっ
と上手に描くのではないかというくらい。「アーッ!」「ウーッ!」がナンボでも出てくる。普通の会
話の中にも「ウーン!」「ホー!」と表現力の無さに辟易する。
 その他の突っ込みどころとしては、中国人の名前には全て日本語読みのルビが振られてい
る。「王」なら「おう」、「泰伯」なら「たいはく」。一つだけ何故こうなった?というルビがあった。
「寿夢」に「じゅんぽ」とあててある。中国語読みでもこれはない。どっちがどこから来たものか
わからない。
 文章は言うまでも無くへたくそである。
  「呉王僚の十一年(前五一六)、楚の平王が死んだ。
  「ウーン!」
  父と兄を殺した楚の平王に復讐するのが伍子胥の生きがいであったが、それを果たさぬ前
  に相手が死んでしまった。」
 この程度の文章である。なんじゃ、この「ウーン!」て…。
 さらにはこう書いてあった
  「日本は今自然災害に充あって困窮している北朝鮮へ食糧などを援助して平和条約を結 
  び、北朝鮮も誘拐した日本人を解放してはどうか。
   いつまでも遠交近攻の製作を取っているのは時代遅れであり、現在の日本は地球上す 
  べての国と仲良くし日本人の知恵を広げる事が日本の生きる道と思われる。」
 この人の頭の中にはお花畑が咲いているのだろう。
 読みながら、もしやと思ったが、さもありなん。どうやらプロのもの書きでも中国古代史研究
者でもないらしい。フツーにサラリーマンやってた人が定年後趣味で書いたものらしい。著者プ
ロフィールに「〜会社を59歳で定年。以降小説家を志し、創作活動に取り組む」…作家って自
称でなれるもんでしたっけ…。お願いだからこれ以上本は出版しないでもらいたい…。



「蒼い瞳とニュアージュ U 千里眼の記憶」(2007)松岡圭祐 著 ★★ ’15/09/20読了
 臨床心理士・一之瀬恵梨香再び!と思ったけど、前作よりスケールが落ちているような。恵
梨香の過去に焦点が当てられている。事件は車の密輸入、とたいした事件じゃないような。付
表だったのか、これ以降このシリーズはでていない…。Tがドラマ化されたけど、それも評判今
一つだったんじゃないでしょうか。私は深田恭子は悪くないと思うんだけど、相手役が萩原聖人
ってねぇ…松坂桃李くらいがよかったなぁ。それはさておき、残念でした。



「アルモニカ・ディアボリカ」(2013)皆川博子 著 ★★★ ’15/09/20読了
 18世紀ロンドンを舞台にした前作「開かせてきただき光栄です」の続編。盲目の検察官サ
ー・ジョンが天使の死体の謎に迫る!
 前作のエドとナイジィェルも出てくるし、ダニエル博士やかつての弟子たちも再集結で謎に挑
む。しかし冒頭ナイジェルの死から始まるのは残念だ。最後エドが新大陸へ向かった事を考え
ると続編はないのだろう。謎解きとしてはどうか、トリックとしてはどうか、正直出てくる人間全て
が事件の関係者ばっかりっていうのもご都合主義的ではあるし、謎が謎を呼んで、ちょいちょ
いサー・ジョンが整理するものの、なかなか入り組んでいて理解しにくい点も多い。とはいえ、こ
ういう近代英国王朝を舞台にしたシャーロッキアンにはたまらない香りが全てを赦してしまう。
(私自身はシャーロッキアンではないが)最近ヘンリー8世のテレビドラマ「The Tuders」を観終
えたばかりということもあって、イギリス史に飢えていた私を十分潤していただき光栄です、って
感じです。



「シモネッタの男と女 イタリア式恋愛力」(2013) 田丸久美子 著 ★★★ ’15/09/15読了
 いつものシモネッタ節炸裂の痛快エッセイなのだが、最後だけは不覚にも泣きそうになった。
最終章は「はかなき露の字にかえて」著者の親友・米原万里との最後の交流が綴ってあった
のだ。常々通訳とは鉄の心臓と頭の回転の速さがないとできないとは思っていたが、米原万里
はその代表格であろう。二人揃うと漫才コンビとよく間違われたそうだ。著者が相当なユーモア
の持ち主なので誰とであっても、その会話は笑えるのだが。どうか田丸氏には元気を出して米
原氏亡き後、通訳界の2台目エ勝手リーナ様ことシモネッタ様となってどんどん本を出してほし
いものだ。



「和僑 農民、やくざ、風俗嬢、中国の夕闇に住む日本人」(2012) 安田峰俊 著 ★★ ’15/
09/14読了
 日本人もわざわざ中国に行って住む人もいるのだなぁ…。というのが第一印象。ただ、普通
の人が行く必要はないわけで、そこは脛に傷持つ人々だったりする。持たない人もいるけど。
 とにかく読むと、私たちが「中国」と思って観ているテレビなどは中国じゃないんだな、中国っ
て…国か?という疑問さえ出てくる。
 しかし笑えたのは、警察が警察の役割を担っていない。警察から身を守るため日本のやくざ
を頼るのだそうだ。日本のやくざのほうがまだ優しいと。要するに義理人情があるってことなん
だろうな。まさに任侠の世界であるが、中国人は中国人に対してすら義理人情というものが発
動されないらしい。さすがとしかいいようがない。



「偽証裁判」(2015)アン・ペリー著 ★★ ’15/09/10読了
 スコットランドの裕福な女主人メアリ・ファラリンが高齢なためロンドンへ嫁いだ娘に会いに行
く間随行してくれる看護婦を募集していた。クリミア戦争でナイチンゲールのもとで働いた経験
をかわれ採用されたヘスター・ラターリィ。楽しい列車の旅になるはずが、一夜あけると夫人は
亡くなっていた。そしてヘスターのカバンから夫人の黒真珠が見つかり、窃盗目的の殺人容疑
で逮捕されてしまう。友人の私立探偵モンクと弁護士ラスボーンは必死に彼女の無罪の証拠
を集めるため奔走する。
 上下巻あるんだけど、上巻はだらだら話が進み、下巻になっても一向にヘスターに有利なこ
とは起きない。下巻の後半にようやくファラリン一族の謎や疑惑が明らかになり怒涛の展開で
一気にラストへ。というわけで、あまり構成はよくないなぁという気がするし、怪しいと思わせる
伏線も実は事件とは関係ない。こんな長い話にする必要があったのか。
 しかし解説を読んで驚いた。なんとアン・ペリーとは映画「乙女の祈り」(1994)でケイト・ウィン
スレットが演じたジュリエット・ヒュームだったのだ。私が知らなかっただけで、一部のミステリフ
ァンの間では常識かもしれないが。殺人事件を起こした当時は未成年で5年服役した後釈放さ
れている。その後、イギリスへ戻り改名して作家活動をしているというのだ。
 最近「元少年A」というのが、事件に関する本を出版し、HPを解説し、自己を表現し始めてい
る。殺人犯が物書きになる。それが許されるのか…という悶々とした思いが湧き上がってき
た。彼にはカウンセリングや保護士といった、事件後の彼を監視する措置が取られているのだ
ろうか。どうも目立ちたがりで、一回人生失っているんだから、もう一回くらい…と思っていても
不思議でないような恐ろしさを感じる。まず本名を名乗り、顔だししてからでないと彼のことは評
価できない、と思った。最後本の感想と関係なくてごめんね。



「鸚鵡楼の惨劇」(2013)真梨幸子 著 ★★ ’15/08/31
 で、真打真梨幸子登場です。
 1章1962年新宿十二社 2章1991年テレゴニー 3章2006年マザーファッカー 4章20
13年再現 5章鸚鵡楼の晩餐となるわけですが、時代的にもストーリー的にも要になるのは2
章。セレブ妻の沙保里は豪奢なマンションでエッセイストとして人気があり、夫と子供と何不自
由のない暮らしを送っている。もちろん、真梨節がここで炸裂。妬み嫉み、いろいろな憎悪が彼
女からも彼女の周りにも渦巻いているわけである。その他は誰が誰やらと言うくらい登場人物
もぞろぞろと多く、エピソードぶっこみすぎ。1章と5章は無理に帳尻を合わせた感じで、話が二
分されている様な気がした。沙保里の息子のその後が3章なのだけれど、彼の行動は意味不
明で余計な気がした。鸚鵡楼が舞台という無理やりなこじつけはなしに、それぞれ独立した話
にしたほうが、簡潔でよかったのでは。どうしても「更年期少女」との完成度と比べてしまうのだ
けど、人数とエピソードの整理をしてすっきり読ませてくれた方がドロドロ度も増したような気が
する。



「緑の毒」(2014)桐野夏生 著 ★★ ’15/0/8/28読了
 真梨幸子のドロドロした人間関係をうす〜くしたように感じた。出てくる人間が多いので誰が
誰やらとなってしまい、途中本筋がぼやけてきた。変態医師の破滅はわかっていることだが、
なんだかあっさりと終わってしまい、他の人の後日譚もなく…文章は読みやすいし、登場する
人物も次々増えて次はどうなるのか、と思わせるが読み終えると「あれ?」と肩すかしを食った
感じだ。



「蓮城三紀彦レジェンド傑作ミステリー集」(2014)★★ ’15/08/26読了
 名前はよく聞くが一度も読んだことがない作家なので、まずは短編集から入ってみた。綾辻
行人、伊坂幸太郎、小野不由美、米澤穂信が選出。ミステリと言えるのは入れ変えのトリック
があった「依子の日記」(綾辻行人推薦)くらいで、あとは恋愛小説のごときである。確かに文
章は上手いし、人の感情の機微をうまく言葉で表現している。ただ、私自身他人の惚れたはれ
たに興味ないので、そこはばっさりきって早く話を進めてほしい身としては、あまり面白いもの
はなかった。「花衣の客」や「母の手紙」は血のつながりにこだわりのある人なんだろうかと思っ
た。しかし伊坂幸太郎の推薦文は誇大広告が過ぎる。やはり伊坂幸太郎は好きではないとい
うことを再確認した。



「隣居 私と「あの女」が見た中国」(2014)田口佐紀子 著 ★★ ’15/08/23読了
 「あの女(ひと)」とは著者の友人宋瑾(そうきん)である。いまでは孫もいて北京で暮らしてい
る。宋瑾は共産党幹部の「お嬢さん」であったが、今では暮らしも楽ではない。それでも娘夫婦
と一緒に夫の介護をしながら仲良く暮らしている。その宋瑾と彼女のルーツを辿る延安への二
人旅である。
 もっと軽い旅行記かと思ったが、宋瑾の過去を辿ることは、中国の国家建国の歴史を辿るに
等しい重い旅だった。文革の話は他の本でもうお腹いっぱいである。お嬢さんで北京からきた
宋瑾と延安という田舎で必死に暮らしているタクシー運転手とのピントのずれた会話の方が面
白かった。お互いが逃げると思いガイド料を「先に払え」「後で払う」と言いあいになるのだ。今
の中国を象徴しているようではないか。宋瑾が「私はこれこれこいういう人間で騙すようなこと
はしない」と言えば言うほど、相手は疑うのである。そうやって肩で風切って歩いているような人
間こそペテン師であるとよく知っている海千山千のタクシー運転手に肩書きなぞ通用しない。つ
いに宋瑾は「私は共産党員だぞ」と言うと相手も「俺も共産党員だ」というのだ。お互い最も信
頼できない肩書きを披露するところがコメディかと思うが、本人たちは大まじめである。
 タイトルの「隣居」とはお隣さんであり、中国のことである。勿論著者も最近の中国の動向か
ら、とても危ない「お隣さん」と認識しているが、引っ越すこともできないのだから、どのように付
き合っていったらいいかは大いに考えるところではある。ことに最近起きた天津の大爆発事故
では未だ謎が多く、中国人が一番不安に思っていることだろう。情報統制というものに不満を
感じているはずである。文革時代に戻るのか、情報を開示して政権基盤を立て直すか、習近
平政権が試されているようである。(一方で政府が画策したテロ説もあるが)



「黒竜江省から来た女」(2008)永瀬隼介 著 ★★ ’15/08/19読了
 1995年12月28日千葉県小田部地区午前6時15分。鈴木家から出火、老夫婦が遺体で
発見されるも死因は、窒息死と鈍器で頭部を殴られたというもの。結局犯人は捕まらず。
 2004年4月1日中国妻・史艶秋は夫・茂に睡眠薬を飲ませインシュリン300単位を注射、
殺害を企てた。2006年2月東京の性感マッサージ店にて逮捕。繁は低血糖で植物人間状
態。2007年3月懲役15年が確定。
 というのが事件の概要である。この事件を通して見えてくるのは「日本の農家が中国の田舎
から嫁を買う」というルートである。日本の農家の嫁不足と、中国の貧しい地区から経済的に
恵まれている(と勝手に思って来る)日本へほぼ人身売買のように売られてくる女性。哀れと言
うほかない。嫁いで5年経てば帰化ができ、早速名前を詩織と改める。詩織と茂の間には火事
の後、男の子が二人生まれている。裁判で詩織は泣いたりわめいたり、一貫性のないことを言
っては無罪を主張するが、一つだけズレないものが二人の子供への愛である。「子供のため」
それだけを常に考えたというのである。
 著者は詩織の育った環境を取材すべく黒竜江省へ向かう。そこで驚くべき事実を知る。彼女
の出身地、方正県は小さな地方都市ながら、中国妻の一大供給地として知られているというの
だ。しかしジャパゆきさんが流行ったような理由からではなく、方正が「日僑の郷」だからという
のだ。第二次世界大戦後、ソ連の侵攻で多くの日本人は逃げ惑った。仕方なく幼い子供を中
国人に預けた。つまり残留孤児の里であり、日本へ帰った残留孤児と親戚関係にある中国人
も多いという。この地には「日本」という国に憧れ留学を志す者も多い。著者は「日本でアルバ
イトに夢中になりすぎて、犯罪に手を染め、人生を棒に振った留学生も数多くいます。すべて、
アルバイトで稼いだお金で遊びを覚え、大金が欲しくなって起こした事件です」とだけ助言した。
 詩織は家族のため身売り同然で日本に嫁いだ。当然のように夫に実家の援助を求め、茂も
200万円以上を詩織の実家に都合してやってきた。しかしこんな事件が起き、詩織の中国の
家族は離散、子供は詩織の知らないところに預けられているという。一体彼女はなんのために
日本にきて罪を犯したのか。方正という土地が悪いのか、安易に日本は金持ちの国と考え嫁
ぐ中国人の考え方が悪いのか…意外と詩織という女一人が悪いと断罪するには難しい事件だ
った。




「万能鑑定士Qの探偵譚」(2013)松岡圭祐 著 ★★ ’15/08/18読了
 「事件簿」シリーズの後にも何作かあるらしく、この「探偵譚」は前作と関わりが深いようで、ち
ょっとわからないところが多かった。
 波照間島へ帰って来た(この辺の理由が前作にあるらしい)莉子と小笠原は、樫栗芽衣と名
乗る女性と出会う。芽衣は「わたしは着服横領などしていない」と偽札一枚を残し去ってしまう。
どうやら偽札事件が発生しているらしい。彼女の疑いを晴らすため二人は動き出す。
 今回は蘊蓄も振るわず。むしろ「中国や台湾では「国」という感じは使わない」という間違った
蘊蓄まで披露。確かに香港や台湾では繁体字なので「國」なのだが、中国では「国」です。中国
というからには。何処から見ても目が合うという壁画のマーペーという女性像。モナリザとあれ
だけ対決して絵画にも精通している莉子がそのからくりに気付かないというのもおかしいな、
と。前作の理由から本来の力が発揮できない、ということではあったが、いつもの冴えがなくて
今一つであった。



「パンドラの娘」(2002)藤本ひとみ 著 ★★ ’15/08/15読了
 この人の小説は読んだことないのだが、何故か図書館でエッセイを見つけてパラパラめくっ
て見ると面白そうだったので借りてしまった。以下印象に残った項目の感想。
 「慎みに欠けるトイレ」…各国トイレ事情。プチトリアノンでありがたがって写真に収めた唯一
のトイレはマリーアントワネットが使用したものではなく、コンデ家所有のシャティイ城から移送
されたものらしい。なぁんだ…。
 「ギロチン女」…ギロチンというのは一見残酷だが、実は残酷さを軽減するために開発され処
刑器具なのだとか。それまでは手斧で、それも一発とはいかず、なかなかやる方もやられる方
も苦痛を伴うものであったとか。それを一発解決したのだから、確かに残酷ではない。しかしこ
の項目でなにが恐いって、著者自身が小学1年生の時、同級生の頭を斧でたたき割ったこと
がある、とヘーゼンと書きつづっていることである。餅つきの遊びをしていて斧を振り上げた瞬
間目測を誤り、斧を友人の頭に振り下ろした。よく死ななかったものである。友人は血まみれ
になって逃げ出した。本人はというと恐ろしくなって自分の家に帰ったものの、気を取り直して、
別の友人のところへ遊びに行き、夕方帰宅して死ぬほど怒られた、と。「決して悪気でやったわ
けではない。あれは、パリやロンドンの処刑人と同じで、手元が狂っただけなのである。」と結
んでいるが、友人はどうなったのだろう?まさか死んではいないだろうが…。7歳とはいえ、立
派な犯罪ではないのか…罪には問われないとしても本人に良心の呵責なくいけしゃぁと書きつ
づっていることが恐ろしいと感じた。
 「今どきの結婚式」…「私の住んでいる千葉というところは、冠婚葬祭が派手で、房総の方に
行くと、葬儀での際、いまだに「泣き女」を雇う」というところに驚いた。「泣き女」という中国の映
画を観て「泣き女」というのは中国の風習だと思っていたからだ。つい先日も葬式の話で中国
語の先生に「泣き女」はいるのか、と尋ねてしまったところだ。あぁ恥ずかしい。(先生の答えは
「田舎の方にはまだあると思う」とのことだった)
 その他のどれほどチョコレートが好きで消費量が多いかとか、騎士の称号を持っている、と
かそんなことはどうでもいいほどに、斧の事件の印象が強かった。全体に勿論お得意の西洋
史の蘊蓄もたっぷり入っているが、私の頭にはなかなか入らない。ともあれ、今度著者の小説
も読んでみようかな、とは思った。



「シモネッタの本能三昧イタリア紀行」(2009)田丸久美子 著 ★★★ ’15/08/12読了
 いや、もう抱腹絶倒のエピソード満載で、イタリア語なんぞからっきしなのだが、できなくて悔
しいと思うほどに、できたらさぞ楽しい旅行ができるんだろうなーと思える旅行記。
 彼女のエッセイがすばらしいのは、ちゃんと負の部分にも触れている。彼女のイタリア通いが
始まった1970年代からユーロ導入後の現代も貧富の格差はある。アルベロベッロという観光
地を独り訪れた著者は「案内してあげる」という少年の好意に甘え、いろいろなところを案内し
てもらった挙句連れて行かれたのは彼の家。つまり土産物屋だった。欲しくはないが少年の好
意に報いるため欲しくも無いものを3000円ほどで購入したという。(1000リラ60円ほどと考
えると破格の値段だ)その後マテーラという観光地を男の友人と回っているとどこからともなく
少年が現れ、案内役をかってでた。そして最後に案内料を要求してきたので友人が1000リラ
を渡そうとすると「おじさん、6000リラだよ」「何言ってんだ、これ以上はださないよ」すると少年
は大人の男を脇へ読んでなにやら相談すると友人から見事3000リラを受け取った。友人は
「女の人の前で恥をかくことはない、大きいところを見せてやれ」と言ったとか。その手腕を評
価して友人は6000という相手のいいなりは納得できないが、少年の心意気に3000リラで手
を打ったという。そこへ著者が同じようなことがアルベロベッロであり、法外な値段で土産物を
買った話をすると、友人に怒られた。
 「クミコ、君は二重の意味で間違っている。まず欲しくも無いものを買った時点で自分を裏切
っている。好きでも無いものを値切りもしないで買うのは”施し”でそれは野性動物にえさをやる
のと同じだ。彼は、金持ちからえさをもらうのを当然と考える様になる。今、俺はあいつと対等
に話し合って、彼の戦術や機転を認めたから金をはらったんだが、お前はアルベロベッロの少
年を憐れんだだけだ。お前の偽善的満足が少年の誇りを傷つけたことを自覚すべきだよ」
 う〜む、考えさせられる至言である。言い値を払うのでなく、交渉する事は相手を認めるとい
うことなのだ。だからやっぱり値切り交渉は悪いことではないのだ…と関西のオバチャン予備
軍としては納得した。



「エアーズ家の没落」(2010英)サラ・ウォーターズ 著 ★★
 かつて隆盛を誇っていたエアーズ家が所有するハンドレッズ領主館も、第二次世界大戦後す
っかり人がよりつかなくなり、母と娘、息子の3人がひっそりと暮らしていた。最近ベティという1
4歳の召使がやってきたが、具合が悪くなり、ハンドレッズのかかりつけの医者の都合がつか
なかったため、別の医者ファラデーがやってきた。ベティの病が仮病と看破したファラデーだっ
たが、彼の母はかつてハンドレッズ領主館でメイドをしていた。ファラデー自身も少年時代何度
か訪れたことがあった憧れの館の籠絡ぶりに驚くが、老いたエアーズ夫人や娘のキャロライ
ン、傷痍軍人の息子ロデリックと関わっていくようになる。そのころから館では説明のつかない
不思議な事件が続発し、館に住むエアーズ一家は追いつめられていく。以下ネタバレ含みます
ので、読まれる方はここまでで。
 納得いかないラストだったので、いろいろネット上の感想を読むとやはり最後は読者の想像
に任せるといった終わり方に納得いかない人が多かったようだ。同著者による「半身」のように
ラストはどんでん返しで科学で説明のつくことだったりするのかな、と思ったのだが、こちらはさ
にあらず。ジップというキャロラインのおとなしい飼い犬がカクテルパーティー中近所の子供の
顔を噛み、大けがを負わせ、哀れジップは処分される。日々のやりくりに領主として疲れ切った
ロデリックの回りでは身の回りの物が出たり消えたり、挙句には鏡台が迫ってきたり、そして謎
の発火により部屋がまる焼けになってしまう。これが元でロデリックは精神病院送り。火事の後
片付けをしていると壁に謎の落書きを発見。パーティー前に掃除した時にはなかったとベティ
が証言する落書きは「sssssss」とsの文字が連ねられている。キャロラインが生まれる前に病
没した長女の名前はスーザンといった。それ以来エアーズ夫人はふさぎがちになり…。
 これらはベティとファラデー医師がやってきた後から起こりだしている。なので、犯人がいると
すればどちらかなのだが、ベティはいずれの現場にも居合わせているし、原題は「The little 
stranger」である。ファラデー医師はかつて隆盛を誇ったこの館にかなりの執着を示している。
キャロラインとの婚約に心浮かれるも、一転キャロラインから婚約破棄が言い渡されると、異
常な行動に出る。キャロラインが死ぬ間際に言った「あなた」とは誰なのか?
 前述の理由からベティという意見とファラデーの生霊という意見の二つに分かれるところであ
る。私はファラデー推し。では原題の意味はというとlittle stranger は幼き日のファラデー医師。
私は生霊ではなく本当にファラデーがやったんだと思うが。ファラデーの一人称で語られている
のでそれはない、と思うかもしれないが、キャロライン死亡時、ファラデーは車の中で眠ってい
る。ジップの事件も火事もなんらかの薬品を使えば不可能ではなさそうだ。ベティではそんな仕
掛けを作る知識がない。ロデリックを精神病院に追いやったのは明らかにファラデーである。
エアーズ夫人の件だけが、説明つかないが、ひょっとするとエアーズ夫人が自死するというの
はファラデーの誤算だったのでは。連動的にキャロラインが婚約破棄すると言うのも誤算だっ
たことだろう。
 いくら考えてもはっきり答えは出ないのでこのへんにしておく。



「蒼い瞳とニュアージュ」(2003)松岡圭祐 著 ★★★
 臨床心理士・一ノ瀬恵梨香と内閣情報調査室の宇崎俊一というコンビの誕生。恵梨香は弱
冠25歳ながら万能鑑定士シリーズにも通じる蘊蓄で事件の手掛かりを拾っていく。宇崎はお
ぼっちゃまという財力と内調というちょっと変った立場を武器に警察の情報をも得られる。
 これもまぁまぁ面白かった。スケールが大きいのでドラマ化されていると聞いて、どんな風にド
ラマ化されているのかと思ったら、ドラマは大幅に話を変えたスケールの小さなものでした。松
岡作品は映像化難しいと思うんだが、できたらハリウッドにも負けないくらいの質のものができ
ると思う。しかしこのドラマに限って言えばあそこまで原作を曲げて作られたら「原作者」の看板
下ろすんじゃないか、と思ったが。「アマルフィ」は原作者がラストを変えたことから原作というク
レジットに自分の名前を使うな、と言ったとか。「アマルフィ」読んでないのでどれだけ変えられ
たのかは知らないが、こっちも相当原型をとどめていないぐらい破壊的に変わっている。登場
人物の名前だけ拝借したのか、と思ったくらいだ。まぁドラマの不満はこれくらいで。
 「催眠」「千里眼」シリーズははるか昔の読んでかなり面白かったんだが、スケールが大きく成
りすぎると逆に現実感なさすぎて(主人公もスーパーマンすぎると感情移入できなくなる)、離れ
て行ってしまった。が、万能鑑定士シリーズも面白かったし、また松岡圭祐のシリーズものを読
んで行こうかなという気になった。



「捏造の科学者 STAP細胞事件」(2014)須田桃子 著 ★★ ’15/08/03読了
 いわずもがなの事件だが、顛末は新聞報道だけではわかりにくかった。それを一気に解説し
てくれるのか、と思ったが…。どのように不正がなされ、捏造された温床などCDB、理研の甘さ
などは勿論、何故あのようないい加減な科学者が生まれたかという詳細も追ってはいる。しか
し小保方氏本人からの発信は一切ない。やはりどういうつもりでやったのか、という本人のはっ
きりした取材なくしてこの騒動の幕はひけないのではないか、と思った。この本もSTAP細胞は
ES細胞であった、小保方氏も再現不可能であった、という結果を待たずして出されている。何
故そんなに出版を急いだのか?著者が新聞記者なので、そんなに時間をさけないという事情
もあったかもしれないが、結果まできっちり追って欲しかった。



「テレビに映る中国の97%は嘘である」(2014)小林史憲 著 ★★ ’15/07/28読了
 2008〜2013年北京特派員として中国を取材した著者の見た真の中国。ということなんだ
ろうが…特に目新しいものがなかった。福島香織以上に踏み込んだ取材をしているとも思えな
い。というのも本人がテレビマンなので、まず映像ありきでないと話にならない。その点でペンさ
えあれば記事を書ける記者のほうをちょっと小馬鹿にした雰囲気も醸し出している。カメラかつ
いでりゃ嫌でも目立つので、思い切った踏み込みができないなどは言い訳としかとれないの
で、大変であってもそれは言わぬが花では。主に反日デモについて書いているが、ガス抜きだ
の管制デモだの、もう報道されつくしている。タイトルにある通り、その嘘を暴くとかもうちょっと
踏み込んだ取材をしてくれると読み応えあったのに。


「炎のごとく 写真家ダイアン・アーバス」(1998)パトリシア・ボズワース著 ★★ ’15/07/25
 映画「毛皮のエロス」を観て写真家ダイアン・アーバスに興味があったので、伝記を読んでみ
たわけだが…。とりあえず映画とは関係ないのはわかった。
 ダイアン・ネメロフは1928年ニューヨークの裕福なユダヤ人毛皮商の家に生まれた。14歳
で出会った青年アラン・アーバスと18歳で結婚。ファッション関係(雑誌のモデル写真)の夫
(実際は役者志望)を支えつつカメラの仕事をし始める。身体障害者や倒錯者(文章ママ。恐ら
く同性愛者のことかと。)の写真を撮り続けた。ひどいうつ病にさいなまれ自殺。享年48歳。
 この本に関して言えば、ダイアン以外の人の話が多い。ダイアンに少しでも関わった人の口
からさまざまな彼女の印象が語られるが、亡くなった後も一番近しい人々である遺族や本当に
関係の深かった友人などからインタビューは取れなかったのではないだろうか。元夫や子供た
ちからの話は少ない。しかも遺族の許可を取れなかったとかで、ダイアンの撮った写真は掲載
されていない。彼女に対する印象もあいまいに語られることが多い。
 「ダイアンはおとなしくて控えめだった。だが、こだわりなく親しみやすくしていたかと思うと、ふ
いに別世界の人間のように謎めいた雰囲気をただよわすこともあった。」
 「ダイアンは相手に催眠術をかけることができた。話しかけられると、相手もダイアンが自分
に感心を抱いているのと同じくらい彼女に惹きつけられるのだ。ダイアンはある種の磁力をも
っていたーーーピーター・パンのように。あんなことにぶつかったのは初めてだ」
と、かなり抽象的な語り方で、正直ダイアンという人物については全くわからなかった。
 ダイアンの撮った写真についても同様な表現でどういう写真だったのかわかりにくい。
 「熱っぽくて官能的な映像は、若いということが何を意味するかをひそかに語りかけてくるの
だ。警戒しつつ与えられた役割をアイロニックに演じて見せる子供たちの態度を巧みにとらえ
たダイアンの手腕は驚くほどである。」
 またこの伝記を書いた人の文章力を疑う文もある。
 「彼はウィルヘルム・ライヒの流れをくむ治療を受けた」これではどんな治療なのかわかりゃし
ない。表現といい文章といい、なにかと理解しにくい点が多く読み進めるのにかなり苦労した。
調べれば彼女の写真はネットでも見れるし、写真集も出ている(生前、ダイアンは写真集の話
を断り続けたということだから恐らく亡くなった後に出されたものだろう)ので詳しく写真を見れ
ないこともない。何故自殺したかということが、こんなに長いインタビューや記録をもとに「うつ
病」で片づけられることが一番の疑問だ。確かに離婚という痛手はあったろうが、それでも親し
い友人もいたし子供も母親も兄弟も関係は良好であったにも関わらず、孤独死を選んだという
のが解せなかった。これ以上に詳しい伝記もなさそうなので、謎はわからないままだろう。



「幻肢」(2014)島田荘司 著 ★ ’15/07/21読了
 島田荘司だから自然ハードルが上がってしまうのは否めない。どこに伏線がはってあるの
か、実はこれはこうではないか、と思いめぐらせながら読み進めていたのだが…なんと言うこと
も無く…特にトリックなどはなく、そのまま読み進めて行けば話は終わるというだけのものだっ
た。久しぶりの新刊だというのに話題にならなかったわけだ。映画化されるらしいけど、大した
映画になりそうもない。最近御手洗シリーズもドラマ化されたがこちらもあまり…な出来であっ
た。何故最近になって映像化にOKだしたのか。本格に戻って来てほしいものだ。



「逆さの骨」(2014)ジム・ケリー著 ★★ ’15/07/19読了
 イギリスの片田舎、遺跡発掘現場で男の骸骨が発見された。その場所が第二次世界大戦中
の捕虜収容所跡であった。人骨は脱出用トンネルの中にあったことから脱走兵だと思われた
が、その男は収容所の方向へ向かって這い進んでいたうえ、ピストルで頭を撃ち抜かれてい
た。新聞記者ドライデンは調査を開始する。
 英国本格ミステリだそうである。高尾慶子の本で再三取り上げられているイギリス人元捕虜
の件から、イギリスはさもそんなことしていませんといった印象だったが、なんだ同じことをして
いるんじゃないか。それもイタリア人捕虜のあとドイツ人捕虜を連れてきたらしい。イギリス政府
は彼らに詫びたというのだろうか?
 それはさておき、ストーリーの方はそういったイタリア人捕虜だのなんだと関係人物が多く、
昔の話もちょいちょいさしはさまれてなかなか話が進まない。もっとコンパクトにまとめられなか
ったものか。謎がわかるころには、こっちの頭が疲れて「ああそうですか」という感想しか持てな
かった。トリックとしていいものだったのかどうかわからない。
 原題は「Moon Tunnnel」といういいものだが、何故邦題はこうなったのか。原題の方が良かっ
たと思う。



「家族喰い 尼崎連続変死事件の真相」(2013)小野一光 著 ★★ ’15/07/18読了
 一番恐ろしいなと思ったのは、理不尽に他人から暴力を受けているのに被害を警察に訴え
ても「民事不介入」と取り合ってもらえないことだ。「北関東〜」もそうだが、とにかく警察って頼
りにならないんだなぁという印象しかない。角田美代子グループは赤の他人の家にずかずか入
り込んで暴力であっという間に支配してしまう。10年以上複数の家族から何千万円と巻き上げ
てきた。そんなばかな、と思うのだが、ここで警察が機能しないので、そうなるしかないのであ
る。所詮力を持っている方が勝つのか。しかし被害者側も暴力に屈せず、警察以外にも被害
を訴えるべきであったのでは。日蔭でしか生きられない人間は陽光の下に引きずり出すしかな
い。これでは中国を笑えない。法治国家とはとても思えない有様だ。角田美代子は消えたが、
同族は「そんなんようさんおる」という。この言葉にぞっとした。



「写楽殺人事件」(1986)高橋克彦 著 ★★
 これはストーリーはたわいもない殺人事件である。ネタバレしちゃえば殺されたのが篆刻書
家で、浮世絵の贋作によって富を得ようとした奴が口封じに殺した。というだけの話なのだが、
主人公は殺された人が持っていた浮世絵画集に「東洲斎写楽改近松昌栄」の一文を見つけた
ことから、お決まりのテーマ「写楽は誰だ」にストーリーは転がり込んで行く。残念ながらこれは
フィクションで結局誰でもないのである。ただ、写楽のみならず当時の浮世絵界や、浮世絵以
外の日本の絵画界と政界(幕府)との関係など蘊蓄はすごい量である。
 「写楽の名が高められたのはそんなに昔のことではない。明治43年、ドイツの浮世絵研究家
クルトによってレンブラント、ベラスケスと並ぶ三大肖像画家と位置付けられてから、逆輸入の
形で写楽の名は知られるようになった。クルトの評価以前は写楽は無名なのである。」
 「写楽別人説は一三人の作家や学者によりそれぞれが挙げた一三名以外、小説などでも取
り上げられ、三〇ぐらいになるのではないかと言われている。」(島田荘司もその一人だろう)な
どの蘊蓄もかなりある。
 本の大半は当時の浮世絵界と何故写楽がその名を残せなかったという謎にページが割かれ
ている。当時の情勢を調べた量は確かにすごいのだが、結局近松昌栄ではないのだから、
「写楽」につられて読むとがっかり感もハンパない。出版された当時でもすでに「写楽=能楽師
説」はなくなっていたとは。それがため何人もの人が写楽の正体を研究したが、未だに決定的
な人物はあがっていない。三億円事件以上のミステリではないかと思えるのだが。自分の中で
は「切り裂きジャック」と並ぶミステリーだな、と思っている。ミステリとしてのこの小説は後半は
西村京太郎ばりの鉄道によるアリバイ崩しで、全く興味がそがれてしまった。タイトルにだまさ
れた感だが、写楽に対する不思議な感覚は却って深まった。



「転がる香港に苔は生えない」(2006)星野博美 著 ★★★
 出版されたのは21世紀に入ってからだが、内容は1997年香港返還の前後を見据えて2年
間香港で暮らしたルポである。これを読むと「香港好きー。女人街冷やかして、アドミラリティで
ブランドもの買って、ペニンシュラでハイティーするの〜」など言えないくらいの、香港の底辺で
暮らす人々の渾身のレポートに圧倒される。
 返還に対する香港人の思い。香港人の香港人たる所以。そのアイデンティティは一夕一朝に
できあがったわけではないのである。私がなにかここでぐちゃぐちゃ書こうが、見た方が早そう
だ。しかし本当の香港とはそんなに簡単に見えるものでもなさそうだ。人を信用しないという香
港人の特色からおいそれと見えるものではないのだろう。それでも香港好きと言いたい私には
動かない夜景がお似合いな気がする。



「言葉を育てる 米原万里対談集」(2008)★★★
 ソ連崩壊時八面六臂の活躍を見せ、当時のマスコミが大変お世話になったであろうロシア語
通訳で、その後作家に転身し、エッセイから小説まで幅広く執筆。もちろんファンも多く、惜しま
れつつ2006年に世を去った米原万里を惜しむ声は未だ止まない。私など新刊はもうでない
ので、最後の一冊を超スローに読んでいるところである。読めないなぁとおもいつつ彼女の魅
力に負け、ちょっとづつちょっとづつ読んではいる。
 対談者は幼馴染から政治家、作家など多種多様。得るところも多かった。
 児玉清との対談では
「ロシア語学校に行って国語の授業の違いに愕然としたんです。朗読させて「今読んだところを
かいつまんで話しなさい」と。毎回。これをやられると読みながら中身をつかまえるのが習性に
なるんです。受身ではなく攻撃的読書」
 「翻訳教室はじめの一歩」で「受動的でなく能動的に読書する」とあったが、具体的にどうすれ
ばいいのか考えあぐねていたところで、なるほど、と膝を打った次第。
 作家西木正明との対談では
「そう、ビデ。バカなフランス人は何百年と別々にしていたため、うんこをお尻につけたまま便座
からビデに移動しなければならなかった。ところがこれを日本は合体させた。日本は天才だ
と。」これは誰の通訳が面白かったかと言う話で、エリツィンサハロフ、ポストーロヴィッチの名
があがり、なかでもチェリストのポストーロヴィッチが一番だというエピソード。
 養老孟司曰く
「一神教というのはどこか根本的に問題があるのではないかな。〜中略〜僕が仏教国が好き
なのは排他主義でないこと。余計なお世話はしない。自分が成仏すればよいのであって「お前
さん成仏しろ」とは言わないから」
なるほどなぁ、と思う。言われてみればいずれの一神教も自分以外の考え方を認めないと言う
色が強すぎる。だから争いになる。仏教国で争いがないわけではないんだけども。
 やはり出色はイタリア通訳田丸久美子氏との対談。これは言語学や論理、哲学など堅苦しい
テーマのなかで爆笑コーナーともいうべき対談。
 田丸氏の友人が米原万里はB型でないかというので、メールで田丸氏が聞いたところ帰って
来た返事が「人類を4つに分類するバカとは友達になれません。ちなみに私はO型です」。たま
たまそれを見た田丸氏の息子(「ドラゴン姥桜」にあったように開成から東大、在学中に司法試
験にまで受かったあの超エリート息子である)が「何なんだ、この尊大なヤツは!こんな奴こっ
ちからお断りだ!」とそこで田丸氏が「控えなさい。エ勝手リーナ様(米原万里の通訳仲間での
あだ名。因みに田丸氏はシモネッタである)ですよ!」すると息子急に静かになって「そうか。あ
の人なら仕方ないか…。」とネタには枚挙にいとまがない。
 残念なのは私の大嫌いな政治家との対談。米原万里は父親が共産党員で国会議員でもあ
ったのでゴリゴリの共産党かと思っていたら、なんと民主党寄りであった。米原万里の新たな
側面を見た思いだ。あと糸井重里との対談は…全く面白くない。糸井重里なる人物をよくは知
らない(コピーライターあがりということくらいしか)のだが、対談の内容が他の人と比べて格段
に落ちる。薄っぺらい人間なのかなぁと思えた。
 あとがきにかわって米原万里の弟子のようなロシア語通訳者黒沢幸子氏が「素顔の万里さ
ん」をよせている。そこには楽しいだけじゃない、ちょっと悲しい話も入っていてそちらも米原万
里の違った側面を見て涙する人もいるかもしれない。



「養鶏場の殺人/火口箱」(2014)ミネット・ウォルターズ著 ★★★ ’15/06/23読了
 久々のウォルターズは期待を裏切らなかった。コンパクトな中編も物語の話運びがスムーズ
で核心に向かってまっしぐら。一切の無駄がなく物語に入り込める。
 「養鶏場の殺人」は実際にあった事件の謎に迫った。最後に作者の事件の見解が示してあ
る。なんとなく日本にもありそうな話だな、と思ったが。横溝ほど猟奇的ではないが、狭い地域
の閉鎖的習慣の暮らしのなかでは起きかねない事件だ。
 「火口箱」はフィクションであるものの、やはりせまいイギリスのコミュニティのなかで「誰それ
さんの家は…」「あの家の息子は…」といった噂を気にして暮らす日常に、やはり日本にもあり
そうな話。違いは「イングリッシュ」「アイリッシュ」といったことくらいか。本音をいわず誤解が誤
解を招いたなどというものも日本・外国を問わずあることだなぁと感じた。衝撃のラストはミステ
リらしくてよかった。



「インタビュー・イン・セル 殺人鬼フジコの真実」(2012)真梨幸子 著 ★ ’15/06/21読了
 前作の続編ということではないのだが、前作を忘れてしまっているので、ちょっと繋がりがわ
からなかった。続編として読まなくてもフジコという殺人鬼がいた、ということを頭に入れておけ
ばまぁ読み進めることはできる。ただ、真梨幸子には「更年期少女」という傑作を読んで以来、
それをしのぐ作品を求めてしまい、今回もそれには及ばなかった、と思わざるをえない。今回
は群像劇のようになっており、加害者被害者入り乱れて登場人物が多すぎるので、もうちょっと
整理しやすい話運びのほうがわかりやすかったかな、と。それにしてもあまりのめり込めるよう
なストーリーでもなかった。



「その女アレックス」(2014)ピエール・ルメートル著 ★★★ ’15/06/20読了
 フランス発2014年版「このミステリがすごい!」ぶっちぎりのダントツ1位とくれば期待するな
と言う方が無理というものでしょう。図書館でも200人待ちだったような。で、待ち切れずに古
本で出会ったのでもう買ってしまいました。新作に飢えていたのもあったし。
 30歳看護師のアレックスはパリに住み独身生活を楽しんでいた。ところがある晩いきなり殴
られどつかれ拉致監禁される。何故?どうして私が?当然の疑問と殺されるかもしれない恐怖
に怯えるアレックス。誘拐犯は平然と彼女に殴る蹴るを加え、疑問に一切答えることなく檻を作
り、アレックスを閉じ込める。その際一言だけ質問に答えた「おまえだからだ」
 誘拐を目撃した市民の通報で警察も動き出す。妻を誘拐、惨殺された(事件は未解決)カミ
ーユという刑事は復帰して間もないにもかかわらず担当させられた事件がまたも誘拐。妻の時
のように最悪の結果は避けたいと思うものの、捜査はなかなか進展せず。一方アレックスは拷
問に耐え、なんとか生きようとくじけない気持ちを保つのに必死だった。
 アレックスとカミーユが交互に描かれる。「イニシエーション・ラブ」や「葉桜の季節に…」のよう
などんでん返しがくるのか、どこであっと言わせてくれるのか、と想像を膨らませつつ読んで行
った。結果的にはやはり期待が大き過ぎたというか…。カミーユを主人公にした警察物3部作
の2作目ということもあるのかもしれないが、カミーユの妻以外の情報はいらなかった(画家だ
った母は自殺している。とか最近亡くなった父の遺産相続の手続き云々)。かなりページを割
いているのでそれも事件と関係しているのかと思った。魅力的な主人公ではあるが。ネタバレ
してしまえば、すべてアレックスの復讐譚なのだが、何故今なのか、何故本人には冤罪という
復讐を選んだのかなど、疑問は残る。彼女の子供時代に受けた虐待は北欧ミステリのリスベ
ット(ミレニアム3部作のヒロイン)を想起させた。ヨーロッパの児童虐待や福祉の不整備はそ
んなにひどいのか?アレックスの人生を思うとイヤミスではないと思うのだが、読み終えても暗
い気分にしかならない。とはいえ、途中のスピード感で転がり続けるアレックスという女の謎は
確かに面白かったと思う。1作目が最近邦訳刊行されたようなので、そちらも評判次第では読
んでみたい。




「万能鑑定士Qの事件簿\」(2011)松岡圭祐 著 ★★ ’15/06/15読了
 これが読みたかったのだ。映画化された時に「日本のダ・ヴィンチ・コード!ルーヴル美術館
を借り切って撮影」などのあおり文句で、では原作を、と思ったらシリーズ9作目。と言う訳で1
から読んできたのだが、やっと辿り着いた。
 モナ・リザ展が日本で開催されることになり、日本側のスタッフに莉子が抜擢。フランスでの
試験に合格した彼女は日本で開催まで研修を受けることに。一方小笠原はあるヨーロッパの
王族の休暇に独占取材を餌に貼りつくことに。研修期間中、莉子は鑑定眼に異常をきたす。
 結論から言うと「日本のダ・ヴィンチ・コード」は言い過ぎ。シリーズのスケールからするといつ
も通りなのだが、映画化のせいで期待が大き過ぎたようだ。映画のタイトルがサブタイトルに
「モナリザの瞳」とあったので、モナリザの絵にまつわる歴史的な謎でもあるのかと思ったら…
全く方向違いであった。小笠原の王族休暇取材事件と莉子の鑑定眼が狂う事件が全く平行に
進んでいったのが一つに交わるところでは、流石!と納得はするが。しかしそんなことに鑑定
眼をもった莉子が気が付かなかったのか?という疑問も残った。
 今回これといった蘊蓄はなく、得るものはなかったが、代わりに小笠原と莉子の関係が縮ま
り、ちょっといい雰囲気の終わり方だったんでよしとしよう。まだシリーズは続いているようだ
が、これで卒業したい。



「万能鑑定士Qの事件簿Z」(2010)松岡圭祐 著 ★★ ’15/06/13読了
 小説盗作事件、宝石喪失事件、脱税に絡む金塊事件などを絡め次々颯爽と事件を解いて
行く。スピード感があってかなりよろし。今回の蘊蓄では「X'mas」表記が間違い(Xはギリシャ語
のカイ、masはミサ。英単語ではいので省略はない)というのを知らなかったのでタメになった。
その他はちょっと…本当か〜?という眉唾ものが多かった。



「中国のマスゴミ ジャーナリズムの挫折目覚め」(2011)福島香織 著 ★★ ’15/0612読了
 報道関係者がどれだけ事実を伝えようとしても、当局が「ダメ」と言えばそれまで。なので記
者はヤミ炭鉱などで事故が起こればすぐさま駆けつけ口止め料を請求するという。要するに記
者とは強請である、と落ちるとこまで落ちたまさに「マスゴミ」に何を期待できようか。
 しかしそんな現在のマスコミではあるが、過去真実を報道しようとがんばった歴史や、ネット
の台頭により、当局のかん口令よりはやく、報道が大衆に広がっていくという時代の変化によ
りこれからはマスゴミからマスコミヘと変りつつあるところに希望が見出せる。ただ、やはり当
局が姿勢を変えない限り、見つかれば冤罪、投獄、拷問など記者を待っているのは闇以外な
い。まぁがんばってほしいものだ。
 面白かったのは著者の「中央に報告をしていないのだから、中央の方針もくそもない」といっ
た一文に著者の怒りが読みとれた。著者も中国のマスゴミ状態に怒っているのだ。でも一番怒
っているのは当局でも大衆でも無く真実を訴えることのできない真のジャーナリズムを持った
中国の記者であろう。



「翻訳教室 はじめの一歩」(2012) 鴻巣友季子 著 ★★★ ’15/06/09読了
 テレビ番組「ようこそ先輩」の書き起こし。小学生に翻訳とはどういったことか、という概念か
ら教える。まず必要なのは想像力。外国語のものを日本語に訳すのだから訳者本人に想像力
はいらないかというとそうではない。作者の意図、物語の中の人物の気持ちを想像できなけれ
ば翻訳はできない。まず、電車を主人公にした短い作文を書かせる。小学生なので自由だ。
電車になった気持ちで走る喜びを書く子がいれば、景色を楽しむ電車、色々な時代を生きてき
た電車の気持ちなど子供によってかなり自由な作文ができあがる。
 さて、本題の翻訳は邦題「ぼくを探しに」原題"The missing pease"。人ではない何か丸いもの
が足りない何かを探して旅をする物語。これまた小学生は自由に訳す。というか絵本なので絵
を見ながらほぼその絵にでてくる"it"の気持ちを考えてセリフにしていく。やはり翻訳というより
そのモノの気持ちを考えるということが大切なのだ、と教えているようだ。
 「いい訳をするにはよく読むこと。いい訳ができないということは、よく読めていないということ」
にはドキっとさせられた。読めてない。自分はまさにこれに当てはまる。そして受動的に読むの
ではなく、能動的に読む。苦手と思う分野の本も積極的に読んで行く。どれも深く胸に突き刺さ
ることばかりだった。



「万能鑑定士Qの事件簿Y」(2010)松岡圭祐 著 ★★★ ’15/06/06読了
 主人公凛田莉子のライバル出現。とはいえ、最後には莉子が勝つ。前半は全く目的のわか
らない謎に読者も振り回され、どう考えてもわからないのだが、わかってしまうと「なぁんだ」と言
う程度の謎だった。
 今回の蘊蓄はCanonの日本語表示は「キヤノン」になるとか、東芝エレベーターの階数ボタン
をキャンセルするには二回押せばいいとか(東芝に限らず日立、三菱、松下も同様。他のメー
カーは5回連打とか、長押しなどもあった)、高知市では交差点にアルファベットを振り分けてい
る(これは本当)などだった。しかし「松島では洪水に備えて「高い建物(例えば歩道橋など)ま
で○○メートル」などの表示がある」というのは、この作品は2010年の発表なので、今は東北
地方にはもっと増えてるのではないかと思う。技術や社会の進歩によって鑑定家は蘊蓄を
日々勉強しなければならないのだなぁ、と妙なところで感心してしまった。まぁ日常使えるのは
エレベーターくらいか。シンドラー社だったらどうなんだろう。海外ではシンドラーが多いと思うの
だが。まぁそれはともかく、読みやすくて蘊蓄もたっぷりで、人が死なないミステリで、あっという
間に読めるのでお得感のすごい本である。続きが楽しみ。



「チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男」(2012)遠藤誉 著 ★★ ’15/06/4読了
 まだ記憶に新しい将来中国共産党の核となりえた重慶市書記だった薄煕来失脚事件を本人
の生い立ちからさかのぼって人となりを追っていく。そして本人の失脚の引き金となった妻・谷
開来のイギリス人殺人事件もひも解いて行く。しかし正直最後の章で書かれた世界経済を覆う
チャイナ・マネーに慄然とさせられる。日本を買い占めるくらい朝飯前の財力を持った日本人
口に匹敵する中国人富裕層。チャイナ・マネーが引き起こす恐怖を考えると薄煕来などどうで
もいい前座でしかない。筆者は中国に生まれ、中国共産党の動向をずっと追って来ただけあっ
て、真に迫ったレポートであるが、谷開来事件においては全て推測だし、薄煕来の失脚など現
在においては過去の出来事で、大した問題ではない。それより日々中国富裕層がにぎわせる
爆買いのニュースは世界中で起きている。最終章にもあるように各国が永住権を切り売りして
いる。金さえ持ってくれば入れてやるよとカナダ、アメリカのみならずイギリスまでもが中国人の
金を目当てにし出しているのだ。どこまでいくのか中国富裕層。そっちの疑問が恐怖とともに膨
らんで行った。



「未解決事件 死者の声を甦らせる者たち」(2011)マイケル・カプーゾ著 ★★ ’15/06/02
 アメリカでは未解決事件を少しでも警察の捜査の助けるべく「ヴィドック・ソサエティ」という専
門家有志による未解決事件専門の研究機関がある。その創設者の核となる人物3人元連邦
捜査官フライシャー、プロファイラー心理学専門家ウォルター、法医学アーティスト(ドラマ
「BONES」のアンジェラのように骨から生きている姿を復元する)ベンダーに焦点をあてたノンフ
ィクション。
 しかし小説的な装飾的文章が多くて辟易する。「一方、モルペウスは英雄たちに関する洞察
力に富んだ夢を織り成した」「まるでごーすと・ハンティングでもしているような、あるいは聖人の
像が血の涙を流すのを待っているような気分だった」事実と関係ない文章を除けばもっとペー
ジ数は少ない本になっただろう。
 何故か時系列に事件を並べず幾つもの事件をバラバラに進捗状況もバラバラに並べるので
読みにくいことこの上ない。何故このような構成にしたのか首をひねる。
 で、結局このヴィドックソサエティのおかげで未解決事件が解決されたのか、警察の捜査に
進展があったのか、顛末まではっきり書かれてるものは少ない。書かれているものもあるが、
どうやって動かしたのか、など詳細は書かれていない。そこが一番知りたいところなのだが。
 一つ気になったのは切り裂きジャックの犯人はヴィドックソサエティの結論はモンタギュー・ド
ルイッドだが、それが何故かも書いてない。こちらは理由も何もなくただ一文だけなので、是非
それも教えてほしいところだ。



「シモネッタのドラゴン姥桜」(2011)田丸久美子 著 ★★★ ’15/05/30読了
 抱腹絶倒の子育て経験談。イタリア通訳の著者の一人息子は開成→東大→司法試験合格
と絵にかいたようなエリートコースまっしぐら。本にあるように紆余曲折大変だったことも多々あ
れど、所詮デキる子なのだ。そこらのガキと頭の作りが違うと言えよう。
 やはり著者のユーモアも素晴らしいが、その母に育てられかつ頭もよい息子との会話は漫才
のように面白い。
 「私は我が家を「旧息子の下宿」から格上げ、旅館「母の鑑屋」に形態変更した。
 「母の鑑屋」のどこがいけなくて最近ご宿泊いただけないのでしょう?」息子は「うむ、ここは
女将が年をとるすぎておるでのう。」そう言って風のように去って行った。」
 「司法試験合格の快挙を友人に知らせると「やはりあなたの息子ねぇ。とんびがとんびを産ん
だのよ」私は「トンビが鷹を産む」の諺を復唱して意味を考え込んだ。帰宅した息子に訴える。
「ねぇ、うちらとんびの親子みたいよ」息子は即答した。「高(鷹)望みはよせ!」
 一事が万事この調子で面白いことこのうえない。勿論本として面白く書いているのであって、
当時は慌てふためくことも多かっただろう。しかし高橋由佳里の一人息子ケナン君(日土ハー
フという特殊環境もあるが)、逢坂みえこの一人息子ハルくんといい、作家の一人息子とはこう
も面白いものかと、子供を持っていない自分でも笑える。「そうそうそうなのよ」と共感こそでき
ないが、そんなことがあるんかいな、という意外性と所詮他人事という無責任さでもって、人の
子育てほど面白い実話は無いと思うのだ。最終的にうまく育ってくれてよかったものの、積み木
崩し的な結果となれば本にもなるまいから、それは各家庭によりけりなんだろうが。自分の子
供がこんなにユーモラスに優秀に育つわけもないので、やはり子供欲しかったなぁとならない
のもいい。ここまで絵にかいたようなエリートそうそう生まれまいよ。特に著者は放任だったとい
うから、そうなると自分から勉強するかグレるか極端に分かれることだろう。著者は我が子が
周りに流されやすいということだけを把握したうえで進学校に入れ、見事成功したと言えるだろ
う。やはり先見の明があるというか、著者本人も生き抜く頭の良さは持っているのだ。子育てに
関しては「ジ・エンド」となったが、イタリア通訳のよもやま話の次回作が楽しみである。




「オタクの息子に悩んでいます 朝日新聞「悩みのるつぼ」より」(2012)岡田斗司夫著 ★ ’15
/05/26読了
 新聞の悩み相談のコーナーをまとめたもの。回答者である著者の回答の作り方、考え方。あ
まり参考にはならなかったが、悩みというのは絡まりあっているから”るつぼ化”するのであっ
て、ひとつひとつひも解いて分解していけば、案外単純なものだと言う。そこだけ参考になった
かな。所詮他人の悩みなどどうでもいいというか、興味ない。新聞なんぞに投稿して解決する
悩みなどたかが知れていよう。とはいえ相談する人はひきもきらないというのは、やはり誰かに
助けてほしいという窮地に陥っている人がたくさんいるということだな。



「もうひとりの孫悟空」(2001)李馮 著 ★ ’15/05/19読了
 短編6話。いずれも中国の既にある文学のパロディーというかアナザーストーリーというか。
「もうひとりの孫悟空」 : タイトル通り「西遊記」のパロディ。
「英雄武松としての俺」 : 「水滸伝」のパロディ
「十六世紀の売油郎」 : なんだか知らない中国の古典
「牽牛」 : 七夕伝説より
「贋「マテオ・リッチ」日記」 : 中国における東方見聞録的な記録書から。
「唐朝」 : 何がベースかわからないが、日本にはおなじみの阿倍仲麻呂登場。
 中国現代文学とはどんなものか、と思ったのだが、なんだかストーリーもあるようなないよう
な、哲学的な表現で(「アルケミスト」でも感じたような)、どう解釈していいのかわかりかねるも
のばかりであった。「唐朝」に「私は中国が好きです。また必ず中国に帰ってきます。」という文
があって、唐の時代の話なのだから「中国」と言わず「唐」というのでは?と疑問に思う文もかな
りあった。特に作中いきなり作者が「注釈」と言ってしゃしゃりでてくるのが気に食わなかった。
意味がわからないのだ。作者は16歳で大学に進学したという”天才”らしいので、文章が下手
というわけじゃなく、高尚すぎて自分には理解できなかったのだ…と思っておこう。



「名画の言い分」(2011)木村泰司 著 ★★ ’15/05/16
名画は見るものでなく読むものである。歴史や宗教を知って描かれている内容を読め、と。そ
うだろうか…やはり自分はもっとラクに見ていいものだと思うのだがギリシャ神話なんぞ何べん
聞いても理解できないし。ゼウスが頂点以外知らない。奥方のヘラがゼウスの浮気相手のナ
ンチャラをナニしてできた子供アポロンだかヘラクレスだかエルメスだか…とにかくこんがらが
ってわからない。そんな背景知らなくてもヴィーナスの絵を見てああ、きれいだなぁではいけな
いのか。「神話画に天使は出ないし、宗教画にキューピッドはいない。」これはわかったが。歴
史的背景は知らないけど、風俗画などは当時の生活がわかって面白いと思う。描かれた当時
の人々が見たのはまた違う意味だろうが。
 文庫版で読んだので、口絵カラーが小さすぎて見えない。せめて一つの絵に一ページは欲し
かった。



「万能鑑定士Qの事件簿 X」 松岡圭祐 著 ★★★ ’’15/05/12読了
舞台をパリに移し、高校時代の恩師喜屋武先生や同級生だった楚辺などが新たに加わり、莉
子達とドタバタ推理劇を展開。楚辺の勤めるパリの有名フランス料理店で食中毒事件が発
生。食品の品質・保存に抜かりはなかったはずなのに何故。観光&勉強のため来た莉子と莉
子を心配して付き添って来た喜屋武先生も食中毒の謎に挑む。
 一冊ごとに完成度が増しているような気がする。グリーンピースみたいな一見平和主義を唱
える団体などは何故か極端に走る。動物を保護するためなら人間は傷つけてもいいとか。鯨
やイルカか可哀想というなら鴨のフォアグラはどうなのか…。非人道的なことしてまで食べる必
要あるものなのか…およそ人間が道楽のためにしか食べないものなのに。確かに矛盾を感じ
た。今回の蘊蓄で頭に残ったのは、1810年に缶詰が発明されたが、缶切りが発明されたの
は1858年、というものだった。



「万能鑑定士Qの事件簿 W」 松岡圭祐 著 ★★ ’15/05/10読了
 映画のポスターを狙った放火事件が多発。警察の目の前で反抗がなされてしまう。目的は全
く不明。鑑定士・凛田莉子の推理が冴える!
 別シリーズの主役(「催眠」シリーズの嵯峨だけども未読のためよく知らない)も出てくる。今
回は余計な蘊蓄が少なく謎に専念できた。蘊蓄も多すぎると頭をスルーするのが残念な面もあ
るがほどほどにしておけば頭に残りやすい。今回の蘊蓄は韓国のエレベーターは「4」が「F」に
なっているということだった。本文にあったように日本と韓国は景色が似ているので違いを知っ
ておいて損はないと思った。肝心のストーリーはちょっと脆弱だったような。薄い本だからこの
程度でいいのかもしれないが。



「ポイズン・ママ 母・小川真由美との40年戦争」(2012)小川雅代 著 ★★ ’15/05/03読了
 小川真由美と細川俊之の間に生まれた娘(私と同い年だった…)の母に振り回された半生を
綴った自伝。確かに母親はひどいというか、常識がないのだが、それが嫌なら何故反面教師と
して自分はああはなるまい、しっかりしよう、と思わなかったのか。高校中退したのは人のせい
でもなんでもない。母親のせいでいじめがひどかったとか言っても、自分自身がいじめの原因
となった子役などいくらでもいるし、ましてや何の原因もなくてもいじめにあう子供が多い昨今。
とにかく不幸は全て人のせい、自分かわいそう、母はひどい、と言っているだけに思える。しか
しこの人もしっかり母の血を継いでいるのではないかなー、と思うのは男が切れないところであ
る。常に男といて、またその男がDVだとかで可哀想な自分が現れる。そういう人を振り切って
自分一人で生きて行こう、という気概がもてないものか、とイライラしか感じ取れない。
 それにしても最近「毒親」というか親の呪縛から逃れられないアダルト・チルドレンとかそうい
った告解の本が多いような気がする。そりゃ自分の親だもの良くも悪くも影響受けているだろ
う。そこから自分を確立するのがそんなに難しいのだろうか。「自分」ってそんなにたいそうなも
のか?とそういう本を読むにつけ思ってしまう。いろんな人に影響され、いろんな自分がいて、
場面、岐路において自分の中にあるものを取捨選択して生きて行く、それが人生ではないのだ
ろうか。その場合に母の影響があまりに大き過ぎて偏った判断しかできない、ということなのだ
ろうか。翻ってみるに自分の周りにはそんなに個性の強い人がいないなぁ、と思いつつ…い
た。自分の母だ…。自分もそうなのかもしれない。



「血痕は語る」(2001)坂井活子 著 ★★ ’15/05/02読了
 「北関東幼女連続誘拐事件」からのここ。「足利事件」で有罪の証拠DNA型鑑定をした人であ
る。しかしこの本には基礎からDNA型鑑定のことが詳しく書いてあるが、足利事件については
全く触れていない。
 「DNA型鑑定とはあくまで型を分類するもので、血液型鑑定となんら変わらない。指紋のよう
に個人特有のものでない」「DNA型鑑定とは捜査を補佐する役割しか担えない。ここを間違え
るといつかとんでもないことが起きる。私はそう危惧している…。」これらがせめてもの言い訳
か。先の「北関東ー」ではばっちり物証として挙がっていること、そもそもDNA型鑑定自体があ
やふやで間違っていたことなどが書いてあるのだが…その点にも全く触れていない。この人の
役割とは鑑定結果を出した後は間違っていようが、証拠として採用されようが、全く関係ないと
いうスタンスなのだろうか。間違えておいてそれはないのではないか。せめて「もう一度検査し
てみます」くらいの誠意はなかったのだろうか。
 警察の捜査は横に緊密であり、一つの事件が起これば情報は共有されるとも書いている。で
は何故「北関東ー」は連続誘拐とみなされなかったのか。県境の土地だったため、情報が共有
されなかったのが原因と本にははっきり書いてあったが。大体この人は捜査には一切関わら
ない、科警研で鑑定しかしない人が警察の捜査状況など知っているとは思えない。最後には女
性が社会で活躍するためには、みたいな上から目線の説教もあるが、なにをかいわんやであ
る。「ごめんなさいがいえなくてどうするの」被害者遺族の言葉はやはり届かないのか。



「シモネッタのアマルコルド」(2013)田丸久美子 著 ★★★ ’15/05/01読了
 通訳の裏側が面白いということのみならず、この方の当意即妙な受け答えもすばらしい。
 日本語ではおなじみのフレーズも日本人相手にならわかっても、異文化の国の人にはわか
らなかったり、失礼にあたったり。そういうきまりきったフレーズに対する訳は最初から用意して
おくそうである。「考えておきます。」「おつきあいということで。」など。意味はNOだが、イタリア
人も同様に興味がないときは「考えます」とか「状況を見てみます」などと言うらしい。
 特に雑学がないと言葉を訳すというのは務まらない。文化が違えば言い回しも違う。この諺
はこの国ではこういう、くらいの準備はもちろん、日ごろから日伊の諺をリストアップしておくと
有利に使えるとか。その点中国語はヨーロッパ言語より楽かもしれない。4文字熟語は中国発
祥が多いし、意味もほぼ同じ(臥薪嘗胆、呉越同舟など)。ただし2字熟語になると両国で意味
が違うというものが多くなって困るのだが(「迷惑」は中国では「戸惑う」と言う意味で日本語の
迷惑の意味はないと最近知った)。閑話休題。
 日ごろから通訳という仕事の大変さを痛感している著者としてはプロとして「通訳」の意味にも
敏感になる。日々これだけ奮闘しているというのに、ちょこっとその国に暮らして言葉を理解で
きるようになったからといって「通訳くらいできる」と言ってのけられると、「なにをー!?」といき
り立ってしまう。むべなるかな、この本を読んで通訳の大変さを知れば外国語がどれほど堪能
になろうと「通訳できる」とだけは言うまいと思った。私のレベルでは何処まで行っても通訳など
できないのは身にしみてわかっているが。
 なかでも面白かったエピソードはある農業関連の会議の同時通訳をしたときのこと。著者は
「農民」という言葉に抵抗があったため「農業従事者」と訳したものの交代したパートナー(会議
では一人だけではなく数人で通訳を組む。15分〜20分ずつ交代で通訳するためである)が
「百姓」と訳してしまった。差別語ではないかと焦った著者は百姓という言葉の上に×印をつけ
差別語と書いたメモを渡した。するとあろうことかそのメモをそのまま読んでしまった。「百姓と
いう差別語は…」ブースで泡を吹く著者。ここまででも爆笑モンだが、その後がまた面白い。百
姓はまずかろうと言う著者に若いパートナーは「なんで百姓が差別語なの?」「自分で言うには
いいけど人に言われるのはいい気がしないんじゃないかしら。ほら「水呑み百姓」っていうし。」
「え?百姓が水を飲むの?」「マリー・アントワネットみたいなこと言わないでよ。」「マリー・アント
ワネットって百姓なの?」「……とにかく「亀の甲より年の功」。年上の私の言うことを信じて「百
姓」は使わない方がいいわよ。」「亀?農業に何の関係があるの?」もはや日本人同士のほう
が会話になっていない。
 もう一つ面白いエピソードは税関をやりこめる話である。かつて海外旅行が高嶺の花だった
時代、お土産をたんと頼まれることがあった。税関で「密輸といってもいい量だ。所定の関税を
払え」と迫られると「あなた、日本政府がイタリアにいくら借款してるか知ってる?全部私たちの
血税よ。そういうことは借りたものをきれいに返してから言ってちょうだい」と言えば係官は「は
っはっはっ」と笑って釈放してくれたそうだ。あるときは史実を訴えた「イタリアは三国同盟で共
に戦ったのに、早々と連合軍に寝返った。挙句原爆を受けて疲弊しきった日本から戦後賠償
金を奪っていったのよ。そのくせドイツには一銭も要求しなかった。賠償金要求したいのはこっ
ちのほうよ!」こう啖呵を切ると係官はトランクを閉めて返してくれたそうである。史実を正しく
知っているからこその切り返しである。
 いやもうこういうためになって笑える話がいっぱいで、この人の本はますます読みたいと思う
し、米原氏が早逝された分までどんどん書いてほしいと思う。




「サイレント・ヴォイス 行動心理捜査官 楯岡絵麻」(2012)佐藤青南 著 ★★ ’15/04/25
 久しぶりにフィクションのミステリ。ノンフィクションばかり読んでいたせいか、フィクションを読
むとリアリティがなくてつまらなく感じてしまった。
 刑事楯岡絵馬は通称エンマ様。心理学を駆使し、取調室で容疑者を次々と落としていく。
 だけの話。と言っては身も蓋も無いが。普通は事件発生、捜査、容疑者特定となるのだが、
容疑者を取り調べるところから始まるので、半分落ちてるようなものではないか。犯人を取調
室まで持っていくのが大変なのに。心理学用語が沢山出てくるが、中でも嘘をついた時無意識
にでるのが「なだめ行動」だそうである。嘘をついた罪悪感から、自分を落ち着かせようと癖の
ような行為を繰り返す。しかし平然と嘘をつくサイコパスや、現実と幻想の区別がつかなくなっ
ている精神疾患者には通用しないのではないか…そんな相手が容疑者では話が進まない。当
然普通の感性を持った至極まっとうな人間のみがこの物語の犯人の権利を得る。なにもかも
が物語作りのためのご都合としか思えない。ノンフィクションの後ではこんなに辛口になるもの
か、と自分でもびっくりである。



「育児放棄 ネグレクト 真奈ちゃんはなぜ死んだか 」(2004)杉山春 著 ★★ ’15/04/22
 2001年3歳の女の子がダンボールに入れられ餓死した状態で発見された。21歳の若い夫
婦が何故餓死させるまでに至ったのか。
 本人たちが子供だったからである。結論はこれしかない。精神的に未熟だったからだ。では
どこから精神は成熟した、子供を作って良しと言えるのか、という精神論になりそうだが、そん
な複雑な話ではない。幼い子供の命をないがしろにできるのはよほどの人でなしでないとでき
ない。しかしこの事件の親に限っては頭がおかしいというよりはやはり未熟さが目立つ。裁判
でよく言う言葉が「ちょっとおぼえてないです。」それが全てなのだ。覚えるほどのことでない。
全てが。我が子の命までが。でもゲームは必死でやった。やり残した仕事は気にかかる。でも
死んだ我が子は「ちょっとおぼえてないです。」そして母親は裁判前に妊娠していた子を出産。
その子供を一生懸命育てることによって餓死させた子への償いとする、とすがすがしい表情で
語っている。餓死した子の両親、そして助けようと思えば助けられたのに見捨てた祖父母共々
狂っているとしか思えなかった。



「真相 ”切り裂きジャックは誰なのか”」(上)(下)パトリシア・コーンウェル著 相原真理子訳 
★★ ’15/04/21読了
 私財7億を投じ科学検証、物証を積み重ねた結果、著者は切り裂きジャックとはイギリスの
有名画家ウィリアム・シッカートと断定。そこからはまるでウィリアム・シッカートという人物の伝
記を読んでいるようである。
 私が疑問に思うのは、P・コーンウェルが決定的物証とした切り裂きジャックからの手紙の切
手の裏についていた唾液からのDNA型鑑定結果。DNA型鑑定とは血液型鑑定のようなもの
で、指紋のような個人を特定できるものではないのに著者はこれを決定打にしている。もう一
つ疑問に思うのは著者は切り裂きジャックからの手紙とされている手紙を間違いなく切り裂き
ジャックからであると信じているが、もし手紙を出したのがただの愉快犯で、切り裂きジャック
本人からでなかった場合、この物証は根底から覆される。切り裂きジャックを名乗って出され
た悪戯な手紙の送り主はシッカートかもしれない、というだけの話になり下がってしまうのであ
る。
 著者は売春婦を狙ったのは、犯人に性的劣等感を持っていたからだとしているが、私はそう
は思えない。私には売春婦を狙ったというよりは、内臓に対する執着の方が強い印象があり、
内臓をえぐることが目的であり、目的を遂行しやすかったのがたまたま夜うろつく職業の売春
婦であった、ということではないかと思えた。
 後半は犯人のプロファイリングによりシッカートの変質的性格や人生の裏付けを取ろうと必
死である。犯人は変人だったかもしれないが、変人イコール犯人ではない。やはり100年以上
前の事件は物証に乏しく、著者が集めた物証(切り裂きジャックからの手紙とシッカートの私信
の類似点)はあまりに弱いような気がする。残念ながら切り裂きジャック=ウィリアム・シッカー
トに納得はいかなかった。



「さいごの色街 飛田」(2011)井上理津子 著 ★★ ’15/04/20読了
 本屋で見かけた時から気になっていた。一体どんな内容の本なのだろう、と。手にとって中を
確かめることもしなかった。CDで言えばジャケ買いみたいなもの。
 今の時代廓みたいなところがあるとは知らなかった。それも一応違法。でももう警察も公認と
か。戦前戦後の事情がある時代ならいざ知らず、今の時代に必要かなぁ…?という疑念は正
直禁じえない。足掛け12年の取材というが、その割にインタビューとか踏み込んだ内容が薄
い。もちろん書けないことが多いからだろうが。土地柄だけに12年かけてもここまで、というこ
とか。
 飛田で働く女性たちは結局貧困からくる教育の欠落によってここへ落ちてきたのだという。し
かし貧困が先か、教育が先か。考える頭は自分次第ではないのだろうか。借金のカタに売ら
れてきた(戦前戦後の話ではないのにこういう理由がまかり通っている)女の子たち。しかし苦
しい日常から抜け出したいのに借金がいくらあるか知らないとか、貧困よりやはり考える頭が
抜け落ちているとしか思えない。お金になるから、とネットで簡単に援交に走るイマドキの女子
中高生を思うと、体を売る街が苦界というイメージと結びつかなくなってしまい、同情もわかない
のである。



「知っても偉くないUSA語録」(2014)町山智浩 著 ★★ ’15/04/14読了
「教科書に載ってないUSA語録」続編。アメリカ文化によくここまで精通できるなー、と本当羨ま
しい限り。知らなかったことも多いが、最近は「リベンジポルノ」とか「フォトボム」とか日本でも使
うようになってきたものもある。以下知って損はないと思った言葉。
redneck(貧乏白人) trophy wife(年寄りの富豪の若く美しい後妻) 
mansplain(男がドヤ顔で講釈たれること) Umami(旨み。日本語から)
my wife, yes. my dog, maybe. my gun, Never!(女房なら持ってけ。犬はちょっと…。銃は絶対渡
さん!) DETROPIA(デトロイト+ディストピア) YOLO(you only live once 人生一度きり)
などなど。因みに映画「TED」の字幕翻訳はこの人だったらしい。翻訳がイマイチとネットでたた
かれていたのは本業の翻訳家によるものでなかったからなのか、と納得。




「中国でお尻を手術 遊牧夫婦アジアを行く」(2011)近藤雄生 著 ★★ ’15/04/12読了
 タイトル通り夫婦でアジアを長期旅行した体験記。ただ「お尻を手術」した話は冒頭数ページ
で終わるので、なんとも肩すかしな感じがしないではない。
 文章が巧いでもないけど、下手というほどでもない。ライターを目指しあちこち応募してみたも
のの、たいして採用されないのもむべなるかな、といった程度の文章力である。事実を連ねて
いるだけで、そこに著者の独特の感性や性格が感じられないのである。軽めなら椎名誠、真
面目なとこでは中村安希あたり目標にもう少し面白い、次がどうなるのか、と期待を持たせる
文章を書いてはどうか。チベットを目指す道のりなど、題材はいいのにもったいないなとも思
う。きれいな景色や珍しい風物なども文章には盛り込んであるものの、今一つ伝わらない。旅
行ルポならもう少し写真に頼ってもよかったのでないか。どんな景色なのか、風景なのか、著
者の文章力で補えないところを写真で補ってもよかったのではないか、と思った。



「住まなきゃ分からないドイツ」(1997) 熊谷徹 著 ★ ’15/04/05読了
 いかんせん、ユーロ導入前の古い話であり、何も得るところはなかった。



「19歳 一家四人惨殺犯の告白」 永瀬隼介 著 ★★ ’15/04/04読了
 1992年3月5日東京で起こった19歳の少年(と言っていいのかどうか)が全く関係のない一
家に強盗に入り一家4人を殺害した事件。やはり梅川と同じく相当な不良であった。そして梅
川と同じく未成年だから死刑は無いと軽く考え、出所後の生活設計までたてていたらしい。
 この事件ではやはりサイコパスなのか、と思うほどあっさり刺殺絞殺なんでもありで一家をむ
ごたらしく惨殺。4歳の幼児まで「うるさい」と包丁で背中から一突きで刺殺しているところが目
の前にいるのがぬいぐるみかなにか、とにかく命だとは思っていないのでないか、というくらい
非人間的なところにゾッとさせられる。ヤクザに追いかけられ金が必要だったからというのが
動機なのだが、何故全く関係ない人を殺すくらいなら、そのヤクザを殺してしまわなかったの
か。その辺が全く理解できない。梅川も人質はあっさり殺したが、立てこもり中借りた金を返し
に行かせている。彼らが人間と考えるものと人間でないと考えるものの境界はなんなのか。そ
れを知りたいと思った。そして梅川と同じく親は彼の事を見捨てないのだ。それも不思議だ。自
分の身内だったら縁切ると思うのだが。そういう周りの人間の情が却って犯人の残虐性を増長
させたのでないか、という気もする。



「死刑判決は「シルエット・ロマンス」を聴きながら」(2006) 林真須美 著 ★★ ’15/03/30
 この本は和歌山カレー事件で死刑判決を受けた林真須美とその4人の子供たちとの書簡集
である。この本からは優しい人柄で子供の事を一途に心配する母親の姿しかみえない。それ
が逆に不思議なのだ。あの連日テレビに出てニヤニヤしながら報道陣に水を撒いた人だとい
うのが。なので、本の中の「心優しい母親像」をそのまま信じることはできないのだが、それとこ
れとは別なんである。確かにヘンな人かもしれない。だからってイコール殺人犯ではない、あっ
てはいけないのだ。ヘンな人なんて周りにいくらでもいる。捕まってから「あの人ならやると思っ
た」などの口さがない風評に惑わされて偏見の目で見てもいけないのではないか、と過去の冤
罪事件の本から痛切に感じる。
 事件の証拠はカレーに入れられていたヒ素が林真須美宅にあったものと同一だったというこ
とだが、物証はそれ一点のみ。普通は警察が証拠を突きつけたらガクリと膝を落とし「私がや
りました…」というのが定石らしいのだが、この女は違う。一貫して犯行を否認。足利事件のよ
うに暴力に屈し、ついやったと言ってしまった、ということはない。
「机はけるし、イスはけとばすし、大きな声でどなるし、一人の刑事は私の真横、一人は真ん
前、一人〜二人は書記と換気扇もない窓も無い部屋でタバコを一日三箱吸うし、灰皿はひっく
り返す。一人の刑事はぐうの手で殴ってくるし、実際取り調べを受けたものでないとわからない
よ。私はもう三日目で頭がへんになり、目に幻覚が見えてきて、気が狂いそうで三日目には調
書も作りかけた。そしたら一人の刑事が「やりました」の五文字を書けと言って、座っている私
の左腕を思い切り殴ってきた〜中略〜私に殴られた刑事は大泣きで「やりました」と書いてくれ
と何度も頼んできました。」
 まだこんな取り調べしているのか…と愕然とする。逮捕状を取ったとはいえ、本人の自白もな
いのに暴力をふるっていいのだろうか。とはいえ、この本自体胡散臭いので鵜呑みにすること
もできない。本当のところはどうなんだろうか。まだそんな旧時代的な取り調べをしているのか
非常に気になるところではある。
 もう一つ気になるのは刑事の前では一旦暴力に屈したとしても、裁判で無実を訴える場合も
ある。多くの冤罪事件ではこうである。ところが林真須美は裁判では黙秘している。本当に自
分がやっていないのなら何故口をつぐんでいたのか。一言もしゃべらない被告に裁判官の心
証は悪かったのは想像に難くない。そんな不利な事をしておきながら無罪を訴えるのもおかし
な気がするのだ。
 さらに去年カレー事件の証拠であるヒ素を京大教授が何故か知らないが調べなおした結果、
全く違ったという。物証が一つなのにそこを覆されたらどうなるのか。物証なしで死刑にできる
というのもすごいと思うので、おそらく警察は林真須美に対して必ずやっているという確証があ
るのだろう。ただ、この「警察の確証」は足利事件でも、冤罪であったのに今も「あいつだ。俺に
はわかった。間違いない。」と言ってのける刑事がいるのだからどこまで信頼に足るものかわ
からない。
 とにかく林真須美とは謎の多いひとだなぁということしかわからなかった。カレー事件の真相
なぞわかろうはずもない。



「日本魅録3」(2011) 香川照之 著 ★★ ’15/03/26読了
 この人の文章は決して下手ではないのだが、逆に技巧がこりすぎて読みにくさも感じる。一文
がすごく長いのである。優れた句読点の打ち方が優れた文章だと思う私としては、この人は頭
がよすぎるのだな(さすが東大卒)と思うが、コミカルで軽快な文章であるがゆえ難解とも思え
ず、ついつい読んでしまうのである。(←と、こんな具合に一文が長い)それもある意味文章上
手ということか。
 自身の出演作は勿論、映画以外の話も面白い。ただ残念ながらここに記されてる出演作は
DVD屋では見たことはない…。一流のものからB級(?)まで所狭しと映画界を駆け巡る彼の作
品にはこれからも注目したい。全部が全部絶賛されてるわけではないけどね…。



「破滅 梅川昭美の三十年」(1979)毎日新聞社会部 ★★★ ’15/03/24読了
 1979年1月26日大阪の銀行に強盗に入り立てこもった挙句銃殺された梅川昭美の事件。
当時幼かったながらもテレビで大変なことが起こっているとはわかった。誰でも「三菱銀行強盗
事件」といえば「梅川」と答えられるくらい有名な事件であった。私も事件の詳細は知らなかっ
たのでこの本でよく知った次第。よく言われているのは梅川の残虐非道ぶり。人質に対して行
った非人道的行い。何も要求せず人質を弄ぶ犯人に対して手をこまねくしかなかった警察。普
通は金とか逃走車両等を要求するものなのに、何も要求しないので交渉の余地がなく困り果
てたという。ただ最悪の事態、梅川が発狂しないことを祈るほかなかったという。
 もう一つ衝撃だったのは、梅川の過去だ。故郷広島では名を知られた道楽息子で、すでに1
5歳の時に強盗殺人をしでかしていた。金欲しさに民家に入り、家人に気付かれたのでナイフ
でめった刺し。その残虐非道ぶりもすごい。たかが15歳とは思えぬ豪胆さなのである。捕まっ
た後も遺族が犯人をだせ!と警察に押し掛けたところ「受けて立ってやる!」と逆ギレしたとい
う。自分の勝手で人を殺めることなどなんとも思ってないのだから、これはいわゆるサイコパス
だったの違いない。ところが梅川を捕まえた警察は悔しがった。当時梅川は15歳で、刑事罰
に処せられるのは16歳から。たった数カ月の差で鑑別所送り、その後すぐ出てきたのであ
る。なので当時の関係者は「とうとうやったか」「いつか何かやらかすと思っていた」と口々に言
っていたとか。この本では最初の強盗殺人から三菱事件まで15年の月日、梅川がどこで何を
していたか何を思っていたか、というところにも焦点をあてている。が、正直かなり昔の事件な
のでそこは自分にはどうでもよくって、やはり15歳の時点でなんとか止められなかったのか、
と…。サイコパスを更生させられるのかどうかわからないけど、後の事件を防ぐためになんと
かならなかったものか。今更でしかないけど…。
 この本自体は出版されてからかなり経つが、犯罪実録ものとしてはよく推薦されているだけ
あって読みごたえはあった。しかし気になったのは奥付。
「核時代三四年(1979)初版 核時代四八年(1993)七刷 」
 この核時代というのは昭和・平成といった年号を拒否するということだそうだ…つまり左っか
わの出版社なんだろうか…と出版社を調べたら特にそういったことを全面に押し出してはいな
い普通の出版社的HPでした…。「核時代」て…当時の熱い人々の思いに苦笑してしまう。



「だまされて。 涙のメイド・イン・チャイナ」(2012)ポール・ミドラー著 ★★ ’15/03/20
 中国人にやられっぱなしの日本だが…アメリカ人もやられるんだなぁ…しかもユダヤ系が。
著者は中国在住アメリカ人でアメリカの輸入業者と中国の工場との取引を手伝う仲介業者。ア
メリカ人なのでアメリカ寄りなのは仕方ないかと思いきや、やっぱり中国の無茶ぷりにむしろア
メリカ人に同情してしまう。
 内容とは関係ないが、著者は中国語に堪能ではあるが本書は英語で書かれたものだろう。
それを和訳したのだろうがちょっと日本語が「?」な部分もある。
「この手の食い違いは水平線をたどり、「誰それがこう言った」の水掛け論となりがちだ。」
水平線を辿るのではなく「平行線を辿る」のでは。後ろの「水掛け論」にひっぱられたか。ただし
「平行線で」でいいわけで「たどる」必要はない。日本語では似たような言葉だが英語では全然
違う単語だし、意味も全く違う。
 それはさておき、まぁ日本でもよくある衛生とかマナーとかがなってなくて注意しても「それが
どうした」「なにが悪い」で一蹴され、さらにはビジネスの面でいざ支払となると値段を吊りあげ
たり、あの手この手でてこずらせるのが中国の工場。なかでも「コピー」に関しての著者の考察
は鋭い。とにかく中国工場は「サンプルをくれ」と言ってサンプルを一度手にするとオリジナルと
同時にコピーも作りだす。果てはオリジナルの方に手を抜く始末。著者は何故中国人は目先
の利益しか見ないのか、そんなことをすれば後々自分たちに不利になるのに、と憤るが、そこ
は既に読んだ「明日から中国で社長をやってください」が詳しい。要するに歴史的にもう先のこ
となんて考えられない、一寸先は闇に生きてる人々がちょっと先の未来なんてまるで信用して
いないのである。自分のいる位置が翌日には足元から崩れさる経験を文化大革命でしている
のだ。文革だけじゃなくってそれまでの戦争でもそうなんだろうけど。だから「今利益があれば
それでよし、後のことなんか知るか」が根強く生きており、一つの会社と長々取引するつもりな
んてないのだ。人件費の安さ目当てに輸入業者はわんさとやってくるのだから。
 マナーとか道徳とかそんな基本的なことを注意したり気に掛けたりする労力がなくなる代わり
に人件費高くても日本などに工場を作ることをしないのは、やはり安かろう悪かろうをよしとす
る輸入業者側にだって十分落ち度はある。そしてそんな輸入業者の中に日本の企業もかなり
の数が入っていることも考えると、身の回りの安い品々(特に食品類)を見てはぞっとするので
ある。



「法廷ライブ 「セレブ妻」夫バラバラ殺害事件」(2008)産経新聞社会部 ★ ’15/03/17
 当時なにが不満でこうなったか、と興味もあった。なんせ「セレブ」なわけですから。バラバラ
にする意図とは…。今は「殺人犯はー」の影響もあって、もしや冤罪ということはないか、という
興味から見たのだが(しかしこの本のタイトルがデカデカと表紙にあり衆人環視のなか図書館
員に「この本ですね?」と確認されたのは恥ずかしかった)、結果からするとそれは全くない。
取り調べでも裁判でも本人がやったと何度も認めている。ではなにを裁判で争うのか。犯行当
時の被告の心理状態一点のみである。つまり心神喪失だの心神耗弱だのでまともな判断力お
よび責任能力がないので減刑を狙っているというところらしい。
 この本の内容も裁判をひたすら一言一句書き起こしており「木嶋佳苗裁判」のような著者の
印象や判断的記述もないので、ひたすら退屈な本である。そりゃ人殺してるんだもの心理状態
が尋常なわけない。それで「責任能力なし」がまかり通ればなんでもありであろう。
 ただ当時気になった「セレブ」というところは裁判では全く出てこず、やはり何が不満で殺した
のか…と。本では被告はDVをひたすら訴えており、「逃げればよかった。殺すことはなかった」
というのはDVを知らない人の言い分だというのだ。しかし結婚した時の状況からして親に断り
も無くいきなり入籍とか、結婚当初から被告に愛人がおり、愛人に二人で住む家の家賃を払っ
てもらっていたりとかなり非常識なところがある。被害者の親はそりゃ「殺すことはなかったの
に。息子がDVなんてするわけない」と言うが、被害者もちょっと非常識なところがあるのは認め
ざるをえない。そんな可愛い息子が何故勝手に親に紹介もせず結婚したのか。まぁあまり興味
ないのでどうでもいいんだけど。しかし一体「セレブ」ってどこから出たのか?それが謎だった。



「とは知らなんだ」(2011)鹿島茂 著 ★★ ’15/03/16
「目からウロコのエッセイ集」とあったが、確かにこれは…とうなるものもあれば、首をかしげざ
るを得ないものまで種々雑多。
○(まぁまぁ納得)「金鯱とルネッサンス」「西インド・リンゴ」「モアイ像」「ロシア式紅茶」
×(全く納得できないorどうでもいい)「蚤の夫婦が急増中」「ビデについて」「就職のパイプライ
ン・システム」
◎(タイトル通り「こりゃ知らなんだ、得したわい」と思える)「部分対象的善悪二元論」
「部分対象的ー」はそうだったのか、と膝を打ったと思ったのだが…今ちょっと時間がたって思
い返してみると…既に記憶の彼方である。キレる人間の考え方だったと思うのだが。子供は幼
いころ自分をほめる母親としかる母親を同一視していない、それが同一人物であると認識する
ところから人にはいいところもあり、悪いところもあると考えるように移行する。この思考の移行
がうまくいかないと自分にとって善か悪かでしか考えない子供、つまりいきなりキレる子供がで
きあがる…といった内容だったような気がするが…はて。



「ルポ 子どもの無縁社会」(2011)石川結貴 著 ★ ’15/03/12
 まぁ親が無責任、の一言ですな。膨大な資料、政府や役所の調べた統計やら何やら出してま
すが、それらに浮かび上がってこない子たちの事情が深刻だって話でしょう。表にでない子を
どう救うのか。数字の羅列で子供は救えないのでは。著者の気持ちもわからんではないが、数
字を並べられると逆にピンとこない。危機感をもっているからこそこの本を書いたんだろうが、
熱意が空回りしているように感じた。



「殺人犯はそこにいる 隠ぺいされた北関東誘拐殺人事件」(2013)清水潔 著 ★★★ ’15/
03/09読了
 これは是非多くの人に読んでほしい。自分の目で見て、話を聞いて判断するということがどれ
ほど大切なことか、人の噂話を鵜呑みにするのがどれほど危険なことか。自分が損をする、く
らいの道徳の話ではなく、人の命にかかわることなのだ。
 この本に関してのみ言えば、警察は自身を守るためなら平気でマスコミに嘘をつくし、マスコ
ミも警察の言うことならとろくにウラも取らずさも真実のように報道し、私たちも簡単に信用して
しまう。新聞の大見出しに犯人逮捕と出れば内容がどうあれそう信じてしまう。ところが著者は
自分で調べて行くうちごく近い場所で数年にわたり連続して少女の誘拐殺人事件が起きている
ことに気付く。そしてそこに県境があることから縄張り意識の強い警察が気が付かない事実に
気付いて行く。著者のすごいところはマスコミの悪を一手に引き受け、被害者遺族にどれだけ
罵倒されても逃げなかったことだ。自分がやったことではない、と逃げ出したくなっただろうに。
結果、犯人として捕まっていた人の冤罪を晴らすことはできたが、連続殺人事件という認定は
されず、真犯人もつかまっていない。この手記を読んでこれだけクロなのに全く違う人を犯人と
決め付ける警察に首をひねらざるをえない。「DNA型判定」を差し引いて全事件のアリバイとか
とにかく何か捕まえる理由を見つけて捕まえて自白させるとかできないものか。冤罪事件の被
害者にはこの時代にそんな取り調べあるのかというくらい、脅して無理やり自白させたくせに、
真犯人と思われる人間には手も足もでないとは情けない。
 事件のことより、道徳の問題かと思うようなくだりもある。「ごめんなさいが言えなくてどうする
の」とは被害者の母親がどうやら証拠が間違っていたと聞かされた時の警察の歯切れの悪い
対応に言ったものだ。あくまで当時の証拠とかなんとか間違えてもしょうがなかったとかDNAが
云々…と自己弁護に必死な警察にそう言ったのだ。
 結局DNA型判定が間違いだったと言えないのは、既に同様の検査方法の判定結果により死
刑執行済みの人間がおり、寝た子を起こしたくないからだとはわかるが、だからって真犯人を
放っておいていいのか。遺族が遺品(当時着ていた服)を返してくれと言っても理由も言わず返
せないの一点張り。全く警察というものに信頼が持てなくなった。同時にマスコミの報道も信用
していいものではないのだな、とも思った。どれだけマスコミが警察の言うことをそのままタレ流
しているのか、という経緯もこの本には書いてある。自分がまかり間違って警察に捕まったらこ
の人に連絡しようかと思ったのだが、この著者にはそういった獄中からの手紙が既に多く届い
ているらしい。その中の一通に「自分も悪かったが、共犯でもっと悪い奴がまだ捕まっていな
い」というのがあった。映画「凶悪」で見たシチュエーションだなぁ、と思った…もしかしてあの映
画の記者はこの本の著者なのか?調べてないのでそこはわからないが。
 やはり気になるのは「連続殺人事件」なのかどうかということだ。あんな狭い範囲で繰り返し
起きているのだから、また犠牲者が出ないうちに捕まえてほしいし、生きているうちに罰を受け
させたい。それがかなう日はこないのだろうか。



「情事の終わり」(1951)グレアム・グリーン著 ★ ’15/03/08読了
 なにやら最後にどんでん返しがあるように書評にあったので面白いのかと読んでみたら、全く
面白くなかったという…。せめて新訳で読みたかったが、図書館には旧訳しかなかったので。し
かし新訳が出るということはそれなりに評価されるているというか、この時代本を出してもまだ
売れるという確信があったということか…私の読み方が悪いのか。



「ぼやきつぶやき イギリス・ニッポン」(2008)高尾慶子 著 ★★ ’15/03/05読了
 前作とはうってかわって、年金をもらえるようになったら、英国の福祉に心酔。「日本に帰りた
い」と言っていたのがウソのようにイギリス礼賛へとまた変わった(笑)
「まだまだあります。日本に注文10連発!」と題した章ではタイトル通り日本への文句がズラ
リ。なかでも「英語を正しく使う」という項では日本の和製英語に辟易してらっしゃる。私とて英
語よりむしろ漢字を多用したほうが意味が見てとれるのに、何故意味も分からない英語を入れ
るのか、と常日頃思っているので賛成だが…著者自身の日本語もとても文章で口を糊する身
分とは思えぬ日本語なので、まずご自分から直されてはいかがか。
 「あらためて戦争責任を考える」の章では、何度も彼女の言い分に触れてきたので、感化さ
れたのかも…とも思えてきた。確かに日本人自身が戦争を知らな過ぎる。未だに世界では第
二次世界大戦の傷跡は深いのに、最近の日本は自虐史観だという風潮が強い。別に謝りた
おせ、とは思わないが、左の人はいもしない従軍慰安婦や被害者を引っ張り出して土下座して
いるのに、何故西洋諸国の元捕虜に対してはしないのか。それが疑問に思った。日本でいうと
ころの自虐史観は主に謝罪と補償を求めてくる中国・韓国に対して「いつまで謝ればいいの
か」とブチ切れた格好だが、西洋諸国で天皇の謝罪を求めている人の存在など全く報道されな
いので、著者の著作にて知った次第だ。謝りたがっている左の人を英国に送り込んではどうだ
ろうか。また著者は日本が中・韓に土下座外交していることを知っているのだろうか?あるい
は感情的にならず、ハンナ・アーレントのように一歩下がって人間を見ることも大事ではない
か。ハンナ・アーレントのいう「平凡な悪」についてどう思うか著者に聞いてみたい。
 「あこがれの国ースイスへの旅」「大きな身体の大きな魂ードイツへの旅」まぁ、あちこち飛び
回ってらっしゃること…確かにこの人はヨーロッパを自分の目で見て歩いているので、本でしか
知らない私が何をかいわんやであることはわかったので、多少言い過ぎなところも大目に見よ
う。
 「移民、宗教、米原万里さん」米原万里を好きだというのはわかるが、正直私は著者を好き
になれない。米原万里の方が人間も文章も格段に上のような気がするのだが、著者は自分と
全く同じ考えである、とまるで自分と同類だと言わんばかり。米原ファンからすると「ヤメテクレ」
と思わんでもないが。
 「私の祖国、日本」この章ではご自身のみならず、祖父母の代からの話を書いてらっしゃる。
それはすごいことだと思った。私は祖父母がどうやって生きてきたかなど全くと言っていいほど
知らないし興味も無い。自分が初孫であったというわけではないし、女系なところへ生まれたも
んだから特別可愛がられもしなかったので、祖父母は遠い存在であった。この人ほど祖父母
の生い立ちを知って本に記すということができるのは、確かに立派なことだと思った。で、最後
についに日本国籍を捨てようかと思ってらっしゃるらしい。どうぞご自由に。250ポンドで英国
国籍が買えるとか。タイなんか40ドルでっせ。中国人は不便だからとあっさり中国国籍を捨て
るんだし、何も恥なことはない。不便なら変えればよろしい。誰も止めない。
 今回もちょいちょい日本語が下手というか、この人の口語文体が読みにくいところが多々あ
ったし、これ日本語か?というような高尾語が散見されたが、ささいなことに目くじらを立ててい
てはこの人の本は読めない。ので、文法や語法は置いといて、書いている中身でひっかかった
点を。ドイツの友人を訪ねて行った時、お世話になっているドイツ在住の日本人が著者に「ダ
ハウ収容所を見てきたら」と軽く勧めたことにご立腹。「彼女はやはり日本人だ。他人の痛みに
思いやることのない日本人なのだ。」と言いきっている。この本を友人が読んだら友情にヒビは
入らないのだろうか。それともやはり収容所なるものを遠足気分で見て来いと勧める人が悪
い、という自己中心的な正義感が正しいと思っているのだろうか。他の事には寛容なのに、頑
なに自分の正義を物差しにするところが著者にはある。結果、友人・知人が悪役になるのだ
が、彼女の本を読んだ友人は気を悪くしないのだろうか、と他人事ながら心配になる。私だっ
たら縁ぶった切るわ。さんざ世話になっておきながら、ヒトデナシ呼ばわりされたのではかなわ
ない。ほかにも美人な友人への描写は「美人」といってはばからないのに、そうでない人には
「美人じゃない」とはっきり…そこは敢えて書かなくてもいいんじゃないのか…。あるいは「ふくよ
かだがデブではない」とか。ご自分のご面相を棚に上げ(見たことはないが人を悪しざまに言う
人ほどたいして美人でもなかったりする)、人さまの容貌にもキビシイのである。私も容貌に自
信のある方ではない。自分の姿かたちがよろしくない、など自分が一番よくわかっているのだ。
私的書簡ならまだしも、出版物に所在地・名前とともに触れてほしくない自分の容貌の欠点ま
で書かれたのではたまったものではない。
 で、最後に「10年前、私はイギリスで朽ち果てて死にたくないと考えていたが、今は違う。私
はこの国で生涯を終えたい。」どうそ、骨をうずめてください。今後この人の本はもう読まないだ
ろう。今までは極端な独りよがりな意見が面白くて読んでいたが、不完全な日本語と、勝手極
まりない意見にもうお腹いっぱいになった。吠えるだけなら誰でもできる。不満をいうだけなら
私だって書けるのだよ。汚い、汚い、と日本を罵り続けたって日本の街はきれいにはならな
い。ただ、この人の本を読んで得たのは西洋諸国から見た日本、西洋諸国間のビミョーな関
係、人種、宗教の入り混じった国に暮らすことの大変さ。これは確かにこの島国では分かり得
ないことであったので、そこを教えてくれただけでも、読んで良かったとは思う。
 ごく私的なことではあるが、この著者に対してミョーに反発心を覚えるのはこの人が私の母と
同い年(昭和17年生まれ)で性格も似たりよったりな「自分がルール」の勝気な人間であること
に起因しているのかもしれない。ということは初めて著者の本を読んだときから感じてはいた。
自分の母の代わりに攻撃している面もあったかもしれない。しかし母よりもっとパワフルかつ日
本語のみならず英語でも他を言い負かす口達者なのは否めない。結局、「母」という呪縛に全
ての女性は縛られているのかもしれない、とも思った。しかし著者には子供はいない。いなくて
よかった、と思う。いたらどれだけこの母親に苦しめられていたかと思うと、同情を禁じえない。
どんな母親も子供にはプレッシャーを与える。ましてや著者ならどんな…と思うだけでそら恐ろ
しくなるのだ。まぁいもしない子供の心配などしなくてもいいことだが。



「アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極」(2012)角幡唯介 著 ★
★★ ’15/02/26読了
まだ北極に地図がなく、未開の地であった時代に、探検家たちはヨーロッパからアジアへと続く
北西航路を探し求めて北極を彷徨った。なかでも1845年にイギリスを出発したフランクリン隊
は129人が全員死亡するという大惨事となり、その後の捜索のかいもなく、ほぼ全員が見つ
かっていない。日本人探検家がその足跡を辿るという北極への旅へ出た、その記録である。
 前半は厳しい自然との闘いの連続で、そこまでして行くかという気にさせられるが、筆致がど
こかユーモラスなので、グイグイひっぱられるようにして読んでしまう。後半イヌイットの住む集
落に近付き、冒険も落ち着いてくると、フランクリン隊がどうしてどうなったのかというミステリに
対する自説を展開させ、またも読者をひっぱる。冒険家でありながら文章もかなりうまいと思
う。特に前半、苦しい飢餓の中、やむなくジャコウウシを狩って食べるところは迫力満点であ
る。が、一方趣味で行ったくせに自然の野性の動物に手をかけるとは、といった非難もあった
ようだ。しかもこの時仕留めたのが母牛で子牛がついてきたのでやむなく射殺した経緯もあっ
た。残酷だが、これが世の中というものなのだ、これが人間なのだ、ということを包み隠さず記
したことがすごいとも思った。
 フランクリン隊はカニバリズムにも走ったというイヌイットの証言もあることから、飢餓は本当
に想像を絶する危機的事態なのだろう。映画「ハンガー」を見て、そこまで食べずにおれるもの
か、という一方、生きるためなら人肉も食らう人間の不思議さを見たような気がした。で、肝心
のアグルーカとはイヌイット語で「大股で歩く男」という意味で、探検家がこう呼ばれた。結論的
にはアグルーカとはフランクリン隊の生き残りではなく、フランクリン隊捜索に来た別の探検家
ジョン・レーであり、彼はフランクリン隊に関する資料を持ち帰っている。そして自分こそがアグ
ルーカであるとも言っていたという。
 仲間の死肉を食べ、生きようとした男たちが見た景色と著者が見た景色は同じだったのだろ
うと思うと北極の不思議さを感じずにはおれない。凍える寒さ、ホッキョクグマの恐怖、絶望的
な乱氷体、飢え、ジャコウウシ、己の中にある残酷さと向き合った記録は、読者にも何かを残
すことができたと思う。私は死んでも北極には行くまい、ということだったが。




「イギリス・ニッポン 言わせてもらいまっせ」(2002)高尾慶子 著 ★★ ’15/02/20読了
 今回は全編イギリス批判に偏っている…。日本批判は当時の小泉政権に対してのみ。当時
小泉政権発足して3カ月だったらしく「何もしていない」と憤ってらっしゃるが、この後雇用問題
に大ナタを振るう小泉政権に今ならどんな批判をくだすことか、とちょっと興味があった。
 そしてこれまでの勢いはどこへやら、ついにはイギリスに愛想をつかし日本恋しを隠しもしな
い。「私は日本へ帰りたいのです。この国を引き払って日本へ帰りたい。本がたくさん売れて生
活できれば、四季がはっきりしていて、食べるものもおいしい、交通機関はきちんと運行され
る、何処へ行っても清潔な日本へ帰って死にたいのです。」えらく弱気になったものですね。
最後に当時お生まれになった愛子内親王について「近代になって初めての日本国の女帝とし
て英国の女王をしのぐような方に成長してくださる事を日本人の一人として心から願ってい
る。」と締めくくられている。もちろんその後、秋篠宮に男児が生まれ、その可能性はゼロにな
ったのだが、そもそも天皇は男系男子ということが頭にあるのか…この件に関して日本では
喧々諤々であったことをご存じか…。この本は文春文庫から出ており、流石の文春も校閲に目
を光らせたか、間違った日本語はなかったものの、この人独特の言い回しに首をひねるところ
はまだあった。「私はまだ大元気です」とか「大びっくり」など「大いに」とつけるのが面倒なのか
「大」の字ひとつつけて済ますのが私には読みにくかったりするし、細かいことを言えば正しい
日本語を使って欲しいなぁと思うのである。




「あなたの勉強法がガラリと変る 同時通訳者の頭の中」(2013)関谷英里子 著 ★★ ’15/
02/21
 ガラリと変るかはわからないけど、著者がいいたいのは普段の努力と日本語力を磨かないと
通訳者としてやっていけないということだ。それは勿論わかってます。普段の努力と言うのは、
おもに英語が仕事に必要な人向けなので(英語でプレゼンテーションや会議があるという、本
当に英語に触れている人)、趣味で英語やってますという人間には全く…。役に立たないとは
いはないけど、極端に英語漬けにできないので、参考までにとどめておきます…。



「中国子ども誘拐白書」(1995)王霊書 著 ★★ ’15/02/18読了
 一人っ子政策から家長制度の重視により、男の子不足に陥り、子供を必要とする農家が増
えたとは聞いたことがあるが、ことはもっと深刻なようである。しかし子供を売る親がいて、欲し
いと思う親がいれば、無理やり奪うことをせずとも、そういう親同士をマッチさせればうまく需要
と供給が回りそうな気がするのに、何故かうまくいかない。とにかく言えることは子供に人権な
どないということだ。子供をモノとしか思っていない輩に何を言っても…。著者は文盲に加えて
「法盲」つまり法律に無知なことも大きく起因していると言う。けれど、人のものを盗ってはいけ
ないというのは法律どうこうより、モラルの問題で、モラルの崩壊はもはや中国では当たり前の
題材になっており、いろんな本で取り上げられているので、今更どうこういうことでないような。
 さらに本の後半では、誘拐は中国だけの問題ではない、と世界の子供誘拐事情を解説。もう
こうなると中国批判どころではない。全世界こうなのだったら、もう一読者が「ひどいことだね、
いけないことだよね」などという感想を持ったところで虚無感のほうが圧倒的で、嫌な後味しか
残らない。なんか、こう…もっと希望の持てる話しはないのか…と暗くなってしまう。それがいや
なら、こんな本手に取るなということなのだろうけど。この本が出版されてから20年、ちょっとは
改善したのだろうか?桂林に旅行に行った際、若い女性の中国人ガイドは家は農家で自分は
3人兄弟の一番上だが、父親はがんばって税金(と言う名の罰金)を払い、あとの二人を闇っ
子(無戸籍児)にはしなかったという話だった。無戸籍児も問題になってると聞いた。農家の場
合最初の子が女の子だった場合、次に男児が生まれるまで出産はOKと聞いた。しかしこの本
の当時は産児制限があり、二人以上、つまり三人目を妊娠する事があれば、国が不妊の手術
を無理やり受けさせるという恐ろしいことも書いてある。
 本の内容とは関係ないが、漢字名の読みがなにカタカナで中国語の読みを振ってあるのが
実に読みにくかった。「西安(シーアン)市酒金橋(ジュウジンチャオ)」とか「劉金再(リユウジン
ツァイ)の息子、陳波(チェンポー)」とか。中国語翻訳者の間でもこれは意味がない、と言われ
ていることだし、読みにくいので止めてほしい。ま、それだけですけど。



「万能鑑定士Qの事件簿V」(2011) 松岡圭祐 著 ★★★ ’15/02/18読了
 前2冊がモタついた感があったので、今回はテンポがよく思えた。蘊蓄も目からうろこ的なも
のも多く(和食の配膳マナーについては今度和食の店で確認してみようと思った)、ストーリー
にムダがない。それにストーリーの鍵である音楽プロデューサー西園寺響というのがモロに小
室哲也をモデルにしてるとわかるのが(笑)なんだか小室批判とも受け取れるストーリーであっ
た。「過去の栄光だというのに気付かずいつまでも自分の時代だと勘違いしている過去の遺
物」的な皮肉というよりモロ嫌みがバンバン…TMファンは眉間にしわ寄せ読んでいるに違いな
い(笑)人は死なないし、なんだかユーモラスともとれるミステリに結構満足できました。人が死
なないミステリというのは理想でありながら、花がなくて、凄惨さがないと展開も派手さがなく山
場に乏しいと考えがちだが、このように見事にミステリに昇華できる題材を選び、物語を紡げる
というのは、すごい才能かもしれない。次も楽しみである。



「ロンドンの負けない日々」(2003)高尾慶子 著 ★★★ ’15/02/13読了
 著者6冊目にして2002年60歳のときの話である。
 相変わらずの毒舌なのだが、やはりこの人は文筆家ではないな、と思うのが、私の日本語能
力に問題があるのかもしれないが(とはいえ私は日本語しか話せない)、とにかく読んでる途中
で「ん?」と思うような日本語の使い方に疑問を持ってしまうところがあるのだ。説明不足で意
味がわからなかったり、いちいちつっかえるので読みにくいことこの上ない。林望のようにもっ
と上手な日本語ですらすら読ませてほしいものである。
 さて内容については、いつものイギリス批判から始まる。イギリスの鉄道事情で「発車前に切
符売り場で切符を買っている間に、電車が出てしまうということもあり得るので、車内でクレジッ
トカードでキップが買えるのは合理的だと思う。」とあるが、改札はどうすんの…キセルし放題
になると思わんか。そして日本批判も忘れない。「姫路の野里界隈は今でもタイやヴェトナムの
ようである。」さらにイギリス礼賛もある。著者の知り合いの日本人男性が中国人女性とイギリ
スで結婚。子供も授かり、居をかまえ嫁の両親を中国から呼び寄せた。その嫁の父親ががん
で亡くなったが最後に言ったことが泣かせる。「父はね、死ぬ前にイサオ(日本人の婿)に言っ
たの。生きている間に自由をくれてありがとう。七十年間生きてきて、本当の自由を味わった
のはロンドンに来てからの十年間だったって。娘と孫と暮らし、自由に何処へでも出かけて、自
由に物が変えて、本物の自由を楽しんだって。父は、イサオの手を握って、眠るように死んで
いったの。私にはね一片の灰も中国へは送らないでくれ、この自由な国に埋めてくれっていっ
たのよ。約束しろ、絶対に中国へ灰を持って帰らないでくれって」
 そしてやっと、かねてから不思議だった日本憎しの原因の一端を読んだ。99ページである。
「私はホステス時代に、戦時中フィリピン人の少女を教会へ追いこんで強姦し、セックスの醍醐
味は強姦だとうそぶいていた日本の男を見た。
 当時は香川で呉服屋になっていたその老人が、京都へ仕入れに来て、問屋の接待中に酒の
肴にして大笑いしていたのを、私が殴って大騒ぎにになった経験もある。その少女を強姦して
最高だったといぎたなく大笑いをした男は、「戦地で日本人ならみんなやったことだ」と威張って
いた。私は客を殴ったとママに散々小言をいわれ、首になった。」
 ちょっと話はそれるが上記は原文ママであり当然ここで使われている「いぎたない」は誤用で
ある。「いぎたなく大笑いをした」とあるが「いぎたない」とは「寝方が見苦しいさま」をいい「見苦
しい、汚らしい」は誤用である。閑話休題。ともあれ、著者は日本軍人の残虐非道ぶりを直接
目にしたわけではないが、その蛮行を自慢するという最も忌み嫌われるべき人間を目の当た
りにしたのだ。確かに旧日本軍人を憎んでも仕方なかろう。そして彼女の考えるナショナリズム
とは「他国を侮辱することではない。日本の名誉を守るために、反省もすることだと考えてい
る。この反省とは私たち日本人も間違いを犯したことは素直に認め、国際社会にも認めてもら
うことである。」
 そして「第二部許すかNOか イギリス・ニッポン57年目の和解」と後半になってもっとはっき
りと旧日本軍をことのほか憎む理由が描かれる。著者の母親の弟、つまり叔父は戦争終結後
シベリアへ抑留され3年後帰国したが、精神に異常をきたしており、入退院を繰り返した揚句
自殺。こういう戦争の犠牲者が身内にいれば確かに旧日本軍が憎くもなろう。著者は叔父を死
に追いやったのはシベリアではなく、日本軍のイジメ体質だと思っているようだ。ハンサムで背
の高かった叔父は目立ち、上官に理由もなくよく殴られたという。それが外国人であればもっと
ひどいことをしたのは容易に想像が付く、と。靖国神社がおかしいと思うのも、民間人をミスリ
ードし、ひどいことをさせた戦犯と、させられた挙句命を国のために捧げた一般の人と一緒に
祀るなということらしい。私のような戦争から遠い人間からすると、戦争に関わった人はみな靖
国でいいではないか、と思うが、遺族の感情はやはりそうではないのだ。そして中・韓の靖国参
拝に対してうるさい奴らには「うるせぇっ!靖国は日本のことだ。黙ってろ!」と息まく。この件
に関してのみ、全く同感である。
そして天皇が英国を訪問した際、日本国旗を焼くというパフォーマンスをした元英国人捕虜に
会うという機会を得た著者。この元捕虜はユダヤ系英国人であるが、そのバックグラウンドも
複雑なようであった。
「私はスコットランドで生まれたことを誇りに思い、スコットランドを愛しているけれど、英国人で
あることなんか誇りにしてないね。ユダヤ人であることは受け入れているよ。だからイスラエル
に四回も、あの国を見るために訪ねて行った。」そして日本軍から受けた蛮行については「とに
かく、二言目に、バカヤローなんだ。一番、われわれを意味なく殴り、ののしったのはKoreanの
兵隊だった。彼らは日本兵からバカにされ、低く見られていたから、そのフラストレーションをわ
れわれにぶつけてきたんだ。命令する動物のような日本兵も大嫌いだったけれど、われわれ
に直接暴力をふるったKoreanは今でも許せない。」なんと英国嫌いで日本嫌いに韓国までは
いってきた。そして日本からの謝罪を求めるこの老人の願いはもっと複雑なところにあった。英
国人元捕虜に対して英国自体がいい顔をしなかったのだ。極東の小さな島国の有色人種の捕
虜になったことが英国のプライドを傷つけたのだ。捕虜の問題については英政府も黙殺、補償
もしてくれなかった。「ケイコも知っている通り、今やこの国はメチャメチャだ。道はゴミで溢れ、
落書きはやりたい放題、列車はバスは遅れ放題、そして、大事故ばっかり!窃盗、強盗、婦女
暴行、誘拐殺人、毎日のことだ。われわれはこんな国を守るために戦争に言ったのではな
い!」「天皇の名で殴られ、蹴られ、戦友は殺され、飢えさせられ、労働を強いられたのだか
ら、日本の首相の代理謝罪ではなく、あくまで天皇が謝罪しないとあの戦争は終わったことに
はならないのだ。」では女王はどうなのだろう。国のために戦ってくれた国民に女王様はねぎら
いの言葉一つでもかけてくれたのだろうか。一国の君主を跪かせるということがどういうこと
か、イギリス人ならわかってくれるのではないか、と思うのは私はやはり本質をとらえていない
のだろうか。映画「日本の一番長い日」を見ればわかるように、なんとしても天皇を守ろうとした
日本国民だ。いくら戦争責任でも天皇が他国民に頭を下げさせるなど日本人としては到底考
えられない。あなたに手を下したのは韓国人であり、冷遇したのは英国政府である。と、著者
でも言えなかったのだから、その場にいなかった私なんぞがここで彼の言うことに噛みつくのは
お門違いなのはわかっているのだが…。しかし著者のいうことは、もっとお門違いであった。
「もし、英国が占領軍として上陸し、駐留し、日本を統治していたら、天皇は処刑されていたか
もしれないが、華族制は残したのではないか。そして敗戦の焼け跡の都市をインドや中国でや
ったように完璧な区画整理をし、土地の売買を禁じ、自然の破壊を禁じ、日本国中に独立前の
カルカッタのように広い公園を造り、国中に緑を残してくれたと思う。アメリカに統治されたがた
めに、戦後の日本はアメリカの街のようにどぎつい広告や看板で埋め尽くされ、誤った自由を
乱用するようになり、金権政治化がはびこるようになった。長い目で見れば、日本の経済発展
は遅れたかもしれないが、その代わり、区画整理された美しい街並みや田舎を残せたと思う。
マッカーサーがくれた自由は日本をメチャメチャにしただけだ」この人に付ける薬はないと思っ
た。華族なんぞ残してなんになるのよ?中国やインドのどこが区画整理された美しい街並みな
のだ???イギリス植民地だった香港の道にはみ出し溢れんばかりのネオンだらけの看板
は?アメリカの比でないと思うが…。よその国の看板をピカデリーサーカスがある国にどうこう
いえようか?
 ちょっと話は飛ぶが、雅子様お気に入りのオランダでは「もと日本軍の捕虜収容所にいたオ
ランダの生存者は日本との和解を絶対に認めていないという。(中略)日本側が一方的に「捕
虜問題は解決済み」と断定していて、忘れたいようであるが、連合国側の捕虜と家族にとって
は解決済みでも忘れられることでもないのだ。」とある。
 そして日本人の意見としても「たった一言でいい。天皇が謝罪するというだけで、元捕虜の人
たちの魂も救われて、日本という国家の恥がそそがれるのですがね。昭和も今上も謝罪しない
のでしょうか?」
 この本を読んで思ったのは、やはりあの戦争についてちゃんと日本は日本人に教えるべきだ
ということ。あちらこちらからの批判を恐れて、触れないようにしていては全く日本という国は理
解されない。天皇という存在は首をすげ変えれば済む国の代表とは違うのだということ。日本
人の性質。いろいろな面で誤解を受けている。このまま外国にも、日本人にも誤解を受けたま
までいいのか、という心配が頭をもたげた。



「ポアロのクリスマス」(1938) A・クリスティー著 ★★ ’15/02/12読了
 さぁ古典だ、本格だ、正統だ、と意気込んで謎解きに挑んでみたものの。クリスティーってこん
なだったっけ…とちょっと首をかしげたくなった。
 クリスマス2日前、郊外の館で当主のシメオン・リー老人が惨殺された。クリスマスのため老
人の息子達、その嫁たち、孫一人に、旧友の息子が集まっており、使用人も含めみんな怪し
い。一人ひとりに動機がある。さて名探偵ポアロは犯人を割り出せるか…。
 確かにノーマークの人間が犯人であったので、やられたとは思ったが、動機は後付けと言う
かあまり納得いくものではなかった。ちょっとクリスティーを買いかぶっていたようで…。



「イギリス人はしたたか」(1999)高尾慶子 著 ★★ ’15/02/04読了
「日本人はビルマで英国人にひどいことをした。日本人は残虐。そうだ。そして君らは、アフリカ
から生身の人間をアメリカへ運んで鞭で打って売り買いしたんだよね。」
と、結構前半はイギリスに住みながらイギリスをこけおろし、右寄りとも思える愛国っぷりであ
る。
「恥ずかしくて英国やフランスの人に、日本の宝くじの賞金額なんて言えたもんじゃないと思う
わ。だから、私はここでこの国の人たちに「日本に宝くじはありません」と嘘を言っている。本当
のことを白状して恥をかくか、あるいはもう少し高額の賞金をいって嘘をつくくらいなら、「ありま
せん」の嘘のほうが罪が軽いような気がするから。」
なんという見栄っ張り。というか見えを張るところがそこか?とも思うが。別に宝くじの賞金額が
その国の豊かさと関係ないのでは、と思うが。当時おそらくジャンボでも一等前後賞合わせて
三千万くらいだったと思う。それが今や三億円。ロトにいたっては十億。これで満足ですかな?
と言いたい。いくら高くなったって当たらないんだから、何の関係もないが。
 前半愛国魂を発揮した著者だが、後半では雲行きが怪しくなってくる。
「英国人というのは、寛容、忍耐、情というものに他のどんな国の国民より重きを置き、それに
誇りを持っている。」
あれ?その国が植民地の人間に対してしたことを非難してたんじゃなかったんでしたっけ?論
理が破たんしている。仕方がないとは思う。彼女はイギリスのいいところと悪いところ両方を紹
介しようとしている。そりゃどっちなんだ、ということになる。しかし例えば一貫して中国や韓国
の悪口を言う本の著者よりは、よっぽど正直でもある。どこだって両面あるのだ。なのでかなり
言ってることはブレブレなのは許せるが、許せないこともある。
「ダイエットなんかしたことはないが、緊張していると太らないものである。食べないのに太ると
言う人もいるが、そういう人は緊張していないからだ。〜 絶対に絶対に太りたくない。いつまで
も日本の7号か、英国の高級洋服店の6号サイズが着られる体型を保ちたい。」
デブのひがみかもしれないが、太る人は太る。太らない体質の人も確かにいよう。だがそれは
天の配剤であって、決して本人の努力でどうこうなるものでもない。確かに西洋人のデブは規
格外とは思うが…。まぁどう反論しても言い訳にしかならないんだけど。
 そして後半で日本から来たダサイ友達をはっきりダサイといいたげにこきおろしている。この
本を読んだら友達なくすこと請け合いである。日本のバブルがはじけ経済が斜陽になると、日
本企業も英国から次々引き上げ、それに伴い在英邦人もどんどん帰ってしまい寂しいと綴って
おられるが、ひょっとしてこれ幸いと彼女から逃げた人もいるのではないか、と思うくらいの毒
舌っぷりである。最後は「あと十五年経てば」と未来への展望で結んでいる。そして15年経っ
た現在、日本は彼女の思う通りになっているのだろうか?相変わらず日本に関しては汚い汚
いと嘆いている様な気がする。この人はなにがどう転んでも文句を言い続ける人のような気が
する。



「北京食堂の夕暮れ」(2014)沢野 ひとし著 ★★★ ’15/02/03読了
 かねてから読んでみたかった本。ようやく図書館で借りられました。
 タイトル通りなかなか風情のある古き良き中国と思いきや、書かれている事柄は日中関係悪
化の最中、敢えて行ってやろう!と2010年以降の話である。日本でも嫌中がかまびすしいな
か、北京語学習モチベーションはダダ下がり、目的を見失いつつあるここ最近において、一服
の清涼剤となった。
「これまで知り合いになった中国人はいたって謙虚で金銭関係でもめたことは一度もない。中
国人はしたたかで自己中心的だと先入観を抱いている日本人が多いが、それは個人的に接し
たことがない、受け売りだけの知識だ。」
 こう言ってもらってなんとかちょっと気持ちが上向いた。著者は中国内をあちこち旅行し、食
に買い物、趣味と大いに人生を謳歌しているようだ。著者は中国語はアレだけれども(しかしそ
のレベルで単身旅行に出かけようと思う勇気はすごい)、中国の歴史や漢詩に造詣は深いの
で、そういったことから楽しめるのだろう。食べるものは激辛が多いので私にはまったく無理な
のだが、スーパーや市場での買い物は私も欲しいな、行くことがあったら探してみようかと思う
ような雑貨もあり(特に花柄の保温ポットや玉のアクセサリー)、再度中国へ興味を向かせてく
れた。とはいえ、正直地溝油、農薬まみれの野菜、PM2,5など問題は依然としてあるので実際
行くことはないだろうが。著者だって嫌な思いをしたことがないわけじゃない。ただそれ以上に
いいことの方が多くて、何度も足を運んでいるのだろう。それも自分で予定を組み、ゆっくり滞
在しているので、ツアー旅行などでは味わえない空間、空気を味わっているのだろう。中国に
関しては悪い本ばかり推奨してきたな、とちょっと反省の意味も込めてこの本をご紹介した次
第。ぜひ読んでみてほしい一冊。



「万能鑑定士Qの事件簿 U」(2011)★★★ 松岡圭祐 著 ’15/01/31
 Tを読んでから相当経っていたので、Tで起きた事件が伏線になっていたのに、そんなこと
あったけか、くらいにしか思い出せず、謎の解明にあまり納得感が得られなかった。何故二巻
に分けたのだろう。一冊にまとめて一気に読んだらまだましだと思うのだけど。
 主人公の多くの知識から多くの蘊蓄が出てくる。神戸の航空写真のところでは「へぇ」とうなら
ざるを得なかった。「都賀川」があまりに近くにあったもので。偽札の真贋鑑定のことでは一応
携わっていたこともあって興味深かったが、一般に知られていないことを何故主人公が知りえ
たのかが、ちょっと謎だった。それとお札の記番号を書き変えとは…ちょっと考えられないなぁ
…。マネー・サプライにしてもスーパーインフレにしても、日本の通貨経済がそんなに脆弱とは
思えず、そこまで政府が後手後手になるかというと、ちょっと首をひねらざるを得ない。主人公
の蘊蓄の多さに圧倒されがちだが、冷静に考えると突っ込みどころは多い。勿論小説なんだ
から、と言われればそれまでだが。真保裕一の小説のような緻密さに裏付けられたリアルさが
ないのである。偽札を題材にしてるので、どうしても比べてしまった。実在の企業名がバンバン
出てくるのでその辺はリアルに感じるだけに残念。しかし読みやすいので、このシリーズはもっ
と読みたいな、と思った。



「病名がつかない「からだの不調」とどうつき合うか」(2014)★ 津田篤太郎 著 ’15/01/31読

 タイトルから期待したのだが、得るものはなにもなかった。患者ではなく医者側からの話だ。
自己管理をしっかり、とか自分の体の感覚をよく見るとか、至極当たり前ではないか。がっかり
した。



「うれしい悲鳴をあげてくれ」(2014)★ いしわたし淳治 著 ’15/01/28
 短編小説集とエッセイ集。短編小説は難しいということがわかる。短いページで必要最低限
の情報を与え、オチをつけなければいけない。しかしオビにすっかり騙された。「今年一番の発
掘文庫に決定 この本を楽しめないなら他にオススメはありません!好きすぎて本当は誰にも
教えたくない」いくら売らんかな、でもこれはなかろう。誇大広告が過ぎるというものだ。引っか
かる自分が悪いんだけどね。ここまで書いたら益々中身と乖離すると言うことがわからないの
か。本書よりオビの宣伝文句の方に不満を覚えた。エッセイの方は何も共感できるものがなか
った。とりわけ文章がうまいというわけでもなく。今パラパラ見返してみても、やはり特にひっか
かったというページがない。なんということもないのだ。やっぱりオビが悪いと思った。



「イギリス人はかなしい 女ひとりワーキングクラスとして英国で暮らす」(1998)★★★ 高尾慶
子 著 ’15/01/26読了
 著者の2冊め。まだ文章で食べてないころの話が中心。かねてから疑問であった英国人捕
虜への肩入れの件も書いてあるものの、今一つ納得できない。イギリス人に「イギリスが植民
地に対して行ったことはどうか」と問えば「そんな大昔のことは関係ない」と答え「彼らはやった
ことは忘れ、やられたことは覚えている」ともはっきり書いている。しかし中国残留孤児につい
て日本の親を「中国人に子供を育ててもらいながら、お礼も十分せず、成長した我が子を引き
取ろうともしなかった」というのはどうだろう。その陰でどれだけ多くの戦災孤児が中国で劣悪な
労働をさせられ死んでいったことだろう。助かったのは本当に人のいい中国人に助けられた一
握りの人たちである。多くの親はもう生きてはいまい、と諦めざるをえなかったり、諦めきれず
必死に探している老齢の親のことに言及していないのはあまりに偏った見方でないか。そして
今や一人の残留孤児を足がかりに80人からの中国人が日本へ移り住み、多くは働きもせず
生活保護を受け暮らしているのは、中国に対する十分なお礼と言えまいか。このような問題を
自分の観点だけで軽々に断ずるべきではないと思う。
 戦争捕虜のことでは要約すると、英国はインドやアフリカに謝れと言われてないから謝らない
のなら、日本に謝れと言うな。「カウボーイが助けに来なけりゃドイツの爆弾と日本刀で皆殺し
だった。アメリカの移民に助けられたんじゃないか。日本だって不可侵条約を結んでいたロシ
アが裏切らなければ、そして原爆を落とされてなければ、降伏しなかったよ」と、私がここまでい
うと、口の達者な白クマどもも、黙る。」ここまで日本について右寄り発言をしているのに、やは
りイギリス人元捕虜については肩入れをしているのだ。何故かまだよくわからない。そしてこの
ことで歯に衣着せぬ人だなぁ、事と次第によっちゃ無礼でないか、とも思えたのが、元捕虜に
対して元日本兵として贖罪に尽くしているという永瀬氏にあった著者は「間に合って(死ぬ前に
会えて)よかった」と言ったのである。年配の方に失礼にならないのだろうか?ならないのなら
いいのだけど…なんだか釈然としないものの言い方に思えた。
 さらにイギリス批判は続く。「旧日本陸軍の捕虜虐待は絶対い許さないが、アイルランド人を
二百年間も虐待したことには目をつぶるのだ」イギリスに媚びる必要などない、と元捕虜に謝
る必要なんかないように、自説とまるで反対の事実を書いている。そして日本を誇りに思ってい
る。「夏はインドのように熱く、冬はシベリアのように寒く、春と秋はこの国のように短くなく、ゆっ
くりと、すばらしい陽気が続く。私の国にはこの国にないすべてがある。…マウント・フジを見た
ら気絶するよ。マッターホーンやモンブランなんて岩山じゃないの。私の言ったこと嘘じゃないよ
ね。」と読者に同意を求めているが、フジのくだりは日本人しか共感できまい。自国の山を世界
一美しいと思うのはどの国の人間でも同じ。インド人のダンナを持つ漫画家流水りんこ氏も、
やはりダンナの前で富士山を褒め称えても「ふん、ヒマラヤの比じゃないわね」と一蹴されてい
る。何を持って美しいとするかは人に寄ろう。だからこの人は偏っていると思うのだ。そして自
分をときたまイギリス人と勘違いしているのかと思うのが、アメリカ人に放った(直接ではなく、
本の中でだが)その独特の訛りから(アメリカ人は訛りと思っていまい。むしろイギリス人の英
語のほうこそ鼻に着くと思っているだろう)「アメリカ人は英語を話していないと言う事をしみじみ
感じた」である。
 そしてこの本には英国の真の姿が描かれているのは確かだ。それはタイトルにもある「ワー
キングクラス」つまり労働者階級と言う厳然とした階級制度に基づく社会だ。アッパークラスの
人が「労働者と我々が一緒になれるわけがない。ペディグリー(血統)が違うのだ」と言ってのけ
たことから、さすがここまで差別意識を露わにして平気なところは日本人は到底及ばないイギ
リス特有の社会であろう。と、確かにイギリスに対する見方は変わった。以下これからも彼女
の本を読んでいきたいと思う。彼女の意見に反論はあるし偏った見方であるものの、面白いこ
とは事実である。多くのメディアで語られる英国礼賛ではない、住んだ人間にしかわからない社
会が見られるのは、日本から出たことのない人間にとって貴重な情報ソースだと思うので。



「歴史をさわがせた女たち 日本編」(1978)永井路子 著 ★★★ ’15/01/23読了
えらく古い本ではあるが、問題はない。内容はもっと古い歴史上の人物についてである。しかし
古すぎて本当のことかというとわかりづらく、いくら資料に基づいてといっても資料を読む人によ
って解釈が違えば人物評も変ってこよう。特に清少納言や紫式部については他の本で読んだ
人物像のほうが自分の中にあったので、この本で紹介されている部分についてはホンマかい
な、とちょっと懐疑的になってしまった。清少納言など私でも知っている人物については大体い
つの人かというのは見当つくのだが、その他聞いたことも無いという人に関してはいつの時代
の人か、性格な生没年はわからなくとも大体何世紀ごろに活躍した人かということくらいは添え
ておいて欲しかった。この本以降も歴史上の人物については研究が続いているので、新たに
わかった事実もあるし(資料の解釈の違い程度かもしれないが)、この本に書いてあること通り
に鵜呑みにはできないが、読み物としては楽しい。近年ネタ切れかと思うNHK大河は幕末と戦
国を行き来しているが、この本からヒロインを選んではどうだろう。自分的に興味をもったのは
持統天皇や光明皇后など神代の時代の女性だ。勿論すでに有名な北条政子、春日局、日野
富子、天璋院なども載っている。日本編とあるので、外国編も読んでみたいものだ。



「イギリス人はおかしい 日本人ハウスキーパーが見た階級社会素顔」(1998)高尾慶子 著 
 ★★★ ’15/01/19読了
 先に何冊か読んで、この人のイギリス・日本に対する意見はどこから来たものかと気になっ
て、結局最初から読んでみることにした。最初からイギリスやよし、というわけではなく、最初は
憤懣やるかたないと言った風に、イギリスの欠点をこれでもかとあげつらっている。この本では
主にリドリー・スコット(代表作「エイリアン」)監督の家でハウスキーパーとして働いた13年間に
見聞したイギリスの実情を綴っている。後にイギリスびいきとなる彼女だが、最初はやはりイギ
リスに不満たらたら。特にバスや電車のルーズさが許せなかったらしい。しかし監督のわがま
まな母親を頼まれもしないのに面倒見るあたり結構楽しんでいたようである。日本人女性には
稀な口が達者で気が強いという著者の優しさも垣間見れて結構面白いエッセイであった。



「変死体」(2011)P・コーンウェル 著 ★★ ’15/01/14読了
 正直このシリーズもう飽きた…。タイトル通りの変死体の謎を主人公のドクター、ケイ・スカー
ペッタが仲間とともに追うのだが…。変死体がどうこうよりも主人公の立場や感情が表立って
綴られているので、主役が魅力的でないと面白くもなんともない。もうケイに魅力はない。この
シリーズ続ける必要があるのかな?と思ってしまう。最初の3作までは内容も主人公も魅力に
富んでいて、夢中で読んだものだったが…。しかし翻訳者の技量のすごさには相変わらず舌を
巻く。難しい専門用語を毎度に正確に訳すのは大変だと思う。(また専門用語が多いのだ。)
次があっても読むかどうか…。



「開かせていただき光栄です」(2011)皆川博子 著 ★★★ ’15/01/14読了
 今年は年始から良質のミステリに出会えて光栄です。でも今年あるいは去年のでもないんだ
けど。数年前のがようやく古本屋に出回り、さらに文庫化にもなり単行本ががくんと値がさたっ
たところをすかさずゲット!というのが最近の入手法です。今回はまさにこれ。
 ミステリもさることながら、今作は18世紀ロンドンの風俗を知る歴史書としてもすごいものだ
といえよう。自分がシャーロック・ホームズのおかげでビクトリア朝のイギリスに憧れを持ってい
るのは否めないが、それにもまして当時の世相を詳細に見てきたかのように記述してあるの
で、当時のロンドンがとてもよくわかります。ことに色や匂いまで生生しく体験させてくれる。自
分はよく小説の世界を頭の中でビジュアル化するんだけど、おかげで気持ち悪くなるくらい鮮
やかに再現できました。(余談ながらファンタジーやSFが苦手なのはこのせいかもしれない。
記述があいまいだと頭にうまく描けないのだ。説明がくどすぎても上手に描けない。頭の悪い
人間にすんなり情景を浮かべさせることのできるSF作家というのが真に上手い作家だと思っ
ている。例えばレイ・ブラッドベリやスティーブン・キングなどは流石である)
 「死の泉」のほうが高い評価を得ていたのだが、自分の趣味もあってこっちのほうが断然気
にいった。謎も最後まで飽くことなく追えるし、何よりロンドンの街の詳細な状況に一字一句見
逃せない。自分が興味あるからだけど。近年続巻が出たらしいので、バートンズもしくはエドと
ナイジェルの活躍が読めるのかと思うと楽しみである。ただ一言だけ苦言を呈するとすれば、
18世紀のロンドンに詳しくない人のために、聞きなれない単語には注釈なり説明なりで教えて
ほしかった。カタカナだけではなんとなく飲み物?なんとなくこんな感じの椅子?くらいしか想像
できないし見識をつかめないので…まぁ今はググっちゃえばいいことなんですが。



「生首に聞いてみろ」(2005)法月綸太郎 著★★★ ’15/01/08読了
 2005年「このミス」1位である。1位だけあったさすがにソツがないというか、のっけから物語
に引きずり込んでくれる。特異な世界でもない、ごく普通の我々が生きる時代の世界である。と
いうのもごく早い段階で事件が起き、謎が提示され条件はそろった、さぁわかるかな?とこちら
に挑まれている気がするのだ。法月探偵と共にヒントは得られていく。置いていかれることはな
い。特別探偵だけが持っている特殊能力も知識も無く条件は読者も全く同じ。注意深く物語を
読み進めて行けば探偵と同じ条件で真相に近付いて行ける。というのがこの本の魅力だった
のではないかと思う。 



2014年 60冊
 後半図書館に通い、古いものでも良い本はあるなぁと図書館のよさを再認識。ただ、今読み
たい本というのはなかなかすぐ手に入らないのが宿命である。年末にでた「このミステリがすこ
い!」で1位となった「その女、アレックス」を借りれるかなと状況を見たら9冊に371人の予約
が入っていた…。これじゃ買った方が早そうだ…。
 ベスト、マストといった本には出会えてないが、電子書籍との出逢いは大きかったように思う。
ワーストは「愛の徴」であったことは揺るぎないが…。
 2015年の抱負は、もっと本を読む時間を取って、「積ん読」を減らすことだな…。図書館は
それからだ。



「中国はチベットからパンダを盗んだ」(2008)有本香 著 ★★★ ’14/12/25
パンダといえば四川省に繁殖研究のセンターがあるのだが、四川省の奥はチベット自治区。
実はチベットにいたパンダが四川省に連れてこられた、というかチベットの一部を四川省に共
産党が勝手に組み込んだ。つまりパンダはチベットの動物である。ということらしい。確かにパ
ンダというと中国と思い込んでいたので、その点は目からうろこだったのだが、メインはパンダ
のみならず、要は中国共産党がいかにチベットにひどいことをしてきたかという告発本であり、
こういう事実を政治的判断から日本ではまるで報道されないと言う事実に憤ってらっしゃるわけ
だ、著者は。しかしこの本だけではその実態というか全貌が伝わるわけでないので、もっと知り
たければそれ専門にちゃんと書かれた本を読むべし、と思った。というわけで、読むべきはこ
の本より巻末に記載された参考文献のほうだろう。それらを読むための入門書としての本だと
思った。



「悪いのは翻訳だ あなたのアタマではない」(1988)別宮貞徳 著 ★★ ’14/12/21読了
 実はこの本の内容を連載していた雑誌をかつてよく読んでいた(現在は廃刊)。なのでこの方
の辛口批評もよく読んでいた。今現在まさに翻訳と取っ組みあっている最中なので、むしろ吊
るしあげられている方に同情的になってしまう…。というのも、ここに取り上げられているのが
ほぼ専門書で、翻訳しているのはそれを専門としている大学教授が多いのだ。著者いわく「翻
訳くらいできるわい、とたかをくくってやったのだろうが、とても読めたものではない。」と歯に衣
着せずバッサリである。噛みつく先は翻訳書ばかりではない。大学入試問題にも、よくある「棒
線Aの意味を次の中から選べ」という問題があるが、選択肢の日本語のおかしさから問題文な
ど読まずともわかる、とバッサリ。
 しかし専門書の一部を切り取って採点されているため、誤訳と著者の試訳を見比べても、ど
っちみち意味不明なことに変わりは無かったりする。というかやはり自分が日々悩み格闘して
いる英語の文法の難しさを再認識させられるもので、読んでて苦笑いしかできないのである。
もう少し英語ができれば、「そうそう、そうなんだよ!」と楽しめるのかもしれないが…。



「やっぱりイギリス人はおかしい」(2006)高尾慶子 著 ★★ ’14/12/13読了
 前回最後と書いたが、まだ近くの図書館にあった(笑)
 書いていることは相変わらずイギリスのいいところ悪いところ、そして日本の悪いところ。今
回は冒頭「本書を、故 米原万里さんに捧げる」とあってのっけから泣けた。この人も米原万里
のファンだったのか…いや、知り合いだったのかもしれない。ちょっと親近感わいた。
 この人の日本憎しの感情は別の本に詳しく書いてあるらしく、やはりそちらも読まねばと興味
はそそられた。何故にここまで故郷であるはずの日本を敗戦国と罵り、元イギリス人捕虜の肩
を持つのか。ざっくりとしか書いてないし、その辺の感情がもうできあがってしまっているので、
詳しく知りたいところだ。それにしてもフットワークの軽い人だなぁ、と感心させられる。というの
も彼女が日本にいたとき、両親は別の宗教に入っていたにもかかわらず、クリスチャン、それ
もゴリゴリのカトリックに入信したことにも起因するようだ。つまりポルトガルやらイタリアやら修
道院あるところによく行かれるのだ。彼女の言い分を聴いていると無宗教を信条とする私も、
そんな恩恵あるならカトリック教徒(プロテスタントやその他の宗派でないのがミソ)になろうかと
思ってしまうほどだ。幸か不幸か自分の周りに教会は多いものの、プロテスタント系ばかりであ
る。アメリカのおかげでプロテスタントは大嫌いなので全く興味はないが。それにしても同じ宗
教でバッキリ分かれているのもすごいな。仏教もそうだが。神道はどうなんだろう?
 今回はタイトル通り前半はイギリスのおかしなところが羅列してある。が、後半はいつもの日
本憎しの演説なので、まだまだ一通りこの人の言い分を聴いてみたいところではある。ただ、
図書館に置いてあるのは本当にこれが最後の一冊なので、その機会はあるかどうかわからな
いが。



「まだまだ言うぞ イギリス・ニッポン」(2009)高尾慶子 著 ★★ ’14/12/02読了
 既に3冊目であるが、感想は大差なし。日本をコキおろし、イギリスをほめたたえ、自力で海
外生活をする自分を自画自賛。(←文法的に「自分を」が要らないのはわかっているが、文章
のリズム的になんだか必要な気がしたので…。)
 ただ今回ここは流石!と感嘆した個所があったのでご紹介したい。
 日本行きの飛行機の中で寝ようと思っていた著者の前の席の人とその友人らしき人が大声
でしゃべっていた。友人のほうは自分の席を離れ通路を占領し、著者の文句も乗務員の注意
も全く無視。結局日本に到着するまで大声で笑い、しゃべり倒したそいつはスウェーデン人だっ
た。飛行機を降り、ターミナルまで行くバスの中でそのスウェーデン人は皮肉にも著者に「Did 
you sleep well?」と聞いてきたらしい。勿論著者は怒り爆発。そして言ったことには
 「You know ... British people never call you swedish. They call you swede which means 
vegetable. Your head is vegetable which means empty.Nothing empty head. British are right. 
Behave yourself in my country JAPAN. Japanese people will recognise how much you are 
foolish. You understand?
 知ってますか。英国人はあなた方を決してスウェーデン人と呼ばない。彼らはあなた方を
SWEDEすなわち、かぶらと呼ぶ。あなた方の頭の中は野菜のように空っぽなんです。何にも入
ってない空っぽの頭。英国人は正しい。私の国日本では行儀よくしなさいよ。日本の人々はど
れぐらいあなた方が愚かか知るでしょう。わかりました?」
 これこそ日本人の心意気。これくらい言い返せないと悔しいじゃないか!他の部分はいざ知
らず、これはすごいと思った。そして影響されやすい私は、やはり英語はできなきゃだめよね、
と6月に辞めた英会話を再開すべく英会話教室を探しているところである。あぁなんて影響され
やすいんだ、自分…。
 ほかのところは勿論賛成しかねる意見が多い。アメリカのオバマ政権を手放しで喜んでいる
が、堤未果の貧困大国アメリカシリーズを、アフリカについては中村安希の「インパラの朝」を
読めと言いたい。
 図書館に置いてあったのはこれで最後なので、今後読めるかどうかわからないが、もっと前
に書いた本もやはり機会があれば読んでみたいものだ。



「ヴァレンヌ逃亡 マリー・アントワネット 運命の24時間」(2012)電子書籍 中野京子 著 ★
★ ’14/12/02読了
 フランス革命って有名な割に詳細になると知らないことが多い。革命勃発(1789年7月バス
チーユ監獄襲撃)から3ヶ月後にヴェルサイユ宮殿を追われ、2年後の1781年6月にいわゆ
るヴァレンヌ逃亡事件(王家のパリ脱出)が起こるという、実に緩慢な革命であった。動きだけ
見れば緩慢なのだけど、やってることは凄まじく、王党派一族の虐殺やギロチン刑は続々と起
こり、革命派も王党派も入り乱れの大混戦だった。
 とはいえ、この本ではヴァレンヌ事件に的を絞りタイトル通り緊迫の24時間を描いている。も
しここでこうであったら、ああであったら、という誰彼の一挙手一投足に、その後の悲劇が免れ
たのではないかというもどかしさが随所に描かれ、結果はわかりきっているのに、手に汗握る
逃亡劇になっているのは著者の筆力か。もう一つ、本書では悪女でまかり通っているマリー・ア
ントワネットだが、もしそうならフェルゼンがあんなにも愛したであろうか、というところから、そ
んなに悪い人じゃなかったんじゃないか、という再評価も加えられている。確かに一理あるとは
思う一方、男うけのいい女というのは女から嫌われるものじゃなかろうか。誰からも好かれるな
んていう人はそうそういないし、ましてや蝶よ花よで育てられたお貴族様に仁徳なんぞ望めま
すまい。私はやはり人の気持ちに寄り添えなかった無能な王妃に一票。しかし著者はもっとマ
リー・アントワネットを再評価すべく、ツヴァイクの「マリー・アントワネット」を読むべし、とおっし
ゃっているので、「ベルバラ」で満足できない人にはそちらもどうぞ。



「別海から来た女 木嶋佳苗 悪魔祓いの百日裁判(2012)佐野眞一 著★★ ’14/11/28
 まず前回読んだ女性が書いた裁判傍聴記と比較してみると、なるほど女性と男性では琴線
に触れるところが明らかに違うのだな、と感じた。こちらは裁判を傍聴しただけでなく、加害者、
被害者にも詳細な取材を行っている。例えば練炭を使うと言う点で「北の人の発想」であるとい
う証言に女性記者は「木嶋が唯一顔に感情を表した。」とあった。北の田舎で育ったことを木嶋
はコンプレックスに感じていたからだと言っていたのだが、この本でそのくだりでは「木嶋は無
表情であった。」とあった。同じ裁判を傍聴しても感覚がまるで違うことが気になった。さらに被
害者に前回読んだような「純真無垢な男性」という面はない。それどころか著者は同性として
「41歳にもなって実家暮らしで全て母親に用意してもらっている情けない男」と切って捨ててい
る。また80歳の老人にも家族に取材してとんでもない鼻つまみ者だったことを暴露している。
もちろんだからって殺されて言い訳ではないのだが、そういったひと癖もふたくせもある人々で
すら手玉に取った木嶋佳苗がすごい、ということになりそうだ。しかし著者は木嶋はサイコパス
だときっぱり言い切る。確かに育ちがよく、何不自由なく暮らしたはずの子供が特に辛い経験
もなく人を殺すことを簡単に何度もやってのけているのだからそう思うのも無理はない。ただ本
当にそうだったかというと、なにせ本人が嘘ばかり並べ立て虚飾に彩られた自分の人生を語る
のだから、何が本当だか誰にもわからない。
 この本では詳細に事件を調べているので、前回の本のように「違うかもしれない」という予断
はなく、完全に木嶋はクロという印象しかない。金を絞り尽くせば「飽きたオモチャを捨てるよう
に」殺す。一方でブログでは流産した友人に同情し「命の重さを感じます。」などといけしゃあと
言ってのける。いやもう自己矛盾を起こさないところに神経のずぶとさというか生来のサイコパ
スを感じざるをえない。
 気になったのは前の本に書かれていた、「彼女がブスな女でなかったらここまでたたかれた
だろうか」という疑問は確かにあった。そしてその答えがこの本にもあったような気がする。
「この証言を聴いて、「いいぞ、いいぞ」と心の中で拍手したくなった。のきなみやられっぱなし
では、古臭い言い方になるが日本男児の名がすたる。」という記述があったのだ。
 やはりブスな女にしてやられた、というのは男にとっては許せないことなのだろう。これが逆だ
ったら許された、こんなに注目される事件にはならなかったのでは、と思うとやはり女としては
やるせないし、木嶋によくやった!と不謹慎にも思ってしまうのだ。しかし勿論恐ろしいサイコ
パスには違いない。同情の余地は一片も無い。状況証拠だけでも十分死刑だろう。ただ、この
本では男性が敵だったかというと、むしろ裁判では女性の28歳の裁判官が、佳苗の行状に顔
をしかめていた、と語っており、同じ女として情けない、といった感情が働かなかっただろうかと
いう疑問も持ちだしている。なるほど女の敵は女。生き残った被害者の中には「母や姉に反対
されたから」という人が少なからずいた。男はだませても女は騙せないことを木嶋はよくわかっ
ていた、というのだ。確かに残されたブログを見ると叶姉妹のブログのようにウソくさい。これを
信じたのはやはり男だったのだな、女に向けてではなく、男を釣るためのブログだったのだな、
と思わざるをえない。
 この本を読んで自分の中で木嶋佳苗の事件は落着した。



「イギリス ウフフの年金生活」(2005)高尾慶子 著 ★★ ’14/11/25読了
 先に読んだ「書かずに我慢できない…」よりさかのぼること5年前に上梓された本。やはりこ
っちの方が文法に間違いはなく、一文一文が短く読みやすい。寄る年波に勝てないということ
なのかなぁ…。とはいえ、やはりこの人の意見に全面賛成というわけにはいかない。イギリスの
いいとこを持ちあげ、結果日本よりイギリスに生きることを選んだ彼女だが、そんなに好きなら
国籍もイギリスにしてしまえば?と思うほどに日本をこきおろしている。そして相変わらず故郷
姫路を汚い、汚いと嘆いてらっしゃる。一方で当時公開された映画「ラストサムライ」では3回見
に行って、その度泣いたという。このとき気になったのは、映画館を出てきたところで、「髪を金
髪に染めた身なりのきたない黄色い肌の若者」がいたという。身なりはともかく肌の色を「黄色
い」とは…。映画をみたばかりで自国の素晴らしさに感動しきりだった著者は、これが現代の
日本人かとがっかりしたらしいのだが…なんで「黄色い肌」が日本人だとわかったのだろう?中
国人とかコリアンとかもありえるのではないか?とにかく、イギリスの福祉に心酔し、イギリスの
元捕虜に心から同情している彼女はまるで白人にでもなったかのような奢りがあるのではない
か。それこそ白人の人種差別意識に毒されている証拠。自分も差別される側だということを思
い出して、我々同胞を「黄色い肌」などと言わないでもらいたい。
 他にも言いたいことは多々でてくるのだが、やはり何故かこの手の本は読んでいて楽しい。
外国の情勢がわかるからか、一個人の考え方と自分の違いを明確に考えられるからか。もっ
と著作を読みたいところだが、図書館には残念ながらあまり置いていない。買ってまで読みた
いかというと…。



「米原万里を語る」(2008)井上ユリ 他 著 ★★ ’14/11/24読了
 生前の彼女を友人知人が語る。妹さんがやはり一番知っていたのではないだろうか。とにか
く天才型というか、気になったらとことん一途に調べ上げ、それ以外は目に入らなくなるくらい
集中しているらしい。友人が目の前で話をしてると、「うん、うん」と相槌はうつが確実に聞いて
ないな、と思うことは多々あったとか(笑)皆一様に言うのはもっと長生きしてもっと作品を残し
てほしかったということだ。惜しい人を亡くしたことを再認識した。



「通訳捜査官 中国人犯罪者との戦い2930日」(2008)坂東忠信 著 ★★★ ’14/11/21
 タイトル通り中国語ができる刑事と中国人犯罪者の奮戦記。いやー、面白かった。中国人に
限らず外国人犯罪者には取り調べの際、必ず通訳がつくという。そして中国語通訳の一番の
活躍の場は残念ながら警察である。本書のように語学に堪能な刑事がいない場合ボランティ
アや普通の通訳を雇うわけであるが、その通訳が激高するようなウソを平然と着く犯罪者のな
んと多いことか!というのは別の本で読んだことはあった。「中国ではみんなのもの、犯罪じゃ
ないよ。」といけしゃぁと言う犯罪者に「ウソよ!中国でだって犯罪よ!!」とどれだけ怒鳴りそ
うになったことか…という通訳者の苦悩を読んだことがあった。しかしこの本では普通の通訳で
はない。れっきとした刑事なので、そんなウソにも平然と切り返し、矛盾を突き、罪を認めさせ
ないといけない(これが一番の難題)という、およそ日本人に対しては全く要らぬ苦労がわいて
出るらしい。この取調室での攻防は笑えるのだが、取り調べに当たっている警察官の苦労を
想うと笑っている場合ではない…でも笑っちゃうくらい面白いのだ、中国人の言い訳というか罪
を逃れようとする嘘が。これはもはや語学だけの問題ではない。国民性とか道徳とか脳の回
転とか、持ちうる能力の全てを注ぎこまねばなし得ない特殊業務である。
 著者が現役を退いたのは、こういった苦労による心労からかと思ったら、そんなヤワではな
く、単に健康上の理由であった。現役であれば百戦錬磨の彼はもっと日本の治安を中国人犯
罪者から守ってくれたのではないかと思うと残念でならない。この本を読んでいかに中国人密
航者、犯罪者が多いかということを日本人はやはり勉強すべきだろう。下に書いた高尾慶子の
ごとく「難民を受け入れよ」「外国人をもっと入れよ」などと開いた口がふさがらぬというもの。も
しビザなしで外国人を受けれるとなれば来るのはこんな輩ばっかりなのが日本である。道徳の
「ど」の字も衛生の「え」の字も持たない、そして人の言うことはきかない、自分の得しか考えな
い、そんな人々に日本は蹂躙される(もう一部されている)のだ。高尾慶子氏の言う通り難民移
民に優しい英国に全て引き取ってもらおうではないか。
 こんな輩のために日本の税金が使われていると思うと情けない。日本は授業料を払い過ぎ
である。そして一向に学ばない。日本の情けなさと中国のふてぶてしさはもう付ける薬がない
のではないかと思うと暗澹とした気持になる。本の内容はとても面白かったし、勉強になった
が、中国語学習のモチベーションはやはりダダ下がりであった…。



「書かずに我慢できないイギリス・ニッポン」(2010)高尾慶子 著 ★★’14/11/19読了
 久々面白いエッセイだった。こういう批判的な事を書いている内容は嫌いではない。しかし全
面的に著者の意見に賛成というわけでもない。なにせ櫻井良子の向こうを張ると自分で言いき
っているということは、バリバリ左翼ではいか?とちょっと構えてしまったが、そんなに左丸出し
ってわけではない。英国暮らしからもわかるように、英国の元日本軍捕虜に対してかなり同情
的で、昨今の日本の自虐史観脱却という風潮がお気に召さないようだ。まぁヨーロッパにいれ
ば日本の情報なんてそんなに入ってこないのだから、中国がどれだけ反日しててやられっぱな
しで日本人が危機感を抱いているか、というところはリアルに伝わらないのかもしれない。小林
よしのりほどでなくても、最近の日本人による中・韓叩きは目に余るところがあるのは確かだ。
著者は小林も櫻井も大嫌いらしい。その点を除けば英国の肩ばかりを持っているわけではな
く、公平な批判精神も持っているので、偏った見方ではないと思う。
 だがしかし、三つ星といかないのにはわけがある。1942年生まれの著者は今年で御歳72
歳である。これはちょっと…という日本語が多い。つまり文法的に正しくない日本語がたびたび
出てくる。著書も多いのに今更一般人が何をかいわんやであろうが、敢えて言えば、日本語が
下手な印象がかなりある。英国暮らしが長いから、という言い訳もたちそうにない。というのも、
文章に主語が抜けてることが多いからだ。主語があいまいなのは日本語にありがちなことなが
ら、英語と言えば日本語より主語に重きを置く言語でなかったか。あと、姫路生まれといはい
え、方言か?と思うような口語的表現にこちらの読むペースを乱されることも多い。例えば「ず
っと」というのを「ずーと」と書くのだ。かなり多く出てくるので、ちょっとこれには辟易した。長い
文章になると、文の前後で主語が変わっているのだから、なにもつなげなくても、一旦文を切
れば?と思うほどに意味不明になっているも箇所もあって…実に読みにくいのだ。ひょっとして
これは聞き起こしというやつかな?と思ったくらいである。単純に単語の意味がわからないもの
もある。美容師志望の女性が美容院を訴える、というくだりで「彼女をインタビューした美容院
が」とあるが文章から見て「就職の面接をした」という意味なのだろうに。林望の「イギリスはお
いしい」をあまりよく思ってないようだが(私個人はとても好きなエッセイである)、日本語のなめ
らかな文章を見習って欲しいと思う。まぁガス会社に電話して30分文句を言い続けたというと
ころから、気が強いのは言うに及ばず、かなり弁の立つ人のようなので、こういう人は年齢を考
えてもまず反省などしないだろうが。翻って自分もこんなところではあるが、文章を書く時は「人
が読んでわかるか」という点にもっと留意せねばという反面教師にはなってくれたが、会っても
お友達にはなれそうもない。先に書いた中国関連の加藤某と同じ匂いもする。気力体力勝負
で世渡りしてきた人には、他人の事情を斟酌しない傲慢さがある。雅子妃に対して「雅子様、
病は気からですぞ。そろそろ国民のために働いてくださいませ。」などとおっしゃる。こういう無
責任・無理解が精神疾患者には一番の苦痛なのだ。と、ちょっと著者に対して批判的になって
しまったが、本の内容としては面白かった。最近(以前からだが)隣の国の事情ばかりを見て
いたので、ヨーロッパからの視点というのは新鮮で、視野が広くなった気がした。
 全面的に意見に賛成しないとは先に書いたのも、反論はいろいろあるからだ。著者はヨーロ
ッパの街並みの美しさに比べ、日本の街のなんと汚いことか!と憤慨しきりであるが、今年パ
リに行って現地を観た者からすれば、正直どっちもどっちだ。確かに日本の街は区画整理とい
う点においては一歩も二歩も引けを取っているが、汚ないと言いきるのはどうだろう。道に落ち
ているゴミの量はヨーロッパのほうがハンパない。閉まった商店のシャッターにはもれなくスプ
レーでラクガキされているヨーロッパがきれいか?日本はシャッター閉まっててうらさびしい商
店街でもそんなことはない。ゴミを道に捨てる人間が遥かに少ない。公衆道徳という点におい
てはヨーロッパには大差をつけて勝っているように思える。パリだけでなく、ロンドン、ローマ、
マドリードなどヨーロッパ各都市を見たが、とにかく道がゴミで汚い、壁が落書きで汚い。その
他の点においても、私が日本人だからか、日本を批判するところは自然反論が頭をもたげてし
まう。
 と言う訳で文章が読みづらいという難点はあっても、さらにこの人のエッセイを読んでみたい
と言う気にはなった。それくらい面白かったってことです。



「黒いスイス」(2004)福原直樹 著 ★★ ’14/11/16読了
 スイスといえば、マッターホルン、緑豊かな国、永世中立国かつ攻め込まれると国民一丸兵士
となって国を守る…という程度にしか知らなかったので、タイトルにすごく惹かれた。スイスの黒
歴史とは…。
 目次の「ロマ(ジプシー)の子供を誘拐せよ 優生学思想」「悪魔のスタンプ 旅券に押された
赤いJ」「理想の国というウソ 相互監視社会 ネオナチの若者たち ヘロインの合法化 国境
を挟んでの難民ピンポン」「マネーロンダリング」など、目次だけで何があったかはわかった
…。列強国に囲まれているので、第二次世界大戦中は大変だったという話から、ヒトラーを暗
殺に行った若者の話(まだ名誉回復されていない)、ナチスに協力してユダヤ人迫害した話な
ど、歴史の暗部はどこの国にもあろう。それも国境を隣した国々なら小競り合い駆け引きなん
でもありだったろう。しかし「優生学」という一種の人種差別からジプシーを誘拐、国籍を認めな
かったり、迫害したり、2000年代に入って一部の人に政府が謝罪、補償したりしたが、今現
在はどうかというと、ネオナチという新たな人種差別勢力が新興しているというのだから驚く。
何度同じ過ちを繰り返そうと言うのか。白人ってバカなんじゃないのか(しかもこのネオナチ青
年に著者はインタビューしているのだが、論理が破たんしている。「なんかー、しんないけどぉ
ー、白人だけがいいー、みたいな?」という感じ)。意外に人種差別がひどく、それなのに永世
中立という聴こえの良さからかあちこちから難民がなだれ込んでくる。スイス人自身は難民に
それほど同情的ではなく、むしろそいつらに職を奪われるという理由から、なんとか理由を付け
てお帰りいただこうと躍起である。民主主義と言えば聞こえはいいが、つまり何でも多数決。一
人の難民に帰化を許すのも多数決。多数決で否決されたら理由なんか公開する必要ないので
ある。だってみんなで決めたんだもん、何の文句があるのよ、的な。
 さらにスイス銀行に代表されるマネロンの問題。確かに大富豪は軒並みスイスに口座がある
というのが定説である。この現代においてはさすがに怪しい口座は当局に届け出ないといけな
いことになってはいるが、「なっている」程度だそうで、機能しているかというと甚だ怪しいらし
い。
 と、この本を読めばハイジの国、のんびりヤギが草を食んでいる、赤十字が助けてくれる、な
どといった夢の国でないことはハッキリわかったので、旅行でも行きたくなくなった。



「明日から中国で社長をやってください。」(2006)五十嵐らん 著 ★★ ’14/11/13
 中国と言う国は他人事と思えば笑ってられるのだが、実際に関わるとなるとなんと厄介な国
なのだろう…と暗澹たる思いにさせられる。私自身は今現在は関係はほとんどない、が中国語
を学習するうえでモチベーションはダダ下がりである。
 本書は著者が実際に中国で仕事をした時の話しで、とにかく中国人の扱いにくさを余すとこ
ろなく描いている。一言でいえば「拝金主義」、それも筋金入りである。どんな金持ちでも、いつ
政府に資産没収されるともわからない、一寸先は闇の社会に生きているのだからそれも無理
からぬこと。一部の権力者の気分で虐げられ、人は信じられない。信じられるのは金だけ。で
は金があれば心は豊かになるのかと言うとそうはならないのが中国人である。もっともっと、と
欲望の尽きることはないのが中華思想に裏付けられた無駄なプライド。なんと扱いにくいことか
…。嘆息しか出ない…。本当にモチベーションは下がります…。しかしある意味この本は福島
香織のレポートより本質をついている点がある。中国のコピー市場について
「安い→品質が悪い→すぐ壊れる→また買う、の「チープ市場」が定着している」
あるいは中国人の性質についてなど、実際に一緒に仕事をした人の実感が事細かに述べら
れているので、福島香織の大局的なレポートも参考にはなるが、一緒に仕事をするのが中国
人であるならば、こっちの本をお勧めする。日本人ならではの性善説など捨てることだ。中国
人はこういうものだ、と覚悟を持って接すれば、いい面が見えてきた時(もちろん悪い人ばかり
なわけではない)それがプラスになったりするのだ。しかし金がからむ場合は要注意であろうこ
とを教えてくれる。なんせ日本人に限らず人を騙して自分が得をするというのが当たり前なの
だ。土俵が違う、というかもう文化の違いどころではない。やはり関わらないのが得策な気がす
る…残念ながら。将来、中国語小説の翻訳ができたらなぁ、など甘い夢をみていたのだが、ボ
ランティアでやるくらいの気持ちでいないとうまくいかないんだろうな。日本人相手でもメンタル
の弱い自分には到底中国人相手に渡り合う気などない。というか人間として打ちのめされそう
な気がするので、関わりたくない気持ちのほうが大きくなった。まぁ今のところそんな実力はな
いので、心配無用なわけだが。



「黄金の少年、エメラルドの少女」(2012)イーユン・リー著 ★★ ’14/11/11
 中国人作家による英語による短編集。「優しさ」「彼みたいな男」「獄」「女店主」「火宅」「花園
路三号」「流れゆく時」「記念」「黄金の少年、エメラルドの少女」収録。
 短編なので、どれも「え、これからどうなるの?!」というところで切られて、後は勝手に想像
してください、というところなんだろうか。どうも消化不良的なところもある。いずれも中国が舞
台の市井の人々を描いたもの。特に裕福でも貧しくもないという、中国にしては珍しく中流階の
人を描いている。このへんホンマかいな、と思ったりする。フィクションなのでホンマではないの
だが、こんな金の心配をしない人々が(中国に)存在するのか、と言う点でホンマかいな、なの
である。著者は北京大学卒業後、アメリカに留学後方向転換して文学の世界へ。現在アメリカ
で結婚して暮らしているという。つまり本人はインテリ、富裕層なのである。だからこんな余裕の
ある人々が描けるのだなー、と思わざるを得ない。というのもこの後に読んだ中国に対するノ
ンフィクションがあまりに中国人のえげつなさを描いているので、抒情的なところを描いてあっ
ても懐疑的に成らざるをえないのだ。というわけで、次の本の感想に移る。



「中国雑学団」(2008)柏木理佳 著 ★
 まぁ北京オリンピックの年の本なので古いです。めまぐるしく変わる中国に発行される本の情
報のほうがどんどん置いていかれるというのが如実にわかりますな。ほとんど知った話しばか
りで、得に驚くに値しない情報ばかりでした。副題が「アッと驚く知っておくべき中国ネタ話88」だ
ったのですが…。ただ、間違い情報も書いてあった。エンタメ編で俳優を紹介していたのです
が、映画「藍宇」で胡軍が演じたのはチェン・ハントンで、ランユーを演じたのはリウ・イエです
(紹介分では胡軍がランユーを演じたことになっていた)。出版社に抗議してやろうかな…ウソ
書くんじゃない!って。著者にツイッターで指摘してみたのだが、なんのリアクションもなかっ
た。



「毒婦 木嶋佳苗100日裁判傍聴記」(2012)北原みのり 著 ★★ ’14/11/04読了
 事件のほうは有名なのでここでは省略して感想のみ。
 別に何をして生きて行こうが日本の法律の範囲内だったらいいと思うのだけど(売春ですら
認められているではないか)、やっぱり人殺しはダメでしょう。ただ、事件の概要を見ても、木嶋
に殺人を犯すリスクを負う切羽詰まった状況が理解できない。あのまま詐欺なら詐欺を働き続
けてもこの人の巧みな話術でのらりくらりと逃げおおせたと思うのだが。検察の言う通りおとな
しい害のない純情素朴な男性たちが殺されねばならなかったのは何故か。確かに状況証拠か
らすれば殺したのは彼女かもしれないが、殺す理由が本人は勿論語らないし、検察の推測も
納得いく理由ではなかった。もう理由を知るには本人の自白しかないのだが、自白しないって
ことは殺す動機以前に検察の描いたストーリーが間違っていたのではと思えてくる。
 どんな理由にせよ本人に語って欲しいなぁと思うのだが。というのも、著者の言う通り、木嶋
を殺人犯と断定するのは男で、被害者は純情かれんな(?)男で…これが男女逆転の話しだっ
たら、騙した方が悪いと言われただろうか?何度も意識を失う経験をしながらのこのこ同じ男
の下に通う女が悪いと言われるんじゃないだろうか。加えて、木嶋の容姿。このブスが何
故?!男が何故こんな女にだまされなければならないのか、という男のプライドを引き裂くよう
な事件だったから検察は躍起になって有罪にしたかったのではないか。本書では勿論公正に
事件の概要は描かれているが、こちらも予断なく読んでいたつもりだが…どうしても男尊女卑
の精神が法曹界にもあるのではないか、という考えが頭をちらつく。
 殺すということは置いておいて、あの容姿で男を次々騙し、金を絞りとり、全く情け容赦なく切
り捨てる木嶋には喝采を送りたくなった。頭がよく、人をだます手腕にたけていただけに、穴だ
らけの殺人計画に納得がいかない。頭よかったんだから、すぐこうなる(捕まる)ことはわかる
だろうに…そう思うと本当にやったのかな?という疑問を持たざるをえない。あなたは一体なに
をしたかったの?男を騙すこと、金を絞り取ること、贅沢をすることでもなく、本当にしたいこと
はなんだったの?と聞いてみたい。別の人が書いた裁判傍聴記があるがこちらは男性が書い
たものなので、そちらも読んでみたいと思った。



「われ日本海の橋とならん」(2011)加藤嘉一 著 ★ ’14/10/31読了
 数時間で読めた。図書館から借りた本なのでこれだけ先に急ぎ感想をば。
 「中国でもっとも有名な日本人」「加藤現象」自称なのか他称なのかよく知らないけど、数年前
からこの人の名前はよく聞く…が、実態が伴わないというか、日本ではさほど有名とは言えな
いので一体何者なのか気にはなっていた。
 本書を読んでも何者なのか、は結論がでない。確かに彼の主張は正しいことを言っているの
だろう。しかし全編通して漂うこの胡散臭さは何だろう…。英語や中国語を習得した技術はす
ごい。が、プロフィールにある「北京大学へ単身留学」…単身て…当たり前やん。集団で留学
するか。っていうか留学するのは各人なので単身か集団かは関係ない。なんだかこのプロフィ
ール一つとっても「一人で何でもやってきましたで!」という自負がぷんぷんでこういう自己アピ
ールする人って苦手意識がわいてきてしまう。
 言いたいことはわかるのだが、例えば福島香織や石平らがレポートしている問題についてど
う思っているのか、などは一切答えていない。というか知らないんじゃないか。中国のいい面ば
かりを紹介する。確かに中国にだっていいい面はあるのだが、悪い面についてどう思っている
のか、どうしたらいいと思っているのかには触れていない。「四川大震災のとき、温家宝首相は
即座に現地入りし、トップダウンで被災地の救援にあたった。」と彼はほめたたえる。しかしそ
の裏にある後処理の不手際(北京五輪の前なのであわてて救援したものの復興には至ってお
らず、被災地をさっさと封鎖した)には言及していない。というか中国メディアにすっかりだまさ
れているのでは。あるのは自分はどうしてきた、中国メディアでどう上手く立ち回ってきたか、い
まや中国政府の要人にも顔が効く、という自慢である。謙虚さを持ち合わせないとこれは傲慢
と映る。彼が傲慢とは言わないまでも、すでに自分のことを誇大広告する中国人気質が彼の
中に十分備わってしまったのか、とさえ思える。
 彼のように何でも「気合いで乗りきれ!自分はそうしてきた!」を振りかざす人間ほど厄介な
ものはない。五体満足で金に不自由しない幸せな奴は何故か弱者にもそう言うのだ。そして言
われた側は「ああ、彼と自分は違う。」と距離を置く。彼が日本で受け入れられないのはつまり
そういうことではないか。自分が自分が、と出て行った結果、中国では受け入れられた。それ
が自信になった。もう少し日本人らしい「他者を思いやる」心を取り戻してほしいなぁと思った。
いやもともと持ち合わせてないのかもしれないが。とにかく薄っぺらい内容の本である。
 どうも胡散臭いのでネットで調べてみると、やはり芳しくない噂もあったし、懸念していた誇大
広告も「経歴詐称」という過去で実証されていた。自分を大きく見せ他者を威圧するのは全く持
って中国の「面子」の文化であり、チャイナナイズされていることの証明のように思えた。どうか
「中国にとって都合のいい日本人」として利用されないことを願う。もう遅いかも、だが。しかしこ
れを上梓したときから現在3年が経ち、彼が会ったと豪語していた政府のトップは胡錦濤(会っ
た、というだけで特に話らしい話はしていないのだが)は習近平へと変った。今も党の中枢とい
つでも連絡が取れると言えるのだろうか。彼はウイグルのテロや香港のオキュパイをどう見て
いるのだろうか。聞いてみたいような、どうでもいいような。
 ただ、彼の言う通りだな、と思ったのは一点。日本の首相は毎年コロコロ代わって恥ずかし
いということだ。内閣制度がよくないのではと思いはじめてきた。もうアメリカのように大統領直
接選挙にすればいいのではないか。自分たちで直接選べるのであれば、投票率もアップする
のでは?私なら投票に行く。まぁあり得ないでしょうが。安倍政権が危うくなってきた今日この
頃そんなことを思った。



「目からハム シモネッタのイタリア人間喜劇」(2008)田丸久美子 著 ★★★ ’14/10/27
 いや面白かった。イタリア語通訳の作者がいろいろな場面にでくわし、乗り切り、反省し、笑う
というエッセイ。ポスト米原万里なのである。実際米原万里とも親交が深く、思い出も語ってい
る。米原万里の猫が脱走し、探すため張り紙を作った際「この猫を見たかた、これから見る方
もこちらへご一報ください。」と書く米原に田丸氏が「万里、日本語に未来形はないのよ。」と言
うと「日本って暗い(未来がない)のね。」とのたまうのである。文法における時制の違いを指摘
したエピソードなのだが、米原氏の言葉には笑える。
 彼女の自論で(他の通訳者も賛同しているらしいが)日本語をちゃんとつかえるようになって
から外国語を習得すべしというのがある。小学生から英語を習わせるなど言語道断。母国語
すらおぼつかない奴が何をかいわんや、ということらしいが、これにはちょっと疑問がある。確
かに目的意識を持ったほうが上達するんだろうが、避けて通れないのが発音の壁だ。あくまで
私調べなのだが十代で日本語を勉強し始めた人と、二十代で始めた人では発音に大きな開き
がある。パックンやデーブ・スペクターやケビン・メアなどとてもよく日本語を知っているのだが、
どうしてもなまりがぬけない。一方幼いころから日本語を話すバイリンガルなどは発音がなめら
かだ。唯一の例外がアグネス・チャンだが。17歳で来日している彼女が今持って日本語が下
手なのはどうにも解せないが…。
 イタリアと言えば目に映る女性を男は老いも若きも口説きだすというお国柄だが、全女性に
対してかと言えば勿論違う。オバサンは見事にスルーされるらしいので笑える。他に陽気でうる
さいくらいよくしゃべるイタリア人のイメージだが、なかにはそうでない人もいる、といった少々物
悲しいエピソードなど、笑って泣ける話が満載である。他の本も読んでいきたいと思う。



「インパラの朝 ユーラシア・アフリカ大陸684日」(2009)中村安希 著 ★★★ ’14/10/27
 タイトル通り旅行記。女性で2年間たっぷり中東もアフリカも歩いて回ったというのに驚く。ま
ず女性の一人旅に向かないところばかりではないか。本人が十分注意していたこととラッキー
だったということだろう。この本を読んで彼女に続けと安易に海外へ一人旅に行く人が増えな
いことを祈る。ラッキーということがかなりの部分を占めているからだ。つい先日比較的治安も
よいというイエローナイフにオーロラを見に行った一人旅の女性が行方不明になっている。
 とはいえ彼女の旅行を否定することではない。彼女は最低でもアメリカで働き、英語が話せ、
海外暮らしを経験していることで、かなりリスクをわかったうえで行っている。まぁそれでも危な
いことは危ないのだが。紙一重の場面は山とでてくる。そのたびに臆病者の私は「ひー」と思
い、絶対こんなとこ行かないぞ!と誓いを新たにする。しかし彼女が出会った数々の親切と意
地悪はいろんなことを教えてくれる。なんとか金をふんだくろうとする人から無償で宿や食事を
提供する人まで様々だ。それらの人をひとくくりにしてあーだこーだと言える側に自分はいな
い。「そういう人もいるのか。そういう世界もあるのか。」ということしか思えない。
 「善意とプライド」という項で触れている先進国とアフリカ、日本とアフリカ、国連の援助の仕
方、日本の青年海外協力隊、などいろいろと問題提起されているところはやはり現地に渡った
人間しか知ることのできない実情が描かれていて興味深かった。そうそうそうなんだよ!と言っ
たことのある人ならひざを打つ人も多いのではないだろうか。「アフリカの貧困撲滅!」を訴え
やたら道路を敷こうとする先進国。やたら物を売り付ける先進国。それを当たり前に享受する
アフリカ。高邁な慈善精神をお持ちなのは結構だが、この歪んだ関係をこれからアフリカに渡
る人があらかじめ知っておくことやこれからアフリカと関係を持とうという人・団体が知っておい
たほうがいいことが凝縮されているように思った。



「赤い高粱」(1987)莫言 著 ★★ ’14/10/19読了
 2012年にノーベル文学賞受賞した莫言の原点ともいえる有名作品。作者の名前は知って
いたが作品は全く読んだことがなかったので読んでみようかなと。映画「赤い高粱」(張芸謀監
督、コン・リー、チャン・ウェン主演)の原作なのだが、映画のほうは忘れてしまった。しかし本を
読んだ限りではこんな話じゃなかったような。
 とにかく読みにくい。というかわかりにくい。ずっと一人称「わたし」で語られるのだが、出てく
る登場人物は曽祖父から祖父、父の代で、しかも父が子供の頃の話。それ以前の祖父母の
代の話になるともう「わたし」は関係ないのだが、飽くまで「わたし」が語るのである。「わたし」か
らみれば祖父母なのでついつい老人を想像しがちだが、祖父母のなれそめの話でもあるの
で、当然二人は若い。しかし「祖父は…」「祖母は…」と語られるので非常に混同しやすくイメー
ジしにくかった。いちいち「?」が浮かび前後を読み返しながらでないと進めないので、ひたすら
面倒だった。因みに「わたし」は最後まででてこない。「わたし」が語ることに意味があるのか。
祖父母を名前で(もちろん祖父母に名前はある)書けばもっとすっきり読める様な気がするの
だが、いちいち相関関係を考えながら読むので非常に疲れた。
 ざっくり言えば日本軍と戦った話なので(本当にざっくりでそれが物語の全てではないが)、や
はり「日本鬼子」という言葉にはいい気はしない。しかし中国人が日本軍の死体に行った残
虐、侮蔑的行為も「敢えて書く」と章の最後に書いてあるところにある程度の気遣いは感じられ
るが。
 まぁそれにしてもノーベル賞って何を基準に選考されているのか謎だな…。



「愛の徴 天国の方角」(2012)★ 近本洋一 著 ’14/10/10読了
 なんでしょう、これ…。新聞の書評で大絶賛されていたので、かなり期待して読んだんだけど
も…。読破するまで4カ月ほどかかったかなぁ。書評には「これは、もしかすると「はてしない物
語」や「ハリー・ポッター」シリーズを超えうる作品なのでは? (中略) 絵画、建築、神学、政
治、そして量子論。さまざまな「世界の秘密」を、著者は作中「人の心」に照らしながら解き明か
していきます(この面では「ダ・ヴィンチ・コード」を凌駕するほど!)。」こんなに絶賛してあれば
興味を持ってもしょうがないと思うの…思うの(春風ちゃん風)。この書評を読まなければ興味
も持たず、期待もしなかっただろうに、と思うと書評を信じて本を買うのは今後考えなければ
…。
 まず、17世紀のおとぎ話のようなストーリーと21世紀(2030年)の沖縄の大学で量子学を
勉強している女学生の話が交互に描かれるのだけど、2030年のほうが私には理解できず読
むのに苦痛すら感じ、なかなか読み進められなかった。17世紀の方はアナという孤児がオオ
カミ(初恋の少年が死んだあとオオカミとなって現れる)と暮らす話で、まだこっちのほうが読め
る。まるっきりファンタジーなんだけども。文章も読みにくい。敢えて分かりにくくしているのか?
と思うくらい。
 「確率的選択がされる時の熱平衡的反作用、つまり自己組織化に伴って環境側に生じるフィ
ードバック効果を、利用することだね。結果に結び付く特定の手続きを創造的に選び取る方法
のことを魔法と言うわけだ。フィードフォワード効果とでも呼ぼうか。」 全く意味不明である。
 まっっったくわからなかったので…★ひとつ。ネタバレ。結局ゴシック時代に建てられた教会
がすべてエルサレムの方角を向いているというのは…興味もないし検証しようもないので…最
後の最後で物語がそこに帰結しても、正直脱力しただけだった…。「長々読んで結論それ?も
うわけわからんわ…。」orz
 17世紀ファンタジーのほうは、ベラスケスという実在の画家が鏡に魅せられていたこと、鏡を
モチーフに傑作を数多く残していたことから、アナの話を書いたのはすごいと思うのだが…20
30年の量子学の話とくっつけなくても二つ別々の作品で世に出せばもっと分かりやすかった
のではないかと思った。



「北京のスターバックスで怒られた話」(2004)相原茂 著 ★★ ’14/09/30読了
 中国語教授の軽いエッセイ。なんだか知ってる話が多いなぁと思ったら、中国語会話の講師
をしていたときにテキストに載せたものが丸ごと…。話自体は面白いですが、中国語ならでは
の話も多いので中国語学習者でないと面白いと思えないかも。
 そういえば北京のスタバはなくなったんじゃなかったかな…。



「万能鑑定士Qの事件簿」(2010)松岡圭祐 著 ★★ ’14/09/30読了
 なにやらラノベみたいな装丁になっているが、映画化もされたのだし、どんなものかと一冊だ
け手に入れて読んでみたら…「続く」だって…orz それならそうと前・後とか付けといてくれよ
〜!このシリーズ1年で10冊刊行されてるからすごい。千里眼シリーズは20冊以上。十分設
けたので次のシリーズいきまひょか、と考えたのか。千里眼は2冊くらい読んで確かに面白か
ったが、こっちはそれよりちょっと文体も軽めな感じ。映画化されたのはシリーズ最後の本のよ
うだ。最後なのか以下続巻なのかわからんが。
 というわけで、結末まで読んでないのでなんとも解説できない。でも読もうかどうしようかちょっ
と考え中。面白かったかというのがどうもビミョーで。しょーもない蘊蓄は満載なんだが、メイン
のストーリーがわかりにくい。でも結末がわからないのもムズかゆい感じもするのだが…どうし
たものか。



「兜n困大国アメリカ」(2013)堤未果 著 ★★ ’14/09/28読了
 福島香織のような生の声のレポートを期待していたのだが…前2冊は確かにそんな感じで良
かったのだけど、3冊目はどうもページを繰る手も遅くなった。というのも数字や資料の説明だ
らけで話が実感しにくいように思えた。もっと現地の人の声を拾って欲しかった。もちろん取材
してるのだろうが、人の話よりデータのほうが多いような気がした。
 特筆すべきは福島香織の本で食品安全基準の指標とされているHACCPがアメリカでもやは
機能していないというのは皮肉なことだ。すでにアメリカですら食の安全は守られていないの
だ。中国でなど何をかいわんやである。あっち読んでこっち読んで「どいつもこいつも…」と開い
た口がふさがらないこと請け合いである。



「アテレコあれこれ テレビ映画翻訳の世界」(1979)額田やえ子著 ★★★ ’14/09/15
 いまや映画館で封切られる映画すら吹き替えが用いられる時代。翻訳家も沢山増えている
だろうが、この方のお名前は何度となく目にしている。戦後の日本吹き替え業界の立役者でな
いだろうか。「刑事コロンボ」の「ウチのカミさんがねぇ」を世に送り出した方なのだ。そのテクニ
ックや苦労話は当然ながら、生い立ちや翻訳家になるまでの道筋が波乱万丈で本当に面白
い。何より、今見ている朝ドラの「花子とアン」の村岡花子もそうだが、この方も留学ナシで翻訳
の仕事をしておられる。時々、やっぱりその土地に暮らさないと文化の理解は無理なのか…、
と翻訳課題に心折れそうになっている自分としては大いに元気づけられる。もちろん翻訳という
ものに造詣が深くなくたって、「刑事コロンボ」「コジャック」「逃亡者」といった米ドラマが日本に
流れ込んできた時代を懐かしく思う人はもっと楽しめるだろう。(私は残念ながら「刑事コロン
ボ」すら記憶は朧であるが)そして言葉が悩ましい(流行り言葉を使うとか日本語として正しくな
い言葉が流行っているとか)ものであるのはいつの時代も同じなんだなぁ、とも思うのである。
 映像翻訳(外国ドラマ・映画はもっぱら吹き替え専門)にお世話になってる割には、あまり翻
訳者の名前を気にしていない自分に気付き、これからはもっと誰が翻訳しているか気にかけよ
うと思うのだった。因みに今見ている米ドラマ「BONESシーズン8」「名探偵MONKシーズン8」も
かなり面白い。額田やえ子という先人が道を切り開いてくれたおかげで吹き替えがこれだけ発
展したと思うと、やはりすごいう人だなぁと思わざるを得ない。



「中国食品工場のブラックホール」(2014)福島香織 著★★ ’14/09/10読了
 これは新刊。ツイッターで知るや否やソッコー買いに走りました。内容はというと3章立てで、
いまだ衝撃さめやらない7月にスクープされた大手食品チェーン製造工場の「床に落ちた肉や
賞味期限切れの肉を使っていた」という映像の報道合戦の裏側。あれを見て「ひどいことする
ねー、中国は」ではもちろん終わらない。第2章はその他の食品安全事件について。そして第
三章が「なぜ中国で食品安全問題が起きるのか」である。結論から言えば、「やはり中国産は
食べたくない。できるだけ避けよう」なのだが、もう避けようがない現実であることを突きつけら
れる。食品そのものが危ないだけでなく、偽卵や偽はちみつ(味はそっくりだが成分は全く別物
の偽物)など中国人のモラルが完全に崩壊していることにゾッとさせられる。今回はゾっとさせ
られるだけでまったく救いがないので暗澹とした気持で読み終えることになる。本当に避けられ
ないんだろうか…。



「人生相談」(2014)真梨幸子 著 ★★ ’14/08/29
 読書のペースがここのところちょっと落ちているので、自分にカンフル剤打つべく大好物の真
梨幸子の新刊を買ってみたのだけど…期待が大き過ぎたようで…。
 連作になっていて、最後の話が最初の謎解きになるということなんだけど、ちょっと登場人物
多すぎて自分で整理出来ない…。もっとすっきりさせてほしかったな。いままでのドロドロに比
べて、ドロドロ度も足りなかったような。今までのように引きずり込まれるような勢いがなかった
…と不満たらたらですが。次はもっとドロドロ頼みますよ…。



「名画で読み解く ブルボン王朝12の物語」(2010)中野 京子著 ★★ ’14/08/06
 パリ行きの機上で読んだわけですが。やはりブルボン王朝を知らずしてパリをめぐっても面
白くなかろう、と。正確にはブルボン王朝が大きくかかわるのはヴェルサイユのみだったのです
が。ブルボンはフランス革命前の250年間なので(王は5人、なんと覚えやすい)、それ以前に
も王朝や文化はあったわけで、コンシェルジュリーやサント・シャペルはブルボンよりずっと古
いカペー朝とかそんな時代のものも廻ったので、今回の旅ではヴェルサイユのみだったなと。
 しかもブルボン王朝はまさにギロチンの刃で切り落とされたかのようにストンと終わる。絵とと
もにめぐるのは面白いので他の「ハプスブルグ家」や「ロマノフ家」も読んでみたくなった。



「はじめてのルーブル」(2013)中野京子 著 ★★★ ’14/07/27読了
 パリ旅行の予習に買った。もちろんルーブルの予習である。25年前はたいして知識もなかっ
たので、多くの名画を見逃していたことであろうから、今回は何が名画か、どこを見るべきかな
ど…しかし沢山ありすぎてもちろん全て覚えきれないから、本物見ても、あ、どっかで見たな〜
くらいしか記憶に残らないかもしれないが。持ちながら観るにはちょっと重い…ので表題の17
作品くらいは覚えて行こうと思う。



「シャバはつらいよ」(2014)大野更紗 著 ★★★ ’14/07/19
 前作「困っている人」から3年。つまり続編であるが、前作が衝撃的すぎたので、私にしては
珍しく新刊を買った。前作では一人立ちを決意。その後どうなっていたか非常に気になってい
たからだ。
 さて退院するところから始まって、退院しても通院はするので通える範囲に居を構え、受けら
れる補助や介護の申請などに精を出す。しかし「難病」なんである。健常者のようにパッパとい
かない。お役所など健常者にだってパッパといかないところを、病人にはそりゃ無理な話であ
る。しかも彼女の出身はかのフクシマ。2011311での狂騒も描いてある。彼女のがんばりには
本当に頭が下がる。もちろん、誰の事でもない自分のことだから日々必死に立ち向かわなくて
はならないわけだが。
 ”「立つんだ。ジョー!」といくら励ましたところで「立てないよ、ジョー!」状態。”
と、今作も更紗節炸裂で読み進める手が止まらない。「エンタメ闘病記」とはよく言ったもんだと
思う。しかしいろいろなエピソードのなかでも「電動車いす」の補助を申請して許可が届くまで半
年かかったということに驚いた。何にそんなに時間がかかるのか…謎だ。本当にお役所仕事っ
て謎だ。理由があるなら言ってみろ!と言いたくなる。
 あとがき「もうちょっと生きてみようと思います。」で締めくくられているのが頼もしく思えた。



「ロシアにおけるニタリノフの便座について」(1986)椎名誠 著 ★★ ’14/07/07読了
  米原万里の「マイナス50℃の世界」からのスピンオフ的な感じで読んでみたのだが…こち
らには米原のよの字もでない。実はこちらが本筋というか椎名氏がテレビのドキュメンタリー紀
行番組のレポーター役で、米原氏は通訳として同行したスタッフの一人。あちらがスピンオフだ
ったのだ。ともあれこっちもそのときのちょっとした裏話的なもので(おそらく本筋はまた別の本
になっていることだろう)、たいしたエピソードではなkのだが…。ロシアの便器には何故か便座
がない。そこでスタッフの一人(ニタリノフとあだ名がつけられている。因みに椎名氏のあだ名
はシナメンスキー・ネルネンコ。)が手製の便座を作った。それだけの話であった。他にも短編
が収録されているが、今一つ自分には魅力のないレポートであった。



「人民に奉仕する 為人民服務」(2006中)閻連科 著 ★ ’14/07/03読了
 文革時、一人の実直真面目な青年の恋と人生の物語…だがいい加減この手の主人公には
飽きた…。読む本読む本中国現代小説の主役は十中八九真面目で働き者の青年で、腐敗し
た上司にこき使われるという役回りである。唯一違ったのは「兄弟」の李光頭くらいか(超のつく
スケベであった)。中国現代小説の舞台は地方の街か農村で、出てくる人々は貧困層。日本に
はあまたのジャンルがあるが、中国にはこの手の小説しかないのであろうか。昔はファンタジ
ー、SFと多彩だった中国文学も現代ではパっとしないのは何故か。理由は察しが付くが、想像
通りだとすると中国文学に未来はないな、と翻訳の夢もしぼむ一方である。



「USAカニバケツ 超大国の三面記事的真実」(2004)町山智浩 著 ★★ ’14/16/30読了
 「貧困大国アメリカ」がアメリカ人の経済レポートならこっちはタイトルにあるようなスポーツ新
聞のレポート。著者の言う通り「リアルな笑えて泣けてぞっとするアメリカ人の実像」が見えてく
る。なかでも恐かったのが「トレイラータウンの魔女狩り」と題した冤罪の話。アーカンソー州で
起きた猟奇殺人事件で不良少年(と思われていた)が逮捕され、彼を犯人にしたい警察が証
拠を偽造、隠滅、有罪確定で収監したという恐ろしい話しだが、それをもっと恐ろしくしているの
はドキュメンタリー映画にもなっているし冤罪は周知の事実だと言うのに、司法が全く動かない
ということだ。あまりに恐ろしく、結末は死刑判決で終わっており、あまりに後味が悪いのでそ
の後をググったところ、去年やっと釈放されたらしい。ジョニー・デップなど有名人が後押しした
ということだが、彼の十年以上の人生を奪った検察側が罰せらることはないのだろうか。これ
がアメリカか、中国じゃないのか、と近代国家と思えない魔女狩り的な裁判がアメリカの田舎に
はあるのだということに恐怖を感じた。
 それ以外はタブロイド的な薄っぺらいもの(ブレイク前のスカジョや人気絶頂のジェニロペ、ド
ライブスルー結婚式をあげたブリちゃんなど10年以上前のコラムを集めたものなのでいかん
せん古い話題が多い)だったので特に何も残らないのだが、コリー・フェルドマン(リトル・ジャッ
クニコルソンと称された実力子役(代表作「スタンド・バイ・ミー」)だったが麻薬で身を持ち崩し
た)などの懐かしい名前も見れて面白かった。ただタイトルが今一つセンスがないのが残念
だ。



「中国 絶望工場の若者たち 「ポスト女工哀史」世代の夢と現実」 福島香織 著 ★★★ ’
14/06/24読了
 今回も面白いルポでした。とりわけテレビが見せる中国は中国でない、と言われている中、
著者は自分で乗りこんで取材しているので、真の中国の姿だと確信できる。タイトルから想像
を絶する悪条件の中こき使われる貧民の姿が描かれているのかと思いきや、実はプチブルの
少し下という昔の貧農とはちょっとイメージと違った世代だ。80后90后と言われ蟻族と言われる
新世代の購買欲も夢も持つ若者たち。だがそれゆえ自分たちを追いつめる社会と戦わねばな
らない。そういう若者のうっ屈した思いが反日やスト、デモなどの暴動に駆り立てる。反日暴動
が何故年々過激になっていくのかがわかる。しかし日本ではことさら反日暴動が大変なことの
ように報道されるが、反日暴動以上にストやデモは頻発している。いつかは収まる反日デモな
ど物の数ではないし、終わりの見えるデモに戦々恐々とする必要はない。彼らは終わりのない
悪循環の中で絶望しているのだ。しかし著者は希望はある、と提言している。そういう彼らと日
本はお互いにギブ&テイクできるという。そこのところは納得しかねるので割愛するが、日本が
彼らの「希望工場」になる日が…個人的にはこないでほしい…恐いから…。



「ゴーン・ガール」(上)(下)(2013)ギリアン・フリン著 ★★ ’14/06/18読了
 (上)を読み終わったところで、これ何が面白いんだ?と思ったのだが、面白くなるのは(下)
に入ってからだ。なので、上を読んで私のように疑問を持ってもそこで諦めないことをお勧めす
る。田舎に引っ越してきたすれ違い夫婦の妻が結婚記念日に失踪。誘拐か失踪か…と前半は
そこまでなのだが、後半でがぜん面白さを出してくるのが前半で描かれた良き妻像が音を立て
るように崩れて行くからだ。これから読もうと言う人の興をそいでは悪いのでみなまで言わない
が、…ただ、これ「イヤミス」の部類だということも付け加えておきたい。最後は納得いくかどう
か人それぞれだと思う。私はやはりイヤミスはすっきりしない…と思った。



「回帰者」(2010)グレッグ・ルッカ著  ★★ ’14/05/23読了
 第7作にして最終巻。なんで最終巻から読んだかっていうと、シリーズものとは知らなかった
から。と言う訳で、読んでいても、従来の読者ならわかることも初心者には分かりずらいことも
多く、多少説明不足な感が否めない。なのでやはり最初から読むことをお勧めします。私はこ
の本だけでお腹いっぱいになりましたから、あえてさかのぼって読もうという気はないですが。
ハードボイルドものとしては面白いですが、別段ミステリな要素もなく…。
 粗筋は、主人公アティカスはグルジアで恋人のアリーナとしばし平和な時を過ごしていたが、
隣人一家が惨殺され、娘は誘拐される。その少女を救うべく、人身売買組織に乗り込み国をま
たいで活躍するストーリー。なんとなくアティカスが前作まで殺し屋で同業の彼女と一緒に棲む
事になったのだな、というのが説明不足で、さらにサブキャラがいきなり出てくるけど、どういっ
た人でどういった関係かというのは前作を読めといった感じで不親切に思った。今更説明して
いては物語のテンポが落ちるのだろうけど、やはり唐突な感じでそこでしらけかねない。
 しかし訳者のあとがきや、誰や知らんけど、最後に解説を書いて本書を絶賛しているあたり
ちょっとほめすぎでないかい、と辟易してしまう。前評判が高すぎた分、物語に入れなかった人
はがっかりするんでないかと…。



「グッドラックららばい」(2002)★★平 安寿子著 ’14/04/26読了
 信金勤めの父親、専業主婦の母親、高校を卒業した長女、高校に入学した次女といういたっ
て平凡な家庭から、母親が突如出奔。一家の生活がガラリと変る。それぞれの思惑を載せて
物語は進む。…が、正直あまり面白くない。なにも大層な事件は起こりはしない。淡々と母不
在の家庭の物語と、母自身の物語が並行して語られる。どちらにもたいした思い入れもない。
あまりに淡々と語られるので読むほうもあまり力が入らないというか、何かが起こりそうにもな
いので正直退屈…。最後は大団円で終わるし。何が言いたかったのかよくわからない話。普
通の家庭にちょっと波風がたったというだけの話。



「隻眼の少女」(2010)★ 麻耶 雄嵩著 ’14/04/21読了
 閉鎖的寒村を舞台に姉妹の連続殺人事件を調査する探偵…横溝正史か!と思わざるをえ
ない。日本推理作家協会賞と本格ミステリ大賞をダブル受賞した超絶ミステリの決定版!って
ホンマかいな〜。なんだかミステリか〜?という疑問すらわいてくる。確かにトリック(と呼べるも
のかわからないが)や動機は全く意表を突いたものだったが、納得できるかと言うと…私は全く
できなかった。キャラがぶっとびすぎ。もうなんでもアリでしょ、と思ってしまう。世間的に評価が
高いのに自分的には「これはないわ〜」ということで★一つとなりました…。



「困っているひと」(2011)★★★ 大野 更紗著 ’14/04/19
 闘病記のノンフィクション・エッセイなのだが、いやはやこんなに衝撃を受けた本は初めてか
もしれない。とにかく読んでみて、としか言えない。難病闘病記といえば自分がその立場になら
なければ読みたいと思うことはないかもしれない。事実私がそうで、他にも闘病記はあまたあ
るが、どれも遠ざけてきた。暗い気持ちになること請け合い。自分がいかに健康で幸せである
か再確認しろと言われている様なやや説教めいた本というイメージがぬぐいきれない。しかしこ
の本の戦うべき病というのが「難病」なんである。「難病」とはなんぞや、という単なる好奇心か
らこの本を手に取った。
 ともすれば暗くなりがちな本とはページを繰るのも遅れがちだが、この人のユーモア溢れる文
体と緊迫した病状の描写力でまるで上質なミステリを読んでいるかのように次は、次はとペー
ジを繰るのももどかしいくらいの吸引力である。
 「困難に困難を塗り重ね、試練のミルフィーユか、わしゃブッダか!」
 「なにせ日本社会の最果ての淵、絶望のパリコレ、難病ヒルズ族、アンクロワイアーブル!カ
タストロフィーック!な日々を綴るわけで。さて、気合いを入れよう。」
 軽い文章というだけではない、ちゃんと社会制度への疑問や文句もしっかり述べておられる。
文章力がかなり高いのだ。さらに発病して以来365日インフルエンザ状態であらゆる苦痛な検
査を受けながら鬱と絶望にさいなまれ、メンタルもフィジカルのボロボロ状態で「こんな私でも生
きてます」と言われれば、わが身のラッキーさを思わずにはいられない。確かにこのお方に比
べれば自分の少々の具合悪さなど「具合悪い」のうちに入らないのだろう。そんなことで「しんど
い」「辛い」などと言ってはいけないのだろう。…でも辛いものは辛い。程度の差こそあれ「困っ
ているひと」はどこにでもいる。と自分の弁護に回ってしまう自分もいる。
 一番衝撃を受けたのは誰にでも励ましの言葉であろうと信じていたことば「明けない夜はな
い」「明日は必ずやってくる。」が闘病者には「また辛いことが始まる」「もう嫌だ」と全く逆効果を
もたらすとわかったことだ。確かに仕事が辛かったときは朝が来ると「また仕事か…」と絶望的
になったものだ。気をつけようと思った。
 と、まぁ彼女に比べればなんと自分の文章力の酷いことか、とちょっとヘコむが…熱がない、
倦怠感がない、体の痛みがない、歩ける、座れる、食慾がある、自力でトイレに立てる、という
ことに感謝していこうと思った。
 余談ながら、著者が原稿を書くにあたって発した言葉「原稿用紙ってなんですか?」!!?現
代の学生とのジェネレーションギャップに驚いた…。最近はみんなワードなんですか…そーで
すか…。



「あなたに不利な証拠として」(2006)★★ローリー・リン・ドラモンド著 ’14/04/15読了
 アメリカ・ルイジアナ州を舞台に女性警官を描いた短編集。アメリカ探偵作家クラブ賞受賞。
というだけあって面白いのだが、ミステリとはちょっと違う。どこが面白いかというと、警察の仕
事について実にリアルに描写、犯罪現場や死体の状況など、ドラマは小説ではさらっと流され
ているが、現場の処理に当たる人間にとっていかに大変なことであるか、リアルに描かれてい
る。そうだ、きれいな死体などないのだ。「死」とは醜いものなのだ、と思い知らされる。もしきれ
いな「死体」であったとすれば、かなり運がいいと言わねばならない。
 ミステリの要素はないものの、死体にまつわる人間の心はミステリーだと言わざるをえない。
「死」をめぐっていろいろな人間がいろいろな心理を語る。人の心がミステリそのものなのだ。
そういうことで言えばこの小説もミステリの範疇かもしれない。



「プラ・バロック」(2009)★★ 結城 充考著 ’14/04/06読了
 日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。確かにストーリーもキャラクターもよく練られていて
読みやすい文体で受賞も納得。冷凍コンテナから14人の男女の凍死体が発見された事件か
ら始まる謎。しかし操作の邪魔をするのは謎ばかりではなく、主人公の女性刑事クロハの置か
れる警察組織の人間関係が行く手を阻んだりする。ネットのSNS空間が舞台となったり、ネッ
トに疎い私には、今後こんなSNSを使った犯罪ミステリが主流になるのかな、などと一抹の不
安はあったが、おおむね今までに読んだことのないミステリとして楽しめた。



「証し」(2002)★★ 矢口 敦子著 ’14/04/02読了
 新聞にデカデカと広告が載っててさぞや傑作なのかと思いきや聞かない名前だし、その後も
特に良作だったという書評も見ない。読んでみて納得。一応ミステリで湊かなえや真梨幸子の
ようなドロドロなのだが、やはり力量不足なのか読む方に力が入らない。形式としては宮部み
ゆきの「理由」に似ているのだが、なんだか主人公が魅力不足というか、読み進めたくなる内
容ではないというか。体外受精というテーマは悪くないと思うのだが、なにせ主人公が嫌な奴な
のでなんの興味もわかないというか…。大筋は悪くないのでもっと魅力的な見せ方があったの
ではないかと思えて残念。



「七つの海を照らす星」(2008)★★七海 迦南著 ’14/03/31読了
 「七海学園」という児童養護施設で起きる不思議な事件を綴った連作。鮎川哲也賞受賞作。
というからにはよほど面白いのかとおもったが…やはり短編だけに謎は小さいし、謎解きが終
わったあとでも今一つ納得できないことのあった。伏線が見えすぎて、そこは読者にもわかる
のだが、そうではありませんでしたというどんでん返しのつもりがうまくひっくり返せてなかったよ
うな。ただのこじつけのように思えた。連作に関わった犯人(ではないが)が一人によるもので
した、というのは蛇足で、それぞれの話のラストだけでよかったのでは。まぁそこは人それぞれ
かもしれない…。賞を選考した3人の作家の書評が載っていたが、最終選考の他2作を読んで
る人はいないので、それは余計では、とも思った。ただ、書評にもある通り本格は難しい時代
になってきたのかもしれない、とは感じた。かのシャーロック・ホームズが最近現代版としてリメ
イクされたことで新旧の比較が出ていたが、現代の方が触れる情報量が圧倒的に多い分現代
版の方が不利と出ていたのも納得。操作方法が多岐にわたりすぎて複雑化し、民間人レベル
では追いつかないのだ。日常ミステリの方が思いつくことも多いだろうが、それだけに小粒な感
じがするのも否めない。本格より日常か、または逆か、それは好みによるところが多いだろう。
因みに私は本格のほうが好きなので、受賞作と言えど少々辛口になってしまうのはそのため
だろう。
 舞台が丁度ドラマで話題になった児童養護施設でもあったので、その辺の事情を誤解のな
いように説明しているところは親切だと思ったし(ドラマでは誤解されまくりというか事実を全く無
視した設定だった)、それをミステリに利用しているところも新鮮な感じはした。児童養護施設
の現状という点だけでも読むに値するとは思ったが、ミステリを加味するならば、あるいはやは
りミステリとして採点すると…評価はミステリの中では低くなった。



「ポップ1280」(2000)★ジム・トンプスン著 ’14/03/17読了
 「パルプ・ノワールに屹立する孤峰」とか言われて2000年に日本上陸したのだが、内容から
するとどうも原題ではないなぁと思っていたら、初出は1964だというから驚きだアメリカではそれ
なりの評価のある作家だったが何故か日本で日の目を見たのは最近ということらしい。パル
プ・ノワールという分野がいまひとつわからないが。
 この小説が「このミス2001」1位に輝いたのだが…正直それほど面白いとは思わなかった。
ただ普通のミステリのように、事件があって探偵役が推理していくということではなく、犯人の視
点で事件の最初から描かれているのが確かに新鮮に思えた…が、なんと言っても50年前の
作品である。新しいと評していいのかどうかはわからないところだ。しかし犯人の視点で描かれ
ると、話がどう転ぶかわからないという面白さはあった。残念ながらその期待は裏切られた。ど
うということも無い結果に終わった。もっと劇的な最後を期待したのだが…。因みにタイトルの
「ポップ」とは「人口」の意味。「人口1280人」の田舎街を舞台にした物語。翻訳が上手なのか
読みやすくて、ストーリーがどう転がるのか分からない面白さからすいすい読めたのだが…結
末が今一つで残念だった。



「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」(2004)★★桜庭 一樹著 ’14/03/14読了
 なんでこんな登場人物が奇妙なキャラクターなんだろうかと思ったら、読み終わってから作者
の名前を見て納得。「赤朽葉家の伝説」の著者だったのだ。どうもキャラが奇をてらったように
しか思えなくて、起こる事件もあまり面白いと思えない。ただ軽い文体なので読みやすいのは
確かだが、軽過ぎて子供向けかと思ってしまうほどだ。なんだかよくわからない小説だった。



「わたしの外国語学習法」(1981)★ロンブ・カトー著 ’14/03/11読了
 こういう独学でどうこうという学習指南書というのは好きではない。大体その人にしか合わな
いやり方だからだ。では何でこの本を手に取ったかといえば、翻訳が米原万里だったからだ。
やはり彼女の学習法は特別な人にのみ有効に思える。ただ単語帳作成方法だけちょっと真似
てみたが…やはり私にはあまり効果ないようだ。
 ただやはり語学の勉強はして損はないし、あまたの人が興味をひかれ続けるものであること
は確かだ。



「愚か者、中国をゆく」(2008)★★★ 星野 博美著 ’14/03/06読了
 いや面白かった。一気読み。この人の本は初めてなのだが、軽妙洒脱な文体にすっかり虜
になった。
 80年代後半の中国旅行である。まだ改革開放が始まったばかり、当然田舎にはそんなもの
浸透していない時に、超田舎の敦煌まで香港から列車旅行に旅立ったというくだりで、どれほ
どの困難があったかは想像に難くない。それに香港大学の友人との二人旅。一人ならまだしも
二人である。当然人間関係もおかしくなる。ちょっとこの二人の関係が謎なのだが…。旅行中
はあくまで友人というスタンスだが、旅行後「別れた」という表記から、あれ、やっぱりBFだった
の?と思うのだが、旅行中はそんなロマンスめいた文章は一行たりともない。まぁそこはおいと
いて、電車の切符の取りにくさは小田空の著書でも何度となく書かれている(ひょっとしたら彼
女たちは同年代かもしれない)ので、状況はわかる。しかし著者はその切符が取れないという
状況に対するいら立ち、怒り、こうすればよいのではないか、果ては何故切符がないという現
象が起きるのかといったことを検証したということを事細かに書いてある。ことほど左様に切符
の問題はこの本では重要である。
 また重要なのは二人の旅先での時間の過ごし方である。著者は当然観光に行くのだが、何
故か相方は本(それもドストエフスキーの「白痴」)を読みふける。著者はついに彼に意見してし
まう。彼は意地になって観光に行かず、本にしがみつく。私が思うに、やはり彼の方がこの二
人の緊密な関係に飽きたというか、うんざりしてしまったのではないか、と思う。私は一度だけ
友人と旅行に行ったのだが、何故か友人にキレられたことがあった。当時会社の同僚数人が
友人と二人で旅行に行くのはよくない、と聞いたことがあった。何故か箸の上げ下げといった
細かな事にいら立つようになるのだとか。以来私の旅行の伴は母となり、お互い遠慮なく言い
あうからか、喧嘩して帰ってくるということはなかった。一人もしくは3人以上の複数でなら旅は
いいのかもしれない。スケジュールと多人数で催行されるツアーでない自由旅行では同行者と
の人間関係が大事であるとこの本は再確認させてくれた。
 確かに旅行に行って観光しないのはどうかと思うが、あまり読書する人を責めないでほしいな
とも思った。何を隠そう私も旅行には本が書かせない人なのだ。移動中などまとまった時間が
るとわかっていて本を持参しない手はないと考えている。のどかな景色と言うのはすぐ飽きる。
読書がすすむのだから、そこは許してあげて欲しいなと思ってしまう。
 著者の本をもっと読みたいと思ったこととドストエフスキーの「白痴」も読んでみて損はないか
もしれないと思わせてくれたのも収穫だった。この旅の同行者であったマイケルの写真が最後
に載せられている。穏やかな笑みをたたえた好青年だった。「マイケルに捧げる」という最後の
一行がこの旅行の全てを物語っていた。



「マイナス50℃の世界」(2007)★★米原万里著 ’14/03/04読了
 まず自分では絶対行かないであろう極寒の地の旅レポート。マイナス50℃とか30℃とかもう
想像がつかないので、どっちでも大差ないのではないか、と思うが、実際はマイナス50℃がふ
つうの土地だとマイナス21℃は暖かく感じるのだとか…。もうわからないけどね。それも氷の
世界とはいえ氷とはどういうことか、凍結より怖いもの、など日本では知り得ない情報ばかりで
目からウロコである。しかし難しいことはない、子供向けに書いてあるのでやや物足りないくら
い平易な文章で書かれている。最終章になってようやく米原節が出てくる。解説を書いた椎名
誠も絶妙に面白い。同行した椎名氏がたった数ページの解説とはもったいない。と思ったらも
ちろん彼もこれをネタに本を一冊上梓していた(「ロシアのおけるニタリノフの便座について」と
いう似ても似つかないタイトルだが)。久しぶりの米原万里に大満足であった。



「中国のとことんあきれた人たち」(2001)湯浅 誠著 ’14/03/03読了
 こういった中国のトンデモ本は数あるので、内容も以前読んだことのあるような内容ばかりな
のだが。たかられる日本企業、官僚腐敗、密航、凶悪犯罪etc,etc。この本が他と一味違うの
は、ではこんな中国人とどう付き合うべきか、が最終章に書いてあることだ。非情にならざるを
得なかった中国の過酷な歴史、中華民族といったちょっとした弁護が入り、結論としては「欧米
人のように中国は異質な文明であると割り切る」ことらしいが。これが2000年の話で、10年
以上経った今、なおも中国による被害は続いている。大気汚染、密航、反日。つい最近テレビ
で「中国の大気汚染は日本も辿ってきた道なのだから、日本が手練手管を教えてやればい
い。」といった意見を聞いた。いまだに中国の大気汚染がそんな単純なものだということだとい
う説がまかり通っているのだから、日本人の中国を見る目、あるいは中国に対する情報はちょ
っと深く知ろうとする人間だけしか新たにされていない。常識としてはまだまだなのである。
 全人代が開かれている今、中国はいまだ日本に対して強硬姿勢である。いつになったら対等
に、あるいは劣勢から抜け出せるのか、とため息をついてしまう。



「SWEET HOME CHICAGO」(2012)★★★ヤマザキマリ著 ’14/02/28読了
 薄いエッセイ本なので1日出読めます。しかしこの人の本人に好む好まざるを関わらずワー
ルドワイドに飛び回っているのを読むと、自分はまだまだだな〜と思ってしまう。実家から神戸
に移り住んだだけでへたり込んだ自分には、子供のころから香港、イタリア、ポルトガル、エジ
プト、シリア、そしてアメリカのシカゴに住むという放浪者のような、でもどこでも住めば都と言っ
てしまう肝の据わり具合に天晴と言わざるを得ない。
 そして現在は息子の大学進学を機に著者夫婦はイタリアにもどっているらしい。まぁポルトガ
ル以降はご主人の仕事上(とはいえ本人の好みが非常に強い)なので著者は振り回されただ
けなのだが。ご本人は気候の温暖なポルトガルが非常にお気に入りだったらしいが。
 そんな著者のシカゴへの移住顛末記。この人のエッセイマンガやエッセイは本当に面白いん
だけど、漫画本作は一つも読んでないことに気付く…。どんな空想より彼女の現実の方が面白
いような気がしてならない。



「名もなき毒」(2006)★★宮部みゆき著 ’14/02/26読了
 「小暮写真館」があまりにスカだったんで、「火車」を送り出した宮部みゆきがこんなもんじゃ
ないはず、と往年の大傑作並のよさを求めて選んだのだが…確かに「小暮写真館」よりはマシ
なんだけど、「火車」ほどの面白さはなかったな…。どうした、宮部みゆき、力尽きたのか、と問
いたい。
 とまぁあまりけなしてもなんですので、ちょっと粗筋解説。杉村三郎は大企業の広報室で働く
サラリーマン。ごく普通の30代前半の男性。でも奥様はその大企業の社長の娘だったのです
…いわゆる逆タマ。彼の近辺で起こる事件が少しずつリンクしていく…この辺は「魔術はささや
く」を彷彿とさせる話運びの妙味なんだけど…。宮部みゆきの作品に出てくる主人公はいい人
が多いのだが、この杉村ももれなくいい人で、こんないい人でなければ事件に巻き込まれる事
も無いのではないかと言うくらいいい人で、ある意味ちょっとキャラとして味付けが薄いんだけ
ども、まぁそれが宮部作品の主人公なのだからよしとせざるを得ない。彼の勤める会社にバイ
トとして雇った女性があまりに無能かつ自分勝手で仕方なく解雇すると、逆恨みされ次々と彼
の周りに事件を起こす。それと全く関係ないが無差別殺人が巷では起こっていた。これがどう
杉村とかかわってくるのかが、ミソなんだけれども。
 今気付いたんだけど、作中でてくる「原田いずみ」と言う女性の名前「ハラダイズミ」と思って
たら、「ゲンダイズミ」だそうだ…まぁどうでもいいけど。



「フリッカー、あるいは映画の魔」(1998)セオドア・ローザック著 ★’14/02/18読了
 正直言うと「読了」とは言えない。久しぶりに上下巻の上を読むのがやっとで下に手が出ない
という経験を味わった。そうないことなんだが…しかも読みたかった本でもある。どこかからか
面白くなる、と信じてページを繰ったのだが、一向に話しは面白くならず…上を読み終わってか
らなかなか下に手が伸びず…とうとう飛ばし読みしてしまった。どこが面白いのか分かる人い
たら教えてくださいって感じで。映画ファンの自分としては映画を題材にしたものが面白いと思
えなかったのはちょっとショックだ。マニアック過ぎるという訳でもない。一般的に考えても…ど
こがミステリなのかわからなかった。しかしそれをそう簡単に認めるわけにもいかない。なにせ
「このミス」1位に輝いているのだ。万人が認める傑作なのだ。自分だけが楽しめないなどある
はずがない…あったのだな、これが。どう贔屓目に見ても面白いと思えず…ギブ。だからって
お勧めしない訳ではない。どうか読んでみて世間一般の評価と私の評価、どちらが正しいと思
うかお確かめ下さい。



「私の紅衛兵時代」(1990)陳凱歌 著★★ ’14/02/17読了
 日本の出版社が依頼して書いたものらしい。「さらば、わが愛/覇王別姫」の監督だが、南京
大虐殺の映画を撮ると息巻いていると聞いてちょっと引いた覚えが…結局製作しなかったよう
だが。あとがきを読むと親日家でもあるらしいので、ちょっとほっとした。翻訳した人が悪いので
はないだろうが、著者が文筆家でないからか、ちょっと文章が読みにくいというか文章になって
ないところがあったりしたのだが…私の読解力が悪いのだろうか。
 ともあれ文革まっただ中に青春を生きた生き証人の大事な証言録ではある。いまだ書けない
ことも多かったろう、仮名にしてあるのは今持って名を明かせない何かがあるのだろう。文革
は過去のものではない。その残酷さは今も格差社会となった中国にはそっくり引き継いでい
る。今の中国をみると他人事ながらブスブスと大衆の怒りの炎がくすぶっているように見える。
反日以外の暴動の多さ、デモの多さがそう語っている。人民に潜む暴力性や残虐性をむき出
しにさせる、そういう時はまた来るような気がする。そう遠くない日に。



「危ない中国点撃!」(2006)福島香織 著 ’14/029/07読了
 最近ハマっている福島香織の過去の著書。やっと手に入りました。この本読むと本当に中国
大丈夫?と思うし、これだけムチャクチャされても人間て生きていけるんだなぁとも思う。最後
に中国の一側面と書いてある。そうだよな、全部がこうならさすがの中国人民絶滅しちまうんじ
ゃないかという恐ろしいことばかり書いてあるのだ。対岸の火事だから面白く読めるが、もし自
分の身に起こったらと思うと、日本に生まれたことを本当にありがたく思ってしまう。明治天皇
の玄孫の本読まなくても、十分日本に生まれてよかったと思いますよ。



「「従軍慰安婦」にされた少女たち」(1993)石川逸子 著 ★★ ’14/01/31読了
 日本もようやく自虐史観から脱却しつつあり、多少右寄り傾向にある昨今、逆の立場の人の
本も読んでみようかなぁ、と思ったのだ本書を手に取った動機。
 書かれていることが本当だとしたら酷いことだと思うし、論争の的になっている「軍の関与」は
この本では、真っ向から日本軍のやったこととして書いてある。私が思っていたのは一部の軍
の下の方の人たちの暴走だったのではないか、ということだったが、この本では軍隊が組織だ
って行ったことと断罪していた。そうなると一つ疑問が出るのだ。被害者がこれだけ多くいて加
害者がこれだけ多くいるのに、何故被害者の声だけなのか、と。「私がやりました」という加害
者が一人として声をあげないのは何故か。実は一人いたのだが、後にウソでした、と認めてい
る。それ以前も以降も現れてない。そしてこの本にある残虐行為が残虐すぎて日本人がやっ
たことかどうか疑わしい。つまり「日本軍」の名を騙った中国人、朝鮮人の行為だったのではな
いか、という疑問も生まれる。著者が書いているのは勿論聞き書きで、自分で見た戦争ではな
い。言うだけならいくらでも言うだろう。中には本当に酷いことをされて涙ながらに訴えた人もい
るだろう。しかしそこで心動かされていいものだろうか。自分が日本人だから日本人のやったこ
とを酷いことだと認めたくないということではなくて、単純に今の世相から見て、残酷さで漢民族
に勝るものなしというところから、果たして他民族にこんな酷いことが、中国、朝鮮を差し置い
て、日本ができるだろうか、という疑問である。そういった疑問にこの本は答えてくれるもので
はなかった。「従軍慰安婦」はあったと言っていいのか、なかったといっていいのか、自分には
まだ謎である。一方的に「なかった」「あった」という本はあるが、一方的に自分側の証言だけを
載せているので、相手の言っていることを論破する方法で納得させてくれる本がない。あるとし
たらその証拠は?なかったとしたら何故こんな人たちの証言が出てくるのか?それに応えてく
れる本はまだない。



「中国 反日デモの深層」(2012)福島香織 著 ★★★ ’14/01/26
 これを読んで中国共産党や中国国民の社会がよくわかるのだが、それと同時に日本の弱腰
外交が浮き上がる。日本は「弱い」「お人よし」がここまで浸透しているとは、情けない限りだ。
ネットのジョークで、六カ国協議でどうやったら日本を怒らせることができるか、というのが上が
っているらしい。
 北朝鮮代表「拉致られても怒らない国だからなー。」
 韓国代表「竹島不法占拠しても怒らないし。」
 ロシア代表「北方領土とられても平気みたいだ。」
 中国代表「反日デモで大使館に石投げても、日中友好って言ってるよ。」
 北朝鮮代表「さすがに核ミサイル撃ちこみゃ怒るだろう。」
 するとアメリカ代表が言った。
 「ダメダメ、それは俺がもうやってみたから。」
と、ここまでお人よしと思われているのだが、それを裏付ける事件があった。2012年8月駐中
国大使の乗った公用車の国旗が奪われた事件だ。事件の詳細と背景はこの本に詳しく書いて
あるが、感想としては、ここまでされても声を荒げないのは「大人な態度」というより弱腰にしか
見えない。そんなに中国恐いか?中国人に「ここまでされても怒らないんだ。」と呆れられても
文句言えないのではないだろうか。もうちょっと外交上手になってほしいと一日本人としては思
った。



「中国美女の正体」(2012)宮脇淳子・福島香織著 ★★★ ’14/01/25
 いや、面白かった。対談形式なのですぐ読めてしまうのだが、内容はあのでっかい国の女と
いう生き物についての考察なのでなかなかに奥が深い。ただ、私の知っている中国人(歴代の
中国語の先生しかいないのだが)女性が、そんなに薄情でしたたかで野心に富んでいるかとい
うとどうも、違うような…。日本で中国語を教えている人たちというと、ある程度教養があって
(大学出ている人が多かった)暮らしも豊かで金儲けに汲々としていない。日本の生活を適度
に楽しんで、ゆくゆくは母国に帰るという感じであった。歴代の中国語の先生のなかで一人だ
け、農村(というか新疆・ウイグル自治区)出身で、農家の貧しさを述べた人はいたが、その他
は上海や北京といった大都市からきたお嬢さんばかりであった。ので、私は運が良かったのか
もしれない。しかしあの国で生きて行くためには「悪女」になるというより、持ってる武器を使っ
てのし上がっていくのが当たり前でそうしなくていい日本はやはりいい国ということになる。



「バイバイ、エンジェル」(1979)笠井 潔著 ★ ’14/01/21読了
 「ヴァン・ダインを彷彿とさせる重厚な本格推理の傑作」って、ヴァン・ダイン読む気無くすわ
…というくらい難解な文章で、読みにくいことこのうえない。
 「犯罪と言う事実は、実に複雑な要素が見分け難いほどに絡み合った一つの混沌です。けれ
ども、迷路のように錯綜した意味の連鎖が、どこかにある一点に向かって不可避に収斂されて
いるときには、そこに向かって現象学的直観を働かせてみるのが有効かもしれません。」
 といった哲学と仏語が何かにつけ出てくるのが読みにくい。トリックというか真相がわかっても
それまでの煙に巻くような文章の難解さから「ああ、そうですか」くらいの反応しかできなかっ
た。それに最初の謎に対する答えにも納得ができなかった。「殺人後の被害者の首を切り落と
したのは、化粧してないことがバレないため。」アリバイ工作の都合上、この化粧している・して
いないが非常に大切なのはわかったが、化粧を施していないことを隠すため首を切り落とし運
び出したというのには納得できなかった。いくら犯人が化粧に疎くても口紅くらいひかせられる
だろうに。それだけで化粧しているような印象になる。が、、ストーリーでは首を切り落としたの
は被害者の特定をミスリードさせるためと言う方に、読者をミスリードしていくのだが…やはり
首がないとなれば被害者の特定ができないということを考えるのがふつうではないだろうか。ウ
ラをかいたのだろうが、真相の理由の方が不自然に思った。
 とにかく、読み終わってやれやれであった。



「小暮写真館」 宮部みゆき著 ★ ’14/01/15読了
 これが名作「火車」を世に出した人と同じ作家の作品か、と思うほど筆力も物語も落ちた感じ
だ。ラノベみたいな軽い文章と漫画みたいなセリフのテンポ。確かに読みやすいが…何よりス
トーリーがくだらな過ぎて…。量が多いだけにもっとなんとかならなかったのか…。残念としか
言いようがない。



「中国 複合汚染の正体」(2013)福島香織 著 ★★★ ’14/01/03読了
 本屋で偶然見かけて衝動買いしてしまった。最近この人にハマっている。対中国モノと言え
ば、多くはその政府・一党独裁の中国共産党を相手にした体制批判が中心だが、この人の本
はそれよりもっと中国の国民、人間の姿を見せてくれる。「現場を歩いて見えてきたこと」とある
ように自身で単独取材の経験もレポートしているので、その難しさや人とのふれあいなども細
かく書かれている。
 結論から言えば「複合汚染の正体」というのは大気ひとつとっても排気ガス、粉塵、石炭等燃
焼、塗装噴射それらが空気中で化学反応を起こしているという本当にややこしい大気になって
しまっているということだ。日本の公害のようにこれという毒物を特定して、それを取り除けば
解決というわけにはいかず、生活から経済から全てが関わっているのでもはやどこから改善す
ればいいのかわからない状態だという。加えて、人のモラルの低さもある。格差社会から生じ
る生産者は貧しい農民で消費者は都会の住人。妬みもあり生産者は富裕層の食べる食品の
安全性なんて顧みない。平気で毒の混ざった食品を生産し提供する。土壌が汚染されている
のでしょうがないという諦めと、消費するのは自分たちじゃないという楽観から、食の安全は崩
壊している。その根っこには妬みや嫉みといった感情があり、生産者としてのプライドなどな
い。これが中国国内だけの問題ではなく、もちろん輸入相手国の日本にもかかわってくるのだ
から、当然解決してほしい問題だが、やはり事は左様に甘くない。というよりお先真っ暗と言う
感じだ。
 著者は解決にはやはり一党独裁ではなく民主主義が必要、と説くが、一党独裁でも崩壊しか
かっている国家が、民主主義になったところで果たしてまとまるのかと思う。当然チベットやウ
イグルという独立する民族も出てくる。民主主義の選挙となれば我も我もと収拾がつかなくなる
ような気がする。加えて何とかするのは自分たちでなくお上の仕事と、他力本願も甚だしい国
民の作る社会が、民主主義の登場でなんとかなるものだろうか。
 ともあれ体当たり取材のリポートものとしては大変興味深いものだった。



「名画の謎 陰謀の歴史編」(2013)中野京子 著 ★★ ’14/01/03読了
 自分へのクリスマスプレゼントとして買った。名画解説の本なので当然名画が載せてあり、そ
の分お値段も高いので、自分としては思い切って買った方だ。
 しかし、内容はというと…「陰謀の歴史編」とタイトルにあるほど恐ろしい陰謀が名画に隠され
ているというほどのものではなく…なんだか名画をそのまんま解説してあるだけにとどまったよ
うな。「恐い絵」ほどのインパクトもなく、名画もどこかで見たことあるような、ないようなビミョー
な名画が続く。期待が大きかっただけに…残念。



「あなたに似た人」(1973)ロアルド・ダール著 ★★ ’13/12/29読了
 「チョコレート工場の秘密」などの著作から児童文学作家だと思っていたが、大人向けの童話
なんかも発表しているらしい。今作は15編からなる短編集で、ミステリの要素も多い。とはい
え、レイ・ブラッドベリやオー・ヘンリーのように傑作ぞろいというわけでもない。ちゃんとオチの
ある「味」もあれば、ちょっとピンボケなファンタジー「偉大なる自動文章製造機」や、なんだかよ
くわからない「クロウドの犬」など出来にバラつきがあるような。どれもちょっと皮肉やユーモア
のある英国版「注文の多い料理店」のような作品で宮沢賢治と作風も似ている様な気がした。
ロアルド・ダール入門としてはいいのかも。ここから彼の作風が気に居れば別の作品に手を伸
ばすもよし、もう結構と思えばこの本だけでロアルド・ダールを読んだということにすればよろし
い。私は後者だった。



「百舌の叫ぶ夜」(1990)逢坂 剛著 ★★★ ’13/12/26読了
 最初から最後まで息をつかせぬ展開で、久々に面白いサスペンスものだった。



「ラットマン」(2008)道尾 秀介著 ★★★ ’13/12/21読了
 これも最初の印象ペラくてチャチャっと読んでしまえそうだな、というところから最後の二転三
転する結末との差が大きくて個人的に★3つ。道尾秀介という作家を侮っていたということにな
ろうか。なんせあの最低視聴率を叩きだした月9ドラマ「月の恋人」の原作者ということで、どう
せしょーもないんだろうなぁくらいの印象しか持ってなかった。なんで買ったか正直思い出せな
い。
 タイトルと軽ひょう浮薄なバンド演奏の描写で、やっぱりそんなもんかなぁと思っていたところ
から、主人公の過去の事件と現在の事件が交叉して、最後繋がるところなんてお見事!と言
わざるをえない。タイトルの意味もようやくわかる。正直最初はこのタイトルどうかなー…と思っ
たのだが、このタイトルこそが物語の鍵なのでやはり外せないのかも。しかし私みたいな印象
を持つ者もいる…タイトルが妥当かどうかはやはり考えるところだが、このタイトルの軽さと物
語の比重は反比例していると言っていい。
 読み終わってから著者経歴を読むとズラズラと過去の受賞作が並んでいた。「カラスの親指」
もこの人だったのか。阿部寛主演だったんで、東野圭吾作品と思い込んでいた。こりゃうっか
り、スミマセン。しかしそう思うにつけなんで「月の恋人」なんていうしょーもないラブストーリーを
書いたんだか…ミステリは上等でもラブストーリーは苦手なのかも…。



「硝子のハンマー」(2001)貴志 祐介著 ★★★ ’13/12/20読了
 なんと一転して★3つである。最初の印象と読み終わってからの印象が個人的にガラリと変っ
たからというのもある。最初数ページ読んでかなり落胆した。実は「鍵のかかった部屋」という
月9ドラマを見ており、その原作本だということがわかったからだ。ドラマを先に観てトリックを知
ってしまっている。こんなお粗末なことはない。とはいえ、キャラクターはドラマとはかなり違うよ
うなのでとりあえず読み進めてみることにした。話にのめりこんだのは後半第U部「死のコンビ
ネーション」に入ってからだ。前半第一部「見えない殺人者」では弁護士・青砥純子と防犯グッ
ズ販売社員の榎本径が、あらん限りの知恵を振り絞って密室殺人のトリックに挑むのだが、ト
リックを知ってしまっているのでいかに丁寧に描いてあってもあまり興味深くは読めなかった。
なんせどうやって殺したのかを知っている。彼らの創造や検証が徒労に終わることがわかって
いるのだ。しかし、後半に入ると、全く事件とは関係のないような男の半生から物語は入ってい
く。これが密室殺人に徐叙に近付いて行き、到達するときにはもう本を手放せないくらいの緊
迫感でぐいぐい引っ張られる。だからこそトリックが暴かれるときのあっさりさが今一つな気も
するが。こんだけ引っ張っておいてサラっとしたもんだな、と。
 とはいえ、読み始めに「あ〜あ」と思っちゃったとこから、後半へののめりこみ具合が我なが
らふり幅大き過ぎて、個人的に普通の人より楽しめたのではないかと(笑)と言うわけで個人的
に★3つ。でもこの人の本は今のところハズレなし。この前作「青の炎」は映画で見てニノという
アイドルがやっていたものの、アイドルとは思えぬ演技力とストーリーの巧みさで気に入ってい
た。そして今作もやはり「嵐」の大野が榎本役をやっており(別に意図はなく偶然でしょうけど)、
原作とは違うイメージながらも善戦していた思う。原作の榎本はけっこうしゃべる人なんだが、
ドラマの方は寡黙なキャラ(謎解きのときだけ雄弁になる)で、あまり乖離してはいけないとドラ
マ制作側が思ったかどうかは知らないが、ちゃっかりとしたところをどちらもラストに見せている
のが面白い。この本の話も45分にされてしまってはいるものの、ドラマとしては面白いのでど
ちらもお勧めする。貴志祐介の本をもっと読みたくなった。「鍵のかかった部屋」はやはり読み
たくないが…。トリック知ってしまっているのはやはり最大の難だと思う。



「掏摸」(2009)中村 文則著 ★
 これも書評でかなり前評判高かったような。なにせ芥川賞作家である(読んでないけど)。し
かしこれも自分には期待外れだった。タイトルからしてミステリっぽいのだが、さにあらず。「ピ
エタ」同様ある男の人生の一場面を丁寧に描いてあり、そこには何故どうしてこうなって、これ
からどうなるという着地点もない。小説とはそういうもんです、と言われればそれまでだが。スリ
の手法はよくわかって、自分も気をつけねばとは思った。



「ピエタ」(2011)大島 真寿美著 ★
 「2012年本屋大賞第3位」「一番売りたい本」「間違いなく、2011年度最高の一冊」「この本
と出会うことができた幸運に感謝します」などオビには大絶賛の声が並ぶ…あたりまえだ、オビ
なんだから。それより書評でもかなり高評価で、図書館に借りに行っても、だいぶん先まで予
約待ちということからかなりの良書と期待していたのだが…。正直裏切られた気分だ。
 18世紀ヴェネチア。ピエタという孤児院で育ったエミーリアは大人になってもピエタで働いて
いた。ピエタの少女たちから成る「合奏・合唱の娘たち」の運営に携わっていたある日、恩師ヴ
ィヴァルディの訃報が届く。ピエタの合奏団に子供のころから出入りしていた貴族の娘ヴェロニ
カの「私の楽譜を捜して」という依頼を受けたエミーリア。ヴェロニカはヴィヴァルディの楽譜に
詩を書いたのだという。その楽譜を捜すとは…。
 正直上手く粗筋を書けない…この物語が何を言いたいのかが読み終わってもわからなかっ
たからだ。「繊細にしてドラマティック、生きることの喜びと祝福に満ちた傑作長編!」とある
が、何故ヴェネチア、何故ヴィヴァルディ、何故ピエタ…物語の最後には全てが符号すると思っ
ていたのだが…ヴェネチアもヴィヴァルディもエミーリアの生涯にはあまり関係ない。スカフェー
タという日本で言えば「赤ちゃんポスト」に入れられた子供の葛藤はわかるが、ヴェロニカの楽
譜やコルティジャーナ(娼婦)のクラウディアもヴィヴァルディも彼女自身とはたいして関わりが
ない。…やっぱり何が言いたい話しなのかわからない…。期待が大き過ぎただけに…18世紀
のヴェネチアにヴィヴァルディと大風呂敷を広げられたのでさぞかし大がかりな歴史劇が繰り
広げられるものと思っていたら、一人の女性の慎ましやかな人生が丁寧に描かれていた。ちょ
っとミステリを読み過ぎなのか…小説とはこういうものなのかなー、と考えさせられたが。やはり
どう贔屓目に見ても感動作とは言えないような。ただ、一瞬18世紀のヴェネチアに旅をさせて
くれる…そこだけかな、評価できるのは。



「面白いけど笑えない中国の話」(2013)竹田 恒康著 ★★ ’13/12/6読了
 全国では知らないが関西では某テレビ番組で気を吐く若手保守の第一人者。明治天皇の玄
孫、慶応大で教鞭をとる憲法学者。そして最近では某歌姫との熱愛報道と、話題に事欠かな
い時の人となってしまったが、実際この人の言い分はどんなものかと思い読んでみた。
 最初のほうは「つかみはオッケー」的な軽い冗談を交えながらの中国を揶揄する話(このへ
んは確かに面白い)から、章が進むにつれ、真面目な話になっていく。正直後半は面白くない。
中国と言うものを大陸的にとらえ、中国共産党を相手に論じているので、もはや私の興味のあ
るところではなかった。福島香織のレポートのように、もっと中国の国民の中の問題に切りこん
でいるものなら面白いと思うのだが…。
 他にもたくさん本を出してはいらっしゃるが、他のも読んでみようと言う気にはならなかった。
この本だけで著者のいうことはよーくわかったので。



「私が殺した少女」(1996)原 ォ著 ★★ '13/12/5読了
 ハードボイルド・ミステリにして直木賞受賞作といえばとっくに読んでるものと思って、古本屋
で見ても食指が動かなかったのだが…どうも読んでない…ということでようやく購入。
 私立探偵・沢崎は真壁邸にやってくるなり刑事に取り囲まれ警察へ連れて行かれてしまう。
真壁邸では12歳の少女が誘拐され、沢崎が身代金を取りに来たということになっていのだ
が、沢崎には全く思い当たることがない。そこへ犯人からまたも身代金要求の電話がかかって
きた。警察が張っているのか確かめたという。身代金の受け渡しに沢崎を指名。少女を救うた
め否応なしにかりだされる沢崎。
 のっけから緊張張り詰めるシーンの連続で飽きさせないのだが、途中から…犯人の目星が
ついてきた(と読者に思わせる)あたりからもたつき、最後にドドっとカラクリを解くというのがも
う少し一定のテンポでできなかったか、と少々残念。沢崎だけがわかって、読者がおいてきぼ
りをくらう感がある。もう少しヒント出しつつ、読者にも考える時間が欲しかった。
 作中に当時の企業・ブランド名などが沢山出てくるが、個人的に勤めていた会社名が出てき
たときにはドキっとした。どうも誘拐関係につかわれやすい企業のようだ…ワロタ。
 最後のあとがきに変えてという、ショートもシャレた感じでよかった。



「ふたり狂い」(2009)真梨 幸子著 ★★★ ’13/11/30読了
 一気読みしてしまいました。この人のサイコな世界が好きなんですねー。サイコをサイコと思
わせず、身近に感じさせる手腕はすごいと思う。口語を敢えてもってきても、陳腐にならずリア
リティを感じさせるという力技。「エトロマニア」「カリギュア効果」「フォリ・ア・ドウ」など心理用語
の勉強にもなった。短編集的(連作的)なので読みやすいと思うし、「殺人鬼フジコの衝動」ほど
のサイコが苦手な人にも身近にある異常という観点で入りやすいのではないかと思った。



「エコー・パーク」(上)(下)(2010)マイクル・コナリー著★★ ’13/11/29読了
 長いので粗筋は省きますが、読みやすい筆致と容疑者や警察官僚との縦にも横にも張り巡
らされたストーリーを緊迫感が最後まで途切れることなく持っていくのはうまい。が、シリーズだ
からか主人公の人となりについてはかなり省いてあったので、そこは初めて読む人にもわかり
やすく教える感じで手を抜かずに描いてほしかった。しかしアメリカっておっかないところだなー
…。



「現代中国悪女列伝」(2013)福島 香織著 ★★★ ’13/11/25読了
 発売当日即買って読んだ。ツイッターで著者が広告してたのを楽しみにしていたのだ。さてど
んな烈女が名を連ねているかというと…。
 トップバッターはその名を事件時にはよく聞いた谷開来。薄煕来の妻にして英国人殺害を計
画・実行。次は温家宝の妻「ダイヤモンド女王」張培莉。いまやファーストレディの彭麗媛とずら
ずら続くのだが、どれもすごい悪女っぷりというか、その身一つでのしあがったのだから、悪女
というより猛女、烈女である。中国社会が腐敗しているのだから、誰が馬鹿正直にまじめに働く
ものか。利用できるものは利用してのしあがっていくのが当たり前というか特別異常には思え
なくなってくるから不思議だ。中国の悪女といえば即天武后や西太后、近代では江青が有名だ
が、現代には現代の悪女が生まれる。中国は動いているのだなと感じる。惜しむらくは、これ
だけ実在の人物を取り上げているのだから、一枚ずつでも彼女らの写真が添えられていれ
ば、もっとリアリティがあったと思う。いまやYou Tubeで見ようと思えば観れるが、やはり写真が
添えられていれば、本がもっと引きたったように思う。



「幻の女」(1979)ウィリアム・アッシュ著 ★★★ ’13/11/15読了
 ヘンダースンは妻とケンカ後家を飛び出し、その晩最初に出会った女と食事し、ショーを見
物。しかし帰って見ると、警察が来ており自分が妻殺しの罪で逮捕されてしまう。アリバイを握
っている女を捜すよう友人ロンバートに依頼するも、彼のゆく先々で女を覚えているものはおら
ず、彼は一人だったと証言される。女はどこへ?何故女がいないことになっているのか?妻を
殺したのは?
 死刑執行が着々と近づいてくる緊迫感。ロンバートは女を見つけ出すことができるのか?と
いうサスペンスだが、最後に探偵を買って出たロンバートに大どんでん返しが待っていた。これ
は予測できなかった。お見事。何故に刑事バージェスが自分で動かず、ロンバートが探偵役な
のかというのが最後にわかるという。伏線を全部拾っての解決なんでわかりやすかった。



「赤朽葉家の伝説」(2006)桜庭一樹著 ★★ ’13/11/07読了
 「祖母。母。わたし。だんだんの世界の女たち」の話だが、多くは祖母、万葉の話に費やされ
るし、3代の中で一番印象的だ。
 祖母万葉は漂泊の民と言われるサンカだったのではないかと言われていた。しかし3歳のこ
ろ鳥取の辺境の地紅緑村の一角に捨てられていた。何故捨てられたのか、本人も亡くなるま
で理由を知りたがっていたが、サンカの人々とはその後まったく触れ合うことなく、村の若夫婦
によって引き取られたためついぞ知ることはかなわなかった。万葉には未来視という特殊な能
力があった。嫁いでからも「千里眼奥様」と呼ばれその能力を発揮し続けた。万葉が生きた時
代は1953年敗戦から復興しつつある高度成長期から好景気を経て、バブル、不景気21世
紀へと戦後の日本史をそのまま踏襲してきた。その間、赤朽葉家に嫁ぎ、4人の子を産み、長
女に子が生まれ、義母を失い、自らが赤朽葉家の大奥様となった。
 2代目の赤朽葉毛毬は母に似た堀の深いおもざしと浅黒い肌、そして母には似ていない気
性の荒さで学生時代は暴走族で族長を勤め、引退後は売れっ子漫画家となり生き急いだかの
ように32歳で過労により突然死する。
 3代目の毛毬の一人娘瞳子は20歳過ぎても定職に就かず、製鉄で財をなした旧家の跡取り
という立場を持てあましていた。そんなある日祖母万葉の最後の日がやってきた。瞳子を枕元
に呼び最後に言った万葉の言葉「わしは昔人を一人殺したんよ、誰も知らんけど…でもわざと
じゃなかったんよ。」そう言い残して時代を生き抜いた千里眼奥様万葉はあの世へ旅立った。
ここへ来るまで赤朽葉家では多くの死者が出ていた。息子の泪は大学生時代に夭逝、長女の
毛毬も突然死、義父は電車の事故、義母は老衰で天寿を全うした。これ以外にも万葉に縁の
ある友人みどりの兄の自殺、夫の妾の憤死、その子百夜は無理心中(相手は死んでない)、
毛毬の親友蝶子の病死、ととにかく赤朽葉家には死がつきまとっているようだった。
 多くは万葉の人生にページを費やしているが、残り3分の1になって万葉の言葉が謎となっ
て、瞳子がその謎を解くべく奔走する。本当に祖母は人を殺したのか。一体誰を?死んだ人の
中の誰かなのか。瞳子は恋人のユタカと、一人ひとりの最後を検証していく。
 というのが話しの流れなのだが、毛毬は私よりちょっと上くらいで、彼女の生きた時代とかぶ
っているが何分レディースにもワンレン・ボディコンにも縁がなかったもんで、あまり思い入れも
無い。やはり万葉の人生に心は奪われる。みどりと万葉が一緒に唄ったジョン・レノンの「イマ
ジン」。この影響でi tunesで買ってしまった。よくよく考えてみると有名ではあるが通して聴いた
ことがなかったからだ。本に全詞出てくるので興味がわいた。一方同じく全詞出ていた、「恋の
バカンス」はスルーしたが。
 戦後、辺境の村、旧家の2大勢力、とくればドロドロの横溝ワールドを想起するが、さにあら
ず。最後部分はミステリになっているが、物語全体としてはファンタジーなような女一代記のよ
うな、今まで読んだことのない物語。不思議な読後感であった。



「死の泉」(1997)皆川博子著 ★★ ’13/11/01読了
 1943年、ドイツ。不義の子を身ごもったマルガレーテはレーベンスボルンという施設にやっ
てきた。そこは優良な人種を産めよ増やせよと政府が各国から集めた金髪碧眼の子供たちと
妊婦でいっぱいだった。マルガレーテはそこで看護婦として働くきつつ出産の日を待った。生ま
れた子供ミヒャエルを守るためドクター・ベッセルマンの求婚を受けるマルガレーテ。ベッセル
マンは施設の中でも特に気に入ったポーランド人の10歳のフランツと5歳のエーリヒを養子に
し、施設のすぐ近くの邸宅で5人の疑似家族の生活が始まった。しかし看護師不足でろくに乳
児の面倒もみれないというのに、施設にはどんどん子供が送られてくる。戦局は悪くなるばか
り。一家の運命は…。
 「「死の泉」ギュンター・フォン・フュルステンブルグ作、野上晶訳。」という形で物語が進められ
ていく。この話がどこで終わり、どういったからくりがこの物語の後ろに隠れているのかと期待
しつつ読んだのだが…それだけで終わってしまった。最後の訳者のあとがきにちょいとそれら
しきことが出てくるのだが、それだけ?って感じでこんだけ大風呂敷広げて、伏線が全部拾い
きれてないというか、未消化というか(特にドクターがブリギッテに産ませたゲルトを15年後ドク
ターは執拗に追いつつ、結局殺すというのは意味不明)。結合双生児やら人種差別やら去勢
手術やらもっとグロくてドロドロしたものかと思ったのだが…期待はずれって感じでした。もうち
ょっと話広げてもよかったのでは…。



「奪取」(上)(下)(1996)真保裕一著 ★★★ ’13/10/20読了
 いつもの専門家と思わせるくらいの知識をめいっぱい披露しての真保ワールド全開で綴る今
回のテーマはズバリ「偽札」。もと金融業に勤めていた者としては心中穏やかならず。辞める直
前偽札騒動もあり、今の一万円札の真贋鑑定には少し自信がある。とはいえルーペがないと
マイクロ印刷が見えないのでとても裸眼では無理なのだが。
 しかし本書の偽札作りはハンパない。まず見破られるのは手触り。というのもお札とはそんじ
ょそこらの紙ではない。ミツマタという植物から成る普通の紙とは違うちょっとざらっとした特別
な手触りがでる紙に印刷される。そして印刷技術も透かしはもちろんインクの調合などお札を
作るには到底一筋縄ではいかないということはわかった。この小説は長いが、飽きさせない展
開で一気に読める。そして何よりこのテーマならではのオチが待っている。1995年の話なの
で、当然今のより一段階古いお札の話なので、これを呼んで偽札作りに手を染めようなどと思
わせないオチである。このオチがなんとも痛快でこの物語を締めくくるにふさわしいと思った。



「冬の兵士 イラク・アフガン 帰還米兵が語る戦場の真実」(2009米) 反戦イラク帰還兵の会
 アーロン・グランツ著 ★★★ ’13/10/10読了
 タイトル通り、米兵の語るイラク・アフガン戦争の真の姿を公聴会の録音から書き起こされ、
その多くは実名・写真入りで公開されているノンフィクション。
 もう多くは語れない。戦争とはこうなのだということを突きつけられるだけである。911以後ア
フガン入りした人はもちろん理性的でないが、戦場へ行くとこうもムチャクチャになるのかという
非人道的行為を行う。人を殺すのはもちろんだが、それが兵士であれ、道を横切っただけの
行商のオバチャンであれ、道で遊んでいただけの子供であれお構いなしに殺して回ったという
のだから恐ろしい。第二次世界大戦でもベトナム戦争でも戦争は悲惨だということは学んだで
はないか。何度同じ過ちを繰り返すのか。義憤にかられて行った多くの米兵が略奪・殺戮の限
りを尽くしてイラクをボロボロにイラク人をメチャクチャにしてしまった。そして米兵は帰国して罪
にさいなまれ、自殺、あるいは約束されたはずの恩給も貰えず失意のうちに亡くなる人の多い
ことか。どんな理由があっても戦争はしてはいけない。普段中国や韓国に一発ぶちこんでや
れ、と思っていても実際ミサイルが飛べば死ぬのは誰かの親であり子であり親戚であり友人な
のだ。人種が違うからと言って殺す理由にはならない。ライフルを持てば撃つ、車に乗れば人
を撥ねる、もう人間はなにも持たせてはいけないような気がする。



「僧正殺人事件」(1959米)ヴァン・ダイン著 ★★ ’13/10/05読了
 なるほどミステリ100に名を連ねるほどのあるミステリではある。古典といえば古典なので、知
らない人はいないか?「誰がこまどり殺したの」マザーグースの唄に沿って起こる連続殺人事
件に探偵ヴァンスと友人で検事のマーカムが挑む。
 しかし作中にある詩的婉曲的表現の文章は読みにくく(翻訳も苦労したことと思われる)、な
かなか読み進むのも難解であった。殺されたのが数学者や科学者なのでそのへんの蘊蓄もあ
るがほとんど理解不能。しかし一番理解不能なのは物語の結末だった。何故あんなことをした
のだろう?ネタバレになるので書きませんが、現代の探偵小説にはあり得ない結末、一歩間
違えば正義の味方であるはずの主人公がお縄になるという…現代なら犯罪です。いや、当時
も犯罪なのに許されているのがなんとも理解しがたい。



「大語訳 ヒット曲は泣いている」82003) 西山 保著 ★
「西森マリーの英語でRock & Movie」(1992)★★
 誤訳で有名といえばビートルズの「ノルウェーの森」。ノルウェーの木材で作られた家具をノル
ゥエーの森と訳したのだ。当然訳が分からなくなるところだが、洋楽というもともと訳の分らんと
ころから来たというところからか、詞というもののなせるわざか、誰も異を唱えずそうかそうか、
と納得してしまったのである。小説のタイトルにまでなった。こちらもタイトルと内容はあまり関
係ないらしいが。そこを皮肉ってつけたのかも。
 しかし誤訳と決めるよりも、感覚の違いというものも多分にあるような気もする。言葉は時代
によって生まれるし意味も変わるし変化する生き物だ。翻訳家の気分、立場、性別あるいはそ
のアーティストのファンであるかによってもその正確さは大きく変わるかと。
 明らかに誤訳というのは意味を全く取り違えているか、意味が正反対になるとか、作者の意
図から外れていることであろう。それ以外の「ものはいいよう」的なところはどこまで許されるの
かという極めて判断が難しいところがある。
 2冊とも80年代ロックが多いが、一曲だけかぶっていたので、例えに挙げてみると
イーグルスの「ホテル・カリフォルニア」の一節
 And in the master's chambers
  They gathered for the feast
  They stab it with their steely knives
  But they can't kill the beast
誤訳として掲げられているのが
 「やがて大広間では祝宴の準備が整った
  集まった人々は 鋭いナイフで獣を突くが
  誰も殺すことができなかった」
正解としての試訳
 「そして主人の部屋に
  人々は宴会のために集まった
  彼らはスチール製のナイフで突き刺すが
  どうしてもその獣を殺せない」
で、別の本で訳した西森マリーの訳
 「支配人の部屋では
  饗宴が開かれ みんなが集っていた
  鋼鉄のナイフで突き刺してるのに
  彼らにはどうしても あの野獣が殺せないんだ」
ちなみに私が訳すと
 「マスターの部屋で 客たちが宴会に集まっていた
  彼らはナイフで突き刺すが
  誰もその獣を殺せない」
と、四者四様になる。私はホテルであることを意識し、マスターの部屋と客の関係に重きをおい
た。ナイフは普通鋼鉄製なのであえて何製とは入れなかった。西山氏が誤訳と言い切るのは
「準備が整った」ということは一言も書かれていないということと、master's roomを「大広間」、
steely knivesを「鋭いナイフ」と訳しているから不正確というところらしいが、マスターの部屋が
そのホテルで一番大きな部屋でないと言えるか?スチール製のナイフが鋭く研がれてないと言
えるか?事実3番目の訳には「スチール」ではなく「鋼鉄」と訳してある。十分に鋭い可能性が
ある。
 言葉を勉強していると、ぴったり同じ言語になど訳せないことに気付く。だって違う言語なんだ
もの。文化も背景も成り立ちも違うんだもの。それをどれだけ近い意味にもっていくか、溝を狭
めて行くかというこのが翻訳だと思う。正確さを諦めて(文法通りだと不正確になることも多々
ある)大意だけ汲み取るほうを取るか、多少日本語になってなくても言語に正確に訳すか、訳
者の手腕の問われるところである。どこを拾ってどこをカットするか。よって名翻訳家という人
に手になるものでも、あれ?と感じることもあるし、私ならこっちをカットせず、こっちをカットして
こう訳す、何故ならこの背景には…など考え出すときりがない。100人いれば100通りの訳た
生まれるのが翻訳だ。結局正しい意味はその言語を使う人にならないとわからないということ
だ。


「凶犯」(2004中)張 平 著 ★★ ’13/09/22読了
 中国での発売は2001年。作者は映画「LOVERS」の原作「十面埋伏」を書いた人だと知って
びっくり。映画とは違ってリアルに中国の農村の事件を描き出している。
 李狗子は傷痍軍人で国有林監視員の任命を受けコンジャオマオという村に派遣される。しか
しそこは4兄弟という村の有力者が木の盗伐を行う無法地帯。狗子は森林を守る役目を全う
すべく4兄弟と彼らのいいなりの村人全員を敵に回して奮闘するが、ついに両者は衝突。大事
件が起きてしまう。この大事件を挟んで村人の証言や、事件までの経緯などが時間を前後して
語られていくうち、事件の全容が徐々に明かされていく。
 なので、ちょっとこの時間の前後が面倒くさいのだが…。別に普通に時間の経緯に沿って物
語を描いてもよかったのでは、とも思うのだが。まぁ、作者の意図でもあったのでしょう。中国と
言えば習近平になってから汚職摘発が花盛りになっているが、ことほどさように汚職はひどく、
また国民も権力にこびへつらい慣れ合うことがよしとなっているので、その実態を描いている
(書かれているときは前政権だが)。ただ、偶然今日(9月27日)の新聞に「中国元露天商の死
刑執行」当局への批判殺到という記事が出ていた。2009年5月瀋陽で露天商が城管職員に
無許可営業と注意され暴行を受け、さらに管理事務所に連行され暴行された。露天商は所持
していた刃物で二人の職員を刺殺。11年5月に死刑確定、今月25日に執行された。まるでこ
の本の通りのことが現実に起こっていた。つまりこんなことは星の数ほどある事件の一つにす
ぎないということだ。
 本書では同様の件で4人刺殺したのだから、狗子は事件後、失血死するが、命をとりとめた
としても行く先は同様だったということだ。どれだけ理不尽な仕打ちを受けようと、正しいことを
しようと、中国では逆転劇が起こるのだ。正義は勝つと言えない国の哀れなのは国民だ。しか
し数では圧倒的に勝っているのだからなんとか政府を転覆、革命を起こせないものかな、と思
うのだが、そこは国民性なのかもしれない。努力するより権力におもねって自分だけ得するほ
うが楽なのだ。そういう国民を束ねるのも容易ではない。中国は中国でいいのかもしれない。



「慟哭」(1999)貫井徳郎著 ★★★ ’13/09/15読了
 幼女連続誘拐殺人事件とある男が宗教にのめり込んでいくストーリーがかわるがわる描写さ
れる。この二つの物語がどこで交わるのかと読み進んでいくのだが、結論的には結び付かな
い。ネタバレですけど、並行して起こっていることではないのだ。ここまで書くとカンのいい人な
らもう犯人わかっちゃうかも。全く関係ないように見える話しをドッキングさせるというのは宮部
みゆきがうまいのだけれども、これはそれとはちょっと違う。並行してないんだもの。なので、ち
ょっとずるいなぁ感はあるものの、人物や組織の描写が巧くて一気に読めた。



「果つる底なき」(1998)池井戸潤著 ★★ ’13/09/10読了
 今話題の「半沢直樹」の原作者のデビュー作。なるほど元銀行員の書く小説だなぁと思った。
逆に金融にちょっとでも関わってないと面白くないのでは。
 二都銀行の融資担当・伊木の同期で回収担当の坂本が死んだ。死因はアレルギー性ショッ
ク。坂本の業務の後を引き継いだ伊木は担当先に不穏な動きがあったことを見つける。
 途中命を狙われる主人公のカーチェイスやバトルはハードボイルドと言えるくらい緊迫感ある
描写で、元銀行員というだけではない筆力を感じた。ただ、最後の謎解きではまだ自分の中で
は「?」な部分が消えてなかった。そしてとにかく出てくる人間が多いので、正直黒幕の犯人の
名前を見ても「誰だっけ」となってしまい、スッキリ感はなかった。それにあれだけ豪快に人を殺
していったのに、最初の坂本だけは蜂を使うという地味さが解せなかった。銀行員同士の足の
引っ張り合いは「半沢直樹」ばりであったが、元銀行員としては、実際はそんなになかったよう
に思うのだが…あったらまずいか。それより他行、他支店とのしのぎの削り合いのほうが多か
ったような。とはいえ、融資は担当したことないのでよくわからない。
 「半沢直樹」の原作本も同じような内容なのかな、と思うとあまり読む気にはならなかった。



「楽園のカンヴァス」(2010)原田マハ著 ★★★ ’13/09/04読了
 MoMA美術館の学芸員ティム・ブラウンはコレクターから絵画の真贋鑑定の依頼を受け、スイ
スの豪邸へ向かった。が、真贋を正しく判定したものに絵画を譲るヒントとして、謎の古書を読
むことが条件であった。そこには日本人研究者の早川織絵も呼ばれていた。タイム・リミットは
7日間。アンリ・ルソーの絵画と言われる「夢をみる」はどちらの手に落ちるのか。
 これはある程度アンリ・ルソーという画家もしくは近代絵画に精通していないと面白みが半減
するものかもしれない。とはいえ「絵画ミステリー」としては読みやすく面白かった。キュレータ
ー、修復師以外に美術館スタッフとして働けるのは監視員ということを知れたのは収穫だっ
た。ストーリーとしてはあり得ないが、もしかしてと思わせる古書の世界1906年のパリに、主
人公のティムとともに引き込まれた。ルソーとピカソには正直興味なかったので自宅にある美
術画集の中を捜すも、やはりなく、ググってみることになった。残念ながらどちらもやはり改め
て興味を覚えるものではなかった…。私の趣味の画家(レンブラント、ヤン・ファン・エイク、ゴヤ
などなど…)でもっと絵画ミステリを書いてくれないかな、と思った。
 


「ああ知らなんだこんな世界史」(2006)清水義範著 ★★ ’13/08/30読了
 帯に「こっち側から眺めてみると、世界史の流れがよくわかる!」とあるがこっち側とはイスラ
ム側である。確かにキリスト教西欧諸国から見がちである。トルコとギリシャが仲悪いとか、イ
ランはアラブ諸国ではないとか知らなかったことから、レコンキスタやタージ・マハルとか知って
いたこともあったので、「その事実に目からウロコ!」とあるほどでもなかったが。
 それにしてもイスタンブルでアヤソフィアを観なかったことは痛恨の極みであったと、返す返す
も悔しい。もう二度と行くことないであろうに。ブルーモスクは観たんだけども、時間的にアヤソ
フィアまでは観れなかった…これだからト○ピックスはよ〜。しかしあたりまえながら、カタカナ
が多く全部読むと辟易する…。ある程度すっとばして読んだ。
 著者の「イスラム側からみてみると、世界史が全く違って見えて、刺激的で面白い」というメッ
セージは十分に伝わった気がする。が、やはりイスラム教国に行こうという気にはならない…。
折しも今日、東京がオリンピック候補地として、イスタンブルに競り勝った翌日、カッパドキアで
邦人女性が殺された事件が報じられている。だからイスラムは…という気はないが、なんだか
因縁を感じずにはいられない。トルコは比較的治安もよく、イスラム色は薄いのであるが…。



「潜入ルポ 中国の女 エイズ売春婦から大富豪まで」(2011)福島香織著 ★★★ ’13/08/
26読了
 オビにある通り「日本の女が直視・取材した「中国の女」の全て!」である。最初は「エイズ村
の女たち」に始まって「北京で体を売る女」やら「大富豪の女」やらわんさと出てくる女性たちの
間から中国という国の実態が見えてくる。最初の方こそ悲惨ではあるが、80后や小皇帝と呼ば
れる世代には余裕さえ感じられる。天安門事件も知らない若い子はあの中国ですら自由を謳
歌できるのだ。当局批判さえ行わなければかなりのところまで緩和されているようだと感じがち
だが、冒頭に戻ると、著者の取材の難しさや電話を全て盗聴されていて話せないなど、やはり
中国だな、と思い知らされる。中国ルポものは結構昔からあるものの、時代が変われば内容も
大きく変わるものが多い。このルポは最新のものだと言っていいだろう。それでも2011年に
出されたこの本の後日談が文庫版には入っている。やはり時が流れるのは中国は日本の倍
は早いような気がする。いろいろ言いたいこともあるんだけど書ききれない。それだけやはり厄
介な国ということだ。関わらないに越したことはないと思ってしまう。



「源平合戦の虚像を剥ぐ」(1996)★ 川合康著 ’13/08/20
 これはある意味書評にだまされたというか…。「目からウロコが何枚も。記者はおもわず休日
に新幹線に飛び乗って、義経の鵯越の坂落としがあった生田の森・一の谷合戦の現場を確か
めに行った。」「来年の大河ドラマ「平清盛」を見る前にぜひ一読を薦めたい」とあるだけに1昨
年以上前の書評であるものの、この書評を信じ、探しまくり、ようやっとネットの古本で出会え
たのだが…この1年以上の間に期待が高まりすぎていたようだ。正直言うとそれほどでもなか
った…。前半こそ武士の乗っていた馬は現代の時代劇で乗り回しているような大きい洋馬では
なく、日本の在来種はいわばポニー並の大きさ(140センチくらい)でしかなかったとか、鎧兜は
90キロもあったとか、へぇ!と思うこともあるのだが、「鵯越の坂落とし」や「八艘飛び」がまぁ
源氏方の誇大広告であったことは想像に難くなかった。後半になると、もうこれは源平合戦を
研究している人向けの研究発表的な難しい話しになってくる。
 「源平合戦」が今は「治承・寿永内乱」と呼ばれているらしい。そんなことすら知らないので、
後半の武士の構成や頼朝が征夷大将軍ではなく大将軍を求めたとかはもう私にはどうでもよく
なっていった。
 一言でいえば源氏VS平家ではなく、全国規模のトーナメント戦で、源氏も平家も入り乱れて
の大混乱だったということか。



「犯意」(2011)★★ 乃南アサ 園田寿 著 ’13/08/19読了
 乃南アサが書く犯罪小説の後それがどういう罪に問われどう裁くべきかという法律を園田寿
弁護士が解説するという、ミステリというより法律指南書である。それもこれも裁判員制度に因
んでのことだ。小説としては面白くてもいざ裁けと言われると戸惑うこと必至であるので、確か
に参考にはなると思う。
 小説12編はどれもどこかで聞いたことあるような話ばかりである。若者が軽いノリでやってし
まったことの重大さに気付かなかったり、あるいはそうなることがわかっていたのに、恐いから
見過ごしたとか、そんなことでも罪に問わなければならないのか、という点では勉強になる。
「覚せい剤所持」「ヘロイン輸入罪」「脅迫」「ストーカー行為」といった単純なものならいざ知ら
ず、「未必の故意」「教唆」「不作為犯」という判断の難しいものも沢山ある。陪審員に選ばれな
いことを切に願う。



「斜め屋敷の犯罪」(1982)★★ 島田荘司著 ’13/08/16
 これも「東西ミステリベスト100」に入っていた真っ向勝負のミステリである。ネタバレになるの
で粗筋は省くが、「「私は読者に挑戦する」 材料は完璧に揃っている。事の真相を見抜かれん
ことを!」とあるが…材料は完璧とは思えない。殺人を犯すからには、動機があって当然であ
るが、材料の中の動機がすっぽり抜け落ちているような。それを差し引いても、トリック自体を
見抜けというのはやはり難しいのでは。動機がなければ犯人の意図は見抜けないしトリックも
成り立たない。負け惜しみを言うようでなんですが…ハイ、見抜けませんでした。ネタバレしてし
まうとこのタイトルこそがトリックなわけで…その点はさすがと思ったけど、前述したとおり、動
機は後付けされたような気がしてならない。まぁ「ミステリベスト100」が認めたんだから、見抜け
無い方が負けということになるんでしょうな…。




「ミステリアスセッティング」(2006)★ 阿部和重著 ’13/058/14読了
 これもミステリ?と思うようなファンタジーのような、なんとも形容しがたい作風である。
 歌が好きなシオリは一つ下の妹に常に見下げられて生きてきた。吟遊詩人になりたいという
夢を持ちつつも、絶望的に歌が下手で、作詞家になろうと専門学校に入学するため上京。高
校時代彼氏に二股をかけられた挙句金を騙し取られていた経験も役に立たず、人のよいシオ
リはまたも知り合ったバンド仲間から金づるにされる。そんなシオリは何故か小型核爆弾だと
いうスーツケースを押し付けられ、東京の街をさまようことになる。
 とにかくシオリの人の良さにイライラさせられる。吟遊詩人になりたいという強い意志を持ちな
がら何故か他人にはいともたやすく騙され、それすらも是として生きて行く主人公に歯がゆさを
感じるのは誰しもだろう。物語に入れば入るほど、自分がシオリであり、他人からないがしろに
されているという錯覚を覚え不快になってしまう。で、結局は…やはり自分はシオリにはなれな
いと思って終わった。



「女中譚」(2009)★中島京子 著 ’13/08/13読了
 オビに「むかし女中、いまメイド。「アキバ」のメイド喫茶に90過ぎの元女中が現れた?知的で
チャーミングな3つの女中の物語」とあった。確かに。それだけである。
 「ヒモの手紙」は林芙美子の「女中の手紙」、「すみの話」は吉屋信子の「タマの話」、「文士の
はなし」は永井荷風の「女中のはなし」へのトリビュートとして書いてあるのでもとの小説を読ん
でなければ面白さは半減するのかも。もちろんいずれも読んでないので、残念ながらあまり面
白いとは思えなかった。



「ダック・コール」(1994)★★ 稲見一良 著 ’13/08/11読了
 これも「東西ミステリベスト100」に入っていたから読んでみたのだが…ミステリ?6話から成る
短編集で、その内容はカメラマンから、脱サラ中年から、漁師から、猟師から、小学生から、日
系アメリカ人から多岐にわたるが、一貫して描かれているのは鳥の美しさだ。純文学というの
はこういうのを言うんじゃないだろうか。
 なかでも良かったのは「第4話ホイッパーウィル」。アメリカ人日系2世のケン・タカハシは保安
官として片田舎に勤務していた。ある日山中でシカを狩って家に帰ると招かれざる客がいた。
銃で逮捕すると同時に、保安官から4人の死刑囚が脱獄したと連絡が入った。その一人が今
まさに仕留めた奴だったのだ。残る3人をマンハントすべく仲間数人と山狩りにでかけるという
ストーリーが進むにつれ、ケンの半生や日系2世に対する風当たりなどの背景が追って見えて
くる。脱獄囚を追いつめて行くが、最後の一人オーキィ・ビッグホーンはナバホ族の末裔。追う
につれどこかオーキィに哀愁を感じて行く。
 「第三話密漁志願」は寂しい中年とたくましい少年が目的を一つにして立ち向かう冒険小説っ
ぽい感じだが、ラストには心揺さぶられる。「第六話デコイとブンタ」はラストにふさわしい読後
感爽やかなものであった。
 と、いずれも佳作なのだが、ミステリ?との思いは禁じえない。何故「ミステリベスト100」に選
ばれたのか。ただ作者が1994年に亡くなっているので、あまり作品は多く残されていないの
が残念だ。稀に見る「美しい作品」を書ける作家であったのは間違いない。



「猫は知っていた」(1957)★ 仁木悦子 ’13/08/02読了
 うーん、まずいつの話かわからなくて何もかも最初からイメージしづらかった。巻末の解説に
「昭和31年を描いている」と書いてあってやっと納得。「防空壕」だの「尺」だのテレビがなく「ラ
ジオ」だの言ってるところをみるとそうなんだな、と。江戸川乱歩賞最初の入選作にして初の女
性推理小説家というふれこみで、話題にはなったようだが…。
 時は昭和31年、植物学専攻の兄・仁木雄太郎と音大生の妹・悦子が引っ越した下宿先の箱
崎医院で、起こる連続殺人事件。推理マニアの兄・妹コンビが事件を調べる物語。
 胡散臭い容疑者は一杯出しておいて、それは何だったの、という意外っちゃ意外な人物が真
犯人で解決、となるが、今一つすっきりしない。その胡散臭さは不要だったわけよね…。殺人
事件のストーリーがあまりにシンプルであれやこれや張り巡らされた伏線の多さにガクっとく
る。
 実はこの本を読んだ後、奥付のページみてびっくり。こんな紙が貼ってあったのだ。
「自弁の書籍等閲覧票 3棟2室 氏名 903 交付日24年6月14日」
これって刑務所の本じゃ…。これを手に入れたのは古本屋でだったが、刑務所の本を返さず
に持ちだして、売り飛ばしたってことだろうか。こっちのほうにゾッとした。



「江戸川乱歩傑作選」(1960)★★★ 江戸川乱歩 ’13/07/29読了
 「二銭銅貨」「D坂の殺人事件」「人間椅子」などを捜してもないわけで、全て短編でこの中に
集約されていた。「二銭銅貨」や「D坂…」は思ったほどではなく、意外に「人間椅子」がこの中
では一番秀逸であったと思う。「屋根裏の散歩者」が描写力としては次いで良かったように思
う。「赤い部屋」「心理試験」などどれも短編として上手くできており、気になった方はご一読をお
勧めする。いいものは時代の波に流されず、いつの時代でも納得できて残っていくものだ。
 蛇足ながら「芋虫」は映画「キャタピラー」の原作だったのではないだろうか?と思ってググっ
たら、やっぱりそうでした。映画より小説の方が救いがありますな。



「悪魔の手鞠唄」(1971)★ 横溝正史 著 ’13/07/15読了
 「獄門島」「八つ墓村」の流れを組むというか、同じような…。小さな村の中の2大勢力家と連
続殺人事件。そこへひょっこり現れる金田一耕介。なので粗筋は省きますが。
 結論から言えば「青池リカ」が老婆に化けて、一人二役を演じてばれなかったというのは考え
にくいし、そもそも23年前の二人一役もそんな小さな村では無理があるような。長々と口伝の
手鞠唄を題材に描かれたミステリながら、アガサ・クリスティの二番煎じのような気もするし、話
運びも前2作と同じようで目新しさが感じられず、私としては世間が評価しているほどの名作と
は思えなかった。



「写楽 閉じた国の幻」(上)(下)(2010)★★ 島田 荘司 著 ’13/07/05読了
 現代で起こった回転ドアに子供が挟まれて死亡した事件と、江戸時代写楽が誰でどう生きた
かを交叉させて、現代の歴史学者が写楽の真相に迫っていく。
 今では写楽=斎藤十郎兵衛という説が有力らしいが、そこを島田荘司らしく全く別の観点か
ら、写楽を推察していく。が、今回はいつもの弁舌巧みな島田節がいささか調子が悪かったよ
うな。「アナスタシア」の時よりもっと歯切れが悪いというか、全く島田が唱える写楽=オランダ
人説には説得力がない。確かに膨大は資料と研鑽を積んだのであろうが、異国人とは…いくら
オランダ人の江戸行脚の年や月がマッチしていたとしても、やはり…。そこからして江戸時代
の蔦谷のエピソードは全くの島田の創作で、多分こういうことがあって、写楽はオランダ人だっ
たのではないか、ということだけで、歴史検証とは違うエピソードが多く、そのへんはカットして
現代の写楽を追う学者グループが歴史に肉迫する話一本で薦めてくれた方が読みやすいし、
あとがきにもあった、人物をもっと掘り下げたエピソードも盛り込めたのではなかろうか。「ロシ
ア軍艦」のときはひょっとして…と思わせてくれたのに、今回は残念は印象に終わった。確かに
写楽とはまだまだ検証の余地のある人物であることはわかった。



「八つ墓村」(1971)★★ 横溝正史 著 ’13/06/25読了
 津山30人殺しがベースになっていることで有名だが、読んでみるとベースになっている事件
はかつてそういうことがあったよ、ということくらいでこの物語の事件とは何ら関係ない。いや、
あるんだけど、実際に事件とは関係ない。そのへんはどちらかというと島田荘司の小説の方が
もっと掘り下げて書いてあったと思う。
 戦前、八つ墓村と呼ばれる村で村の有力者、田治見要蔵が発狂、村人32人を殺害の後、
山へ逃げ入った。それから26年後、戦争も終わった頃、再び謎の連続殺人が村を襲う。
 現代ホラーの原点と言われているだけあって、ミステリというよりホラーだ。しかも鍾乳洞内
のことはなかなか映像として自分の頭では想像がつかなく、ただ暗い穴倉でどうこう、という極
めて退屈な状況もあった。正直「八つ墓村」というタイトルだけが大分独り歩きしているようだ。



「その「ひとこと」、ネイティヴは英語でこう言います」(2009)★★ David A.Thayne 小池信孝 

 長いことかかってやっと読み終えた。ただ、タイトル通りかというとそこはシチュエーションによ
るところが大きいのでは。日本語の慣習の中にある言葉を無理やり英語にしたという印象のも
のもある。例えば、「お先にどうぞ」=Go ahead、「よかったですね。」=I'm happy for you.くらい
はよしとしても、「もしかして」=Don't tell me,「八つ当たりしないで」=Don't blame me.「無理も
ない」=What do you expect?などなど場合によっては直訳で違う方向に行ってしまうこともある
のではと思うものてんこ盛り。タイトル通りに断じていいものか。この言葉はどのシチュエーショ
ンでも言えるのかなぁと首をひねりながら読んだので、今一つ納得いかなかった。



「共喰い」(2012) ★ 田中 慎弥 著 ’13/06/19読了
 表題作は芥川賞受賞作。直後の会見で「もらっといてやる」という言葉で物議を醸した人だ
が、作品の方は「返せ」といいたくなるような出来…。よくそんなことが言えたな。これが「純文
学」なら自分の中の純文学のカテゴライズを考え直さねばならない。文章力もあるんだかない
んだか非常に読みにくい文体だし、興味のない釣りのことを事細かに書いてあってくどいとしか
思えない描写。読み終わっても「だから?」としか思えない。とにかくどこの方言だかわからない
が、方言のセリフが読みにくいことこのうえない。しかも主人公の高校生が考えてるのは、いか
にガールフレンドとヤレるかということ。性に目覚め始めた中二男子並の中身。タイトルの意味
はよくわからないが、性行為中に相手に暴力をふるう父親に自分が似ていくのではないかとい
う恐れからか。まぁそんなことどうでもいいくらい、どうでもいい話。
 もう一遍短編が収録されている。「第三紀層の魚」介護とか死とかに直面する小学生の内面
を描いていて(方言も前作よりは弱い)読みやすいし、少年の思いに共感できたりもする。どっ
ちにしろ芥川賞獲るほどとは思えないが。こっちも釣りのことがやたら出てくるが興味ないので
すっとばしても、なんら違和感ない。
 最後に何故か「対談 書き続け、読みつがれるために」と瀬戸内寂聴との対談が収録されて
いる。瀬戸内寂聴のほうは「源氏物語」の現代語訳を出しているのは知っていたが、著者も源
氏に思い入れがあるとは少々驚き。確かに「源氏物語」を乱暴に現代文で描いたようなところ
が「共喰い」にはあると感じた。二人で源氏について、ああだこうだと語るところは面白い。瀬戸
内寂聴の「直木賞もらったら、大衆作家になるから欲しくない。純文学が書きたかったから、芥
川賞が欲しかった。でも芥川は好きじゃない。」とめちゃくちゃなことをおっしゃってる。著者も
「芥川は苦手。どこか息苦しい。」やっぱり返せ。
 他の作家についてもだが、芥川賞を獲る作品および作家というのは、正直言うと「下品」な作
風な気がする。「お前が文学をわかってないだけ」と言われればそうかもしれないが。読むのは
もっぱら推理小説かエッセイなのでそのほかのジャンルになると疎くなるのも確かだ。特にS
F・ファンタジーの類は全く受け付けない。しかし賞を獲る獲らないに関係なく、面白い作品はジ
ャンルを超えて面白いと思える。そう思わせるのが作家の力量ではなかろうか。S・キングやレ
イ・ブラッド・ベリなどのSFなら素直に面白いと思える。中途半端な作家の作品は面白いと思え
ない。純文学だろうが何だろうがそれくらいの力量を見せる作品に出会いたい。



「ビブリア古書堂の事件手帖4〜栞子さんと二つの顔〜」(2013) ★★ 三上 延 著 ’13/06
/17読了
 今回は丸一冊の長編となっており、扱う本も本だけではなく「江戸川乱歩」という作家ひとくくり
になっている。栞子さんと敵対する母親、篠川智恵子が中心になっており、推理物ではなくなっ
ている。しかし、「たんぽぽ娘」の例もあるので、この本で取り上げられた「江戸川乱歩」も再人
気となっているのかもしれない。それが証拠?に「二銭銅貨」はどこを探しても見当たらない。
「少年探偵団」シリーズや「怪人二十面相」シリーズは子供心にもちょっとあり得ない設定と展
開と思い、そこまでのめりこめなかった。覚えているのは「青銅の魔人」くらいか。
 江戸川乱歩にまつわる話としては面白かったし、篠川家の母VS娘という構図も面白かった
けど…何故栞子さんがそこまでお母さんを毛嫌いするのかは今一つ。珍本奇本のためなら
少々道を外れても手段を問わないという人だからだろうか?しかし本に対する情熱は親子とも
すごい。私は本の世界がそこまで興味深いものとも思えないのでそこのところの篠川親子の情
熱は理解しかねるが。
 新聞のインタビューでは4巻で終わりみたいなことを言ってたが、まだまだ続くらしい。あとが
きに「物語もそろそろ後半です。」とあって、え、まだ前半だったの?!と驚いた次第。次がい
つになるかわからないが気長に待とう。



「本陣殺人事件」(1946?) ★★ 横溝正史著 ’13/06/13読了
 この本一冊は3篇の短編から成っている。
 まずは表題の「本陣殺人事件」。本陣という旧家の末裔ということで、とにかく人物が多くてや
やこしいのだが、突き詰めると当主賢蔵の婚礼を終えた夜、密室で新郎新婦は惨殺されてい
た。というだけなんだけど、この密室隙間だらけ。特に「欄間」があるというのは近現代建築の
和室でももはそうないものではないだろうか。私も田舎の祖父母の家の和室で見たことがある
程度。そしてその「欄間」があっちゃあ密室とはいえないのではないか。その隙間だらけの欄間
から琴糸を用いて凶器を操ったというのは…。しかも自殺を他殺に見せるのはシャーロック・ホ
ームズ「ソア橋」のパクリであることは認めている。そんなに仰々しくみせるほどのものでもない
ような。
 「車井戸はなぜ斬る」なんだかこれも人物関係がややこしく、両家のいがみ合いと言う話。し
かし自分も知らなかったのが「二重瞳孔」というもの。要するに一つの眼球に黒目が二つあると
いう障害。調べてみると実際に2重に見えてたりして見えにくいものらしいが、中国などではこ
の障害を持って生まれるのは天才とか卓抜なる人物とされ、後付けでそういうことに敢えてして
おくこともあるそうな。肝心のトリックとかストーリーはたいしたことないなぁという程度。
 「黒猫亭事件」実はこれが3作の中では一番トリックが凝っていたように思う。「顔のない屍
体」の事件ともいおうか。蓮華院という寺の近所にある黒猫亭酒場の裏から顔の腐乱した死体
が発見される。被害者は誰なのか、もちろん犯人は…。最後に「私は正直に言うが、見破るこ
とが出来なかった。読者諸君はいかに?」と締めくくられているように、読者挑戦型からして作
者もよっぽど自身のあったトリックだったのだろう。が、顔がないということは冒頭でも触れお
り、被害者が加害者という図式までは想像ついた。ただ、さらにもう一ひねりして、一人二役と
いうオマケを入れてきたので、まぁ読者も負けるかな、と。私も想像つかなかったというか、もう
書いてあるとおり「2号だか3号だか4号だかわからぬ」女の多さに辟易して、トリックなんかど
うでもよくなってもいた。



「ビブリア古書堂の事件手帖3〜栞子さんと毛ない絆〜」(2012)三上 延 著 ’13/05/28読了
★★★
 今回取り上げられている本はロバート・F・ヤング「たんぽぽ娘」、エドゥアルド・アルペンスキ
ー「チェブラーシュカとなかまたち」、宮沢賢治「春と修羅」。なかでも絵本ながら「チェブラーシュ
カ」の経緯は興味深いものだった。
 あれは12年くらい前だったか、勤務先の取引先が輸入業で「このキャラがこれからきます
よ!」と大プッシュして何か買ってくれ、買って損はないぞ、と得意げに持ってきたのが、このチ
ェブラーシュカグッズだった。安かったこともあってハンカチを1枚買った覚えがある。しかし原
題が「ワニとゲーナとなかまたち」で、出版当時(1969)はキャラクターも曖昧模糊としたもので、
現在のデザインに決まったのはまさに2001年パペットアニメとして制作された時のことだった
とは。この本を探す登場人物(ドラマとは違う人)同様自分も懐かしさを感じた。
 宮沢賢治「春と修羅」では、そんな本(宮沢賢治が発行された本に推敲した)が現存するのか
はわからないが宮沢賢治の人となりまでわかって面白い。
 「たんぽぽ娘」だけは粗筋を聞く五浦に「短くて面白いから自分で読んでみて。」と最後までわ
からないのだが、ドラマの方ではエンディングで粗筋を語ってしまっていたので、私にはわかっ
たが、ドラマ見てない人はこの本探すんじゃないだろうか。やはりドラマで取り上げられたこと
から反響が大きかったらしく再翻訳、再販決定という。
 今回は前2巻よりさらに奥深く「本」というものに迫っていたように思う。4巻にも期待大。



「犬神家の一族」(1972)横溝正史 著 ’13/05/23読了 ★★★
 もう名前も思い出せないが数年前お笑い芸人が「犬神家!」といって大開脚で逆立ちする芸
があったが(ボンテージ衣装で女王様キャラの人…名前が思い出せないし最近見ない)、その
本家がこの本。いまだ勢い衰えずというのがすごい、というかこれでなんのことかわかってしま
うのがすごい。
 映画化にもドラマ化にもなっているが、どちらも観たことないので、「犬神家!」という大開脚
のシーン以外全く知らなかった。多くの人は知っているだろうから、粗筋は省略。ネタバレあり
です。
 正直、佐清と静馬が入れ替わっているのだろうなぁという察しはついた。青沼静馬という人間
が遺言状に現れていても、本人は一向に物語の中にいないのだ。当然マスクをつけた佐清が
怪しい。マスクを付けさせたというのは誰かと入れ替わるというトリックありきだろうと察しはつ
く。よくできているのはトリックだけではなく、結局残った佐清と珠世が、じゃあそれで、と結婚と
はいかなかったところにある。血縁者(叔父と姪の関係)であったというオマケつきなのだ。た
だ、そのことを父親犬神佐兵衛は知らなかったのだろうか?知っていても関係ないか。左右さ
れるのは財産のみだけで、珠世との婚姻は孫の3人いずれかとなっている。佐清でもある静馬
が一番愕然としただろう。
 ことほど左様に、動機もトリックもよく練られていて不朽の名作と言っても過言ではない。関係
ないけどいつの時代までこの「犬神家!」は通じるのだろう?私の世代でギリギリではないだろ
うか?最近の子は知らないと思うんだけど…とすると冒頭の芸人のギャグが何故に若い子に
ウケたのだろう?という全く別問題で締めることになった…思い出した、西岡スミ子だ!どこ行
ったんだろう…。



「ビブリア古書堂の事件手帖 2〜栞子さんと謎めく日常〜」(2011)三上 延 著 ’13/05/15
読了 ★★
 この本ではアントニィ・バージェンス「時計じかけのオレンジ」、福田 定一「名言随筆 サラリ
ーマン」、足塚 不二雄「UTOPIA 最後の世界大戦」がとりあげられている。福田定一以外の
2作はドラマ化された通りで今さら語ることはない。「時計じかけのオレンジ」では本の内容がス
トーリーにかかわってくるが、「UTOPIA 最後の世界大戦」はマンガでしかもマニア垂涎のもの
で買値は100万を超えるというくらいでマンガの内容は関係なく、栞子さんの母親のエピソード
につながる。ドラマ化の通りだけど。
 ドラマ化されてない「名言随筆 サラリーマン」の作者名が司馬遼太郎の別名だったというこ
とくらいしか特筆することもない。
 実はストーリーは栞子さんと五浦の微妙な関係の変化に重きをおいてもいるのだが、正直そ
っち(恋愛ものとして)は興味がないので、その辺の描写が頭に残らない。栞子さんが女子高
育ちで異性に対してスキがありすぎるとか、服装に露出が多いとかそのへんの男子目線の栞
子さんの魅力は同性には伝わりにくいのかも。3巻に期待。



「獄門島」(1971) 横溝 正史著 ’13/05/10読了 ★
 「文春東西ミステリベスト100」というミステリ指南書に20年前から変わらず一位を独走してい
る名作というので読んでみたのだけど…トリックの奇抜さなら島田荘司の方が上では?と思っ
てしまった(「占星術殺人事件」は3位)。どうやら20年1位を保っているということから期待が
大き過ぎたのと、まぁ好みはそれぞれってことですかね。
 瀬戸内海の小島に網元として君臨する鬼頭家を金田一耕介が訪れる。彼が戦時中、遺言を
託された戦友、鬼頭千万太の遺言をかなえるためだった。「三人の妹達が殺される。俺の代わ
りに獄門島へ行ってくれ。」しかし遺言どおり悪夢のような連続殺人事件が起きる…。
 発表当時トリックが奇抜で絶賛されたのかもしれないが、いまや後継者が跳梁跋扈している
ミステリ界。やはり物足りなさがあった。物足りなさの筆頭はやはり動機と実行。そんなことで
人を殺せるのかなぁ…という疑問。怨みつらみがあったわけでもないのに自分より若い、いや
青春を謳歌している幸せな人の命を手に掛けるとは、犯人がそれなりに残忍な人というのでな
ければ納得がいかない。遺言くらいで人を殺せるのか。それが横溝ワールドでは通ってしまう
のだが。今読んでいる「犬神家の一族」も登場人物が遺言に振り回されている(まだ読み終わ
ってないので遺言の真意はわかってないけど)。
 「ベスト100」にはまだまだ横溝作品は名を連ねているが、全部こんな風なんだろうか。「本陣
殺人事件」やら「八墓村」などなど。全部遺言に振り回されているのでないことを祈ろう。



「中国トツゲキ見聞録 1」杜康 潤著(2013)’13/05/08読了★★
 またもマンガですが。前日に本屋で「WINGS」というマンガ雑誌を衝動買い(目的は「PALM」
の最終章開始に因んで「PALM」小冊子が付録に付いていた)、その雑誌の広告で見たのだけ
ど、まぁ本屋行くことあったら見てみようかなくらいにしか思ってなかったのだが、翌日に偶然の
再会を果たしたので購入と相成った。まわりくどいが、衝動買いね。
 中国留学記といえば小田空のほうが上ですが、やはり時代がちょっと違うし(とはいえ2003
年と10年は前の話)留学先も違う。雲南省という隣はベトナムといった最西南の省だし、何よ
りSARSまっただ中のルポということもあって面白かった。いかに中国が閉鎖的な国かがよく
わかる。「有事の際に2時間以内に引き払えるよう、心づもりをしておきなさい。」と留学前に言
われたとか、中国内外の情報の温度差とか笑えないくらいリアル。まぁ、こんな国行かないこと
ですな、の一言に尽きる。しかし著者の中国愛は一重に「三国志演義」の孔明への愛であるの
で、その深さというか執着度合いには誰も口を挟めまい。「三国志」は誰しも通る道ではあろう
が(日本の「平家物語」くらいの位置づけ?)、そこまで登場人物にはまらなかったなぁ。(敢え
て言うなら好きなキャラは曹操。孔明って所詮負け組じゃない?)日本にも源氏(主に義経だろ
うが)や新撰組マニアはいるが、隣の国のバトルには今一つ入り込めなかったので、その辺は
テキトーにとばして「入学以来中国のアバウトさに散々苦しめられた人々」を眺めるにはじゅう
ぶん楽しいテキストであった。



「育児なし日記VS育児され日記 2」逢坂 みえこ著(2013)★★★
 マンガが2冊続いておりますが、エッセイマンガ特に育児モノに何故か弱いんです。
たまごなんちゃら、ひよこなんちゃらという育児雑誌に連載されておるそーだが、もちろん自分
には関係ない。他人事だからこそ笑って読めるというもの。動物すら責任もって飼えないのだ
から人間の子供なんぞ持つもんでないなー、と笑って読める。



「トルコで私も考えた トルコ料理屋編」高橋由佳利 著(2013)★★★
 「トルコ考」5冊目である。「21世紀編」から5年ぶりだそうで、このたび今までの分が文庫化
されてもいる。しかし作者の手書き文字が読みづらいので私はワイド版のほうをお勧めする…
字が汚いって言ってるんじゃないのよ、小さくって見えにくいのよ。
 さて今回はダンナTさんが神戸・北野(山の手のおしゃれ地区)にレストランを開業する話だ。
本にもあるように、実はちょいと駅から離れて(しかも坂の方)いるので、去年トルコ料理を食べ
に行くという時、候補から外した。でも今回この本を読んで、がぜん行く気になった(いつかは
わからないが…ビミョーな味わいにダンナはあまり乗り気でない)。タイミング良ければ著者が
サインしてくれるというのだ。まぁ、いないことも多いらしいが。ケナン君が中2にして182セン
チになってたり、ハラルフード(ムスリム用の豚成分抜き食品)の話や、ベリーダンスを自分も
やってみたいなーと思ったり(やらないけど)、エピソードはそりゃてんこ盛り。
 ところでこの本に出てくる「陰陽師」(カラーセラピー?)を捜しているのだが、いまだ見当たら
ず。わかる人いたら教えてください…。



「ビブリア古書堂の事件手帖〜栞子さんと奇妙な客人たち〜」三上 延 著(2011)’13/05/04
★★
 剛力 彩芽主演で’13年1月から月9ドラマになっていたのを見てから、興味を持って読んだ
のだが…ドラマの方がうまくできてたような。それこそ最初は話が地味と叩かれてはいたもの
の、ドラマの方がうまくまとまってた。キャラも内気で本の虫で本以外のこととなるとしどろもどろ
で話すのも一苦労といった世間ずれした感じの原作より、特にどもったりうろたえたりすること
もなく、逆に何もかも最初からお見通しといった泰然自若としたドラマの方が主役としては凛と
した栞子さんの方が、自分には好み。原作は男性の理想像が多分に入っているのでは(楚々
とした黒髪ロングヘアーに実は巨乳とか)とうがった見方をしてしまう。
 肝心のストーリーもドラマの方は採りあげた本の内容をエンディングで紹介するのだが、原作
の方はそれがないので物足りなさを感じた。読んでなくても楽しめるようにしてほしかった…っ
てか日本の名作を読んでないのが悪いといわんばかりに思える。小山清「落穂拾ひ・聖アンデ
ルセン」なんて知ってます?1巻には4話あるのだがどれも読んだことのない本だった。まぁ、
夏目漱石の「それから」くらいは知っとけよ、と言われると返す言葉もないのだが。教科書に載
ってたことも手伝って太宰治の「人間失格」と夏目漱石の「それから」は私の中でごっちゃにな
っている。Kがでてくるのってどっちだったっけ、写真がモチーフになってるのってどっちだった
っけ…。女性を嫁にくださいと母親に言った時「よごさんす、さしあげましょう。」ときっぱり一言
言われたのはどっちだったっけ…親友を出し抜くという話は…と、まぁどっちにしろその程度し
か印象に残ってない。日本の名作と言われる本は自分の中で物語をなしてないのだ。唯一教
科書で覚えているのは森鴎外の「舞姫」だけ。ラストの悲惨さと森鴎外の自伝であるということ
から深く印象に残っている。残りすぎて後日談まで調べたほどだ(エリスは発狂してはおらず森
鴎外を追って来日した)。
 ドラマからの原作読みという逆転技ではあったものの、本好きには興味を引くには十分であ
った。かつては本好きが高じて古本屋を経営したいと思っていた頃もある身としては古書業界
がちょっとはわかって面白かった。そこのところも実は原作よりドラマの方が詳しいのだが。実
は2・3巻も買ってある。こんだけ不満言っといて(笑)ドラマも終わってしまったことだし、もう少し
栞子さんの活躍が見たいのだ。折角退院したしね。(原作では栞子さんは足の骨折でずっと入
院していた…そこも勿論ドラマとは違う)この本自体すごいのは1年後(2012年)には30版を重
ねていることだ。私のような本好きがぶつぶついいながらも手にしてしまっていること請け合い
だ。



「永遠の仔」全5巻(1999)天童 荒太著★★’13/04/30読了
 日本中に感動の渦を巻き起こした永遠の名作!とあったんだけど、私には今一つ感動でき
なかった。簡単にいえば児童虐待の話で、3人の主人公それぞれが酷い虐待を受けていたと
いう話なのだが、何故17年後になって物語が始まるのかよくわからない。この17年は必要な
年月だったのか。5巻と言う長さは「模倣犯」には無駄なく思えたが、こっちはただ長いだけとい
う感じがした。それぞれの人物の感情が17年前の事件へ帰結するのだが…真相がわかって
も、「あ、そう。」という感じで、感動はなかった。なんで「感動を起こした永遠の名作」とまで言わ
れてるのか…同じ児童虐待なら「闇の子供たち」のほうがスケールも恐怖度も上回っていると
思うのだが。虐待を受けていたという読者からの反響がすごかったということもあるだろうが、
それは後付けで、話自体にあまり同情できるところはなかった。
 著者のあとがきを読んでタイトルの意味はわかった。誰もが皆誰かの子供であるのだ。親が
年老いようと、どんな姿かたちになろうと、仔は仔なのだという意味であえて「仔」という漢字を
使ったらしい。納得できたのはそこくらいか。



「イニシエーション・ラブ」(2007)乾 くるみ著 ’13/04/13読了 ★★
 「評判通りの仰天作。必ず二回読みたくなる小説などそうそうあるものじゃない。」
 「僕がマユに出会ったのは、代打で呼ばれた合コンの席。(中略)青春小説と思いきや、最後
から二行目(絶対読まないで!)で、本書は全く違った物語に変貌する。「必ず二回読みたくな
る」と絶賛された傑作ミステリー。解説・大矢博子」
 ここまで書かれちゃ期待が嫌がおうにも増す。しかも最後の2行で全てが反転するとあって
は、ページを繰る手ももどかしく次へ次へと読んでしまう。
 が、こっからネタバレなんでこれから読もうという方は読まないでください。
 その最後の2行を読んでもしばらく(たっぷり30秒はあったろうか)、「あ、違う人なのか!」と
わかるには時間がかかった。描かれた時代は80年代後半。携帯もメールもなかったあのこ
ろ。何故にその時代を選んだのかとは、CDが生まれたときからある世代にはもっとわかりにく
かろう。大矢博子氏の解説がなかったら、まだ意味がわからなかったと思う。彼女の解説の「A
面を聴いているときには、B面も一緒に回っているのだ。」の一文でやっと、一部と二部(sideA
とsideBと書かれているが)は同時進行で解説にある通り、「静岡には鈴木姓が多い」というとこ
ろから同時進行していた別々の鈴木氏の恋物語だということがわかった。しかし同時進行して
いる恋愛物語に共通してでてくる人物、それがマユだ。つまり彼女は二股をかけており、会う日
から呼び名から非常に気をつかって、2部の鈴木がやらかすような恋人と浮気相手の呼び名
を間違えるというような愚は犯さず(彼女は二人両方に「たっくん」という呼び名をつける)、いけ
しゃあとどちらともつきあっていたのだ。げに恐ろしきは女なり。
 確かに1部と2部で同一人物か?と思わせるところはあった。1部では冴えない男子大学生
(勝手にドランクドラゴンの塚地じゃない方をイメージしていた。彼も偶然鈴木だ)が2部では同
期の美人に好かれることからこっちの鈴木氏は見た目も悪くないことがわかるし、マユが妊娠
するが2部の鈴木に思い当たるところはない(しかしマユを疑う罪悪感と彼女には自分しかい
ないと露ほども疑わない純真さから堕胎に付き合わされる)というのに。一人称で語られるから
といって、必ずしも同一人物ではないというのは「さよならドビュッシー」でもあったとはいえ、こ
ちらは姓まで一緒なのだ。確かにやられた。
 登場人物の姓名をはっきり最後まで覚えていなかったので、最後に「夕樹」だったはずの「た
っくん」が「辰也」と呼ばれて、違う人物だとわかるにはしばらくかかった。最初から読み返した
いかというと別にそのカラクリがわかれば読み返さなくてもいいけど…これミステリかなぁ?とち
ょっと疑問も残る。



「犯罪」(2011独)フェルディナンド・フォン・シーラッハ著’13/04/12読了 ★
「高名な刑事事件弁護士である著者が現実の事件に材を得て、異様な罪を犯した人間たちの
哀しさ、愛おしさを鮮やかに描き上げた珠玉の連作短編集。ドイツでの発行部数四十五万部、
世界三十二カ国で翻訳、クライスト賞はじめ、数々の文学賞を受賞した圧巻の傑作!」
だそうなんですが、正直それほどでも…。第一話「フェーナー氏」こそミステリめいた要素はあ
るが、「タナタ氏の茶碗」「チェロ」と読み進んでいくうちに、あったことを記述しているだけのよう
な、何やら哲学的なものさえ感じる。とてもミステリとは思えないんだが。



「「鬼が来た!」撮影日記 中国魅録」 (2002) 香川 照之著 ’13/04/07読了 ★★★
 カンヌ映画祭グランプリを獲った中国の姜文監督の映画「鬼が来た!」に出演した俳優香川
照之の撮影日記。
 いやー、笑った笑った。笑っちゃ悪いが、笑えた。本人も今となっては笑い話にしているだろ
うが。自分もそうだが、旅行中という非日常の中のトラブルは当時は大変なのだが、後になっ
て見れば見るほど笑い話になる。彼の人もそうなのではないかということは想像に難くない。
正直、ちょこっと行って、ちゃっちゃと撮影して帰って来たんだろうな、と思ったらさにあらず。彼
が参加しただけでも5カ月。完成にはさらに半年を要したらしい。そして1年9ヶ月後にようやく
カンヌで日の目を見たという。しかも香川氏は年末に撮影終了後、50年後の花屋(香川の役
名)を撮りに、年明け再度中国に向かったが撮影したシーンはバッサリカットだったというから
また笑える。
 撮影は1998年だが、ちょっと田舎に行けば本HPの「読書」欄でも紹介した「兄弟」の本の通
りの世界が広がる。私だったら香川氏に中国出立前に「兄弟」と小田空の「中国何ですかそれ
は?」を渡して、文化の違いをよーく噛んで含んでお教えしたろうに。いや、教えない方がいい
か。何も知らずに行ったから、このような面白い本が上梓できたのだ。ディープ・チャイナという
か、ドアのないトイレ、人のものを盗って当たり前、痰は屋内外にかかわらずペッとはきだす、
という腹立たしい文化が彼の手によってさらに面白く語られている。これぞ中国といった世界に
大笑いできることこのうえなし。ただし笑ってられるのも自分が関わってないからで、自分の身
にふりかかったらと思うと空恐ろしい。
 とはいえ、本当に面白いのでご一読をお勧めする。



「模倣犯」全5巻(2001)宮部 みゆき著 ’13/04/05 ★★★
 「このミス」1位にもなってるし、映画化されてるしで今さらなんで粗筋は省きますが。ただ、映
画観て「模倣犯」のストーリーを知った気になってたら大間違い。本の紹介レビューにもあった
けど、言葉を借りれば「映画の方は噴飯ものである」とは確かに。映画観てがっかりした人は
原作読むべき。
 なので感想だけを述べれば確かに面白かったし、5巻という長さも必要だったと思えるので無
駄なエピソードだとは思わない。だが、あえて苦言を呈するなら、あそこまで用意周到な計画殺
人を遂行しておきながら、最後の方では犯人”ピース”が、前畑滋子に糾弾されたところで、う
っかりボロをだすほど稚拙とは思えない。物語の前半と後半ではまるで犯人の人が変わったよ
うな印象を受けた。確かに前半でも「ボイスチェンジャーでは声紋は変わらない」という事実を
知らなかったというミスはあるが、最初に発見された被害者より以前に多くの女性を殺害して
逃げおおせていたのだから、並大抵の頭の良さとは思えないのだが。最後に犯人は前畑滋子
の策略にまんまとひっかかり、感情的になるあまりあっさり自分が犯人であることを認めてしま
うのだ。テレビという大舞台であるとはいえ、そのあっさりさがひっかかった。
それと、犯人二人説はテレビ局に電話をした犯人がCMを挟んだ前と後では人が違うというこ
とが声紋が違うということからわかっているなら、後半”ピース”こと網川浩一はテレビにガンガ
ン出ているのだから、警察が彼が疑わしいと思った時点で、CM後の声紋と網川の声紋を比
較すれば、もっと早く動かぬ証拠をつかめたのではなかろうか?
 以上の点がひっかかったものの、確かに劇場型犯罪をモチーフにした傑作であることに代わ
りはない。



「悪の教典」(2008) 貴志 祐介 著 ’13/03/18読了 ★★★
 高校の英語教師蓮実聖司は生徒から「ハスミン」と呼ばれ絶大な人気であったが、彼の本当
の姿は共感能力の欠如した人を殺すことなど全く意に介さないサイコパスだった。
初出は2008年だが単行本化したのが2010年で2011年度「このミス」1位に輝いており、昨
年映画も公開されたので、今さらストーリーの説明など不要でしょう。更に今年の5月にDVD発
売だそうです。
 確かにすごい筆致で読む者を逃さないというか、本を置けないくらいの展開で、1位も納得。
読後しばらく魂抜かれた状態でした。これほど面白い本もそうないな、と。著者の本はデビュー
作(「黒い家」)からハズレなしなんで、これは太鼓判を押してお勧めできるが…サイコ嫌いな人
は当然無理ですな。


「点と線」(1971)松本 清張 著 ’13/03/15読了 ★★
 社会派推理物の先駆けとなったと言われているので、古い作品ながらも読んでみることにし
た。が、正直「アリバイ崩し」には納得したものの、青酸カリをどこで入手したのかとか、どうや
って殺す人間を呼び出したのかなど納得いかない点もあった。「アリバイ崩し」がこの本の読み
どころなんだから、と言われればまぁそれもアリかな…くらいなんだけど。何時何分の電車に乗
って何時に降りて何時の飛行機に乗れば犯行は可能…などはちょっとまだるっこしい。西村京
太郎を読まないのはそのせいなんだが。



「常野物語 蒲公英草紙」(2008)恩田 陸 著’13/03/14読了 ★
常野一族は未来を予知するなど、変わった力を持っていた。槙村家の聡子さまの話し相手に
農村の一家から峰子が選ばれた。
普段ミステリ・サスペンスなどを読んでいるとこの手の話はどこがヤマでどこで盛り上がればい
いのかわからなかった。




「ハサミ男」(2002) 殊能 将之 著 ’13/03/10読了 ★★
 美少女を殺しハサミを首に突き立てる連続殺人犯、通称「ハサミ男」。次なる標的を定め狙
い澄ました瞬間、その少女は殺されてしまう。しかもハサミ男の手口を真似た模倣犯。ハサミ
男は自ら真犯人を捜し始め、同一犯と思いこんだ警察側は従来のハサミ男の捜索を始める。
結論から言ってしまえば、「わたし」なる人物からの描写が複数回出てくるからといって「わた
し」が同一人物とは限らないのは「さよならドビュッシー」でもあったし、通称が「ハサミ男」であり
「わたし」自身についての描写が少ないことから性別を誤解させるのは「更年期少女」でもあっ
た手法。以上2作品を読んでいれば、犯人像もおのずと浮かび上がるので、この作品の手法
は使い古されてしまっていたのだ。もう一つ言えば年齢をミスリードさせるのは「葉桜の季節に
君を想うということ」であるが、年齢はこの話には関係なく、文章通りに取ればよろしい。せっか
く読者をミスリードさせようと文章にこだわっただろうに、私のようなひねくれた読者はまんまと
は騙せなかった。残念でした。




「ラスト・チャイルド」(上)(下)(2010米) ジョン・ハート著 ’13/03/06読了★
実は1回ではわからず2回読んだ…にもかかわらず内容が今一つ頭に残ってない。
ジョニー少年の双子の妹アリッサが誘拐された。事件後父は失踪、母は薬物におぼれ、一家
は崩壊するが、ジョニーは親友とともに妹を捜索する。当然警察も動いていて警察側からの描
写が刑事ハントからなされている。
でもやっぱり、どこが面白いのかわからなかった…。



「おやすみラフマニノフ」(2011)中山 七里 著 ’13/03/05読了★★★
 前作「さよならドビュッシー」とやや関連する話。とはタイトルからもわかるだろうけど。今度の
主人公はバイオリニスト。探偵役は「ドビュッシー」同じく魔法の指を持つ岬先生。
確かに難解なクラッシック音楽を文章に起こすという稀有な技法はすごいんですが、いかんせ
んその音楽描写がくどい、と思うのは否めない…確かにすごいんでしょうけど。最後にあ、ミス
テリだっけ、と思い出させるかのように、事件の顛末を岬氏が解き明かすのだけど、やっぱりこ
の本のメッセージはクラッシック音楽の素晴らしさなのかなぁと思わざるを得ない。それと語り
手が実行犯というのは「ドビュッシー」でもあったのでまさか、とは思ってたけど、まさかの「ま
た」だったのでいささかがっかり。いえ、語り手イコール犯人ではないんですけど。
 別の世界を主題にしても同じように物語に引き込んでくれるのか、で作者の手腕が発揮され
るような気がする。




「月とにほんご 中国嫁日本語学校日記」(2013) 井上 純一 著 ★★★
コミックなんですけど、日本語の蘊蓄もたっぷりで日本人でも知らないことがたくさん。笑って勉
強できて、最後はホロっとさせられる楽しい本でした。



「女ともだち」(2006) 真梨 幸子 著 ’13/02/18読了 ★★★
よくまぁこれだけドロドロした物語が書けるものだなぁ。でも何故か隣近所の家をのぞく奇妙に
愉快な感覚にとらわれてついついページをめくってしまうのだ。アメリカのドラマ「デスパレートな
妻たち」にも共通したところがある。一見完璧に見える裕福な家庭が、実は個人個人公にでき
ない悩みを抱えていて、絵に描いたような「幸福」が実は全くのハリボテであるという。
真梨幸子の書く小説もそういった一見人に羨ましがられそうな人が実はこんなことをしていて
…と人の秘密をのぞき見させている錯覚に陥る。「東電OL殺人事件」(つい最近無罪が確定さ
れたけど、犯人はわからずじまいだったような)がモデルだそうだが、キャリアウーマンがマン
ションを買って気ままな独身生活を送っていたところを殺される。
ここからネタバレなんですけど、あえて苦言を呈すると、同じ日に同じマンションで二人の独身
キャリアウーマンが殺されたことになっているんだけど、自殺か他殺か警察が見分けつかない
ってことがあるだろうか。いくら検察がお粗末なことになっているとはいえ、連続殺人ととらえる
か…出発点から疑問はある。日本の鑑識はそこまでお粗末じゃなかろう。物語は推理小説とし
てより、個人の事情が主なので、その辺は無視していいのかもしれないが。死んだ二人のキャ
リアウーマンとその友達、親戚、検察、この事件を取材していくルポライター…それぞれの人生
を見ることになる。こんな人いるんじゃないか、と思わせるほどそれぞれの生き方がリアルに描
写されているのである。とはいえ、作者自身はインタビューで「誇張してるところはある。誰もが
こんなふうだとは思ってない。デフォルメしてるところはある。」と述べている。そうデフォルメさ
れないもともとの人間はというと…自分なのかもしれないという普遍性を感じさせるのである。



「陸軍士官学校の死」(上)(下)(2010) ルイス・ベイヤード著 ’13/02/16読了 ★★★
1830年、アメリカ陸軍士官学校で怒った猟奇的な連続殺人事件に若き士官候補生エドガー・ア
ラン・ポォが挑む。こう書けばミステリ好きにはうってつけの内容と思われるが、ストーリー展開
がだるいのと、詩を好むポオの詩的表現、比喩には辟易させられた。後半から怒涛の展開を
見せて、結末はそうきたか!という爽快感もあり★3つにしたんだが、正直前述のこともあって
★2.5といったところだ。とにかく本筋と関係ない描写が多く、イライラしたのも事実だ。
原題の”The Pale Blue Eye”(ほの蒼き瞳)がなんで「陸軍士官学校の死」になったのか。



「フランキー・マシーンの冬」(上)(下)(2010) ドン・ウィンズロウ 著 ’13/02/05 読了★
何故だか話が全く頭に入らなかった。
凄腕の殺し屋だった「フランキー・マシーン」ことフランク・マシアーノも62歳になり隠居しサーフ
ィンを楽しむ日々を送っていたが、何者かに狙われるはめになる。思い当たる者が多すぎて
…。推理物ではないのであまり印象に残らなかったのかも。



「大人のための文章教室」 清水 義範 著 ’13/01/29読了 ★★
ブログを書くときに役に立つかなー、と思い読んだが…ごく当たり前のことが書いてあったとい
う…。「近寄ってはいけない文章」が新聞というのには驚いたが、確かに客観的事実のみを書く
という新聞記事とエッセイ・随筆とは対極にあるものだと認識を新たにした。



「ノンストップ!」 サイモン・カーニック著 ’13/01/24読了 ★★
電話の向こうで親友が殺されたことから、逃走劇が始まる。とにかくスピード感を前面に出した
というのが印象的で、内容の深さはあまりないのが残念。



「<ジョーク対決>世界戦 中国人VS日本人」 早坂 隆 著 ’13/01/23読了 ★★★
腐敗・格差・貧困など日中が抱える問題の深刻さと、後にくるジョークの軽さのバランスが絶妙
で、さくさく読めた。重い本の後にはちょうど良かった。ただ、わからないジョークもあった。

●合挽きの割合
とある中華料理店。肉団子を頼もうと思った客が聞いた。
「どんな肉を使っているのかね?」
料理人が答えた。
「七面鳥とダチョウの合挽きです」
「割合は?」
「半々です」
「五十%ずつということだね」
料理人が言った。
「いえ、一羽に一頭です」

これだけが意味がわからなかった。



「司法通訳だけが知っている 日本の中国人社会」 森田 靖郎 著 ’13/01/19読了 ★★★
日本における華僑社会の複雑さおよび日本に出稼ぎに来る単純さの表裏がわかる。わかった
ところでどうしようもないんだが、多くの中国人とは関わらないほうがいい、という教訓にはなっ
た。正規のルートで日本でまともな暮らしをしている中国人なんてほんの一握りで、後は不法
就労、不法でなくとも借金まみれの生活苦から脱出するために日本に来たという人ばかり。ビ
ザが切れれば逃げる、捕まる、強制送還、また来るの繰り返し。なんでこれが公に国家間の問
題とならないのか。なっていても中共がもみ消してしまうのだろう。中共は社会主義の恩恵を受
けられない貧農などいては困るのだから。しかし一人の残留婦人を元手に日本に送り込まれ
る中国人が180人にも昇るなど、やはり法整備はもっと強化すべきだと思う。合法就労だけで
も10万人を超えるとあっては立派に一つの町村並ではないか。
本書の主人公の司法通訳(中国人)のような人が、中国ではよくても日本じゃだめなんだ、と説
いて回らないといけないなんて、とても手が足りないだろう。密入国だから出国に際しては誰も
リスクは説明しない。帰国した中国人も自分の失敗には硬く口を閉ざす。この本はもっと多くの
日本人に読まれてもいいと思う。竹島・尖閣よりもっとひっ迫した問題だ。



「恋する西洋美術史」 池上 英洋 著 ’13/01/17読了 ★★
西洋美術史にある有名無名(ほとんどが有名。どこかで見たことがあるものが多い)の恋愛に
まつわる名画を解説。名画とは関係ないが、「女性が妊娠、出産の苦しみを味わうのはイブが
アダムに禁断の実を薦めたからだ。」というキリスト教上の理由に驚いた。そんなことのために
世の女性全てがこの苦しみを負うというのは、あんまりじゃないか、おのれイブと思わずにはお
れなかった。近年女性の社会進出が妊娠出産のためにどうしても阻まれるという問題と結びつ
くわけないんだけど、何故かこのことが心をよぎった。結果本とは関係ないことに驚嘆し憤りを
感じた。



「さよならバースディ」 坂本 真士 著 ’13/01/14読了 ★
バースディというのは研究所にいる知能の高いボノボ。殺人事件をすべて見ていたと思われる
ボノボからいかにして証言を引き出せるか…。という話なんだけど、残念ながら動機が弱くて、
トリックがわかっても今一つ納得できなかった。



「ヨーロッパの中世美術 大聖堂から写本まで」 浅野 和生 著 ’13/01/07 ★★
興味ある人には面白かろう。自分には西洋美術史においては中世よりルネッサンスの方が好
きかな、と。



「ネガティブ・マインド なぜ「うつ」になる、どう予防する」 坂本 真士 著 ’13/01/01 ★
うつになる傾向はわかった。「自己注目」型の人間がうつになりやすいというのは、身をもって
納得。ただ、性格や気の持ちようでなんとかなるというのには反論がある。「うつ」は性格が明
るくて前向きな人はならないわけではない。いつ誰に襲ってくるかわからないれっきとした「病
気」なのだ。だから投薬も含め医者によく相談して自分の方法で治していくのがよいと思う。



「北京原人の日」 鯨 統一郎 著 ’12/12/28読了 ★★★
文庫本としては太めだが、読みやすい筆致で内容の濃さを感じさせない。
ミステリ好きはもちろん、歴史好きにも対応できる内容。史実とフィクションを混ぜているので、
ちょっとややこしい部分はあるが、会話が多くて読みやすい。歴史も高校レベルからちょっと深
いところまで教えてくれるのでちょっとお得感もあってよかった。



「殺人鬼フジコの衝動」 真梨 幸子 著 ’12/12/22読了 ★★
以前この人の「更年期少女」読んでえらく感動したが、どうもこの人のカラーだとわかると感動
も少々失せた。一人称から三人称に変わった時に何かあるなとは思ったが。娘の小説と実際
の母と小説家との関係が明らかになるラストは「ああ、そうか」とひざを打つより、紛らわしーな
ーという感じだった。



「完全なる首長竜の日」 乾 緑郎 著 ’12/12/19読了 ★
こういうファンタジーは理解できない。「このミス大賞」だって。信じられない。



「謎解きはディナーのあとで」 東川 篤哉 著 ’12/12/16読了 ★★
軽い文体とアームチェアー・ディテクティブの形式が受けたのか2011年ベストセラー1位だそ
うな。TVドラマを先に観たので、どうしても比較してしまうが、TVは映像でしかできないことや原
作では動かない執事の景山をうまく使っていた。まぁ嵐の櫻井翔を起用しているんだから、原
作並みの出番だったらファンが納得しないだろうが。軽〜く読めてそこそこ面白かった。



「動機」 横山秀夫 著 ’12/12/13読了 ★★
4つからなる短編集。「動機」は警察、「逆転の夏」は葬儀屋、「ネタ元」は新聞記者、「密室の
人」は裁判官と、多種多様な職業人が主役となっていて飽きさせない。いずれもミステリ色は薄
いが、個人的には「密室の人」が裁判官ってこんなもんなのかぁーと知らない面を見れたようで
面白かった。



「半落ち」 横山 秀夫 著 ’12/12/11読了 ★★
映画を確か見たはずなのに、すっかり忘れていた。「このミス」一位(「64」)の著者でこれも’03
年度の一位だったので読んでみた。内容は至極簡単で、読み終わって、「あぁそうだった。」と
映画のシーンも思いだしてきた。
現職警察官が妻を殺し、自首してきた。殺害から自首までの2日間をどうしても自白しない。空
白の2日間に迫る物語。動機も経過も話すので半分はわかってるが、全部は解明できない。
それを「半落ち」というらしい。警察物を得意とする著者なので、本当かどうかわからないが、警
察組織の内部がちょっとわかった気になる。



「往復書簡」 湊 かなえ 著 ’12/12/10読了 ★
映画「北のカナリアたち」(主演吉永小百合)の原作というから、かなり期待して挑んだのだけ
れど、期待が大き過ぎた…。短編3つから成っていて、そのうちの一つ「二十年後の宿題」が原
案になったと思われる。逆にこれをどう映画にしたのかが気になる。
タイトル通り全て手紙形式で話が進んでいく。読んでいくと確かに最近メールに頼ってるところ
が多いので手紙もたまには書くのもいいかなと思えてくる。



「なぜ夜に爪を切ってはいけないのか」 北山 哲 著 ’12/12/09読了 ★
知らない迷信がいっぱいだし、結局神話や昔からの言い伝えというものが多く、私が求めてい
た科学的立証がされているものが少ない。「同じ年の仲間が死んだら耳をふさぐ」「洗濯物を夜
に干すと招かざる客が来る」なんて初めて聞くものがほとんどだった。



「古惑仔」 馳星周 著 ’12/12/04読了 ★★
6篇からなる短編集。表題「古惑仔」は香港が舞台だが、それ以外は日本に出稼ぎにやってき
た中国人不法滞在者の話。どれも救いのないエンディング。まじめに生きなきゃなぁと思わせ
る。確かにまじめに働く人が主人公というのもあるが、それがどこかで運命の歯車が狂い、転
落していく。ひょっとしたら自分にも起こりうるかもしれないと思わざるを得ない。多くの犯罪者
が「何故こんなことに」と自問しているだろう。
日本ってこんなに中国人不法滞在者が多いのかと思うと、何故それが国家間の問題にならな
いのかも不思議だ。フィクションだからどこまで本当かわからないが、本の主人公曰く「日本で
どんな暮らししたって、福建にいるよりましだ。日本は黄金の国だ。」蛇頭に多額の借金をして
でも密入国者が絶えないのは、やはり中国の貧困層がかなりのものだということの表れではな
いだろうか。北京や上海の大都会へ出稼ぎに出ても、貧農だということで足元を見られ安い賃
金でこき使われる。日本でもそれは一緒だが、まだ貨幣価値からすると日本のほうが儲かると
いうことらしい。
一方中国のほうが物価が安く、富裕層地区に住めば快適ということもあって、日本から移住し
ている人もいると聞く。いずれにしても中国との複雑な関係を思わずにはいられない。



「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?」 山田真哉 著 ★
副題に「身近な疑問からはじめる会計学」とあって、これを読んでたら買ってなかった…。会計
学入門書。本当に疑問だったさおだけ屋については、金物屋が本業の宣伝兼ねてやっている
のでコストがかからない。売れれば丸儲けということらしい。そのほかのことは会計学に興味な
ければなんの得にもならないので、特におすすめはしない。


「ゴヤ 運命・黒い絵」 堀田善衛 著 ’12/11/27読了 ★★★
いよいよ最終巻。「黒い絵」と彼の死がやってくる。「黒い絵」とは彼の買った家「聾者の家」の
壁面に描かれた14枚の絵のことである。食堂に描かれた「我が子を食らうサトルゥヌス」など
残酷で陰惨なテーマで描かれたものが多い。著者は「狂気の沙汰」とまで言っている。
それにしても、ゴヤは死ぬまで描き続ける。80歳過ぎてもまだ「俺はまだまだ学ぶぞ!」と意
気軒高であり、街に出ては目に映るもの全てをデッサンしていく。その早描きと意欲は驚嘆に
値する。散逸している絵もあるといえばあるが、一般に知られている画家よりずっと多くの作品
を残していると思われる。フェルメールなど37点しかないというのに、版画集やデッサン帳など
を入れれば数百になるのではないだろうか。もしかしたら私蔵されてまだ世に出てないものも
あるかもしれない。死ぬまで画家であったゴヤに惹かれた著者の気がわからなくないではな
い。が、ここまで時代背景とともに詳しく書かれた評伝も少ないだろう。
ゴヤの死後、墓をめぐっての後日談も付録的に書いてある。それによると、彼がようやく自分
の墓に葬ってもらえたのは1919年、死後91年たってからというのも、波乱万丈な彼の人生を
表しているようでもある。



「カラヴァッジョ巡礼」 宮下規久朗 著 ’12/11/25読了 ★★★
以前から持っていた本だが、映画「カラヴァッジオ」があまりにも酷いので、実際どうだったかを
確認するためにまた手に取った。本当のカラヴァッジョは、本名ミケランジェロ・メリージ。ルネ
ッサンス期の画家。殺人を犯し、逃亡生活を送りながら多くの作品を描いた。ローマへの帰途
の途上で熱病により亡くなった。其の直後に恩赦が出た。気性・性格はともかく、その絵の素
晴らしさは当時から現在まで高く評価されている。



「ヘンな国、困った国ニッポン」 デイリー・ヨミウリ編 ’12/11/26読了 ★★
外国人から見た日本の変なとこというところだろうが、ちょっとやそっとの問題ではなく、政治的
問題となっているテーマもある。「貧困大国アメリカ」を読んだ後では、アメリカよりマシじゃん、
と思ってしまいかねない。誰にでも彼にでも福祉を手厚くなんて難しい話だし、日本国民でさえ
享受できていないものを外国人へとは、ちょっと安易と言わざるをえない。外国人がその国で
住むのが難しいのは、日本に限ったことではないし、差別も格差も、外国のほうがひどいじゃな
いか、と思ってしまう。挙げてある問題に対して反感をもってしまう自分がえらく保守的な人間
に思えてきた。外国人に住宅ローンが下りなかった件では、外国人が不動産を買うということと
外国人ゆえにローンが下りなかったということとは別である。実際中国人富裕層がローンなく
日本の土地を買い占めている現実問題がある。中国人は中国では土地は国有なので買えな
い。でも日本では買える。外国人は信用がないからローン組めないなら中国人なんてもっと信
用ならない。参政権にしてもそうだ。外国人の参政権を認めてしまえば、中国人が大挙してや
ってきて国政に同胞を送り込むことなど容易だ。中国による日本占拠はまったくもって不可能
ではなくなる。保守的と言われようが、確固たる日本の法律を整備して、不法滞在者などを出
さないことが肝心な気がする。


「ルポ 貧困大国アメリカ」
「ルポ貧困大国アメリカU」 堤 未果 著 ’12/11/21 読了 ★★★
再読。何故再読したかというと、折しもアメリカ大統領選挙の最中で、オバマが再選したわけだ
が、4年前とでは今のアメリカがどう変わったのかが知りたかったからだ。Uのほうでは、オバ
マ1期目で、みな大いにオバマに期待していた。高い医療費に、国民皆保険制度を公約とした
オバマだが、施行した結果人々は救われたのか。「アメリカン・ドリーム」の言葉が表わすよう
に、アメリカとは豊かさの象徴のような国が今やこんなに貧困層を抱えているとは、どこでどう
間違ったのかと、他国の人間ながら思わざるを得ない。今テレビで見ているアメリカが富裕層
しか写していないのは問題ではないだろうか。格差といえば経済で急成長を遂げた中国ばかり
をクローズアップするきらいがあるが、日本が後追いをしているアメリカのほうが、日本の将来
を観るようで深刻ではないかなと。


「他諺の空似 ことわざ人類学」 ’12/11/20読了 ★★
よくまぁここまでいろいろな国の似たような諺を集められたものだなぁと、著者の探求熱心には
舌を巻く。もうとにかく各国の諺のオンパレでとても頭に入りきらない。あぁ世の中には似た諺
が多いのだなぁと思うしかない。「速読」できれば、じゃあ一つ諺言ってみてと言われて言えるも
んだろうか。恐らく本の大義を言えるのがせいぜいではないだろうか。「速読」ってそんなもんじ
ゃないかなぁ。でも「読書」となれば細部まで読み込み、著者の表現力豊かな文章を楽しむこと
ではないだろうか。もちろんこの本は米原万里のユーモアとピリリと効いた皮肉も満載だ。じっ
くり読むことをお勧めする。



「だから速読できへんねん」 呉 真由美 著 ’12/11/19読了 ★
速読と文章の理解力が一緒なのか不明。いいことばかり書いてあるのだが、例えば文章表現
を楽しみたいといった場合、その文章の詳細な表現が自分の中で再現できるのか。つまり一
字一句頭に入ってくるのかはなはだ疑問。文章に字面だけ追って「読めた」と言っていいもの
だろうか。本の作者の意図をちゃんと汲み取ってこそ「読めた」と言えるのではないかという点
において、「読書」とは何かを定義しないと、そこのところは意見の分かれるところではないか
なと。確かに時間の節約のために速く読めるのはいいことだし、それが更に脳の活性化につな
がると言われれば、速読はいいことのように思えるが…どうにも本当の読書とは思えず、練習
をしてみようという気にはならないのだ。速読できた、とは何をもって言えるのかもよくわからな
い。本人の感覚だけでしかわからないのではないだろうか。速く読めたと本人が思えばそれで
いいし、まだ速くないと思えばどこまでも訓練するしかない。何よりこれを商売にしてるというこ
とが、一番胡散臭いと思う点である。




「ベトナムへ行こう」 勝谷 誠彦 著 ’12/11/13読了 ★★
文春文庫ビジュアル版というだけあって、半分以上写真なのですぐ読めてしまう。ベトナムへ行
ったことがない、行きたいと思う人には格好の指南書であろう。私は2度行ったことがあるの
で、本がふつうのツアーで回らないようなディープなところを紹介しても読むだけでお腹いっぱ
い、たくさんである。もともと2度の経験からベトナムという国は好きではない。なんでこの本を
買ったのか自分でもわからない。好きではない理由は「衛生が悪い」の一言に尽きるが。そん
な細かなことを気にしない、土地のものを食べるのが大好きという人には向いている国とは思
う。私のベトナムの印象は「景色が低い」だった。建物が高くないのももちろんだが、人々の視
線が低いとも思った。道のそこここで勝手に店を出し、屋台なるものもなく地べたに座って何食
わぬ顔で調理している人々をよく見た。子供用かと思うほど低い小さい椅子は客用らしい。店
を構えてる人でさえ、店頭で低い小さい椅子に座り通りを眺めている。とにかくその椅子に座り
たくはないと思った。決して悪くはないんだろうけど…衛生がね…この本のルポを書いた人た
ちは大いに飲み食いしているんだが腹壊さなかったんだろうか…。
もう一つ別に悪印象といえばベトナム航空にはえらい目にあわされたことがあるので、別にベト
ナムは悪くないのだが、どうにも好きになれない国である。




「リンボウ先生の閑雅なる休日」 林 望 著 ’12/11/10読了 ★★
タイトル通り優雅に休日をすごしてらっしゃる…の一言で終わりだが、2代目夏目漱石襲名の
件は「そうかなぁ」と首をひねってしまう。ご本人ではなく巻末の解説を書いた嵐山光三郎が言
っているのだが。夏目漱石といえばやはり小説。リンボウ先生はやはりエッセイのほうが光る
ように思える。この本も一つ一つの話が「閑雅なる生活」を丁寧かつ抒情的に描き出して、読
むほうにもゆとりというか余裕を与えてくれるような気がする。



「ゴヤV 巨人の影に」 堀田善衛 著 ’12/10/19読了 ★★
「戦争の惨禍」(版画集)を中心にゴヤと彼を取り巻く時代をひも解く。60代半ば、難聴、妻に
先立たれ、ますます孤立していく。ナポレオン軍の侵攻によりいよいよ無政府状態に陥るスペ
イン。「戦争の惨禍」に仏軍との戦いやゲリラの無法ぶりを刻んでいく。





「チェーザレ・ボルジア あるいは優雅なる冷酷」 塩野七生 著 ’12/10/18読了★
悪名高きチェーザレ・ボルジアだが、これを読んだ限りではそんな残酷な面を強調してないし、
毒物に関してはほとんど触れてないので…どこが冷酷?と思わざるをえない。政治のために誰
もがやっていた程度のちょっと薄っぺらく見える冷酷さ。ルクレツィアを何度も政略結婚させた
りはあるが、そんなのどこも一緒だろうし。31年という短い生涯をあっという間に駆け抜けた、
太く短く生きた男というだけの話のような。




「アルケミスト」 パウロ・コエーリョ著  ’12/10/01読了 ★
哲学的なストーリーで…これがベストセラーとはちょっと思えない。観念的なものがベースにあ
るので自分にあてはめるとかできない…。


「怖い絵 死と乙女篇」 中野京子 著 ’12/09/01読了 ★★★
3冊を一度に読んだわけではなく、常に平行して何冊かずつ読んでるので、たまたま読了日が
重なっただけです。誤解なきよう。速読できればとは思ってるんだけどなー。
どの絵も十分怖い解説なんだけど、なかでも「ファリネッリと友人たち」は牧歌的な絵なのに、フ
ァリネッリが有名なカストラートというところから恐怖の解説が始まる。いや本当に恐ろしい。絵
の理解が深まるだけでなく、当時の国の情勢や価値観もわかってイチオシの一冊であるのは
間違いない。



「そうだったのか!現代史」 池上彰著 ’12/09/01読了★★
確かにわかりやすく解説してあるのだけれど、相当な興味を持ってないと旧ユーゴ紛争など
国・民族・宗教入り乱れてこんがらがっていくら丁寧に解説されてもとても理解できない。
読んだ知識がそのまま頭に入ればいいんだけど、こちとら右から左だもんで、とても「そうだっ
たのか!」とはいかない。これが頭に入る人って…相当な頭の良さの持ち主だろう。




「証拠は語る FBI犯罪科学研究所のすべて」 デヴィッド・フィッシャー著 ’12/09/01読了 
★★
現場はもちろん遺体からだろうがなんだろうが、残留物を見つけ出し特定していくことがこんな
にも多いことだったとは。それこそミクロの証拠も逃さない構えだということがわかる。犯罪科
学研究所と一口に言っても、部門は様々で化学・毒物学科、爆発物課、毛髪・繊維課、DNA分
析課、成分分析課、文書部、小火器・ツールマーク課、特別写真課、ビデオ画像補正課、ポリ
グラフ課などなど、各課これでもかというくらい、調べ上げる。それでも犯罪は次から次へと起
こるのだから大変だなぁ。日本ではあまり遭遇しないだろうけど、銃撃戦に出くわした場合、テ
レビドラマのように地面に伏せたりするのはよくないそうだ。弾丸が地面に跳ね上がって却って
危ないそうだ。そんなこともちょっと勉強になった。


「ゴヤU マドリード・砂漠と緑」 ’12/08/29読了★★
Tに比べて集中して読んだ。いよいよ中年期になり聴覚を失ったゴヤと彼を取り巻く社会。ア
ルバ公爵夫人も登場。作品からその時代と彼の心境を読み解く。特に「気まぐれ」作品集には
社会を批判・揶揄するスケッチが続く。その後も宮廷画家であるにもかかわらず、宮廷の注文
は受けず、祭壇画や肖像画に精力を費やす。物語はまだ続く。



「ゴヤT スペイン・光と影」堀田 善衛 著 ’12/07/31読了
しばらく読書から遠ざかっていたわけではなく、読むのがものすごく遅くなった。この本も読みだ
してから半年くらいたったろうか…亀のごときあゆみ。決して読みにくい文章ではないのだが、
歴史本も兼ねているので歴史に興味がないと非常に読みにくい。スペインの歴史はそれはそ
れで面白いのだが、時としてゴヤ本人とは離れて歴史中心になってしまっている。計4巻あるの
だが、それもむべなるかな。ゴヤの人生だけではない、スペインの歴史書でもあるからこんな
に長くなったのだろう。かといって辟易したわけでもなく、後半ようやっとゴヤが顔を出してきた
ので、4巻読破したいなとは思う。






「兄弟」 (上)(下) 余華 著 ’12/06/05読了 ★★★
初めて中国の大衆文学を読んだ。近代中国を知りたい方なら必読と言ってもいいくらい面白か
った。1960年代から2001年まで激動の時代に激動の人生を送る兄弟の物語。文章からは中
国人って、よくいえば活気があり、悪く言えばやかましい。人のことにあれこれ口をつっこみた
がるのは中国ならではだろう。
兄・宋鋼の死によって突然終わりはやってくるが、激動の中国はまだ止まらない。宋鋼亡き後
もいろんな人間が跳梁跋扈しまだまだ終わりを感じさせない。
この本を面白いと感じさせてくれたのが翻訳であることは間違いないだろう。今の日本人が読
んでもわかりやすく、工夫を凝らして訳してある。「ベンチャーなラブハンター」など外来語の取
り入れ方が自然でわかりやすい。そう考えると、カタカナ語というのは日本の中にかなり浸透し
ているのだなぁと改めて思う。また、英語の海外文学と比べると、短文が多く、複雑でない分読
みやすい。英語の翻訳版は文章が長すぎて結局何を言ってるのかわからないものも多々あ
る。
あとがきでわかったことだが、作者余華は映画「活きる」の原作者である。こちらもいかにも中
国らしい面白い映画なのでお勧めする。


「心臓に毛が生えている理由」 米原 万里 著 ’12/05/21読了 ★★★
確か亡くなられたばかりの頃に発行されて、「これが最後の本」と思い、えいやとハードカバー
を買った記憶がある。内容はいつも通りの楽しいものから、父母の逝去のときなど、バラエティ
に富んでいる。特に「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」の裏話などもあって、米原ファンには垂
涎もの。今後も新刊は出ないのが惜しまれる。




「メイプル・ストリートの家」 スティーブン・キング著 ’12/04/23 ★★
SF好きかどうかでかなり評価がわかれる。出来もバラバラな短編集。5篇中、最後の表題作
だけ、まぁまぁのできだったな、と。1作目の「かわいい子馬」は哲学的すぎて全く意味がわから
なかった。キングならではの迫力ある描写が味わえるのはやはり最後の「メイプル・ストリート
の家」が一番だった。





「凍える牙」 乃南 アサ 著 ’12/04/13 ★★★
これの前に読んでたのが、「荊の城」サラ・ウォーターズ、「愛おしい骨」キャロル・オコンネル、
「神は銃弾」ボストン・テラン、「ストーン・シティ」ミッチェル・スミスといずれも外国作品で「このミ
ス」1位の作品だったにもかかわらず、スカだったんで、ミステリは国内のほうがレベルが高い
と思わざるを得ない。
海外作品は事件が起こるまでが長いんだが、今作は数ページで「ファミリーレストランで男が炎
上」と掴みはオッケーな感じだ。国内外という条件に加えて、女性作家のほうが人物描写が細
かくイメージがし易い。滝沢という刑事が歩く姿が皇帝ペンギンを思わせるとか、女性刑事がシ
ョートヘアであるとか、ささいなことだからこそ丁寧な描写だと思える。
唯一、犯行の手口がオオカミ犬が喉笛を噛み切ったというのがちょっと不自然なところではあ
るが、それを補って余りある描写力で、少しずつだが進んでいく展開は読む者を飽きさせな
い。久しぶりの良作だった。







??????????
今年に入ってからアップした分が全部飛んでるよ〜
???????







「スカーペッタ 核心」(上)(下) P・コーンウェル 著 ★
 これはもう、スカーペッタシリーズを熟知していないと人間関係もその中にある感情も、さらに
は忘却の彼方の以前出てきた犯罪者なども登場して、なかなかマニアックな内容に思えるの
は私だけでしょうか…。しかし明らかにこのストーリーだけ読んでもなんのこっちゃわからん部
分は多いと思うし、何せ長くて、結局なんだったっけとストーリー導入部分の謎を忘れちゃって
たり(これは私の記憶力が悪いせいだが)、読者をどこへ引っ張っていきたいのかわからな
い。
 物語のカギになる人間関係も新たな登場人物を加えて、さらにややこしくなって終わるという
到底決着がついたとは言えない終わり方だったように思うんだけど。主人公を狙う悪の組織の
親玉が射殺されて終わったのでまるで大団円に思えるが、人間関係というか、各人の持ってる
感情の問題には何の解決もない。もはや作者がそれでいいと思えるならいいんですけど…。
最初に戻ってほしいなー、このシリーズ。「検視官」「真相」あたりまでの読者をつかんで離さな
い力を取り戻してほしいものだ。




「危険な世界史 血族結婚篇」 中野 京子 著 ★ ’11/11/30読了
再読。以前ハードカバーで出たときに買って読んでるのが文庫化したんですが、気付かず購入
して再読とあいなった。「怖い絵」同様文庫と中身が違っているのを期待したんだけれども…ど
うもそのまんまのようだ。現在ハードカバーのほうが手元にないのではっきりとはいえないけ
ど。ただ今回は★一つ。エピソード一つ一つは面白いのだが、些少すぎて記憶に残らないの
だ。こういう本は手元に置いて時々読み直すのがよいのかもしれない。大したことでもないが、
驚いたエピソードではかのフランケンシュタインを書いたのは18歳のうら若き乙女だったという
ことくらいか…。左様にしていまひとつ大したエピソードもないのだ。



「さよならドビュッシー」 中山 七里 著 ★★★ ’11/11/28読了
香月遥は名古屋の資産家の孫娘である女子高生。事故で両親を亡くした同い年のいとこルシ
アと祖父を火事で亡くし、自身も大やけどを負い、以前と生活は大逆転。ピアニストになる夢も
ついえたかに思えたが、現れたるは魔法使いと尊敬するピアノ教師。彼の魔法でリハビリに始
めたピアノの腕もどんどん戻り、コンクールを目指せるほどに。そんな中、彼女の祖父の遺産
絡みか、彼女の命を狙う細工や、殺人事件が遥の周りで起こる。
こうあらすじを書くと盛りだくさんな内容だが、読んでみると火傷のリハビリのすさまじさと、ピア
ノ奏法の筆致の精密さの二本立てが主な内容で、前半は火傷と後遺症のひどさと、物語が半
分も過ぎると(この辺が電子書籍にはない味わいじゃなかろうか。自分が今どこまで読み進ん
でいるのかが本を手にしているとわかる)ミステリであることを忘れるほどに、クラッシックピアノ
曲の演奏方法を事細かに記しているのだ。
ひとつどうだろうか、と疑問に思うのは、ピアノの奏法を詳細に描くあまり、ピアノを知らない人
にはそのへんすっとばされて読まれているかもしれない。トリルやレガートといった専門用語の
解説などは今さらといった感じで書かれてはいないからだ。かく言う私は10年ピアノ経験があ
り(経験があるという程度にしか今は言えないほど腕は落ちた)基礎単語こそわかるものの、シ
ョパンの練習曲やドビュッシーのエチュードと言われても曲も思いつかないほどだ。
話をミステリに戻すと、こっからネタバレですが、一人称で書くというのは、クリスティーを拝借し
たようでいただけない。最後のどんでん返しは面白いのだが、主人公と一緒に推理していると
思っている読者には、主役イコール犯人はちょっとずるいなという感は否めない。とはいえ、細
かいところまで伏線があって、すべてが、「これはこのためだったのか」と思えるところなど、技
巧は高い。このミス大賞もうなずける。




「北京陳情村」 田中 奈美 著 ★★ ’11/11/13読了
 北京には中央政府の陳情局なるものがあり、連日地方からの陳情者が列をなし、その付近
は陳情者たちの寝泊まりする村となっていた。地方行政や公安の不正、企業乗っ取り、土地
の強制収容等々で抗議にやってくるが、彼らの努力が報われるのは万に一つらしい。そりゃそ
うだ。行政の腐敗を訴える先が行政では何も解決してはくれない。それどころか、全人代の時
期にもなれば、地方行政の腐敗がばれては困るので、陳情者狩りが行われるほどだ。連れ去
られた陳情者がどうなったのか、どこへ行ったのかは誰もわからない。
 著者は留学中に雑誌の取材で陳情村を訪れ、そこに住む人々と懇意になっていくのだが…
陳情者が著者を外国人記者と思い、自分の境遇を取り上げてもらおうと陳情の資料を押し付
けてくるのだが、いかんせん学生の身分ではどうしようもなく、「記者じゃない」を言い訳のよう
に繰り返し断るしかない。
 もう少し中国の暗部を掘り下げたものかと期待していたのが、ただ陳情村に通ったというだ
けのルポで残念。留学生の身分ではしょうがないか。でも著者の語学力はすごい。微妙なニュ
アンスまで聞き取っているので、わかりやすい。なまりがきつくてわからないところは、素直に
わからないと書いてあるが。彼らは人生を棒に振ってまで一体何を陳情したかったのか…そこ
をもう少し掘り下げてほしかった。書いてある理由だけではどうも、人生賭けるほどのものかな
ぁという印象で…もっと込み入った事情があったのではないかと思えてならない。記者がちゃん
と取材してみてはどうかと思うのだが、今のところその気配はない。




「リンボウ先生の文章術教室」 林 望 著 ★★
具体的な添削例があって、添削されているところを見るとなるほどな、とうなずかされることが
多い。「ともかく文章というものは「具体的であれ、客観的であれ」ということに尽きる」そうであ
る。たしかに個人が書く文章は主観が入りがちである。自分も気をつけねば、と思った。


「物語画」 エリカ・ラングミュア 著 ★★ ’11/10/17読了
西洋絵画にはギリシャ神話や聖書からの引用が少なくない。今日の我々には理解が難しいも
のもある。この本はその指南書ともいえるが、多少西洋絵画に詳しくもないと読み取るのも難
しいかと。かくいう自分は西洋絵画に詳しくはなく、興味がある、程度なので史実以外の物語画
は解説なしには全くといっていいほどわかりかねる。とりあえず、ここに紹介されているものは
わかった。
 ここには紹介されてないが、某テレビ番組(「美の巨人たち」)で紹介されていたブリューゲル
の物語画は大変面白いものだった。神話と当時の現実世界が混ぜこぜにして皮肉ってあった
りして、描くだけでなく意味を込めるという点でも重要な意味を持っているのが絵画だと思った。



「フェルメール全点踏破の旅」 朽木 ゆり子 著 ★★ ’11/09/30読了
フェルメールという画家が残した37点(現在認められている数)を尋ねる旅。と、言ってしまえ
ばそれまでなんだが、オランダ・ベルギーに行く飛行機の中で読んだので、予習ばっちりしてし
っかりオランダのフェルメールを観ることができた。フェルメールや他のフランドル地方(現在の
オランダ付近)の画家が果たした役割は非常に大きく、知らない人は知っといたほうがいいくら
いの…とはいえ、興味ない人にはそれまでのことなんでこれくらいにしておこう。なんにせよ、絵
がないことには成り立たないので書評も書きにくいってこった…という言い訳。
 ちなみにオランダで見たのはアムステルダム国立美術館で「牛乳を注ぐ女」「青衣の女」「恋
文」、ハーグ、マウリッツハイス美術館で「真珠の耳飾りの少女」「デルフト眺望」「ダイアナとニ
ンフたち」。映画の題材にもなった「真珠の耳飾りの少女」のモデルは、特定の人物を描いたも
のではないトローニーということになっている。
 37点の中にはいまだフェルメールのものとは断定できないといわれているものもあり、また
これから真作と評価されるものも出てくる可能性はある。まだまだフェルメールは油断できない
のだ。



「感謝と謝罪」 相原 茂 著 ★★★ ’11/09/11読了
自分にとっては親しみのある中国語講師の著作。同じアジア人でもこれだけ感覚が違うのです
よ、という警告本ともとれるが、中国語講師だけあって、無論反中的なことは書かれてない。で
もここ数年の中国の傍若無人ぶりにさすがの著者でも、一苦言ないもんかと思ったが…やはり
批判めいたところはない。ただ、以下のところが気になった。
 北京のレストランで食事をするとき、ウェイターがハンサムだったので隣にいたチェン・タオさ
んに「彼どう?タイプじゃない?」なんて水を向けたが、軽く鼻であしらわれてしまった。中国に
は身分や階級が厳然としてあり、鼻であしらったのは、「出稼ぎ労働者と自分が釣り合うわけな
いでしょ」という意味。
社会主義や共産主義なのは大いにわかっているが、こうも身分階級にこだわるところは著者
も、ちょっとどうかと思ってるようだ。日本ではもちろんこういったことはない。あるっちゃあるけ
ど、ないっちゃない。自分でどうとでもできるからだ。でも中国では農民はあくまで農民。金持ち
に生まれれば、金持ちと決まっているのだ。などなど、国の中での個人のありようを知っておい
たほうがよい、ということが満載の本。以下もう一つ気になったのは、中国では「自分」、日本で
は「相手」中心ということだ。何をいまさら、ではあるが、贈り物をするとき(あるいは土産を渡す
とき)、中国人は値段や手間などを堂々相手に教え、「あなたのためにここまでしてる」というア
ピールを欠かさない。一方日本は相手の負担にならないよう「つまらないものですが…」などと
いう。やはり中国人とさほどつきあいのない自分にとっては中国人とは暑苦しいなぁと思わざる
を得ない。




「パンツの面目、ふんどしの沽券」 米原 万里 著 ★★ ’11/09/06読了
よくもまぁこれだけ下着に関する考察ができたものだ、というくらい下着にこだわった研究書
(笑)とはいえ、私も昔の人特に日本の着物を着てた時代の女性の下着はどうなっていたのか
は気になるところである。本書ではタイトル通り、おもに男性下着中心であり、江戸時代くらい
簡単に調べがつくからか特に書かれてない。古代天照大神の時代には女性は下着をつけてな
かった、くらいの記述はある。ではどうしてたのか…ほったらかしである。そんな気持ち悪いこ
とがあるものか、と思ったが古文書に記述があるらしい。ので、まぁ私の感想としては「そんな
ものか」なのだが…。



「日本人なら知っておきたい日本文学」 蛇蔵&海野 凪子 著 ★★★
八割マンガのエッセイ本なんだけど、わかりやすくとっつきやすいんでかなり面白い。イメージ
でキャラ作ってるとはいえ、清少納言がくせ毛とか藤原高標女がメガネっ子というのもありか
と。ただ、現代語訳のみを載せてるところもあるので、原文も載せてくれると、古語ではこんな
面白い事はこういう風に表現されてたのか、とまた面白さが増えたかと。
無知をさらすようでアレですが、平安時代は女性の名前がない(表に出さない)というのはびっ
くり。紫式部や清少納言が職名で個人名じゃなかったとは。そのうえ、日記が人の読み物にな
って噂を流布していたというのも…日記って人に見せないもんだと思ってたから…今風のブロ
グみたいに人に見せること前提に書かれてたのね。


「異形の大国 中国 彼らに心を許してはならない」 櫻井よし子 著 ’11/08/26読了
書いてあることは正しいし、他の反中の本と大差ないんだけど、池上彰なんかと比べると、文
章がいささか難しい。こんなに難しい文章を書く人だったなんて。もう少し読みやすさに重きを
置いて、「なぜ」というところを解説してくれるともっとわかりやすかったんだけども。「そうだった
のか!中国」と文章的に対局にあるような気がした。


「玉嶺よふたたび」 陳舜臣 著 ★★
日本推理作家協会賞受賞作全集23。スパイ小説の後だったので、スピードダウンは否めない
が、こちらもミステリとしては面白かった。中国がらみなので、中国に興味のある人ならなお読
みやすい。主人公は相原茂教授をイメージして読みました(笑)



「風塵地帯」 三好徹 著 ’11/08/11 ★★★
日本推理作家協会賞受賞作全集21.。とはいえ著者はスパイ小説とあとがきに明記してある。
ともあれ、スパイ小説がこんなにスリル満点の読み物だったとは。ちょっとスパイ小説に傾倒し
そうかもよ〜、というくらい一気に読ませるスリル満載なのである。
1965年のインドネシアが舞台なのだが、物語の展開上、今の時代に置き換えてもまったく問
題ない。ただ、東京とはいえ場末のスナックでホステスしてた人がインドネシアの議長夫人とし
て主人公の前に現れるというロマンスは無理やりな感が…。ま、いいんですけど。


「怖い絵 泣く女篇」 中野京子 著 ’11/08/03 ★★★
加筆しての文庫化。文庫じゃないのを読んでるんだけど、もう手元にないのと、すっかり忘れて
る(笑)ので再読。やはり扉絵にもなっている「レディ・ジェーン・グレイの処刑」はいつ見ても怖
い。その背後に冷徹な権力による冤罪が見えるからだ。ヘンリー8世没後、王位をねらう一派
に担ぎ出された齢16歳のジェーンは11日であっさりメアリー女王一派に捉えられ反逆罪で首
をはねられた。という話。
 次に怖いと思ったのは「カルロス二世」。青白い肌の色に近親婚を繰り返した特徴の突き出
たあご。かなり手心を加えなんとか見られる肖像画に仕上げているが、本人は外に出るときは
ベールをかけねばならぬほど顔に障害があるのが顕著だったようだ。つまりよくここまでうまい
具合にごまかしたな、と画家の腕が絶賛されたそうだ。もちろん画家の腕が怖いんじゃなく、こ
こまで近親婚を重ねた当時のスペイン王室である。
などなど、22作品が収録。オリジナルが手元にないので、どこが加筆部分かわからないけど、
西洋絵画がお好きな方にはよい本かと。
 後日ハードカバーのほうを手にする機会があったので見たが…全然ラインナップが違う…。
ひょっとしたら1.2.3まとめてシャッフルしてあるのか…でも見た記憶がないのもあったしなぁ…。




「キリコ・ロンドン」 久保 キリコ 著 ’11/07/28 ★★
10年以上前に出版されているのでロンドンの現地情報が今と同じとは限らないが、外国暮ら
しはこういう面もある、と知っておく程度にはいいかも。著者のマンガを初めてみたのは「シニカ
ルヒステリーアワー」だったと思う。「いまどきのこども」でブレイクする前だったか。それが、イ
ギリス人と結婚して、一児をもうけ、ロンドン在住とは、結構肝の据わった人らしい。絵柄のとう
り豪胆な人だ。



「スープ・オペラ」 阿川 佐和子 著 ’11/07/26 ★★
面白いのだけど、最後がちょっと肩すかし。阿川佐和子が小説もうまいとは知らなかった。



「ああ、腹立つ」 阿川 佐和子 他 著 ’11/07/08 ★★
執筆陣が豪華である。いろんな人がいろんなことで怒っている。こんなことで怒るかぁというの
もないではないが。著名人も怒るんだなぁ、というところ。



「ニューヨークのとけない魔法」 岡田 光世 著 ’11/06/30 読了 ★★★
ニューヨークの魅力とちょっとした英会話表現が学べる。著者がニューヨークに滞在していた時
のエッセイだが、こんなに人のいい人たちが住むニューヨークひいてはアメリカがなんで日本よ
り住みにくいことがあろうか…?もちろん著者はいいところだけしか書いてないからだろうけ
ど。こんな純粋な人たちだらけだったら本当に世界は平和だろうなぁと思ってしまう。


「誰も知らない名画の見方」 高階 秀爾 著 ’11/06/25読了 ★★★
中野京子の「怖い絵」に通じるところもあるが、なるほどなと思えること満載。ヨーロッパ絵画の
お好きな方にはたまらないかと…。



「時間」の作法」 林 望 著 ’11/06 読了 ★★
おなじみリンボウ先生の独断と偏見の処世術。参考にできるとこはするし、できないとこはしな
い。としか、いいようのない(笑)「私はこうしている。」というのを紹介してるだけで、無論「こうし
ろ!」と説いてるわけではないのだろうが。そりゃフツーの人がそうそうスピーチする機会もな
いしアイデアをひねり出すことを生業としてるわけではないのだから。いや、批判めいたことを
書くつもりはないのだけど、「こうすべき」といわれると何故か反感に似た感情が心のどこかで
むっくりと頭をもたげる…。そんな気持ち悪さというかむずかゆいところが残るのだ…この手の
本は。なら、読むな?ごもっとも。しかしこれでも一応リンボウファンなのですよ。なので、この
本の後半テーマとは関係なく(全然ないわけではないが)、リンボウ先生とて挫折も不幸も味わ
ったとあったところではへぇ〜と感心してしまった。成功の標本みたいな顔をしてるが、実はそ
うではないのだ、ということがわかっただけでも、自分には面白かった。


「そうだったのか!アメリカ」 池上 彰 著 ’11/06/20読了 ★★★
アメリカの謎というか矛盾がよくわかる。先に武器ありきの国だから銃規制が進まない、とか人
種差別が循環してるとか、州が国みたいなもんだとか、知ってるようで知らないことが盛りだくさ
ん。だから一人のアメリカ人に聞いたことがすべてではないのだよなぁ。その昔アメリカ人とけ
んかしたことがある…すまん、アメリカ人、アメリカが悪いんじゃなくてお前だけが悪かったんだ
な、と変な認識の改め方をした。
この人の本は文章が短くて読みやすいのだが、この手の本はページの構成が今一つ読みにく
かったりするのでそこだけ気をつけてもらってはどうでしょう…。



「禁断のパンダ」 拓未 司 著 ’11/06/01読了 ★★
「このミス」大賞受賞作なのだが、本の後ろに選考時の講評が全部載ってる。…ので感想文な
ど書く気が失せてしまうのだが…舞台が神戸でかなり詳しく神戸を描いてるので、神戸市民とし
てはうれしい限り。感想は講評にある通り、美食の叙述は素晴らしいがミステリとしての要素は
薄い…といったところか。



「飛んだ旅行記」 楠田枝里子 著 ’11/05/30読了 ★★★
雑誌の連載だったので、一つ一つのエピソードが短く読みやすい。しかしまぁ、いろんな国にポ
ンポン行くもんだなぁ…一度一人旅すると度胸がつくのだろうか。しかし1990年に書かれた本
なので(本人も「な〜るほどザ・ワールド!」と言ってた頃)、現地の情報はほぼあてにならんだ
ろうが。行くなら最新情報を自分で調べてからがいいのは言うまでもないが、この本には今は
ない国もあるので、別の意味で面白い。



「白銀ジャック」 東野圭吾 著 ’11/05/17読了 ★★
「ジャック」って何かと思ったら、「ハイジャック」のジャック。スキー場が爆弾犯に脅迫を受け、ス
キー場関係者が振り回される話。と言えば身も蓋もないが、そこは東野圭吾、ちゃんと読ませ
てくれる。ただ、★一つ少ないのは、やはりスキーをやらない人にはせっかくのアクションシー
ンも迫力半減…だってわかんないんだもん、専門用語。スキーで滑走するとき音がすることす
ら知らなかった(笑)スキーをやってみたいな、と思わせるくらいの魅力も書いてみてほしかった
と思うのは、欲張りすぎですかね…。                                  



「日本の刑罰は重いか軽いか」 王雲海 著 ’11/05/12 読了 ★
タイトルと書評(読売新聞日曜版)にだまされた感じだ。著者名からして中国と日本を比べての
ことかと思ったが、さにあらず。法学研究者というだけあって、自説の展開がかなり小難しく、
日本人でも読解に苦しむのではないだろうか(私だけ?)。で、結局、本のタイトルの結論は出
ないというか、出してない。文化、法整備、時節に法はおもねるものであり、比較対象によって
重くもあり軽くもなるという…だったらこんなタイトルつけんなよー!!てっきり中国国内の犯罪
の具体例を出し、日本だったらこういう罪だが、中国だったらこう、よって日本の刑罰は軽い、
という経過を期待していた自分に気付いた。具体例がないではないが、中国は特に死刑が多
く、即執行ということもありえ、銃殺であるということがわかった。別の本であるように、中国は
法治国家ではなく、人治国家であるということを肝に銘じて、中国で捕まらないことを祈るしか
ない。というのも、悪いことをしなければ捕まらないわけではないからだ。とにかく冤罪も多いら
しい。著者は日本の裁判は長いといわれるが、やはり冤罪を生まないためにはいいのではな
いかとも書いてある。とにかく死刑執行が早いがために冤罪もハンパなく、さらに補償なんぞあ
るわきゃーないので、捕まったら最後って感じだ。このあたりは先に読んだ「そうだったのか、
中国」に詳しいのでそちらもどうぞ。
とにかく、この本は研究者向けで、私のような軽い動機の人にはオススメできない…。


「更年期少女」 真梨 幸子 著’11/04/30 読了 ★★★
とにかく面白かった。タイトルからして気にはなってたんだが、タイトルどおり、実年齢では更年
期を迎える人々が少女のように昔のマンガで盛り上がる。会合ではマンガで盛り上がる5人の
更年期少女がそれぞれ家庭では悩み苦しみを抱え、最後には爆発する、といったもの。自分
にもこういう部分があるだけに、人ごとと思えない(でも自分じゃありえない)、身近なものであり
つつも、フィクションである面白さがある。




「きりきりかんかん」 阿川 佐和子 著 ’11/04/27 読了 ★★★
初出が1991年〜1992年の週刊文春の連載だったのだから、かなり古い話と心得なければ
…ちょっと「あれ?」と思うところはある。というのも、携帯が必須の現代からすると、この方の
お書きになってる自虐的ドジっぷりは携帯もしくはデジタルものでかなり解消できたのではと思
えるからだ。まぁ、あっても使う気がなければ一緒だが。さすがに今は携帯電話くらい持ってら
っしゃることだろう…と思う。
タイトルの「きりきりかんかん」の意味は「怒ってる」だそうだ。。単行本化するに当たり読み返し
てみると、なんとくだらないことでしょっちゅう腹をたててることか、ということらしい。とはいえ面
白おかしく書いてあるもんだから、その怒りはストレートに伝わってこないかわりにクスリと心地
よい一笑をよこしてくれるので、やめられない。週刊誌の連載だけあって、ひとつのエピソード
がちょうどよい短さで、ついついもう一話、もう一話とページがすすむのかもしれない。
ちょうどニュース23を8年間勤めたあとの降板劇(というほどでもないが)が書かれてあって、折
りしも仕事を辞めようかどうしようかと悩む自分の背中をポンと押してくれたような感じがした。


「ガンジス河でバタフライ」 たかのてるこ 著 ’11/04/22読了 ★★
まぁ、この人の破天荒さに驚かされる。インドの文化なんて想像つくがこの人の旅の仕方はと
てもまねできない自称小心者だが、とんでもない。小心者がいきなりバックパックで一人旅なん
ぞ思い立つはずがない。もとから神経が並はずれて図太いのだろう。神経だけじゃない。胃腸
の丈夫さもすごい。年中胃腸の不調に悩まされている私にはうらやましすぎるたくましさだ。ガ
ンジス河の水を飲んでも、大衆食堂で素手でカレーを食べても一向に腹を壊さないなど、あり
えない。もちろん、この人の言うこと全てを真に受けて絶対旅になんて「行かない!!」という思
いを強くした。


「五声のリチェルカーレ」 深水黎一郎 著 ★ ’11/04/15読了
「昆虫好きの大人しい少年が起こした殺人事件。犯罪の低年齢化が進む今日ー中略ー最後ま
で隠されていた事件の真相をあなたは見破ることができましたか?」
中表紙のタイトル下にあるあおり文句だが、結論からいうと「できた。」
メフィスト賞受賞作と言う割に、最後のどんでん返しが稚拙であった。最初から件の取り調べを
受けている少年の名前が明記されてないことから、まず「回想」している少年ではないな、とわ
かるし。被害者と加害者が入れ替わってたら、そりゃもうびっくりなんだけど、それに比べると
小さな裏切り程度のものだ。
昆虫の擬態とクラッシック音楽のうんちくが合間にあるのだが、私が興味あるのは昆虫の擬態
の方で、クラッシックに特に興味のない人はリチェルカーレの意味はわかりにくいだろう。



「薬剤師があなただけにソッと教える薬の裏話」 加藤三千尋 著 ★★ ’11/03/28
要約すれば…OTC薬品とは薬ではなく、安定剤みたいなもので、薬が欲しけりゃ医者行った
方がいいよ、というところか…?特にダイエット、痩せるというものは痩せる効能なんてないの
に「痩せる」と付けるだけで、ものすごい売上になるらしい。他にも「お薬手帳はタダではない」
「薬剤師不足」などの確かに裏話は多い。自分が一番思ったのは薬に頼らないからだを作らな
いとな〜、ということだった。




「ムーミンのふたつの顔」 冨原 眞弓 著 ★★ ’11/03/26読了
 「ねぇムーミン、こっちむいて」の主題歌をよく覚えてる。というか、実はアニメしかしらなかっ
た。児童文学のムーミン、コミックスのムーミン(イギリスの新聞に連載漫画として描かれてい
た)という二つの顔を先に持っていて、アニメはむしろ第三の顔だった。このへんのいきさつも
また面白い。イギリスの新聞の連載コミックに至るまでのいきさつや、後半原作者トーベ・ヤン
ソンは飽きた、というか本業の画家に戻りたくなって(あるいは締めきりから逃れたかった?)
弟に全て譲った等の全く知らないムーミンの裏話や、ムーミンとはなんぞやという原点に至る
話までがぎっしり…お腹一杯になる。ただ、アニメの平和なムーミン谷だけでよかったかなぁと
いう気もする。アニメの方がよく出来ていた(そりゃ日本人はあいまいな設定や、意味のないエ
ピソードなぞ作らず完璧なムーミン世界を作り出したからだが…それが作者の怒りを買い、第
二シリーズはなかなかOKが出なかったという経緯もある)ので、実はムーミンはとても哲学的
なストーリーであることがわかった。
 ではなんで、この本に手を出したかというと、新聞の書評に「実はこんなに受け入れられたの
は本国より日本が先」というくだりが気になったからだ。勿論今ではフィンランドを代表するマス
コット的存在だが、ヨーロッパでムーミンと言えばやはり日本製テレビアニメのムーミンなんだ
そうだ。そう、原作を読んで少々がっかりしたのも絵がアニメより可愛くないというのもあったか
な。原作の絵は本当にカバそのもの、他のキャラに至っては、妖怪そのものである。
 児童文学ムーミンのみならず大人向けムーミンも存在する。「老い」「孤独」「不安」をはっきり
打ち出している短編集がそれだ。これを機に、正当ムーミンを読んでみようかという気になっ
た。私にとって「二つの顔」とは「アニメのムーミン」と「大人向けムーミンの存在」だった。


「グアテマラの弟」 片桐 はいり 著 ★★★’11/03/21読了
 片桐本人の生い立ちから、年子の弟がグアテマラに住みつくまでが簡単に紹介され、そこか
ら弟訪ねて遠く南米の地へ足を運ぶ姉のグアテマラ紹介本。グアテマラの生活のみならず、そ
こここに著者の生活や想いでのエピソードが絡められて、ミョーに面白いのだ。特に自分では
一生縁がないであろう国の習慣や生活を知ることができたのが収穫だった。私は本で十分だ
が、この本を読んで行きたいと思う人は少なくないのではないだろうか。


「日本の黒い霧」(下) 
本人のあとがきにもあるように、何でもGHQのせいにするという批評は当初からあり、本人か
らそれに関する説明もある。調べた結果そこに帰結したということらしい。ただ、現代ではもっ
と研究されていて帝銀事件などでは、旧陸軍に向けさせるのはミスリードさせるための手であ
るとか、別の見方もあり、それを今松本清張が聞いたらどう思うか聞いてみたいのもだと思っ
た。最後の「謀略朝鮮戦争」は朝鮮戦争を多少なりとも知ることができてよかったと思う。


「日本の黒い霧」(上) 松本清張 著 ’11/02/13読了★
戦後史に残る未解決事件を松本清張がぶった切る、という本かと思ったが…。確かに当初の
狙いはそうだったんだろうけど、事件が古すぎるのと、なんでもかんでも戦後当時暗躍していた
GHQのせいでは芸がない。実際そうだったんだろうけど。「下山事件」のような有名どころから
「白鳥事件」といった地味なものまで取り扱っている。しかし、GHQ以外の似たような組織がい
くつもあって、日本をめぐって縄張り争いしていたとか、日本共産党が今のような腑抜けた集団
ではなく、当時はアルカイダ並みのテロ組織であったというのは、歴史観を改めさせてくれたこ
とではある。



「空耳アワワ」 阿川佐和子 著 ’11/02/02読了★★
 この人のエッセイは面白いし、こんな考え方、感じ方があるんだなぁと思わせてくれるが、自
分の世界を広げてくれるかと思うとそうでもない…。芸能人の割に(失礼!)エッセイのネタにな
る事象が地味なので、読み終わるとともに忘れてしまうのが大半である。でも、肩に力を入れ
ず、というより思いっきり抜けるので、なんとなくまた手にしてしまうのである。



「ロシア幽霊軍艦事件」 島田荘司 著 ’11/01/20読了★★
 ロシア皇帝最後の血を引くアナスタシアが生きている、というか「我こそがアナスタシア」と名
乗る米国在住の女性の真偽がこんなに今でも関心をもたれているとは知らなかった。この都
市伝説的なストーリーは知っているが、アメリカ人が大好きなファンタジーとして語り継がれて
いるとは。自分的には存在していたか否かというと否定的なのだが…やはり生きてて欲しいと
いう願いから肯定は後を絶たないのだろう。皇室を持たないアメリカは、ロイヤリティに憧れ、
特にロマノフやらのロシア系がお好きらしい。と、いうのが裏付けられたような。
 ストーリーに関して言えば、御手洗の言うとおり、偽物ならまことしやかなウソを並べそうなも
のなのに、ロシア語も話さず、「自分はアナスタシア」と言ってのけるのが逆に信ぴょう性があ
る。



「スカーペッタ」 P・コーンウェル著 ’11/01/10読了 ★★
 主人公の名前を冠するとは、最終巻か?!よっぽど自身があるのか?と思ったが、さにあら
ず。いつもの猟奇殺人にスリルとアクションが加わったエンターテイメント小説ではあるけれど
も、この人の場合ハードルが高いので今までのと比べると…それ以上でも以下でもないという
残念な読後感。ちょっとご都合主義も加わってきたことだし、このシリーズはもう幕引きにして
は、と思うのだけど…。特にスカーペッタを若返らせてからの方が質が落ちてるような気もする
し。タイトルは内容からすると間違ってはないけどね。



「99%の誘拐」 岡嶋二人 著 ’10/12/○ ★
 物語の時代は昭和51年。発行されたのは’88年(昭和63年?)。コンピューターって日進
月歩だなぁ〜。これも携帯電話が普及する以前の話なんで、ちょっと古臭く感じる。当時は斬
新だったのでしょうが…悲しいかな、時代の最先端のものを書くとゆくゆくは遅れていくという
…。
 時代がいつでも面白いと思えるものが名作なんでしょうが、推理小説界では難しいのかも。



「白い兎が逃げる」 有栖川有栖 著 ’10/12/○読了 ★
 久しぶりの火村&アリスコンビの短編集。自分が推理物に興味が失せてきたのか、どれもい
まひとつ感服できるトリックともストーリーとも思えなかった。



「幽霊刑事」 有栖川有栖 著 10/12/10読了 ★★
 映画「ゴースト」の設定とっちゃった(^^ゞみたいな。未練を残した人が幽霊になるなら、世の中
幽霊だらけじゃあるまいか、という屁理屈は置いとかないと始まらない。しかし化けて出た相手
に認識されない幽霊って幽霊の意味あるのか…いや、それも置いといて。この幽霊設定のせ
いかすべてにパンチがないというか弱い印象で終わってしまった。犯罪やトリックよりも最後の
恋人との別れの切なさを描きたかったのかなぁ、と…それじゃまるっきり「ゴースト」やん…。



「宦官 側近政治の構造」 三田村泰助 著 ’10/11/27読了 ★★★
 「蒼穹の昴」で宦官というものに興味を覚えたのだが、これが何とも奥が深い。奥が深すぎ
て、なかなか見えてくるものではない中、この本は第一級の研究書らしい。ここまで歴史をさか
のぼって、成り立ちや役割を解説したものはなかなかない。というのも、当の中国が国の恥と
思ってかどうかはわからないが、纏足同様、公に出したがらないことと、日本には入ってこなか
った制度でもあり理解が難しいということもあるらしい。確かに、この本を読んでも、日本語が
難しく、いつも平易な(親切丁寧な)文章を読んでいると、一読しただけでは理解できず、同じ文
章を何度もなぞるはめになる、という自分には、期せずして日本語力の勉強にもなった。


「ラーゲリから来た遺書」 辺見じゅん 著 ’10/11/22読了 ★★★
 戦争が終わってもなお返されない俘虜がいたことは、普段忘れがちだ。この物語自体長い重
いものではないが、これだけの本でもどれだけの資料、調査が必要だったことかと思うと著者
に頭が下がる思いだ。また、遠い異国で土になった人、やっと帰国できても当時のことを語れ
ず亡くなった人のことを想うと本当に胸が押されたように苦しくなるが、それが著者の狙いなの
かもしれない。読者の覚えた胸の苦しさは、ラーゲリにいた人たちの何万分の1の苦しさであ
り、この平和に感謝しなければいけないんだよ、という著者からの、死者からのメッセージなの
だろう。



「ルームメイト」 今邑 彩 著 ’10/11/19読了★★
ものすごいどんでん返し、というふれこみだったんで、ずっと探してた(中古で)んだけど…とり
あえず、想像はついたし、「ああ、そうでしょうね」的なこと以外なかったような。バッド・エンディ
ングが更に付いてたけど、それがあっても今一つ…とにかく多重人格モノってちょっとズルイ気
がするなぁ。物語の人称代名詞を変えてしまうことによって、「この人格は知らなかった」「この
人格がやった」だの、いくらでも犯人出してこれちゃうじゃないか、という気がするのだけど…。



「そうだったのか!中国」 池上彰 著 ★★★
 中国の近現代史をわかりやすく(は、この人の専売特許なだけにすごい)解説。ただ、今後に
関しては、発展目覚ましい中国、どうなるかはさっぱり読めない。だから面白いのかも。
ただ、個人的に中国を旅行して思ったのは、政治部と人民の暮らしの思いはかけ離れていて、
本当に国民はまだまだ自分の暮らしだけでいっぱいいっぱいで、とても愛国云々にまで気が回
ってないような印象だったな…。それを自国の政治家が何故わからないのだろうか…。



「珍妃の井戸」 浅田次郎 著 ★★★
浅田次郎は一度も読んだことが無く、「ぽっぽや」のような抒情的作家と思っていたが、さにあ
らず、立派なミステリ作家でもあった。ラストがちょっとリアリティに欠けるものの、物語の運び
は「藪の中」を踏襲して、いずれも信用出来ない証言で構成されており、謎が謎を呼び、思いも
かけない結末へと導いていく。なかなか良書だった。西太后やその他の人物に関する本も調
べてみたいと思った。


「ヒミコの夏」 鯨統一郎 著 ★★ 10/10/27読了
この人にしては珍しくサスペンス調なんだが、肝心の大きな謎二つは解かれないというか、「そ
ういうもんなんだ」と開き直られているようで…消化不良な感じが否めない。まぁ科学で解決で
きる謎ではないのではあるが、犯人探しだけでは物足りなかった。


「七つの棺」 折原一著 ★★ 10/10/20読了
1992年初版とあってかなり古いので、トリックもそれなりに…。携帯が普及してた時代なら出
来ないだろうな的なものばかり。そんなことは承知で読めば、トリックはなかなかよく出来てい
る。推理小説の巨匠ディクスン・カーに相当傾倒しているらしく、パロディにもなっていると解説
にあったが、推理小説マニアでもなければ気がつかない…というか私は全くわからなかった
…。



「完全犯罪と闘う ある検死官の記録」 芹沢常行 著 ★★
検死官とは性格に死亡時の状況を分析し伝えねば、警察が誤った方向へ捜査を進めてしまう
という、至極重要な役割を果たしている。 著者も何度も後で不審点に気づき、警察へあわて
て訂正報告したりと、毎度大変だったらしい。特に自殺か他殺かというのは重要度を極め、間
違えば捜査に重大な支障をきたす。素人なら目を覆いたくなるような死体の状況は勿論、死体
にたかるウジ虫の成長具合からも死後経過時間を割り出すなど、こういう仕事もあるのだな
ぁ、とその苛酷さに感服する。



「どうにかこうにかワシントン」 阿川佐和子 著 ’10/10/03読了 ★★★

前々からこの人のエッセイは面白いと思ってたけど、今回はかなりヤバイ。ファンになってしま
いそう。この人のあっけらかんとした性格では、人さま同様不安や孤独を感じても、この人の筆
にかかれば面白エピソードに早変わり。この人となりの面白さは、筑紫哲也の解説にも現れて
おり、むしろ他の人からの阿川佐和子人物評を聞きたいものだ、と思える。エッセイの面白さ
では、相原茂、米原万里に匹敵し、まだお亡くなりになってないし文筆業も本業と言えるから、
まだまだ楽しませてもらえそうだ。この本自体1994年に出ているのだが、その面白さは時勢
を問わず、本人自身から来るものだから、古いものでも探して読んでみようと思う。



「<冤罪>のつくり方 大分・女子短大生殺人事件 」 小林道雄 著 10/09/29 ★★

 冤罪とはいとも簡単に作られるものだ、という恐ろしい事実を書いたルポタージュ。一番恐ろ
しいなと思ったのは、小さい事件ほど、冤罪を晴らすことは難しいということだ。とにかく裁判が
長すぎて、冤罪を訴えて戦うより、服役した方が早く出所できるということだ。この本の事件も
冤罪を晴らすのに13年かかっている。25歳から38歳までを獄につながれている恐怖は察す
るに余りある。しかも、冤罪が晴れても再捜査はされず、警察はだれに謝ることもなく、遺族の
感情は全くおいてけぼりなのだ。これが日本の司法か、と恐ろしくなる。
もうひとつ、冤罪とは別になるほどな、と思った箇所があった。「人間の最も根源的な欲求は
「所属欲求」である。(中略)いじめを苦にして自殺する子どもがいると、何も死ぬことはあるま
い、と思いがちだが、集団に帰属する欲求が、生きる欲求より強いとするならそれも必然という
ことになる。」疎外感を感じると、落ち込んだり暗くなったりするのはそのせいか、と妙に納得さ
せられた。


「天正十二年のクローディアス」 井沢元彦 著 10/09/14読了 ★★
再読。前回と評が違うやないかと突っ込まれるのを承知で…。ちゃんと読んでなかったようで…
今回はなかなか面白かったっす。前回は何をどう読んでたんでしょうね…内容も(短編集なん
で)7話のうち2話くらいしか(それもうっすらと)覚えてない…。歴史ミステリの短編集としては、
なかなかよく出来ているな、というものもあれば(「修道士の首」)、そりゃ無理やろ(「賢者の復
讐」)というものや、どうということも…(「太閤の隠金」)というものや、なるほど、キレイなオチだ
なというもの(「三匹の獣」)などいろいろ。ただ、表題の「天正十二年のクローディアス」はタイト
ルが気になった。ハムレットのクローディアスなのだが、私はハムレットは大体のストーリーし
か知らず、他のキャラの名前なんてほとんど覚えてなかったので、ピンとこないというか…もっ
といいタイトルなかったの?って感じでした。ストーリーは面白かったけど。「葉隠」の解釈が一
般的なものなのか、著者の全くの自説なのかが謎だが…多分後者。


「怖い絵で人間を読む」 中野京子 著 10/09/13読了 ★★
「怖い絵」シリーズと重複するんだけど、決して覚えられる頭ではないので、読むたびに「うー
ん、そうかぁ」と唸ってしまう。勿論一度見てる絵もあるので、★は一つ落ちる。


「笑う警官」 佐々木譲 著 10/09/05読了 ★★
「うたう警官」だと意味がわからないからと文庫化で改題したそうだが、やっぱり内容からすると
「うたう」だろう。


「大蛇伝説殺人事件」 今邑 彩 著 10/08/23読了 ★ 

よく練られているようで、ちょっと弱いような。2001年発行だけど、いまどきの睡眠薬は飲み過
ぎたって、死にはしませんよ…。


「残虐記」 桐野夏生 著 10/08/21読了★★

物語のモチーフとしては、実際にあった新潟少女監禁事件を想起させる。いいのかなぁ…?冒
頭の謎の答えは読者にゆだねられるという、ちょっとズルイ終わり方。



「水に描かれた館」 佐々木丸美 著 ★

さらに続編だけど、続編と言うより無理やりくっつけたような。輪廻転生がテーマとなると、もは
やミステリではないだろ…。「輪廻」だから、ファンタジーだから、では納得いかない(+_+)それだ
けの試練を越えてようやっと会えた恋人というには結末があっさりしてるし。輪廻転生のもとに
なる二人が、死ななければならなかったというのが必然性がない。身分違いの恋でも、男は風
来坊だったんだから、女の子を連れてどこか遠い土地で二人で暮らせばよかっただけではな
いか。なんで死ぬの?で、来世で必ず会わなくてはいけないような運命的な恋とも思えないし。
 残念ながら「雪の断章」3部作よりはるかに劣る出来と言わざるをえない。…自分が変わった
のかなぁ?


「夢館」 佐々木丸美 著 ★

すべてのトリックが「催眠」でした、って…納得いかない(-_-) 一応、フロイトやら催眠の専門書
を参考にはしているようだけど、「自殺」は催眠ではさせることはできないって読んだことがある
けど…。催眠術によって人を殺すというのは、宮部みゆきの本にもあったけど、あれは確か
「自殺しろ」という風に催眠術をかけたのではなく、「逃げろ」と暗示をかけ、結果自分から道路
へ飛び込んで自殺させることが可能だった、ということだと思うのだけど。クリスチャンの少女
が荒れ狂う海を泳いで館へ着き、忽然と消えたというのは結局なんのために必要なエピソード
だったのか?結局わからずじまいだし。なにもかもが穴だらけで、残念なものになってしまっ
た。「崖の館」の続編。別に続編なくってもよかったな、と。


「崖の館」 佐々木 丸美 著 ★★10/07/28読了
「雪の断章」で名をはせた(?)佐々木丸美の作品。「雪の断章」の三部作は話がよく練られて
いるのと読んだ時自分も若かったんで、この作風についていけたんじゃないかと思うが、今回
改めて1977年に発表されたこの作品を読むと…文章の耽美さにちょっと引いた…。読み進
むうちに辟易してくるほどに。要は、描写が抒情的すぎて気障なのだ。
「狂った風がひゅうひゅうと渡る。館へ吹きつけては海へ落ちて、再び爪をかざして。冷たく笑う
冬の嵐よ。私の脳髄に冷酷な楔を打って欲しい。」
「一つの謎は小さく分かたれて結晶していく。原子核のようにそれはどんなに小さく生まれ変わ
ろうと謎たる謎の本質を失うことなく生きてゆく。」
描写はともかく、肝心のストーリーの方も疑問は残る。6人のいとこたち。19歳の若さで2年前
に事故死した館の主の娘千波。事故死ではなく6人のなかの誰かが殺したのではないかという
疑問が起こる。疑問は確信へと変わり、第二の悲劇が起こった。
犯人のトリックはともかく(トリックもちょっと無理があると思うんだけど…)、動機がさっぱりわか
らない。この抒情的な文章で動機を言われても、「なんで?」と思ってしまうのだ。ただ、6人の
間にある微妙な感情のもつれ、猜疑心、嫉妬、確執がこの浮世離れした物語の中で、ものす
ごくリアルな感じもする。それが彼女の作品の魅力なのかもしれない。



「葉桜の季節に君を想うということ」 歌野 昌午 著 ★★★10/07/23読了

いやー、やられた。本当すごい仕掛けだった。すっかりだまされたー!!あれもこれも全てこ
のためかー、と思うと本当よく練ってある感じが。もう一度頭から読み返さずにいられない。他
の作品も読んでみようという気になる。



「最後の願い」 光原 百合 著 ★

一度読んだはずが全く覚えておらず、再読。読み返してわかった。覚えてないのもむべなるか
な、ミステリというにはあまりにパンチが弱い。謎が謎と思えないくらいの弱さで印象に残らなか
ったのだ…。キャラのかき分けも今一つ…主要登場人物二人の印象がかぶるのだ。他のキャ
ラもしかり。残念すぎる…。


「完璧な犠牲者」C・マクガイア&Cノートン著 ★★ ’10/07/6読了
アメリカ、カリフォルニア。1977年5月19日午後4時。20歳の女性コリーン・スタンは誘拐さ
れ、その後7年間幽閉、監禁生活を強いられたというノンフィクション。概要だけなら日本でもあ
った新潟少女監禁事件を思わせる。が、こっちもかなり恐ろしいものである。こんな犯罪を犯す
ことができるというのが信じられない。せめて犯人には一生檻から出られない厳罰を望むしか
ない。


「贖罪」 湊 かなえ 著 ★★ ’10/07/02読了

読みやすいんだけど、ミステリかというと…?全容がわかっても、ああそうか、というだけ。


「i(アイ)鏡に消えた殺人者」 今邑 彩 著 ★★

トリックとしては、まぁいいんだけど、それをなしえるかというと苦しい気が…。



「死体は告発する」 上野 正彦 著 ’10/06/25読了 ★★

動機や手口はともかく結果のみに絞った本。「毒」とは怖いものという常識は持ってるが、自発
的に使うということがずっと身近に感じられた。「脳死」と「植物状態」の違いがわかった。



「臨床真理」 柚付 裕子 著 ’10/06/22読了 ★★

「このミス」大賞の最終選考に残った作品。大賞に選ばれたかどうかは、知らない。
話はそう以外性のあるものでもなく、面白いと思えないが、最近話題の電子書籍、i Pad をふと
思った。最初に話の筋は読めてしまうのだが、あまりに最初過ぎて、こんなに残りページあるん
だから読者の思っている通りに進むわけがない…などと、本を手に持って読み進むと、残ペー
ジと相談しつつ、推理できるのである。これが電子書籍にない醍醐味ではないだろうか。と一
人悦に入っていた。果たして、筋は読みどりだったのだが、展開としてはヤマ場が待っており、
後半は一気に読ませる勢いだった。ただ、やはりミステリとしてはストーリーに捻りが欲しかっ
た。



「FBI心理分析官」 ロバート・K・レスラー&トム・シャットマン著’10/06/17読了★★

「羊たちの沈黙」にも貢献したというFBIの心理分析官が実際の事件からプロファイリングの重
要性や必要性を説く。それにしても、解説にもあったように「連続殺人犯の多くが20代後半か
ら30代の白人であることに、業のようなものを感じる」のだ。日本では殺人事件そのものが大
事件で大騒ぎだが、アメリカでは殺人事件だけでは大した事件にならないのは、他殺の死体が
多すぎて「連続殺人」か「快楽殺人」かを決めるのが難しいというのだから、恐ろしい。
殊に「血を飲む」「殺すことを楽しむ」ための殺人となると、もはや人の皮をかぶった違う生き物
とさえ思える。「殺すことを楽しむ」など人間以外の生物はしないだろうけど。
「行動科学」と銘打って、犯人逮捕に役立てるため殺人犯を研究するのは結構なことだと思う
が、心理分析となると…永久に人の心はわからないのではないか、と思ってしまう。それでも型
にはめて、人間の行動を読もうと思うのは人間の支配欲という業のなせる技なのかもしれな
い。


「女検死官 ジェシカ・コラン」 ロバート・ウォーカー著 ★★ 

検死官というと、コーンウェルのドクター・ケイ・スカーペッタが有名なところだが、それと前後し
て出版されているところを見ると、少なからず意識してるところがあるようだ。ただ、スカーペッ
タが対外的には感情を押し殺した、弁護士でもあり有能な検死官でもある完璧な鉄の女である
のとは違って、ジェシカはごく普通の女性に見える。死体を見て震えあがったり、考えなしに行
動したりという、スーパーヒロインとは言えない面がある方がリアルさがあるような気がする。
ただ、ここ20年で文明が大きく変わっているので…平たくいえば、携帯の登場でかなり昔とは
犯罪の手口も解決の糸口も変化している。今の感覚で読むと、少なからず「あれ?」と思うとこ
ろがあるのも否めない。携帯があればこんな危険は冒さなかったはず、こんなことは起こり得
ないはず、というシーンがこれからも増えてくるのかも。古典を読んでるなら、それなりに覚悟
はあるが、たかが10年20年となると微妙なところだ。



「月影村の惨劇」 吉村達也 著 ★ ’10/06/07読了

4部作の最後作だそうで…ちょっと前3作の宣伝がすごい…(-_-)何がなんでも読め!と脅迫さ
れてる気がするくらいの…確かにこれだけ読んでもなぁ、とは思うけど。青森にも横浜があるっ
てことが唯一得たモノというか。トリックがお粗末というか…無理だろ、という程度のものだった
し。これ一作でもちゃんと読めるものを書くのが、一流の作家というものではないのかね?


「螺旋館の殺人」 折原一 著 ★’10/06/01 読了

作中作の小説がトリックの一つでもあるんだが、これでもかというくらいの作中作で…要は分か
りづらい…そこまでしつこくする必要があるのか、と思うくらい。残念ながら本筋はさっさと予測
がついたので、さして面白いものではありませんでした。


「産霊山秘録」 半村 良 著 ★★ ’10/05/21読了

 タイトルは「むすびのやまひろく」と読む。「長編伝奇推理小説」というものを初めて読んだ。
「推理小説」とは言えないような…どこにも推理できるところなんかなかったし。SFというかファ
ンタジーというか、時代劇な舞台でESPでもって戦うというのは、中国でいう「武侠小説」に似て
いるような。織田信長、豊臣秀吉など誰でも知ってる名から、猿飛佐助やら坂本竜馬やらまで
引っ張り出して、ゆうに400年に渡っての「ヒ族」にまつわる物語。緻密な設定とまことしやかな
語り口に、そんなものが本当にあるんではないかと錯覚するほど技量はある。ただ正直、読ん
で面白かったか、ってーと…もうこのテの本は読まないだろうな…という程度のものである。好
き嫌いが分かれる分野の読み物と思う。



「中国路地裏物語」 上村幸治 著 10/04/02 ★★
’99年の中国なので勿論今とは大分違う中国のルポ。かなり踏み込んで取材しているので(大
丈夫だったんだろうかと心配になるくらい)、一般市民の本音が垣間見ることができる。この本
からさらに10年。貧富の格差はさらにひどくなっているし、期待された民主化はいまだ遠い。



「イギリス発日本人が知らないニッポン」 緑ゆうこ著 10/03/29★
相変わらず、フジヤマ・ゲイシャ・ハラキリ等のステレオタイプのオンパレらしいが、自分の印象
では下手したらそれすらも全く知られていないのではないか、とも思っていたので、欧米と50
歩100歩とはいえ、印象くらいはあるのだな、と安心した。ただ、この程度しか知られていませ
んよ的な本では、正直読む価値ないというか…もう少し特色を出して欲しかった。



「わたしは最高にツイている」小林聡美 著 10/03/28読了★★
「わたしのマトカ」と同時に買った女優のエッセイ。三谷幸喜夫人ということもあって、ちょっとコ
メディ的なエッセイを期待してたのだが…あ、フツーの人なんだな、という感じでした。
 女優というのは大変な仕事なんだなぁ、というのは勿論だが、フツーの人でも「ある、ある」的
なことも多く(いや、そっちメインか)女優も人の子という感じで楽しめた。
 タイトルは言霊というか、そう言えばそうなるんじゃないの、的なもんらしい。本当にツキまくっ
ている人のお話ではない。悪しからず。


「螺鈿迷宮」 海堂 尊 著 10/03/19読了★★
終末期医療とお得意の死亡時医学検索に焦点をあててストーリーが進められていくミステリ。
とはいえ、なんだかミステリとも言えないような、謎解きが今一つ私にはわかりにくく、何が犯罪
なのかもわからん始末。過剰に華美に装飾された文章からか、単に私がよく読めてないのか、
非常にわかりにくい…。何が争点なのかもわからんまんま終わってしまった。


「ルポ貧困大国アメリカU」 堤 未果 著 10/03/18読了★★
折しも、この本の中にも書いてある「国民皆保険」が成立したところだった。しかし、問題山積な
のは言うまでもなく、本当に先進国アメリカがここまでひどいのか、という暗澹たる気にさせられ
る。一番驚いたのは「借金漬けの囚人」。逮捕されたその日から、法定手数料やら囚人基金の
積立金やらの請求が来る。刑務所だってタダじゃない。部屋代やら医療費に一日2ドル加算さ
れていく。出所するころには借金漬けで勿論再就職も難しい。一体どうしろというのか…。日本
も勿論人ごとではないが…、反面教師としてなんとか少しでも豊かになっていってほしい。   



「フィンランド 豊かさのメソッド」 堀内都喜子 著 ★★★ 10/03/17読了
 立て続けにフィンランドだが、買った時も動機もバラバラ。偶然続いて読んだ。こちらは8年フ
ィンランドに住んだ気合い入ったルポで、フィンランドをほめたたえるだけでなく、ちゃんと欠点
も指摘してある。片桐はいりだけを信じて行ったりすると大けがしそうなので、行きたいという人
はこちらを読むことをお勧めする。
 謎の国フィンランドを地理的、歴史的に述懐、分析してありわかりやすい。まぁ外国ってどこも
日本からすれば非常識なとこもある。特に自分でも改めて知ってよかったな、と思うのはイチロ
ー、マツイがヨーロッパでは全く知られてないことだった。野球といえば勿論アメリカ大リーグだ
が、ヨーロッパにないどころか、フィンランドにはフィンランド式野球という似て全く非なるものが
存在し、こちらは世界大会まである。いかにアメリカしか観ていないかというのを気づかされ
る。外国と言えばアメリカだけじゃない、世界で通用する日本人は大リーガーじゃないということ
に眼からウロコである。
 見習うところも、日本を見直すところもたくさん出てくるので異文化の話は面白い。



「わたしのマトカ」 片桐はいり 著 ★★★ 10/03/16読了
帯の「北欧の国で出会ったのは薔薇色の頬をした暖かい人たちだった。」を見て「あ、あのこと
だな」と思い当たることもあり、その思い当たることも一緒に本屋に並んでたので一緒に買って
しまった。思い当たることとは「かもめ食堂」という映画。小林聡美演じるサチエがフィンランドで
営むかもめ食堂に、旅人も現地人も自然に寄ってくるという、なんやわけわからんがほんわか
した映画で、片桐はいりは「なんとなくフィンランドにやってきてしまった邦人旅行者」ミドリを演
じている。小林聡美も「わたしは最高にツイている」という本を出していてこの本と書店にならん
でいたのだ。
この「わたしのマトカ」というなんのこっちゃなタイトルにもひかれた。この謎は最後にようやっと
明かされるが、なんのこたーない、フィンランド語の「旅」だそうだ。旅行記やエッセイで名著が
あるわけでもなく、女優としてもかなりクセ者のイメージのある人の旅を読んでみたかったのが
動機だ。本人も言う通り、文才があるでもないが、だからこそ余計にリアルな描写で、観たまま
聴いたままを素直に紙面に吐き出してうまく読ませてくれる、と思う。フィンランドという未知の
国と未知の女優の人生(といううほど大げさでなく…生活?)を楽しめる一冊。



「短時間でグッスリ眠れる本」 藤本憲幸 著 ★★
「それができれば苦労はない」のオンパレではあるが、「何時間寝るのがいいということはな
い。」というのに「寝なくちゃ、寝なくちゃ」と布団の中で焦っていたのが「そっか、寝れたら何時
間でもいいのか」と気が楽に。ただ、「靴下をはいて寝れば、冷え性も撃退!」には「冷え性を
なめんなよ!!」と思った。


「死因不明社会」 海堂 尊 著 ★10/03/15読了
監察医制度が全く機能していない日本において、死亡時の解剖率は2%。解剖医の不足と費
用不足からほとんどの死体が死因もはっきりわからないまま葬られる。そこでAiなるシステム
の導入で全て解決。遺体の損壊が無いので遺族からの了承も得やすく、時間も5分と結果が
すぐわかる優れ物…ということは重々わかる。そんだけ。


「ちょっとした勉強のコツ」 外山 滋比彦 著 ★
本当に「ちょっとした」コツなんで、参考になる部分は少ないかな…。


「ゾディアック」 ロバート・グレイスミス著 ★★
60年代後半に始まった連続殺人事件。犯人はたくさんの遺留品を残し、新聞社に犯行声明を
送りつけるも犯人逮捕には至らず捜査は打ち切られた(時効がないっていっても打ち切ったら
一緒じゃないのか?)。著者は取材を重ね、捜査に携わった刑事、被害者の遺族、容疑者に
近づき稀代の殺人鬼、ゾディアックに迫る。本当にこれだけ多くのモノを残しつつつかまらない
というのは不思議でもある。切り裂きジャックですらDNA鑑定(警察に犯行声明を送りつけた
封筒に貼ってあった切手についていた唾液)であっさりわかったというのに。捕まらなかった決
定的な理由は2つ。筆跡と指紋。この二つがどうしても合致しなかった。しかし筆跡は変えられ
るし、指紋も犯人のものではなかったとしたら…最初からやり直すにはあまりに時間がたち過
ぎ、警察もどうしていいかわからない状態に。最有力容疑者も亡くなり、事件は終息。これとい
う決めてを欠いたまま、犠牲者がこれ以上増えないならまぁいいかとなし崩しに終わってしまっ
た。


「ハリウッドではみんな日本人のマネをしている」 マックス桐島 著 ★
 日本人をこきおろした本の後には少々持ちあげてもいいんじゃないか、とこの本を読んでみ
たが…これはちょっと持ちあげすぎか…。日本特有の「思いやり」が受けているということなん
だけど、それこそ合理主義のアメリカは、いいところは勿論注目して取り入れるが、悪い所は
まるで取り合わない。いいか悪いかはその人によるのだし。ただ、この人がいう「日本」は「東
京」なんである。つまり東京をマネしているといったほうが早い。しかしアメリカ人は自分のモノ
サシで考え、他国の文化を否定するのが好きなので、今日本がもてはやされているからといっ
てアメリカ人の価値観が変わったと考えるのはとんでもない思い違いではなかろうか。いつかし
っぺ返しをくらいそうだ。



「日本人は永遠に中国人を理解できない」 孔健 著 ★
 著者も指摘しているように、中国人がすべていい人なわけではないのだが、こうも日本人をこ
きおろされると、「理解してくれなくて結構」と言いたくもなるってもんだ。実生活ではそつなく日
本人と付き合っているのだろうが…どうも中国人って信じられないなぁ…と思ってしまう。



「となりのクレーマー 苦情を言う人との交渉術」 関根眞一 著 10/02/08★★
 百貨店のクレーム処理を書いた本。クレームを言って金品を取ろうとする輩や、ただクレー
ム付けては店員の困った顔を見たがる愉快犯等、人間相手の商売は大変だなぁ。
 実際に百貨店の交渉術が、他でも通用するかはさておき、こんな人種がいるんだということ
をサービス業に携わる人は肝に銘じておいたほうがいいかも。



「人蟻」 高木彬光 著 10/02/05★
 かなり古い作品で結局いつの話なんだ、というのが最後までひっかかってた。解説読んで、
やっと昭和三十年代前半というのがわかった。なので戦後のことに明るい方が理解しやすい。
戦後の事件に詳しくはなりましたが。「キャノン機関」や「下山事件」等戦後GHQが暗躍したと
いう事件の関連書物も読んでみたくなった。



「すべての美人は名探偵である」 鯨統一郎 著 10/02/02★
 ミステリーやトリックよりも、タイトルにもある「美人」の定義がよくわからん。確かに美の一定
基準はあるかもしれないけど、そこには見る人の好みも多いに作用すると思うので万人が認
める絶対的美人が存在するのか…また、人格の傲慢さや狡猾さ、ハッキリ言って性格悪い人
に「美人」が免罪符になるかというとかなり疑問。
 「九つの殺人メルヘン」「邪馬台国はどこですか?」のヒロインが出てくるので、本格的を期待
していたのだが…終始「?」がつきまとう(ミステリということではなく価値観に)けったいな作品
だった。


「本気で言いたいことがある」 さだまさし 著 10/02/01★
 これは「書いた」のではなくしゃべったのを活字に起こしただけじゃないのかなぁ…というくらい
本としては薄っぺらい感じ。言いたいことはわかるんだけど、別にフツーのことというか。「道義
心を持て、日本語を正しく使え、倫理観を持て…」などなど。
 「日本語を正しく…」とはいうものの、この本で正しく使えてないんだから説得力ない。せめて
ちゃんと「書いて」くれれば説得力も違ったろうが。 


「反日、暴動、バブル 新聞・テレビが報じない中国」 麻生晴一郎 著 10/01/29★★★
 一般人、一般論…中国のスタンダードは何を持ってスタンダードと言えるのか…。
中国に足しげく通って本音を聞き出し実像に迫ったレポート。「新聞・テレビが報じない」とは、
中国発信の報道を通じてだと実像は絶対つかめないし、中国政府が許可したものでないと伝
えることはできない。つまり報道規制によって、中国に不都合なところは報道されないのだとい
うことらしい。確かにどこの国もそうだろうが、中国ほどそれが顕著な国もないだろう。
 著者いわく「本当の意味で社会主義がなされてほしい」。確かに社会主義が徹底されてたら
生活の落差なんてないはず。資本主義をこけおろしてはいるが、社会主義を掲げている国の
方が下手すれば、貧富の差は大きいんじゃないだろうか。少なくとも日本よりは中国の方が貧
富の差が激しい気がする。テレビに映される、日本人と変わらない格好をしてインタビューに答
える人たちが全体の15%しかいないとすれば、その意見は中国人の平均的意見とはとれない
わけで、これからテレビや新聞の報道をうかつに信じることはできない。


「上海 遙かなり」 伴野 朗 著 10/01/26★★★
この本自体、偶然拾ったようなモンだったんだけど、思わぬ拾いものの傑作(*^_^*)天安門前
の中国(拾ったんで、このテの本ばかり探して読んでるわけではない)が舞台。しかし話の根幹
をなすモノは戦前の中国、実在した人物、汪精衛(兆銘)に絡んだ2枚の写真。1944年汪精
衛が日本で客死する前に撮られたものを基に書かれた新聞のコラムが思わぬ方向に転がっ
ていく…という展開の歴史サスペンス。著者の中国通なことはもとより、詳細な記述に驚かされ
る。汪精衛は孫文や蒋介石とも並ぶ有名人であるにも関わらず、日本ではあまり知られていな
い事実にも驚いた(私だけ?)。近代中国の成り立ちもわかって、非常に面白い傑作だった。


「ヨルムンガンド」★★
マンガです。武器商人とその愉快な仲間達といった、ちょっと変わった舞台設定の話。主人公
ココ・ヘクマティアルは可愛いけど、デッサンがちょっと???なとこがあって(体が柔らかいと
いうのではなくありえない方向に関節が曲がってたりする)絵的にどうかと思うけど。ココいわく
「世界平和のために武器を売る」のがどこに帰結するのか見届けたくなった。 


「岳物語」 椎名誠 著 10/01/22読了★★
この人の旅エッセイは面白いのだけど、愛息・岳の観察記録というか、父親日記という感じの、
他人が読んでもちょっと照れくささを感じて胸のあたりがソワソワする本なのだ。…と椎名誠風
に感想を書いてみた。今、どんな大人になっているのか見てみたい気もしたが、意外にフツー
の大人になってて、やはりみない方がホンワカしたなにかが消えなくてよいのかもしれない。



「冷酷」 ポール・カースン著 真野明裕 訳 10/01/15読了★★★
アイルランドのダブリンが舞台のサスペンス。結構太い本で読み応えかなりあり。本国では17
週連続ベストセラー1位だそうです。読んでいったらそれも納得というくらいぐいぐい引き込まれ
て、途中で止めるのが難しくて仕事に支障が(仕事の休憩時間に読んでた)出るくらいでした。
富豪の嬰児誘拐事件と病院で起こった殺人事件の捜査が平行して行われるのだけど、どちら
も一筋縄ではいかず(でなけりゃ話にならない…)担当刑事や犯人側の事情が時間経過ととも
にひっ迫して、かなりスリルがある。翻訳も面白いなーと思うとこがあったり(誤訳じゃないんだ
ろうけど、口語だな、と思うところとか)して。2000年発行だけどアイルランドを知らないからとい
うこともあるかもしれないけど、特別古さを感じさせず、またアイルランドならではの事情もわか
って面白いこともあった。
次作はもう発表されてるようなんで、また探してみようと思います。


「3月のライオン」★★

羽海野(うみの)チカの絵はゴチャゴチャしてて読みにくい…画面にいろいろ描き込みすぎてて
描線もすっきりしてないので目がチカチカする感じ。絵はともかく話はまぁまぁ…これも評価され
てるほど人物の心理描写に優れてるとも思えず…。将棋のことに関しては凄いと思うけれど。
 自分にもできるかなー、と思ってネットでやってみたけど、惨敗でやっぱり頭悪い奴には無理
だなぁ…。でも確実に将棋の間口は広げたと思いますよ。


「宇宙兄弟」★★

世間で評価されてるほど自分はハマらなかった。3巻でドロップアウト。


「ちはやふる」
「とめはねっ!」

マンガここに入れていいのかどうか迷ったけど…良作ならいいかな、と。両方とも★★★。

影響されやすいんで早速かるた会探したけど、自分の住む地域には社会人の会はなかった…
ハマりたかったのに残念。習字は臨書はいいんだけど、キゴウがやっぱり絵画で言えば抽象
画のような意味不明さで、入っていけない。でもキレイに書くだけではないという新しいことが知
れて面白かった。最近の学生はいいなー、打ち込めるものがいろいろあって…いや、かるたも
習字も昔からあったろ。そういう意味じゃなくってマンガにしろインターネットにしろ情報がいろ
いろ手に入っていろんな世界に早くから入っていけるんじゃないかと。才能の早期開花?開発
?英才教育??ま、そんなもんの一助にはなってるんじゃないでしょうか、マンガも。かるたが
スポーツとは知らなんだ…知ってたらやっぱりやったかもなぁ、かるた(^^ゞ



「とんち探偵・一休さん 謎解き道中」 鯨統一郎 著 12/30読了★★★

鯨氏のミステリはユーモアととるか悪ノリととるか難しいものがあるんだけど、これはなかなか
よくできている。アニメに出てくる蜷川新右衛門や茜を従えて、アニメとは程遠いキャラの人を
くったような京都弁の小坊主一休の短編集。よくできているなぁと思うのは、大筋のミステリは
勿論のことながら、ついでに一休ならではのとんち問答も出てくるので、一つの話に2つの謎が
出てくるという凄いことになっている。
読みやすい短編連作で、ちょっと仏教に詳しくもなれるというお得なところもある秀作である。


「ダーク」(上)(下) 桐野夏生 著 12/28読了★★

探偵村野ミロシリーズなんだけど、1作目を読んだ記憶はあるけど、話は忘れてるし(海外のウ
ォシャウスキーシリーズと似てるので話も混同してるかも)今作で話の中核をなす事件の前作
を読んでないのでちょっと因果関係がわからない。まぁそんなことをぶっちぎるぐらいのミロの
行動と話の展開で、女は強し!というのを見せてくれます。トモさんも同性愛者とはいえ、やは
り運命に対する弱さを見ると所詮男よのう、と思ってしまうが。子供を産んで「母は強し」という
ところなんだろうけど、敢えて「女は強し」と言おう。本人も言うように母性がないというより運命
に向かっていく強さが、子供を産もうが産むまいがもっと以前から備わっているような気がする
からだ。とんでもないドン底と思っても更に更に物語の進行とともに、まだまだ沈んでいくのであ
る。しかも本人の意思で。結局子どもと生きていくことを選んだミロがどうなるのか、まだまだ続
編があるようなので、彼女の人生を見届けたいという気持ちになった。



「みなとみらいで捕まえて」鯨統一郎 著 12/23読了★★

この人のミステリーはユーモアたっぷりなんだけど、ちょっと悪ふざけが過ぎるかと思うときもあ
って、あまり先読みしようという気も起きないときがある…。マンガみたいなテンポのよさなんで
重いものを読んだ後には口直し的によいんだけどね。 



「最悪」 奥田英朗 著 12/14読了★★

読み終わった時も不完全燃焼というか、ちょっと「ん〜」というところ(表現力乏しいな〜)に持っ
てきて、池上冬樹氏による解説に「必読の傑作」とあるのを見てもっと「う〜ん」とうなってしまっ
た。ものすごく長い群像劇なんだが、群像劇ってよっぽど上手じゃないと読ませられないと思う
ジャンルなんで(これの一番手は宮部みゆきだと思う)、かなりの力量を要するものだと思って
いる。で、本作は確かに「次はどうなるんだろう」とまさにジェットコースター並みの展開で読ま
せることは読ませるんだが、その展開のうねりの大きさにしては着地が小さくまとまりすぎなよ
うな…。ラストが急に尻すぼみしてしまったような感じが否めない。もっとスカっと終わって欲し
かったな、という感じでした。



「感情の整理が上手い人 下手な人」 和田秀樹 著 12/11読了★★

 この人の自己啓発本は自分には合ってると思うのでついつい買ってしまう…。ただ、これはな
ー…それができれば苦労しないって…という箇所が随所に…。「嫉妬」「羨望」という悪感情を
捨てましょう、他人を好きになりましょう…そりゃそーだ。正論だ。「偉そうにしたい気分」をまず
消し去ること…ここから始めてみましょーか。くだらんプライドが邪魔してるのは自分でもわかっ
てるんで…。ただ、一方では「こうすれば他人に好かれる」と説いたり「他人からどう見られるか
は考えずに」と説いたり…一筋縄ではいかないってことよね…。



「節約の王道」 林望 著 12/9読了★★

帯にある通り「へそまがり節約術」で、全ての人にあてはまるものでもない。特に「教育」や「家」
に関しては、一人一人持論は違うだろうしな。この人のエッセイは面白いんだけど、ちょっと自
画自賛がすぎるきらいがある。もうちょっと謙ったほうが好感持てるのでは…と余計なお世話を
思ってしまう。



「ヒトのオスは飼わないの?」 米原万里 著 ★★★

 動物好きな人にはぜひ読んでもらいたいエッセイ。ご存じの方もいらっしゃるかもしれません
が、著者はもはや鬼籍に入っておられます。もう新作は読めないので、今出ているものをゆっく
り読んでいってるのですが、もうこれは面白くておかしくて、一気に読んでしまいました。ただ、
彼女亡き後、猫や犬たちはどうしているんだろう…とたまらない気持にもなりますが…。    



「百人一首の謎」 織田正吉 著 ★★

「柿本人麻呂の暗号」という本を読んだことがある。「いろはにほへと」を7句づつ区切って読む
と「とかなくてしす(咎なくて死す)」という文が出てくる。流罪になった人麻呂が世をはかなんで
(?)作った暗号入りの詩だというのだ。偶然としか思えない無茶なロジックだったが、これも似
たりよったりなところがある…と言えば著者は怒るだろうなぁ。それくらい自信満々なのだ。  
とはいえ、記憶してみたことのある人はわかるだろうが、確かに似た句は多く、「なんで?」と思
うことは多くある。「わが衣手に雪は降りつつ」「わが衣手に露に濡れつつ」「富士の高根に雪
は降りつつ」等々…。加えて著者は藤原定家が選んだにしては、その人の一番良い句ではなく
、なんでもない句や、なんでもない人の句を選んでいるという。興味深いところはあるものの、
結論として「後鳥羽上皇への鎮魂歌集」であるという推理は、やはり納得しかねる…というか、
例えそうでも「ああ、そうかい」という程度のモノであった、私には。百人一首を再度覚えてみよ
かな、と再び興味を持つには十分であったが。



「天安門落書」串田久治 著 09/12/02読了 ★★★

1989年6月4日の恐怖「天安門事件」。民主化を求めてデモを起こした学生達に、動乱を鎮
圧するため人民解放軍の銃が学生に向けられた。戦車は学生を轢き殺し、銃剣で女学生の
胸は付き刺された。あの動乱から20年。この本は事件翌年に出版されたもの。民主化の波は
一日でわき起こったものでなく、その前から人々の心に「いつかは…」と青い炎がくすぶってい
たようだ。少しづつ風が吹き始め、炎となって天安門を目指す学生達の情熱を白熱した描写で
緊張感もって描かれる。もう風化してしまった感のある事件だが、中国内外で波紋をよんだ中
国近代史においても重要な事件。昔の中国と今の中国を比較することも面白い、読んで損は
ない一冊。中国に興味ない人は全然面白くないだろうが、ここ数年の中国の激変に注目してい
ない人も少なくないだろう。中国入門書として読むともっとハマること請け合いデス。



「東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ」 遙洋子 著 09/12/01読了★★

残念ながら著者自身の思考や感想とは異なることも多かったが、要は「ケンカに勝つ方法」を
学べたのが大きかった、ということらしい。この本を読む大前提として「ジエンダー」「フェミニズ
ム」とはなんぞや、ということを頭に入れとかないとわからないことは多い。そしてもっと残念な
ことは具体的に上野千鶴子の授業内容がわからないことだ。録音していいか、と尋ねる著者
「外部に漏らさない」条件で許可されたらしいので具体的に書けない事情もあったであろうが。
 もっとスゴ技があるかと思いきや、最後にまとめてある「ケンカのしかた・十箇条」には普通の
ことが書いてある。「声を荒げない」とか「勉強する」などだ。相手のペースに巻き込まれない、
とか冷静に論点を見失わないなどは当然として、具体的にディベートで相手を黙らせる方法を
知りたかったのだが、思ってたほど「ケンカ」について学んでいるようには思えず、タレント業を
しながら大学に通った感想文、といった感じだ。ディベートに勝つなどは、それ専門のハウツー
本でも探せと言われればそれまでだが。東大がどんなところか、というのはよくわかって面白
かったし、社会学というのが奥深いというのがわかったのがこの本からの収穫か。       
 何にせよ、著者の様にいくつになっても学ぼうという姿勢とそれを実行に移す勇気は見習わ
ないとなー、とは思った。もし何かに挑戦できる機会があったら、著者の勇気を思いだし、チャ
レンジすることだろう。…多分。



「「怖い絵」で読む世界の歴史」 綿引弘 著 09/11/27 ★★

 中野京子の「怖い絵」ほどではないんだけど、確かに怖い。写真がない時代にとって、「絵」は
確かに時代の証言者である。近代になってくるとかなり「風刺画」の要素が強いが、中世や紀
元前の絵や壁画はやはり当時の風習や事件を現代人に見せてくれる。なかなか見ごたえ&
読み応えあり。歴史に興味ある人にお勧め。



「女性署長ハマー」 P.コーンウェル★★09/11/13

 ドクター・ケイ・スカーペッタ「検死官」シリーズの作家の新シリーズ第3作目。さすがに「検死
官」シリーズとは話の持って行き方を変えてはいるが…いくつものストーリーを平行に進めてラ
ストに焦点を当てて引っ張るというのは、日本では宮部みゆきが既にやっているので、驚くより
途中で飽きないかなー…という疑問がよぎった。下手すると冗長になって、関係ない描写を読
むのが面倒くさくなるのだ、この手のモノは…。
 1つ目のグループは勿論ハマー本人と部下のアンディ・ブラジルとハマーをよく思わないバー
ジニア州知事クリムとその一家。妻のモードと末娘にしてブス、デブ、わがままと三重苦の末娘
レジャイナ、知事官邸の執事ポニー、ひと癖もふた癖もある報道担当官トレーダー。サブにハ
マーの秘書ウィンディ。2つ目がバージニア州の近海に浮かぶ島、タンジール島の住人、フォ
ニーボーイと島の巡回歯科医ドクター・フォー。3つ目が札付きの不良で悪事を重ねつつハマ
ー達に復讐のチャンスを狙うスモークと手下のポッサム、そして残酷で殺しを快楽趣味としてい
るスモークのガールフレンド、ユニーク。4つ目が高速道路の料金徴収員フーター、料金所で知
り合ったバービー、フーターを口説くマルコビッチ。と、メインだけでも結構な人数。ちょい役なら
まだまだいます。そして残念ながらドクター・スカーペッタはカメオ出演。チョイ役に属していた。
最後には解決するのはわかっているんだけど、ユニークの事件(彼女が犯した惨殺事件が発
端)とトルーパー・トルゥース(謎のブロガー。正体はアンディ。最初にこれは明かされてるので
これから読もうという方、ご安心を!)の消え方が自分の中で未消化。もうちょっと丁寧に終わ
らせてほしかった。しかし、アンディの文章力もすごいもんだ。ちょっとは見習わなきゃなー、と
つくづく思わされた…。



「イギリス王室物語」 小林章夫 ★09/11/17読了

 もっと、掘り下げてほしかったなー。有名な8人の王に絞られてはいるんだけど、自分が知っ
ている以上に得るものはなかった…。’96年発行なんで著者はチャールズ皇太子とダイアナ妃
の行く末を心配しておられますが、離婚、事故死、皇太子の再婚なんて予想できたでしょうか。
この方の感想を聞いてみたいものだなー(^。^)y-.。o○                        


「しがみつかない生き方」 香山リカ ★★★

 丁度、悩んでたこともあって、ドンピシャリでした(笑)特に自分に効いたのは「第2章自慢・
自己PRをしない」でした。自慢じゃないが自分を出すのは、この年にしてまだ苦手で、常に
コンプレックスでしたが、「あ、しなくていいんだ」とスッと肩の荷が降りた感じでした。「第6章
仕事に夢を求めない」も変わった見方でよかったです。誰もが憧れの職業、自分に合った仕事
を求めて自分探しをしてるんじゃないでしょうか。「好き」を仕事にできる人なんてほんの一握り
とわかっていても、今の仕事を天職とは思えず「どこかに自分に合う職業が自分を待っている」
という夢を捨て切れずにいる人々は意外と多い…というより「好き」な仕事に就いている自覚
のある人以外皆そうなんですよね。そんな人も効きます。
 関係ないのですが、最近CMで松ケンのナレーションで「これでいいのだ、とつぶやいてごら
ん。世界は案外輝いて見える…」だったかな?…も自分には効きました(^^ゞ  



「裁判長、ここは懲役4年でどうですか」 北尾トロ ★

 ついに来て物議をかもしだしてる裁判員制度ですが、参考になるかと思って読んでみたん
ですが、思ったのとは違ってあまり参考にならないな、と。裁判傍聴記には違いないですが、
どうも…当時は「傍聴」自体が珍しく著者にとっては面白いものだったんでしょうが、検事や
判事、裁判官の言うことにいちいち突っ込みを入れたりと、どうもちょっとからかい半分的な所
が不真面目に思えてあまり心象のいいものではなかったというところが正直なところでした。



「イン・ザ・プール」 奥田英朗 ★★

 これも評価が高く現在同シリーズ3作目まで出ているらしい。伊坂幸太郎の件もあって、売り
文句にはもう負けないぞ、と思い古本屋に出回るのを待ってたんですが(笑)まぁ、書店で買っ
ても良かったかな、という感想。最初はちょっととっつきにくさもあるけど、短編なんで慣れてくる
と読みやすく感じるように。伊良部精神科医の元にやってくる患者と医師のコメディーなんです
が、次はどんな患者がやってくるのか、と楽しみに思うくらい。                   
なかでも「コンパニオン」が同性としては「いるいる、こんなヤツ!」と爽快感までありました。
自作も読んでみるつもり…古本屋で探してね…。                           



「まんが パレスチナ問題」 山井教雄 著 ★★★

まんがで確かに読みやすい。戦争はイケナイことです、だけでは終わらない憤懣やるかたない
思いが湧いてくる。これでも、まだ宗教を盲信するのか、人間は。ばかばかしいとか思わない
のかね?ときどき「聖書の教えを伝えに参りました」なんていうのがウチにも来るけど「ウチ、
仏教なんで」と言ったらそれ以上はこないよ?そうやって人に押しつけなければうまくいくと思う
なんていうのは、楽観しすぎだろうか?
PLOの見かたはちょっと、いやおおいに変わってしまった。PLOって暫定とはいえ自治政府と
思ってたら、やっぱりテロ組織らしい。アラファト議長っていい人かと思ってたけど、やっぱり裏
でアクドイことやってたらしく…権力握ってしまうとそうなっちゃうのかねぇ(-_-;)
早く戦争が終わりますように…こんな言葉しかでてきやせんぜ…(~_~;)


「恩田陸 選スペシャルブレンドミステリー 謎003 日本推理作家協会 編」 ★

という長いタイトルだが、全部短編で読みやすい。が、8作中印象に残ったのは一作品だけだ
ったけど。「アメリカ・アイス」馬場信浩 著。アメリカの人種差別社会を一人の日本人がひっくり
かえしていくのが爽快でもある。ただそれがいいことか悪いことかはわからない。語りは最初
その日本人をバカにしていた白人の目から語られる。ま、それ以外は推理ものというより「あ、
そういうことか」と結果がわかってもいまひとつ感慨はなく、印象にも残らなかった。
しかも何でこれを手に取ったかというと、恩田陸著の本を探していて、パッと手に取ったんだけ
ど、なんと「恩田陸が選んだ」本であって恩田陸が書いた本ではなかった…早合点もいい加減
にしろな、自分…(/_;)


「世界反米ジョーク集」 早坂 隆 著  ★★

ジョークそのものも面白いのだが、そのジョークが風刺になっている。このジョークの裏には
こういうアメリカの状況があって…というところが、もう一つ楽しめ点だ。
ただこの9.11以降なので、ブッシュネタが多いのはしょうがないのだろう。世界がこういう風に
反米の気持ちをもっているというのも、アメリカ人こそがジョークとして笑い飛ばしそうだが。



「重力ピエロ」 伊坂 幸太郎著  ★

やはり私にはこの著者の作品は合わないみたい…。なにが面白いのかわからん。でも直木賞
候補に何度も上がるほどの力量らしい。書き方として最初にタイトルありきなんじゃないかな、
と思ったのがこの奇妙なタイトルと、このタイトルに行きついたシーンを見ても「無理やり」な感
じを受けただけで、あまり納得を得られるものでもなかった。他の作品のタイトルもなんだか
同じような感じで悪く言えば奇をてらっただけのような。この作品の話運びを見ても、やはり
消化不良のような。もっと掘り下げないと「夏子さん」やその他の脇役が生きない。折角出てき
てるのが、どうでもよくなって終わってる。主人公だけが納得して終わってもな…と今一つ私は
すっきりとしないものを読後に感じるのです。


「「健康食」はウソだらけ」 三好 基晴 著 祥伝社 ★

確かに納得できるところもあるけど、この人の言ってることも極論かと…。よくわかりません。
この本と「環境問題はなぜウソがまかりとおるのか」を合わせて読むと、社会不信になること
請け合いです。




「ラッシュライフ」 伊坂 幸太郎著 ★

いろんな人の人生が交差する面白さ…がいいんでしょうけど。ちょっと消化不良。登場人物
が多すぎて散漫になってしまった感じ。全く関係ない人達を繋ぐ事件も、ああそういう訳か、と
分かっても、最早どうでもよくなってる…。
 似た作りの作品が多い宮部みゆきのほうがやっぱり読ませる力は強いな。期待してただけ
に残念!



「ああ言えばこう行く」 阿川佐和子・檀 ふみ ★★

お二人ともエッセイを書く力はかなりのもの。お互いここまで長所短所を書きあって、いまだ
友情で結ばれているのが不思議なくらい。普通、ここまで言いあえばケンカもしくは絶交という
ことになると思いますけど。内容は笑って終わりという程度のものだけど(失礼!)友達の受け
入れ方というか、友人関係を長続きさせるコツみたいなものもあるかな。深読みすれば。


「あかんべえ」 宮部 みゆき著 ★

  「これを読まずして宮部みゆきワールドは語れない」というどっかの書評につられて買った
んだけど…。もともと時代劇っていうのはとっつきにくいな、という印象で避けて通ってたジャン
ルなんだけど、やっぱりなぁ、という印象。読んでるうちは宮部みゆきの筆運びのうまさに、ぐい
ぐい引き込まれて読むのは苦労ないんだけど、読み終わったあとが…お得意の推理が何にも
生かされてないし、幽霊騒動に興味もないせいか読後感がいまひとつな感じ。さすがの宮部作
品でも時代劇にははまらせてくれなんだか…。やはり現代推理劇に期待しよう。 



「危険な世界史」 中野 京子著 角川書店

ハマってますねぇ、中野京子(^^ゞこっちは絵画より歴史に主眼を置いてますので、絵画もモノク
ロでしかありませんが…でも大筋でヨーロッパ史を勉強るすより、もっと細かく、もっと人間臭く
描写してるので、歴史書としても十分面白いです。ただ、全ての章がマリー・アントワネットの 
生誕、没年を基準にしているのは何故なんだろう?  ★★★                   



「名画で読み解くハプスブルグ家 12の物語」 中野 京子著 光文社新書

ヨーロッパの歴史に興味がなくても、十分楽しめます。ハプスブルグの時代っていうのは、
日本で言えば、戦国時代のようなハイライト的面白さがある時代なんでしょうかね?      
名前こそややこしいのですが(フランツ2世やらマクシミリアン1世など同じ名前の人が1世2世
3世とゾロゾロいて本当にウザい…)名画もほとんどオールカラーで豪華、プラスその時代の解
説もあり面白い本です。 ★★★                                   

                          

「世界の日本人ジョーク集」 早坂 隆著 中公新書

日本人をオチにしたジヨークがこんだけあるよ、というジョーク集。日本人はこういう風に
世界ではみられているよ、なんだけど、特に目新しいこともなく、「日本人は真面目、働くの
大好き、カメラ大好き、みんな一緒がいい」等々、ということなんだけど、なかでも面白かったの
は、中国や韓国とも比較される時                                    
「スープの蠅」                                         
あるレストランでスープを注文したところ、蠅が入っていた。さて各国の反応は
アメリカ人「ウェイターを呼び、コックも支配人も呼び、しまいには裁判沙汰になる。」      
ドイツ人は「冷静に考えて、蠅はスープで十分消毒されたあとだろうから、そっとスプーンですく
いだしてから飲む。」                                            
日本人は「回りを見回して、蠅が自分の皿だけに入っているのを確認してから、そっと     
ウェイターを呼ぶ。」                                            
中国人は「何の問題もなく蠅を食べる」                                 
韓国人「蠅が入ってるのは日本人のせいだ、と日の丸を焼く」                   
と、中国や韓国も比較対象となってきたこと。これは韓国がオチっていうのがミソでしょう。
笑いたい方には、お勧め。 ★★★                                  




「予知夢」  東野 圭吾著 

テレビ化も好評だった「探偵ガリレオ」の続編。ちょーっと強引なトリックの展開ですが、じゃぁ
ミステリーのトリックは全部立証できるか、という話になるので、ま、これはこれでいいかな、と。
短編5本からなっておりますが、私はやっぱり最後の「予知る(しる)」が一番面白かったです。
あ、念のため、ドラマを観てこれから原作読もうと思ってる方へ。ヘタレの刑事を熱演してた
柴崎コウですが、原作ではオトコですので。                              
原作の出来よりテレビの方がいいのは久しぶり。★★★                    


「岩佐又兵衛 浮世絵を作った男の謎」  辻 惟雄 著

挿絵、口絵とカラー写真が多く、浮世絵も岩佐の名も知らなくても読みやすい。
浮世絵にはそれほど興味のない私でも読めたので、かなりの良書だと思います。★★★



「天正十二のクローディアス」  井沢 元彦 著

今度はタイトルに魅かれまして。著者も結構注目されてる人なので「こりゃ〜面白かろう」
と思ったのが…大失敗★                                        


「朗読者」  ベルンハルト・シュリンク著 松永 美穂 訳

 この本は毎度毎度、本屋に行くたび表紙が気になって(えらい悲しげ且つ寂寥感ある)
もういい加減いいだろうと、遂に買ってしまいました。                         
んで、表紙のみで購入することに。買ってからわかったのが、ドイツ文学だってことと、舞台は
戦中か戦争直後らしいということ。作品自体が、かなり読者を選ぶと思います。         
   自分には合わなかったな〜と。★                                 

                            
「チームバチスタの栄光」 海堂 尊著 宝島社文庫

「このミス(このミステリーがすごい)大賞」受賞作。「このミス」といえば、年末にその年の
発行したミステリーの総決算。ランクをつけたり、「ばかミス」と称し重箱の隅をつくようなあげ足
をとったり、とにかく徹底的にこき下ろしたりと、ミズテリーファンのためのミステリー本の指南
書。その雑誌が設けている賞が「このミス大賞」ですので、かなりのミステリーでなくては受賞で
きない、「このミス」折り紙付きの絶対無比の作品!ということだと思うんですが…。       
  ちょっと前置きが長くなってすみません(^^ゞ つまり自分の感想としては…あまり…。とにか
く医学専門用語が多くて、これ本当に一般向けか?前にi医療ドラマを見てた医師が「自分達に
は面白いけど、医療に関わっていない人も面白いか?」と言ってたのを思い出しました。これ
はまさにそんな感じで、トリックが明かされても「そんなん知るか!」と思ってしまいました(-_-)
「いや、面白かったよ!」という方には申し訳ないですが…★m(__)m                
   


「GOTH」  乙 一著 ★

この本に惹かれて読んだのではなく、乙一という作家はどんな文章を書を書くんだろう
という興味本位だったんです。「暗いところで待ち合わせ」という映画をDVDで見たんですが
その原作者が乙一氏だったわけで。映画は結構イケてました。人種差別、友情、サスペンス
てんこ盛りで、チェン・ボーリン見たいっっ!!!という不純な動機も吹っ飛ぶくらいなかなかや
るなぁ、と思わせてくれたので、映画だけだったら★★★なのですが、映画の完成度を期待
して、手に取った本なだけに…「あれー?」という感じで…ま、次がんばって下さい。      


「リアル鬼ごっこ」 山田 悠介著 幻冬舎文庫 ★

これがデビュー作で50万部のベストセラー…だよね?          
「時代は西暦3000年。国王は全国500万の「佐藤」姓を皆殺しせよ!」         
オチは、「主人公生き延びました」 。なんか釈然としないな…世界の設定が西暦3000年
と、いいながら「佐藤」って…(-_-;)よくわからないストーリーでした。              


「戦後未解決事件史ー犯行の全貌と「真犯人X」−」  宝島文庫

 狭山事件、3億円事件、グリコ・森永事件、「赤報隊」事件、世田谷一家殺害事件…等々
こんなに未解決事件あったのね。異色かつ記憶に新しいのは「世田谷一家殺害事件」   
あれだけ物証が多いにも関わらず、犯人が捕まらない。犯行前後の挙動もすんごく怪しい。
これは動機が分からない分、恐ろしさがあるというか…。                     
3億円事件やグリコ・森永事件は当然載っているけど、もう知りつくされていることばかりなん
で、特筆することはないです。  ★                                   



「精神科医は信用できるか」 和田 秀樹著 祥伝社新書

 巻末に専門医の紹介や薬の説明書在ります。                          
自分にも「あなた、うつ病ですよ」と(医者に)言われても、「はぁ?」だったんですが、     
「はぁ?」の疑問にきっちり、答えてくれるので、自分では読みやすかったですね。       
一般にうつ病といわれる症状は、脳内物質セトロニンが減少して…云々、なんですが、じゃあ
脳内を見たんか?セトロニンが不足してるっていうのは誰が、決めるんだ?と言われると、
うーん、確かにそうだなぁ…と、思ってからはちょっと、自分の中でひいて考えるようにして。  
自分もやっと回復できたところで。軽傷でよかった。 ★                       




  「受験のシンデレラ」   和田 秀樹著 小学館文庫           

この和田 秀樹という人が何を本業にしてるのかわかりませんが、最近彼の著書を読むこと
が多く、「自己啓発本をよく書いてる人」くらいの知識しかなかったので(この人と斎藤なにがし
も多いなぁ)、その人が書いた小説というので、何か得るものがあるんではないかと思って手に
した次第。                                                 
 何を本業にしているかわからんというのも、この小説が作者自身が監督で映画化し、第5回 
                     
モナコ国際映画祭グランプリになったそうです。あ、「気鋭の精神科医」って書いてあるわ。  
で、ストーリーはというとオビに書いてあるとおり「どこにでもいる女子校生が東京大学入試に
挑戦!」がもう大筋そのもの。 本の内容には「受験テクニック」がたくさん入っているわけです
個人的には女子高生・真紀がスーパーで奮闘するところや、「受験の要領その2 予習より繰り
返しの復習」。その他は「その16 受験勉強は積み木ではなく、ぬり絵である」や「センターは最
後2か月が勝負」など受験にどんどん絞られていくので、私にはハナマルというわけにはいか
ないなぁ。 ★(星一つ)というとこでしょうか。                             
     

ここでまた積ん読本が増えました(T_T)    

・「ラッシュライフ」「重力ピエロ」伊坂 幸太郎著                    
              
  ・「カタコンベ」神山 祐右 著                               

・「岩佐又兵衛 浮世絵を作った男の謎 」辻 惟雄 著               
             
                                  
ここまで読んで「あれ?」と思う方もいらっしゃいますでしょうか…結構新聞の広告や書評など
を参考にして本を選んでおります(^^)                                  
昔、子供のころには「世の中に読むべき本はたくさんある。早くたくさん読まなきゃ!」と片っ端
から読むつもりでした(そのくらいの気概があった、と)。しかし人生も折り返し地点も過ぎよう
という最近では、「できるだけ空振りはやめよう、良質な本だけを読まなきゃ」に変わり、書評を
かなり参考にするようになりました。それでもハズレはありますが…。               
昔はハードカバー本は自分の財布とよ〜く相談して、文庫化になるのを待ってたりしましたが、
最近は短い残りの人生、「読みたい時に読みたい本を読むんじゃ!おりゃ、おりゃ、おりゃ!」
という妙な焦燥感から出会ってしまったら最後、逃すまじ!と思って買いまくるようになりました
が、ハードカバーは置く場所がないんだよな〜、と新たな悩みの種になっております(+_+)   
                        
                        
                        
    「大地の子と私」 山崎 豊子著                  

小説「大地の子」執筆の為の取材記みたいなもの。何が凄いって、取材に対する熱意が凄い
のであります。                                               
今でさえ中国の取材は難しいのに、舞台となる時代はかなり大変だったことでしょう。その期待
を裏切らない「すごいぞ、中国」エピソード満載です。あくまで「大地の子」を読了された方に、
お勧めです。★★★                                            


「字幕の片隅で日本語が変だと叫ぶ」 太田 直子著 光文社新書      

翻訳というのは難しく、特に外国語より日本語能力にたけてないといけない。例えば英語が
読み書きできて会話ができてる人は、英語頭で英語を理解しているのであって、決して    
いちいち日本語に変換しているわけではない。所詮外国語同士。意味がピッタリ一致するもの
なんて無い、といって投げ出せないのが訳者である。そこで諦めず数あるに似通った意味の 
日本語単語をいくつか並べ、前後の脈絡を鑑みて「コレ!」というのを推敲に推敲を重ね、
おおよそこうであろう、という単語をひっぱりだしていくのが翻訳者だそうな。           
                             
加えてもっとも難しいのは、「映画の字幕翻訳」だ、と私は思うのです。勿論時数制限がある
というのも大きな理由ですが、最近無視できない傑作を生みだしてる香港映画。一番苦労した
だろうものは「インファナル アフェアー3」。劇中3人が会話しているシーンがとにかく大変だっ
そうです。なにせ映像はなく台本だけもらい、音声のみで誰がしゃべっているのかが分かりにく
いうえ、なんと北京語、広東語入り乱れてもう誰が何言ってるのかわからない。とどめに
訳名と俳優名とが似通ってて、北京語翻訳課と広東語翻訳家はずいぶん苦労したようです…
って、本の紹介からずれてますね。すみませんm(__)m                        
                
で、自分としては★★ですな。